ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第2話 後に語られる出来事

 

-ジオの町 酒場-

 

 ジオの町の外れにある小さな酒場。見た目はボロイがそれなりに繁盛しているようで、店内は多くの客で賑わっていた。その客の殆どは冒険者と思われる者たちである。冒険の成果を喜び合う者、静かに飲む者、酔いが回って口論を始める者、酒場の光景としてはよくあるだろう。そんな喧騒溢れる酒場の奥、少し大きめのテーブルで向かい合って食事をしている三人の冒険者がいる。ランス、シィル、そしてルークの三人だ。

 

「奢って貰うのは良いが、分け前はまた別だぞ。判っているな?」

「安心しろ、ちゃんと判っている。人の好意は素直に受け取っておけ」

 

 水割りを片手にランスがルークに念を押し、ルークはため息をつきながらそれに答える。ここでの払いは全額ルーク持ちという約束であった。先の礼も兼ねてというのが一つ、一応ギルドの先輩だからというのがもう一つの理由だ。

 

「しかし、酒はまあまあだが料理が不味いな。こんなに不味いへんでろぱなど俺様は認めん」

「酒場の料理なんてこんなもんだろ。ほら、シィルちゃんも遠慮せずに食べな」

「すいません、いただきます」

 

 奢りでありながら文句ばかり口にするランスと、そのランスの態度を申し訳無さそうにしているシィル。何となく二人の人となりが見えてきたルークはウォッカを一口飲み、シィルにも食事を取るよう勧める。

 

「で、仕事の話に戻ろうか。グァンちゃんから聞いた話だと、ヒカリちゃんを攫ったのは女忍者だったらしい。深夜に部屋でシャワーを浴びていたところを襲われた、とのことだ」

「女忍者ねぇ……そんなもんがまだいたのか?」

「まあ、大陸にいるのは珍しいな。JAPANには、まだ多く存在するようだが」

 

 救出したグァンは酒場の近くにある宿で寝かせている。宿に運んだあたりで一度目を覚まし、誘拐時の状況をルークに話してくれたのだ。その後は疲労からか、すぐにまた眠り込んでしまった。グァンから聞けたのは、深夜に忍者が部屋に押し入ってヒカリを攫った事、目の前でルームメイトが攫われようとしているのに恐怖から一歩も動けなかった事、その事を後悔して独自に調査を進めていた事、その最中に運悪く盗賊に捕まってしまった事、といった辺りの情報であった。

 

「ヒカリちゃんとグァンちゃんの誘拐は全くの無関係だな。一人救出出来たのはめでたいが、ヒカリちゃんの件は情報を別途集める必要がある」

「忍者が犯人なんて情報、たいした手がかりにもならんぞ、まったく……」

「とりあえず、俺はグァンちゃんをリーザスに送り届ける。その後はリーザスで情報収集をするつもりだ。そっちはどうするんだ?」

「ふむ……シィル、お前はパリス学園に入学して情報を集めろ」

「えっ、学校に行かせてもらえるのですか?」

「ふっ……」

 

 急に話を振られたシィルは、まるで的外れな返事をする。学校に通いたかったのだろうか、パッと嬉しそうな表情に変わったのを見て、ルークは静かに笑う。ランスと比べてしっかりしているという印象を持っていたが、彼女は彼女でそれなりに天然なのかもしれない。

 

「馬鹿、情報を集めるための潜入に決まっているだろうが。ヒカリちゃんと親しかった友人を中心に調べろ」

「あっ、そういう事ですね。判りました」

「がはははは、グァンちゃんの分の20000GOLDは山分けになってしまったが、もう20000GOLDは必ず俺様が全額貰うぞ!」

「分け前をやるとは言ったが、半分もやると言った記憶はないんだがな……」

「すいません……」

 

 いつの間にかランスの中ではグァン救出の報酬は半分貰える事が決定事項となっていた。ルークはその態度に、もう何度目になるかも覚えていないため息をついた。シィルが申し訳無さそうに頭を下げてくるのに軽く左手を上げて返事をし、そのまま上機嫌のランスへと話しかける。

 

「そこで、一つ提案がある。この事件、お互いに協力し合わないか?」

「は? いきなり何を言い出すんだ? 俺様は男と協力し合う気はないぞ」

「いや、こちらとしては早く救出して親御さんを安心させてあげたくてな。先の盗賊たちを倒した手腕を見るに、二人の実力は相当なものと見受けられる」

「当然だ。俺様は世界最強、空前絶後の超英雄だからな」

「私はそんな……」

 

 キッパリと協力の申し出を断ったランスだったが、その後に続いたルークの言葉に気を良くする。その様子を見たルークはもう一押しかと心の中で思いつつ、もう一つの情報を切り出す。

 

「それに、そちらは知らないだろうが、この案件の報酬を手に入れたいのならば急ぐ必要があるぞ」

「えっ、どういうことですか?」

「ええぃ、勿体振らずにさっさと急がなきゃいけない理由を話せ!」

 

 意味深なルークの発言に、協力する気など全くなかったランスが食いつく。飲み干したグラスを机に強く置き、声を荒げてくる。

 

「俺が仕事を受けた際にギルド仲間から聞いた話だが、ラークとノアもこの案件に興味を持っているらしい。今はモンスター退治の仕事を受けている最中なんで手が回らないらしいが、その仕事が片付いたら間違いなく参戦してくるぞ」

「げっ、あいつらか……ノアさんは可愛いから許すが、ラークの奴は三流冒険者の分際で調子に乗りやがって……」

 

 ランスが嫌な顔をするのも無理はない。キースギルド所属の冒険者コンビ、ラーク&ノア。今までにいくつもの困難な事件を解決してきた強者であり、美男美女コンビとしても有名だ。キースギルドに所属する冒険者の中では間違いなくエース格であり、キースからの信頼も厚いため優先的に仕事を回して貰えるというおまけ付き。彼らがこの案件を引き受けたら、20000GOLDとヒカリちゃんゲットというランスの計画に暗雲が立ち込めようというもの。

 

「むむむむむ……」

「ラーク&ノアを待ってもいいんだが、さっきも言ったようにすぐにでも助け出してあげたいんでな。報酬は5:5。お互いに悪くない提案だと思うが?」

 

 普段のランスであれば、こんな提案は即座に断っていただろう。どこの馬の骨とも知れない男と組まなくても、ラーク&ノアが参戦してきたとしても、俺様が一番に解決するに決まっていると言い放っているのが普段のランスである。だが、今は少し状況が違う。

 

「(絶対に金が欲しい……)」

 

 そう、今のランスは本格的に金がなかった。先のグァン救出の報酬を無理矢理折半に持ち込んだが、10000GOLDでは借金を返すだけで殆ど消えてしまう。しばらく遊んで暮らすには、やはり最低でも20000GOLDは欲しい。ひとしきり悩み抜いた後、ランスは苦虫を噛みつぶしたような顔で口を開く。

 

「ぐぬぬぬ……そうだな、今回だけは協力してやらんこともない。ただし、報酬は7:3だ! こっちは二人だからな」

「了解だ、こちらはそれで問題ない。誘拐事件の報酬としては6000GOLDでも破格だからな」

 

 ランスの条件をルークが呑み、これにて二人は一時的に協力関係となった。ウェイトレスが追加で頼んだ飲み物を運んでくるのを横目に、ルークはランスとシィルの二人の顔を再度見ながら口を開く。

 

「これからしばらくは協力関係だな。よろしく頼む」

「よろしくお願いします」

「ふん、男と仲良くする気などないわ」

 

 シィルは素直に返事をするが、ランスはウェイトレスが追加で持ってきた水割りを飲んで悪態をつく。流石にその態度にも慣れてきたため、ルークは苦笑しながらシィルと挨拶をし合う。こうして、奇妙な協力関係が完成した訳だが、シィルは今のやりとりに少しだけ違和感を覚えていた。

 

「(いくら時間もお金もないからって、ランス様が男性と組んで仕事をするなんて……)」

 

 それは、ランス自身も気が付いてない事。ランスがルークと組んだのには、先の理由以外にもう一つ理由が存在していた。ランスは、ルークの雰囲気にどこか懐かしさを感じていたのだ。同じギルドに所属していながら、ランスとルークが顔を合わせるのはこれが初めて。そんな印象など持つはずがないのに、以前に感じたことのあるような懐かしさ。その感覚が、無意識にルークの提案を受ける引き金となっていたのだ。この感覚の理由をランスとルークが知るのは、これよりかなり先の事になる。

 

 

 

一週間後

-リーザス城下町 パリス学園-

 

「シィルさん。次の授業は離れ教室だから、早めに移動しましょう」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 シィルは途中入学の審査に楽々合格し、パリス学園への潜入に成功していた。シィルはまだ若いため、白い学生服が良く似合っている。持ち前の人柄もあり、お嬢様学校のパリス学園にシィルはあっという間に馴染んでいた。ルークはグァンを家族の下に送り届け、リーザス城下町で情報収集を続けている。ランスはまだリーザスへやってきていない。万が一にも協力関係であるというのがばれないようにするため、時期をずらしてリーザスに入る事にしたのだ。二人から遅れること一週間、ランスも今日ようやくリーザスへと到着する手筈になっている。

 

「シィル……シィル……」

「っ……!? すいません、ちょっと気分が悪いので保健室に行ってきます」

「大丈夫? ついていきましょうか?」

「大丈夫です。気分が良くなったら教室に向かいますので、先生にはそう伝えておいてください」

 

 脳内に流れてくるランスの声。その声を聞くと同時に、シィルは学友からそそくさと離れていく。向かう先は保健室ではない。声が聞こえてくる方向、パリス学園の裏口だ。教師に見つからないよう廊下を小走りで駆け、裏口へとやってきたシィルは茂みの中にランスの姿を見つける。

 

「お待たせしました、ランス様!」

「遅いぞ、馬鹿。それで、何か判ったのか?」

 

 ランスがパリス学園を訪れたのは、当初からの手筈通り。潜入調査をしているシィルから、これまでに集めた情報を聞き出すためだ。シィルがランスの声に反応できたのは、初級魔法であるリーダーのお陰である。本来は相手の考えている事を読み取る魔法だが、応用すればこのような使い方も出来る。呼ばれてからまだ三分も経っていないが、ランスにとっては遅すぎたようだ。シィルが申し訳無さそうに頭を下げ、次いでこれまでの調査結果を報告する。

 

「ヒカリさんですが、学園長のミンミン先生から特別生徒にされていた優秀な方だったようです。あ、特別生徒というのは、学園費が免除になったり、卒業後の就職先を優遇して貰えたり……」

「そんなどうでも良い情報はいらん。で、他には?」

「それがさっぱり……」

「使えん! えぇい、こうしてやる!!」

「ひんひん……痛いです、ランス様……」

 

 シィルのもこもこ髪を両手でぐりぐりと挟み、お仕置きをするランス。理不尽なお仕置きだが、シィルは文句一つ言わずにそのお仕置きを受ける。健気な娘である。

 

「うぅ……あ、私もミンミン先生から特別生徒にしてもらったんですよ」

「だから、そんな下らん情報はいらんと言っているだろうが!」

「あーん、ごめんなさい!」

 

 更に両拳に力をこめるランス。ひとしきりお仕置きをした後、シィルを解放してやる。途中で下手に口を挟んでしまったがために、いつもよりも長くお仕置きを受け、シィルはそのもこもこ髪を擦っている。ふん、と鼻を鳴らしたランスだったが、シィルが白い学生服を着ているのに気が付く。

 

「(ふむ……露出は少ないが、これはこれで……)」

「あ、ランス様、この服中々似合っていると思いません?」

「馬鹿者。似合ってなぞいないし、落第点だ」

「あぅ……すみません……」

「まあ、寛大な俺様だから許してやろう。とりあえず、そこの茂みで一発ヤるぞ」

「へ? これから授業が……」

「俺様直々の性授業だ! 下らん授業よりもよっぽどためになるぞ、がはは!」

 

 素直に褒めてはあげないランスだったが、シィルの珍しい制服姿にムラムラとしたため、有無を言わさず茂みに連れ込む。小一時間ほど茂みの中で情事に耽り、一発どころか四発もシィルの中で出した後、上機嫌で茂みから出てくる。

 

「がはは、グッドだ!」

「ひどいです、ランス様……」

「しっかり調査しておけよ」

 

 一発抜いてすっきりしたのか、ランスはパリス学園を後にする。それを見送ったシィルは、とにかく次の授業が始まる前に汚れてしまった制服をなんとかしなければと奔走する。手洗い場に誰もいないのを見計らって大急ぎで水洗いした後、プチ炎の矢で乾かしてなんとか事なきを得たのだが、息を切らせていたため学友からまだ保健室で寝ていては、と心配される羽目になってしまった。

 

 

 

-リーザス城下町 中央公園-

 

 リーザス城下町の中央に位置する小さな公園。ここでランスはルークと落ち合う約束になっていたのだが、どうもルークの姿が見当たらない。見通しの良い公園であるため、それ程歩き回らずともルークがいない事はすぐに判る。

 

「ちっ……少し早く着きすぎたか。あの野郎、俺様を待たせるとは不届き千万。気を利かせて早く来ておくのが下僕というものだろうに……」

「あの……」

 

 舌打ちをしながら、当然であるかのようにルークを下僕扱いするランス。どうしたものかとランスが頭を掻いていたそのとき、後ろから声を掛けられる。女の声だったのですぐさま振り向くと、そこには買い物かごを両手で重そうに抱えた娘が立っていた。

 

「何の用だ?」

「おサイフを無くしてしまったんです。一緒に探して貰えませんか?」

 

 ランスが娘をジロジロと観察する。小柄だが子供という訳では無い。青いワンピース風の服に身を包み、容姿は中々に可愛く、十分にランスのストライクゾーン内であった。ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべ、ランスが口を開く。

 

「探してやってもいいが、報酬は?」

「へ?」

「俺様はプロの冒険者だ。報酬がないと働かんぞ。ああ、あんたの身体でもいいな」

 

 人差し指と中指の間から親指を突き出した、どこか嫌らしい形の右手をグッと前に突き出してそう宣うランス。サイフ探しの報酬としてはあまりにも酷いものであるが、何故か娘は顔を真っ赤にしながら小さく頷く。

 

「そ、そんな……判りました……」

「(ラッキー。適当に言ってみたが、まさか受け入れられるとは……流石は俺様!)」

 

 流石にランスもダメ元の報酬提示ではあったのだろう。娘の予想外の反応にグッとガッツポーズを取り、どのように楽しんでやろうかと考え始める。

 

「見るからに不幸そうな娘だからな。ここはイジめる感じで責めて……」

「あの……先にサイフを探していただいても……」

「おっと、そうだったな。お楽しみは後だ。それで、どこで無くしたんだ?」

「この公園なんです」

 

 その言葉を受け、ランスは公園をぐるりと見渡す。先程もルークを探すべく軽く見回したばかりの公園内を再度見回すが、サイフなど落ちているようには見えない。というか、そんなものが落ちていれば先程の時点でランスが目ざとく見つけ、猫ばばしているところだろう。一応念入りに見回したが、やはりサイフは落ちていなかった。

 

「見当たらんぞ。もう誰かに取られたんじゃないのか?」

 

 ランスがそう言いながら振り返ると、そこに立っていた娘の様子が変わっていた。同じ人物ではあるのだが、服が先程までとまるで違う。いつの間にか娘は黒装束を身に纏っており、その手にはランスのサイフとくないを持っていた。

 

「サイフは見つかったわ。ありがとう」

「お、俺様のサイフ……」

「この件からは、手を引いた方がいいわよ。死にたくなければね……」

「自分から姿を現してくれるとはな、ずいぶんと優しい誘拐犯だな」

 

 瞬間、娘が目を見開く。自分の真後ろから男の声が響いてきたからだ。くないを構えながらすぐさま後ろを振り返った娘だったが、それと同時にくないが弾き飛ばされ、手に持っていたサイフも奪われてしまう。そこに立っていたのは、黒い髪の冒険者。ランスとこの場所で落ち合う約束をしていたルークだ。

 

「これは返して貰うぞ」

「くっ……」

 

 間合いを取るように後方へ跳んだ娘は、そのまま懐から煙玉を取りだして地面に投げる。大量の煙が娘の姿を包み込み、その姿が見えなくなる。しばらくして煙が晴れたが、娘の姿は風のように消えてしまっていた。

 

「馬鹿者! 何を簡単に取り逃がしている!」

「いや、少し思うところがあってな。捕まえて尋問するよりも、しばらく泳がせておいた方が良いと判断した」

「ん、どういう事だ?」

「それも含めて今から説明する。だが、一週間ずらしてリーザスに入ったのは無駄になったな。今ので間違いなく協力関係にある事はバレた」

 

 公園に到着したルークの目に飛び込んできたのは、ランスの背後で買い物かごからくないを取り出す娘の姿。流石に飛び出さない訳にもいかず、結果として犯人と思われる娘にランスとルークの関係をバラしてしまう事になってしまった。

 

「ほら、サイフだ。あまり油断するな」

「ふん、俺様一人でも簡単に取り返せたがな」

「まあ、そういう事にしておくか」

「あの小娘、次にあったら絶対に犯してやる!」

 

 ルークからサイフを受け取りつつ、自分よりも年下と思われる娘に出し抜かれたのが相当腹に立ったのか、ランスは公園のゴミ箱を盛大に蹴ってベンチに腰掛ける。ルークもベンチ側の木に寄りかかる。

 

「で、何か手掛かりはあったのか? これで何も判らなかったとか言ったら、報酬は9:1になるぞ」

「勝手な事を……まあ、一応有力な情報は手に入れた。それが女忍者を逃がした理由に繋がってくる。この案件、想像以上に厄介なものみたいだ」

「どういう事だ?」

 

 ルークが顎に手を当てたまま一度天を仰ぐ。既に日は落ちており、辺りはだんだんと暗くなってきている。だが、ルークの表情が暗くなっていたのは、そのせいではない。

 

「ヒカリちゃんがリーザス城に連れて行かれるのを見た、という情報を手に入れた。この案件、リーザスのお偉いさんが関わっている可能性が高い」

「なにぃ!? ガセネタじゃないだろうな!?」

「信頼できる情報屋から聞いた話だ。まず間違いないだろうな」

「ちっ、キースの野郎。20000GOLDじゃ割に合わんぞ」

 

 ランスが舌打ちをしながらキースの文句を言う。だが、無理もない。ただの誘拐事件と思っていた案件が、下手すれば国に喧嘩を売る事になりかねない大事件の可能性が出てきてしまったのだ。

 

「あそこで女忍者を捕らえても、真犯人まで辿り着ける可能性は低い。ああやって簡単に姿を見せてくれた隙の多い忍者だ。しばらくは泳がせておいた方が得策だろうな」

「相当へっぽこな忍者なのだろうな、がはは!」

「(いや、隙が多いというよりも、今のは……)」

 

 ランスは簡単に姿を見せた女忍者の無能ぶりを笑っているが、ルークは女忍者の行動に何か思うところがあるらしく、顎に手を当てながら思案している。こうして、ルークとランスはリーザスの闇に一歩足を踏み入れる事になったのだ。

 

 

 

-リーザス城下町 城門前-

 

 公園から少し離れた場所にある、リーザス城城門。その側に立っている一本の巨大な木の上から、公園を観察している者がいる。先程の女忍者だ。

 

「これで手を引いてくれれば良いのだけど……」

 

 そう呟き、木の上から女忍者が姿を消す。どこか悲壮感の混じった呟きは、誰の耳に入る事無く、風と共に消えていくのだった。

 

 

 

-リーザス城下町 宿屋『あいすくりーむ』-

 

「いらっしゃいませ。お二人様ですね。部屋はご一緒になさいますか?」

「当然、別々だ。俺様が男と二人で宿に泊まるなど、有り得ん話だ」

「人の金で偉そうに……まあ、そういう訳だから二部屋頼む」

「畏まりました」

 

 日も暮れていたため、今日の散策は切り上げ宿へとやってきたルークとランス。因みにシィルは学園の寮に入っているため、この場にはいない。深々と頭を下げている宿の女店主を見てルークが口を開く。

 

「JAPAN出身かな?」

「はい。堀川奈美と申します。これからもご贔屓に。それでは、部屋へと案内しますね」

「そうか、JAPANか……」

 

 ルークがボソリと呟きながら部屋へと案内されていく。その言葉を聞いたランスの頭に浮かんだのは、忍者はJAPANに多く存在しているというルークの話。そう思った瞬間、どうにも堀川奈美が怪しく見えてくる。美人でスタイルも抜群の女店主、これは身体検査の必要があるなとイヤらしい顔をしながら心に誓うランスだった。

 

「ふぅ……さて、どう動くか……」

 

 ルークが部屋に入り、一息つく。きな臭さは感じていたものの、まさかリーザスのお偉いさんが関わっているとまでは想像していなかった。

 

「リーザスか。いずれは関わらなければならないと思っていたが、今がその時なのか……?」

 

 犯人如何によっては、リーザスに喧嘩を売る事になりかねないが、その逆で恩を売る事も出来る可能性がある。窓の向こうに見える巨大なリーザス城をその瞳に映しながら、ルークは何か深く考え込んでいた。そのとき、隣の部屋から声が響いてくる。

 

「がはは、女忍者かどうかの身体検査だぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁ! 背負い投げ!!」

「あんぎゃぁぁぁぁ!!」

「何をやっているんだ、あいつは……」

 

 隣の部屋から聞こえてくる喧騒にルークが冷や汗を流す。結局この一件でランスは宿から追い出され、野宿をする羽目になってしまう。リーザス城下町で宿を営む女店主、堀川奈美。か弱そうな見た目に反し、柔道五段という剛の者であった。

 

 

 

翌日

-リーザス城下町 城門前-

 

「だから、通行手形を持っていない方はお通しできません!」

「ええぃ、いいからさっさと通せ」

 

 リーザス城の城門前で女性門番と喧嘩をしているのは、ランス。犯人がリーザス城の中にいるという情報をルークから聞いたランスは、城の中に入れろと城門前で騒ぎ立てていたのだ。最初は丁寧に対応していた門番だが、だんだんと苛ついてきているのが見て取れる。

 

「それ以上すると、捕まえて牢獄に入れますよ!」

「げっ……とりあえず戦略的撤退だ!」

 

 これ以上はマズイと感じたランスはその場から逃げ出し、中央公園でルークと落ち合う。ルークの方はというと、通行手形を手に入れる手段がないか朝から情報収集をしていた。

 

「俺様の念入りな調査の結果、強行突破は無理だという事が判った」

「念入りな調査ねぇ……」

 

 調査中にランスが門番と喧嘩しているのは見ていたため、どこが念入りな調査だったのかとルークが冷ややかな視線を送る。

 

「ふん、昨夜の野宿のせいで流石の俺様でも頭が回らんのだ。貴様のせいでな!」

「あれは自業自得だろうが……」

「違う、貴様のせいだ! 貴様が意味深な声で、JAPAN出身……とか言うのが悪い!」

「……記憶にないな」

「嘘つけ!」

 

 ルークも少しだけ堀川奈美を疑っていたのか、ランスの言葉に思いっきり目を反らして答える。そんな反応をされては、ランスで無くても嘘をつけと言いたくなるというものだ。これ以上この話を続けるのはバツが悪いのか、ルークは話題を元に戻す。

 

「話を戻そう。通行手形には二種類ある。城に入りたい者が手続きをし、厳しい審査の下に発行される仮通行手形。もう一つは、普段から城を出入りする仕事にある者が持っている、本通行手形。仮通行手形は通る際に本人確認が発生するから、俺らが手に入れなければいけないのは本通行手形だ」

「うむ。それで、その本通行手形を持っている奴は見つかったのか?」

「一応な。本通行手形を持っている人物は流石に少ないみたいだが、どうやら酒場のマスターが持っているらしい」

 

 城に定期的に食料を運んでいる酒場のマスターには、本通行手形が発行されていた。その話を聞いたランスはニヤリと悪い顔で笑う。

 

「なんだ、それなら話は早いな」

「いい加減、お前の行動パターンも読めてきたが一応聞いておく。どうするつもりだ?」

「サクッと殺して奪えばいい。うむ、さすが俺様」

「予想通り過ぎて涙が出てくるな……まあ、殺すのは別にして、とりあえず酒場に向かうか」

 

 城下町の端にある酒場に向かう事にしたルークとランス。すると、その道中で買い物をしているシィルの姿を見つける。

 

「シィル! 何をこんな場所で油を売っているか! 潜入調査はどうした!」

「あ、これは学園長に頼ま……」

「問答無用! 真面目に仕事をしろ、この馬鹿者!!」

「ひんひん……」

「(授業中だよな……? 買い物なんて、普通生徒に学園長が頼むか……?)」

 

 シィルの頭をぐりぐりと両拳で締め付けるランス。学園長からの依頼と言いかけていたのに、不憫なものである。それを一応止めながらも、ルークは今の発言に疑問を抱いていた。

 

 

 

-リーザス城下町 酒場『ぱとらっしゅ』-

 

「なんだ、繁盛しておらんではないか。これならマスターを殺したところで、誰からも文句は出んな」

「文句は出なくても捕まりはするぞ。この空気はあのマスターのせいだな、陰鬱な空気をばらまいている」

 

 酒場に到着した二人が中に入ると、客は殆どおらず、店の中には辛気臭い空気が漂っていた。その発生源と思われるのは、酒場のマスター。あからさまな程、負のオーラを身体中から発している。

 

「おかしいな……以前にもこの店は来たことがあるが、もっと剛胆な性格だったと思ったが……」

「きっと借金まみれで自殺しようと考えているのだろう。それなら、殺した方が奴のためというものだ」

「……あんたら、冒険者か?」

 

 今にも斬りかかってしまいそうなランスを横目に、どう話を切り出したものかとルークが考えていると、幸いな事にマスターの方から話しかけてきてくれた。これはありがたいとルークは思いつつ、マスターの目の前にあるカウンター席に腰掛け、ランスもそれに続く。

 

「ああ、冒険者だ。それが何か?」

「見た目から察するに、あんたら強い戦士なんだろ? 頼みたいことがある……」

「ふん。言っておくが、俺様への依頼料は安くな……」

「どういう要件だ?」

「おいっ!」

 

 ランスの言葉を遮るようにルークがマスターに問いかける。折角マスターと仲良くなる切っ掛けになりそうだというのに、それをぶち壊されては堪ったものではないからだ。ランスは不満そうにしているが、一応マスターの話に耳を傾ける。

 

「俺の娘が盗賊に攫われちまったんだ……頼む、なんとか救い出して欲しい!」

「ほぅ、娘か……美人か?」

「今は全く関係無いよな?」

「親の俺が言うのもなんだが、絶世の美女だ!」

「……」

 

 カウンターに額を押しつけるようにして頼み込んでくる酒場のマスター。ランスのあまりにも明後日の方向を向いた質問にルークが呆れるが、すぐさまそれに反応するマスターの親バカぶりを見てそれ以上何も言えなくなってしまう。二日酔いでもないというのに、少しだけ頭が痛くなってきたルークであった。

 

「がはははは! なら、この俺様と下僕その1に任せておけ」

「誰が下僕だ。マスター、盗賊というのは、この周辺に以前から居着いている奴等か?」

「ああ、なんだか良く判らねぇ長い名前をつけている盗賊団だ」

「そうか。その盗賊団の目撃情報なら、情報屋から今朝聞いたぞ。第3地区の外れだ」

「よし、早速向かってサクッと救出だ! 大船に乗ったつもりでいるんだな!」

 

 偶然にも朝の調査の際に盗賊団の情報を聞いていたルーク。ランスが剣を抜いて高々と掲げ、娘の救出をマスターへ約束していた。

 

「すまねえ、頼んだ! ただ、報酬はあまり多くは払えねぇんだ。800GOLDで頼む!」

「いや、その半分で良い。その代わり、通行手形を譲って貰えないか?」

「ん? あんなもんでいいなら良いぜ。最近は城の中にも入らないからな」

「城の中に入らない?」

「ああ、王女様の舌にウチの店の食材は合わないとかで、最近仕入れの店が変わったんだ。兵士とかの食料なんかに使ってくれって頼んだんだが、そっちはそっちでもっと安い仕入れ先があるらしく、お陰で生活が苦しいのなんのって……っと、すまねえ。愚痴になっちまったな」

「なに、構わんさ。それじゃあ、行ってくる」

「豪華な飯を準備して待っていろ! 無論、それも報酬の一部だぞ!」

 

 通行手形を譲り受ける約束を取り付けたルーク。これでリーザス城の中も調査出来るというもの。ランスの方も美人の娘と聞いてやる気が漲っている。マスターを殺そうとしていた事など、もう忘れているかのような振る舞いだ。その姿を見てルークは苦笑しつつ、盗賊団の目撃情報があった第三地区へと向かう事にした。

 

 

 

-リーザス城下町近辺 洞窟 盗賊団のアジト-

 

 第三地区へと到着したルークとランス。目の前には、岩肌をくり貫いた形の洞窟と、地面に倒れて息をしていない盗賊団の見張りが一人。当然、ランスが殺したものだ。この男の存在によって、ここが盗賊団のアジトだと当たりをつけられたのは僥倖であった。

 

「最近、似たような洞窟を拠点にしていた盗賊を倒したような気が……何か関係あるのか?」

「何をぶつぶつ言ってやがる。お前の独り言は二度と信じんぞ! とにかく、中に入るぞ」

 

 先日倒した盗賊団の事を思い出しながら呟くルークだったが、昨晩その呟きのせいで野宿をする羽目になったランスはそれをバッサリと切り捨て、洞窟の中に入ろうとするが、中に足を踏み入れようとした瞬間、何かに押し出されてしまい足を踏み入れられなかった。

 

「なんだ!? 生意気にも結界なんか張っていやがる!」

「ほう……以前の盗賊団とは規模が違うみたいだな。使い捨ての魔法製品で簡易的な結界を張ったのか、あるいは盗賊団に魔法使いがいるのか……後者だったら厄介だな」

「なにを冷静に分析している! これでは入れないではないか!」

「ふむ……」

 

 ランスもルークもガチガチの戦士タイプであるため、万が一盗賊団に魔法使いがいたら若干面倒である。シィルがいれば話は別なのだが、今はパリス学園に潜入調査中でこの場にいない。そんな風に考えていたルークの姿に腹が立ったのか、ランスが喚き立ててくる。入れないという言葉を聞いたルークはランスの横をすり抜け、何かを確かめるように結界に触れる。そして、何かを確信した後、ランスに向かって口を開く。

 

「ランス。この盗賊団は俺に任せて、お前は城下町に戻って調査を進めてくれ」

「ふざけるな! そんな事を言って、酒場の娘に一人で良いところを見せるつもりだろう!? そもそも、アジトに入れないというのに一体どうするつもりだ!? 何か裏口的なものを見つけたのなら、ちゃんと報告するのが下僕の務めだ!」

「あまり大っぴらには見せたくないのだが、仕方ないか……」

 

 そう呟くと、ルークはそのまま一歩前に出る。ランス同様、結界によって弾き飛ばされるはずのルークだったが、不思議な事に何も起こらず、そのまま結界の向こう側へと入ってしまう。

 

「なんだ? なんでお前は中に入れているんだ?」

「ここにある結界を無効化して中に入った」

「なんだ、お前そんな器用な魔法も使えたのか。では俺様も入るとするか」

「いや、それは……」

 

 ルークが何かを言いかける前にランスが洞窟の結界に向かって駆けてくる。が、またも結界に弾き飛ばされてしまう。

 

「なんでじゃぁぁぁ!? 入れんではないか!!」

「魔法で結界を消した訳じゃない。結界は今もここに残っている」

「どういう事だ? それじゃあなんでお前は入れたんだ?」

「どうも、生まれつき結界を無効化する力があるみたいでな……この力に気が付いたのは子供の頃だ。原理は判らんが、防御結界や魔法結界を無視出来るんで重宝している」

「なんだ、そのお手軽便利能力は! 俺様にも分けろ!」

「……便利、か。確かにその通りだがな……」

 

 一瞬、ルークがその顔に影を落とす。何かを思い出しているかのような仕草だったが、すぐさまいつもの表情に戻り、結界の向こうからランスに頼み事をする。

 

「色々あって、この能力はあまり吹聴しないようにしている。出来れば他言無用で頼む」

「8:2だ」

「仕方ない、了解だ」

 

 ここぞとばかりに取り分を増やすランス。ルークは苦笑しつつも、それで他言無用を約束してくれるなら十分だという思いからそれを受け入れる。

 

「という訳で、ここから先は俺しか入れない。酒場の娘は任せておいてくれ」

「それとこれとは話が別だ! これでは、酒場の美人娘を俺様が格好良く助けて惚れさせる計画が台無しではないか! 俺様も中に入れろー!!」

「大声で騒ぐな! 盗賊が気づいたらどうする!?」

「入ーれーろー! は、はっくしょん!!」

 

 野宿したせいで朝から少しだけ風邪気味であったランスが盛大にくしゃみをする。すると、ゴゴゴ、というけたたましい音と共に、目の前にあった魔法結界が解除された。呆然とする二人。

 

「まさか、俺様にもくしゃみで結界を無効化する力が備わっていたとは……ランス爆裂くしゃみと名付けるとしよう」

「違うからな。多分、くしゃみが結界解除の条件だっただけだからな」

 

 ルークの言うように、この結界の条件は、目の前でくしゃみをする事であった。今回のように偶然解除してしまう事もあるため、不用心な結界と言わざるを得ないが、盗賊たちはそこまで深く考えていなかったのだろう。何はともあれ、これにより二人で洞窟を進む事が出来る。

 

「さあ、行くぞ! 下僕1号」

「協力関係にある相方の名前くらい、ちゃんと呼べ」

 

 ルークの文句を無視するランス。7つも年上なのだが、敬意などこれっぽっちも無いようだ。ため息をつきつつ、二人は洞窟内を進んでいく。先日倒した盗賊のアジトとは違い、洞窟内には至る所に燭台が立っており、とても洞窟内とは思えない程明るく、歩きやすい。

 

「この間のような盗賊団気取りじゃなく、ちゃんとした盗賊団なのかもしれないな」

「全部盗品だろうがな」

 

 コツン、とランスが剣の切っ先で燭台を叩きつつ前に進んでいくと、分かれ道に突き当たる。

 

「左の道から人の気配がするな」

「なら左だ」

 

 ルークの言葉を受けて左へと進むランス。ルークもそれに続き、少し進んだところで開けた場所に出る。どうやらちょっとした小部屋のようだ。部屋の奥には岩で出来た階段があり、その側には白髪の盗賊が座っていた。位置的に隠れるような場所も無かったため、その白髪の盗賊に二人は見つかってしまう。

 

「なんだ、てめえら? 入り口の結界を越えてきたって事は、見張りから結界解除の暗号は聞いて来たって事だよな? となると、新しく仲間になりにきたチンピラか?」

「まあ、そんなところだ。首領は奥か? 一言挨拶をしたいんだが」

「へへ、やっぱりそうか。俺はムララ。このかぎりない明日戦闘団のエース格で、次期首領候補ともっぱら噂の男だ!」

 

 斧を肩に担ぎながらのしのしと近づいてきた男がそう宣うが、正直あまり強そうではない。同時に、男の自信満々な態度に若干ランスが苛ついている。

 

「おい、さっさと奥へと案内しろ」

「へへ、奥に進みたきゃ200GOLD払いな。そうしたら首領に会わせてやるよ」

「むかむか……あほか、死ねぇぇぇ!!」

「ぎゃーーーーー!!」

 

 我慢の限界だったランスが即座にムララを斬り殺す。予想通り大した実力は無かったらしく、たった一撃でムララは死んだ。ランスがムララの死体に唾を吐き捨てる横で、ルークは奥の階段に目を凝らしていた。

 

「ふん、こんな奴が次期首領候補なんだったら、この盗賊団も大した事ないな」

「ランス。どうやら奥の階段にも結界が張ってあるようだ」

「なにぃ!? そういう事はさっさと言え! ええい、生き返って結界の解除方法を教えんか!」

「無茶を言うな、無茶を……」

 

 ランスがムララの頭を蹴り飛ばすが、それで死人が生き返れば苦労はしない。それを横目にルークは階段へと近づいていき、しゃがみ込んで軽く手を触れる。

 

「無効化出来ているな。ランス、俺一人なら先に進めるが……?」

「馬鹿者! 美女はこの俺様が格好良く救わなければならんのだ。解除方法を探すぞ」

「ふぅ……了解だ」

 

 二人は部屋の中を探り始める。ルークはムララの死体を調べ、ランスは部屋の中を見回すが、解除するような道具も仕掛けも見つからなかった。

 

「仕方ない。さっきの分かれ道に戻るか」

「面倒な……」

 

 先程の分かれ道に歩いて戻り、今度は右の道へ進んでいく。すると、その奥には小部屋があった。棚やベッドが置いてあり、その辺に物が放り投げてある。どうやら、盗賊たちの詰め所のような場所らしい。幸いな事に、今は誰もこの部屋にいなかった。

 

「詰め所ともなれば、何か手掛かりがあるかもしれん。探すぞ」

「よし、やれ、下僕1号」

「お前も探すんだよ。ほら、やる気を出せ」

 

 二人は部屋に入り、結界解除のための手掛かりを探し始める。ルークは棚や机の中を探るが、まるで手掛かりがない。そのとき、ランスが声を上げる。

 

「むっ! これは!」

「何かあったか?」

「女の下着だ。うむ、この盗賊団には女がいるのか。素晴らしい」

「真面目にやれ……しかし、何も見当たらんな」

 

 ランスが目ざとく見つけた黒のパンティーをみょんみょん、と広げているのを見て疲れてくるルーク。しかし、真面目に探していたルークの方も手掛かりは見つけられていない。こうなればランスに文句を言われようとも、一人で奥に進む事も考え始めたルークであったが、突如背後から第三者の声が響き渡る。

 

「おや、盗賊以外のお客さんは珍しいね?」

 

 瞬間、二人は弾かれるようにそちらに振り返り、剣を構える。ルークとランスという一流の冒険者二人が、声を掛けられるその瞬間まで全く気配に気が付かなかったのだ。まさか盗賊団のアジトにこれ程の使い手がいるとは思っていなかったルークは、その背中に一筋の汗を流す。

 

「何者だ……」

「ああ、驚かないで。危害を加えるつもりなんて全然ないから」

「ん? どこにいる?」

「ここだよー」

 

 声はすれども姿は見えず。二人がきょろきょろと周りを見回していると、壁の中に誰かが埋め込まれているのを発見する。赤い髪にだらしのない髭、顔と両手だけを壁の中から出したしょぼくれた中年の親父がそこにいた。

 

「驚かせやがって。なんだ、貴様は? 壁の中にいるのが趣味の変態か?」

「僕の名前はブリティシュ。好きで壁の中にいる訳じゃないよ。ここから出して貰えると嬉しいなー」

 

 ルークとランスの出会い同様、後の歴史に刻まれる出会いとは得てしてこのようなものである。ブリティシュも、ランスも、そしてルークもそれを知る由もないが、この出会いは後に人々の間で語り告がれる出来事となる。

 

LP0001 8月 二人の英雄がかつての英雄と出会う、と。

 

 




[人物]
ブリティシュ
LV 50/100
技能 剣戦闘LV2 盾防御LV2
 リーザスの近くにある洞窟の壁に埋め込まれている男。今はただのしょぼくれた親父だが、今から1500年程前はエターナルヒーローと呼ばれるパーティーを率いたリーダーであり、英雄と呼ばれていた。壁に埋め込まれているのは、シンという魔法使いが命と引き替えに放った禁呪を受けてしまったためである。新陳代謝が殆ど無くされており、そのために長寿となってしまった。壁の中での長い年月は彼の精神を蝕むには十分な時間であり、今ではかつて英雄と呼ばれていた頃の面影はない。

ラーク
LV 18/35
技能 剣戦闘LV1 冒険LV1
 キースギルド所属の冒険者。コンビを組むノアと共に、多くの依頼を解決させてきた一流の冒険者である。その名は自由都市の間で広く知れ渡っている。

ノア・セーリング
LV 15/33
技能 神魔法LV1 教育LV1
 キースギルド所属の冒険者。コンビを組むラークと共に、多くの依頼を解決させてきた一流の冒険者である。因みに、二人ともルークとは親交がある。

女忍者
 いったい何者なんだ……

堀川奈美
 リーザス城下町にある『あいすくりーむ』という宿を一人で切り盛りする苦労人。柔道五段。

ムララ
 かぎりない明日戦闘団の構成員。原作ではランスが初めて戦う中ボス的な扱い。しかし、洞窟内を歩いているいもむしDXという雑魚モンスターよりも弱かったりする。


[技能]
教育
 人にものを教える才能。


[技]
リーダー
 対象の思考や情報を読む初級魔法。複雑な思考やシールドをされていると読むことが出来ない。プライバシー侵害だけでなく、戦闘時に相手に思考を読まれるというのは死活問題になるため、魔法使いは常に思考にシールドを掛けているのが普通とされている。


[その他]
へんでろぱ
 シチューのような料理。ランスの好物。

エターナルヒーロー
 1500年前に魔王ジル討伐のために集まったパーティー。過去から現在に至るまで、これほどの者たちで構成されたチームは無かったと言われている。構成員は戦士ブリティシュ、魔法使いホ・ラガ、神官カフェ、侍日光、盗賊カオスの五人である。GL0533年、その消息を絶つ。

GOLD
 この世界の通貨単位。1GOLDは約100円。モンスターの間では、キラキラ光って綺麗なこれを多く持っていると幸せになれるという伝説があり、モンスター同士で取り合っている。強いモンスターほど多くのGOLDを持っているのはそのためである。

年号
 創世記
 Kuku0001~2014 魔王ククルククルの時代
 AV0001~0721 魔王アベルの時代
 SS0001~0500 魔王スラルの時代
 NC0001~0960 魔王ナイチサの時代
 GL0001~1004 魔王ジルの時代
 GI0001~1015 魔王ガイの時代
 LP0001~ 魔王リトルプリンセスの時代

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