ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第173話 潜入、女の子刑務所

 

-夜 女の子刑務所 正面入口付近丘-

 

「おい、準備は出来たか?」

「はい、ランス様」

 

 女の子刑務所の傍にある小高い丘の上にランスたちはやってきていた。刑務所が邪魔でこちらからでは見えないが、反対側にある裏口方面の丘にはルーク率いるブラック隊も到着しているはずだ。

 

「しかし、大胆不敵な作戦ですねぇ。まさかハンググライダーを使って一気に中庭に潜入するとは」

「こ、こんなものつけて空を飛ぶんだすか……?」

 

 タマネギの言うように、ウルザの立案した潜入作戦は実に大胆不敵なものであった。刑務所の外部を見張る看守が交代するタイミングを狙い、闇夜に紛れてハンググライダーで一気に中庭に降り立つのだ。鬱陶しそうにタマネギとロッキーを見るランス。

 

「ええい、鬱陶しい。嫌なら来なくていいんだぞ。一生ここにいろ」

「いえいえ。背徳の刑務所という素晴らしいロケーション、是非とも参加させていただきたく」

「そ、それはもっと嫌だす。お、おらもいくだす……」

 

 タマネギは志願参加。どうやら刑務所というシチュエーションが色々とインスピレーションを掻きたてるらしい。対してロッキーは相当怯えている。

 

「少しわくわくしますね」

「判る。ナンパの際の盛り上げ話に使えそう」

 

 逆に女性陣は中々に豪胆揃い。リズナとメガデスはハンググライダーでの飛行をむしろ楽しみにしていた。

 

「…………」

 

 そんな中、皆の会話に参加せず一人で女の子刑務所を見下ろしている女性がいる。プリマだ。彼女もまた、今回の作戦には志願の参加であった。思い出されるのは、あの真知子というブラック隊の新入りが持ってきた情報。

 

 

 

-今朝 アイスフレーム拠点 ブラック隊詰所-

 

「それは本当っ!?」

 

 思わず声を荒げたプリマに視線が集まる。特に詰め寄られた形の真知子はプリマとは初対面であるため、その理由が判らず困惑した様子だ。だが、一呼吸置いてから静かに頷く。

 

「……はい、間違いありません。女の子刑務所にはズルキ・クラウン元長官と、サーベルナイトことハッサム・クラウンが収容されています」

 

 女の子刑務所に潜入するに辺り、中の警備体制についてブラック隊とグリーン隊が合同で会議をしていた。夜間の警備員はせいぜい20人程であり、後は防衛用の自動戦闘兵器が配備されているとの事。また、真知子がシャイラの情報を調査中に得た情報として、女の子刑務所にはズルキとハッサムの親子が収容されているというものがあった。サイアスの親戚であるため、一応ルークには知らせておこうと思いこの話を切りだしたのだが、喰いついたのは別の人物。

 

「そうか……サーベルナイトが女の子刑務所に……」

「(ルークさん、彼女は……?)」

「(以前、所属していた部隊の仲間をサーベルナイトに全滅させられている)」

「(成程。そういう事でしたか……)」

 

 プリマに聞こえぬように横に立っていたルークから理由を聞く真知子。そう、プリマにとってサーベルナイトは因縁の相手。刑務所に入ってしまいもう復讐は難しいと考えていたが、まさかこんなチャンスが巡って来るとは。

 

「……隊長。今回の作戦、私も参加させてくれ!」

「ん?」

「プリマさん。今回の任務はレッドアンさんとシャイラさんの解放です。サーベルナイトへの復讐ではありません」

「でもっ……」

 

 ランスに向き直り、参加を志願するプリマであったが、誰が見ても頭に血が上っているのは明らか。それを落ち着かせるべくカオルが間に割って入る。今回の任務にサーベルナイトは関係ないのだ。わざわざ寄り道をすれば、その分本来の任務が失敗する可能性が出てくる。食い下がるプリマを横目に、ロゼが思っていた疑問を真知子にぶつける。

 

「でも、なんでその親子は女の子刑務所にいるのよ? あそこって名前通り女囚専門でしょ?」

「女の子刑務所の新所長はラドン教育長官の娘であるエミ・アルフォーヌ。彼女はハッサム・クラウンと婚約関係にあります」

「エミって確か……ああ、そういえばあの時ズルキと一緒にいましたね。そういう理由だったんですか」

 

 真知子の説明に出てきた名前に聞き覚えがあったシトモネがポンと膝を打つ。彼女が口にしたのはアイスフレームに入る前、ルークと共にラドン長官の下を訪れた際の事だ。あの場にはラドンとエミの親子と共にズルキの姿があった。その時一緒だったシィルもそれを思い出したのか、コクコクと頷いている。

 

「それじゃあ、エミが裏で手を回したという事か?」

「恐らくは。中での扱いは囚人のそれではないと思います」

「ああ、聞いた事あるわ。ある程度権力のある貴族は貴賓囚人とか言って、豪華な食事や刑務所内での自由を与えられるんでしょ?」

「なんか残念ですね……」

「ふーん、悪人でも金持ちだと対応が違うって訳か。腐りきってるな、この国は」

 

 ルークの問いに真知子が頷き、ロゼが補足を入れる。折角自分たちが倒して裁かれると思っていた悪人が裁かれていないと知り、残念そうな顔をするインチェル。とはいえ、インチェルの気持ちは十分に判る。ランスの言うように、根本から腐っているのだから。

 

「みんなの仇を討つんだ……私が、必ず……」

「まあ、別に連れて行くのは構わんがな。その代わり、復讐が成功したらやらせろ」

「おい、こら。調子のってんじゃねーぞクソ隊長」

「止めろ! 弓を構えるな!」

 

 メガデスとランスがわいわいと騒ぐ中、これまで黙って会話を聞いていた志津香がポツリと漏らす。

 

「復讐ね……」

「……止めるつもりかい?」

「まさか」

 

 プリマの問いに肩を竦める志津香。プリマは知らないが、志津香もまた復讐にその身を置いている。どの面下げて止めるのかという思いも志津香の中にはあるのだろう。だから、復讐者の先達としてこれだけは言っておく。

 

「でも、碌な事ないわよ」

 

 

 

-夜 女の子刑務所 正面入口付近丘-

 

「…………」

 

 志津香の言葉を思い出すプリマ。彼女の事は良く知らない。だが、何故かその言葉は深くプリマの心に残っていた。実感がこもっていたとでも言うのか、何かは判らないが嫌な説得力があの言葉にはあったのだ。すると、バシンと背中を叩かれる。

 

「いった……」

「ほらほら、時間だぞ」

 

 背中を叩いたのはメガデス。反論しようとしたプリマだが、どうせ何を言っても泣かされるのはこちら。今の緊張感は解きたくないため、珍しく反論せずにスタスタとランスの方に歩いていくプリマ。その背中を見ながら、メガデスは軽く舌打ちする。

 

「(ちっ、力入り過ぎてんな。無理もねーけど)」

「うぅ……今回は留守番か。飛びたかったな」

「お互い、武器の音が大きいからな。人数の限られる潜入任務では真っ先に外されるのも仕方ない」

 

 ハンググライダーの数は限られているため、武器の音が大きいマリアや殺は今回丘の上で待機。脱出経路の確保に努める事となっている。

 

「ランス隊長。そろそろ看守の交代時間です」

「よし、行くぞ!」

 

【グリーン隊参加メンバー】

 ランス、シィル、カオル、リズナ、ロッキー、プリマ、メガデス、タマネギ

 

【正面側丘の上待機メンバー】

 マリア、殺、ルシヤナ

 

 

 

-女の子刑務所 裏庭-

 

「よっと」

 

 ほぼ同時刻、裏庭にはブラック隊が降り立っていた。

 

【ブラック隊参加メンバー】

 ルーク、志津香、かなみ、トマト、シトモネ、セスナ、ネイ、バーナード

 

【裏口側丘の上待機メンバー】

 ロゼ、真知子、インチェル、珠樹、ナターシャ

 

 今回の任務は極力戦闘を避けるつもりであり、また傷ついても帰り木を使って丘の上のメンバーとすぐ合流できるため、回復要員のロゼではなく戦闘に特化したメンバーでの潜入となっている。事前に真知子から刑務所内の大まかな見取りは教えて貰っているため、彼女も今回は待機メンバー側だ。

 

「シトモネ、どうだ?」

「……真知子さんの情報通り、裏口の鍵はかなり簡易な作りですね。これなら青の鍵で……はい、2分もあれば開けられます!」

「了解だ。かなみの方は?」

「どちらの監視塔もまだ引継ぎの最中ですね。こちらには全く気が付いていません」

 

 正面入口と違い、裏口には鍵が掛かっているとの事だったため、キーハンターであるシトモネを擁するブラック隊がこちらからの潜入担当となったのだ。かなみが両脇にある監視塔に目を光らせる中、シトモネがカチャカチャと裏口の鍵を弄り回す。

 

「それにしても……」

「ん? なんだ?」

「その仮面、何?」

 

 志津香がジト目でルークを見上げる。そのルークの顔には、見覚えのある蝶型の仮面が身に付けられていた。

 

「エミとは一度会っているからな。俺がレジスタンスに所属しているとばれたら面倒だから、一応変装をな」

「えー……」

 

 周囲を窺っていたネイが呆れたような声でルークを見てくる。志津香がチラリとシトモネを見ると、彼女は静かに首を横に振った。以前、ロリータハウスに潜入した際にルークのセンスを知っている彼女にとって、最早止める気にはならなかったのだろう。そういえば、ハンググライダーで潜入する前にこの仮面を見たロゼが大爆笑していたのを思い出す。止めなかった辺り、彼女も確信犯か。

 

「ルークさん……その……あの……」

「ん? かなみ、どうした?」

「いえ、何でもありません……」

「と、トマトはどんなルークさんでも受け入れるですかねー!」

 

 何かを言いたそうにしているかなみだが、結局言えず仕舞いの様子。ブラック仮面のCMを見ているから、この姿自体は知っている。だが、まさか本気でこれが変装になっていると思っているとは想像だにしなかった。突っ込むべきか、突っ込まざるべきか。葛藤するかなみを他所に、全てを受け入れるトマトは大物と言えよう。

 

「……ハイセンス」

「良い仕事だ……」

「はぁ……」

 

 グッとサムズアップで答えるセスナとバーナード。ある意味この二人も大物だろう。潜入前から疲労感に襲われる志津香。結局、自分は苦労人枠なのかとため息もつきたくなる。

 

「……開きました!」

「よし、行くぞ! 鍵を開けていた分、恐らくランスたちが先行しているはずだ。まずは追いつくぞ」

「了解!」

 

 裏口の扉を開け、真っ直ぐと伸びる通路を駆けていく一同。二階へと続く階段を通り過ぎ、まずは独房の方へと向かう。

 

「ピピッ」

「はっ!」

「たあっ!」

「てりゃー、ですかねー!」

 

 道中、自動警備兵器が数体襲ってきたが、前衛を務める面々の現在レベルは高い。後衛が援護に入る暇もなく、一撃の下に敵を屠っていく。

 

「前衛と後衛のバランスが微妙じゃないかと思ってたけど、そんな事もなさそうね」

「本来なら前衛をもう少し削ってロゼやナターシャを入れるのが理想だが、回復が必要な程戦闘するつもりはなかったし、刑務所内の通路は狭いと聞いていたから弓もどうかと思ってな。それに、いざとなれば俺とかなみは後衛に回れるし」

「色々と考えてるのね。ちゃんと隊長してるじゃない」

 

 志津香とそんな話をしていると、目当てであった独房の前へと到着する。だが、その扉には裏口とはレベルが違うしっかりとした錠前が施されていた。

 

「シトモネ、いけるか?」

「……ごめんなさい。やっぱり無理みたいです」

 

 独房へと通じる扉の鍵が複雑なのは真知子の情報で判っていた。だが、万が一シトモネに開けられる鍵であれば時間の短縮になるため、一度試しにこちらに寄ったのだ。だが、結果はNG。となれば一度引き返して上の階に向かい、独房の鍵を回収するしかない。

 

「仕方ない。引き返すか……んっ?」

 

 その時、こちらに人の気配が近づいてくるのを感じた。身構えるルークたち。警備隊であれば、騒がれる前に倒す必要がある。だが、通路の向こうからやってきたのはゼスの警備隊ではなかった。見慣れぬ服装をした男が三人。腰にはロングソードを掛けている。

 

「なんだ、お前らは?」

 

 あちらもルークたちに気が付き、眉をひそめながら声を掛けてくる。こちらの格好をジロリと見回し、警備隊でない事を確認した男は言葉を続ける。

 

「どうやら警備隊の者ではなさそうだな」

「何者だ……?」

「こちらの台詞だ」

「隊長……相手は恐らく、ペンタゴン……」

「なに?」

「着ている服からして……多分……」

 

 腰を落とすルークの後ろからセスナが声を掛けてくる。曰く、相手はペンタゴンとの事。アイスフレームと袂を分かった過激派のレジスタンスだ。あちらにもセスナの言葉が聞こえたのか、ピクリと反応を示した後に声を発する。

 

「ゼスの未来のため」

「えっ? 突然どうしたですかねー?」

「符号ね。ペンタゴンには仲間同士か確認するための合言葉があるの」

 

 元ペンタゴンであるネイが説明をする中、同じく元ペンタゴンであるバーナードが一歩前に踏み出してその問いに答える。

 

「二級市民の生活のため」

「同士ではないな!」

「……!?」

 

 剣を抜いたペンタゴン兵を見て目を見開くバーナード。

 

「あんな堂々と間違えたんですかねー!?」

「ううん……違う……」

「当時と符号が変わってるみたいね」

「仕方ない。やるぞ」

 

 

 

-女の子刑務所 所長室-

 

「失礼します、所長。侵入者です」

 

 陰鬱とした所内とは正反対の豪華な作りである所長室。そこに警備の者が報告にやってくる。この女の子刑務所には魔法カメラが取り付けられていないため、刑務所内の動向は逐一報告が入るのだ。実はゼス国内にはこのように魔法カメラを取り付けていない施設がいくつもある。魔法大国であるのにおかしいと思う者もいるだろうが、これは今のゼスの内情を良く表している。

 

「あら、命知らずだこと。この刑務所に忍び込んで、生きて帰る事が出来るとでも思っているのかしら。どこのお馬鹿さん?」

「はい、どうやらレジスタンスかと……」

 

 所長のエミがそう口にする。そうだ、二級市民の侵入者など恐れるに足らず。自分たちは優秀な魔法使いなのだから、負けるはずがない。ゼスの腐敗貴族が最も恐れるのは二級市民の侵入者ではなく、自分たちの悪事の証拠が世に出てしまう事。先日のズルキがそうであったように、今のガンジー政権ではそれが切っ掛けで失墜する事が十分に有り得るのだ。そのため、ガンジーが王位についてからすぐに多くの施設が魔法カメラを取り外したという。比較的穏健派であった前所長はそのままにしていたが、先日エミが所長に就任した際に遂にこの女の子刑務所からもカメラが取り外されたのだ。

 

「あの女レジスタンスを奪回しに来たのね……そうね、薬物人間を出しなさい」

「パパイア様から頂いた改造薬を投入した者たちですか?」

「ええ、あの者たちなら並のレジスタンスなど簡単に撃退出来るでしょう」

 

 父親であるラドンが奴隷観察場をパパイアの実験場として提供していたように、エミもパパイアとは多少の繋がりがある。薬物人間もその一つだ。パパイアが囚人に実験中の薬を投与し、その結果として生み出されたのが薬物人間と呼ばれる者たちだ。筋肉は異常な程に盛り上がり、恐るべき怪力で敵を破壊しつくす。だが、異質な薬物を過剰に投与されたその肉体は内部から破壊され、肌の色は禍々しいピンク色に全身彩られている。

 

「(正直気持ち悪いから処分してしまいたいのですけど、四天王であるパパイア様の機嫌を損ねるのは得策ではないですしね)」

「狩りですか。それは是非とも私も参加させて頂きたいものですね」

 

 今回の侵入者との戦闘結果を報告すれば、ますますパパイアとは懇意に出来る。そう考えての命令であったのだが、その会話に割って入ってきた者がいる。報告に来た職員の後ろからひょっこりと現れたのは、サーベルナイトとして多くの二級市民を殺害したハッサム・クラウンだ。そのハッサムに一礼し、報告に来た職員は薬物人間を放つために走っていく。

 

「貴方たち親子にはこの刑務所内での自由を与えているというのに、まだ足りないと仰るの?」

「そういえば父上は?」

「囚人の拷問に勤しんでいるのでしょう。父は拷問好きの変態。息子は殺人狂の変態。とんでもない親子ですこと」

「エミさん、酷い言い様だ……婚約者である私に向かって……」

「元、でしょう?」

 

 ギロリとハッサムを睨み付けるエミ。その目には僅かな愛情も含まれていない。そう、エミはハッサムとの婚約を解消していた。地位を失った男と結婚するつもりなど毛頭ないのだ。

 

「そ、それでも私の愛は……」

「不愉快ですから二度と口にしないでくださいな。貴方がた親子がこの中で自由にしていられるのは、わたくしからの最期の憐れみですから」

「なっ……!? エミさん……」

「エミ様! 侵入者と言うのは本当ですか!?」

「(また五月蠅いのが……)」

 

 呆然とするハッサムを押しのけ入ってきたのは、キューティ・バンド治安隊長とミスリーとかいう機械人形。直接の要請があったため渋々ここ数日の間、彼女他数名の警備隊員の滞在を受け入れているのだ。

 

「(お父様から聞いていますわ。四将軍とも懇意にしているガンジー派の警備隊長。全く、面倒ですわね)」

「ならば、我ら警備隊が出動します。その為に滞在していたのですから」

「いえいえ、わざわざお手を煩わせる気はありませんわ。当方で所有している薬物人間を放ちますので、どうかそのままお休みになっていてください」

「ですが、相手のレジスタンスは手練れの可能性があります。私たちも……」

「この薬物人間は『四天王』のパパイア様のお手製。それに、薬物人間による戦闘結果の報告も『四天王』であるパパイア様から頼まれているもの」

 

 四天王という単語を強調するエミ。その真意が判ったのか、キューティも押し黙る。

 

「まさか、四天王であるパパイア様に歯向かうつもりではありませんわよね?」

「……判りました。待機しています」

「それに、もし万が一の事があっても、このドルハンがいますので」

 

 部屋の隅で待機している男。エミの護衛も担当しているムシ使い、ドルハン。確かにこの男は強い。だが、もし侵入しているレジスタンスがルークたちなのであれば、薬物人間もドルハンも敵ではないだろう。

 

「薬物人間、檻から出しました!」

 

 そうこうしている内に、先程の職員が報告に戻って来る。そうだ、これで心配はいらない。手練れのレジスタンスなどいるはずがない。そうエミが確信する中、ミスリーは密かにこの場を去って行った男の後を追っていった。廊下を駆ける男の腕を取り、引き留める。

 

「どこへ行くつもりですか?」

「……!? ええいっ、離せ!」

 

 腕を掴まれたハッサムが鬱陶しそうにミスリーの手を振り払う。

 

「侵入者を殺してくる。そうすれば、エミさんももう一度振り向いてくれるはずなんだ!」

「何を……そんなもので得られる愛がある訳がありません」

「判った風な口を! 愛など判らぬ機械人形が!!」

「っ……!?」

 

 ミスリーを罵倒し、そのまま走り去っていくハッサム。その背中を、ミスリーはただ呆然と見送るしかなかった。そして、そんな二人のやり取りを影から見ている者が一人。ミスリーに気配すら感じさせず、またエミやキューティにもばれずにこの刑務所に侵入している手練れの忍び。ラガールの懐刀、コード。

 

「(彼は愛というものを何も判っていないな……さて、僕はどう動くべきか)」

 

 ハッサムの背中を汚らしいものを見るような目で見送り、コードは静かに闇の中に消えていった。

 

 

 

-女の子刑務所 二階 廊下-

 

「ランス様。さっきの女性、拷問されていたみたいです」

「うむ、そうだな。あんなおっさんに拷問させるなど勿体ない。さっさと助けて俺様のハイパー兵器をぶち込んでやろう、がはは!」

 

 廊下を駆けながらランスたちが先程広間であった出来事を話す。三階のエントランスからこちらを見下ろしてくる男。それは、先の銀行事件で出会ったズルキ元長官であった。彼は青い髪の美女を人質に取り、降伏しろと迫ってきたのだ。だが、その女性はランスたちの知らない女性。何故か知り合いであるとズルキは勘違いしていたのだ。だが、知り合いでないと判り、人質として機能しないと判ったズルキは女を連れてエントランスから姿を消してしまった。良く分からない出来事であったため、リズナが疑問を口にする。

 

「でも、どうして知り合いだと思っていたんでしょうね?」

「さあな。あのおっさんの勘違いだろ。むっ!」

「あ、志津香さんたちです」

 

 ランスたちの前には、丁度二階に上がってきたブラック隊の姿があった。だが、隊長であるルークの姿が見えない。

 

「おい、ルークはどうした?」

「えっ?」

「はい、そうですね。ルークさんの姿が見えません」

「どこへ行ってしまったのでしょう……」

 

 きょろきょろと辺りを見回すランス、シィル、リズナの三人を見て口を開けたまま固まるかなみ。いや、かなみだけではない。ブラック隊の面々も、グリーン隊の他の面々も一様に言葉を失っている。その者たちの視線は、何故か満足げな表情を浮かべている一人の仮面戦士に向けられていた。

 

「……まあ、判らないのも無理はないか。俺だ」

「なん……だと……」

「る、ルークさんですか!?」

「そんな……全く気が付きませんでした……」

 

 驚愕するランスたちを見て頭が痛くなってくる志津香。どこから突っ込むべきか。少し考えた後、「もういいや」と彼女は突っ込みを放棄した。

 

「ゼスには知り合いも多いから、一応変装をな」

 

 そう言いながら仮面をつけ直すルーク。すると、ランスが首を傾げる。

 

「ん? なんか、引っかかるものが……」

「ランス様もですか? 私もです。どこかで見た事があるような……」

「(そうか。リズナと違って二人とはハピネス製薬の時に会っているからな……)」

 

 軽率な行動だったかと眉をひそめるルーク。ここは何とか言いくるめるしかない。

 

「まあ、よくある格好だからな」

「そんな変態な格好、よくある訳ないでしょ!」

 

 いい加減我慢の限界だった志津香がルークの足を踏み抜き、ルークが悶絶するのをよそにカオルと情報の共有を始めた。

 

「牢獄に続く扉はやっぱり開かなかったわ」

「そうですか。こちらはこれといって情報は……いえ、先程広間にてズルキ元長官と会ったのですが……」

 

 一応、先程のズルキの件も話しておくカオル。こちらには何故ズルキがあの女性の知り合いであると勘違いしたか見当がつかなかったが、ルークたちは何か情報を持っているかもしれない。そして、その予感は的中した。

 

「成程。恐らくズルキは俺たちをペンタゴンと勘違いしたんだろう」

「ペンタゴンと? どういう事ですか?」

 

 復活してきたルークが懐からカードを取り出し、カオルに手渡す。

 

「ペンタゴンカード……それでは、ペンタゴンもここに……」

「ん? なんだこれは? ペンタゴンってどっかで聞いた事があるぞ」

 

 ランスが横から覗き込むと、そのカードには会員ナンバーと名前が記されていた。カオルがルークにカードを返しながら説明をする。

 

「ペンタゴンはゼス最大のレジスタンス……いえ、テロリスト組織です」

「テロリスト?」

「魔法使いに対しての怨恨のみで動いている暴力集団です。彼らの最終目的は魔法使いに変わってこの国の政権を牛耳る事」

「アイスフレームとは随分違うんですね」

 

 リズナの質問に厳しい顔で頷くカオル。心底彼らの事が嫌いなのだろう。そんな彼女に代わり、ルークやセスナが説明を続ける。

 

「他のレジスタンスに比べて破壊活動が多いのが目立つな」

「巻き込まれて死傷する一般市民も多い……」

「おらの近所の人もそれに巻き込まれて足が無くなっただ」

 

 悲しげに語るロッキー。そう、二級市民全てがレジスタンスを応援している訳ではない。貧しくとも今のままの生活で良いと思っているのに、無理矢理戦いに巻き込まれて嘆いている二級市民も少なくないのだ。

 

「アイスフレームには元ペンタゴンも多いわ。私とシャイラとセスナ、後はインチェルや珠樹もその一人。みんなペンタゴンのやり方についていけなくなったのよ」

「…………」

「なんて奴らだ。クズの集まりだな」

「全員が全員、クズって訳じゃないんだけどね……」

 

 自分たちがペンタゴンにいた際に世話になったフットの顔を思い出し、少しだけ難しい表情を浮かべるネイ。後ろでは俺も元ペンタゴンだとアピールしているバーナードの姿があったが、悲しいかな誰にも気付かれていなかった。

 

「しかし、ペンタゴンがここに来ているというのは少し危険ですね。彼らの活動は過激です。毒ガスや爆弾などが用いられるかも」

「なんだとっ!? それではエミちゃんが危ないじゃないか! 急がねば!!」

「え?」

「(まあ……少しおかしな任務だと思っていたけど、そういう事だったのね……)」

「(成程な。しかし、そうなると任務を決める主導権は既にウルザではなくランスに……)」

 

 ランスの失言を当然カオルとルークは聞き逃さない。囚人解放という任務に疑問を持っていた二人だったが、これで合点がいった。それと同時に、ウルザを信用していないルークは更にもう一つの疑問の手掛かりを掴む。

 

「(アベルトの調査が終わった後、かなみに探ってもらうか……)」

「行くぞ! もたもたするな!」

「そうね。毒ガスなんか撒かれたら、こっちもただじゃ済まないもの」

 

 理由はどうあれ、ランスの意見に頷く一同。合流した一同は廊下を駆けていき、三階へと上がる。そのまま先程ズルキを見たエントランスの方向へと駆けていくルークたち。道中現れる警備兵器は敵ではない。これだけの手練れが揃っているのだから。そして目的の場所に到着したが、そこにいたのは別の人物。その姿を見た瞬間、プリマが目を見開いて声を荒げる。

 

「サーベルナイト!!」

「また会ったな、汚い手で私を捕まえたレジスタンス共め」

「あ? 誰だっけ?」

「ランス様、サーベルナイトです。イタリアでルークさんたちが捕まえた……」

「あー、知らん。ルーク、お前の客だ」

 

 耳を穿りながら一歩横にずれるランス。困ったような顔をしながらルークは一歩前に出てサーベルナイトの姿を見る。切り落とした右腕には既に義手がはめられている。流石は貴族、仕事が早い。

 

「汚い手を使った覚えはないんだがな」

「あの時の私は油断していただけだ。本来の私の実力はあの程度ではない。貴様は準備が出来る前の私を卑怯にも襲ったに過ぎんのだ」

「それじゃあ、今度は準備が出来るまで待っていればいいのか? 出来たら呼んでくれ」

「き、貴様……」

 

 ハッサムを挑発しながらも部屋の中を見回すルーク。それなりに広い部屋であり、部屋の隅には人が隠れられそうなスペースがある。そして、その場所や部屋の外から気配もする。ランスとかなみに視線を送ると、二人とも気が付いているようであり、ランスからは馬鹿にするなと一睨み、かなみは静かに頷いて周囲の仲間に小声で知らせていた。そう、この挑発は時間稼ぎ。ハッサムではなく、こちらの戦闘態勢を整えるためのものだ。

 

「切り刻んでくれる……男は皆殺しにし、女は父上への手土産としてくれる! 父上の拷問を受け、早く殺してくれと懇願するがいい!」

「準備は出来たのか? それで……」

 

 瞬間、ルークの声がフッと重みを増す。

 

「次は、左腕を斬り落とせばいいのか?」

「ひっ……お、お前ら、やれ!!」

 

 強烈な殺気を当てられて狼狽したハッサムが叫ぶと、部屋の隅と外から一斉に薬物人間が襲い掛かってきた。全身ピンク色の巨体という気持ちの悪い見た目に驚く一同であったが、この展開は既にかなみから聞いていたため焦る事無く散開して戦闘に移行する。

 

「珍しいわね」

「奴が小心者というのは以前に会って判っていたからな。そういう奴には威圧するに限る」

 

 志津香の問いにそう答えるルーク。イタリアでハッサムの腕を斬りおとした際、奴はまだ戦闘中だというのに母親に助けを乞いながら泣きわめいていた。成程と頷く志津香。先程まで威勢の良かったサーベルナイトが、今はこそこそと薬物人間の後ろに隠れている。とはいえ、ルークであれば別に威圧せずとも楽勝であったはず。となれば、彼女の為の行動だろうか。

 

「彼女に敵討ちさせるつもり?」

「さて、どうするかな……」

 

 チラリとプリマに視線を向けるルーク。イタリアで喚いている彼女を見た時から感じていた。彼女は違う。覚悟が足りないとか、そういう話ではない。だが、自分たちとは違うのだ。

 

「(くそっ……こいつらが邪魔で、サーベルナイトに近づけない……)」

「てりゃー!!」

「氷の矢!」

「よっと……結構体力あるね」

 

 プリマが鞭でしばき、シトモネが氷の矢を放ち、トマトとネイが剣で斬りつけてようやく一体の薬物人間を倒す事が出来た。そんなタフな連中が、まだ十体以上部屋の中にはいる。

 

「ふん!!」

「うぃ……」

 

 そんなタフな連中を、ランスとセスナは一撃で屠っていた。ジト目で二人を見るネイとシトモネ。

 

「ちょっとへこむわよね……」

「あの火力は憧れますよね」

「ふっふっふ。トマトは実は火力もあるんですかねー。今は諸事情で使えませんですけど」

「何よそれ?」

「近々ご披露しますですかねー。貴女とは違うんですかねー!」

「あ、ちょっとイラッとしたわ。帰ったら覚えてなさいよ」

 

 とはいえ、こちらも軽口を叩く余裕がある。着実に数を減らしていく薬物人間を見て焦ったのか、ハッサムは更に狼狽する。

 

「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な! 四天王のパパイア様が囚人を改造して作った薬物人間が何故ここまで苦戦する!」

「(パパイア……成程、似ているはずだ……)」

 

 目の前の薬物人間は奴隷観察場で見た合成魔獣に、更に言えばかつてラーク&ノアと共に倒した魔獣カースAに似ていた。どれもパパイアの生み出した怪物だ、似ていて当然だろう。

 

「囚人を……って事はこの怪物、元は人間だすか!?」

「そんな……」

「志津香、元に戻すのは?」

「……専門じゃないから断定は出来ないけど、多分無理だと思う」

 

 丁度一体倒したところであったロッキーとリズナが声を漏らす。すると、床に倒れ込んだ薬物人間がゆっくりと言葉を発した。

 

「ギギギ……」

「え?」

「これで……死ねる……ありがとう……」

「…………」

 

 そう言い残し、その薬物人間は動きを止めた。ロッキーの胸に湧いてきたのは、悲しみと怒り。囚人とはいえ、このような実験台に使われていい命ではない。二級市民である事は、これ程までに罪なのか。

 

「くっ、くそ! やれ! 殺せ!!」

 

 ハッサムの合図を受け、最後に残った六体が一斉に襲い掛かってきた。だが、その命は一瞬で狩られる。

 

「ランスアタァァァック!!」

「真滅斬!」

「ファイヤーレーザー!」

「失礼します」

「…………」

「ふんっ……」

 

 ランスとルークが迫ってきた薬物人間を両断し、志津香が強力な魔力で燃やし尽くす。カオルは柔術でその巨体を反転させ頭から勢いよく叩き落とし、その首の骨を折る。かなみは高く跳び上がって薬物人間の後ろに回り込み、その首を包み込むように足を掛けて腰を落としたかと思うと、そのまま薬物人間の首を掻っ切った。セスナも静かにその頭をハンマーで叩き潰す。六人ともが、一撃のもとに薬物人間を屠っていた。

 

「ひっ……き、貴様らには情というものがないのか!?」

「(違います……せめて苦しませずにという思いが皆さんには……)」

 

 リズナが六人を見る。実際、全員が全員そういう思いを抱いていたかは定かではないが、ハッサムの言うような事は絶対にない。そう確信しているリズナ。

 

「くっ……」

 

 これで薬物人間は全滅。最早自分が戦うしかない。慌てて剣を握り直したハッサムであったが、その右腕がまたも宙を舞った。あの時と同じ、違うのはそれが義手であるという事だけ。

 

「真空斬」

「ぎゃ……ぎゃぁぁぁぁ!! い、痛いぃぃぃぃ!!!」

「また右腕になったね」

 

 メガデスが皮肉交じりにそう笑う。斬り落とされた右腕から血をまき散らしながら、ハッサムは床にはいつくばり泣き喚く。

 

「痛い……痛いよぉ……なんで、なんでこんな……」

「なんでも何も、お前が勝負を挑んできたんだろうが。まあいい、そんなに痛いなら俺様がトドメを……って、おい」

「…………」

 

 ランスがハッサムにトドメを刺そうとするが、そのランスよりも先にハッサムに近寄っていく者がいる。プリマだ。その手には、恐らく準備していたと思われる短剣が握られていた。目の前で喚くハッサムを見下ろし、握る短剣に力がこもる。

 

「みんなの仇……」

「うぁぁ……あぁぁ……」

 

 これを振り下ろせば、全てが終わる。がさつだが、気の良い連中であったかつてのブラック隊の仲間たち。その敵討ちが出来るのだ。それは判っている。

 

「…………」

 

 なのに、振り下ろせない。プリマの頬を汗が伝う。この男を殺したいほど憎んでいたはずなのに、何故自分は剣を振り下ろす事が出来ないのか。

 

「復讐でしか前に進めないのならば、俺はそれを否定するつもりはない」

 

 立ち尽くすプリマの後ろから、ルークの声が響く。それはかつて、闘神都市でイオに言ったものと同じ言葉。復讐でしか解消出来ない思いもある。冒険者という立場上、多くの者を殺めてきた身であり、自身も復讐に身を置く者として綺麗事を言うつもりはない。

 

「だがお前は、そんな事をしなくても十分前に進んでいけるように思えたがな」

 

 息を呑み、後ろを振り返るプリマ。一番に目に飛び込んできたのは、メガデスを始めとしたかねてからのアイスフレームの仲間たち。強引に絡んでくる彼女を苦手に思っていた。だが、今思い返せばあれは彼女なりに気を使ってくれていたのかもしれない。いや、メガデスだけではない。旧ブラック隊壊滅後、一人気を張る自分をアイスフレームの仲間たちはどれだけ支えてくれていただろうか。

 

「まあ、俺様は復讐なんかくだらないと思っているがな。終わった事にいつまでも悩むなど時間の無駄だ」

「……まあ、隊長はそうだろうね」

 

 静かな声で返事をするプリマ。気のせいか、少しだけ笑みを浮かべているように見えた。そして、もう一度ハッサムに振り返ったかと思うと、その顔面を思い切り蹴り飛ばした。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 悲鳴を上げながら部屋の入口の方に吹き飛んでいくハッサム。それと同時に、プリマが大きくため息をついた。そのプリマにゆっくりと近づいていくメガデス。

 

「ふぅ……」

「すっきりした?」

「そうね……うん、終わったかな……」

「ん。なら、いーんじゃない?」

「それでは、これはもう必要ありませんね。預かっておきましょう」

 

 いつもより少し優しくプリマの背中を叩くメガデス。これでプリマの復讐は終わったのだ。その手に握られていた短剣をタマネギが受け取る。

 

「うっ……」

 

 そんな中、ボロボロの状態のハッサムがよろよろと立ち上がる。鬱陶しそうな視線を向けるランス。

 

「ええい、鬱陶しいな。負け犬はさっさとどっかに行け」

「わ、私は……選ばれた者なんだ……こ、こんな二級市民共に負けるはずが……」

 

 直後、ぐしゃりという肉の潰れる音が部屋の中に響き渡った。つい先ほどまで生きていたハッサムが、ルークたちの目の前で二つの巨大なブロックに左右から押し潰されたのだ。いや、正確には違う。彼の直接の絶命原因は押し潰した事ではなく、そのブロックについている太い針に串刺しにされた事であった。

 

「なっ……」

「ひっ……」

「ひぇぇぇぇ! なんまいだぶ、なんまいだぶ……」

 

 女性陣やロッキーが悲鳴を上げる中、ランスとルークは部屋の入口に立つ男を睨み付けた。ハッサムを串刺しにした巨漢の男。

 

「なんだ? お前は」

「…………」

 

 ランスの問いに男は答えず、自分の武器に引っかかったままになっていたハッサムの亡骸をぶんぶんと振って床に落とす。べちゃり、という嫌な音が聞こえてきた。

 

「これでいいんですよね?」

「ああ。ご苦労、キングジョージ」

「ありがとうございます、提督様。でも俺、言われた通りにクズを掃除しただけなんで、褒められるような事は……」

「確かに魔法使いなどクズに過ぎません。ですが、それを一つ一つ片づけていく努力こそが重要なのです。この調子でお願いします」

「はい、提督様。俺、提督様の言いつけを守って頑張ります」

 

 キングジョージと呼ばれた巨漢の男の後ろから姿を現した数名の者たち。その殆どがペンタゴンの服を着込んでいる事から、この者たちは先程あったペンタゴン部隊の本隊といったところか。

 

「(……キングジョージか。強いな)」

 

 ルークは見抜く。先程戦った一般兵と違い、キングジョージは間違いなく相当の手練れである事を。そして、その男が提督と呼んだ男。白髭を蓄えた初老の中年。他の構成員とは違い、白い服に身を包んでいる。奴がこの部隊を率いているのだろうか。すると、ネイがその男を見ながら言葉を発する。

 

「ネルソン……」

「ん……? ほう、三人娘ではないか。という事は、アイスフレーム、ウルザの手の者たちか」

 

 こちらを値踏みするようにグリーン隊とブラック隊の面々を見回すネルソンと呼ばれた男。一体この男は何者か。その疑問をルークがネイに尋ねるよりも早く、それを察したセスナが言葉を発する。

 

「ネルソン……ペンタゴンのリーダー……」

「この男が……」

 

 ペンタゴンのリーダー、ネルソン。この男もまた、ゼス崩壊の一端を担う事になる。

 

 




[人物]
エミ・アルフォーヌ
LV 2/25
技能 魔法LV0
 女の子刑務所の所長。教育長官であるラドン・アルフォーヌの娘であり、二級市民をゴミ同然のように思っている腐敗貴族の一人。魔法の腕自体は一般的なものだが、両親のコネを駆使し、上級学校卒業後すぐに所長へと就任した。元婚約者のハッサムへの興味は既に無い。

ドルハン・クリケット
LV 37/37
技能 ムシ使いLV1
 エミの部下であるムシ使いの生き残り。エミからは辛く当たられているが、その忠誠心は本物。また、実力もかなり高い。


[モンスター]
薬物人間
 パパイアの実験により生み出された存在。膨れ上がった筋肉や人としての原型をとどめていない顔などからは判別出来ないが、元は女囚を改造したものであるため、その性別は全て女性である。


[技能]
ムシ使い
 ムシ使いとしての適性を表す技能。高ければ高いほど、体内のムシを自由自在に扱え、また取り込めるムシの数も増える。


[アイテム]
青の鍵
 簡易的な扉を開ける事の出来るアイテム。他にも赤の鍵や緑の鍵などがあり、扉のタイプによって使い分ける。レンジャーにとっては必需品。


[その他]
ムシ使い
 ゼスの先住民族の一つ。体内にムシを宿す事により様々な能力を得る事が出来、高い戦闘能力を誇っていた。だが、その力を疎ましく思った魔法使いたちにより長い間差別を受け、GI1011の大粛清により皆殺しにされた。公式には絶滅とされているが、ドルハンのように僅かな生き残りも存在している。

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