ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第27話 奪われた聖剣と聖鎧

 

-アイスの町 武器屋前-

 

「あー、もう閉まっていますね」

「ま、時間を考えると仕方がないか」

 

 リスの洞窟からアイスの町へと戻って来たルークたちだったが、その頃にはもうすっかり暗くなっており、武器屋も今日の営業を終了していた。ラークたちを町に連れ戻ったり、シャイラ&ネイとまさかの再会をしたりと、なんだかんだで思っていたよりも時間を取られていたらしい。

 

「ギルドへの報告も明日にするか。疲れたしさっさと寝るぞ、シィル」

「そうですね」

「くっ……今は少しでも時間が惜しいのに……」

 

 ランスの言葉にかなみが眉をひそめる。別に休む事に反対な訳では無いが、本来ならば剣と鎧を買い戻すという今の行程は不要なはずのもの。遅々として進まない救出活動にどうしても逸る気持ちが出てしまう。そのかなみの肩にポン、と手を置くルーク。

 

「かなみ、気持ちは判る。リアたちの安否は心配だ。だが、あまり根を詰めすぎるも良くない。俺たちが倒れたら、本当の意味でリーザスが終わってしまいかねないからな」

「……はい」

 

 そう返事はしたものの、かなみの表情は晴れない。主君のリアが心配なのだろう。いや、リアやマリスだけではない。リーザスで生活をしているという事は、それだけ友人、知人も多いはず。その全てがヘルマン軍に捕らえられ、自分一人がこうして逃げ延びてきているのだ。彼女の中には使命感とは別に、罪悪感のようなものもあるのかもしれない。そう感じ取ったルークはかなみに静かに微笑み掛ける。

 

「大丈夫。リアもリーザスも、必ず救うさ」

「あっ……ルークさんが言うと、なんだか信用が出来ます……」

「ん、そうか?」

「はい!」

 

 状況は未だ絶望的。だが、ルークの言葉に少しだけ希望が湧いてきた気がするかなみであった。

 

「聖剣と聖鎧は買い戻し目前だな、がはは! 気分がいいからお前ら二人もウチに泊めてやるぞ。寝るのは床だがな」

「へいへい、ありがとうございます。というか、俺もアイスで生活しているから、自分の家があるんだがな」

 

 ランスに聞こえないようにボソリと呟くルーク。何故聞こえないようにしたかというと、それが話題になると少し面倒な事になるからだ。それは、かなみの存在。ランスと自分であれば、恐らくかなみは自分の家の方に泊まると言うだろう。それを黙って見過ごすランスではない。間違いなく暴れる。では、ルークが一人で家に帰り、かなみだけがランスの家に泊まりに行ったらどうなるか。それは、ライオンの檻に野ウサギを入れるようなものだ。つまり、ルークも含め全員で同じ場所に泊まるのが、一番角が立たないのだ。

 

「あの、お布団は敷かせていただきますから」

「ありがとうね、シィルちゃん」

 

 シィルの言葉にかなみがそう礼を言う。気が付けば、先程までよりも少し打ち解けた様子だ。こうして武器の回収は明日に回し、武器屋の前を離れてランスの家に向かう一行。だが、四人は気が付けていなかった。自分たちの背中を見送る三つの影があった事に。

 

「……聞いたかい?」

「ええ、目的はこの武器屋にある聖剣と聖鎧みたいね」

「ふふふ……」

 

 

 

翌日

-アイスの町 キースギルド-

 

「依頼は達成したぞ。さぁ、報酬を寄越せ!」

 

 翌朝、キースギルドに報告に来たルークたち。ランスが机の上に身を乗り出してキースに報酬を出せと喚いているが、後ろに立っているルークは若干難しい顔をしている。というのも、今回の依頼はモンスターに連れ去られたローラの奪還。しかし、そのローラは逃げて行ってしまったため、依頼達成と言えるかは微妙な状況であったのだ。だが、そんなルークの思いとは裏腹に、キースの口から意外な言葉が飛び出す。

 

「ああ、インダス家から無事に娘が帰ってきたという連絡を受けている。依頼達成だな」

「本当か? ちゃんと帰っていたのか。よかった」

「しかし、ローラ・インダスは帰ってからしばらくは自分の部屋に引きこもり、ずっと泣いていたそうだ。何かしたんじゃないだろうな?」

 

 キースが怪しむような視線を向けてくる。その対象は、主にランス。まあ、これまでの行いを考えれば当然とも言える判断だろう。ルークが困ったような顔をしながら代わりに答える。

 

「ローラには何もしてないな。ローラにはな……」

「がはは、ネイちゃんの体はしっぽりと楽しんだがな」

「……けだもの」

 

 かなみがランスに聞こえないようボソッと呟く。実は昨晩、ルークとかなみが寝ている横でランスはシィルと情事を行っていたのだ。その音が気になって中々寝付けなかった事と、これまで積み重なってきたあれやそれも合わさり、すっかりランスに対して敬語を使わなくなっていた。まあ、物凄く好意的に解釈するのならば、ランスたちに馴染んできたと言えるだろう。

 

「ネイ? 誰だそりゃ? まあいいか。ハイニ、報酬を」

「はい。これが報酬の2300GOLDです」

「シィル、確認しろ。1GOLDのずれも見逃すんじゃないぞ」

「はい、ランス様」

 

 机の上に置かれた小袋を開け、中のGOLDを確認するシィル。ギルド長のキースが渡す金すら信用していない辺り、流石のランスである。

 

「ひのふの……ぴったり2300GOLDあります」

「ちっ、少しくらいサービスしろ。強欲ジジイが」

「勘弁してくれ。ラークとノアがリタイアしたお陰で、しばらくウチのギルドの経営が大変で頭を抱えているんだからよ。エースがいなくなっちまったからなぁ……」

 

 キースが大きくため息を吐く。人当たりが良く、美男美女コンビ、その上実力は本物であるラーク&ノア。そんな二人を直接指名してくる依頼はかなり多く、稼ぎで考えれば文句なしにキースギルドのエースコンビだったのだ。

 

「エースって、ルークさんとランスは違うんですか?」

「方や頻繁に行方不明になる奴。方や気分が乗らないと仕事をしないうえ、かなりの確率で依頼人と揉める奴」

「耳が痛いな……」

「がはは! 真の英雄は仕事を選ぶのだ」

 

 ギロリとルークとランスの二人を睨むキース。ルークはつい先日もジウの町復旧のために半年近く仕事をしていなかった。そして、ランスは言わずもがな。安定して仕事をしてくれるラーク&ノアのリタイアは、ギルドにとっては本当に痛手なのだ。ポリポリと頬を掻きながら話を変えようとルークが口を開く。

 

「ま、何はともあれ、これで聖剣と聖鎧を買い戻せるな。ようやく第一歩だ」

「うむ、だいぶ遠回りをしたがな」

「だから、誰のせいだと……」

 

 ランスの無責任な発言を聞き、かなみの額に青筋が浮かぶ。スタートラインがマイナスであったため、この第一歩でようやく本来のスタート地点なのだ。

 

「そういえば、リーザスに何か動きはあったか?」

「いや、知らねぇな。どこで戦争しようと俺には関係ない。流石に魔人に暴れられちゃ困るがな。いや、戦争が起こる事によって仕事が増えるから、俺にとっては良いこと尽くめだぜ。丁度ギルドの仕事が減りそうで困っていたところだしな」

「そんな! リーザスの危機をなんだと思っているんですか!」

 

 下品な笑みを浮かべるキース。だが、その発言はかなみにとって聞き逃せるものでは無かった。バン、と机に勢いよく手を置いて食って掛かるかなみ。その様子を冷静な瞳で見ながら、火の付いた葉巻を手に持ってキースが口を開く。

 

「悪いな、嬢ちゃん。だが、間違った事は一つも言ってないぜ。俺はギルドを預かる身だからな。職員や冒険者たちを路頭に迷わす訳にはいかないだろ?」

「それでも、戦争を喜ぶなんて……」

「それは綺麗事だぜ。そもそも冒険者なんて職業、平和すぎる世の中だったら食っていけるものじゃない。適度な動乱が、冒険者にとっては丁度良いんだよ。それとも、嬢ちゃんはルークの職業も否定すんのか?」

「それは……」

 

 言い返す事が出来ず、かなみが俯いてしまう。その様子を怒ったような表情で見ていたハイニがキースを注意すべく近寄っていこうとするが、それよりも早くルークが一歩前に出る。俯いているかなみの頭に手を置き、真剣な表情でキースに向き直る。

 

「キース、確かに間違った事ではないが、途中から話をすり替えるな。俺を否定するかどうかは関係ないだろ。それに、相手を選べ。かなみはリーザス王女付きの忍者だ」

「……そうだったのか。そりゃ悪いことを言ったな。スマン」

「……いえ、大丈夫です」

 

 吸っていた葉巻を灰皿に押しつけ、キースが頭を下げる。かなみがリーザスにそんな深い関わりがあるとは知らなかったのだ。かなみもその謝罪に小さく頷く。自身の迂闊な発言を恥じているのか、キースが自身のハゲ頭に手を置きながらゆっくりと口を開く。

 

「リーザスを占領したヘルマンは周りの町も次々と制圧。既にジオとレッドも数日前には落ちたらしい。今はラジールが狙われているんだとよ」

「なんだ、知っているではないか。このクソ親父が!」

「ギルド長として、周りの状況には目を向けているさ」

「という事は……白の軍や魔法部隊も、もう……」

 

 かなみの表情が落ちる。襲撃の際には城にいなかった白の軍や魔法部隊。となれば、彼らは翌日から必死にヘルマンと戦っていたはずだ。そのヘルマンが自由都市を次々と制圧し始めたという事は、目下の邪魔者であった白の軍と魔法部隊は排除し終えたという事に他ならない。状況はドンドンと悪くなる一方であった。

 

「ラジールか、まずいな……」

「はい、アイスの町の近くですね」

 

 キースからの情報を聞いてルークが眉をひそめる。アイスからラジールまでの距離を考えてシィルもそれに頷くが、それとはまた別の理由がルークにはあった。

 

「それもあるが……ラジールはカスタムに近い」

「あっ! マリアさんたち、大丈夫でしょうか……?」

 

 ルークの頭をカスタムの町の人々たちの顔が過ぎる。四魔女事件以後、新しく自警団を組織したとは聞いていたが、田舎町の自警団でどれほど持ち堪えられるのか。

 

「道中、可能であればカスタムにも寄りたいところだな」

 

 ルークがそう口にする。真っ直ぐとリーザスに向かうのならば少し寄り道になってしまうが、それだけの価値はある。彼女たちを放ってはおけないという理由は勿論あるが、あの町には田舎町とは思えない程の強者が揃っている。強制は出来ないが、大きな力になってくれるかも知れない。そう考えるルークであった。

 

 

 

-アイスの町 武器屋-

 

「スマン、本当にスマン!!」

「うおっ、なんだ! お前みたいな親父に頭を下げられても嬉しくないぞ」

 

 金を手に入れたルークたちは、聖装備を買い戻そうと武器屋にやってくる。だが、武器屋に入るや否や親父がルークたちに向かって頭を下げてきた。何やら様子がおかしい。

 

「何かあったのか?」

「それが、昨晩泥棒に入られちまって、聖剣と聖鎧を盗まれちまったんだ」

「なんだとぉ!? 何をしてやがる!」

「そ、そんな……リーザス国が……リア王女が……メナドが……」

 

 全員が目を見開いて驚愕する。まさか、昨日の今日で聖装備が無くなってしまうとは思ってもいなかったからだ。特にかなみの驚愕は相当なもので、虚ろな目でぶつぶつと何かを呟いている。

 

「スマン、あの装備は諦めてくれ」

「馬鹿者! そう言われて、はいそうですかと諦められるか!」

「貴方の責任よ! どうしてくれるの!」

「くされ親父には死んでわびて貰おうか。剣の錆にしてくれる!」

「そうよ! こんな悪人、殺してしまいましょう!」

「落ち着けかなみ。似合わない事を口走るな」

「ランス様、かなみさん。このおじさんも泥棒に入られた被害者なのですから可哀想ですよ」

 

 ランスとかなみが激怒し、それをルークとシィルが宥める。ランスがこのように言うのは珍しくないが、かなみがこんな事を言うのは驚きだ。ランスのせいで疲れが溜まっているのかもしれない。後ろから抑えられたかなみはハッと表情を戻す。

 

「……あっ! いえ、ルークさん、これは違うんです。気の迷いというか……」

「よしよし、疲れが溜まっていたんだな。気にしなくて良いぞ」

「あぅぅ……恥ずかしい……」

 

 まるで子供をあやすかのような態度を取られてしまい、恥ずかしそうに俯くかなみ。

 

「それで、盗んだ相手に心当たりは?」

「盗まれた場所に置き手紙があった。これだ。どうもお前たち宛みたいだぞ」

「ふん、そういうのはさっさと出せ。シィル、読んでみろ」

 

 ランスに手紙を渡してくる武器屋の親父。それを受け取ったランスはすぐさまシィルに手渡し、声を出して読むよう指示を出す。

 

「はい、ランス様。えっと、軽蔑すべきランスとルークへ」

「なんだとぉ! シィル、誰に口を聞いている!」

 

 シィルの頭にポカーンとげんこつを入れるランス。シィルが涙目になりながら口を開く。

 

「ひんひん、違いますランス様。手紙に書いてあるのを読んだだけです」

「というか、どう考えてもそうだろ。ちょっと可哀想だぞ」

「ふん、紛らわしいこいつが悪い。それなら、さっさと続きを読め」

「はい……」

 

 げんこつされた場所が痛むのか、自身のもこもこ頭を涙目で擦りながら手紙の続きを読み始めるシィル。

 

「軽蔑すべきランスとルークへ。聖剣と聖鎧は私たちが盗んでやったわ。悔しいだろ、ばーか、ばーか」

「むかむか、なんてふざけた手紙だ。シィル、送り主は誰だ!?」

「なんとなく察しは付くが……」

「byローラ、シャイラ、ネイ。ローラさんと昨日の二人ですね」

「やっぱりか……」

 

 ルークがため息をつく。嫌な予感は的中しており、聖剣と聖鎧を盗んだのはあの三人だった。どこかでルークたちの目的が聖剣と聖鎧であるという事を知ったのだろう。実に的確な嫌がらせである。

 

「ローラさんは恋人が奪われたって勘違いしていますからね。どうしよう、聖剣と聖鎧がないとリーザスが……」

「せめて三人がどこへ向かったかが判ればいいんだが……」

「あら? 三人って、女性の三人組ですか?」

 

 そのとき、武器屋の入り口から少女の声が響く。振り返ると、そこに立っていたのはハニーのぬいぐるみを手に持った緑髪の少女。見覚えのない娘だ。

 

「おう、コリンちゃんじゃないか。そうか、薬を持ってきてくれたのか

「はい。どうぞ、こちらが薬になります」

「なんだ、なんの薬だ?」

「精神安定剤だ。ウチの娘はどこかの乱暴者に傷物にされちまったからな!」

 

 ギロリとランスを睨み付ける武器屋の親父。どうやらこれはランスに犯されて心が傷ついているレンチへの薬のようだ。ぷい、と視線を外すランスを横目に、ルークはコリンと呼ばれた少女に向き直る。

 

「ああ、女性の三人組を探しているんだが、心当たりが?」

「はい。お嬢様風の方と、盗賊風の方と、冒険者風の方であっていますか?」

「間違いないです!」

「そうですか。それなら、彼女たちはカンラの町に向かうと言っていましたよ」

「隣町ですね」

 

 カンラの町というのはアイスのすぐ側にある隣町だ。歩いて行っても一時間掛かるかどうかという距離であり、彼女たちが向かったという話も中々に信憑性がある。

 

「君はどこでそれを?」

「申し遅れました。私は最近この町でアイテム屋を始めたコリンと言います。今朝方、その女性たちが店に寄られて、世色癌を買っていったんです。そのとき、カンラの町に行くと話していました。随分と珍しい組み合わせのお客様でしたので、良く覚えていたんです」

「よし、カンラに向かうぞ。あの三人め、見つけたらたっぷりとお仕置きをしてやる!」

「それがますます恨みに拍車を掛けているんだがな……」

 

 グッと拳を握りしめて燃えるランス。そのとばっちりを何度も受けているためか、ルークが深いため息を吐く。

 

「では今すぐカンラに……」

「おっと、ちょっと待ってくれ。コイツは手付け金で預かっていた500GOLDだ。こんな事になっちまってスマン」

 

 店を出て行こうとするルークたちだったが、それを親父が引き留める。机の上には、聖装備の手付け金として置いていった金がある。だが、そもそもの理由を辿れば聖装備が盗まれたのは自分たちのせいだ。

 

「盗みに入られたのは俺たちのせいだし、それは迷惑料として取っておいてくれ。そちらも被害を受けたんだからな」

「いや、それじゃあ俺の気が済まねえ。金がいらねぇんだったら、ウチにある武器を持っていってくれ。大したもんは置いてねぇが、少しくらいは役に立てるはずだ」

「がはは、なら遠慮無く貰っていくぞ! シィル、この店で一番高い武器を探せ」

「はい、ランス様」

「って、おいランス! お前はウチの娘を傷物にしたんだ。お前は持ってくな!」

 

 親父の文句を無視し、意気揚々と装備を見繕うランス。十数分ほど店内を物色した結果、ランスが日本刀と鋼鉄の鎧を、シィルがシルフの杖を無料で貰い受けた。対するルークとかなみは何も貰わずに店を出る。ルークは妃円の剣と幻獣の剣、真紅の鎧で事足りているため、かなみは忍者用の装備が売っていなかったのが理由だ。

 

「忍者用の装備って、中々売っていないんですよね……」

「大陸では珍しいですものね」

「ふむ、忍者用の装備か……」

 

 肩を落とすかなみを見ながらルークが顎に手を当てて呟く。何か思い当たる物があったらしい。そんな三人を横目に、ランスが日本刀を高々と掲げてポーズを決めている。

 

「がはは、これを見越して俺様は装備を売っていたのだ。うむ、良い装備をタダでゲット!」

「見越していたなら聖剣と聖鎧は売らないでよ!」

 

 武器屋の親父の好意はかなりありがたい物であった。丁度ランスとシィルは装備品を全て売り払っていたため、現在レベルも相まって中々に心許ない状況であったからだ。これからの戦いに向けて良い補強となった一行。アイスの町を後にし、向かうはカンラの町。

 

 

 

-カンラの町 酒場-

 

「あっという間に着いたな」

「隣町ですしね」

 

 一時間もせずにカンラの町へと辿り着いたルークたち。まずは情報収集のために酒場へと向かう事にする。店に入って席に着くとウェイトレスが注文を取りに来るが、その格好はかなり大胆なものであった。ウェイトレスは下着を穿いておらず、スカートには大きく切れ込みが入っている。

 

「いらっしゃーい」

「おおっ、なんと素晴らしい!」

「ちょっと貴女、なんて淫らな格好をしているのよ!」

「あの……下着を穿き忘れていますよ」

「ああ、ここはサービスの一環としてこういう事をしているんだよ」

「あら、ルークさん。お久しぶり」

「ああ、セティナさんか」

 

 三者三様の反応を見せる中、一人冷静なルークはウェイトレスに声を掛けられている。セティナと呼ばれたその女性は、どうやら顔見知りらしい。かなみが悲しそうな瞳でルークを見る。

 

「あの……ルークさんはこういう店によく来られるんですか……?」

「冒険者だからな。酒場にはよく来るぞ」

「あ、いえ、そうじゃなくて……」

「うふふ。そこの忍者さん、心配しないで。ルークさん、私がいくら誘っても全然乗ってこない人だから」

「……どうも」

 

 初々しい物を見たとばかりにセティナが笑い、かなみが恥ずかしそうに頭を下げる。

 

「馬鹿者、こういう店はさっさと教えろ。ぐふふ、この俺様がこれから常連になってやろう」

「ありがとうございまーす。こちらメニューです」

「あ、注文ついでに一つ良いかな? 後で手が空いたら加藤さんを呼んで欲しいんだが」

「はーい、伝えておきます」

 

 ルークたちはセティナに注文をし、バーテンの加藤さんの手が空くまで食事をしながら待つ事にする。バーテンハニーの加藤はこの町一番の情報屋でもある。ランスがカレーマカロロを貪り食う。シィルとかなみは焼き肉そうめんを二人で摘んでいるが、あまり美味しくなかったようでそれぞれレモンティーとほうじ茶で口直しをしている。

 

「ほうじ茶とは渋いな」

「お茶、好きなんですよね」

 

 ルークがダボラベベをバリバリと食べながらかなみと会話をする。少し談笑した後、先程の武器屋での一件を思い出す。

 

「そういえば、この町の武器屋の親父は変わっていてな。しゃもじなんだ」

「しゃもじ……?」

「そう、あのしゃもじだ。後で一緒に行かないか? この町は日本刀以外にもJAPANからの輸入品を取り扱っているから、かなみが使える装備も売っているかもしれないぞ。アイスの町で何も買わなかったし、何か買ってあげるよ」

「えっ、はい、ありがとうございます!」

「良い装備があるといいな」

「(ひょっとして、それはデートなのでは……)」

 

 かなみがぶつぶつと何かを呟いていると、ようやく手が空いたのか加藤がこちらのテーブルにやってくる。

 

「お待たせしました。ルークさん、お久しぶりです」

「久しぶり。少し聞きたい事があってな。ローラっていう女の子を知らないか? 15歳くらいの茶髪の少女だ。他に二人ほど女を連れているんだが」

「ああ、知っています。ここでミルクセーキを飲んでいた娘だ。彼女たちだったら、もうこの町にはいませんよ」

「何処へ行ったか聞いていないか?」

「うーん……確か、ラジールの町に向かうと言っていた気がします」

 

 加藤が記憶をほじくり返してそう返答する。それを聞いたルークは渋い顔になる。

 

「まずいな。キースの話が本当なら、ラジールは今ヘルマンに襲われているはずだ」

「いえ、その情報は古いですね。ラジールは二日前に占領されましたよ。今、ヘルマン軍はカスタムの町を攻めています」

「なんだって!?」

 

 目を見開く一同。カスタムの町が襲われるのではという不安は既に現実のものとなっていたのだ。

 

「ランス様、マリアさんたちが……」

「ええい、あのハゲ親父。なにが、ギルド長として周りの状況には目を向けている、だ。古い情報なんぞ渡しおって!」

 

 現状は着々と最悪の方向へ進んでいる。ローラは敵の渦中に飛び込んでいってしまい、カスタムは既に戦火の真っ只中。どちらも放っておく訳にはいかない。

 

「ラジールの町への街道は先程ヘルマンによって封鎖されたみたいですね。ローラという娘たちはギリギリ通れたでしょうが」

「封鎖? こちら側からラジールには入れないんですか?」

「はい、そうなります」

「そうなるとローラを追うのは難しいな。だが、封鎖された町の中にいるならローラたちはある程度安全だろう。まさか奴らも彼女たちが聖剣と聖鎧を持っているとは思わないだろうし、一般人を下手に虐殺したりはしないはずだ」

 

 リーザス及び自由都市はこのまま行けばヘルマン領になる。これから管理をしていく町の住人を無碍に扱ったりはしないはずだ。

 

「それなら、先にマリアさんたちを助けにいきましょう!」

「でも、ラジールの町を通らなきゃカスタムまでは行けないわ」

 

 かなみの言う通り、カスタムに向かうには封鎖されたラジールを通るしかない。カンラからラジールを通らずに歩いてカスタムに向かうのは不可能。どんなルートを通っても岩山や崖などに邪魔をされてしまうのだ。

 

「加藤さん、カスタムの状況は判るか?」

「かなり強固に防衛しているみたいですよ。なんでも、数千にも及ぶヘルマン軍にたった数百人で渡り合っているみたいです」

「ふん、やるな。流石俺様の女たちだ」

 

 カスタムの町を復興させる際、新しく組織した防衛軍が活躍しているようだ。だが、その人数差では徐々に追い込まれていくのは必至。早く救援に行きたいが、ヘルマン兵に占領されたラジールを通ることは出来ない。どうしたものかと頭を抱えるルークたち。

 

「しかし、カスタムもあれだけ抵抗してしまうとこれからが大変です」

「どういう事ですか?」

「悪戯にヘルマンを刺激してしまっていますからね。このままでは、制圧された際には酷い扱いを受ける事でしょう。早く降伏してしまった方がいいのに……」

「しない、だろうな。彼女たちの性格を考えれば」

 

 ルークの頭に真っ先に浮かんだのは志津香。彼女が降伏する姿など想像が付かない。いや、志津香だけではない。カスタムの少女たちは全員強い意志を持っている。降伏など絶対にしないだろう。そのとき、いつの間にやらこちらのテーブルの前に立っていた女性がルークたちの会話に割って入ってくる。

 

「ほんと、あの娘たち頑固なんだから。さっさと降伏すれば、苦しい思いをしなくて済むのに」

「ん? げっ、ロゼ!」

「お久しぶり、ランスさん。それと、ルークさんで合っているわよね?」

「そうだが、どちらさんだ?」

「カスタムの町の神官さんです、ルークさん」

 

 そこに立っていたのは、カスタムの町の淫乱シスター、ロゼ・カド。ランスが露骨に嫌な顔をしているのは、カスタムでの出来事を思い出しているのだろう。ランスや真知子から話だけは聞いているが、実際にルークが顔を合わせるのはこれが初めてである。

 

「ん、待て。どうしてここにいるんだ?」

「カスタムの町は今や戦乱真っ直中よ。逃げて来たに決まっているじゃない」

「そういえば、以前も逃げられていましたね」

 

 堂々と胸を張るロゼ。それを見てシィルがラガール戦のときにロゼが逃げ出していた事を思い出す。そんなロゼにかなみが疑問を投げかける。

 

「神官なのに、傷ついた人を見捨てて逃げたんですか?」

「ナンセンスよ。そんな慈善事業、今時流行らないわ。神官の仕事っていうのは安全な場所で戦争を非難する事よ」

「……ま、いいがな。カスタムの状況は? 逃げ出す前の知っている限りの情報で良い」

「情報料100GOLDね」

「世渡り上手だな、ほら」

「まいどー」

 

 ルークから100GOLDを受け取ったロゼはほくほく顔でカスタムの町の現状を説明する。

 

「防衛軍が相当頑張っているわ。特にマリアと志津香が中心になって、みんなを鼓舞している。でも、もう町全体を包囲されていたから時間の問題ね。あそこまで囲まれちゃったんじゃあ、町からは誰も逃げられないわ」

「マリアさん、志津香さん、ミリさんとミルちゃん、ランさん、チサさん、真知子さんに今日子さん、トマトさん、エレナさん、ペペさん、それから……みなさん元気なんですか?」

 

 ガイゼルの名前がシィルの口から出て来なかった事に、心の中で涙が止まらないルークだった。

 

「元気よ。今のところはだけどね。明日、明後日とどうなるかは判らないけど」

「待て、何故そんなギリギリの情報を持っている? 最近まで町にいたのか?」

「まあね。あ、これは詰んだな、って思ったから適当に逃げ出してきたわ」

「そんなギリギリまで残っていたのなら、町はとっくに包囲されていただろう? どうやって逃げ出してきたんだ?」

「はいはい、美人の私に色々聞きたいのは判るけど、質問は順番、踊り子さんには手を触れないでね」

 

 ランスとルークの二人に次々と疑問を投げられ、ロゼが適当に茶化しながらそれに答える。

 

「この町の近くに秘密の抜け道があるの。カスタムの町と直通で繋がっている、悪魔の通路と呼ばれる道よ。そこを通ってきたって訳。中々楽しかったわ」

「楽しかった?」

「悪魔の道にはデーモンがいてね。通行料は女の体。もう思い出すだけで濡れちゃうわ」

 

 くねくねとわざとらしく体を揺らすロゼ。そのロゼの言葉を聞き、ランスが怒りの炎を燃やしている。

 

「ちっ、悪魔の分際で生意気な。俺様がぶっ殺してやる」

「ロゼ、悪魔の通路の場所を教えて貰っても良いか?」

「ふふ、いいわよ。あー、体が火照ってきたわ。後でもう一回行っちゃおうかしら」

「それなら一緒に案内役として来てくれないか? カスタムに付く前に引き返してくれて構わないから」

「んー……そうね……」

 

 悪魔の通路の中が入り組んでいるのかは判らないが、どちらにしろ一度通ってきたロゼがいるのならば迷う事無く一気にカスタムを目指せるはずだ。ルークのその提案にロゼが一度迷う素振りを見せた後、右手をスッと前に差し出して口を開く。

 

「寄付金ちょうだい」

「あまり持ち合わせが無くてな。500GOLDでいいか?」

「おっけ、おっけ、ばっちし!」

 

 こうして、一時的にロゼがパーティーに加わる事となった。悪魔の通路がある洞窟は、カンラの町から南に下った場所に位置する山の麓にあるらしい。カスタムの町を救うため、ルークたちはカンラを後にし、ロゼに案内をされて悪魔の洞窟を目指すのだった。

 

「と、その前に武器屋だったな」

「はい!」

「みんな、武器屋に行くぞ」

「はい……」

 

 約束であった武器屋には町を出る前に寄った。全員で。その状況にかなみは少し落ち込んだ様子であり、シィルにその肩を叩かれていた。

 

 

 

-悪魔の洞窟 入り口-

 

 ルークたちが武器屋に寄っている頃、悪魔の洞窟の前には一人の門番が立っていた。緑色の髪が特徴的な悪魔の女。その彼女が不機嫌そうな顔をしながら、ぶつぶつと文句を言っている。

 

「くそっ……元六階級悪魔の私がどうしてこんな下っ端の仕事を……」

 

 その女悪魔は、以前カスタムでランスに召喚され、さんざんヤられたあげく契約を破棄され、更には上司に降格処分を言い渡されたあの悪魔だった。六階級というエリートだった彼女だが、あの事件のせいで今では九階級まで降格させられていたのだ。

 

「全部あの男のせいだ。今度会ったら八つ裂きにしてやる!」

 

 ぶんぶんと持っていた鎌を振り回す女悪魔。やはりランスの事は相当恨んでいるようだ。

 

「でも、こういう地味な仕事を頑張って勤め上げて、いずれは元の階級に戻してもらうんだから。頑張れ、私!」

 

 グッと拳を握りしめる彼女。だが、不幸は確実に近づいていた。

 

 




[人物]
ロゼ・カド (3)
LV 5/20
技能 神魔法LV1
 カスタムの町の淫乱シスター。ラガールのとき同様、町のピンチにさっさと逃げ出す。薄情といえば薄情だが、現実主義者とも言える。悪魔の通路が気に入ったのか、あるいは別の理由からかは定かではないが、ルークに雇われて一時的に旅に同行する事になる。

ローラ・インダス
 モンスターであるリスと恋に落ちた少女。最愛の彼が殺されたと勘違いし、ルークとランスに復讐を誓う。シャイラ、ネイと共に聖剣と聖鎧を盗んで逃走。

コリン
 アイスの町でアイテム屋を営む少女。店は最近オープンしたばかり。熱心なハニワ教の信者でもある。

セティナ
 カンラの町の酒場のウェイトレス。店の方針で常にノーパンである。何度かルークにアプローチを掛けるも、やんわりと断られている。

加藤清森
 カンラの町の酒場のバーテンハニー。町一番の情報屋でもあり、ルークとは顔見知り。

しゃも一郎
 カンラの町の武器屋の親父。しゃもじ。ゼスに弟がいるらしい。


[装備品]
日本刀
 ランスが無料でゲット。JAPANからの輸入品の刀。斬れ味が良く、好んで使う冒険者も多いため、輸入品ながら多くの町で取り扱われている。

鋼鉄の鎧
 ランスが無料でゲット。巷で生産されている鎧の中では最高クラスの品質。重量があるため、それなりの体格でなければ装備するのは逆効果。

シルフの杖
 シィルがちゃっかり無料でゲット。魔法工房シルフ社製作の杖。中々に高性能な杖で、愛用する魔法使いも多い。

忍服
 かなみがルークに買って貰った新しい服。JAPANからの輸入品で取扱店が少ない。大事にします、普段は着ないようにします、とかなみは言っていたが、防具なので普段から着なさいとルークに窘められる。


[都市]
カンラの町
 自由都市。アイスの隣町で、これといって特色もない普通の町。


[その他]
カレーマカロロ
 イタリアの神秘。フランスパンをくり貫いてシチューと餃子を詰め、うどんで巻いたもの。珍味。

焼き肉そうめん
 冷たくて暖かいお袋の味。鍋に入ったカレーライスを思わせる食べ物で、臭いはチャーシューメン。かなり好みの分かれる一品。

ダボラベベ
 大層な名前だが、普通のせんべい。食べると経験値が手に入る。子供の成長を祈って誕生日などによく食べる地方もあるらしい。

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