ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第14話 王女襲来

 

-カスタムの町 酒場二階-

 

「でね、でね、近々二人を無理矢理隠居させようと思っているの。そうすれば、リアが正式な国の指導者になるから、リアと結婚すればリーザスはダーリンのものよ!」

「ふーん」

「あん、もうちょっと興味を持ってくれても良いのに……ダーリンったらいけずなんだから……あ、そこのもこもこちゃん、その立ち位置だと邪魔。もうちょっと向こうに行って」

「あ、はい、すいません……」

 

 ランスの側に立っているシィルを少し遠ざけながら、リアがランスにベッタリとくっついている。リーザス王として迎えるためなのかは判らないが、その話題の中心は現状のリーザスについて。そして今リアが口走ったのは、リーザス王とその妃の二人を無理矢理隠居させるというとんでもない計画であった。壁に寄りかかっていたルークは驚いた様な表情でマリスに問いかける。

 

「止めなくて良かったのか? こんな場所で話していい内容ではないと思うが?」

「お三方には色々と知られてしまっていますしね。今更です」

 

 リーザス誘拐事件に関しては、全てパリス学園のミンミン学園長が画策したという事で幕が閉じている。因みに、ミンミン学園長は既にこの世にいない。事件が明るみになった直後に謎の自殺を遂げていた。

 

「まあ、本当に聞かれたらまずいような事は言って無さそうだがな」

「ふふ、それはどうでしょうね」

 

 マリスがはぐらかしてくるが、リアはああ見えても実に優秀な人物だ。ランスだけならまだしも、ルークとシィルがいるこの場所では話す内容を選んでいるはずである。だが、この場でそれを追求し、マリスと問答を繰り広げる気もない。ルークは一度息を吐き、部屋の隅に控えているかなみへと視線を移す。

 

「しかし、随分と鍛えたな。見違えたぞ」

「わ、判りますか!?」

「判るさ。以前とは纏っている空気が違う。忠臣目指して頑張っているみたいだな」

「……ありがとうございます!」

 

 ルークのその言葉を噛みしめながら、深々と頭を下げてくるかなみ。と、それまでランスとの会話に一方的に夢中になっていたリアがこちらに視線を向けてくる。

 

「そうそう。最近のかなみは以前にも増して張り切っちゃっているんだから」

「わずか二、三ヶ月の間にレベルを四つも上げてくれました。隠密の仕事をこなしながらという事を考えれば、十分すぎる成果です。こちらとしても喜ばしい限りですね」

「リア様……マリス様……」

 

 リアとマリスにも褒められ、恥ずかしそうにしながらも若干誇らしげなかなみ。その態度に悪戯心が湧いたのか、ランスが茶々を入れてくる。

 

「がはは、へっぽこ忍者も少しは使えるようになったのか?」

「……ふん! 今ではランスさんより強いかもしれませんよ」

「ほう、言ったな? 貴様、今のレベルはいくつだ?」

「レベル18です! ランスさんは?」

「今から計ってやろう。貴様に英雄とへっぽこの違いを見せてやる」

 

 主の前だというのに挑発に乗ってしまうかなみ。マリスがため息をつき、ルークも目の前の光景に失笑する。

 

「精神の修行はまだまだこれから、と言ったところか?」

「お恥ずかしい限りです。リア様、止めますか?」

「ううん。ダーリンのレベルも知りたいし、止めなくて良いわ。私的には、ナイスかなみ、って感じだわ」

「承知致しました」

 

 リアが目を爛々と輝かせて事態の推移を見守っている。愛しのランスのレベルには興味があるのだろう。リアが止めないのであれば当然マリスが動くはずもなく、ルークも特に止める理由がないため、全員傍観に回る。すると、ランスがパチンと自身の指を鳴らした。

 

「レベル神ウィリス、俺様の呼び出しに応じて直ちにこの場に姿を現せ!」

「レベル神だと……? いつの間に……」

 

 ランスの呼びかけに応じて赤い髪のレベル神が姿を現す。レベル神というのは、頻繁にレベルアップする冒険者がレベル屋に行く手間を省くために契約をする神である。勿論、その契約のための査定は厳しく、並の冒険者では契約を結べない。誘拐事件の時はレベル神が付いていなかったはずであり、いつの間にレベル神と契約を結んだのかとルークが首を傾げる。

 

「私は偉大なるレベル神、ウィリス。ランスさん、レベルアップをお望みですか?」

「そうだ。この身の程知らずに格の違いを思い知らせてやらんとな」

「……ん? 君はリーザスの城下町でレベル屋をしていた子か?」

「……あ、ルークさんじゃないですか。お久しぶりです」

 

 現れたレベル神に見覚えがあったルークが問いかけると、一度こちらの顔を確認して思い出すような仕草をした後、顔をパッと明るくして口を開くレベル神。ルークの記憶通り、彼女はリーザス城下町でレベル屋として働いていた女性、ウィリスであった。

 

「そういえば、レベル神への昇進試験が近いとか言っていたな。そうか、昇進試験には受かったのか。おめでとう」

「ありがとうございます! 先日無事に合格しました!」

「がはは、俺様が手伝ってやったのだ!」

「なるほど、それで専属契約を結んでいる訳か」

 

 誘拐事件から今までの間ずっとサボっていたのかと思っていたが、しっかりと仕事もこなしていたランス。レベル神への昇進試験には危険な内容もあり、ギルドへその護衛が依頼されることも時々あるのだ。どうやらルークの知らない内にキースギルドへ依頼があり、それを受領したランスが見事その依頼を達成し、そのお礼にと彼女と専属契約を結んでいたようだ。

 

「レベル屋……ウィリス……ああ、思い出したわ」

「城下町の人を全て把握しているんですか? す、凄いですね……」

 

 リアがそう呟くのを聞き、シィルが恐る恐るといった様子で話しかける。明らかにリアに嫌われているのは自分でも判っているらしく、どうにかして話題を拡げ、少しでも仲良くなれないものかと勇気を振り絞ったのだろう。シィルに話しかけられて少しだけ冷徹な視線をそちらに向けたリアだったが、すぐに近くにいたマリスの方に向き直る。

 

「確か、前に狙った事があったわよね?」

「はい。彼氏持ちという事が判った時点で調査は打ち切りましたが」

「そうだったわね。虐めるならなんにも知らなそうな若い娘が一番だしね」

「(……ここからどう話を拡げれば……)」

「今明かされる衝撃の真実だな。明るみになったのが学園の娘たちだっただけで、他にも色々と手を出していたのか。まあ、ユキの事を考えればそれも当然か」

「一体何の話でしょうか?」

 

 まさかの展開にシィルは困惑するしかない。ここから平然と話を拡げられたら、その人物も間違いなく普通ではない。狙われていた張本人であるウィリスは状況が飲み込めないため、とりあえず知り合いのルークに話しかける。

 

「そういえば、ルークさんはレベル神と契約を結んでいないんですか? ルークさんくらいのレベルの冒険者なら、契約を結んでいない方が逆に珍しいんですけど」

 

 ルークのレベルを知るウィリスが問いかけてくる。国に仕える兵士などならば定期的にレベル屋に立ち寄れるが、ルークたちのような冒険者ではそれもままならないため、自然とレベル神との契約を結ぶ者が多くなる。高レベルの冒険者なら尚更だ。

 

「以前はカグヤさんというレベル神と契約していたんだが、寿引退してしまってね。その際の引き継ぎがどうやらトラブっているらしく、今はレベル神がいないんだ」

「あ、それなら私と契約しませんか? 今はレベル神になったばかりで手が空いていますし、引き継ぎの報告もちゃんとしておきますよ」

「それは助かるな。ぜひお願いするよ」

「いえいえ。レベルアップ回数の多い方ですと、こちらとしても有り難いですし」

 

 思いがけずレベル神との再契約を結べてしまったルーク。レベル神もレベルアップ回数の多さが出世に関わるため、高レベル冒険者との契約は喜ばしいことなのだ。と、いつまで経っても世間話をしているウィリスにランスが声を荒げる。

 

「ええい。世間話をしとらんで、さっさとレベルアップの儀式をしろ!」

「あ、すみません。ルークさんとシィルさんも一緒にしておきますね」

「ああ、頼む」

「ありがとうございます!」

「それでは……うーら めーた ぱーら ほら ほら。らん らん ほろ ほろ ぴーはらら」

 

 実に力の抜けるレベルアップの儀式である。前任レベル神であるカグヤとは呪文が違うのだな、とルークがどうでもいい事を考えている内にレベルアップの儀式が終わり、ウィリスがゆっくりと口を開く。

 

「ランスさんは経験豊富とみなされてレベル20になりました」

「がはは、当然だな! どうだ、聞いたか? レベル18のへっぽこ忍者!」

「くっ……」

「きゃー! ダーリン、格好良い!!」

「流石はランス様。優秀な冒険者ですね」

 

 ランスの見下すような態度に悔しさが募るが、勝負を挑んで敗れた身としては何も言えず、歯噛みする事しか出来ないかなみ。主であるリアがランスの勝利を喜んでいるのが悔しさに拍車を掛けていたのだが、この後のウィリスの言葉に更に追い打ちを掛けられてしまう。

 

「シィルさんは経験豊富とみなされてレベル19になりました」

「わーい、やったー!」

「がーん!!」

 

 まさかシィルに負けるとは思っていなかったかなみは盛大にショックを受け、呆然とした様子でその場に立ち尽くしてしまう。

 

「がはははは、俺様の奴隷にも負けるとは情けない。真の忠臣にはほど遠いな」

「ランス、あんまり追い打ち掛けるな。かなみ、隠密の仕事が主である君と違って、こっちは冒険者でレベルが上がりやすいんだ。あまり気にしなくていいんだぞ」

「……はい。すいません気を使わせてしまって」

「俺様の大勝利だ! がはははは! 勝った、勝った、へなちょこ忍者に勝った!」

「ダーリン格好良い! 素敵!」

 

 涙目のかなみにルークがフォローを入れている横で、ランスとリアは盛大にはしゃいでいた。だが、この空気は次のウィリスの発言で凍り付くことになる。

 

「ルークさんは経験豊富とみなされてレベル46になりました」

「「「「えっ!?」」」」

「なんだとっ!?」

 

 一斉にルークとウィリスの方を向く一同。突然の視線にウィリスは一瞬ビクリと体を縮こまらせる。

 

「貴様、なんだそのレベルは!?」

「お強いとは思っていましたが、そんなにレベルが高かったんですか!?」

「あれ? ルークさん、みなさんにレベルの事は話していなかったんですか?」

「あー……そういえば話したことはなかったな。まあ、冒険者としては少し高い程度さ」

 

 思い返してみれば、リーザス誘拐事件のときは一人でレベル屋を訪れたし、カスタムに来てからはレベル屋に寄っていない。そういう話にもこれまでならなかったため、誰もルークの現在レベルを知らなかったのだ。ルークのその的外れな発言にかなみが一層騒ぎ出す。

 

「た、た、高いってもんじゃないですよ! 一国の将軍クラス、いや、それ以上ですよ!」

「……マリス!」

「はい、リア様。ルーク様、こちらにサインをお願いできますか?」

 

 リアの目配せとほぼ同時にマリスが一枚の紙を取り出し、ルークへと署名を求めてくる。つい紙とペンを受け取ってしまい、勢いでサインしそうになるルークだったが、よくよくその紙を見ると、それはリーザス軍入隊のための書類であった。

 

「って、おい! 何勝手に入隊させようとしているんだ!?」

「ちっ。引っかからなかったわね……」

「……ルーク様。リーザス国は他にはないほどの好待遇で迎え入れる準備がありますが?」

「んー……すまないが、まだどこかに収まる気はないんだ」

「指揮官適正の結果次第ですが、今なら特別に副将の地位もお約束するのですが……」

「ふ、副将!?」

 

 とんでもない好条件に思わずシィルが声を漏らすが、ルークはその条件に苦笑していた。いくら何でもただレベルが高いだけで副将の地位は有り得ない。となれば、この待遇は先の誘拐事件における口止めの意味も含んでいるのだろう。

 

「わ、私もルークさんにリーザスに来ていただきたいのですが……」

「スマンな、かなみ。かなりの好条件だが、断らせて貰う」

「……残念です」

「おい、ルーク、ルークって騒ぎやがって! 俺様に誘いがないとはどういうことだ!?」

 

 ルークの返事を聞き、シュンとうなだれるかなみ。その反応にルークは申し訳無く思うが、今はまだどこにも仕える気はないのだ。そう、今はまだ。リアが再度舌打ちをしていると、長い事蚊帳の外に置かれていたランスが騒ぎ出すが、その発言を待っていましたと言わんばかりにリアの目がキラリと光る。

 

「あら? ダーリンを軍に勧誘する気なんてありませんわ。だって、ダーリンは私の夫としてリーザスの王になって貰うんですもの」

「……しまった」

「ランス様、やぶへびです……」

「では、ランス様はこちらへサインを……」

「ええい、婚姻届を出すな!」

 

 マリスが渡してきた婚姻届をビリビリに破り捨てるランス。これではいつまで経っても本題に入れないなとルークは苦笑していると、隣に立っていたウィリスが声を掛けてくる。

 

「あのー……もう帰っても良いでしょうか?」

「ああ、まだまだ長そうだからもう帰ってしまって構わないよ。契約も結んだ事だし、これからよろしく頼む」

「はい。あ、それと高レベル者には、その、脱衣のサービスもあるのですが……」

 

 そう、女性レベル神には契約者のレベルが一定以上になる度に服を一枚ずつ脱いでいくというサービスが課せられているのだ。これは、より一層レベル上げに励むようにという事から考えられた制度であり、この制度を考案したラセリアというレベル神は一部に熱狂的な信奉者を持っているのだが、それはまた別の話。

 

「ああ、それは別にしなくていい。前任のときも断っていたし」

「そう言っていただけると助かります。決まりではありますけど、やっぱり恥ずかしいので……では、私はこれで」

 

 そう言い残し、ウィリスの姿が虚空へと消えていく。それを見送ったルークがランスたちに向き直ると、一同はまだ騒いでいるところであった。これから志津香の迷宮に向かう必要もあるため、流石にそろそろ本題へと入ろうとルークが口を開く。

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか。わざわざカスタムまでやってきた理由は? まさかランスの顔を見るためだけにカスタムまでやってきたのか? ……マリス、いい加減書類を仕舞ってくれ」

 

 そう言われ、渋々と書類を引っ込めるマリス。どうやらまだ諦めきれないらしく、ジッとルークの方を見ている。

 

「もっちろん! ダーリンに会いにここまで来たのよ!」

「……本当にそれだけか?」

「イエス!」

 

 ちらりとマリスとかなみに視線を向けるルーク。すると、二人とも静かに頷いて返して来た。どうやら本当にランスに会いに来ただけらしい。

 

「……職務はいいのか?」

「万事抜かりありません。三日先の分まで終わらせてありますし、有事の際は優秀な者に後を任せてあります」

「わざわざ会いに来るのにそこまでせんでいい」

「あん、ダーリン。迷惑だった? リアね、お土産も持ってきたの」

「お土産? なんだ、金目のものか?」

「かなみ、持ってきて」

 

 リアがそう言うと、かなみがカーテンの後ろにわざわざ隠してあった剣と鎧を持ってくる。どちらも美しい光沢を放っているが、観賞用という訳ではなく装備品として一級品であることが見て取れる。

 

「これは我がリーザス王国に古くから伝わる秘伝の聖剣と聖鎧です。どうぞお納めください」

「それをリアだと思って大事に使ってね、ダーリン!」

「武器をそう思うのは無茶があるな……」

「うむ、貰えるものは全てありがたく頂いておくぞ。がはは」

 

 そう言いながら目の前に置かれた聖剣と聖鎧を装備するランス。それを黙って眺めていたルークだったが、気が付けば今まで装備していたイナズマの剣と界陣の鎧をシィルに手渡し、なにやら耳打ちしている。

 

「売りさばくつもりなら返せよ」

「ぎくり」

「馬鹿者。これは既に俺様の物だ。俺様の物をどうしようと貴様には関係無い」

「俺の金で買った物だろうが、全く……」

 

 やはり売りさばくつもりだったかとルークがため息をつくが、言って素直に返すような性格でも無い事は重々承知しているため、これに関しては諦める事にする。

 

「というか、そんな大事な物を簡単に渡してしまって良かったのか?」

「もちろん! 将来の旦那様ですもの!」

「えぇい、やかましい。誰が旦那だ! まだこの町での依頼が済んでいないから、俺様たちはもう行くぞ!」

「ダーリン、リアはあなたが振り向いてくれるまでいつまでも待っています!」

 

 貰う物だけ貰い、さっさと部屋から出て行ってしまうランス。流石にこれだけ熱烈なアプローチをされては、居心地が悪かったのだろう。シィルも一礼した後、ランスの後にそそくさとついていく。ルークもそれに続こうとするが、ふとある事を思い立ってリアとマリスに話しかける。

 

「そうだ、少し頼み事があるんだが……」

「頼み事?」

「ムシのいい話ではあるんだが……」

「……あら? 確かにムシのいい話ね。そんな要求じゃあ……」

 

 交渉に入った瞬間、リアとマリスの目つきが変わった。ランスの前ではあんな状態だが、やはり政治家としての手腕は高い二人である。数分の後、ある程度の落としどころで交渉が纏まる。

 

「すまないな、無理を言って」

「まぁ、以前の借りもあるしね。こちらの条件も呑んで貰ったことだし」

「ルーク様、リーザスはいつでも副将のポストを準備してお待ちしておりますので」

「だから、副将はやり過ぎだ。ポッと出の冒険者が副将になんかなったら、反発が出るぞ」

「ちょっとくらい無理してでも使える副将が欲しいのよね、正直な話。将軍と比べて二枚くらい落ちるから、今の副将たち」

「丁度世代交代の時期でして、実戦経験が少ない副将が何名か……その点では、実戦経験豊富な副将が欲しいというのは本音なのですよ」

「……」

 

 リアとマリスの発言にかなみが複雑そうな表情を浮かべているが、その真意はルークには判らない。

 

「まあ、当分ないと思ってくれ。それじゃあ俺もそろそろ行くとするか」

「お気を付けて。ルーク様には何もお持ちできず申し訳ありません」

 

 ランスにだけ土産を持ってきた事に対し、マリスが深々と頭を下げてくる。リアは気にしていない様子だが、かなみも申し訳なさそうにしている。

 

「ふむ、別に気にしないんだがな……かなみ、手裏剣とかくないとかの予備があったら一つ貰えるか?」

「え? あ、くないならここに予備が。手裏剣はしびれ薬を塗ってあるのしかなくて、取り扱いが……」

 

 突然話を振られたかなみは慌てて懐を探り、一本のくないを手に取る。それをパッと受け取るルーク。

 

「リーザスからの支援、確かに受け取った。忠臣を目指す者が使う武器、そんじょそこらの支援よりも遙かに心強い。大事に使わせていただく」

 

 そう言って部屋から出て行くルークを見送る三人。扉が閉まり、部屋にリーザスの三人だけになった瞬間、リアの顔つきがまたも政治家のそれに変わり、ポツリと漏らす。

 

「やっぱり、一冒険者にしておくには惜しい人材ね」

「戦闘力、交渉力、視野の広さ、多分指揮官としても優秀かと。こちらの秘密もいくつか握られておりますし、出来れば自国で抱え込みたいところですね」

「意志が固そうだから難しいかもしれないけど、定期的にアプローチは続けておいて」

「かしこまりました」

 

 リアの指示に頷いた後、マリスは未だルークの去っていった扉をぼうっと眺めているかなみに視線を向ける。

 

「かなみ、受け取って貰えて良かったですね」

「はい! ……って、いえ、別にそんなことは……」

「そうだ、かなみ。ルークにリーザスに来るよう色仕掛けで迫ってみてくれないかしら?」

「そ、そ、それは私には荷が重すぎます、リア様!」

「ふふ、冗談よ」

 

 冷静を装うとするかなみであったが、色々とバレバレであった。

 

 

 

-溶岩迷宮 入口-

 

「なんだこれは、灼熱地獄じゃないか!?」

 

 リアたちと別れた後、ルークたちは最後の魔女、志津香の拠点である迷宮第五層、溶岩迷宮までやってきていた。マリアとミリの二人は今回誘っていない。マリアは町の復興の中心人物であるためそちらに尽力して貰いたく、ミリは指輪の影響が出るかもしれないミルの側に置いておきたかったからだ。

 

「あ、こらシィル、すり寄って来るな! 余計暑くなるだろうが!」

「きゃっ!? ランス様、押さないでください……」

「押すな、押すなと言われると押したくなるな……むずむず……」

「下は溶岩で落ちたら一溜まりもないな……ランス、冗談では済まないから止めておけよ。道も細いし、気をつけながら先に進むぞ」

 

 ルークが下を覗き込みながら汗を拭う。岩で出来た道は非常に狭く、その下には溶岩が広がっているため落ちたら間違いなく即死。外気温も40度ほどあり、次から次へと汗が吹きだしてくる。

 

「シィル、冷気系の魔法で周囲を冷やせ。暑くてたまらん」

「えっ、でも、今後の事も考えて魔力を温存しておかないと……」

「なに、こんな暑い場所ではモンスターもきっとへばっているに違いない。どうせ出てきたりは……」

「……そうは問屋が卸さないみたいだぞ」

 

 ルークたちが歩いていた岩場の向こう側から人食いTOWNSというモンスターの大群がのそのそと姿を現す。同時に、バサバサと翼を振りながら金とりがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

 

「ちっ、空気の読めないモンスター共め」

「ランス、足場が悪いから気をつけろよ。真空斬!!」

 

 ルークが宙に向かって真空斬を放ち、金とりの翼を両断する。バランスを失った金とりはそのまま溶岩へと真っ逆さまに落ちていき、その身を溶かされる事になる。

 

「シュシュシュシュ!」

「うおっ!? こんな足場の悪いところでDISKを飛ばすな!」

「雷撃!!」

 

 人食いTOWNSが頭の上に乗ったコンピュータからCDを飛ばしてくる。ダメージは小さく、平時であれば大した攻撃でないのだが、万が一足を踏み外したときの事を考えると遠距離攻撃は厄介極まりない。すぐさまシィルが雷撃を放ち、先頭にいた人食いTOWNSを一撃でショートさせる。

 

「真空斬、真空斬!」

「雷撃!」

「よし、そこだ、行け、働け!」

「お前も働け!」

 

 自然と遠距離攻撃の打ち合いになるため、ルークとシィルが中心になって戦う構図が出来上がる。モンスター自体はそれ程強くないため、敗れるという心配はないのだが、一気に仕留められないためどうしても先に進むのに時間が掛かってしまう。結界が解けた事から楽観視していたが、ランの言っていたように全ての準備が整っているのであれば、急ぐ必要がある。

 

「お、何か見えてきたぞ。どりゃぁぁぁぁ!」

「走るな、危ないぞ!」

「屋敷、でしょうか……?」

「あれは、いや、まさか……」

 

 少しずつ先に進んでいると、遠目に何か屋敷のようなものが見えてくる。魔女の居場所かとランスに気合いが入り、飛ばされるDISKをものともせずに一気に岩場を駆けていき、人食いTOWNSに剣を振り下ろして粉砕したのだった。こうして敵を全滅させたランスたちは屋敷の方へと駆けていく。近づいて見れば、かなり大きな屋敷だ。

 

「おお、ここが志津香の屋敷か!? ぐふふ、待っていろよ!」

 

 そう言って涎を垂らすランスを横目に、シィルが屋敷へと近づいていき扉へと手を伸ばす。だが、何度扉を動かしても開ける事が出来ない。

 

「ランス様、駄目です。鍵が掛かっていて開きません」

「なにぃ!? 志津香の処女は目の前にあるのだぞ! そんな鍵、俺様が破壊してやる。ふん!」

 

 ランスが扉の鍵目がけて剣を振り下ろす。ガキン、と金属がぶつかり合う音が響くが、鍵は傷一つ付いていない。今度は扉を破壊しようと剣を振るランスだったが、その一撃も不思議な力によって弾かれてしまう。

 

「うがー、なんだこれは!」

「結界……でしょうか?」

「シィル、その辺の窓から入れないか調べてみろ!」

「ああ、そんなことをしても無駄だよ」

 

 ランスがイライラしながらシィルに指示を出したと同時に、後ろから声を掛けられる。振り返ってみれば、枯れ木のようにやせ細った男戦士がそこに立っていた。

 

「む、なんだ貴様は?」

「これは失礼。私は風の戦士、シィルフィード。志津香様の部下だ」

「なら死ね!」

「うぉぉぉ!? ちょ、ちょっと待ってくれ。争うつもりなんて無い! この状態を見てくれ。私は戦える状態ではないんだ!」

 

 問答無用で剣を振り下ろしてきたランスの一撃を間一髪で避け、尻餅をつきながら必死にランスを止めるシィルフィード。確かにどこからどう見ても戦えるような姿では無いため、ランスがスッと剣を下げる。

 

「で、無駄というのはどういう事だ?」

「そ、その屋敷は扉にも窓にも結界が張ってあって、鍵がないと中には絶対に入れないようになっている」

「部下ということは、鍵くらい持っているんだろう? さぁ、すぐに寄越せ」

「それが、ラルガというサッキュバスに奪われてしまったんだ。私も取り返そうとしたんだが……精気を吸われてしまいこのざまだ」

「ちっ、使えん雑魚が……」

 

 シィルフィードが骨と皮だけのような状態の腕をコンコンと叩く。不自然な程にやせ細っているとは思ったが、どうやらサッキュバスの仕業らしい。

 

「ふむ、ならばそのラルガから鍵を手に入れる必要があるな。そいつはどこにいる?」

「ここからもう少し進んだところに、ラルガが別荘に使っている屋敷がある」

「こんな暑い所に別荘ですか……凄いですね……」

「ラルガの元へ行くなら、あんたらも気をつけた方がいい」

「がはは、無敵の俺様にそんな心配は無用だ。行くぞ、シィル、ルーク! ……なんだルーク、ボーッと突っ立って?」

 

 ひとまずラルガの屋敷へと向かう事に決めたランスが笑いながら歩き出したが、後ろから響く足音が一つしかない。振り返って見ればそこにはシィルしかおらず、ルークがついて来ていない。何故か呆然とした顔で志津香の屋敷を見上げていた。

 

「知っている……俺は……この屋敷を知っているぞ……」

「あ、おい!?」

 

 ルークがゆっくりと屋敷に近づいていき、扉に手をかける。触れた感じでは扉自体の結界は無効化出来そうだが、扉に掛けられている鍵に何やら結界とは別の文様が描かれているのが目に飛び込んでくる。これを無理に破壊すれば、何かしらの罠が発動する可能性が高い。

 

「となれば……」

「おい、何を勝手な事をしている!」

 

 ランスが後ろで騒いでいるが、ルークの頭には入ってこない。扉から手を放し、今度は窓へと近づいていき、グッと手で窓を押す。結界が無効化されるのを感じていると、窓がギッという音を響かせながらゆっくりと開いた。どうやら、こちらには鍵を掛けていないようだ。ルークが窓枠に足を掛け、屋敷の中へと侵入する。どうやら他の罠は無いようだ。

 

「あ、なんだ開くではないか。では俺様も……って、あちちちちっ!」

「きゃっ!? ランス様、大丈夫ですか? いたいのいたいの、とんでけーっ!」

「窓が開いた……!? 志津香様の結界だぞ……あんた、一体……?」

 

 ルークが屋敷の中に入ったのを見たランスがズカズカと窓に近づいていき、自分の中に入るべく窓枠に手を置く。瞬間、ランスの手に電流が走り、手の平に火傷を負ってしまう。シィルが慌てて治療しているのを横目に、志津香の部下であるシィルフィードは信じられないものを見たといったような表情で驚いている。と、ルークが窓から顔を出してランスたちに向かって口を開く。

 

「ランス、ランの言うとおりなら事態は一刻を争う。俺は先に屋敷に潜入する!」

「あ、おい待て! 四魔女コンプリートが掛かっているんだ! 勝手に志津香の処女を奪ったら承知せんぞ!!」

 

 ランスの抗議を余所に、ルークは屋敷へと一人潜入していってしまう。ランスに言ったように急がなければいけないという思いも勿論あるが、それ以上にルークを突き動かしていたのはこの屋敷の形だった。遠い記憶であり、絶対とは言い切れない。だが、確かにそれはルークの記憶に残っていた屋敷とよく似ていた。

 

「ちっ、きっと四魔女の内の三人を俺様がヤってしまったのを見て、羨ましくなったに違いない。全く情けない男だ」

「そういう風には見えませんでしたが……」

「いや、間違いない。そもそもああいう奴に限って実はムッツリだったりするんだ。急ぐぞ、シィル。志津香の処女は俺様のものだ!」

 

 ルークに思わぬ形で抜け駆けされてしまったランスは焦っていた。このままでは四魔女コンプリートが失敗に終わってしまう。それだけは絶対に避けたい。と、目の前には呆然と屋敷を見ているシィルフィードの姿。すぐさまランスは剣を抜き、シィルフィードの首筋に切っ先を向ける。

 

「ひえっ……!?」

「おい、ラルガの屋敷まで案内しろ。一刻を争うから、万が一にも迷う訳にはいかんのだ。志津香の部下という事は、ある程度自我のあるモンスターなら追い払えるんだろう?」

「いえっ、でも、その、ラルガの屋敷にはもう近寄りたく……」

「地獄に近づくのと、ラルガの屋敷に近づくの。どちらが良いか選ばせてやる。三秒で答えろ」

「ひぇぇぇ……」

「ああ……私と名前の似ている人が不幸に……」

 

 こうして、シィルフィードを道案内役にし、比較的安全にラルガの屋敷を目指す事になった。シィルは自分と少しだけ名前の似ている男が不幸になっているのを見て、ちょっとだけ悲しい気持ちになっていた。

 

 

 

-志津香の屋敷 一階-

 

『……もし君たちが嫌でなければ、しばらく一緒に暮らしてもいいと思っている』

『夫婦二人で暮らすには少し大きい屋敷なの。遠慮しなくていいのよ』

 

 屋敷に入ったルークが感じていたのは、外で感じたのと同様の既視感。ここまで広い屋敷では無かったように思えるが、それも遠い記憶であるため定かではない。だが、とある小部屋に入った際、ルークは目の前に置かれているある物を見て確信を得る。

 

「間違いない……あの屋敷だ……」

 

 ルークの視線の先にあるのは、手作りの小物入れ。机の上にぽつんと置かれているそれはどこか貧乏くさく、豪華な造りのこの屋敷にはあまりにも不釣り合いな代物。だが、覚えている。この小物入れをルークは確かに記憶していた。

 

『ああ、これが気になるかい? 昔、少しだけ教鞭を執っていた際、教え子がくれた物でね』

 

 子供の頃にはその真意まで理解仕切れなかったが、この小物入れを持ってそう語る男の声が少しだけ優しい物になっていたのを感じ取っていたのか、妙にこの小物入れは記憶に残っていたのだ。だからこそ、確信する。この屋敷はあの人の屋敷だ。

 

「何故だ……何故こんな場所に……?」

 

 ルークはその小部屋を後にし、再び探索を続ける。脳裏に過ぎるのは、カスタムの町を目指しているときにも思い出していた記憶。18年前、幼いルークたちがほんの数日だがお世話になった夫妻のことであった。その屋敷がなぜここにあるのか。いや、似通ってはいるが本物という訳では無く、あの屋敷を参考にして作っただけかも知れない。だが、だとすればどうして志津香はあの屋敷を参考にしたのだろうか。本物であるにせよ偽物であるにせよ、疑問は残ってしまう。そんな事を考えながら屋敷を探索していると、何やら入り口に魔法陣の描かれた小部屋を発見する。明らかにこれまで見てきた小部屋と雰囲気が違う。そのうえ、扉の前には一人の風の戦士が立っていた。

 

「むっ!? 貴様、何者……がっ……あっ……」

「邪魔だ……」

 

 風の戦士がルークに気がつき声を掛けるが、そのときには既に風の戦士はルークに斬られた後であった。そのまま倒れこむ風の戦士を一瞥してその横を通り、部屋へと入るルーク。机の上にはビーカーやら本やらが乱雑しており、お世辞にも綺麗な部屋とは言えない。ここで魔法の実験でもしていたのだろうか。と、ルークの目に飛び込んできたのは、机の上で開きっぱなしになっていた一冊の本。それを手に取り、開かれていたページに目を通すルーク。そこには書かれていたのは、とんでもない内容であった。

 

「時空転移魔法……? 過去に飛び歴史を改変するだと!? 聖女モンスターにそういった力を持つ存在がいるというのは以前にどこかで聞いた事があるが、それは明らかに人間の至れる領域から外れた力だ。そんな事が人間に可能なのか?」

 

 あまりにも突飛な内容に、このページが開かれていたのは偶然なのかと勘ぐってしまう程であった。こんな魔法を実験しようなど、馬鹿げている。まともな魔法使いであれば、くだらない妄想だと切り捨てるに足る、ここに書かれているにはそんな魔法なのだ。だが、その魔法の使用方法の項目を見たルークの目が見開かれる。

 

「あまりにも強力な魔法であるため、普通に使うのは不可能。だが、術者の莫大な魔力に加え、女性の生気を追加魔力代わりに使うことで擬似的に使用する事が出来る……なるほど、女性を攫っていた理由はコレか!」

 

 バタン、と本を閉じるルーク。これまで志津香が何をしようとしているのかが判らなかったが、ようやくその目的へと行き着いた。彼女は過去へと渡り、歴史を改竄するつもりだ。彼女がそこまでして何を変えたいのかまでは判らないが、それは許されざる行為だ。ルークはすぐに部屋を飛び出し、廊下を駆けていく。目の前には、二階へと続く階段。

 

「過去など変えても、それが何かの救済になどなりはしない。それに、過去を変えたことによって、現世にどんな影響が起こるかも判らないんだぞ……」

 

 階段を駆け上がった先に水の結界があった。本来であればこれを解除するための手段を探す必要があるのだろうが、ルークにとってこの程度の結界は何の意味も持たない。結界を無効化し、結界の先にあった鉄の扉を開ける。そこに置かれていたのは、テレポート・ウェーブを使った転移装置。

 

「……いや、躊躇っている時間はないな」

 

 罠かもしれないと一瞬躊躇するが、彼女が過去へと渡るつもりならば一刻の猶予も無い。自身を奮い立たせるためか、ルークはあえてそれを言葉にし、目の前の転移装置を作動させる。瞬間、ルークの周りの風景が歪み、気が付けば辺り一面夜空のような空間に転移させられていた。自身の足場も同様の光景であるため、まるで空に浮かんでいるような錯覚さえ覚えてしまう。ルークが一歩前へと踏み出すと、足はしっかりと地面につく。どうやらちゃんと足場はあるようだ。

 

「……っ!?」

 

 ルークが足を踏み出した直後、目の前の地面がけたたましい音を響かせながら盛り上がっていく。ルークがすぐさま妃円の剣を抜いて構えると、床をぶち破ってストーン・ガーディアンが現れた。遙か上空からこちらを見下ろし、ゆっくりと口を開く。

 

「ここは志津香様の聖域。何人たりとも通すわけには行かぬ」

「……手強い相手だが、今は貴様と遊んでいる暇はない。どけ!」

 

 そう言い放ち、ルークは一直線にストーン・ガーディアンに突っ込んでいった。

 

 

 

-溶岩迷宮 ラルガの屋敷-

 

「赤い媚薬を使うなんてずるい……うぅん、もうダメ……」

「負けちゃった、ラルガ様」

「悲しいです、ラルガ様」

 

 放心した様子でその場に倒れ込むサッキュバスのラルガ。今し方ランスにH勝負で敗れたためである。というのも、これはランスの卑怯な手によるもの。一度は正攻法のH勝負で圧勝したラルガだったが、その後どこからか赤い媚薬というアイテムを手に入れてきたランスにそれを使われ、為す術もなく敗れてしまったのだ。

 

「悔しい……今までH勝負では二回しか負けた事がなかったのに……どっちも化け物みたいな相手だから納得がいったけど、まさか三回目がこんな卑怯な奴に……きゅぅぅ……」

「がはは、サッキュバスなぞ俺様の超絶テクの敵ではなかったな! さあ、鍵は手に入れた。行くぞ、シィル!」

「はい、ランス様!」

「あれだけ卑怯な手で勝っておいてあんなに勝ち誇るなんて……人間って恐ろしいにゃ……」

 

 手に入れた屋敷の鍵を高々と掲げるランス。よくもまあ、あんな勝ち方であれだけ勝ち誇れたものだとラルガのねこが呆れた様子で見てくるが、そんな視線を気にするランスではない。

 

「抜け駆けは許さん! 俺様が行くまで処女のまま待っていろよ、志津香!」

「(格好良さそうな台詞ですが、あんまり格好良くないです、ランス様……)」

 

 

 

-荒野-

 

 どことも知れぬ荒野の真ん中に、その少女は立っていた。最後の四魔女、魔想志津香。時空転移魔法を使って過去に渡ることに成功した彼女は、もうすぐこの場所で起こる出来事に備えて精神を落ち着けていた。

 

「大丈夫、やれる……私がお父様を、必ず救い出す……」

 

 そのとき、後ろから気配がする。おかしい、まだ目的の時間には早い。慌てて振り返った志津香が見たのは、黒髪の剣士。自分よりも随分と年上で長身、容姿の整った青年剣士がそこに立っていた。ホッと息を吐く志津香。違う、この男ではない。

 

「……誰? ここにいると危ないわよ。悪い事は言わないから、どこか遠くに行きなさい」

 

 一応忠告をする志津香。その戦士を心配したというよりも、これからこの場所で起こる出来事を邪魔されては困るという想いからの忠告であった。こんな男に用は無い。興味なさげにしながら、その男に再度忠告をしようとした志津香であったが、それよりも先に戦士が口を開く。それは、志津香の目を見開かせるには十分な言葉。

 

「……アスマーゼ……さん?」

「!? 母を知っているの!?」

 

 目の前に立っていた戦士は、ルーク。ストーン・ガーディアンを倒したルークは志津香の後を追って環状列石の装置を作動させ、過去へとやってきたのだ。そして、目の前に広がる荒野に立っていたのは、かつてお世話になった魔法使いの奥方に瓜二つの少女であった。

 

 




[人物]
ウィリス (2)
 ルークとランスの二人と契約を結んでいるレベル神。先日まではレベル屋で働く普通の人間であったが、ランスの助力もあって見事レベル神への昇進を果たす。人間時代から付き合っている彼氏には、人間を辞めたことはまだ内緒にしている。儀式呪文は「うーら めーた ぱーら ほら ほら。らん らん ほろ ほろ ぴーはらら」。

アガサ・カグヤ (ゲスト)
 かつてルークと契約を結んでいたレベル神。美しい黒髪の和装美女で、彼女に担当して貰いたいという男性冒険者が後を絶たなかったが、一年前にレベル神を寿引退。儀式呪文は「さーくーら さーくーら こよいも よるも わが よいの かえる ぴょこ ぴょこ」。名前はアリスソフト作品の「闘神都市2」より。

ラセリア (ゲスト)
 脱衣システムを考案し、自らその第一号となった偉大なレベル神。女性レベル神の中には彼女のせいで変な制度が出来たと嫌う者もいるが、実際にレベルアップ効率が格段に上がったのは事実であり、その功績が認められてレベル神よりも高位の存在になる第六級神への昇進の話が持ち上がったほど。だが、生涯一レベル神を明言し、その昇進の話を蹴った事から更に信奉者を増やした。今日も元気にどこかで脱いでいる。儀式呪文は「アセラ・アセラ・ハバロウ・マニキュ・デラルゴ」。名前はアリスソフト作品の「闘神都市」より。

シィルフィード
 志津香に仕える風の戦士の一人。ラルガに精気を吸われ、干涸らびている。ランスをラルガの屋敷まで案内した後は、用済みとばかりに蹴り飛ばされて気絶。一応、死んではいない。


[モンスター]
ラルガ
 四つ星レア女の子モンスター。サッキュバスであり、男の精気を吸い取って生きている。これまで二人の人間にしか敗れた事がなかったが、媚薬という卑怯な手段を使われてランスにも敗れてしまう。

ラルガのねこ
 全滅危惧種女の子モンスター。ラルガの忠実な部下であり、ラルガ様LOVEの猫耳少女。

金とり
 金色に輝く鳥モンスター。派手な見た目と違い、強さ自体は中の下といったところ。こかとりすと違い、あまり美味しくない。

人食いTOWNS
 頭がコンピュータのモンスター。雷撃で一撃死するため、初級魔法使いの経験値稼ぎとしてよく狩られる。

風の戦士
 志津香の部下。モンスターに属しているが、実は普通の人間の戦士である。

ストーン・ガーディアン
 魔法使いによって作られる岩石巨人のガーディアン。地面を岩で囲ってしまい、一度出会ってしまったら逃走することは出来ない。その厄介な性質に加えて強さも上級の部類に入るため、ランス3発売後のアンケートで嫌いなモンスター第一位に輝いた事があるほど。知らなかったのか、ストーン・ガーディアンからは逃げられない。


[装備品]
リーザス聖剣
 リーザスの紋章が刻まれた、王家に代々伝わる剣。その斬れ味もさることながら、実はリーザス国にある封印の間の鍵としての役割も担っている。

リーザス聖鎧
 リーザスの紋章が刻まれた、王家に代々伝わる鎧。防御力も非常に高いが、実はリーザス国にある封印の間の鍵としての役割も担っている。

くない
 かなみが常に懐に忍ばせている忍具。ルークが一本譲り受ける。大陸の武器屋には中々売っていないため、かなみは通販で購入している。10本500GOLDのところ、今なら手裏剣5枚もついてお値段据え置きのお買い得価格。


[アイテム]
赤い媚薬
 ラルガのねこがこっそり隠し持っていた媚薬。どんな相手でも敏感になるというとんでもない代物。リメイク作の「ランス02」ではなぜか『赤い香水』に変更されていた。だが、その後に発売されたランスクエストでは「媚薬で勝った」と明言されている。本作では後発作品であるクエストとの整合性を重視し、旧ランス2仕様の『赤い媚薬』にしております。ご了承ください。


[その他]
環状列石装置
 ストーンサークル。魔法陣よりも効果が高く、これを用いて志津香は時空転移を行った。

聖女モンスター
 神に作られた生命の母であり、全ての男の子、女の子モンスターのプロトタイプを生みだした四体の特殊な存在。四体はそれぞれ命、力、時、地に分類される。神に位置する存在であり、あまり広くは知られていない。ルークはとある女性から彼女たちの存在を聞いていた。

レア女の子モンスター
 一体しか存在しない特殊な女の子モンスター。死んでしまった場合は、別の場所に転生される。

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