ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第17話 怨嗟

 

-カスタムの町 臨時宿泊施設-

 

「頭いたっ……」

 

 志津香が目を覚ますと、激しい頭痛が襲ってくる。それは、二日酔い特有の痛みだ。痛む頭に手を当てながら辺りを見回すと、そこは酒場に作られた臨時の宿泊部屋であった。どうやらマリアが連れてきてくれたらしい。

 

「……駄目だわ。思い出せない」

 

 必死に頭を働かせるが、駄目。昨晩の記憶がまるでない。どうやら飲み過ぎてしまったようだ。のそりとベッドから抜け出し、部屋を出て営業場の方へと向かう。既に何人かの客が朝食を取っているが、志津香と同じように二日酔いで頭を抱えている者も多い。やはり昨晩は皆はしゃぎすぎたようだ。だが、無理もない。ようやく町に平和が戻ったのだから。と、奥の席から手を振っている者がいる事に気がつく。マリアだ。志津香は頭の痛みに耐えながら、ゆっくりとそちらに近づいていく。

 

「おはよう、志津香」

「おはよう……」

 

 酷い目つきと沈んだ声でそう返してくる親友の姿にマリアは少し額から汗を流し、心配そうに問いかける。

 

「調子悪そうね」

「最悪ね……頭は痛いし、昨晩のことは何にも覚えてないし」

「あはは……そうなんだ……」

 

 そう言って志津香はマリアの前の席に座る。マリアの苦笑いが少しだけ気になったが、今は深く考えられる状態ではない。とりあえずエレナに水を持ってきて貰おうと思ったが、志津香が言うよりも早くエレナが水を持ってこちらに歩いてくる。流石は酒場の看板娘だ。

 

「はい、水。昨晩は随分とはしゃいじゃったみたいね。あまり気にしない方が良いわよ」

「あっ!? エレナさん、それは……」

「……どういうこと?」

 

 エレナは志津香が気に病んでいると思ってフォローしてくるが、昨晩の事を覚えていない志津香にとってその行動はまるで逆効果であった。眉をひそめながらマリアの方に向き直る志津香。言いしれぬプレッシャーにマリアは気圧されそうになる。

 

「ねえ、マリア。私が昨晩どんな状態だったか聞かせて貰える?」

「え、えっとね……それはまた今度に……」

「聞かせて貰える?」

「……落ち着いて聞いてね」

 

 あまりの迫力に、いつの間にかエレナが逃げていた。マリアは心の中でズルイと思いつつ、これは隠しきれないと観念して昨晩のことを話し始める。

 

「ちょっとね、普段と違ってニコニコしていて……」

「それで……?」

「町長さんやルークさんとも仲良く話を……」

 

 親友のことを思い、極力オブラートに包んで説明を続けた。だが、その努力は無駄になる。志津香の様子を見に酒場にやってきたミリが、その姿を見るや否や志津香に向かってこう言ったのだ。

 

「お! なんだ、元気そうじゃないか。昨晩は凄かったな。真っ赤な顔で騒ぐわ、絡むわ、爆笑するわ。抱きつかれたルークが困っていたぞ」

 

 その発言になぜかマリアの血の気が引く。すぐさまミリに黙っているようにとジェスチャーを送るが、時既に遅し。志津香は机に突っ伏しながら、二度と酒は飲まないようにしようと心に誓うのだった。

 

 

 

-カスタムの町 街路-

 

 ルークが町長の家に向かって町の中を歩く。一応事件は解決したが、消えたラギシスの問題が残っていたため、それを今後どう対応していくかを話し合おうと思っていたのだ。丁度酒場の前を通りかかった際、店の中からマリア、ミリ、ミル、そして俯いた状態の志津香が出てきた。

 

「おはよう。みんなで朝食でも取っていたのか?」

「あ、ルークさん。おはようございます」

「よ。俺の後にも真知子と飲んでいたのに、あんまり引きずってはいないみたいだな」

「それなりに強い体質みたいでな」

「へー。どこかの誰かさんとは大違いだね」

「どこかの誰か? ああ……んぐっ!?」

 

 挨拶をしながら四人の方に近寄っていくルーク。ミルの言葉に一瞬眉をひそめるが、すぐに誰の事だか見当がついて静かに頷く。瞬間、その右足を志津香が思い切り踏みつけてきた。激痛に声を漏らしながら志津香に向き直ると、志津香は物凄い形相でこちらを睨んでいた。

 

「……昨日のことは記憶から抹消しなさい。死にたくなかったらね」

「ん? 別に俺は気にしていないんだがな……」

「私が気にするのよ!!」

「お、仲良いな」

「おねえちゃん、あれは仲良いって言うの?」

「あはは……まあ、元気が出たみたいで何よりね……」

 

 志津香のヤクザキックがルークに飛んでくる。その光景を見ながらミリは笑い、ミルは首を傾げ、マリアは乾いた笑みを浮かべていた。しばしその場で談笑する五人。少し前まで命がけで争っていた者たちとは思えない平和がそこにはあった。だが、それはすぐに打ち破られる。

 

「あれ? ランだ」

「ん?」

 

 ミルの声に全員が視線をそちらに向けると、町長の家の方から慌てた様子で駆けてくるランの姿が見える。ただ事では無さそうな表情だ。すぐにマリアがランに向かって駆けていき、他の四人もそれに続く。

 

「どうしたの、ラン? そんなに慌てて」

「はぁ……はぁ……良かった、みんな揃っている……今すぐ町長の家まで来て! 大変なことになったの!」

 

 

 

-カスタムの町 町長の家前-

 

「フィールの指輪を奪われたですって!? あんた、何考えているのよ!」

 

 町長の家に志津香の怒声が響く。ランに連れられて町長の家までやってきた一行は、ランスから昨晩の報告を受けたのだ。

 

「というか、いつの間に私の指輪持って行ったのよ!?」

「ランスの馬鹿! 40人分の魔力を吸ったあの指輪はとんでもない魔力を秘めているのよ。そんなものがラギシスの手に渡ったら……」

「ランスのバカ、バカ、バカ!!」

「いた、いたた。そんな怒るな」

 

 指輪の恐ろしさを重々承知している四魔女の怒りは特に凄まじく、志津香、マリア、ミルの三人はランスに食って掛かる。先に事のあらましを聞いていたランは食って掛かるようなことはしないが、ランスを非難するような目で見ている。やはり、内心では相当怒っているようだ。

 

「まあ、起こっちまったもんはしょうがないだろ。お前らもそんなにランスを責めるな。チサの中にラギシスがいるのなんか、誰も気が付いていなかったんだからな」

「んっ……」

 

 四魔女の面々と違い、ミリは達観した様子で事の成り行きを見守っていた。今更責任を追及しても詮無きこと。それよりも、今はラギシスをどうするか語り合うべきなのだ。

 

「やはり生きていたか、ラギシス……」

 

 ルークは自分の迂闊さを後悔していた。ラギシスに対する懸念はあったし、チサがラギシス邸で見つかった話は聞いていた。もっとチサの行動に注意を払っていれば、この事態は回避できたかもしれない。

 

「シィルちゃん、チサちゃんは?」

「奥で寝込んでいます。大分衰弱している様子でしたが、命に別状はありません」

「ガイゼル町長は?」

「奥で寝込んでいます。チサさんの処女がランス様に奪われたのが相当ショックだったらしく……」

「町長……」

 

 マリアが頭を抱える。気持ちは判らなくないが、状況を考えて欲しい所だった。

 

「ラン、町の人はこの事を?」

「まだ殆どの人が知りません。パニックになるのを恐れて、ガイゼル町長から情報を止めるよう言われました」

「なんだ、町長もちゃんと働いているじゃないか」

 

 ミリが驚いたように声を漏らす。親バカではあるが、十分に優秀な町長である事を再認識する一同。

 

「だが、いざとなれば町の住人を避難させる必要が出てくる」

「はい。役場の人間の一部には事情を話し、その時が来ればすぐにでも町中に伝えられるよう準備を進めています」

「手回しが早いな。これも町長の?」

「いえ、これは私が判断しました」

「良い判断だ」

 

 ランの適切な判断にルークが感心する。存外、人の上に立つ器なのかもしれない。

 

「となると、この事を知っているのは……?」

「ここにいる者と、ガイゼル町長、チサさん、亮子さんたち役場の一部の人間、ロゼさん、真知子さんで全部です」

「ロゼと真知子はなんで?」

「真知子さんはラギシスの居場所を探って貰うために打ち明けました。ロゼさんはたまたまその場にいて……」

 

 志津香の問いにランが答える。指輪と共に消えたラギシスの行方は早急に掴む必要がある。となれば、この町で一番の情報屋である真知子に頼むのは適切な判断と言えるだろう。もう一人の情報屋である今日子がいないのだから尚更の事だ。

 

「そういえば、朝にロゼとすれ違ったよ。ちょっとカイズまで買い物に行って来るって言ってた」

「逃げたな……」

「逃げたわね……」

 

 ミルの言葉にランスとマリアの言葉がハモる。元々カスタムの町になんの執着もない人物であり、住民とも適当な関係に済ませている節があるロゼ。このような事態になれば逃げ出すのは当然と言えるだろう。

 

「ですけど、現実的な判断とも言えます。あまり責めるのは酷でしょう」

「真知子さん!? ラギシスの情報は?」

「勿論、それをお伝えに来ました」

 

 そのとき、部屋に真知子が入ってくる。どうやらラギシスの行方を掴んだようだ。机の上にカスタムの町周辺の地図を広げ、全員がそれに注目する。

 

「青白い光がこちらの森の方に向かっていくのを、剣の素振りをしていたトマトさんが目撃しています」

「ここは……」

「私たちが魔法の修行で良く使った森ね。割と清らかな土地で、魔力の流れが良い場所よ」

 

 真知子が指し示したのは、町の近くにある森。そこは、ラギシスと四魔女たちが魔法の修行に良く使っていた場所であった。昔を思いだしてラギシスへの恨みが再燃したのか、マリアが険しい顔になる。志津香は顎に手を当て、何故ラギシスはこの場所に向かったのか思案し、一つの結論に至る。

 

「……多分、まだ指輪の力を完璧には扱いきれていないんだわ」

「この森で魔力に慣れるつもりって事?」

「なるほど、筋が通るな。それ以外にこんな場所にいく理由も思いつかないし、何よりそんな事をダラダラ考えている時間はない。ラギシスがここにいる。情報としてはそれだけで十分だ。ありがとう、真知子さん」

「いえ……」

 

 そのとき、志津香がバン、と勢いよく机を叩いた。その目に宿るは、確かな殺意。

 

「……マリア、ミル、ラン、行くわよ! 私たちの手でラギシスをもう一度殺しに!」

「うん!」

「絶対に許さないんだから!」

「今度こそ……必ず……」

 

 志津香の言葉に三人が頷く。騙されていたとはいえ、フィールの指輪を完成させてしまった者として、ラギシスの弟子として、四魔女で決着を付けるつもりらしい。だが、二人の人物が一歩前に出る。

 

「水くせーな。俺も行くよ。妹だけ向かわす訳にはいかないだろ」

「このまま放っておける存在ではないな。最後まで付き合おう」

「ミリ……ルークさん……」

 

 志津香の言葉に反応したのは三人だけではない。ミリとルークも、共にラギシスと戦う覚悟は出来ていた。お節介ねと志津香が小さく呟くが、二人を止めるつもりはないらしい。だが、ランスだけが憮然とした態度のまま口を開く。

 

「面倒臭いから俺様は行かんぞ。俺様の仕事は四魔女退治とこの町の開放だ。後は知らん」

「でも、ランス様……」

「それに、40人分の魔力を持った相手だろう? お前たちに敵うような相手じゃないぞ。俺様程ではないが多少は強いルークが協力したとしても、死ぬかもしれんぞ」

「それでも、行かないといけないのよ!」

 

 ジロリとランスを睨み付けた志津香は、そのままマントを翻して颯爽と歩き始めた。ミリ、ミル、ランもそれについて行く。ランとミルは悲しそうな瞳を、ミリは静かな笑みをランスに向けながらその横を通り過ぎていった。

 

「止めたらどうだ? マリア、ルーク」

「そんな訳にはいかないわ。ラギシスを放っておけないもの」

「奴を放置するのは危険だからな。指輪に慣れていない今のうちに叩いておくのも冒険者の勤めだ。だが、ランスの判断を否定するつもりはない。そちらの言っていることも正しい。仕事でもないのに命をかけてまでやることではないからな」

「皆さん、ご武運を……」

「ありがとう。真知子さんも危ないと思ったらすぐに避難してくれ」

 

 ランスがマリアとルークに話を振るが、どうやら二人とも止める気はないらしい。戦闘能力の無い真知子は一緒に行くことは出来ないが、精一杯の気持ちでみんなを見送っていた。

 

「……シィル、帰り支度をしておけ。そろそろアイスの町に帰るからな」

「ランス様……」

 

 シィルが悲しそうな表情でランスを見つめる。どうやらシィルはみんなに協力をしてあげたいと思っている様だ。だが、主人のランスの意見には逆らえない。ランスが行かないと決めたのであれば、それに従うしかないのだ。

 

「今までありがとうね、ランス。シィルちゃんも元気でね。バイバイ」

「ま、俺が誰も死なせはしないさ。またその内、冒険を一緒にすることもあるだろ」

 

 そう言い残し、マリアとルークは軽やかに志津香の後に付いていった。

 

「ふん、馬鹿な奴らだ……」

「…………」

 

 

 

-カスタムの町近隣の森-

 

「こっちよ。遅れないで」

 

 六人はラギシスがいるという森の中までやってきていた。志津香が先頭に立ち、ドンドンと森の中に進んでいく。曰く、最も魔力をこめやすい清らかな洞窟がこの先にあるとの事。ミリ、ミル、ランがその後に続き、少し離れてマリアとルークがついていく。マリアはゴロゴロと砲台を乗せた台車を転がしており、ルークはそれを後ろから押していたため一番後方にいたのだ。

 

「すいません、ルークさん。手伝って貰っちゃって」

「気にしなくていい。それで、これは一体何なんだ?」

「よくぞ聞いてくれました! これはマレスケ。長距離用のチューリップ2号です。指輪に魔力を吸われすぎた私が付いて行っても足手まといだからね。ちょっと離れた場所からこれでみんなを援護するわ」

 

 ルークの問いにメガネをキラリと光らせるマリアだったが、状況が状況であるためマニアックな説明は自重し、作戦の概要だけを話す。

 

「なるほど。だが、離れた位置からでラギシスの正確な位置は判るのか?」

「GPSっていう物が手に入れば良かったんですけど、手に入らなかったんで志津香の魔法で代用する事にしました。ラギシスに志津香が目印となる魔法を掛けて、その目印から発せられる魔力をターゲットにしてマレスケを発射できるようになっているんです」

「因みに、私が倒れたらその魔法の効力は無くなるわ。前衛としてしっかり守ってよね」

「了解だ」

 

 チューリップ1号よりも遙かに巨大な砲台であるマレスケは、その分威力も期待できる。となれば、志津香は絶対に倒れる訳にはいかない。すると、少し開けた場所に出たと思うと、キョロキョロと辺りを見回しながら志津香が口を開く。

 

「この辺りが広くてよさそうね。マリア、ここから援護して」

「任せて! 志津香もターゲットの魔法をよろしくね」

「当然。頼んだわよ」

「そういえば、ランとミルは吸われた魔力は大丈夫なのか?」

 

 マレスケを台車から降ろしながらルークが二人に尋ねる。指輪を外すときにこの二人も魔力を相当量吸われているはずだ。魔法を使えないのであれば、マリアと共にここに残った方が良い。だが、ランとミルはルークに向き直ってその問いに答える。

 

「かなりの量の魔力を吸われましたが、魔法を使えなくなるほどではありませんでした。それに、私は一応剣も使えますし」

「幻獣さんの出せる量は減っちゃったけど、少しならまだ出せるよ」

 

 どうやら魔法を使えなくなるほどにまで吸われてしまったのはマリアだけらしい。運が悪かったのか、元々の魔力量に差があったのか、そういう体質なのか。理由は定かではないが、二人がついてくることは確定らしい。

 

「ミル、無理はするなよ。危なくなったら姉ちゃんの後ろに隠れてな」

「うん。でも、ラギシスは絶対に許せないから……」

 

 ミリがミルの頭をくしゃくしゃと撫でながらそう口にする。危険な戦いではあるが、ラギシスを倒したいというミルの気持ちを汲んでの決断であった。と、台車から降ろしたマレスケを弄くっていたマリアが志津香へと声を掛ける。

 

「志津香、調整が必要だからマレスケが撃てるようになるまでもう少し掛かるんだけど……」

「待てばその分ラギシスが指輪に慣れるわね……いいわ、先に戦っていましょう。準備が出来次第、援護をお願い」

「その方が良さそうだな。頼りにしているぞ、マリア」

「任せて!」

 

 こうして、マリア一人を森の広場に残し、五人で森の奥へと進む。二、三分程歩くと、洞窟が見えてくる。どうやらあれが志津香の言っていた洞窟のようだ。

 

「……いるな」

「判るの?」

「ああ、気配を感じる」

 

 ルークが確かに感じ取った禍々しい気配。それは間違いなく、指輪の力で強化されたラギシスのもの。

 

「なんとかして外に誘き出したいところね。洞窟の中じゃあ、マレなんとかの砲撃が届かないから」

「親友の発明品くらい、ちゃんと名前を覚えてやれよ……」

「んっ!? みんな、何か来る!」

 

 志津香の言葉にミリが苦笑すると同時に、ランが叫ぶ。突如洞窟の前の時空が歪んだのだ。全員が身構えながらそちらを凝視すると、時空の裂け目からヌッと右腕が出てくる。その指に填められているのは、四つの指輪。

 

「ラギシス……」

「……なんだ、貴様らか」

 

 志津香が目を見開いていると、ラギシスが時空の裂け目から出てくる。こちらを一瞥し、興味なさそうな口調でそう宣う。

 

「貴様らの役目は終わった。何故まだ私の前に立つ」

「ラギシス、観念しなさい!」

「貴様を野放しにしておくのは危険なんでな」

「俺の可愛い妹を随分と弄んでくれたみたいじゃないか?」

 

 ラン、ルーク、ミリの三人が剣を握り、ラギシスにその切っ先を向ける。その動きを見たラギシスは目を丸くし、耐えきれないとでも言うように吹き出す。

 

「ふはははは! 無限の魔力と生命力を持つこの私に楯突くつもりか!? よほどの命知らずらしい」

「もう一度殺して、今度こそ地獄に送ってあげるわ!」

「幻獣さんの力は無敵なんだから!」

「おお、ミル、ラン、志津香。私の可愛い娘たちよ。命だけは助けてやったというのに……」

 

 小馬鹿にするような大げさな仕草を取るラギシス。だが、娘という言葉に志津香が過敏に反応し、キッとラギシスを睨み付ける

 

「私の父は一人だけよ! あんたなんかじゃない!!」

「くくく、そうか……ならば、殺されても文句は言うまい!!」

 

 その言葉が開戦の合図となった。全員が臨戦態勢に入る中、まずは純粋な剣士であるルークとミリがラギシスに向かっていく。その背中に向かって志津香が声を掛ける。

 

「私がラギシスの魔法を封じ込めるわ! あまり長くは持たないと思うから、その間に奴を倒して!」

「了解。頼んだぜ、志津香!」

「こういう役回りは俺たちに任せろ。ミルはあまり前に出るな。ランは志津香が攻撃魔法を使えない分、剣ではなく魔法で援護を!」

「うん!」

「はい!」

 

 ルークがそれぞれに指示を出す。ランとミルもそれに頷き、前衛ルークとミリ、中衛ランとミル、後衛志津香という布陣が出来あがる。

 

「愚かな……指輪よ、私に力を……」

「させないわ!」

 

 向かってくるルークとミリに対してラギシスが何やら呪文を唱えようとするが、その魔力が志津香の妨害魔法によって封じ込められる。自身の腕に魔力が溜まらないのを感じたラギシスは、感心したように志津香を見る。

 

「なるほど……我が魔法を封じ込めるか。簡単な魔法ではないのだが、さすがは志津香だ。これ程の魔力を有しているとは……」

「そうだな。そして貴様は何も出来ないまま死ね!」

「おらっ!」

 

 ルークとミリの剣がラギシスを斬る。ミリの剣は胸を、ルークの剣がその首を真一文字に斬り裂いた。だが、ミリが付けた胸の傷も、ルークが付けた首の傷も、ジュクジュクと音を立てながらすぐに再生してしまう。

 

「もはや人間ではないな……」

「無限の生命力を持つと言ったであろう」

「援護します。炎の矢!」

「幻獣アタック!」

 

 ランの放った炎の矢がラギシスの右腕に直撃し、その腕を炎が包み込む。その炎を振り払おうとラギシスが左手を動かすが、その手にミルの幻獣が体当たりをする。その幻獣の姿を見たルークが思わず声を漏らす。

 

「随分と形が変わったな……」

「これが元だ。洞窟の中の奴がおかしかったのさ。まあ、あっちの方が強そうではあったがな」

 

 ミルの幻獣は洞窟の中で見た凶暴な姿ではなく、なにやらファンシーな可愛らしい物に姿を変えていた。これはミルの精神状態で変化する物なので、あの時と違い元の幼い状態で、かつ指輪の悪影響を受けていないミルが呼び出すとこういう姿になってしまうのだった。ブスブスという嫌な音と、肉の焦げた臭いが辺りに充満する。ラギシスの右腕を包んでいた炎が収まっていくと、丸焦げになった右腕が見えてくる。だが、その腕を覆っていた黒い焦げがボロボロと剥がれていき、剥き出しになった赤い皮膚がじわじわと再生していく。

 

「ちっ、化け物め!」

「ミリ、手を止めるな! 再生力を上回るダメージを与えれば勝てる! 真空斬!」

 

 ルークがそう叫び、腰を落として真空斬を放つ。放たれた闘気がラギシスの体を斬り刻むが、その傷も少しずつ再生していく。ルークの言葉を受けたミリは一気に攻め込もうとラギシスに向かっていくが、ラギシスはそのミリに向かって左手を突き出す。

 

「小賢しい……」

「なっ!?」

 

 ミリが目を見開く。ラギシスの指から触手が伸びてきたのだ。すぐさま身を翻してそれを躱すミリ。予想外の攻撃ではあったが、ミリも一流の戦士。すんでのところで攻撃を躱しきる。

 

「そんな攻撃……ぐあっ!?」

「手をかざしたから攻撃は手から来る……その先入観、実に愚かしい……」

「おねえちゃん!!」

 

 ミリの脇腹に鋼鉄の触手が突き刺さる。それは、ラギシスの膝辺りから伸びてきた触手。見れば、いつの間にかラギシスの体の至る所から触手が飛び出し、うねうねと蠢いていた。

 

「魔法の攻撃が出来なくとも、我がパワーを防ぐことは出来まい」

「マズイ! 真空斬!!」

 

 ミリに向かって更に大量の触手を伸ばすラギシスだったが、その触手はルークの放った真空斬によって切断される。ミリも自身の脇腹に刺さっていた触手を剣で斬り落とし、バックステップで触手から距離を取る。左手で押さえた脇腹からダラダラと出血しているのがルークの目に飛び込んでくる。今この場に回復役はいない。一人の離脱がそのまま戦況を大きく動かしかねない。特に前衛のミリは貴重な存在であり、倒れられる訳にはいかない。

 

「ミリ!」

 

 ルークがミリに向かって叫ぶが、ミリは剣を持ったまま右手を上げてこちらに合図をしてくる。

 

「心配しなくていいよ、かすり傷だ!」

「ふむ……強がりでしかないな……」

 

 ルークとミリに先端を切断された触手をシュルシュルと戻していくラギシス。気が付けば、その触手の何本かは既に再生しかかっていた。

 

「魔力を肉体の改造にも使えるのか。厄介だな」

「外に放たない魔力は抑えることが出来ないわ……悪いけど、触手はそっちでなんとかして!」

 

 ラギシスの魔力を抑えているのが相当きついのか、青ざめた顔をしながら志津香が叫ぶ。志津香の魔法であれば一気に焼き払う事も可能だろうが、強大なラギシスの魔力をたった一人で抑えている志津香にこれ以上の無茶はさせられない。その志津香目がけてラギシスが触手を伸ばすが、ルークが間に割って入り、その触手を斬り落とす。

 

「任せろ! みんな、この触手は鋭いが、動きは鈍いし防御も脆い。落ち着いて対処すれば大丈夫だ!」

「判りました、ルークさん。たあっ!」

「幻獣さん、爪で引っ掻いて!」

 

 ランも迫ってきた触手を剣で斬り、左手で炎の矢を放って奥の触手も同時に燃やす。ミルもランの後ろに隠れながら幻獣で応戦する。

 

「お返しだよ、どりゃぁ!」

「真空斬! 真空斬!」

 

 ミリが声を荒げながら次々と触手を斬り落としていき、ルークも各々に迫る触手を的確に撃ち落としつつ、隙を見てラギシス本人にも真空斬でダメージを与えていく。徐々にではあるが、確実にこちらが押している。ランとミルは思う。このままであれば、勝てると。だが、その希望を打ち砕く一言を、ラギシスは平然と言ってのけた。

 

「そうか、この姿のままでは貴様らを倒すのは難しいか……ならば、姿を変えさせて貰おう!」

「えっ!?」

 

 ランが目を見開く中、ラギシスの姿が緑色の魔力に覆われる。魔力が鎧へと変化し、その全身を覆ったかと思うとそのまま巨大化していった。岩肌の洞窟よりも遙かに巨大になったラギシスが上空からルークたちを見下ろしてくる。鎧の間からかすかに肌色の肉が見えるが、その形状は既に人間のものではなかった。

 

「何よ、これ……」

「本当に化け物だな……」

「おねえちゃん……」

「くっ……もう魔力を完璧には抑えきれない……初級魔法くらいは飛んでくると思って……」

 

 ランが呆然と立ち尽くし、ミリが呆れたようにため息を漏らす。ミルはミリの背中にひしとくっつき、恐怖に怯えていた。その様子に気を良くしたのか、ラギシスが高らかに笑う。

 

「ふはは、見たか! 指輪から無限のエネルギーを補給できる私に不可能はない!! この力があれば、かつて私の考えを認めなかったあのカバッハーンのジジイも、目障りだったラグナロックの野郎も私の敵ではない。ふふふ、ははははは!!」

「でかい図体の割には、言うことが小さいな。自分が小者だと伝えているだけだぞ」

「なんだと……」

 

 ルークのその言葉にラギシスの笑いが止まる。これは明らかな挑発。ルークにしては珍しい行動だ。だが、ルークは意味もなく挑発した訳ではない。ランも、ミリも、ミルも、戦意が明らかに落ちてしまっている。今彼女たちに攻撃の手が向けられれば、総崩れしかねない。だからこそ、わざと自分に意識を向けさせたのだ。成功するかは賭けであったが、プライドの高いラギシスにとってこの挑発は見事成功する。

 

「そうか、そんなに死にたいのか……ならば望み通り死ね、ルーク!!」

 

 ラギシスが両拳を握りしめ、ルークの立っていた場所に振り下ろす。上空から振り下ろされた拳は轟音と共に地面を盛大に抉り、砂煙が巻き起こる。恐ろしいほどの威力だ。直撃すれば、それだけで致命傷になりかねない。

 

「ルーク!」

「ルークさん!!」

 

 ミリたちは焦って拳が振り下ろされた場所を見るが、そこにルークの姿がない。

 

「ぐあっ!?」

 

 瞬間、ラギシスがうめき声を上げる。三人が一斉に視線を横に向けると、そこにはルークの姿。ラギシスの攻撃を素早く躱したルークが、少し離れた場所で鎧の間から剣を突き刺していたのだ。ギロリと憎々しげに見下ろしてくるラギシスに対し、ルークは口元に笑みを作りながら挑発する。

 

「触手同様動きが鈍いな。これではただのでかい的だ」

「貴様ぁ! 炎の嵐!!」

 

 ラギシスが初級呪文を放つが、それを躱しながら鎧の間を攻撃していくルーク。その度にルークは執拗にラギシスを挑発し、それに誘導されるようにラギシスはルークばかりを狙い続ける。

 

「炎の嵐! 炎の嵐! どうした、避けきれなくなってきているぞ!?」

「あまりにも威力が低いんで、避けるのが億劫になってきただけだ」

「き、貴様ぁ!!!」

 

 ラギシスの言葉通り、流石に完全には躱しきれなくなっていき、少しずつその体に傷を負っていくルーク。だが、それでもラギシスへの挑発は止めない。その姿に、戦意を失いかけていた三人が拳を握る。

 

「あそこまでラギシスの注意を引きつけてくれたんだ。俺たちも行くぞ!」

「うん、おねえちゃん!」

「ルークさん、今援護します!」

「みんな……頑張って……」

 

 ミリ、ミル、ランの三人が再びラギシスへ攻撃を始め、志津香も青い顔をしながら必死にラギシスの魔法を抑えている。今は初級魔法のみで済んでいるものの、志津香が崩れれば一体どれ程の大魔法が飛んでくるか判ったものではない。早く勝負を付けなければ敗北は必至。三人の援護で多少余裕の出来たルークはチラリと志津香を見る。

 

「(そろそろ志津香は限界だ……一か八か行くしかない!)」

「死ね、ルーク! 炎の嵐!」

 

 ルークに向かって炎の嵐が放たれるが、ルークはそれを避けずにあえて前に突っ込む。

 

「ルークさん!」

「ふはははは、遂に直撃したぞ……むっ!?」

 

 炎に包まれたルークにランが悲鳴を上げ、ラギシスが得意げに笑う。だが、その炎の中からルークが飛び出してくる。当然、無傷ではない。顔や腕には確かなダメージの跡。だが、ルークは躊躇することなくラギシスへと跳びかかっていく。不意を突かれた形のラギシスは無防備。ここしかない。そう考えていたルークは剣を高々と掲げ、闘気をこめて一気に振り下ろす。

 

「真滅斬!!!」

「ぐぎゃぁぁぁぁ!! 貴様ぁぁぁぁ!!!」

 

 ラギシスの体が右肩から腰の辺りにかけて斬り落とされる。通常であれば十分致命傷であるダメージだが、指輪の魔力によって強化されたラギシスはこれ程のダメージを受けてもなお動けていた。怒り狂い、志津香の妨害魔法の影響があるというのに無理矢理左腕に魔力を込め、ルークに向かって上級魔法を放とうとする。志津香が必死に魔力を抑えようとするが、抑えきれない。

 

「ぐっ……駄目……これ以上は……」

「はははは、死ねぇぇぇ!!!」

 

 ラギシスがそう叫びながら魔法を放とうとした瞬間、空が光った。直後、ラギシスを強力な砲撃が襲い、その体が灼熱に包まれる。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!」

「なんだ!?」

 

 ミリが空を見上げると、もう一度空が光り、強力な砲撃がラギシスにもう一度降りかかる。

 

「マリアよ! マリアの砲撃が間に合ったのよ!」

「なんという威力だ……マリアめ、あいつは本当の天才かもしれんな……」

 

 更にもう一発追い打ちの砲撃が飛び、業火の中ラギシスの体が見えなくなる。初めこそラギシスの叫び声が響き渡っていたが、それも徐々に聞こえなくなってくる。鋼鉄の鎧がメキメキと音を立てて崩れる中、全員が燃えさかる炎に注目する。

 

「やった……のか……?」

「大丈夫だよ、おねえちゃん。これでやれなきゃ本当の化け物だよ!」

 

 完全にラギシスの叫び声が止まる。ミリが脇腹を押さえながらそう声を漏らし、ミルがギュッとミリの鎧を握りながらそう答える。だが、ルークの目に飛び込んできたのは、炎の中に蠢く何か。

 

「いや、まだみたいだ……」

 

 ゆらゆらと揺れ動く炎の中から、ゆっくりと異形の生物が姿を現す。それは、先程まで鎧に覆われていた巨大な肉の塊。所々から触手が伸び、手足は無くナメクジのように地面を這っている。全長は一体どれほどになるのだろうか。遙か高い位置から見開かれた両目でルークたちを見下ろすラギシス。そして、ゆっくりと絶望の言葉を口にした。

 

「……黒色破壊光線」

「みんな逃げて!!」

 

 それは、数多くある魔法の中でも最強の呼び声が高い最上級魔法。志津香が叫ぶが、間に合わない。咄嗟にルークは他の四人を庇うように前に出るが、防ぎきれるものではない。暗黒の光線が五人を包んだ。

 

 

 

-カスタムの町近隣の森 広場-

 

 遠くで轟音が響く。それと同時に、マレスケの目標座標も担っていた志津香の封印魔法が解除されてしまった。

 

「ダメ、これじゃあもう砲撃は出来ない。志津香、お願いもう一度魔法を……」

 

 座標が特定できなければみんなを巻き込んでしまう可能性があるため、下手にマレスケを撃つことは出来ない。だが、再度魔法が掛けられる気配はない。十秒、二十秒。時は残酷に過ぎていき、一分が過ぎた頃にはマリアの顔はすっかり青ざめていた。頭を過ぎるのは、最悪の想像。

 

「うそ……みんなやられちゃったの……志津香……」

 

 目に涙を浮かべ、その場に座り込んでしまうマリア。どうしようもない絶望の中で呟いたのは、この場にいない男の名前であった。

 

「助けて……ランス……」

 

 

 

-カスタムの町近隣の森 洞窟前-

 

「あーはっはっはっはっはっ!! 身の程を思い知ったか、雑魚ども!!」

 

 ラギシスの笑い声が響くその場所に立っている者はいない。横たわる五人を見下ろしながら、ラギシスは自身の勝利に酔いしれていた。幼いミルは気を失っている。志津香、ミリ、ランの三人は意識を保ってはいたが、全く体を動かせない。一番酷いのはルークだ。庇うように前で直撃を受けたため、地面に倒れ込んだままピクリとも動かない。意識の有無どころか、生死すら判断が出来ない状態だ。

 

「ラギ……シス……」

 

 志津香が悔しそうにラギシスを睨み付ける。その視線に気が付き、ラギシスが遙か上空から巨大な目で志津香を見下ろしてくる。

 

「私の黒色破壊光線を受けてまだその目が出来るとは、やはり大した奴だな、志津香よ」

「あんたに褒められても……これっぽっちも嬉しくないわ……」

「くくく、これが勝者の愉悦か……そうだ、冥土の土産に一つ良いことを教えてやろう」

「良いこと……ですって……」

 

 全身の痛みが麻痺へと変わってくる。危険な状態であることを感じ取りながらも、志津香はラギシスを睨み付けながら言葉を続ける。ラギシスは話に食いついてきた事にその巨大な目を綻ばせ、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「そうだ……お前が捜し求めていた両親の仇のことだ」

「ラガールを……知っているの……?」

「知っているとも。何せ、ラガールの奴に魔想がこの町にいると教えたのは、この私だからな!」

 

 その告白に、志津香の目が見開かれる。混乱する頭で必死に言葉を絞り出す。

 

「なん……ですって……」

「くくく……ははははは! 目障りだったんだよ、奴が! いきなりこの町に越してきたと思えば、住民とすぐに打ち解けてな。私の研究にも、それは危険だとかケチをつけてきやがった。腹立たしい……殺してやりたい……奴をこれ以上なく無様な死に方にしてやりたい……そんなとき、ゼスで魔想を捜しているという男の情報が私の耳に入ってきた。それも、魔想の情報を提供した相手には魔力増幅の指輪を寄越すとの事だった。くくく、好都合だった!」

「魔力増幅の指輪……まさか!?」

「そうだ、このフィールの指輪はラガールが造り出したものだ」

 

 自身の触手に填められている指輪をこれ見よがしに見せてくるラギシス。呆然としている志津香、ミリ、ランに対し、一方的に話を続ける。

 

「魔想夫妻を話があると言って荒野まで呼び出し、ラガールに殺させた。その報酬として、私はこの指輪を譲り受けたのだ。四つの指輪には既に9人分の魔力が込められており、町にはおあつらえ向きに魔法の才能がある娘たちが数人いた」

「まさか……魔法塾も……」

「そうだ! 頃合いを見計らってこの娘たちに指輪を填めさせればいい。だが、ある程度の魔法使いにしてやらねば指輪の質が落ちるかもしれない。そう考えた私は魔法塾を開塾し、貴様らを弟子にしたのだ!」

 

 次々と明かされる衝撃の事実にミリが呆然とする。

 

「そんなに昔から……全て自分が指輪の力を手に入れるためだけに……」

「志津香よ。お前に指輪を渡し、それを嬉しそうに指に填める姿を見て、笑いを堪えるのが大変だったのだぞ。捜し求めている父の仇が造った指輪を嬉しそうに指に填めるその顔、実に滑稽であったぞ。ふふふ、ははははははは!!!」

 

 ゲスな笑い声が辺りに響く。志津香が目を血走らせながら土を握りしめ、ミリとランも倒れたままラギシスに射殺さんばかりの視線を向ける。

 

「……殺してやる、殺してやる、殺してやる!!」

「外道が……」

「やっぱり……この男だけはもう一度殺す必要があるわね……」

「ふはははは、この無限の魔力を手にした私を殺すだと!? それは不可能だ! さあ、話も終わった。貴様らは実によく役に立ってくれたよ。一度殺されたのは誤算だったがな。痛かったぞ……苦しかったぞ……あの時の恨みは、忘れた訳ではないぞ……」

 

 ラギシスがそう言いながら、鋭い触手を体から出す。目標は、かつて自分にトドメを刺した志津香。

 

「あの時のお返しだ。志津香、貴様から死ね!」

「ぐっ……」

 

 触手が志津香に迫る。志津香が唇を噛みしめるが、満身創痍の体では避けることも迎撃することも出来ない。しかし、志津香は気丈にも目を瞑ることはなく、その瞳はラギシスを睨み付けていた。迫る触手に自分の死を悟るが、志津香の胸には恐怖よりも悔しさが募っていた。父の仇を討てなかった。ただその事が悔しかった。ミリとランも必死に止めに入ろうとするが、体が動かない。

 

「志津香……」

「くっ……」

「ふはははは……なにっ!?」

 

 志津香の体をラギシスの触手が貫く。誰もがそう思っていた。だが、その触手は志津香の目前で両断される。

 

「つまり、貴様も篤胤さんとアスマーゼさんの仇ってことだな……?」

「貴様、まだ立つのか……」

 

 志津香は見る。自分を守るように、ラギシスの前に立ちふさがる男の姿を。大きく、頼りがいのある背中を。それは、共に復讐を誓い合った男。黒色破壊光線の直撃を受け、誰よりもダメージ大きいはずのルークが、それでもまだ立ち上がりラギシスと対峙していたのだ。

 

「ならば貴様はここで殺すぞ、ラギシス! 俺と志津香の手でな!!」

 

 




[技]
幻獣アタック
使用者 ミル
 呼び出した幻獣たちを一斉に体当たりさせるミルの必殺技。幻獣の数が多ければ多いほどその威力が増す。

炎の嵐
 小規模範囲を炎で包む初級魔法。火爆破よりも範囲が狭く、ある程度の魔法を習うと徐々に使わなくなるため、あまり戦場で目にすることはないある種レアな魔法。

黒色破壊光線
 暗黒の光線が敵を飲み込む最上級魔法。数ある攻撃魔法の中でも最強とされている究極呪文だが、その分扱いは難しく使用者は限られている。本来ラギシスはこの魔法を使うことは出来ないが、指輪の魔力で無理矢理使用している。


[その他]
チューリップ2号「マレスケ」
 長距離固定砲台のチューリップ2号。驚異的な威力を叩き出すが、座標指定がネックとなる。そこまで大きくないため台車での持ち運びが可能。マリアはまだまだ満足しておらず、砲身をもっと巨大化し、GPSも付けて超巨大長距離固定砲台にしたいらしいが、そんな金はカスタムの町にはない。
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