ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第16話 祝賀会

 

-志津香の屋敷 二階 環状列石装置前-

 

「もうここにいる必要もないだろう。町に帰ろう」

「……そうね」

 

 両親の死に涙していた志津香がある程度落ち着いたのを確認し、ルークが町に戻るよう持ちかける。計画が失敗に終わった今、この場所に残っている理由もないため志津香もそれに素直に応じる。

 

「誘拐した娘たちは?」

「奥の部屋にいるわ。もう彼女たちに用もないし、一緒に連れて帰りましょう。それと、一応対等な協力関係だから、ルークって呼び捨てにさせて貰うわよ」

「ああ、別に構わんさ。こちらも志津香と呼ばせて貰う」

 

 ゆっくりと立ち上がりながら娘たちの居場所を素直に口にする志津香。となれば、残った問題は指輪だけだ。志津香の指に赤い指輪が填められているのを確認し、言いにくそうにルークが口を開く。

 

「その指輪なんだが……」

「ん、これ? ラギシスから貰ったとか、その辺の事情はもう知っているんでしょう?」

「まあな。それで、それは呪われたアイテムでな。それを身につけていると……」

「ああ、それなら知っているわ。ラギシスに貰って手に取った瞬間、呪われているってすぐに気がついたから」

「そうなのか!?」

 

 平然と答える志津香にルークが驚く。他の三人はまるで気が付いていなかった事を考えると、やはり志津香は頭一つ抜けた魔法使いなのかもしれない。

 

「ええ。で、こんなものを寄越したラギシスを怪しんで探ってみたのよ。そうしたら、奴がボロを見せたって訳」

「なるほど……指輪の秘密を知ったのは、全て偶然であった訳ではないという事か」

「まあね。それで、とりあえず私たちを利用するつもりだったラギシスを殺して、指輪はありがたく魔力増強に利用させて貰ったわ」

「そこまで判っていながら指輪を使ったのか?」

 

 得意げにそう話す志津香だったが、そこがルークには理解出来ないところ。指輪を受け取った瞬間に呪いに気が付いていたのならば、何故それを填めるような事をしたのか。その疑問に志津香が平然と答える。

 

「少しずつ魔力は吸われるけど、増える魔力はその比じゃないし、一時的に魔力ブーストするには十分役に立つわ。心が悪に染まるっていうのも、自分にガード魔法かければほとんど影響を及ぼさないしね」

「なんだって? それじゃあ、志津香は指輪の悪影響は殆ど受けていないのか?」

「そういう事」

 

 そう言って指に填められた赤い指輪をルークに見せてくる志津香。他の三人が付けていた指輪と同様に妖しい光を放っているが、志津香からしてみれば十分に自分の力で抑えきれるものであったようだ。聞くところによると、この指輪は外す際に装備者の魔力を大量に奪う仕組みになっているが、普段も微量ながらも少しずつ魔力を吸収しているらしい。だが、吸われる以上に増える魔力量が圧倒的に多いため、魔力増強装備としての効果は本物のようだ。ルークは顎に手を当て、最後に残った疑問を志津香に問う。

 

「志津香の言う通りなら、外す際には大量の魔力を持って行かれるんだろう?」

「ええ。体質にもよるけど、人によっては一生魔法が使えなくなってしまう程に魔力を持って行かれるわ」

「それでは、一生指輪を着けているつもりか? 指輪を外すには処女を失わなければいけない上に、大量の魔力を持って行かれるとなっては……」

「ん? 別に問題なく外せるわよ、これ」

「は?」

 

 矛盾した事を言う志津香にルークが思わず声を漏らす。志津香は自身の右手に魔力を集め、左手の中指に填めている指輪を右手でゆっくりと包み込む。淡い魔力が指輪を覆いきったのを確認した後、ゆっくりとその指輪を外していく。

 

「これは……」

 

 ルークがそう呟くのとほぼ同時に、指輪が完全に外れる。だが、志津香の体に異変はない。

 

「処女を失わなければ外せない、って呪いとしては低級なものよ。ちょっと魔力で覆ってやれば、認識阻害することなんて簡単に出来るわ」

「マリアたち、可哀想に……」

 

 志津香のその説明を聞いたルークが一番始めに思い浮かんだ感想はそれであった。が、志津香にとっては衝撃的な発言であったらしく、その目を見開いて声を荒げる。

 

「えっ!? マリア、処女を失っちゃったの? ランも? ミルも? まさか……あんたがやったの!?」

「処女を失ったのは事実だが、やったのは俺じゃない。ここにはいないが、俺の仲間のランスっていう男が全部やった。まあ、緊急事態だった訳だから責めないでやってくれ。それに、処女を奪えば指輪が外れるっていうのはマリアが教えてくれたんだぞ」

「……ちゃんと教えておくべきだったわね。悪いことしちゃったかしら」

 

 ルークをキッと睨み付けていた志津香だったが、その弁解を聞いて今度は自分の失態に眉をひそめる。時空転移装置を完成させることに躍起になっていた志津香は、他の三人への説明を怠っていたのだ。まさか自分たちを倒すほどの相手が来るとは思っていなかったというのもある。流石に友人の処女を奪う原因となってしまったのは責任を感じているのだろう。

 

「その辺は自分で謝るなりなんなりするべきだな。だが、三人とも自分への罰だと受け止め、それ程気に病んではいないようではあるぞ」

「……そう。まあ、自分で片付けておくわ。それじゃあ、話はこの辺にして町に帰りましょう」

「ああ。だが、その前に……」

 

 指輪をマントの裏地にあるポケットにしまいながらルークに向き直る志津香。が、目の前にいるルークがフッと自身の右拳に息を吹きかけたかと思うと、そのまま、ゴンッ、と志津香の頭にげんこつを落としてきた。帽子の上からなので衝撃は若干和らいではいるが、突然の暴挙と頭に走る激痛に志津香が声を荒げる。

 

「んっ……!? いきなり何するのよ!!」

「指輪の影響がなかったってことは、娘たちを攫ったのは素の状態でやったということだろう? いくら両親を救いたかったとはいえ、流石にそれは見過ごせないな。篤胤さんやアスマーゼさんだったら絶対に注意していただろうから、その代わりにな」

「……余計なお世話よ!」

「指輪のせいだったってことにしていいから、ちゃんと謝るんだぞ。町の人たちにもな」

 

 ふん、とだけ言って娘たちが捕らわれている部屋に向かう志津香。ルークもその後を追う。部屋は環状列石装置の近くにあり、扉を開けるとそこには裸の少女たちが十人前後いた。

 

「……お前の趣味か?」

「違うわよ! より生身に近い方が精気を奪いやすいだけで……ああ、もう、服を着せるからあんたは外に出ていなさい!」

 

 思わぬ同性愛疑惑に憤慨したのか、志津香がガシガシとルークの右足を踏みつけた後、部屋の外へとルークを押し出す。覗き見る趣味もないため、素直に外で待つことにする。と、ふいに部屋の中の会話が微かに耳に入ってくる。それは、志津香が彼女たちに謝罪をしている声であった。

 

「ふっ……」

 

 文句を言いながらもしっかりと謝れる辺り、根は悪い子ではないようだと考えるルーク。ほどなくして、着替え終わった娘たちを連れた志津香が部屋から出てくる。

 

「終わったわ。さ、帰りましょう。帰り木は持っているの?」

「ああ。ん? あれは……」

 

 町へ帰還するため帰り木を道具袋から取り出したルークだが、向こうの方から誰かがこちらに駆けてきていることに気が付く。しかも、何か大声で叫んでいる。目をこらしてよく見れば、それはランスとシィルであった。

 

「ルークぅぅ!! 貴様、そんなに美少女を侍らして何をしてるかぁぁ!? この世の美女は全て俺様のものだぁぁ!!」

「……なにあれ?」

「……あれがさっき話した、俺の仲間のランスだ。まあ、根は悪い奴じゃないんだがな」

 

 厳重な警備に足止めされていたランスがようやくここまで到着したのだ。ルークの前で急ブレーキし、キョロキョロと娘たちを見回すランス。後ろではシィルが息を切らしている。

 

「で、どの娘が志津香だ? まさかとは思うが、抜け駆けしていないだろうな?」

「私だけど」

「おお、性格はきつそうだが美女ではないか。グッドだ! ……ん?」

 

 そう言って手を上げる志津香。他の三人に負けず劣らずの美女であった事にランスは気分を良くし、イヤらしい目つきで志津香をジロジロと見回す。だが、ある事に気が付いて眉をひそめる。右手にも左手にも、志津香は指輪をしていないのだ。

 

「な、な、な!? ルーク、貴様俺様を出し抜いて志津香の処女を奪いやがったな!?」

「えっ……!? あ、志津香さん、指輪をしていません!」

「はっ、まさか……周りの娘たちも一緒にハーレム行為に及んでいたのでは……貴様、覚悟は出来ているな!?」

 

 そう言いながら剣を抜くランス。ルークがため息をつき、隣では志津香が汚らしいものを見るような目をしている。

 

「……これで根は悪くないとか正気? こいつ、頭大丈夫なの?」

「ま、これも味があるというかなんというか。ランス、剣を仕舞え。指輪は処女を失う以外の外し方がちゃんとあったんだ。俺は手を出してないから安心しろ」

「む、そうなのか? がはは、ならば俺様が志津香の処女をゲットして四魔女コンプリートだ」

 

 親指を人差し指と中指の間から突き出した卑猥な形の拳をグッと志津香に向けるランス。志津香の視線がますます冷たいものに変わる。

 

「……あんた、友人は選んだ方が良いわよ」

「ふむ……悪い奴ではないんだがな……」

「英雄の俺様に抱かれることを泣いて感謝するがいい。とうっ!」

「粘着地面」

「んがっ!!」

 

 志津香に飛びかかろうとしたランスだったが、何故か跳び上がる事が出来ずに盛大にこける。志津香の魔法により、その両足が粘着性の地面にくっついてしまったのだ。更に、こけた拍子に今度は全身が地面とくっついてしまい、剥がれなくなってしまう。

 

「んが……なんだこれは!? くっついて取れんぞ!」

「これだけ粘着性のある粘着地面は初めて見ました……って、ああ、ランス様! 今剥がします!」

 

 ランスが粘着地面の上でジタバタともがくが、動けば動くほど余計に体がくっついてしまい、身動きがドンドン取れなくなってしまう。シィルが慌てて駆け寄るのを横目に、志津香はルークの方を振り返って清々しい顔で口を開く。

 

「さ、馬鹿は放っておいて帰りましょう」

「……ま、娘さんたちを送り届けないといけないしな。剥がすのに時間も掛かりそうだし、悪いが先に帰るとするか。シィルちゃん、頑張ってな」

 

 ランスの体を地面から剥がそうと頑張るシィルにそう言い残し、帰り木で町まで帰還してしまうルークたち。ワープする直前、志津香がルークにだけ聞こえるように呟いた。

 

「後でさ……両親のこと聞かせて貰える?」

「ああ、勿論」

「こら、勝手に帰るんじゃない! いたた、シィルもっとゆっくり剥がせ、バカ!」

「ランス様、動かないでください。余計外せなくなってしまいます……」

 

 取り残されたランスとシィルの声だけが辺りに空しく響いたのだった。

 

 

 

-カスタムの町 第二祝賀会会場-

 

「さあ、じゃんじゃん飲んで! 今日は全部奢りだよ!」

「いえーい! 今日はガッポリ飲んで、飲み溜めしておかないとね!」

 

 その晩、事件解決を祝して町を挙げての祝賀会が催された。こちらは酒場を利用した臨時の第二会場。町長の屋敷には沢山の人が集まりすぎて中に入りきれないため、あぶれた人たちはこちらで飲み明かしていたのだ。エレナの声に酒場中が盛り上がる。中でも一際はしゃいでいるのは神官のロゼであった。

 

「はい、おかわり持ってきましたよ。AL教の神官なのに、そんなに飲んじゃって大丈夫なんですか?」

「へーき、へーき! 別に酒は禁止されてないもーん」

 

 ジョッキを片手に持ちながら平然とエレナに返事をするロゼ。彼女の神官としての適当さはカスタムの住民には十分知れ渡っているため、特段驚いている者もいない。

 

「まさかラギシスの奴が元凶だったとはな」

「まあ、俺は初めからマリアちゃんたちのことは信じていたけどな」

 

 酒場のあちらこちらからそんな声が聞こえてくる。グイ、とジョッキを傾けながら苦笑するロゼ。先日まであの娘たちを許すなと言っていたのはどこの誰だったか。勿論、本当に彼女たちを信じていた住民がいる事は知っている。だが、住民全員が彼女たちを信じていた訳では無いのも事実。

 

「(ま、私もそれに突っ込みを入れる程純粋な人間じゃあないけどね……)」

 

 AL教の神官という仕事柄、普通の人よりもこういった人間の業のようなものを目の当たりにする機会も多いロゼ。この状況に辟易する程、純粋な心の持ち主でもない。とっくにこんな光景には慣れてしまっている。

 

「エレナ。あんたは町長の家の方に行かなくてもいいの? マリアたちはそっちにいるんでしょう? 店なんか店長に任せて、遊んで来ちゃえばいいのに」

「ふふ。店長にも行って良いよって言われたけど、今はなんか働きたい気分なの。平和な状態で働ける事がこんなに嬉しい事だなんて思わなかったわ」

「ああ、なんて良い娘なんでしょう。よよよ……」

「あはは……ロゼさん、わざとらしすぎ……」

 

 ロゼが大げさに泣く仕草をするが、明らかに演技であるためエレナは苦笑するしかなかった。

 

「それで、全ての元凶はラギシスだっていうのは聞いたけど、町を地下に沈めたのは一体どういう理屈だったの? 相当な大魔法でしょ?」

「いやー……私も魔法の規模とかそういうのはちょっと判らなくて……でも、なんか四つの指輪で魔力を増幅したとかどうとか……」

 

 ポリポリと頭を掻きながら答えるエレナ。ロゼが酒を口に含み、何かを思案した後に言葉を続ける。

 

「ふーん……それで、その指輪は?」

「確か、ランスさんが持っているはず……だったかな?」

「……後でちょっと第一会場にも行ってみるか。とりあえず、おかわり!」

「早っ!?」

 

 

 

-カスタムの町 第一祝賀会会場-

 

「……こうして闇は取り払われた。全てが円満に解決したとは言えぬ。失った命もある。だが、この苦難を乗り越え……」

「お父様、もう誰も聞いていません……」

「なんと!?」

 

 町長の屋敷には酒場以上に大勢の人が集まっていた。壇上では町長のガイゼルが何やら語っているが、殆ど誰も聞いていない。ガイゼルの演説が長すぎたというのが理由の一つ、そして、もう一つの理由はこのパーティーの主役は別の人物であったということだ。

 

「がはははは! 酒だ、酒だ! ドンドン持ってこい!」

 

 会場の一角に人だかりが出来ている。その中心にいるのは、ランス。四人の魔女たちを倒し、町の封印を解き、四魔女たち自身や攫われた少女たちを無事に救い出したのだ。町中の人たちがランスとルークに感謝しており、会場には『ランスさん、ルークさん、ありがとう記念! カスタムの町復興祝勝会』と書かれた垂れ幕がかけられていた。その下にはリーザス国提供と書かれた花輪が飾ってある。どうやらこの祝賀会にはリーザスも金を出しているらしい。だが、その王女様一行の姿が見えない。

 

「まだ半分ほどだったというのに……これからチサが生まれてからこれまでの事を語り尽くそうと思っていたのに……」

「お、お父様……」

「それは止めて正解だったな」

「あ、ルークさん。すいません、恥ずかしいところを……」

 

 とぼとぼと意気消沈で壇上から降りてくるガイゼルと、恥ずかしそうに連れ添っているチサ。その二人にルークが近寄っていき、話しかける。

 

「む? ルーク殿の周りにはあまり人が集まっていませんな」

「ランス曰く、下僕一号だからな。まあ、ランスには人を惹きつける物があるから、自然とあちらに人が集まるさ」

 

 ルークが苦笑するが、あまり今の状況を悪くは思っていない。正直なところ、あまり人に囲まれていない方が今回世話になった人たちに挨拶回りをしやすいからだ。

 

「ところで、リーザスの三人は?」

「なにやら緊急の案件が国で起きたらしく、既に帰国してしまいました。王女様は最後まで駄々をこねていましたが、侍女の方がなんとか説得して……」

「その光景が目に浮かぶよ……」

「エレナ君曰く、女忍者の娘もどこか寂しそうだったと言っていましたよ」

 

 ルークの脳裏には、リアが床に寝そべって駄々をこねる姿がハッキリと浮かんでいた。マリスとかなみは災難だったろうにと、心の中で手を合わせる。

 

「さて、主役様とでも話してくるかな」

「あ、私も行きます。お父様は……」

「当然行くに決まっている! ランスの奴はチサを狙っているからな、がるる……」

 

 牙を剥き出しにして吠えるガイゼル。厳格な町長とは一体何だったのかと言わざるを得ない。

 

「ランスさん、ありがとうございます」

「貴方はこの町の恩人です」

「うむ、俺様は英雄だからな。お、そこの君、こっちに来て恩人の俺様に感謝するのだ!」

 

 ルークたちがそちらに近寄ると、ランスが上機嫌に騒いでいた。町に戻ってきたランスは志津香の処女を奪い損ねた一件でルークに文句を言ってきたが、この見事な祝勝会で機嫌を取り戻したようだ。

 

「ランス様、へんでろぱ取ってきました。お酒もお注ぎしますね」

 

 シィルは甲斐甲斐しくランスのコップにお酒を注いでいる。実はこの酒、少し薄めてある。というのも、ランスはあまり酒に強くないため、普通に飲んでいるとすぐに悪酔いしてしまうのだ。ランス自身はどちらかというと格好付けのために酒を飲んでいるところがあり、酒の味はあまりよく判っていない。そのため、普段からシィルが酒を薄めていることに気が付いていないのだ。相変わらず献身的な娘である。

 

「あ、ルークさんもどうぞ」

「ありがとう、シィルちゃん」

 

 ルークたちの姿に気がつき、シィルが酒瓶を持ったままルークへと近寄ってくる。ルークはグラスを差し出しながら、ランスに聞こえないような小さな声でボソリと呟く。

 

「……俺の酒は薄めなくて大丈夫だからな」

「……知っていらしたんですか。どうかランス様には……」

「大丈夫。そんな野暮なことはしないさ」

 

 シィルに酒を注いで貰い、壁に背を預けながらグラスを傾ける。真犯人であるラギシスの姿が未だ消えたままというのは気になっていた。だが、町の人たちが事件の解決を祝して開いてくれたこの場に水を差す訳にもいかない。悪酔いしすぎない程度に軽く酒を飲みながら、会場を見回す。町の人たちはみな一様に笑顔であった。

 

「(こういう光景を見られるのも冒険者稼業の利点だな……)」

 

 ルークがそんな事を考えていると、人だかりを掻き分けてこちらに近づいてくる集団が見える。それは、今回の事件で特に関わりの深かった人たち。マリア、志津香、ミリ、ミル、ラン、トマト、真知子といった人々だ。真っ先に声を掛けてきたのは、最も関わりの深かったマリアとミリだ。

 

「やっほー。みんな連れてきたわよ」

「よっ! 妹のこと、ありがとうな。感謝しているぜ、ランス、ルーク」

「ほう。なんだマリア、ちゃんと着替えればそれなりに美人ではないか」

「もう、それなりって何よ……」

「ミリさん……す、凄い服ですね」

「ま、見せるもんは見せないとな」

 

 メガネを外し、白いドレスに身を包んだマリアは普段の格好とのギャップが激しかった。ランスの言ったとおり、普段からこの姿ならば多くの男性が彼女に惹かれる事だろう。その隣に立っているミリは、胸元が大胆に開いたドレスを着ている。思わずシィルが直視してしまう程のボリュームだ。ランスが鼻の下を伸ばしながらミリの胸元を見ていると、とてとてとミリの後ろから出てきたミルがランスに近づいてくる。

 

「ランス、今回は本当にありがとうね」

「うむうむ、俺様に感謝しておけ。ミルは10年……いや、5~6年後にまたやらせろ」

「今してもらっても……いいのよ? うふふ……」

 

 セクシーな流し目をランスに送るミル。どうやらすっかりランスに懐いてしまったらしい。

 

「いらね」

「がーーーん!!」

「ばっさりだな。ま、いるって言うのも問題だが」

 

 ランスにその気が無かった事に少しホッとするルーク。すると、ミルがショックを受けているのに苦笑していたミリがルークに向き直って口を開く。

 

「ルーク、ちょっといいか?」

「ん? なんだ?」

「少し聞きたいことがあるんだ。後でいいから、俺とあっちで飲まないか? なに、ほんの少しでいいんだ」

「別に構わないぞ。ちょっと待っていてくれ、他の人にも挨拶を済ませないとな」

「ああ。終わったら声を掛けてくれ」

 

 ミリがルークを差し飲みに誘ってくる。思わぬ人物からの誘いに驚きながらも、特に断る理由も無いため、他の人への対応を済ませてからならとそれに応じるルーク。

 

「いい加減観念してチサちゃんの処女を俺様に寄越せ!」

「ならん、ならん、ならん!! どうしてもと言うのならば、この私を倒してからにして貰おうか!」

「……本当に良いのか? 二秒で倒せるぞ?」

「……ちょっと待て、今のはつい勢いで言ってしまっただけだ。だから剣を抜くな!」

 

 ランスはガイゼルとチサの処女を巡って口論している。というよりは、じゃれ合っている。なんだかんだで相性が良い二人なのかもしれない。ルークがそれを横目で見ていると、こちらにはトマトと真知子が寄ってきた。

 

「ルークさん、お疲れ様ですかねー? ルークさんに剣の見込みあるかもって言われたんで、私も今冒険者目指して頑張っているんですかねー?」

「トマトさんか、相変わらずの話し方だな。本当に修行を始めたんだな」

「はい! 昨日は剣の素振りを五回もしたんですよ?」

「……先は長そうだな。まあ、頑張れ」

 

 目の前で素振りのポーズを取るトマト。だが、あまりにも少ない回数を聞いたルークは、下手な事を言ってやる気にさせてしまったかと少し申し訳無く思っていた。そんなルークの横に真知子が立つ。

 

「聞いていましたわよ、ルークさん。ミリさんの後でいいので、私ともお酒を付き合って貰えるかしら?」

「どれ位掛かるか判らないから、その後でも良いなら……」

「ええ、待っていますわ。必ず声を掛けてくださいね」

 

 トマトと真知子の二人とそういったたわいもない話をしていると、今度はランが話しかけてくる。ランスも丁度ガイゼルとの話が終わったようで、二人でランに向き直る。

 

「ルークさん、ランスさん。本当にありがとうございました。私がしたことは許されることではないですが、お二人のお陰でこうして町の人たちにも受け入れられ……」

「あー、あー、あー、酒が不味くなる。辛気くさいのはナシだ」

「俺もランスに賛成だな。長話は町長だけで十分だ」

「……そんなに長かったか?」

「お父様……その……ノーコメントでお願いします……」

 

 深々と頭を下げてくるランだったが、ランスとルークはその言葉を拒否する。それでも納得のいっていない表情をしていたため、ルークはランの顔をジッと見ながら諭すような口調で言葉を掛ける。

 

「ラン、君は普段からもっと明るくしていた方がいいぞ。その方が今よりもっと魅力的だ」

「えっ……あっ……ありがとうございます。が、頑張ります……」

「こら、俺様の女を口説くな」

「ん? 別に口説いたつもりはないが……」

「というか、勝手にランを自分の女にしないの、ランス」

 

 ランスに苦言を呈すマリア。その足下には、何故かグデグデに酔っ払った志津香が寄りかかっていた。白いドレスの肩紐がずれ、もう少しで服がはだけてしまいそうな状況だ。真っ赤な顔にだらしなく緩みきった頬。先程までのきりりとした姿とのギャップにルークが驚いている中、マリアが優しく微笑みながら口を開く。

 

「本当にありがとうね、ランス、ルークさん。二人がいなかったら、もっと大変なことになっていたと思う。あっ、もちろんシィルちゃんもね」

「うむ、当然だな。たっぷり感謝しておけ」

「マリアさんたちもこれから町の復興で大変だと思いますが、頑張ってください」

「うん。ありがとう、シィルちゃん」

 

 ランスが腰に手を当てながらふんぞり返り、シィルが嬉しそうに笑みを浮かべながら町の復興を応援する。ルークも気の利いた言葉の一つでも掛けてやりたいところだったが、どうしても志津香が気になってしまう。

 

「ところで……志津香はどうしたんだ?」

「あははははは、あははははは!」

 

 ルークがマリアに問いかけた瞬間、ゲラゲラと大笑いする志津香。どうやら笑い上戸らしい。額から汗を垂らしながらマリアが困ったようにその問いに答える。

 

「あはは……やけ酒を一気に飲んだらこうなっちゃった……」

「まあ、飲みたくなる気持ちも仕方ないか……」

 

 復讐という次の目標を見つけたとはいえ、両親を救い出せなかったのは事実。それをすんなり受け入れられるには、志津香はまだ若い。こうなってしまうのも無理もないことだ。

 

「あははははは、殺してやる、ラガール。あはははは!」

「その……あんまり見ないであげてください……」

「それは難しいな。実に良い笑顔だ」

 

 物騒な事を言いながらも真っ赤な顔で上機嫌に笑い続ける志津香。その志津香の顔を見ながら、ルークは静かに笑みを浮かべる。

 

「(こうやって無邪気に笑っていると……本当にアスマーゼさんにそっくりだな……)」

 

 ルークが少し昔を懐かしんでいると、ポロリと志津香の懐から何かが床に落ちる。それを目ざとく見つけたランスが拾い上げると、それはフィールの指輪であった。

 

「お、ラッキー。これで四つの指輪をコンプリートだ! 高く売れるかもしれんな」

「絶対に売るなよ。それと、ちゃんと後で返しておけよ」

 

 他の三人の指輪は処女を奪った際にランスが取り上げていたため、これで四つの指輪は全てランスが所有している形となる。いくらで売れるかとはしゃいでいるランスに一応忠告をしておくルーク。だが、ランスがそれをちゃんと聞いているかは微妙なところであった。やれやれとルークがため息をついていると、マリアが志津香の肩に手を乗せながら口を開く。

 

「志津香、ちゃんと口にはしないけど感謝していましたよ。ご両親のことを聞けて……」

「たいした事はしていないさ……それに、俺も志津香と会えて嬉しかったよ。篤胤さんとアスマーゼさん、二人の娘と出会えてな……」

「ルークさん……」

 

 祝賀会が始まる少し前、ルークは約束通り志津香に両親の話をしてあげていたのだ。町の住人たちから聞いていた話とはまた違う、少しとはいえ一緒に暮らした者の視点から見る両親の話は志津香には新鮮であり、口にはしないが確かに両親を感じ取れたことに感謝していたのだ。だが、それはルークも同じ事。あの日、アスマーゼのお腹の中にいた子供とこうして出会えたのだ。篤胤とアスマーゼの残したものが、こうしてしっかりと育っているのだ。少し感慨深げに思いながらも、志津香のはだけそうな服がいい加減目についたルーク。このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。

 

「ほら、志津香。ここで寝ると風邪引くぞ。服もちゃんと直せ」

「あはははは、ルーク! しっかりと手がかり見つけなさいよ-!」

 

 志津香を起こそうとしたルークに正面から寄りかかってくる志津香。見ようによっては抱き合っているような状態が出来上がる。瞬間、パシャッとフラッシュ音が響いた。そちらに視線を向けると、そこには金髪の少女がカメラをこちらに向けて立っていた。

 

「やー、やー、やー。どうも、写真家のぺぺって言います。いやー、良い写真を激写してしまいましたね。今度ゼスのお抱え写真家オーディションがあるので、それに投稿させて貰いましょう」

「流石に可哀想だから止めてやってくれ」

 

 こんな姿の写真を世間に晒されては、プライドが高いであろう志津香にとってはとんでもないダメージになるだろう。ルークがやんわりとそれを止めるが、ペペはカメラを抱きかかえて首を横に振る。どうしたものかと考えていると、ゼスという単語である人物の顔が浮かぶ。

 

「ゼスで写真家をやりたいのか?」

「はい、ゼスで写真家としてのし上がり、ゆくゆくは世界を股に掛ける美人写真家になるのが私の夢なんです!」

「そうだな……ゼスの結構偉い軍人に知り合いがいるから、今度紹介してあげよう。だから、その写真は決して投稿しないこと。どうだ?」

「わふー! こいつはラッキー。オーディションを受けるよりもよっぽどチャンスですぜ! ぜひお願いしますね。これ、私の連絡先です」

 

 ペペ・ウィジーマという名前と自身のイラストが印刷された名刺を手渡してくるペペ。ひっくり返すと、連絡先が書かれていた。それを道具袋に仕舞うルーク。これはあの男に一つ借りが出来てしまいそうだ。

 

「では皆様ご一緒に、ラストに一枚! パシャリンコッコッコ!」

 

 今度はルークと志津香だけでなく、ランスとシィル、マリア、ラン、ミリ、ミルにトマト、真知子、チサも含めた全員の集合写真を撮る。突然ではあったが、笑ってピースするランスと女性陣。ガイゼルは運の悪いことに見切れてしまっていた。穏やかな時間が過ぎていった。

 

 

 

-カスタムの町 祝賀会会場外-

 

「それで、聞きたい事っていうのは?」

 

 あれから小一時間、ルークとミリは会場から出て、夜風に当たりながら酒を飲んでいた。会場内の喧騒がほんの少しだけ聞こえてくるのみで、町の灯りも町長の家と酒場以外はほとんど消えてしまっている。中々に風情のある静かな夜であった。

 

「別にたいしたことじゃないんだ。俺がちょっと気にかかっただけなんだが……」

 

 ルークの問いにミリが頭を掻き、持っていたグラスを傾けて酒を口に含む。ゴクリとそれを喉に通した後、ミリはゆっくりと口を開いた。

 

「ルーク、あんた、妹がいるんじゃないかい?」

「……どうしてそう思った」

「迷宮で初めて会ったときにさ、俺が妹を放っておけないって言ったとき、ちょっと表情が変わっただろう? まあ、それが気になっただけで、後はただの勘さ。妹を持つ身としてのね」

 

 そう笑いながら酒をもう一口くい、と飲むミリ。普段の立ち振る舞いからはあまり想像できないが、ミリは周りをよく見ており、中々に鋭いところもある。だからこそ、ルークの微妙な反応に気が付いたのだろう。ルークもグラスを傾けて酒を喉に通し、その問いに答える。

 

「そうだな。双子だが、妹がいる。いや……正確には、いた……だな……」

「……悪いことを聞いちまったかねぇ」

「気にしなくていいさ。死んだのは二年前で、俺もあいつも成人してからだ。それよりも、冒険に明け暮れて碌に家にも戻らず、妹が死んだことを一年以上も後になって知った馬鹿な兄貴が問題さ」

 

 ルークが目を瞑ってあの日の事を思い返す。キースから妹の死を知らされた日の事を。

 

「こんな風にはなるな。ミルを大切にしてやれ」

「そうだったのかい……悪かったね。ま、俺は大丈夫さ。言われなくても、ミルのことは大事に育てるよ」

 

 結局、かつて魔想の屋敷で数日の間生活をした四人の内、二人がもうこの世にはいないのか、と感傷に浸る。いや、恐らくアスマーゼも既に生きてはいないだろう。ルークも、志津香自身もそれはなんとなく感じている事であり、事実アスマーゼはもうこの世にはいない。となると、生き残っているのはルークただ一人。

 

「(いや……一人ではないか……志津香がいる……)」

 

 あの日、魔想の屋敷にいたのは四人ではない。アスマーゼのお腹の中にもう一人、確かに存在していた命。となれば、彼女を絶対に死なす訳にはいかない。それが、恩人である魔想夫妻へ出来る唯一の恩返しなのだから。

 

「……んっ?」

 

 気が付けば、ミリがスッとグラスをルークの目の前に差し出していた。

 

「乾杯し直しといこうじゃないか。亡くなった妹さんにな」

「悪いな。それと、ミルの成長と……迷宮で命を落としたミリの三人の仲間にもな」

 

 ミリの差し出したグラスに、ルークは自分のグラスを当てる。カラン、という音が静かな夜に響く。

 

「やっぱいい男だな、あんた。俺を抱く気はないかい? 真知子との酒が終わったら、俺の部屋に来ないか?」

「魅力的な誘いだが、断っておくよ。ランスでも誘ってくれ」

「ランスはなぁ……体力は凄いんだが、テクニックがまだまだなんだよなぁ……」

「もうヤッてんのかよ……いつの間に……」

「ぷっ……ははっ……」

「ふっ……」

 

 空気を変えるため、あえてそういった話題にシフトしたミリ。ルークもあえてそれに乗り、二人で笑いながら酒を煽る。そういえば、この後酒を飲む約束になっている真知子も妹持ちである。リーザスで無理をして助けたデル姉妹もだ。知らず知らずのうちに、兄妹、姉妹という存在に惹かれているのかも知れないな、と酒を飲みながらルークは考えていた。

 

 

 

-カスタムの町 第一祝賀会会場-

 

「んー……」

「ミル、眠い? 家まで送っていこうか?」

「んー……お姉ちゃんが戻ってくるまで待ってる……」

「もうそろそろ戻ってくると思うから、そうしたら一緒に帰りましょう」

 

 ミルが眠そうに目を擦っているのを見てマリアが心配そうに声を掛けるが、ミリが戻ってくるまで待っているとの事。ルークとミリが外に出ていってそろそろ良い時間になるため、いい加減戻ってくるはずである。ランがそうミルに告げ、自身の方に抱き寄せる。そのとき、ホールの扉が開いた。ルークとミリが戻ってきたのかとそちらに視線を向ける一同だったが、そこに立っていたのはロゼ。

 

「あら? ロゼさん、酒場の方で飲んでいたのでは?」

「ちょっと用事があってね。あれ、ランスとルークは?」

「ルークさんは外でミリさんと飲んでいるですかねー? ランスさんは……あれ、さっきまでいたはずですかねー?」

「あれ、本当だ、いなくなってる。シィルちゃん、ランスはどこにいったか知らない?」

「すいません……丁度お手洗いに立っている間にいなくなられていて……」

 

 きょろきょろと会場中を見回すマリアたち。だが、どこにもランスの姿が見えない。見えるのは楽しんでいる住人、爆睡しているガイゼルと志津香の姿のみだ。

 

「ま、いないなら良いわ。それじゃあ、伝言だけよろしく」

「伝言?」

「そう。フィールの指輪なんだけど、帰る前に私に渡してって伝えておいて」

「なんでロゼさんが……はっ!? ま、まさか、売る気ですかねー!?」

「そう、そう、裏で捌けば10万GOLDくらいには……って、そうじゃないわよ。危険な代物だから、AL教で回収しようと思ってね」

「AL教で?」

 

 マリアが首を傾げる。何故そこでAL教が出てくるのか。

 

「聞いた話によると、滅茶苦茶危ない代物なんでしょう? そういうアイテムはAL教が回収して、悪用されないように厳重に保管しておいてくれるのよ」

「へー……流石はAL教ね」

「(まあ、AL教が悪用する可能性はありそうだけどね。うさんくさい組織だし……)」

 

 自身が所属する団体だというのに、心の中でとんでもない暴言を吐くロゼ。大陸最大の宗教団体、AL教。その組織の闇を知る者は少ない。

 

 

 

-カスタムの町 第一祝賀会会場 チサの部屋-

 

「ぷひー、えがっだ……」

 

 ランスは祝賀会の会場としている町長の家のホールを抜けだし、チサの部屋のベッドで横になっていた。ルークが出て行ったすぐ後、チサがランスを自分の部屋に誘いに来たのだ。まだチサの処女を奪っていなかったランスはこれを承諾。チサの部屋に着くや否や情事に入り、それを終えた今はベッドの上で脱力感に身を浸らせていた。

 

「しかし、チサちゃんの方から誘ってくるとはな」

「町を救って頂いたほんのお礼です。本当にありがとうございます」

「なぁに、気にしなくて良い。俺様は英雄だからな。ちょっとした行動でも誰かを救ってしまうのだ。がはは!」

 

 上機嫌に笑うランス。ガイゼルが邪魔でずっと手を出せなかったチサとようやくHが出来たのだ。上機嫌にもなろうというもの。

 

「あの、ランス様。その指輪、つけてみても良いですか?」

「ん? あー……別に良いぞ。魔法使いでも処女でもないチサちゃんがその指輪をしたところで、何の意味もないからな」

 

 チサがランスの服の側に置いてあったフィールの指輪を指さす。ランスが少しだけ思案したが、呪いの発動条件は処女であること。効果は魔力の増幅。どちらもチサとは関係の無い事だ。H後で上機嫌だったこともあり、ランスは難なくそれを許可してしまう。

 

「それじゃあ、つけてみますね」

 

 左手の指に四つの指輪を填めていくチサ。てっきり一つだけつけてみるのかと思っていたランスは、意外と大胆なところもあるのだなと驚く。キラリと妖しく光る指輪をこちらに向けてくるチサ。

 

「うむ、似合っているぞ」

「そうですか……ふふ……ふふふ……」

 

 すると、突然チサがおかしな笑い声を出す。ランスが訝しげにチサの顔を見ると、その目は正気を失っていた。

 

「ふふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふ」

「……チサちゃん?」

「ふふふ、くくく、ありがとう、ランス君。私からも礼を言おう!」

「なにぃっ!? ぐがっ……」

 

 この場にいないはずの初老の男の声が響く。それと同時に、ランスは金縛りに襲われ動けなくなってしまった。なんとか必死に動こうともがくが、体はピクリとも動かない。だが、動かなければいけない。なぜなら、ランスは部屋に響くこの声に聞き覚えがあったからだ。すると、正気を失っているチサの後ろに、その男の姿がゆっくりと浮かび上がる。青白く光った、初老の魔法使い。

 

「てめえ……その声は生きてやがったのか!? ラギシス!!」

「ふはははは! 久しぶりだな、ランス」

 

 それは、全ての元凶である魔法使い、ラギシスであった。身動きの取れないランスを見下ろしながら、ニヤリと口元を歪める。

 

「この娘が行方不明になったことがあっただろう? そのときに内側に潜ませて貰っていたのだ」

「ちっ、この変態野郎が!」

「くくく、結果は上々だ。こうして私の元に指輪を持ってきてくれたのだからな!」

 

 いつの間にかチサの指から指輪が外れており、ラガールの周りに四つの指輪がプカプカと浮いていた。出し抜かれた事に憤慨するランス。

 

「てめぇ、そこを動くな! 今ギッタギッタにしてやる!」

「ははは、それは恐ろしい。感謝の意を込めて君は生かしておいてやろう。さらばだ、ランス。はっはっはっは!」

 

 そう言い残し、勝ち誇った笑いを浮かべながら四つの指輪と共に姿を消すラギシス。部屋には金縛りの解けたランスと、気絶しているチサだけが残されていた。

 

 




[人物]
ぺぺ・ウィジーマ
 世界を股に掛ける写真家を夢見る少女。思わぬ形でゼスとのパイプが出来そうで上機嫌。撮った写真はちゃんと写っている全員に渡しました。志津香にツーショット写真を渡した際、ネガを燃やすから寄越せと追いかけられる羽目になったりした。


[技]
粘着地面
 一定サイズの地面を粘着質にして相手の動きを止める初級魔法。術者の能力次第で効果範囲や粘着度に差が生まれ、ある程度の術者であれば戦闘支援魔法としても優秀な魔法となる。


[その他]
GI0998 ルーク、カスタムの町を訪れ魔想夫妻の世話になる
GI0999 志津香誕生 直後、篤胤は殺され、アスマーゼは攫われる
GI1006 ルーク、行方不明になる
GI1014 ルークの妹、死亡
GI1015 ルーク帰還、妹の死を知る その数日後、元号がLPへと変化する
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