ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第6章 後半プロット①

 

-第6章 ゼス崩壊- 後半プロット①

 

6-1 跳躍の塔の攻防

 

 アイスフレームとペンタゴンの目的がマナバッテリーの破壊、及びマジノラインの停止であるという推察を真知子から聞いたルークはすぐに行動に移る。もしマジノラインが停止し魔人がゼスに攻め込んで来たら、取り返しがつかなくなるからである。

 ルークから指示を受け、ロゼ、トマト、セスナの3人は至急アイスフレームに向かった。仲間たちを説得するためである。しかし、エリザベス主導の下、森は彼女たちが所属していた頃と姿を変えており、拠点の場所を見つける事が出来なくなっていた。これ以上探索に時間を掛けるのは得策ではないとセスナが判断し、別の連絡手段を探るべく一度引き返す。

 また、ルークはサイアスに連絡を取り、サバサバの喫茶店で人目を忍んで落ち合っていた。現在のルークはレジスタンスに所属しているため、サイアスとは敵対している身。出来れば連絡を取るような事はしたくなかったが、状況は一刻を争うためそうも言っていられないという判断をしたのだ。サイアスも本気でルークがゼスに弓を引いているとは思っていないため、後々事情を聞かせろという小言で済ませ、本題に入る。

 カバッハーンの報告からゼス軍もランスたちの目的がマナバッテリーである可能性は掴んでいたが、半信半疑であった。しかし、ルークもその情報を持ってきた以上、最早無下に笑い飛ばせる状況ではなくなった。ランスが何故そのような行動に出たのかと問うサイアスであったが、ルークはペンタゴンに唆されたのではないかという推測を述べる。その口調から、ルークとランスが行動を共にしていない事に気が付くサイアス。事情を聞いても言いよどむルークを見てサイアスはなんとなく事情を察し、こう告げる。

 

「まあ、あれだ。坊やも悪いんだろうが、多分お前も悪い」

「……やっぱり、そうなるか?」

「大人になれって事だ」

 

 ルークの歪な成長に気がついていたのはキースだけではなかった。サイアスもまた、薄々と感じ取っていたのである。ルークからランスを止めたいという意志を聞き、サイアスは二日前にランスたちが跳躍の塔に攻めてきたという極秘情報をルークに話すのであった。

 

 話は二日前に遡る。ランス率いるグリーン隊はアベルトと共に跳躍の塔に忍び込んでいた。捕まったサーナキアの救出と、マナバッテリーの破壊が目的である。しかし、潜入したメンバーの数はかなり少ない。先の雷帝戦で負った傷は大きく、回復が間に合わなかったメンバーは拠点で待機となっていた。潜入作戦で大々的に戦う訳ではないから問題ないとするランスであったが、時を同じくして跳躍の塔には四将軍、キューティ、ミスリー、エムサが集結していた。サーナキア奪還のためにランスは必ず跳躍の塔に攻めてくると読んでいたからである。塔に潜入早々、サイアス、カバッハーン、ミスリーの3人に発見されるランスたち。

 

「坊や、火傷しても文句は言うなよ!」

「かっかっか! 早速リベンジマッチといかせて貰おうかの、ランス!」

「でぇぇぇ! なんでそんなに元気なんだ、ジジイ!」

 

 手加減の余地もなく、サイアスとカバッハーンは大技を繰り出してくる。また、魔法が効かないボディである事を有効活用し、ミスリーはその魔法の中から攻撃を仕掛けてくる。驚異的なコンビネーションであり、ただでさえ前回の傷が残っているメンバーたちでは対抗する手段が無く、早々に逃げに回る。しかし、跳躍の塔はあちらのホーム。逃げ切れるはずもなく、後少しで捕まりそうになるランスたち。しかし、偶然にもパパイアしかしらない隠し部屋を発見し、そこでサイアスたちを撒く事に成功する。その部屋には、首だけの状態で生きているキャロットという女性がいた。

 初めこそ彼女の風貌に怯える一同であったが、聞けば彼女はパパイアの人体実験によりこのような姿になってしまったとの事。パパイアの助手であった彼女は、このような姿にされてもなおパパイアを止めて欲しいと懇願してきた。パパイアが狂った原因が魔導書のノミコンである事や、跳躍の塔のエレベーターを動かすパスワード、更にはマナバッテリーのある場所などの情報をキャロットから提供される。しかし、そのパスワードは何故か『アベルト・セフティ』という不可解なものであった。アベルトは偶然でしょうと静かに微笑み、ランスも眉をひそめながらひとまず納得をする。

 

「こんな姿で生きるのは、辛いんです。だから、お願いします」

「……気にするな。可愛い女の子を助けるのは英雄である俺様の役目だ」

 

 別れ際、キャロットから生命維持装置を破壊するようお願いされるランス。彼女が元の体には戻れないという事をシィルやマリアから聞き、ランスはその願いを聞き届け、生命維持装置を破壊する。眠りについたキャロットを見て、ランスは静かに怒りを燃やすのであった。

 

「光軍の将、アレックス。このような形で対峙する事となってしまい、残念です」

「無駄な抵抗は止めて、大人しく捕まって」

 

 マナバッテリーの前にパパイアをお仕置きすべく上の階へと上っていたランスたちであったが、いつの間にかアベルトとはぐれてしまう。探している時間はないと前に進むランスであったが、そこでアレックス、ウスピラ、キューティ、エムサに見つかってしまう。

 

「お前たちはキャロットちゃんの事を知っていたのか!?」

「一体何を……くっ!」

 

 キャロットの事で怒りに燃えるランスは、一時的にアレックスを圧倒する。しかし、仲間たちが徐々に倒れていき、次第に追い詰められていく。ランスたちはとある部屋に逃げ込み、追手の中でキューティが先行してその部屋に足を踏み入れた瞬間、事件は起きた。突如その部屋の風景が変わり、部屋の外から今正にこの部屋に足を踏み入れようとしていたアレックス達の姿が見えなくなったのだ。この現象を引き起こした人物がケラケラと笑いながらランスたちの前に姿を見せる。それは、跳躍の塔の主であるパパイアであった。

 この部屋は、魔法装置を操作する事で部屋の風貌が変わるという特殊な部屋であった。パパイアはこの装置を利用し、研究室や仮眠室など用途によって部屋を使い分けていた。部屋を切り替える際、外と隔絶する結界を張る事が出来るため、アレックスたちの姿が見えなくなったのはそのためであった。

 パパイアを捕まえてお仕置きをしようとするランスであったが、パパイアは装置を動かして部屋の風貌を更に変化させる。その部屋には壁中に女性が生きたまま埋め込まれていた。その非人道的な様相に一同は絶叫する。

 

「どわぁぁぁ! なんだこの部屋は!」

「名付けて究極の美女の部屋。好きに使ってくれていいのよ。ほら、キューティも感想聞かせてよ。貴女が持ってきてくれた情報を元に作ったんだから」

「(まさかこの部屋は……砂漠のガーディアンの時の情報を元に……)」

 

 この部屋は、かつてサイアスとキューティが持ち帰った砂漠のガーディアン事件の資料を元にパパイアが作りだしたものである。ランスたちが驚いている隙に、パパイアはいつの間にか姿を消していた。ランスはキューティにこの部屋の事やキャロットの事を知っていたのかと問うが、その反応からキューティは無関係であると確信。また、他の四将軍たちもこの事は知らず、全てパパイアの独断であると推測を立てた。パパイアへの怒りを増幅させるも、部屋の外に他の四将軍たちも集まってきている事に気が付いたランスはこのまま戦い続けても勝ち目はないと判断し、お帰り盆栽にて一時撤退する事を決める。自分のもたらした情報がこの部屋を生み出してしまったという罪悪感からかキューティは一瞬反応が遅れ、ランスたちを取り逃してしまうのだった。

 

「サーナキアさんたちは既にこの塔にはいません。今は王者の塔で聴取を受け、その後北部のナガールモールへ移送される予定です」

「キューティさん……ありがとうございます……」

「闘神都市での借りを返したまでです。それに、今の貴方たちは明確な敵です。マナバッテリーは絶対に破壊させません」

 

 お帰り盆栽での去り際、キューティがサーナキアの情報をランスたちに与えながら決別の言葉を口にした。例を言うシィルであったが、これはキューティの罠であった。サーナキアが王者の塔にいるというのは真実であるが、この情報を漏らす事によって次にランスが攻めてくる場所を王者の塔に限定させようとしたのだ。実際、今回ランスはサイアスの予想通り、サーナキアを救出するために跳躍の塔に攻め込んできた。パパイアの邪魔のせいで今回は取り逃がしてしまう事となってしまい、このままでは次はどこに攻めてくるのか分からない。それを避けるため、キューティは次に繋がる一手を打ったのだ。キューティの報告を受け、次は王者の塔の警護を固める事を決断するサイアスたち。

 

「それじゃあ、次は王者の塔に行くのよね?」

「……いや、違う。もう一度パパイアの所を攻める」

 

 しかし、ランスの決断は意外なものであった。サーナキアの救出ではなく、再度跳躍の塔を攻める事を優先するランス。仲間たちもその決断に驚いていたが、ただ一人そのランスの思考を読み取っているものがいた。それは、サイアスから事の顛末を聞いたルーク。

 

「違うな。ランスならもう一度跳躍の塔を攻めてくる」

 

 その言葉を聞き、既に王者の塔へ兵を集結させていたサイアスは驚く。短い付き合いとはいえ、闘神都市での戦いでランスの人となりは知っている。そのランスが仲間でかつ女性のサーナキアを見捨てるとは思えなかったからだ。だが、ルークの予想は違った。

 

「ランスは、あんな態度だから判り難いが、お前たちの事は信用している。ゼスの腐敗集団ならいざ知らず、お前たちが絡んでいるならサーナキアの身の安全は確保されていると判断するはずだ。なら、負けっぱなしで済ませず、再度跳躍の塔を攻めてくると俺は思う」

「あの坊やが俺たちの事を? 俄かには信じがたいな」

 

 自分で口にした言葉が、ルークの心の中に重く響き渡っていた。思い出されるのは、先日の決闘でランスに言ってしまった言葉。

 

『他の皆も……俺の事も、仲間としては見ていなかったのか?』

「(違う……ランスは……決して口にはしないが、ちゃんと皆の事は信頼していたはずだ。そんな事、当に判っていたはずだ。それなのに、何故俺はあの時……)」

 

 ランスの事は信用していたが、一抹の不安を口にしてしまったあの時の事を悔やむルーク。そのルークの反応に気が付いたものの、サイアスは当人たちの問題であると判断し、深くは言及せずに今後の事について話す。跳躍の塔が危険な事は千鶴子に報告する事に決めるが、ランスたちが跳躍の塔に攻めてきたのは二日前。もう一度攻めてくるのであれば猶予はなく、ゼス軍を王者の塔から再度動かすには間に合わない可能性が高い。サイアスはルークに向き直り、協力を仰ぐ。レジスタンスであるルークを招き入れるのは、後々責任問題になりかねない。また、ルークも今の状況でゼス軍に協力すれば、後々捕縛される可能性も高い。だが、それよりも優先する事がある。マジノラインの停止だけは絶対に防がねばならない。

 

「ルーク。協力してくれるな?」

「ああ。俺があいつを止める」

 

 ルークとサイアスが手を組み、再度跳躍の塔でランスを迎え撃つ事となった。

 

 

6-2 宿敵再び

 

 サイアスから報告を受けた千鶴子は兵を再編成。間に合うかは分からないが跳躍の塔へ一部の兵を向かわせた。とはいえ王者の塔に攻めてくる可能性も捨てきれない。そんな中、日曜の塔から救援が来る。

 

「お久しぶりです、千鶴子様。コード・パッセンテーデ、主の命で救援に参りました」

 

 ラガールとナギは動けないという事で、代わりにラガールの側近であるコードが兵を引き連れてやって来たのだ。千鶴子は面識があったが、本来コードはラガールがその存在を周囲には秘匿しており、このような舞台に立つような男ではない。一体どのような心変わりがラガールにあったのかと訝しみながらも、人手が足りていない現状救援を拒む理由も無く、王者の塔にコードたちを迎え入れるのであった。

 

「跳躍の塔に急ぐぞ。マナバッテリーを破壊させる訳にはいかん」

「王者の塔ではないのですか?」

「ルーク・グラントは私よりもランスという男を理解している。ならば、それを信じるのみ」

 

 ガンジーとウィチタも独自に動いていた。サイアスから千鶴子に届けられた報告を盗み聞いており、跳躍の塔へと急ぐ二人。

 

「急ぐぞ。正念場だ」

「あの馬鹿。みんなに散々迷惑掛けて、まったく……」

「こっちの計画完全に滅茶苦茶ねー。いやー、笑えるわ」

「全然笑えないですかねー!」

 

 ルークは志津香たちと合流し、サイアスと共に跳躍の塔を目指す。各所に役者が集結し、局面は最終段階を迎えていた。このままいけば、ランスたちが捕まりマジノラインの停止は防げる。何故ならば、現在破壊されたマナバッテリーは弾倉の塔の1つのみ。マジノラインの停止には後2つ破壊する必要がある。ランスが例え跳躍の塔のマナバッテリーを破壊出来たとしても、そこで捕縛され手詰まり。後一手足りないのだ。

 だが、この時誰もが想定していなかった悪意がゼスに迫っていた。とある塔の地下。そこに二つの人影。その内の一つ、使徒オーロラが訝しむように目の前の男に声を掛ける。

 

「本当にこんな場所から入れるんですか。目の前はただの壁……って、ええっ!?」

 

 その男が地下の壁に手をかざしたかと思うと、突如その壁が左右に割れ、秘密の通路が目の前に現れたのだ。これはゼス軍すら把握していない。かつて魔人との戦争の際に、闘将が利用していた隠し通路。

 

「カカカ、やはり当時のまま使えたか。行くぞ」

 

 一方、ランスたちはルークたちよりも一歩早く跳躍の塔へと乗り込んでいた。道中の警備が前回よりも楽になっており、ドンドンと突き進んでいく。途中、パパイアの所に先に乗り込む予定であったが、エレベーターのパスワードが変えられていたためそれを断念。本来の目的であるマナバッテリーを破壊すべく、地下へと向かう。

 

「これがマナバッテリーか。こうしてちゃんと見るのは初めてだな」

 

 Zガーディアンを打ち倒し、マナバッテリーのある地下7階へと辿り着いたランスたち。弾倉の塔では一つ前の部屋からマリアの狙撃で破壊したため、こうして目の前にするのは初めてであった。早速破壊しようとするランスであったが、そこに待ったが掛かる。

 

「晴天が知る、大地が知る、人民が知る! 征伐のミト、スケさんカクさん引き連れただいま推参!!」

「二人しかいないではないか!」

「カクさんは今行方不明なのだ」

 

 一早く跳躍の塔に駆けつけたのはガンジーであった。その姿と名乗り口上を受け、かなみとパットンがその素性に気が付く。

 

「あれ、ゼス国王のガンジーよ」

「なにっ!? あのいかれたおっさんがか!?」

「いかにも! この方はゼス国王、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー様にあらせられる! 皆の者頭が高い!! 控えおろう!」

「俺も噂には聞いてたが、ゼス国王ってのは随分破天荒だな」

 

 マナバッテリーを前に、ガンジーと対峙する一同。ランスはマナバッテリーを破壊してゼスを救った英雄になる、そもそもクーデターなどを止められない王が悪いとガンジーを批判する。怒りを露わにするウィチタを制止し、ガンジーは意外にもランスに頭を下げた。全ては自分の不徳が招いた事であり、そこは謝罪する。だが、マナバッテリーの破壊は余計な血を流すだけであり、ゼスを救う事には繋がらないと説く。

 ガンジーが常に牽制しているため、迂闊に動けずにいるランス。そんな中、ガンジーの言葉を聞いた仲間たちからも本当にマナバッテリーを破壊していいのかという声が出てくる。そんなランスの仲間たちの中に、ガンジーはリズナの姿を見つけ呆気に取られる。なぜなら、リズナはかつてガンジーの学生時代の先輩であり、恩師であり、初恋の人であったからだ。卒業試験の際に行方不明になったリズナをずっと捜していた。そんな彼女が、数十年経った今になって当時と変わらぬ姿で現れたのだ。驚くなという方が無理である。ガンジーの注意が逸れた今がチャンスと考えたランスが剣を握るが、直後に見慣れた男たちが部屋に駆け込んできた。

 

「ランス、そこまでだ!」

「っ……」

「ルークさん! それに皆さんも!」

 

 サイアス先導の下、ルークたちがマナバッテリーの部屋に駆け込んできたのだ。すんでのところで間に合ったルークたち。先の決闘の事もあり気まずい空気が流れるが、今はそれを気にしている時ではない。その時、けたたましい警報音が跳躍の塔に鳴り響いた。すぐに伝達兵が駆け込んでくる。

 

「大変です! 王者の塔のマナバッテリーが破壊されました!」

「なんだとっ! 一体何があった!?」

 

 場所は変わって王者の塔。王者の塔の警護をしていたキューティが現場に駆け付けた時、そこは地獄絵図であった。警備兵たちの死体がそこらに散らばっており、周囲は血の海。マナバッテリーは炎に包まれており、既にその機能を停止している。部屋の中心に立つのは、この事件を起こした張本人。それは、本来この部屋を守るべき人間であった。

 

「あははは……ふふっ……そうだよ、いらないんだ……こんな世界……なら、壊すしかないじゃないか……そうだよね、かなみさん……あはははは!!」

 

 狂気に彩られた笑みを浮かべるのは、救援に来たはずのコード。そう、ラガールに命じられて来たというのは全て嘘であった。彼の目的はただ一つ、人間界の崩壊。ルークに敗れ、かなみに振られ、彼は既に元には戻れない程狂ってしまっていたのだ。

 

「馬鹿なっ! コードが裏切ったというのか!?」

「(私が……私があの時殺していれば……)」

 

 内部からの裏切りと聞きガンジーにも動揺が走るが、それ以上に狼狽していたのはかなみであった。あの時、ルークがトドメを刺そうとしていたコードに対し、一度命を助けて貰った恩着から命を奪わずに見逃してしまった。もしあの時自分が彼を殺せていれば、このような事態にはならなかった。激しく後悔するかなみ。混乱の最中、破壊されたマナバッテリーはまだ2つであり、もう1つ猶予があるという情報をウィチタが口にしてしまう。ガンジーを励ますべく口にした事であったが、ランスはその情報を聞き逃さない。

 

「成程。ではこれを破壊すればマジノラインが止まるのだな」

「止めろ、ランス! 取り返しのつかない事になるぞ……」

「…………」

「ランス様、あの、ルークさんがあそこまで言うなら、もしかしたら本当にまずい事なのでは……?」

 

 剣を振り下ろそうとしていたランスの手が止まる。決別したとはいえ、あのルークが本気で止めに来ているのだ。シィルも何かを感じ取り、ひょっとしてペンタゴンに騙されているのではないかとランスに問いてくる。かなみも、マリアも、他の仲間たちもマナバッテリーの破壊は止めるべきだと口にした。一瞬の静寂の後、その言葉が部屋に響いた。

 

「取り返しのつかない事? 結構ではないか!」

 

 一瞬、その言葉はランスの口から紡がれたものだと皆が思った。今この場で、ルークの言葉に対してにそう返す人間が他にいなかったからだ。だが、すぐに気が付く。今の声はランスの声ではない。ランスも驚いたように目を見開く。声のした方向は、マナバッテリーの真上に位置する天井。全員がそちらを見上げると、突如天井が破壊され、破片と共に一つの影が落ちてきた。

 

「クカカカカーッ!!」

 

 落ちてきた影は、真っ直ぐとマナバッテリーに手刀を突き立てた。ボン、という破裂音と共にマナバッテリーが爆発を起こし、炎と煙が立ち上がる。

 

「し、しまったぁぁぁぁ!!」

 

 目の前でマナバッテリーを破壊され、絶叫するガンジー。来訪者は手刀を引き抜き、各所から爆発を起こしているマナバッテリーの上に立って笑っていた。ガンジーが声を荒げ魔法を放つが、直撃したはずの魔法がすぐに四散してしまった。驚くガンジーに対し、サイアスが忠言する。

 

「ガンジー王。奴に魔法は通じません」

「サイアス、奴を知っているのか!?」

「嫌という程に……」

 

 冷や汗を流しながら笑っている来訪者を見上げるサイアス。また、周りの者たちも驚いたように来訪者を見上げていた。

 

「ククク……」

「そんな……」

「カカカ……」

「嘘ですかね……」

 

 中でもセスナやトマトの狼狽は大きいが、無理もない。彼女たちはかつて殺されかけたのだから。無意識に貫かれた腹を抑えてしまう。そんな中、ランスは憎々しげにルークを睨み付けた。

 

「ルーク! 奴はお前が殺したんじゃなかったのか!?」

 

 その言葉を受け、ルークは唇を噛み締めながら信じたくはない現実を口にする。

 

「生きていたのか……ディオ・カルミス!」

「クカカカカ! クカカカカカ!!」

 

 炎と煙が立ち込める中、来訪者ディオ・カルミスの笑い声が部屋中に響き渡った。その狂気に飲まれ、一同はただただディオを見上げる事しか出来なかった。ひとしきり笑った後、満足したのかディオはその笑い声を止め、ゆっくりとルークを見下ろしながら、さもこれからその行為をするのが当然であるかのようにその言葉を口にした。

 

「さあ、殺し合うぞ! ルーク・グラント!!」

 

 

6-3 崩壊の序曲

 

 警報音が鳴り響く中、ディオは殺意を纏いながらルークへと攻撃を繰り出す。それをブラックソードで受け止め、反撃を繰り出すルーク。互いに互いの攻撃を受け止めながら、二人は相手が以前対峙した時よりも遥かに強くなっている事を即座に感じ取っていた。嬉しそうに笑みを浮かべるディオに対し、ルークは苦々しげな表情を見せる。すぐさまガンジーやサイアス、セスナやパットンも間に割って入る。全員を相手取り、なおも余裕のあるディオ。

 

「まさかこの人数を相手にするつもりじゃあるまいな」

「問題ない。全員殺すまでだ」

「問題ありありですよ! マナバッテリーの破壊が成功したなら、すぐに撤退です!」

 

 サイアスの言葉に平然とそう返すディオであったが、天井の穴からひょっこりと顔を見せた使徒のオーロラがディオを制止。邪魔をするなと言うディオに対し、爆弾の起動装置を見せて命令に従わなければ爆発させると脅すオーロラ。暫し考え込んだ後、忌々しげに撤退を決めるディオ。

 

「まあいい。貴様とはいずれまた殺し合う機会はある。そういう運命だ」

「ディオ、貴様……」

「クカカカカ! 私以外の奴に殺されて失望させるなよ、ルーク・グラント!」

 

 嵐のようにやってきたディオは一時撤退し、難を逃れた一同。しかし、ゼスは今崩壊の危機にある。急いで状況を確認すべく動くガンジーたち。ランスたちもまた、ペンタゴンの状況を掴むべく混乱に乗じて撤退するのであった。その最中、ルークがランスにマジノラインを停止させることは間違えていると忠告をし、自分はそれを止めるべく動く事を宣言する。それに対し、ランスはふんと鼻を鳴らすだけであった。

 

「ディオ・カルミス。破壊する!」

「クカカカカ! 最早ただの闘将など私の敵ではない」

 

 跳躍の塔からの撤退の最中、ディオは塔の中で眠っていた闘将に襲われる。聖魔教団から見ればディオは封印された危険な存在であり、放っておくわけにはいかない存在だからだ。しかし、ディオは名も無き闘将を瞬殺し、使徒となった自分は既に闘将を超越した存在である事を見せつけるのであった。

 

「千鶴子様! 跳躍の塔のマナバッテリーが破壊されました!」

「エネルギー供給、間に合いません!」

「魔法使いに魔力供給を要請! 市民にも義務として連絡を! マジノラインは絶対に止めてはいけません!」

「か、各地で暴動が発生! 主導しているのはペンタゴンと思われます!」

「っ……こんな時に……」

 

 マジノラインを停止させないため、緊急で魔力を集める千鶴子であったが、最悪のタイミングでペンタゴンが動き出す。各地で暴動が起き、このままでは魔力供給が追い付かない。しかし、暫くして続報が届く。各地の暴動が想定よりも早く鎮圧され始めているのだ。聞けば、謎の義勇軍が動いているとの事。

 

「馬鹿なっ! 一体何が起こっている」

「ルーク・グラントか……しかし、あの者にはこれだけの短期間でこれだけの規模の義勇軍を集める資金はないはず。リーザスが協力しているとは思えん。一体奴は何をした……」

 

 その報告はペンタゴンにもすぐに伝わる。義勇軍を動かしているのがルークであると判り、声を荒げるエリザベスと困惑するネルソン。いくらルークが強かろうと、人を集める才能はまた別。資金力もいくらルークが一流の冒険者として貯め込んでいても、個人で賄える限界があるとネルソンは睨んでいた。しかし、現実は違った。どのようにして短期間で義勇軍を立ち上げたのか、その方法がネルソンには判らなかったのだ。そうこうしている内に、暴動は鎮圧されていく。ペンタゴンは徐々に追い詰められていた。

 

「あー、こりゃ駄目だな。まあいい。とりあえず暴動に紛れて美女たちをやりにいくぞ」

「そんな事してる場合じゃ……」

「でも、本当にルークはどうやってこれだけの数の人間を集めたんだ?」

 

 ルークの手腕に特に大きな反応を見せたのはパットン。いずれヘルマンを取り返すつもりであるため、何をしたのか興味があったのだろう。一体ルークはどのようにこの短期間で金、人、武器を集めたのか。それは、意外な協力者たちからもたらされたものであった。

 

「これ失敗したらハピネス製薬潰れるから、その時はごめんね」

「金さえ払えばウチはいくらでも人材派遣しまっせー」

「うちはあくまでも傭兵たちに武具を売っただけ……で逃げ切れる程甘くはないか。言い訳は任せたぞ、王様」

 

 ルークに大量の資金を提供したのは、エンジェル組の事件の際に交流を持っていたハピネス製薬であった。周囲の反対を押し切り、エリーヌ・ハピネスが資金の提供を決める。その資金の多くはプルーペット商会へと流れ、本来個人で集められるはずのない大量の傭兵を短期間で揃えたのだ。それを率いるのは、こちらも以前から交流のあるルイス。また、傭兵たちの武具は非常に高品質なものが揃っており、ペンタゴンの鎮圧を容易にしていた。これは、武器大国のパランチョ王国から買い付けたもの。旧友であるピッテンのつてを頼ったものである。

 ハピネス製薬、プルーペット商会、パランチョ王国。三大国に頼らずとも、ルークはこれだけのつてを得ていたのだ。また、本来ならば少しずつゼス国内に入国させる予定であったが、万が一マナバッテリーが破壊された時の事を考え、サイアス協力の下一気にゼス国内に入国させていた。自由都市側の国境はサイアスの管轄であるため、このような無茶がまかり通ったのだ。こうして、ペンタゴンの勢いは止まる。このまま暴動が鎮圧され、マジノラインの停止は防げる。そのはずであった。

 

「んー、やっぱり人間たちだけじゃ駄目みたいですね。仕方がない。最後の一押し、皆さんお願いします」

「しょうがないなー」

「クカカ。まあいい、肩慣らしに皆殺しだ」

 

 ペンタゴンだけではマジノラインを停止させられないと判断したオーロラは、同じくゼスに潜入していたラインコック、七星、ユキ、ディオに暴動に混ざるよう依頼する。ジークはこの場をオーロラに任せ、状況の報告に一度魔人界へと戻るのであった。既に魔人界ではマジノラインのすぐそばで魔物たちが待機しており、マジノラインの停止を今か今かと待ちわびている状況。ゼスの崩壊はすぐそこまで迫っていた。

 

 

6-4 忠義の果て

 

 想定外の使徒の参戦に戦線は一気に変貌する。王者の塔にあるモニターは各地の暴動状況報告で真っ赤に染まり、千鶴子が必死に指示を飛ばす。暴動の鎮圧も大事だが、とにかく今は魔力の供給が最優先。しかし、千鶴子の思惑をゼス国内の市民全員が理解する事は不可能であり、魔力供給の要請に応えない者や、独自に鎮圧に辺り返り討ちに合う者などが出始めていた。

 

「ちくしょう! 一体何が起こってるんだ」

「ひとまずわたくしの家に避難しますわよ」

 

 外に出ていた際に暴動に巻き込まれたダークランス一行は、エミの提案で一度エミの屋敷に避難する事を決める。エミの風貌を見て二級市民が襲い掛かってきたが、ダークランスとドルハンがこれを簡単に撃退。そう簡単に遅れは取らないと息巻くダークランスであったが、直後に絶対に出会ってはいけない者と出会ってしまう。それは、起きてしまった悲劇。

 

「ん? なんだ、貴様ら」

 

 暴動を掻い潜り、道の角を曲がったところにそれはいた。周囲には魔法使い、二級市民問わず死体が山のように転がっている。そう、その者は国軍でもレジスタンスでもない。第三勢力、魔軍に属する使徒ディオ・カルミスであった。その姿を見た瞬間、ダークランスたちの動きが止まる。これまで見た事のない狂気に当てられ、ダークランスですら身動きが取れなくなってしまったのだ。エミもまた、恐怖に当てられ立ち尽くす。普段するような被虐的妄想すら出来ず、真の死の恐怖にガタガタと震えだした。そんなエミの頭を潰そうと、ディオがゆっくりと手を伸ばす。ダークランスも、カロリアも身動きが取れない。そんな中、一筋の光線がディオを飲み込んだ。動いたのは、エミの忠臣ドルハン。レーザーバグから放たれた光線をディオに直撃させたのだ。

 

「儂が喰い止める! 早く逃げろぉっ!!」

「おじさん、まさかムシを!? 駄目だよ、早く取り出して!!」

 

 以前、ダークランスとカロリアに止められて体の中に入れていなかったムシをドルハンはずっと取っており、ディオの姿を見てすぐさま自身の体に入れて強化していた。だが、それは無茶な強化方法。本来ムシは一晩掛けて体に馴染ませるものであり、ただでさえムシを入れる数に限界の来ていたドルハンがこのような無茶をすれば、命は長く持たない。実際、すでにドルハンの体はボコボコと崩壊を始めていた。必死に止めるカロリアであったが、ドルハンはその言葉を聞かずダークランスに二人を託す。

 

「儂が時間を稼いでいる間に二人を連れて逃げろ。お前にしか頼めん」

「おっちゃん……おいらも一緒に……」

「無理だ。どう足掻いても奴には勝てん。全員殺される。それはお前も感じ取っているだろう。小僧。いや、ダークランスよ。我が主と同胞を頼む」

「……ちくしょう! ちくしょう!!」

 

 ドルハンの決意を受け、ダークランスは泣きながらエミとカロリアを引っ張り逃亡する。恐怖に当てられ呆けた状態のエミと違い、カロリアはドルハンを助けに戻ろうと口にする。しかし、泣きながら悔しそうに、それでも自分たちを守るべく必死に手を引っ張りながら走るダークランスを見て、カロリアはそれ以上何も言えず、共に逃げる事を決めるのであった。

 

「何故追わなかった」

「奴らを追うよりも、貴様の方が面白そうだと思ったからな。ムシ使いは腐る程殺してきたが、貴様のように己の命も顧みずに限界を越えてムシを入れた奴は初めてだ。せいぜい私を楽しませろ」

「くく……貴様が狂人でよかった。お陰でエミ様たちを逃がす事が出来た」

 

 エミ達を逃がすべく、ドルハンは必死に抵抗をする。だが勝ち目はなく、一方的な暴力に晒される事となった。鮮血が舞い、体が崩れ落ち、薄れゆく視界の中、それでもドルハンは戦いの手を止めなかった。自分が戦う事で、エミ達がより遠くへ逃げられるからだ。死の間際に思い返すのは、エミの気まぐれで生きながらえた時と、その後の生活。そして、ダークランスとカロリアの二人に出会い、エミが徐々に人間らしい優しさを得ていった直近の日々であった。エミとダークランスのたわいもない喧嘩と、おろおろとしながら二人を止めるカロリア。そんな三人を温かく見守る自分。

 

「(ああ……そうか……持つ事などないと思っていたが、親というのはこのような気持ちであったか……エミ様、カロリア、ダークランス……最後にお主たちに会えてよかった……どうか、生き延びよ……)」

 

 時間にして10分以上。限界を超え、遥か格上の相手であるディオをそれだけの時間足止めしたのは正に奇跡的であった。原型をとどめぬ程に体が崩壊し、なれのはてのような状態となったドルハンからディオは頭蓋骨を引き抜く。強敵の頭蓋骨を集める趣味を持っていたディオはそのまま持ち帰ろうとするが、何か思うところがあったのかポイと頭蓋骨を放り投げ、なれのはてとなったドルハンを振り返り、一言口にした。

 

「中々に楽しめたぞ、名も知らぬムシ使い」

 

 こうして忠臣は主と次代を担う子供を確かに守り切り、息を引き取った。

 

 

6-5 動き出す魔人たち

 

 ルイスたちと合流し、ルークは矢面に立って暴動を喰い止めていた。その最中、使徒である七星と一度だけ対峙する。ルークの力量を見極めた七星は早々に撤退。七星が使徒である事に気が付いたルークは、ディオやユキだけでなく他にも魔人の使徒が動き出している事をサイアスに報告。ゼス軍にもその事が伝わるが、かといって打つ手などない。事態が混迷を極める中、ルークは最悪の事態を考え、自由都市のセルに手紙を送るのであった。

 一方、エミとカロリアを屋敷まで送り届けたダークランスは、単身ドルハンが一人残った場所へと引き返していた。そこでドルハンの死体を見つけ、無惨にも引き抜かれた頭蓋骨を手に取りながらディオへの憎しみを増大させる。そのダークランスの怒りに反応し、持っていたグラムの刀身が伸び闘気が増した。しかし、力を追い求めていたダークランスであったが、強くなったグラムを見ても微塵も嬉しさを感じていなかった。

 

「嬉しくねーよ……おっちゃんが死んで……こんな事で強くなっても、おいらは全然嬉しくねー……」

 

 新たな力を手に入れたダークランスはそう呟き、涙を流すのであった。ひとしきり泣いた後、ダークランスはエミの屋敷へと戻る。しかし、その目に飛び込んできたのは暴動によってボロボロにされた屋敷であった。慌てて暴漢たちを薙ぎ倒し、屋敷の中に駆け込むも、エミの姿もカロリアの姿もそこにはなかった。聞けば、男が二人を連れて行ったという。

 

「おいらは何をやっている! 二人を頼むっておっちゃんに言われたのに! どこだ!  カロリアっ! エミっ! どこだぁぁぁぁ!!」

 

 二人がドルハンのように殺されているのではないかと焦り、半狂乱になりながらダークランスは二人を捜すため駆けていく。しかし、二人を連れて行ったのは暴漢ではなく、ダークランスもよく知る人物であった。

 

「がはははは! 君たちみたいな美少女があんな場所にいちゃいけない。俺様の傍にいるのが一番安全だ!」

「貴方の傍が一番危険ですわ! ああ、きっとこのまま無理矢理に汚されて……」

「でも、かろたちはあそこで人を待ってて……」

「あー、あいつなら大丈夫。何せ俺様の息子だ。勝手に生き延びるだろ」

 

 カロリアとエミ、ついでにラドンの三人は、屋敷が暴動で襲われ始めた時にたまたまエミを襲いに来たランスに発見され、無事に保護されていたのだ。アイスフレームに合流するカロリアとエミであったが、ダークランスはその事を知らずゼス国内を駆け回る事となる。しかし、この事が後に大きな出会いを生む。

 

「いいからお前は我々を守る事に軍を動かせ! これは命令だ」

「…………」

 

 また、ノエマセやナジリといった腐敗長官の一部はなんとか暴動を逃れ、北部にあるナガールモールへと逃げ延びていた。四将軍のウスピラは彼らの警護にあたるが、この状況下にあってなお魔力供給をせず、自分たちの事しか考えていない長官たちに辟易としていた。また、同行しているのはウスピラだけではなかった。たまたま王者の塔からナガールモールへ移送予定となっていたサーナキアとナターシャの二人も、縄に縛られた状態ではあるが行動を共にしていた。ウスピラの進言により、長官連中には手を出されておらず、いざとなった際の捨て駒として利用するよう引き連れられていたのだ。

 

「(一体ルークとランスは何をやっているんだ)」

 

 自分たちの安全を確保してくれたウスピラに感謝し、反面そんな彼女にきつく当たる長官連中に怒りを燃やしながら、早々に捕まってしまったために状況が掴み切れていないサーナキアは、この状況を打破し得る二人の男に心の中で頼るのであった。

 

「予備のマナバッテリーを動作可能な状態にまではした。だが魔力が足りない。アニスを借りるぞ」

 

 ゼス国軍では、ガンジーが予備のマナバッテリーを動かしマジノラインを安定機動させるべく動いていた。しかし、それは後一歩のところで間に合わなかった。千鶴子からアニスを借りようとしたのと同時刻、ゼスの魔法施設がユキとディオの手で破壊され、魔力供給の危険ラインを遂に割ってしまったのだ。千鶴子とガンジーのいるエネルギーセンターに警報が鳴り響く。

 

「いかんっ! 今止まっては……」

「マジノライン……停止します……」

 

 巨大モニターが真っ赤に染まり、マジノラインの停止を告げる警告文が表示される。ゼス兵たちの顔に絶望の色が浮かび、千鶴子が静かにこれから起こる事実を口にする。

 

「魔人が……来る……」

 

 ゼスとの国境沿いにある森に魔物たちは集結していた。その数は数千とも数万とも思われるのに、異様に静かであった。その集団の中心に魔人たちが居並んでいるからである。五人の魔人たちのリーダー、魔人四天王カミーラに使徒のアウレスヒウラが報告をする。ラインコックたちの働きにより、遂にマジノラインが停止したと。カミーラは無言のまま、静かに指を動かす。それは、全ての魔物たちに指示を出していた。行け、と。怒号のように響き渡る魔物たちの声。その声を耳にしながら、戦局の鍵を握る五人の魔人たちも動き出す。

 

「もう! 空を飛べる私なら本当はマジノライン停止前に潜入出来たのに、みんなが止めるから仕方なく待ってたんだからね。面倒だし、さっさと片付けるわよ」

 

 氷結の翼、魔人ラ・サイゼル。

 

「とりあえず飯だ。美味そうなとこを狙うぞ」

 

 無尽の貪欲、魔人ガルティア。

 

「速やかに、ですが慎重に。人間も全力で抵抗してきます。決して驕らず、無駄に命を散らす事の無いよう」

 

 魔人紳士、魔人ジーク。

 

「アレフガルドー。可愛い娘ちゃん見繕っておいてねー。まずは、うーん、金髪ショートかなー。赤髪ロングも良いなー」

 

 鮮血浴す蛇令嬢、魔人メディウサ。

 

「さて、どう抵抗する。人間どもよ……」

 

 魔人四天王、魔人カミーラ。

 ゼスの崩壊は、これより加速する。

 

 


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