ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第143話 人と妖怪

 

-玄武城 城下町-

 

「きぃぃぃぃ!! 絶対に許さないですわー、旦那様ぁぁぁぁ!!」

「来るな、化け物!!」

「きぃぃぃぃ!!」

 

 ランスが慌てた様子で城下町を全力疾走し、その後ろを得体の知れぬ物体が追いかけていく。よく見れば、それは人間の頭部。異常なまでに長い首を持った頭部が鬼のような形相でランスを追いかけているのだ。

 

「くそぉぉ、なんでこんな事に……」

 

 チラリと後ろを振り返り、追いかけてくる首を確認したランスは全力で走りながら愚痴を溢す。脳裏に蘇るのは、一時間ほど前の出来事。

 

 

 

一時間前

-玄武城 城門前-

 

「あっ、ランス様」

「ランスにしては早いな。げほっ、げほっ……もう終わったのか?」

「終わりって……ああ、リズナちゃんとはまだヤッてないぞ」

「ご、ご主人様がインポになってしまったのれす……」

「違うわ、馬鹿者!」

 

 城門前で待っていたシィルたちが城の中から出てきたランスを見て少し驚く。まず間違いなくリズナとHをしてくると考えており、こんなに早く戻ってくるとは思っていなかったのだ。あてなが膝をついてポロポロと泣くが、あまりにも失礼な発言であったため不機嫌そうに怒鳴るランス。

 

「それじゃあ、一体どういう理由で?」

「ああ、とりあえず軽く説明しておくか」

 

 ランスが何もしないで戻ってきたことをフェリスが問うと、ランスは中であった事を軽く説明し始めた。脱出口は南の門である事、リズナがランスにベタ惚れである事、そのリズナも一緒に連れて行く事、今は酒宴の用意をしている事。

 

「酒宴?」

「ああ、一度は脱出しようとしたんだが、天守閣の前でリズナちゃんが急に立ち止まってな。ヒマワリを倒したお祝いの酒宴をしたいから、ちょっと時間を潰してきてくれだと」

「…………」

「後はリズナちゃんが身体を清める為に香水入りの風呂にも入ると言っていたな。ぐふふ、リズナちゃんはすっかり俺様にメロメロだ」

「ランス様、少しおかしくないですか?」

「んっ?」

 

 ランスの話を黙って聞いていた一同だったが、シィルとフェリスの二人が何やら不穏な表情をしている。そして、話が終わったところでシィルが恐る恐る口を開いた。その言葉にランスが眉をひそめる。

 

「何がおかしいんだ?」

「その……リズナさんの行動が変というか……」

「ランスに惚れるのが信じられないって言ってるんだよ」

「なんだと!?」

 

 言いにくそうにしているシィルの横からフェリスの言葉が飛んでくる。心外な発言にランスがギロリとフェリスを睨むが、フェリスは臆することなく言葉を続けた。

 

「惚れる要素が見つからないからな」

「フェリス……貴様、主人に対する言葉使いではないな。俺様が三枚目だとでも言いたいのか?」

「いや、そうじゃなくて……」

 

 フェリスが言いたかったのはランスの容姿や性格ではなく、リズナが惚れる要因が見つからないという事だ。闘神都市で出会ったメリムならビッチの奴隷から解放して貰えたから、キサラならば借金を返してくれたから、ハピネス製薬のローズなら初めてまともに女性として扱ってくれたなど、それ相応の理由はある。因みにローズが惚れた理由に関しては友人のエムサ経由で聞いたのだが、それはまあ置いておくとしよう。だが、リズナがランスに惚れる要因があるようには思えない。暗黒ヒマワリを倒したとはいえ、少し前に自分を無理矢理犯そうとした相手だ。景勝の自爆発言で難を逃れた際に部屋の中から聞こえてきた声は、明らかにランスに犯される事を拒絶していた。そんな相手がヒマワリを倒したからといってベタ惚れになるのか、フェリスはそう言いたかったのだ。だが、ランスは別の方向で受け取ってしまった。

 

「(しまったな、これは私の言葉足らずだ……)」

「フェリス、呼び捨てを許された事で調子に乗っているんじゃないか? ルークの奴が使い魔扱いしないからって、俺様にも同じようなでかい態度を取って言い訳ではないのだぞ」

「別にそういうつもりじゃあ……げほっ、げほっ……」

「お前は『使い魔』だ。俺様の下僕だ。その辺を弁えろよ」

 

 110センチほどまで縮んだフェリスを見下ろしながらランスがそう宣う。元々呼び出した時のフェリスの態度やこれまでの経緯からフェリスに若干の苛立ちを覚えていたランスだが、今の発言でそれが少し爆発した形だ。また、リズナとのHを少しとは言え先延ばしにされた事への苛立ちもあったのだろう。

 

「……判っているよ」

「……ふん!」

 

 それに対し、フェリスも少しだけ苛立った態度でランスに返事をする。これまでのランスの態度やフセイの日に呼び出された事もあったが、それ以上にフェリスにはランスの発言で引っ掛かるものがあった。

 

『俺はもう、フェリスを使い魔として見ていない。大切な仲間だ』

 

 それは、かつて闘神都市でルークが口にしていた言葉。当然、普通の発言ではない。これに関してはルークが変わっており、ランスの態度は至極当然のものといえる。だがそれでも、ルークの名前を直前で引き合いに出されたからこそ、しきりに使い魔扱いしてくるランスに少しだけ苛立ちを覚えてしまったのだ。そのフェリスの態度を快く思っていないのか、ランスは不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまう。

 

「えっと……」

「あ、テントウムシなのれす。背中に黒い点が三つ付いているのれす」

 

 あまりにも緊迫した空気に困惑するシィル。元はと言えば自分の発言が事の発端だ。それに対し、まるで気にした様子も無く近くの草むらをがさごそとやっているあてな2号。暢気なものである。一触即発の空気の中、一つの影がこの城門の方へと駆けてくるのが見えた。

 

「じゃじゃーん! 私参上!! のっぺらぼうの家でお風呂借りて、酔い止め貰って体調全快! もうリバしゃんとは呼ばせない!!」

「ん?」

「…………」

「(えー、何この空気……私のいないちょっとの間に何があったの? ヤバイ、緊張でまた胃がキリキリと……)」

 

 やってきたのは暗黒ヒマワリを共に倒したまじしゃん。やってくるや不穏な空気に胃を痛くしているが、シィルは心の中でガッツポーズを取っていた。傍目には判りにくいが、ランスの苛立ちが微妙に四散するのを感じ取ったからである。ランスがわしわしと自身の頭を掻き、そのまま城下町の方に歩みを進める。

 

「……酒宴まで時間があるだろうから、俺様は適当に町で時間を潰してくる」

「あっ、それじゃあ私も……」

「いい。海苔子さんと一発ヤッてくるつもりだから邪魔だ」

「あ、はい……」

「あてなも入れて3Pはどうなのれすか?」

「いらん」

「がーん」

 

 スタスタと歩いて行くランスの背中を見送る一同。その姿が見えなくなった後、フェリスが城門に背中を預けながらシィルに向かって口を開く。

 

「スマン。今のは私が悪い」

「あっ……いえ、そんな事は……」

「言葉も足りなかったし、何よりランスが怒った後に少しだけ苛立った態度をみせちまった」

「珍しかったのれす」

「(フセイの日で調子悪いってのもあるんだろうなぁ……あぁ、ミスった。これでまた暫く悪魔界に戻して貰えないだろうし……)」

 

 すぐに割り切れなかったのは体調のせいもあるだろう。とはいえランスを不機嫌にしてしまったからには、また悪魔界への期間は先延ばしになってしまうだろう。案外もっと怒らせれば顔を見たくないという理由で戻して貰えるかもしれないが、それを試す訳にはいかない。

 

「(怒らせすぎて無理矢理ヤられたらマズイからな……今日は絶対にヤられる訳にはいかない……)」

 

 フェリスが咳き込みながらそんな事を考えていると、草むらから一仕事終えた顔をしたまじしゃんが出てくる。

 

「それで、時間潰しはどうするんですか?」

「草むらで何をしていたかは聞かないでおいてやるよ……」

「リバしゃん固定確定なのれすね」

「そうですね……私たちも城下町に……」

 

 特にする事もないため、自分たちも城下町に向かうかとシィルが提案をしたその時、荷物袋の中から声が響き渡った。

 

「ふぁぁぁぁ……」

「ん?」

 

 

 

五十分前

-玄武城 城下町-

 

「本当に……本当に妖怪である私を好きなんですか?」

「うむ。海苔子さんは可愛いからな。妖怪かどうかなど全く問題では無い」

「嬉しいです、ランスさん……」

 

 城下町にある海苔子の商店へとやってきたランスは、海苔子の手を握りながらその目をまっすぐ見据えていた。元々妖怪である自分を可愛いと言ってくれたランスが気になっていた事もあり、ランスの甘言に海苔子はすぐさま陥落。メロメロの様子の海苔子を見ながら、心の中でフェリスに悪態をつくランス。

 

「(ふん、ほれ見た事か。世界中の女はこの俺様にメロメロなのだ。その俺様に向かって惚れる要素がないなど……ルークとばかり組んでいるからあいつの見る目がおかしくなっているのだ。うむ、間違いない)」

「あの、ランスさん……」

「ん?」

「それで、その、式はいつ挙げましょうか?」

「式? 何の事だ?」

「やだなぁ、結婚式に決まっているじゃないですか。愛し合う二人なんですから、結婚するのは当然ですよね?」

「は?」

 

 キラキラとした眼でこちらを見てくる海苔子を見て、ランスは少しだけ額に汗を掻く。その背後にうっすらと浮かぶのは、某リーザスの女王。

 

「(マズイ……もしかして、リア並の地雷か? いや、どうせこの場所からはもうすぐ脱出するのだ。適当な事を言って一発ヤり、後はトンズラこけば問題あるまい……)」

「ランスさん、どうしました? やっぱり、妖怪の私を愛してはいないのですか……?」

「まさか。結婚式は必ず挙げるぞ、がはは! で、その辺の話を煮詰めたいから是非とも海苔子さんの部屋でゆっくりと話をしたいのだが」

「そうですね……愛し合う二人の門出ですものね……それじゃあ、ちょっと早いけどお店を閉めて、私の長屋に案内します」

 

 ガラガラとシャッターを閉め、店じまいをする海苔子。その背中を眺めながら、ランスはニヤリと笑みを溢す。

 

「(がはは、作戦成功。後は海苔子さんの部屋まで行って一発ヤり、リズナちゃんと一緒にトンズラだ)」

 

 自分の思ったように事が運んだため、上機嫌のランス。だが、ランスは気が付いていなかった。妖怪の、いや、海苔子の執念深さを。

 

 

 

-リーザス城 王座の間-

 

「へっくし!」

「リア様、風邪ですか? すぐにアーヤを……」

「ああ、大丈夫よ。誰かが噂しているのかしら……?」

 

 所変わってリーザス王座の間。職務をこなしていたリアの盛大なくしゃみを聞き、過保護のマリスがすぐに医者を呼ぼうとするが、リアはそれを止める。特に体調に問題は無いからだ。どうせ誰かが噂話をしていたのだろうと考えるリアだったが、まさかそれが自分の思い人で、尚且つ自分を地雷呼ばわりしているとは思っていなかった。

 

「でも、そろそろ良い時間だし、今日の仕事はこの辺にしておこうかしらね」

「そうですね」

「リア様、マリス様、失礼します!」

 

 その時、王座の間にかなみが駆けてくる。すぐに真剣な顔つきに戻るリア。というのも、かなみにはある事を調べさせている真っ最中であり、そのかなみが慌てた様子で駆けてきたという事はある事実を示していたからだ。

 

「かなみ、報告を」

「リア様の予想通り年内に……いえ、五日後に事は起こります」

「五日後……明らかに焦っていますね」

「急いで全将軍、副将に通達! いつでも動けるようにと」

「はい!」

 

 玉座から立ち上がってそう告げるリアに対しかなみは深く頭を下げその場から姿を消す。急いで全軍に通達をしに向かったのだ。しばしの静寂の後、マリスがゆっくりと口を開いた。

 

「それで、リア様はどうなると思いますか?」

「無理ね、今の彼らじゃあ。でも、万が一の時のために動けるようにしておかないといけないでしょ?」

「ええ……」

 

 未だ緊張感の残った部屋に立ち尽くすリアとマリス。二人が見据えるのは五日後に起こる事件の更に先、リーザスが関与する可能性のある出来事である。

 

 

 

十分前

-玄武城 長屋町 海苔子の家-

 

「旦那様……」

「うむ、海苔子さんの身体はグッドだったぞ、がはは!」

「もう、海苔子って呼び捨てにしてください……」

「おっと、そうだったな」

 

 舞台は玄武城へと戻る。海苔子の長屋では、既に行為を終えたランスがまったりとしていた。その隣には、愛おしげな様子でランスをジッと見つめる海苔子の姿がある。

 

「(うむ、完全に俺様にメロメロだ。胸は小さいが中の具合は良かったし、もう一発ヤるか……ん? 何か違和感が……)」

 

 隣で寝ている海苔子にチラリと視線を移すランス。瞬間、何か違和感を覚える。何だか海苔子の身体のバランスがおかしいのだ。ハッキリ言って、首が長すぎる。ギョッとした顔で海苔子を見据えながら、恐る恐る口を開く。

 

「……海苔子、何だか首がおかしくないか?」

「えっ……あっ、いけない。気持ちが緩んでしまって、首が伸びてしまいました」

「伸びてしまいましたって……」

「私、こういう妖怪なんです。ろくろ首。もっと伸ばせますよ、ほら」

 

 ぎゅいーんという音と共に天井まで首を伸ばす海苔子。その異形の姿を見た瞬間、第二ラウンドを始めようとしていたランスのハイパー兵器はへなへなと萎えていく。そんなランスの気持ちも知らず、遙か上空からランスを見下ろす海苔子。

 

「でも、こんな私を愛してくれているんですよね? 添い遂げて下さるんですよね? 旦那様、大好きです!」

 

 頬を赤らめてそう口にする海苔子を見上げながら、ランスはいそいそと側に置いてあった服を着出す。無言で服を着るランスを不思議そうに見ていた海苔子だったが、そのまま長屋から出て行こうとするランスを見て流石に慌てる。

 

「ど、どうしたんですか、旦那様? 私、何か粗相を……」

「ば……」

「ば?」

「化け物が俺様に話し掛けるな!!」

「……えっ?」

 

 一瞬、海苔子は何を言われたのか理解出来なかった。頭をハンマーで叩かれたような衝撃が走り、ぐるぐると世界が回る。頬を伝う汗を感じながら、海苔子は何とか声を絞り出した。

 

「旦那……様……?」

「えぇい、失敗した。可愛いと思ったが所詮は妖怪だな」

「妖怪でも……愛して……」

「こんな化け物だと知っていれば最初から抱かなかったというのに……」

「化け物……旦那様、私との結婚は……?」

「初めからそんな気は無い! 一発ヤッてトンズラする気だったに決まっているだろうが!」

「そん……な……」

 

 信じていた。妖怪の自分でも愛してくれるという言葉を信じていた。添い遂げてくれるという言葉を信じていた。だが、それは嘘であった。海苔子の頬を汗ではない液体が伝う。それは涙。海苔子の目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。心の中に渦巻くのは、悔しさと憎さ。

 

「許さない……」

「ん?」

「許さないぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

 

現在

-玄武城 城下町-

 

「待てぇぇぇぇ!!!」

「えぇい、いい加減に諦めろ! ちくしょう、リア以上の地雷だった……俺様は悪くないはず、うむ、悪くない!」

 

 後ろから追いかけてくる海苔子の頭部を見て焦るランス。思った以上にスピードが速く、このままでは追いつかれてしまう可能性が高い。自分に落ち度は無かったはずだと心の中で確認をしつつ、城下町をジグザグに駆けていく。すると、前の方からこちらに向かってくる大量の影が目に入った。

 

「曲者……曲者……城下町を荒らす曲者……」

「うげ、ゲンジだ……ん? 俺様を見ていないぞ。ははーん、狙いは海苔子さんか。良し、行け行けー!!」

 

 ランスの横を素通りするゲンジ。どうやら狙いは海苔子のようだ。これで海苔子が止まってくれれば儲け物だとほくそ笑むランスだったが、その期待は淡くも崩れ去る。

 

「曲者……曲者……」

「うっとおしぃぃぃぃ! 食らえ、海苔子ふぁいやー!!」

「くせ……」

 

 口から強烈な炎を吐き出す海苔子。その直撃を受けたゲンジたちは次から次へと消し炭になっていく。その様子を見て目を見開くランス

 

「げげ……海苔子さん滅茶苦茶強いぞ……」

「旦那様ぁぁぁぁ!!」

「やばい、ゲンジたちに気を取られている内に隠れなければ……」

 

 慌てて近くにあった寺へと逃げ込むランス。すぐに扉を閉め、窓から外の様子を伺う。どうやら海苔子はまだ気が付いていないようだ。すると、部屋の中から声を掛けられる。

 

「ドウシタ ツカレタヨウスデ」

「のっぺらぼうか……そうだ、お前は物知りだったな。ろくろ首の倒し方を教えろ!」

「ロクロクビ チョウジカン クビトカラダヲ ハナシテイルト ショウメツスル」

「なるほど……」

 

 外の海苔子を見やるランス。今の海苔子は頭と長い首が宙にふよふよと浮いている状態であり、胴体と繋がっていない。ある程度の長さまで首を伸ばしたらぷちんと首が離れたのだ。どうやらああやって頭を離すことが出来るのもろくろ首の特徴らしい。すると、ランスの横に立ったのっぺらぼうが窓の外を眺め、海苔子の姿を確認して驚いた様子を見せる。

 

「マサカ ロクロクビッテ ノリコサンノ コトデスカ?」

「ああ。早急にあいつを退治せねばならん」

「イケマセン ノリコサン イイヨウカイ タイジシタラ ブツバツガ クダリマスヨ」

「そんな事は知らん! 今は一刻も早く……」

「見つけたぁぁぁぁ!!」

「げっ、えぇい、お前が騒ぐから見つかったではないか!」

 

 物凄い勢いでこちらへと飛んでくる海苔子。それに気が付いたランスは横に立っていたのっぺらぼうを蹴飛ばし、扉の方へと駆けていく。窓を破って寺へと侵入してきた海苔子に対し、罵声を浴びせるランス。

 

「来るな、このブス!」

「きぃぃぃぃ!!!」

「(胴体を回収するために一度長屋に戻らないと……だが、どこに隠す? 海苔子さんが胴体に戻れなそうな場所……お、いいところがあるぞ!)」

 

 城下町を駆けながら必死に考えを巡らせるランス。すると、良い場所が思い浮かんだ。あの場所ならば首しかない海苔子はどうしようもないはず。後ろを見れば残党のゲンジがまたも海苔子の足止めをしてくれている。ゲンジでは海苔子を倒せないだろうが、自分が胴体を隠す時間くらいは稼いでくれそうだ。ランスは遠くから聞こえる海苔子の怨嗟の声を耳に入れながら、城下町を全力で駆けていくのだった。

 

 

 

-玄武城 古井戸-

 

「ぜぇ……ぜぇ……ここならば問題あるまい……」

 

 海苔子の首の無い胴体を抱えたランスが息を切らせながら井戸を見下ろしていた。長屋へと向かったランスは海苔子の胴体を回収、そのまま一直線にこの場所を訪れていたのだ。そしてそのまま胴体をグッと持ち上げ、井戸の上へと持ってきて手を放す。真っ逆さまに落ちていく海苔子の胴体。ボチャンという音が聞こえるや否やすぐに横に立てかけてあった蓋を乗せ、更には井戸の鍵で開けた鎖をがんじがらめに蓋に掛ける。再度鍵を閉めると、何やら不思議な光が鎖から発せられた。

 

「ん? どうやら魔法での封印が再発動したようだな……丁度良い!」

「見つけたですの、旦那様ぁぁぁ!! 海苔子ですのぉぉぉ!!!」

「げ、もう追いついてきたか! 撤退だ!!」

 

 海苔子の姿を見るや否や一目散に逃げて行くランス。すぐに追いかけようとした海苔子だったが、これまでずっと全力で追いかけてきていて流石に疲れたのか、息を切らしながら井戸の側へと腰掛ける、否、首掛ける。

 

「ぜぇ……ぜぇ……憎い……憎い……あの人が憎い……」

 

 落ち着いた事によって脳裏にランスの言葉が蘇ってくる。優しく微笑んでくれた笑顔が蘇ってくる。すると、先程既に泣き腫らしたと思っていた涙が再度溢れてきてしまう。

 

「うわぁぁぁん……悲しい、悲しいよー!!」

 

 いくら憎いとはいえ、裏切られたとはいえ、本気で愛していた相手への想いがすぐに消え去る訳では無い。これ程憎いランスを、海苔子は未だ愛してしまっていたのだ。その矛盾が更に海苔子を苦しめる。

 

「……海苔子、負けない」

 

 ひとしきり泣き腫らした後、そう頭部だけで頷く海苔子。すると、ドッと疲れが襲ってくる。一度休んでしまった事により、より疲れを感じてしまったのだろう。

 

「……そろそろ身体に戻らないと」

 

 そう呟きながら、ふよふよと長屋に戻っていく海苔子。道中、あちこちに散らばっているゲンジの消し炭が目に飛び込んでくる。頭に血が上っていたとはいえ、申し訳無いことをしてしまったと少しだけ気を落とす海苔子。心の中で謝罪しながら自宅へと戻ってきた海苔子だったが、その目がすぐに見開かれた。

 

「えっ……? か、身体が無い! 私の身体が!!」

 

 慌てて部屋中を駆け回る海苔子の頭部。だが、どこにも自分の身体が見当たらない。誰かが持ち運んでしまったのだろうか。それはマズイ。このままでは自分は消滅してしまう。長屋から飛び出し、匂いを頼りに自分の身体を探し始める海苔子。

 

「くんくん……ここですわー! 幸せの青い鳥さんはスタート地点にいましたー!」

 

 海苔子がやってきたのは、奇しくも先程まで自分のいた場所、古井戸であった。確かにこの中から胴体の匂いがする。そして、ランスから受けた精の匂いも。その事を思い出して少しだけ気持ちを落としながらも、海苔子の頭部はふよふよと井戸に近づいていく。

 

「さあ、すぐに胴体に……」

 

 井戸の蓋を見下ろす海苔子。自分は今頭と首だけの存在。これでどうやって蓋を開けろというのか。その上、蓋は鎖で封印され、鍵まで掛けられている。

 

「こ、これでは戻れませんー!!」

 

 ようやく現状を理解した海苔子が焦る。井戸の蓋の上を右往左往するが、どうにもならない。蓋を口で挟んで動かそうとしたが、鎖のせいで開ける事が出来ない。そうこうしていると体力が遂に無くなり、ぽとりと地面に落ちてしまう海苔子。

 

「駄目……もう、戻れない……」

 

 薄れていく意識の中、海苔子はランスが掛けてくれた優しい言葉を思い出しながら静かに涙を流した。

 

「やっぱり、妖怪は幸せに……なれないんですの……」

「タ タイヘンダ!」

 

 倒れている海苔子を発見したのは、海苔子を心配して町中を走り回っていたのっぺらぼう。慌てて駆け寄るが、海苔子の意識は既に殆ど無い状態。上の空でぶつぶつと言葉を発している。

 

「井戸……私の……身体……」

「イドノナカニ カラダガアルンダナ?」

「旦那……様……」

「ノリコサン ガンバレ! イマスグ イドヲ アケルカラ!」

 

 海苔子の首を大事そうに地面へと置き、すぐに井戸の蓋へと手を伸ばすのっぺらぼう。だが、鍵の掛かった鎖のせいで蓋を開ける事が出来ない。

 

「コレデハ アケラレナイ」

「ごんげー!」

 

 ちょんちょんと後ろから背中を突かれるのっぺらぼう。振り返って見ると、そこに立っていたのはかわうそ。その手にはクワが握られている。

 

「コレデ クサリヲ コワセト イウノカ?」

「ごんげー!!」

「ワカッタ」

 

 コクリと頷くかわうそ。どうやら彼も海苔子には死んで欲しくないようだ。すぐにクワを受け取り、力一杯振り下ろすのっぺらぼう。だが、ガキンという音だけが周囲に響き渡るだけで、井戸の蓋はビクともしない。

 

「シマッタ イドノ フウイン」

 

 それは井戸に掛けられた封印。特別な鍵で鎖を外さない限り、決して解ける事のない魔法結界である。城下町にこれを外せる魔法使いはいない。鍵は恐らく玄武城にあるが、自分たちでは入れないし、城のどこにあるのか見当もつかない。

 

「ごんげー……」

「ダレカ コノマホウケッカイヲ ハズセルモノガイナイト ノリコサンノ イノチガ」

「…………」

 

 のっぺらぼうは井戸の前で途方に暮れながら、どんどんと衰弱していく海苔子をただただ見守る事しか出来なかった。

 

 

 

-玄武城 城門前-

 

「ふむ、追ってこないところを見ると上手くいったようだな」

 

 城門前で辺りを確認するランス。海苔子が追ってない事を確認し、自分の作戦が成功したのだと確信をする。だが、井戸に確認しには行かない。万が一また襲われるのを怖れたからだ。やはり一度は自分がヤッた相手の生首が襲ってくるのは精神的によろしくない。

 

「なんだかんだ時間が経ったな。そろそろ酒宴の準備も出来ているだろ」

 

 そのまま城門を潜り、城の中へと入っていくランス。とにかく海苔子の事は忘れる事に決めたようだ。そのまま城内を歩いて天守閣を目指していると、庭先に何やら人が集まっている。

 

「あれはシィルたち……何をやっているんだ?」

 

 目を凝らして見ると、それはシィルたちであった。こんな所で時間を潰していたのかと眉をひそめながら近寄っていくランス。

 

「おい、こんな所に集まって一体どうした?」

「あ、ランス様」

「ほう、あの者も来ましたか。一応礼くらいは言っておかねばなりませんね」

 

 シィルとあてな2号の間からスッと着物を着た女性が現れる。それは、少し前に戦った和華人形。その姿を確認したランスはすぐさま腰に差している剣に手を伸ばす。

 

「おい、なんでそいつと一緒にいる?」

「お待ちなさい。わたくしは和華です」

「そんな事知っとるわ! 使徒のダッチワイフだろう?」

「ダッチ……なんですか、それは?」

「人形、人形の事です!」

「大人の人形れすね」

 

 聞き覚えの無い単語に首を傾ける和華。シィルが慌てた様子で取り繕う中、フェリスが頭を掻きながら状況の説明をする。先程少しだけ険悪になってしまった手前、バツが悪そうだ。

 

「見た目は人形だけど、中身はさっきまで持ち歩いていた絵だよ」

「絵? あの喋る絵の事か?」

「……ああ。同じ和華の素材だから、乗り移って一緒になる事が出来たんだと。魂の存在を否定された感じがして、私としては腑に落ちないけどな」

 

 海苔子の事があって先程の険悪な空気を忘れていたランスは普通に会話してきたため、フェリスも普通に言葉を続けた。ランスと別れた後に目を覚ました和華の絵は城の中を探索したいと言ってきたのだ。特にやる事もなかったため、シィルたちはこれを承諾。そして、縛られたままの和華人形を発見した際、和華の絵は融合出来るかもしれないと発言。色々と試してみた結果、こうして一つに融合することが出来たのだ。

 

「不思議発見ですね」

「ん? まだいたのか?」

「酷い!」

「もうちょい一緒にいろよ。悪魔界に戻れない私の道連れだ。ははは」

「嫌な道連れ!」

「あはは」

 

 唐突に発言したまじしゃんに対してあんまりな態度を取るランス。更にはフェリスが笑いながら逃がさないと発言し、シィルが思わず笑みを溢す。よかった、もういつも通りの二人だと。その横でクスクスと笑う和華。どうやらランスが来るまでにまじしゃんの境遇などは聞いていたのだろう。そのままランスに向き直り、頭を下げる。

 

「礼を言います。そなたが持ち運んでくれていたから、わたくしはこうして身体を得る事が出来ました」

「ん、まあそうだな。俺様に感謝すると良い」

「開放感です。絵の中は窮屈で動けませんでしたから……身体があるって素晴らしい」

 

 ぎこちなく動いて見せる和華。どうやらまだ身体に完璧に馴染んだ訳ではないようだ。だが、その顔には絵の時には出来なかった感情の通った笑みを浮かべている。

 

「当たり前のように与えられているものほど、その大切さが判らない……心に響きます、和華様」

「何だか綺麗に纏めようとしているが、何でこいつもここにいるんだ?」

 

 感動した様子で拳を握りしめているとっこーちゃんを指差すランス。和華人形と一緒に縛られていたあのとっこーちゃんだ。なんやかんや一緒に解放したらしい。

 

「まあ、和華に一宿一飯の恩義があるから、和華がいれば襲い掛かって来ないみたいだし」

「和華様の敵でないのならば襲い掛かる理由もありません」

「ふーん、まあいいか。とりあえずそろそろ城を上るぞ。宴だ、宴。酒池肉林だ!」

「はい、ランス様」

「は、破廉恥な……」

 

 シィルが頷き、ランスと共に天守閣へと向かう。その後をついてくるフェリス、あてな2号、まじしゃん。ここまでは判る。だが、その後ろから和華ととっこーちゃんまでついてきた。

 

「お前らも来るのか?」

「当然です。食事もまた生の謳歌の一つ」

「和華様が一緒に食事をしようと言うので……」

 

 何を今更とばかりに頷く和華ととっこーちゃん。ここまで堂々とされると何も言い返せない。

 

「まあいいが……リバしゃん、飲み過ぎて吐くなよ」

「おぉぅ、遂にリバしゃんで固定化されてしまった……吐きません! 絶対吐きません!」

「押すなよ、絶対に押すなよ、なのれす」

「うぅ、いつまで一緒にいなきゃいけないんだろう……」

「のっぺらぼうさんにお風呂を借りたとき、逃げようと思えば逃げ出せましたよね……?」

「……はっ!?」

「(アホだ……)」

 

 とりあえずまじしゃんを茶化しながら城を上っていくランスたちであった。

 

 

 

-玄武城 宴会会場-

 

「あ、待っていました、救世主様」

「おう、リズナちゃん。凄いな、これ全部リズナちゃんが作ったのか?」

 

 宴会会場へと現れたランスを出迎えるリズナ。見渡す限りの豪勢な食事にランスは驚いた様子を見せる。ざっと五十人分はあるのではないだろうか。リズナと別れてからまだ二時間ほど。これだけの食事を作ったにしては、あまりにも手が早すぎる。

 

「いえ、宴会希望と書いた手紙を食堂にあるポストに入れておいたのです」

「……それでこれだけの食事が出来上がるのか?」

「はい。この城の謎です。不思議ですね」

「はい、不思議です」

「不思議で済ませて良いものじゃなさそうだけどな」

 

 ランスに続き、シィルとフェリスが宴会会場へと入ってくる。ペコリとお辞儀をするリズナであったが、その表情は少しだけ強ばっている。ターゲットになる相手と、最も警戒しなければいけない悪魔が同時に現れたからだ。

 

「シィルさんと悪魔さんも……良く来て下さいました」

「お招きいただき、ありがとうございます」

「そういや名乗っていなかったな、フェリスだ……げほっ、げほっ……」

 

 ペコリとお辞儀をし返すシィルと、軽く手を挙げて応えるフェリス。それを陰から見ているハニーが一体。

 

「頑張るのじゃぞ、リズナ。ここが正念場じゃ……」

 

 勿論、そのプチハニーは景勝である。心配そうにリズナを見守っているが、ここまで上手い事騙せている。あのお人好しのリズナがよくぞここまでと感激していると、シィルとフェリスの後ろから更にぞろぞろと宴会場に入ってきた。

 

「ふむ、豪華絢爛」

「じゅるり……い、いえ、涎など垂らしていませんよ! 大和撫子ですから!」

「リバしゃんと同じポンコツの気配なのれす」

「私はポンコツ確定!?」

 

 和華、とっこーちゃん、あてな2号、まじしゃんの四人が宴会場へと入ってくる。まさかの事態に目を丸くしてしまうリズナ。

 

「えっと……ぞ、増殖?」

「(マズイ! 睡眠薬入りのごま豆腐の数を増やさねば!!)」

 

 慌てて部屋に睡眠薬を取りに行く景勝。ランスたちの与り知らぬところで、着々と脱出作戦は進行していた。

 

 

 

-リーザス城下町-

 

「くぅ……疲れたー」

「今日も盛況だったものね」

 

 リーザス城下町の夜道を歩くのは、かつてルークとランスに助けて貰った事のあるデル姉妹。今はカジノで働いているデル姉妹は本日の仕事を終え、自宅に帰宅するところであった。12月の夜風に肌で感じながら、妹のアキが姉のユキに向かって問いかける。

 

「姉さん。明日もデート?」

「ええ」

「それも、前の人とは別なんでしょ? そんな取っ替え引っ替え……」

「人生なんていつ終わっちゃうか判らないっていうのを牢屋に入れられた事で実感したしね。命身近し恋せよ乙女」

「はぁ……」

 

 ため息を漏らすアキ。真面目な姉がどうしてこうなってしまったのかと頭を悩ませているのだが、当の本人は今の生活が幸せそうなので矯正もしにくい。本人の言うように、人生がいつ終わるのかなど判ったものではないというのは自分も嫌というほど経験した。リーザス解放戦。あの時自分たちの命は終わっていてもおかしくなかったのだ。なればこそ、出来るだけ好きに人生を謳歌して欲しいというのが妹としての願いでもある。そんなアキを見ながら、ユキはにんまりと笑う。

 

「そんな顔して、ライバル減ったから内心喜んでいるんでしょ?」

「へっ!? そ、そんな事……」

「今でも特別な存在よ。ルークさんとランスさんは」

「……二人いる時点で、どうなの?」

「どっち選んでもライバル多そうだけどねー。ランスさんならパルプテンクスちゃんがいるし、ルークさんなら由真さんとアキが……」

「あわわわわ……天下の往来で言わないでよ……」

 

 慌てて姉の口を塞ぐアキ。その反応を姉が楽しんでいる事を知りながらも、ついつい乗ってしまう。再度ため息をつき、話題を変える事にするアキ。

 

「それで、いつになったらパン屋に戻るの? もうそろそろ頭金くらいは貯まったと思うけど……」

「思った以上にカジノでの仕事が面白くて……どうしようか悩み中。私たちに会うのを楽しみにして来てくれるお客さんもいるしね」

「もう。ウチのパンを楽しみにしてくれていたお客さんだって沢山……」

「パン!?」

「わっ!?」

 

 突如二人の間に入ってくる一人の女性。突然の事に声を漏らすアキと、同じく驚いているもののまじまじとその女性を見やるユキ。その顔に覚えがあったのか、ポンと手を叩く。

 

「貴女はウチの常連の……」

「ああ、リーザス城のメイドさん」

「お久しぶりです。今でもポイントカードは持っていますよ!」

 

 ジャキンと財布からポイントカードを取り出すメイド。見事なまでのドヤ顔である。彼女はかつてデル姉妹がパン屋を営んでいる時の常連であり、リーザス城でパンを盗んでいるところをランスに見つかってお仕置きされた人物である。リーザス解放戦でヘルマン軍に捕まっていた彼女だが、どっこい逞しく生きていた。

 

「パン屋再開に一票を入れておくわ。私のパン人生の中でもトップ3に入るお店でしたから」

「あはは……ありがとうございます。その際はまたご贔屓に」

「勿論!」

「貴女も今仕事終わり?」

「本当は夜勤だったんですけど、どうにも軍の大事な話があるとかで、メイドたちは必要最低限を残して帰されたんです」

「大事な話……」

 

 メイドの話を聞き、少しだけ不安そうな表情でリーザス城の方向に視線を向けるアキ。思い出されるのは、先のリーザス解放戦。軍の大事な話と聞いては、思い出さずにはいられない。自分が不安にさせてしまった事に気が付いたメイドは慌てて取り繕う。

 

「大丈夫です。そこまで切羽詰まった感じではありませんでしたから」

「それならいいですけど……」

「そうだ。私たちもこれから夕飯なんだけど、一緒に食べませんか? パンを作ったの」

「パン!? じゅるり……ぜ、ぜひ!」

 

 妹の不安を払拭すべく、ユキが話題を変える。普段はしっかり者の妹が姉を引っ張る形だが、いざという時に芯が強いのは姉のユキである。涎を垂らしているメイドを見て微笑むアキを見ながらユキはホッと息を吐き、自分もチラリとリーザスの方に視線を向ける。

 

「(また戦争が起きる、なんて事はないわよね……)」

 

 月明かりを背に佇むリーザス城は何も答えてはくれない。胸に宿る不安を妹には見せぬよう、ユキは笑顔で城下町を歩いて行くのだった。

 

 

 

-ゼス アダム砦-

 

「サイアス様!」

 

 勢いよく扉を開けて部屋に入ってきたのは、ゼス治安隊隊長のキューティ。それを出迎えるのは、神妙な面持ちのサイアス。椅子に腰掛け、机の上に置かれた書類にチラリと視線を落とした後、入って来たキューティに向き直る。

 

「忙しいところを済まない。恐らく一番忙しいのは治安隊だろうに」

「いえ、エムサさんが上手く治安隊を纏めて下さっていますから!」

「治安隊に入った訳ではないというのに、良くやってくれているな」

「本当に助かっています」

「きゅー、きゅー!」

「お、ライトくんとレフトくんも久しぶりだな」

 

 キューティの後ろからぴょこぴょこと飛び跳ねて部屋に入ってきたライトくんとレフトくんにも声を掛けるサイアス。少しだけ和んだが、このまま和み続ける訳にもいかない。表情を真剣なものに戻し、サイアスは言葉を続けた。

 

「俺はアダム砦を離れられん。理由は判っているな?」

「リーザスに情報を掴まれているからですね?」

「ああ。万が一の事があれば、ゼスを取り込むべく奴等は動いてくる。それに睨みを効かせて牽制するのが今回の俺の役目だ」

「情報を掴まれてさえいなければ、サイアス様も参加出来たのに……」

「仕方ないさ」

 

 軽く肩を竦め、すぐに言葉を続けるサイアス。ここからが本題だ。

 

「色々考えたが、彼女はキューティ、君の部隊に組み込むのが一番良いという結論に至った」

「光栄です……」

「頼んだぞ。鍵を握るのは間違いなく君の率いる治安隊だ」

「任せて下さい!」

 

 綺麗な敬礼を見せるキューティを見て静かに頷くサイアス。その背後から、スッと一つの影が動く。話の初めからずっとサイアスの後ろに立っていた者だ。ゆっくりとキューティに近づいていき、右手を差し出す。

 

「闘神都市では共闘の機会はありませんでしたね、キューティ。今回は任せて下さい」

「頼りにしています、ミスリー!」

 

 ガシッと差し出された右手に握手で応えるキューティ。それを見ながら、サイアスは再度机の上に置かれた書類に視線を落とす。そこに書かれているのは、今から五日後の日付、ペンタゴンの文字、そして、『12月革命』という忌まわしき単語。

 

「自国の民と戦う事になるとはな……」

 

 キューティたちに聞こえないよう小声で呟きながら、サイアスは悔しそうに拳を握りしめるのだった。

 

 




[人物]
見当かなみ (5D)
LV 37/50
技能 忍者LV1
 リア直属の忍び。レギュラーのはずだが、なんだかんだ久しぶりの登場。ちゃんと仕事はしています。6章から本気出す。

リア・パラパラ・リーザス (5D)
LV 2/20
技能 政治LV2
 リーザス国女王。12月革命の情報をしっかりと掴み、ゼスに万が一の事があればいつでもリーザスの領地にすべく動く気満々。でも、こんなに簡単に情報が流れてくる今のペンタゴンじゃ無理だろうなと内心は思っている。

マリス・アマリリス (5D)
LV 32/67
技能 神魔法LV2 剣戦闘LV1
 リーザス国筆頭侍女。レベルを維持出来る程度には影で鍛錬をしている。リア同様、ゼスの内乱は失敗に終わるだろうなという予想。勿論、いざという時に動けるよう準備は進めている。

サイアス・クラウン (5D)
LV 43/51
技能 魔法LV2
 ゼス国炎の四将軍にしてルークの旧友。リーザス牽制のため、今回の内乱鎮圧には参加しない。闘神都市で負った怪我は温泉のお陰もあり完治。今はこれまで以上の鍛錬に励んでいる。目指すはハウゼル越え。

レプリカ・ミスリー (5D)
LV 35/60
技能 けんかLV1
 サイアス直属の護衛である闘将。魔法の効かない彼女と実戦形式の訓練を行い、サイアスは近接戦闘も強化中。彼女自身は精神年齢が幼いためまだ気が付いていないが、他の兵からはあまり良く思われていない。

キューティ・バンド (5D)
LV 30/38
技能 魔法LV1
 ゼス治安部隊隊長。今回の内乱鎮圧には最前線に立つ事になる。以前までと違い魔法使い絶対主義ではなくなっているため、自国の民と戦うのは少し複雑な心境。エムサとの鍛錬で更に実力をつけているが、これという決め手に欠けており思い悩んでいる。

ライトくん (5D)
 キューティの良き相棒である指揮ウォール・ガイ。本作のマスコット枠筆頭。

レフトくん (5D)
 キューティの良き相棒である指揮ウォール・ガイ。最近胴回りが1センチ太った。

ユキ・デル (5D)
 かつて冤罪の罪で投獄されていた女性。気が付いたら色々と吹っ切れて人生を謳歌中。でもルークとランスは今でも特別な相手。

アキ・デル (5D)
 ユキの妹。パン屋もやりたいけどカジノ働きも板に付いてきたため悩み中。5Dには縁のあるキャラなのでねじ込みでの登場となりました。

パン盗みメイド (5D)
 リーザス城メイド。パン好きなのでデル姉妹のパン屋には常連であった。盗んではいません。盗むのは城からだけだとは本人の談。いつの間にやら三度目の登場。

海苔子
 玄武城城下町で商店を営む妖怪。その正体はろくろ首。妖怪である自分を愛してくれると言ってくれたランスを本気で愛していた。だからこそ、化け物という発言はどうしても許せなかった。

和華(合体)
 絵と人形が融合した和華の完成形。ただいま新たな人生満喫中。よく食べてよく眠ります。自分に釣り合うイケメンでも探しに行こうかと考えているところ。

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