ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第171話 捕らわれのアベルト

 

-アイスフレーム拠点 本部-

 

 アイスフレームの本部には今、各隊の隊長・副隊長が集結していた。だが、人数が足りない。ブルー隊の姿がそこにはないのだ。そんな中、サーナキアが外にまで聞こえるのではないかというくらいの大きさで言葉を発する。

 

「ブルー隊が捕まった!?」

「はい……」

「アベルトの隊か。馬鹿め、ドジったな」

 

 沈んだ様子のウルザ。ランスは鼻を鳴らしてアベルトのミスだと指摘するが、カオルは対照的に驚いた様子だ。アベルト率いるブルー隊は諜報活動を主としている。最前線に立つ訳ではないが、時には危険も多く付きまとう。しかし、隊長であるアベルトはペンタゴン時代からそんな任務を多くこなし、毎回生き延びてきたのだ。生きる事に関しては、アイスフレーム内でもかなりのものと言えよう。

 

「ブルー隊が簡単に捕らえられるとは考えにくいのですが……」

「ブルー隊が何故捕らえられたのかという詳細は判りませんが、マジノライン第8区のふもとにある簡易収容所に捕らえられているという情報が入ってきています」

「そういえば、少し前に第12貧民村に向かっていたな。あの任務で失敗していたのか」

 

 ルークが共同銀行の調査を引き受けた際の会話を思い出す。アベルトはあの時、マジノラインの近くにある貧民村へと向かっていたはず。マジノラインに捕らえられているという事は、その任務で何かあったのだろう。すると、ウルザが静かに頷いた。

 

「危険が伴う任務だとは思っていたのですが、アベルトならば大丈夫だとばかり……もっと多くの隊員を送っていれば……私の判断ミスです……」

「ウルザ様のせいじゃありません!」

「そうです。そう気を落とさずに……」

「…………」

 

 明らかに気落ちした様子のウルザをサーナキアとカオルが必死に慰めている。そんな姿を冷やかな目で見ているのは、アベルトの父であるダニエルだ。ルークはその態度が気に掛かったため、少し訝しむ様子でダニエルに視線を送る。特段変わった様子はない。ダニエルはいつも通りだ。

 

「(だからこそ、おかしい……息子が捕まったんだぞ……)」

「数日後には首都に送られてしまうため、迅速な救出が不可欠です」

「それでボクたちを集めたんですね! 任せてください、全部隊で必ずアベルトを……」

「いえ、救出に向かう部隊は一つだけです」

 

 サーナキアがドンと自身の胸を叩いて任務の成功を約束しようとするが、その言葉を言い切る前にウルザが言葉を発した。思わず目を丸くするサーナキア。

 

「えっ……? それはどうして……?」

「いや、妥当な判断だな。マジノラインはゼスにとって首都と並んで最も重要な施設だ。いや、ゼスだけじゃない。人類にとってもな」

「その警備体制は最高レベル……そんな場所に何十人もぞろぞろ行くのは得策じゃない……」

「ですが、数名であればそこまで怪しまれる事はありません。マジノラインは本来立ち入り禁止区域ですが、つい入ってきてしまう観光者は多いんです。警備員もそういった人には慣れているでしょうから、少人数かつ短時間での救出活動ならば怪しまれずに遂行が可能だという事です」

「な、成程……」

 

 ルーク、セスナ、カオルから立て続けに説明を受け、少し顔を赤らめながらも納得するサーナキア。だが、知識の無さに関して彼女を責めるのは酷だろう。彼女は200年以上も闘神都市で石にされており、それを解除されてからまだ一年とそこらしか経っていないのだ。

 

「そうなると、マジノラインの地形に少しでも詳しい部隊の方が良いか?」

「そうですね……地図はありますが、実際に行った事のある人がいる部隊の方が適任でしょう」

 

 今回の任務で最も要求されるのはスピードだ。本来はブルー隊が適任なのだが、今はそのブルー隊の隊長が捕らえられてしまっている。

 

「ボクは行った事がない。隊員に確認を取ってみるかな……」

「そうだな……」

「あんまり気乗りせんな。男を助けても面白くない」

「そんな……アベルトは仲間です。それに、ダニエルの息子なんですよ……」

 

 ランスのあんまりな物言いにウルザが悲しそうにするが、当のダニエルはそんなウルザの言葉に反応せず、どこか上の空であった。不思議そうにダニエルを見るウルザ。

 

「ダニエル……?」

「ん……ああ、すまん。なに、あいつの事だ。特に心配する必要はないと思うが」

「そんな……息子が危険な目にあっているかもしれないのに……」

「そんなタマとは思えん」

 

 まただ。どうにも先程からダニエルの反応がおかしい。そうルークが不思議がっていると、隣に立っていたセスナが意外な反応を示す。

 

「うん……同意……アベルト隊長なら大丈夫……」

「セスナまで……」

「わざわざ救助隊を向かわせる必要はないと思うがな」

「ふーん……なんだか、あんたら親子って淡泊だな」

 

 救助活動すら否定し始めたダニエルに対し、ランスが率直に物を言う。それはルークも聞きたかった事であるため、静かにしながらダニエルの反応を窺う。

 

「俺様がアイスフレームに来てすぐ……まだルークが来る前だな。俺様があんたの事を殺すって言った時も、アベルトは笑っていた」

「本気じゃないと判っていたからだろう?」

「俺様は本気だったぞ。こいつの反応次第では、その場で本当に殺していた」

「余計たちが悪いわ!」

 

 サーナキアの問いに素直に返し、怒りに油を注ぐランス。ルークはその場に居合わせなかったため、ランスの言葉がどこまで本当かは判らない。だが、隣に立つセスナの表情がどこか影を落としているのに気が付き、眉を顰めた。

 

「(セスナ……?)」

「そういう奴なんだよ」

 

 ダニエルがため息混じりにそう呟く。ランスの言う通り、この二人の親子関係はかなり歪なもののようだ。思わぬダニエルの反応に、ウルザは慌てた様子で話を戻す。

 

「と、とにかく、私はこのままアベルトを見殺しにする気はありません」

「ウルザ様……」

 

 そんな中、カオルがスッと手を上げる。一同の視線がそちらに集まる。

 

「マジノラインでしたら、友人と一度行った事があります」

「本当ですか!?」

「はい。興味がありましたので、警備員にばれないようにこっそりと観光を」

「へぇ、意外だな。カオルもそんな事をするんだ」

「(成程。カオルなら知っていてもおかしくないか)」

 

 サーナキアは意外そうにしているが、カオルがガンジー王の側近である事を知っているルークにとっては合点のいく事であった。となれば、この任務に適任な隊は一つ。

 

「それでは、この任務はグリーン隊に」

「えぇー」

「露骨に嫌そうな声を出すな!」

「違う、サーナキア。そうじゃない」

 

 怒鳴り声を上げるサーナキアの肩にポンと手を乗せるルーク。不思議そうにその顔を見上げてくるサーナキア。それを横目に、ルークはウルザに向き直ってこう口にした。

 

「捕まっているのはアベルトだけじゃなく、ブルー隊の隊員なんだよな?」

「えっ……? あっ……」

 

 その質問の意図がウルザにも判ったのか、全てを察したような声を漏らした後、ルークの問いにコクリと頷いた。

 

「はい。アベルト含め、全部で12名です」

「男女の内訳は?」

「女性が9人です」

「よし、行くぞカオル。俺様の助けを待っている女がいる」

「はい、ランス隊長」

「こうだ」

「成程、勉強になる」

 

 あっという間に意見を変えるランスと、待ってましたと言わんばかりに即答するカオル。ウルザも男女比を聞かれて女性の人数しか言わない辺り、やはりルークの意図は読めていたのだろう。やれやれとため息をつくダニエルであったが、その心境はいつもと少し違うものであったのだろう。救出に行く必要はない。彼は本気でそう思っていたのだから。

 

 

 

-アイスフレーム拠点 ブラック隊詰所-

 

「そういう訳で、ブルー隊の救助はグリーン隊が行く事になった」

「最近見ないと思っていましたけど、アベルト隊長捕まっていたんですね」

 

 ブラック隊のメンバーに本部での方針を説明するルーク。既に志津香とかなみの挨拶は済んでおり、二人ともこの話し合いに参加している。マリアも今頃グリーン隊の詰所で説明を受けているのだろう。

 

「イスリレとフアと……うわっ、アベルトだけじゃなくて、諜報活動が得意な隊員がかなり捕まっているから、救出出来ないと結構痛手だぞ」

「セヘンちゃん、心配ですわー」

 

 ネイが捕らわれているメンバーの名前を確認し声を漏らす。他の隊の隊員まで把握しきれていないルークにとって、こういう情報はありがたい。珠樹も捕らわれている仲間を心配しているようだ。

 

「まあ、ブルー隊の事はランスたちに任せましょう。それで、私たちは任務無しの休暇って事で良いのよね?」

「そんな訳あるか」

「ですよねー」

「はぁ……」

 

 ゴロリと横になるロゼ。やる気ゼロを体で表している。その姿を見てため息をつく志津香。カスタムの町を離れても、ロゼはいつも通りな事を実感したのだろう。かなみも苦笑しているが、すぐに気を取り直してルークに問う。

 

「ルークさん。それで、私たちの任務は?」

「安眠街道村のモンスター退治だ」

「安眠街道村? あんなところに?」

「ロゼさん、知っているんですか?」

 

 床に寝そべっているロゼであったが、聞き覚えのある村名であったため思わず反応してしまう。シトモネに尋ねられ、彼女を見上げながらその問いに答える。

 

「イタリアの近くにある小さな村よ。人口は500にも満たない、暮らしているのは全て二級市民」

「二級市民の村か。それじゃあ治安隊は動いてくれないわね。というか、何でそんな事知っているのよ?」

「昔からある大きな地下墓地があるのよ。その村だけじゃなく、近くの村々共同のでっかいやつ」

 

 志津香の問いに答えたロゼであったが、かなみが納得のいかない顔で首を捻る。

 

「……? それが何で知っている理由になるんですか?」

「忘れないでー。私これでもAL教の神官ー。墓地に聖水ぶっかけ巡業とか仕事の一つー」

「あっ、そうだった……」

「忘れないで欲しかったらぶっかけとか言うな」

「あてっ」

 

 ぺちっ、という感じで軽くロゼを蹴る志津香。カスタムの住民ならではの反応と言ったところか。蹴られてもなお立ち上がろうとしないロゼを見てインチェルとナターシャは軽く引いている。これ以上AL教の評判を落とす前に、任務の説明に戻った方が良いだろう。

 

「その安眠街道村に最近、凶悪なモンスターが住み着いたらしい。名前はアバター様」

「ぷっ、変な名前」

「インチェル、油断するな。情報によると、かなりの強敵のようだ。そのモンスター、どうも火炎流石弾を使うらしい」

「なっ!?」

「本当ですか!?」

 

 如実に反応を見せたのは、志津香とシトモネ。どちらも魔法使いだ。かなみは火炎流石弾の事を知らなかったようであり、志津香に事の重大さを問う。

 

「志津香、そんなに凄いの?」

「火炎流石弾。本来は高レベル魔法使いが二人以上で放つ大技よ。文献には極稀に一人で放つ事の出来る魔法使いもいたと記されているけど、その魔法使いは漏れなく魔法LV3だったらしいわ」

「ま、魔法LV3!? 伝説級じゃない!?」

「一説には、炎系最上級とされているゼットンよりも威力が上とも言われています。確定できないのは、どちらも術者が少なすぎて比べる事が出来ないから。特に、火炎流石弾は……」

「ゼットンって……サイアスさんが使っていた……」

「ああ。つまり、今回の相手はサイアス以上の敵である可能性すらある訳だ」

 

 志津香、シトモネ、ルーク、三人とも真剣な表情だ。思わずかなみもゴクリと唾を飲んでしまう。いや、かなみだけではない。インチェルやネイ、ナターシャも冷や汗を掻いている。何せ炎の四将軍よりも実力が上かもしれないのだ。焦りもしよう。

 

「あらあら、大変ですわー」

「……ふっ、燃えてきたな」

「(大物ね、この娘。こっちはよく判らないけど)」

 

 あっけらかんとしている珠樹と、短剣を研ぎだすバーナード。大物なのか、馬鹿なのか。判断に迷うロゼ。

 

「今回は強敵だ。メンバーは厳選する。すまんが呼ばれなかった隊員は待機していてくれ」

「まあ、仕方ないですね」

 

 代表してインチェルが頷く。正直、自分は絶対に呼ばれないだろう。悔しいが、自分はまだまだ力不足。

 

「セスナ」

「うぃ……」

「志津香」

「任せて」

「かなみ」

「はい!」

「ロゼ」

「うげー」

「ネイ」

「よかった……呼ばれた……実力認められてた……」

「シトモネ」

「私もですか? せ、精一杯頑張ります!」

 

 六者六様の反応を見せる一同。ブラック隊の選抜メンバーが以上のメンバーとルークを合わせた七名だ。そして、もう一人。

 

「それと、今回はサーナキアにも協力して貰う事になった」

「えっ!?」

 

 ルークがそう言うと、詰所の出入り口の横からスッとサーナキアが姿を現す。

 

「強敵という事だから、隊長であるボクも協力させて貰う事になった。よろしく頼む」

「ずっと出るタイミングを待ってたんですか?」

「ムシ刺されとか大変ですわー」

「そういう事言わないでくれ!」

 

 あんまりな反応にちょっと涙目のサーナキア。もっとこう、格好良い感じの展開を期待していたのだろう。

 

「以上八人でアバターを倒す。各自、全力を尽くせ! だが、絶対に死ぬな!」

「はい!!」

 

 ルークの気合の入った号令に、参加しないインチェルやナターシャまでもが力強く返事をする。それを見て、うんうんと頷くサーナキア。彼女はこういった空気の部隊を作りたいのだろう。

 

「(火炎流石弾って、魔法LV3の魔法使いだけじゃなくて、一部の四本腕のモンスターも使う事が出来るって記録があったはずよね。サイアス級がそうそう転がってる訳ないじゃない。面白いから言わないけど)」

 

 ただ一人、ロゼは心の中でアバター様に十字架を切っていた。これから大陸でも屈指の実力者集団があんたを殺しに行きます、どう足掻いても絶望なんで観念してください、と。

 

 

 

-マジノライン-

 

 ところ変わって、こちらはグリーン隊。

 

「ひゃー……凄いだす……」

「これがマジノラインか。初めて見たぞ」

 

 ランスたちはゼスの西の端、マジノラインへとやってきていた。魔物界と接している巨大要塞、マジノライン。中は人工的に手が加えられており、外部、特に魔軍相手への設備が強固に備わっている。

 

「2年前にも、このマジノラインが魔軍を追い返したんですよね」

「はい。マジノラインはゼスの……いえ、人間界の宝です」

 

 シィルの言う2年前の話は、カミーラ率いる侵攻軍を追い返した事件の事だ。四天王、四将軍が集結しての大規模攻勢とその勝利は、大陸中に知れ渡っていた。カオルが誇らしげにするのも無理はない。

 

「それで、アベルトはどこに捕まっているんだ?」

「恐らく、麓の方ですね。そちらは警備の目も少ないので、比較的安全に調査出来ると思います」

「ではさっさと向かうぞ。こんな場所、長居する必要はない」

「はい、ランス様」

 

 こうして、警備の少ないという麓へと向かったランスたち。確かにカオルの言うように、道中殆ど警備の者を見なかった。その事に殺が疑問を抱く。

 

「麓とはいえ、警備が少ないな。人類の宝なら、もっと厳重に警備すべきだろう」

「十分凄い警備だと思うけどなー」

「そうだね。それに、重要施設の近くはもっと厳重だよ」

「いや、巨大施設ならば、細部こそ注意深く警備しなければ意味がない。ウィミィの連中もそこを怠ったから……」

「ウィミィ?」

「それは、警備する必要がないからですよ」

 

 ルシヤナやプリマにはどうして殺がそこまでの疑問を抱いているか理解出来なかった。傍目には十分過ぎる程の警備だ。だが、殺から言わせればこれでも甘いらしい。その疑問に答えたのは、カオル。

 

「どういう事だ?」

「言葉通りです。マジノラインを破壊しようとする者はまず現れません。だから、殺さんの考える警備よりも若干レベルが低いのでしょう」

「ほう?」

「マジノラインは人類と魔人を隔てる壁……これを破壊してしまえば、魔人が人類に攻め込んできます」

「乗っ取ろうとする輩は出ないのか?」

「マジノラインの原動力は魔力です。細かな装置にも、魔法使いにしか動かせないものが多く存在します」

「成程。合点がいった」

 

 破壊は自殺行為。乗っ取りも不可能。成程、これでは賊など現れる訳がない。殺が頷いていると、先頭を走っていたランスの姿が突如消えた。

 

「あぁぁぁぁぁ……」

「ランス様ぁぁぁぁ! えいっ!」

「あっ、シィルちゃん! 危ない!」

 

 次いで、シィルとマリアの姿も消える。何事かと駆け寄ってみれば、三人が消えた場所にぽっかりと巨大な穴が開いている。三人はこの下に消えていったのだ。

 

「ちっ、世話掛ける隊長だな☆ 落とし穴か?」

「いえ、人工のものではないですね。地盤が緩いために出来た自然のものです」

 

 メガデスが悪態を吐き、タマネギがしゃがみ込んで地面を調べている。

 

「日頃の行いが悪いからこういう穴にハマるんだよ」

「とはいえ、放ってはおけません。私たちも行きましょう」

「はいだす!」

「あらあら、皆さん行ってしまうなら私も……」

 

 プリマの言う『日頃の行いが悪い』というのは少し違う。これは、ルークが以前から口にしているランスの天運。この穴に落ちるという出来事が、後にゼスの運命を大きく変える事になるのは、まだ誰も知らない。

 

「皆さん、大丈夫ですか?」

 

 カオルが穴から滑り落ちていき、軽やかに地面に着地してそう問いかける。だが、返事がない。目の前にいるランスたちは呆然と立ち尽くしているのだ。

 

「これは……」

「ランス様……」

「嘘……でも、間違いない……」

 

 周囲を見回しながら目を見開いている三人。一体何事かと心配したカオルは再度問いかける。

 

「ランス隊長……?」

「おお、カオルか。丁度良かった、こいつを見ろ!」

 

 ランスが指し示したのは、目の前に広がる巨大な通路。驚くべきは、その整備具合。床も、壁も、しっかりと舗装されているのだ。地面の下に、これだけの建造物があるのは明らかにおかしい。カオルも驚いた様子で周囲を見回し、ある事に気が付く。

 

「(これは、闘神都市……?)」

「これ、イラーピュにそっくり……」

「おお、そうだ! イラーピュにそっくりなんだ!」

「(えっ!?)」

「あたた……ランス様、大丈夫だすかー?」

「きゃっ……凄い施設ですね……」

 

 マリアの言葉にランスがポンと手を叩く。どうやら何か引っかかっていたようだ。カオルに続き、ロッキーやリズナといった他の面々が滑り降りてくる中、マリアたちは尚もこの施設に心奪われていた。ペタペタと壁を触っているマリアにシィルが問いかける。

 

「マリアさん、これはイラーピュなんですか?」

「ん……同じ材質で出来ているのは間違いないと思う。でも、イラーピュではないわ。あれはゼスには落ちてないもの。それにこれ、長い間ここにあったみたい」

「そうですね。触れると結構湿った感じがしますし、随分と長い間この場所にあったように思えます」

 

 マリアに続き、リズナもペタペタと壁を触り始める。状況が判っていない他の面々も、とりあえず不思議な施設には興味があるようで、周囲を見回したり壁を触ったりしている。そんな中、カオルは少し呆気にとられていた。

 

「あの、皆さん……闘神都市をご存じなんですか……?」

「ああ、ちょっと前にな。空に浮かんでるイラーピュって大陸があったろ?」

「おらでも知ってるだす。ずっと昔から浮かんでる空中都市だす」

「最近、自由都市のはずれに墜落してたっけか。夢も希望もねー☆」

「ちょっとした騒ぎになりましたからねぇ」

 

 ロッキー達が二年近く前の事件を思い出してしみじみと語っている中、当事者でもあるマリアは申し訳なさそうに頭を掻きながら口を開く。

 

「あはは……実は私達、その墜落事件に関係していて……」

「えっ!? そいつは本当かい!?」

「うむ。色々あって、俺様大活躍で悪のロボットを倒したりしたのだ」

「悪のロボットさんですか……?」

 

 腰に手を当ててふんぞり返るランスと、よく判っていない風のリズナ。だが、リズナ以外は各々驚いた様子を見せている。当然、カオルもだ。

 

「(あれ程の大事件に、この人たちは関係していたのですか……もしかして、想像しているよりも遥かに凄い人なのかもしれない……)」

 

 図らずもカオルからの評価が上がる中、ランスは先の会話を続ける。

 

「しかし、イラーピュじゃないならこれは何だ? マリア、こういうのはお前の出番だ。説明しろ」

「任せて!」

 

 キラン、と眼鏡を光らせるマリア。頼りにされるのは悪くない気分なのだろう。あるいは、単純にマッドの血が騒いだだけか。

 

「イラーピュはあくまで最後まで活動を続けていた闘神都市でしかない。その昔、聖魔教団が健在だった時代は多くの闘神都市が空中に浮かんでいたの」

「空中都市は一つじゃなかっただすか?」

「ええ。でも、魔人戦争と呼ばれる魔人との争いの際、その殆どが地上に落とされてしまったの。魔人界に近いゼスの周辺には、数多くの闘神都市が落とされたと聞いているわ」

「えっ? そうなの? あたい、そんな話聞いた事ないよ」

「多分、政府が隠しているんだと思う。聖魔教団の技術は、今でも十分オーバーテクノロジー。一般には知らせず、秘密裏に研究や利用をしていると考えるのが普通ね」

 

 マリアの推理に心の中で頷くカオル。その予想、的中している。

 

「(確かに、ゼスはいくつか闘神都市を発見している。でも、これはまだ発見していないもの……)」

「がはは! じゃあお宝があるかもしれんな。少し探索するぞ!」

「でも、ランス様……もしあの、闘将とかが出てきたら……」

「むっ……」

 

 シィルの不安そうな声に、ランスもイラーピュであった闘将の姿を思い出す。一体目は大した事なかった。ボォルグだかボーリングだか知らないあの巨体は、自分の敵ではなかった。問題は二体目。ルークの腹を貫いたあの闘将。

 

「……ふん、問題ない。出てきたところで俺様の敵ではないわ! 行くぞ!」

「全く……そんな事言って、本当に出てきたらどうするの?」

 

 マリアはすれ違いも多く、あまり闘将・闘神とは戦っていない。だが、十分にその脅威は判っている。駆けていくランスの後を呆れた様子で追い、他の者もそれに続いていく。カオルも探索を止めない。ランスが言わなければ、自分が言い出すつもりだったからだ。この闘神都市の大発見だ。しっかりと調査し、すぐにでもガンジー王に知らさなければならない。そんな思いがカオルの中にはあった。

 

「なんだ、こりゃ!?」

 

 探索を始めて暫しの後、地下にランスの声が響く。やってきたのは、いくつかの装置を動かした先の部屋。その部屋には、高さ数メートルはあろうかという巨大な魔力装置が部屋の中心にデンと置かれていた。

 

「マリア、なんだこれは?」

「……何なのかしら。何か高度な技術で作られているのは判るけど……」

「動いているんですか?」

「ううん、止まってる。壊れているのかしら……いえ、壊れているようには見えない。放置されているだけかも……」

 

 マリアは巨大な装置に近寄っていき、調査を始める。ふーん、と鼻で息を鳴らし、今度はマリアの次に物知りでありそうなカオルに向かってランスは問う。

 

「カオルは何か知らないか?」

「すみません、よく判らなくて……」

 

 そう答えたカオルであったが、実はこの装置の正体に目星はついていた。実物は見た事が無く、話でしか聞いた事がない。だが、これはほぼ間違いなくそのブツだ。だが、それをここで言う訳にはいかない。自分の素性を怪しまれてしまう。

 

「マリアさん、ここに何か刻印されていますよ」

「えっ!? リズナさん、本当ですか?」

「はい……えっと……まな……まなばってりーって書いてあります」

「(やはり……)」

 

 それは、カオルの予想通りの代物であった。だが、その名が知れたところで問題は無い。これが何なのか、彼らには判らない。そのはずであった。

 

「ああ、マナバッテリーね」

「マリア、知っているのか?」

「うん。イラーピュでメリムさんに聞いたから知ってるわ」

「っ!?」

 

 カオルの誤算は、天才であるマリアが既に闘神都市を訪れ、その技術に興味を持ってしまっていた事。

 

 

 

-マジノライン 簡易収容所-

 

「はははっ、ブラックジャーック」

「きゃぁっ!」

「またですか!? 隊長のばかぁ!」

「うぅっ……これでいくら借金なの……」

 

 一方その頃、マジノラインに捕らえられているアベルトたちは暢気にトランプで遊んでいた。

 

「あいつら、捕虜の自覚あるのか……?」

 

 見張りの兵士が呆れかえるのも無理はない。

 

 

 

-安眠街道村 地下墓地-

 

「ははははは! 我こそは人々を震撼させる悪のモンスター、アバター様なるぞ!」

 

 そしてこちらはルーク組。戦闘の無いグリーン隊、暢気なブルー隊と違い、大ボスとの戦闘真っ最中であった。

 

「我はこの墓地を中心に、世界を征服するのだー! 邪魔するのならば、死ねーー!」

「行くぞ! 先手必勝、真空斬フルパワー!!」

「道中で詠唱済みよ! 白色破壊光線!!」

「えっ……」

 

 そんな哀れな声と共に、真っ白な光がアバター様を包み込んでいった。

 

「……あれ?」

「あーっはっはっは! しゅ、瞬殺……あー、おかしい……」

 

 起き上がってくると思って身構えていたルークたちだったが、煙が晴れた先に見えた光景は、ぷすぷすという音を立ててこんがりと焼けているアバター様の姿であった。呆然とする一同と、笑い転げるロゼ。

 

「強敵……?」

「あのさぁ、あんたらのレベル考えなさいよ。世間の強敵はあんたらには当てはまらないわよ」

「いや、だが、火炎流石……」

「四本腕の魔物の中には使えるのが稀にいるって文献に残されているわ。威力は大分落ちるみたいだけど」

「何で先に言ってくれないんですか!!」

「あー……サーナキア、何かすまん」

「いや、その、こういう事もあるさ……」

 

 とりあえずルークに出来る事は、わざわざ隊外の活動にまで引っ張り出してしまったサーナキアに謝罪する事だけであった。

 

「ごめんなさい……何でもするから……命だけは……」

「あ、生きてる。意外としぶとい」

 

 どっこい生きてたアバター様。

 

 

 

-ゼス アダムの砦-

 

「間違いないな」

 

 キューティが持ってきたラレラレ石の映像を見てそう呟くのは、四将軍のサイアス。椅子に深くもたれ掛り、天井を一度見上げてから控えていたキューティに向き直る。

 

「博物館の映像に映っているのは、間違いなくルークだ」

「やはりそうですか……」

 

 自分の見間違いだと信じたかったが、自分よりも遥かに長い付き合いであるサイアスがこう言うのであれば、最早間違いないだろう。

 

「俺の予想では十中八九、ルークはレジスタンスに関わっている」

「っ……」

「キューティも考えていなかった訳じゃないだろう?」

「はい……ですが、確信が……」

「そんなもの、俺にもないさ。情報が少なすぎる」

 

 肩を竦めるサイアス。確かに現時点での情報で確信出来るはずがない。それでは超能力者だ。

 

「それでは、勘ですか?」

「もう一年以上前の話だが、闘神都市の件でルークが礼を言いに来た時の事は覚えているか? 千鶴子様とアニスがやってきたあれだ」

「勿論覚えています。あの時は王が……」

 

 そこまで言って、キューティは目を見開く。と同時に、サイアスは少しだけ嬉しそうに微笑んだ。これだけの情報でそこに至れるのであれば、やはりキューティは優秀だと嬉しくなったのだろう。

 

『それも違う。上と下、どちらも変わらねばならない』

『同時改革か……なるほどな。だが、簡単な事ではない』

『それでもやらねばならない。国王として、そして、世界を一つに纏めるのを目指している者として』

 

 そうだ、確かにあの時ルークはそんな事を言っていた。下からの改革。即ち、レジスタンス。

 

「まさか……下からの改革を……? だとすれば、この事はガンジー王も!?」

「判らんな。あの後、ルークとガンジー王に接点があったかは定かじゃない。そして、ルークも世界を一つに纏めたいと思っている」

「では、王とは関係なく、ルークさんの意志でレジスタンスを行っている可能性もあると……」

 

 もし王の命令であれば、何か考えがあっての事。ゼスをより良くするための隠密の行動と言えるだろう。だが、もしそうでないとすれば、ルークの目指すものはどうあれ、現時点ではゼスの敵でしかない。

 

「もしルークがガンジー王と繋がっていたとしても、それを知る人間は限られてくるな。とりあえず、俺は千鶴子様に探りを入れてみる」

「すいません……」

「まあ、ルークの事だ。どちらにせよ考えがあるんだろう。ただ、ゼスに不利益を及ぼすだけの為にレジスタンスをするような奴じゃあない」

 

 ルークに全幅の信頼があるのだという事が、今の言葉からも察する事が出来る。だが、キューティは少し不安であった。だとすれば、サイアスはルークとは戦わないという事だろうか。

 

「サイアス様は……」

「ん?」

「ルークさんがレジスタンスだった場合……ガンジー王とは無関係だった場合……どうされるんですか……?」

「ふっ……」

 

 キューティの問いを受け、静かに笑うサイアス。そして、ゆっくりと空気が変わる。

 

「あいつの事は信じている。だが、それと職務は関係ない。もしあいつがガンジー王とは関係ないレジスタンスとして俺の前に現れたなら、戦うさ」

「…………」

「子供っぽいと笑われるかもしれないが、あいつと全力で戦うかもしれないという今の状況に少しワクワクしている自分がいるんだ。ふっ……まだまだ俺もガキだな。雷帝には絶対に言えん」

 

 キューティにも判る程に、目の前のサイアスから魔力が迸っていた。滾っている。これまで見た事もない程に。そこで、キューティは自分の勘違いに気が付く。ルークとサイアスは親友だと思っていたが、実は違う。これは、戦友。あるいは、ライバルと呼ばれる存在。共に高め合い、背中を預け合う存在。だからこそ、戦う機会などなかったのだろう。もし、そんな自分の認める存在と戦う事になったら。女の自分には判らない、男の世界がそこにはあった。

 

「……まあ、戦わないに越した事はないがな」

「そうですね……」

「そちらでも調査を続けてくれ。要らぬ心配を招きたくないから、他言は無用。まあ、信用できる人間には話しても良いがな。俺も状況次第では、千鶴子様や雷帝、ウスピラ辺りには話すつもりだ」

「そうですね……私の場合だと、エムサさんとミスリーと……」

「そうだ、暫くはミスリーを連れて歩いていい。もしルークと出会うような事があれば、キューティだけじゃ荷が重いからな」

「エムサさんの方は良いんですか?」

 

 イタリアでのサーベルナイトの一件の後、ミスリーはエムサと行動を共にしていた。丁度あちらの担当地区でペンタゴンの活動が活発になっていたからだ。

 

「ああ、落ち着いたからもう大丈夫だとの事だ。明日には治安隊本部にミスリーが帰ってくるはずだ」

「それは助かります」

「辛い任務だとは思うが、頑張ってくれ」

「了解しました!」

 

 敬礼し、キューティが部屋から出ていく。その背中を見送った後、サイアスは強く拳を握った。真紅の炎がその拳を包む。

 

「お前と敵対するのは初めてだな、ルーク」

 

 思い出されるのは、若き日の事。

 

『サイアス・クラウン。いずれゼス最強と呼ばれるつもりの魔法使いだ』

『ルーク・グラント。冒険者だ。いずれこの名前は大陸中に知れ渡る』

 

 きっとあの時から、二人は友だったのだろう。

 

「上と下からの革命、俺も協力はさせて貰うつもりだ。だがそれとは別に、どちらがより理想へと近づいているか勝負といこうか」

 

 ボッという音と共に、拳を包んでいた炎が蒸発した。部屋に残されたのは、不敵に笑うサイアスのみ。

 

 

 

-アダムの砦 廊下-

 

 パン、と乾いた音が廊下に響く。それは、キューティが自身の両頬を叩いた音。

 

「よし、気合い入った!」

 

 サイアスの決意を聞き、自身の情けなさを戒める意味で頬を叩いたキューティ。そうだ、例え相手がルークでも関係ない。その目的が何であれ、ゼスと敵対するというのならば、今この瞬間は敵なのだ。

 

「そうとなれば……」

 

 キューティが考えなければいけないのは、ルークとランスが次にどこに現れる可能性が高いかという事。だが、これはあまりにも難題。ヒントが少なすぎる。

 

「(そもそも、ルークさんはどうしてレジスタンスをやっているのか。上と下の革命というのも、こちらの憶測でしかない。他に理由は……)」

 

 少し考えたが、何も思い浮かばない。ポリポリと頭を掻き、別の方向性で考えていく事にする。

 

「(目的からの割り出しは無理ね。違う方向性で考えて行こう。ルークさんたちが現れる可能性があるのは……うーん……)」

 

 今までの事件や自分の担当地区を思い浮かべては消していくキューティ。そんな中、ふとその足が止まる。廊下に立ち尽くしながら、再度思考を駆け巡らせる。そうだ、あそこならば。

 

「来るかもしれない……」

 

 

 

-アイスフレーム拠点 拠点入口-

 

「ワニラン、大丈夫か?」

 

 拠点の入口までダニエルが走ってくると、困った様子の衛兵、ワニランが安堵した表情でこちらを見てくる。

 

「ダニエル様ー」

「大丈夫そうだな」

 

 先程、アイスフレームの拠点に見知らぬ二人の来訪者があったのだ。彼女たちはとある隊長の知り合いであり、中に入れて欲しいと言ってきていた。だが、はいそうですかと通す訳にはいかない。ワニランは入口でその二人の来訪者を引き留め、仲間にダニエルへの伝達を頼んだのだった。

 

「そいつらか」

「はい……」

「お前たち、どうやってこの場所を知った。ルークに聞いたのか?」

 

 この二人は、ルークの知り合いだという。一人は、落ち着いた風の女性。ローブを身に纏っているが、戦えるようには見えない。もう一人は、緑色の髪の女戦士。見たところ軽い性格のように見えるが、こちらは相当に手練れのようだ。ダニエルの問いに、落ち着いた風の女性の方がゆっくりと首を横に振った。

 

「いえ。自力でこの場所を探し出しました」

「……そう簡単に見つけ出せるような場所ではないはずだが」

「色々と理由はあるのですが、細かい説明は後にします。簡潔に言わせていただきますと、私は自由都市で情報屋を営んでいますので」

「相当に優秀な情報屋のようだな」

「恐れ入ります」

 

 もしこの娘の発言が真実だとすれば、かなり優秀な人材だ。後ろの手練れの少女と、優秀な情報屋。成程、解放戦の英雄と呼ばれる男の知り合いとすれば合点もいく。

 

「私たちを怪しむのは当然の事。ですので、ルークさんが帰ってくるまで見張りをつけて貰って良いので、中で待たせては貰えないでしょうか?」

「とりあえず休ませて欲しいですかねー。ここまで疲れましたですかねー……」

「ふむ……」

 

 アベルトの事だけでも頭が痛いのに、こうも厄介ごとを増やしてくれるとは。ランスだけでなく、あの男も十分トラブルメーカーだ。

 

「ついてこい」

「ありがとうございます」

「やっと休めるですかねー!」

「ふふ……護衛、ご苦労様」

 

 ルークが帰ってきたら小言の一つでも言ってやろう。そんな事を考えながら二人の女性を案内するダニエルであった。

 

 




[人物]
イスリレ
フア
セヘン
 ブルー隊隊員。アベルトと共にマジノラインに捕らえられていた。全員、アベルトのファンである。


[モンスター]
アバター様
 安眠街道村に住み着いていたモンスター。元々は労働用にゼスに連れてこられたただのおかゆフィーバーだったが、様々な要素が絡まり特殊な進化を遂げた。惨敗した事により世界征服の野望は諦め、今は安眠街道の守り神として暮らしている。どっこい生きてた。ルークたちにはあっさり敗れたが、本来は非常に凶悪なモンスターであり、中堅冒険者ではひとたまりもない相手だ。それは原作をプレイされた方ならば重々承知だろう。ランスⅥ、序盤最大の難敵。

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