ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第29話 ラジール潜入作戦

 

-リーザス城 ヘルマン軍司令部-

 

「ふふふ、既にリーザスは我が手中にあり。そして、もうすぐ自由都市地帯も制圧されるだろう」

 

 玉座に深く腰掛けていたパットンは静かに笑いながら、されどもハッキリとそう断言した。既に自由都市の半分以上の町を制圧している。各地でゲリラは発生していたが、それらも今の圧倒的な戦力の前では恐るるに足らず。この状況であれば、パットンが勝利を断言するのも無理は無いだろう。玉座の後ろに控えたノスとアイゼルが無言で立ち尽くす中、部屋の中にいたパットンの護衛兵たちが賞賛の声を上げる。

 

「流石は皇子!」

「リーザスのゴミ共を始末し終えたら、次はゼスでしょうか? あるいはJAPAN?」

 

 隊長や司令官といった立場が上の者は自由都市の制圧に出払っているため、この部屋にいる者たちは全て下っ端の兵である。その彼らは口々にパットンを賞賛し続けている。誰しもが勝ち馬に乗ろうと必死であった。このまま行けばパットンが次期皇帝なのは間違いないのだから。

 

「おめでとうございます。パットン皇子。いえ、もう皇帝とお呼びになった方がよろしいでしょうか?」

「くく、皇帝か。中々に見所のある奴だ、名前は?」

「は! アイザックと申します」

「ふっ、覚えておこう」

 

 元々皇子という立場のためこういったおべっかには慣れっこであったが、今は異常な程だ。当然彼らが自分に名前を覚えて貰おうと必死である事くらいパットンは判っている。だが、この気持ち悪い程の賞賛の数々も今は悪い気がしない。次期皇帝、その立場が目前にまで迫っているのだから。

 

「…………」

 

 その様子を無言で見ている魔人の二人。ノスは無表情を貫いていたが、アイゼルの方は下らないものを見るかの様な態度が若干表情に出てしまっている。その二人にパットンが玉座に座ったまま首だけ動かして振り返り、声を掛ける。

 

「どうした? あまり見ていて面白いものではないかな?」

「……いえ」

「まあ、無理に付き合っている必要はないぞ。お前らもリア王女から情報を聞き出すのに必死なのだろう? 魔人の世界を支配するための物の情報をな……」

「なっ!?」

 

 パットンの言った事は二人が秘密裏に進めていた事。ノスは無表情のままだが、アイゼルは動揺を表情に出してしまう。ノスに比べ、アイゼルはまだ魔人になってからの期間が短い。この辺りは場数の違いといったところか。そのアイゼルの反応を見たパットンが不敵に笑う。

 

「見くびるなよ。私が何も知らないと思っているのか?」

「…………」

「なあ、ノスよ。その探している物とやらは必要な物なのだろう?」

「……御意」

「はっはっは、好きにするがいい」

 

 アイゼルは未だ落ち着きを取り戻せない。完全に馬鹿皇子だと油断していたが、いつの間にやらこちらの動向を探られていたらしい。パットンが二人の行動を笑い飛ばすが、不意に目つきを鋭くして二人に釘を刺す。

 

「ただし、私に歯向かうな」

「…………」

「パットン皇子!」

 

 パットンの視線に二人が無言で応えている中、突如部屋に一人のヘルマン兵が駆け込んでくる。伝令役を担当している兵だ。

 

「ご、ご報告に上がりました」

「何だ、騒々しい。そうか、ようやくカスタムの町を降伏させたのだな?」

「い、いえ……」

 

 田舎町であるカスタムが想定以上の反抗をしているのは既に聞いており、また、数時間前の報告で後一歩のところまで追い詰めているという報告も届いていた。となれば、カスタムの町を降伏させた報告に間違いないだろうと笑みを浮かべるパットン。だが、伝令兵は青ざめた顔で言葉を続ける。

 

「カスタムの町への攻撃は失敗に終わりました……」

「……何?」

 

 瞬間、部屋の空気が張り詰める。先程までパットンにおべっかを使っていた護衛兵たちが押し黙り、一歩後ずさる。

 

「敵は司令官マリア・カスタードを中心に、少数ながら見事な防衛線を展開しています。更に、どこからともなく加勢に現れた冒険者一味がこれまた手強く……」

「言い訳はいい!」

 

 ドン、とパットンが玉座の肘掛けを叩く。その恫喝に、まだ下っ端で経験の浅い護衛兵たちはビクリと反応してしまう。伝令兵も声を振るわせながら報告を続ける。

 

「ご、ご安心を。既にカスタムの町は包囲しています。次の攻撃で必ずや占領して見せるとの事です」

「前線司令官のヘンダーソンに伝えろ。次にしくじったら命は無いと思え、とな!」

「はっ!」

 

 敬礼をし、伝令兵が部屋を後にする。これより数時間後、この報告を聞いた前線司令官ヘンダーソンはカスタムの町へ大規模な攻撃を仕掛ける事を決定する。カスタムの町にとっては勝ち目の無い戦いだ。残された時間は少ない。

 

 

 

翌日

-カスタムの町 作戦会議室-

 

「わりー、遅くなった……って、重苦しい雰囲気だな」

 

 作戦会議室に入ってきたミリがそう口にする。前日、ルークたちの協力の下、何とかヘルマン兵を退けて一息ついた一行であったが、今日になって再び、しかも前日よりも大規模な部隊の侵攻準備が進んでいる事を知り、緊急の作戦会議を開く事となったのだ。会議に参加しているのは計十人。総司令官のマリア、各部隊を率いる志津香、ラン、ミリ、作戦参謀の真知子、現町長のチサ、そしてルーク、ランス、シィル、かなみだ。

 

「お久しぶりです、ルークさん。救援に来て下さり、助かりました」

「久しぶりだな、真知子さん。まさか作戦参謀とは驚いた。礼ならまだ早いさ。何とかしてヘルマン兵を退けないとな」

「ええ。防衛軍も限界が近づいていますからね……」

「チサちゃん、ガイゼル元町長は?」

「お父様は町の人たちの治療の指揮を取っています」

 

 昨日はバタバタしていた事からまともに顔を合わせていなかったため、久しぶりに再会した面々と軽く挨拶を済ます。シィルやかなみも周りと挨拶を交わしている。特にかなみは初めて会う顔も多いため、自己紹介も兼ねた挨拶をしていた。程なくしてマリアが部屋の前に立ち、壁に掛けられた防衛軍とヘルマン軍の部隊配置図を手で叩きながら話を始めた。

 

「さあ、作戦会議を始めるわよ!」

「了解だ。とりあえず敵の規模は判るか?」

「真知子さん、お願い」

「ええ。次に攻めてくる敵の規模は約六千。内訳はヘルマン軍二千とリーザス軍四千といったところね」

「リーザス軍!? 一体どうして!? 誇り高いリーザス軍が、自主的に裏切るなんてあり得ないわ!」

 

 マリアに促されて報告を始めた真知子だったが、敵軍にリーザス軍が含まれている事を口にした瞬間かなみが驚きの声を上げる。リーザス軍がヘルマン軍に寝返るなど信じられないし、信じたくも無い事だからだ。その疑問に志津香が答える。

 

「リーザス軍は自主的に裏切った訳じゃないわ。カスタムに侵攻してきた部隊に何度か混じっていたけれど、全員虚ろな目をしていたわ」

「虚ろな目……洗脳ですか?」

 

 シィルがランの魔眼に魅了されて襲いかかってきたバードを思い出しながらそう問いかける。その問いに頷く志津香。

 

「ええ、敵に洗脳を得意とする魔法使いがいるみたいね。でも、これだけの人数の洗脳となるとそう離れた場所からじゃ出来ないはずよ。多分、カスタム侵攻の司令部があるラジールにその魔法使いがいるはず」

「となれば、そいつを倒せばリーザス軍は丸々味方という訳か?」

「ですが、それも容易ではありません。敵は人間だけではないんです」

「敵の部隊にモンスターも結構な数が加わっているぜ。最初はモンスターがいる意味が判らなかったが、魔人が手を引いているなら納得がいくってもんだ」

 

 ルークの問いにランとミリが答える。昨日の内にヘルマン軍の裏に魔人がいる事をルークたちは話していた。パニックになるのを避けるため、それを知っているのはここにいる面々と元町長ガイゼル、それとミリがうっかり口を滑らせてしまったミルだけだ。チサが不安そうに呟く。

 

「魔人に私たちは勝てるのでしょうか……」

「がはは! チサちゃん、俺様に任せておけ。魔人など相手ではないわ。マリア、カスタム防衛軍はどんな感じなんだ?」

「ミリとランが各100名を指揮。志津香の魔法部隊が30名程と、私のチューリップ砲火部隊が約20名。総勢250名といったところね」

「相手は六千だろ。話にならんな。よく持ち堪えてきたもんだ」

「だが、これまでの防衛で相当疲弊しているはずだ。250名全てが戦える訳でもないだろ?」

「ええ、今まで何とか防衛してきたけど、徐々に負傷者も増えているわ。実際に戦えるのは……」

「多分、100人もいないわ」

 

 マリアが言いあぐねているのを見かねて、志津香がキッパリと言いきる。その人数にルークが眉をひそめる。恐らく、次の侵攻を持ち堪えることは出来ないだろう。そんな中、ミリが席から立ち上がって宣言する。

 

「ふ、まだまだこれからさ。奴らにカスタムの町を侵略するには、高い血の代償がいることを教えてやるぜ」

「こんな所で死ぬ気はないけど、やるからには少しでも多くの敵を道連れにしてやるわ」

 

 既に次の侵攻を防ぎきるのは難しい事を皆悟っているのだろう。死なば諸共とも取れるミリと志津香の発言を否定する者は誰もいない。チサやランが表情に影を落とし、部屋をこれまで以上の重苦しい空気が包み込む。そんな空気を切り裂いたのはランスの笑い声だった。

 

「がはは、辛気臭い連中だ」

「ランス、空気を読みなさいよ」

「何だ? 天才の俺様が閃いた確実に勝てる作戦を言わなくても良いのか?」

「確実に勝てる作戦!? 本当なの!?」

 

 かなみが苦言を呈すが、ランスは耳を穿りながらとんでもない事を口にする。マリアが身を乗り出すが、側にいた志津香は呆れ顔だ。

 

「マリア、どうせ碌な案じゃないわよ。聞くだけ無駄」

「何だとぉ! 志津香、やはりお前には一度その体に判らせる必要が……」

「ランス、時間がない。どうせこのまま戦っても勝ち目は薄いんだ。その案を教えてくれ」

「ちっ、まあいい。成功したら町の娘たちにはたっぷりとサービスして貰うぞ!」

 

 こうして、ランスが思いついたという作戦を聞く面々。数分後、ランスが作戦を話し終えた頃には部屋に非難の声が飛び交っていた。

 

「酷すぎるわ! そんな作戦、マリアさんが可哀想よ!」

「やっぱり碌な案じゃなかったわね。だから言ったでしょ、マリア」

「うう……流石にそれはちょっと……」

「ランス様、私もマリアさんが危険だと思います……」

 

 かなみが食って掛かり、志津香はやはり聞くだけ無駄だったとため息をつく。マリアとシィルもこの作戦には反対のようであり、ランとチサも無言ではあるが非難の視線をランスに送っていた。そんな中、顎に手を当てて考え込むルーク。真知子も何か思うところがあるのか、ルークに話し掛けてくる。

 

「ルークさん。この作戦、意外と……」

「……ああ、妙案だな。だが、これはあちらの司令官が優秀で無いのが前提条件だ」

「侵攻部隊の司令官はヘンダーソンという男です。無能ではありませんが、一つだけ……」

「何かあるのか?」

「マリアさんの事を女性として気に入っているようで、執着しています」

「……一か八か、やる価値はあるかもしれんな」

 

 ルークのその言葉は部屋に響き渡り、全員が一斉にルークの方を見る。まさかルークが賛成するとは思っていなかったのだ。全員から非難の集中砲火を受けていたランスが上機嫌に笑い出す。

 

「がはは、この作戦の素晴らしさが判るか?」

「ちょっと、ルーク! 本気なの!?」

 

 志津香が人一倍大きな反応を見せる。というのも、ランスの提案した作戦はマリアの身を危険に晒すものなのだ。親友として黙っていられない。その彼女の心情を察しながらも、ルークは静かに答える。

 

「マリアに危険を強いる事にはなるが、このまま戦っても勝ち目は薄い」

「俺も賛成だ。ランスの作戦に乗ってみるのも悪くない。マリアが一時防衛軍からはずれるのはきついが、このままじゃ負けるだけだからな」

「これしか勝つ手段がないなら……」

「マリア!?」

 

 ミリもランスの作戦に乗るのを見て、マリアも作戦を実行する決意をする。この場でも比較的冷静な立場にある真知子とミリ、実戦経験が豊富なルークとランスの四人が賛成している事が彼女の中では大きかったのだろう。だが、志津香はやはりこの作戦には反対のようだ。考え直すようにマリアを説得している志津香に対し、ルークが真剣な表情で口を開く。

 

「大丈夫だ。マリアは必ず守りきる」

「がはは、マリアは俺様の女だからな! 任せておけ」

「……傷一つでも付けたら、承知しないわよ!」

「ああ、任せろ。それと、一時的に俺とランス、シィルちゃん、マリアの四人が戦線から外れる。かなみ、志津香、ラン、ミリ、苦戦を強いると思うが頑張ってくれ。真知子さんとチサちゃんは後方から援護を」

 

 志津香も渋々頷いた事により、賛成派が多数を占める事になった。反対していた面々も賛同者の顔ぶれを見て納得したのか、ルークのその言葉に強く返事をしてくる。

 

「任せて下さい、ルークさん!」

「マリアを頼んだわ。何なら、ランスくらいなら犠牲にしても構わないから」

「こちらの事は心配しないで下さい」

「ふ、腕が鳴るな」

 

 防衛を任されたかなみ、志津香、ラン、ミリの四人が覚悟を決める。作戦が成功するまでの間にカスタムを占領されたのでは元も子もない。自分たちがどれだけ踏ん張れるかにも作戦は左右されるのだ。

 

「後方支援は任せてください。大規模な戦争は情報が大きな役割を担います」

「シィルさんも気をつけて」

「ありがとうございます」

 

 真知子が静かに闘志を燃やし、チサがシィルの手を握りながら心配そうに声を掛ける。ヘルマンが大規模な侵攻を仕掛けてくるという情報は真知子が掴んだものであり、また、必死に傷ついた者たちの治療を手伝うチサの姿に防衛軍は士気を上げていた。彼女たちもまた、勝利のためには無くてはならない存在である。

 

「それじゃあ動くぞ。時間の猶予は殆ど無いからな」

「しくじるなよ、マリア」

「任せて」

 

 こうして、一行は各々の持ち場に就くために作戦室を後にする。失敗すれば全てが終わる、一か八かの作戦。その一番の鍵を握るのは、一時持ち場を離れる四人。ルーク、ランス、シィル、そしてマリアだ。

 

 

 

-ラジールの町 入り口-

 

 占領され、街道を封鎖されたラジールの町。町の入り口には数名のヘルマン兵が立っており、町への出入りを固く禁じている。カスタム侵攻に向けて、町の中の司令部では着々と準備が進んでいた。そんな中、でっぷりと太った門番がぶつぶつと文句を言っている。

 

「育ちが良い僕がなんでこんな下っ端の仕事を……」

「おら、オルグ! サボってんなよ!」

「ちっ、あんな雑魚兵士、僕が本気になったら……ん、誰か近づいてくる」

 

 オルグと呼ばれた門番が、カスタムの方向から四人の人影が近づいてくるのに気が付く。その内の三人はヘルマン兵のようだ。連れている少女を指差しながらオルグが尋ねる。

 

「待て、そいつは誰だ?」

「はっ、こいつは敵の司令官、マリア・カスタードです。一人で油断して歩いているところを捕獲しました!」

「何? ぐふふ、それが本当なら、こんな面倒くさい仕事ももうすぐ終わるぞ」

「門を開けろ、極悪指導者マリア・カスタードを捕まえてきたぞ!」

「……ちょっと、極悪って」

「捕虜が口答えするな! えーい、こうしてやる!」

 

 マリアを連れていたヘルマン兵の一人がマリアの胸を揉み始める。マリアの顔を確認した門番たちは特に疑う様子もなく、四人を中に招き入れて司令室へと連れて行く。意外な抵抗を続けるカスタムとの戦いに彼らも疲弊し始めており、疑うような余裕は無くなっていたのだ。

 

「作戦成功ですね……」

「うむ、流石は俺様」

「でも、胸を揉む必要は無かったんじゃないの……? というか、いつまで揉んでいるのよ……」

 

 そう、これこそがランスの考えた作戦だ。マリアを連れてきたヘルマン兵はルーク、ランス、シィルの三人。カスタム防衛戦時に戦死したヘルマン兵の服を奪い、カスタムの防衛軍でないため顔が割れていない三人がマリアを捕まえた事にしてラジールへと潜入したのだ。かなみはリーザスの人間であるため、僅かではあるが顔を知られている可能性があるため町に置いてきた。こうして敵の司令部へと乗り込んだ一同の目的は、ヘンダーソン司令官とリーザス軍を操っているという魔法使いの撃破。絶対に失敗する事は許されない。

 

 

 

-ラジールの町 ラジール家-

 

 三人が案内されたのはラジールの町で一番大きな屋敷であった。ここはラジール家。ラジールの町を代々治めている貴族の家だ。どうやらこの場所を司令部として利用しているようだ。屋敷の中に入ると、ちょび髭を生やした中年男が出迎えてくる。

 

「ほほほ、でかしたわよ。確かにマリア・カスタード。このつやつやとした肌、間違いないわ」

「ちょっと、触らないでよ!」

 

 マリアの頬を愛おしげに触ってくるオカマ言葉の男。この男がヘルマンの司令官、ヘンダーソンだ。マリア曰く、以前からこの男から熱烈なラブレターが届いていたらしい。その数、1099通にも及ぶという。

 

「うふふ、ヘルマン一の美形、みんなのアイドルであるこの私の誘いをあんなに断るなんていけない娘ね。さ、今からたっぷりと可愛がってあげるわ」

「誰がヘルマン一の美形よ、この変態じじい!」

「おほほほほ、この元気いっぱいなところがたまらないわ。貴方たち、お手柄よ!」

「はっ! ありがとうございます!」

 

 くねくねとしなりを作るヘンダーソン。その気持ち悪さからランスが今すぐにでも斬りかかってしまいそうだが、それをルークとシィルが必死に抑える。まだこの部屋には多くのヘルマン兵がいる。ここで騒ぎを起こせば全て台無しだ。

 

「スプルアンス、スプルアンスはいる?」

「はっ、ここに!」

 

 ヘンダーソンの呼び声に反応し、奥から甲冑を着込んだ太った男が現れた。その身体についた肉は筋肉という訳ではなく、贅をこさえた肉、脂肪だ。先程のオルグといい、軍人とは思えないような体型である。

 

「マリアのいないカスタム軍なんて赤子の手を捻るも同然よ。失敗は許されないわ、すぐに叩きつぶしておしまい! おほほほほほ!」

「はい、ヘンダーソン様! それと、リーザスの洗脳部隊も投入されますか? 既に集団コントロールを出来る状態にナースが仕上げておりますが」

「当然投入よ! 地下にいるナースにそう命じておきなさい。町の近くでゲリラ的な反抗を続けている傭兵部隊に少し向かわせて、後は全て他のヘルマン軍と一緒にカスタムに向かわせなさい。これでカスタムもおしまいよ、おほほほほ!」

 

 この言葉にルークが無表情ながら反応する。どうやらリーザス軍を洗脳しているのはナースという魔法使いらしい。名前からして女だろう。その彼女は地下におり、彼女さえ倒してしまえばカスタムに向かうリーザス軍は味方になるのだ。早急に彼女を倒す必要がある。それと、もう一つ気になる情報があった。町の近くで傭兵部隊が戦っているという情報だ。誰に雇われたかは判らないが、ヘルマン軍と戦っているという事は味方になり得る可能性がある。戦力が乏しい現状、出来ればその傭兵部隊とは合流したいところだ。

 

「それじゃあ、私は奥の部屋でマリアとメイクラブしてくるから、二時間ほど誰も通しちゃ駄目よ。スプルアンス、後の指示は任せたわよ」

「はっ! お楽しみを、閣下!」

 

 そう言い残し、マリアを抱きかかえて奥の部屋へと下がっていくヘンダーソン。ご丁寧に、誰も部屋には入らないように指示を出すというおまけ付きだ。正に千載一遇のチャンス。スプルアンスに一礼をし、部屋から出たルークたち。

 

「奥の部屋には確かこちらの廊下を回り込めば……よし、行くぞ」

「おい、何でそんな事をお前が知っている?」

 

 ルークが先頭に立ち、ヘンダーソンの後をこっそりと追う事にする。何故かラジール家の造りを把握しているルークにランスがそう問いかけるが、それにルークが答えようとするのとほぼ同時に、廊下を歩いていた屋敷のメイドに声を掛けられる。

 

「……もしかして、ルーク様ですか?」

「んっ!? ミーキルちゃんか! スマン、ちょっとこっちへ」

「おい、この美少女は誰だ? 俺様に紹介しろ!」

「ランス様、騒ぐと周りのヘルマン兵に怪しまれてしまいます……」

 

 声を掛けてきたメイドを側の小部屋へと連れ込むルークたち。だが、何故か周りのヘルマン兵たちは何の反応も見せない。まるでそれが普通の行動であるかのような態度だ。小部屋の中に誰もいない事を確認し、扉を閉めたルークたちはメイドに向き直る。

 

「おい、この美少女は誰だ?」

「彼女はこのラジール家の一人娘、ミーキルちゃんだ」

「初めまして。ルーク様、どうしてこんな場所に? ヘルマンに入隊した訳では無いですよね?」

 

 メイドの正体は、この屋敷の主の一人娘であるミーキルであった。因みに、ラジールの町とはラジール家と都市長が協力して治めている町である。かつてギルドの依頼で何度かこの町に立ち寄ったことがあるルークは、ラジール家とも都市長のアムロとも知り合いであった。この屋敷に招待された事も何度かあったため、屋敷の内部構造を知っていたのだ。

 

「ああ、俺たちはラジールの町を解放しに来たんだ。協力して欲しい」

 

 ルークはミーキルに事情を話し、同時にあちらの事情も聞く。ヘルマン軍に占領された後、ミーキルの両親は地下牢に閉じ込められ、自分はメイドとして兵の慰安をさせられていたという。だからこそ、先程ルークたちが彼女を小部屋に連れ込んだのを誰も不思議に思わなかったのだ。彼女を部屋に連れ込み、無理矢理犯す事など既に見慣れた光景なのだろう。今にも泣き出しそうな表情でラジール家の現状を話すミーキルを、ルークはそっと抱き寄せる。

 

「もう安心していい。ヘルマン軍を倒し、ご両親は必ず助け出す」

「うむ。ヘルマン兵は残らず俺様が皆殺しにするから、後で精一杯サービスするように!」

「ありがとうございます。ルーク様、ランス様……」

 

 ルークの胸の中ですすり泣くミーキル。ヘルマン軍の侵攻によって傷ついている人間は、彼女以外にも数多くいる事だろう。やはりヘルマンからリーザスを奪還しなければならないとシィルが決意を新たにしている中、ランスが早々に部屋から出て行こうとする。

 

「とりあえず、あのオカマ野郎をプチッと殺しに行くぞ」

「あっ、待って下さい。ヘンダーソンの部屋に入るには合い言葉が必要です」

「合い言葉?」

 

 廊下に出て行こうとしていたランスの足が止まる。メイドとしてヘンダーソンの身の回りの世話もしていたミーキルは、部屋に入る合い言葉も聞かされていたのだ。

 

「はい。『うっきーまるまる』と尋ねられたら、『朝ご飯食べたいな』と答えて下さい」

「随分と変わった合い言葉ですね……」

「だが、助かった。これで部屋に入る前に騒ぎを起こさなくて済む。ミーキルちゃんはこの部屋に隠れていてくれ。ヘルマン兵が捜しに来るよりも早く、決着はつける」

「お気を付けてください……」

 

 思わぬ形で合い言葉を知る事が出来たルークたちは部屋を後にし、廊下を進んでヘンダーソンの部屋の前までやってくる。部屋の前に立っていた護衛兵は驚いた様子でルークたちを見てくる。

 

「ん、何かあったのか? 誰も通すなと言われているが?」

「警護を代わるようスプルアンス様から仰せつかってきた。今、ヘンダーソン様は敵の司令官と二人きり。いざという時の事を考え、護衛は一人よりも三人の方が安全という判断からのご命令だ。あんたは休憩しに行ってくれ」

「そうか? では合い言葉だ。うっきーまるまる」

「がはは、知っているぞ。朝ご飯食べたいな、だ!」

「よし、それじゃあ後は任せた」

 

 合い言葉を確認し、ヘルマン兵は疑う事無く扉の前から立ち去っていく。これで邪魔者はいない。護衛兵が見えなくなった事を確認してから扉を開けて中に入る。部屋の中には、服を脱がされ下着姿のマリアと、そのマリアに今正に襲いかかろうとしているヘンダーソンがいた。すると、こちらに気が付いたヘンダーソンが不機嫌そうに口を開く。

 

「貴方たち、入るなと言っておいたはずでしょう」

「何とか大事には至ってないようだな」

「がはは、もうちょい待ってから来た方が全裸になっていてよかったかな?」

「もう、ランス!」

 

 マリアがヘンダーソンに手を出される前に間に合った事にホッと息を吐くルークたち。恥ずかしそうにしていたマリアだが、ランスのあんまりな言葉に身体を隠すのも忘れて食って掛かる。

 

「……不愉快ですね。さっきから美しいこの私を無視するなんて……」

「がはは、ブ男が何か言っているぞ」

「ブ、ブ男ですって!?」

 

 ランスがヘンダーソンを指差し笑う。あまりにもその言葉がショックだったのか、ヘンダーソンは目を見開いて驚愕する。その隙にマリアが服を掴んでこちらに駆け寄ってくるが、侮辱された事に腹を立てたヘンダーソンの目にマリアの姿は入っていない。ブルブルと肩を震わせ、キッとランスを睨み付ける。

 

「無礼な……この美しい紳士である私になんて事を……」

「美しいのを自負するのはいいが、自分になびかない女をこうして無理矢理犯そうとするのは紳士のする事じゃないな」

「紳士というのは俺様のような男のことを言うんだ、がはは!」

 

 ルークとランスにそう言われたヘンダーソンの怒りが限界に達し、スッとベッドから立ち上がってルークたちに向き直る。表情は先程までと違い、真剣そのもの。戦をする者の顔だ。

 

「どうやら、私を甘く見ているようね……」

「何だ? ただの変態スケベ親父だろ?」

「そうよ、絶対に許さないんだから!」

「ふふふ、ただの親父がヘルマン軍司令官になれる訳ないでしょう?」

「ランス様、右腕が!」

 

 最初に異変に気が付いたのはシィル。見れば、ヘンダーソンの姿が少しずつ変わっているのだ。足と手の先が岩に覆われていき、強靱な肉体へと変化していく。その変貌にルークが目を見開く。

 

「まさか、リカーマンか!? 生き残りがいたというのか!?」

「そう! 私はリカーマンの生き残り。ストーン・ガーディアンに変身するこの能力で、八つ裂きにしてあげるわ!!」

 

 リカーマン。変身人間とも呼ばれる種族で、姿形を変える能力を持つ種族である。数年前、ゼスで実施された異文化撲滅政策により虐殺され、一般的には絶滅したと考えられていた。だが、異文化撲滅政策よりも前にヘルマン軍に所属していたヘンダーソンは、その虐殺から逃れていたようだ。

 

「普通のストーン・ガーディアンとは思わない事ね。その肉体は遙かに硬く、動きは比較するのもおこがましい程素早い。少なく見積もっても数倍の強さよ!」

「ちっ……」

「ランス様……」

「そんな……」

 

 その言葉を受け、ランスが舌打ちをする。ストーン・ガーディアンの厄介さは重々承知している。その数倍の強さともなれば、苦戦は必至だからだ。シィルとマリアの怯えた表情を見たヘンダーソンは満足そうに笑い、変身を続ける。その腕と足が徐々に岩に覆われていく。

 

「ラ ポタン ポタン ペロ……」

 

 徐々に、徐々に覆われていく。

 

「ホシトマリノトヒソ ビィー」

「……ふぁぁ」

 

 ようやく腕は肘の辺り、足は膝下まで岩で覆われた。シィルがあくびを掻いている。

 

「……ランス」

「……うむ」

「おほほ、後十分ほど待ってなさい! この私の能力で……がぁっ!?」

 

 そう言った瞬間、ヘンダーソンの体にルークとランスの剣が突き刺さる。信じられないものを見るような目で二人を見るヘンダーソン。

 

「うっ、卑怯者……変身の呪文の最中に攻撃をするなんて……反則よ……」

「隙だらけだ、馬鹿」

「来世ではもう少し早く変身できるようになるんだな」

 

 夥しい量の出血をしながらヘンダーソンの身体が崩れ落ち、程なくして息絶えた。ヘルマン軍司令官ヘンダーソン、実に情けない死に様であった。

 

「さて、これで目的の一つは果たしたな」

「後は地下にいる魔法使いを倒すだけですね」

「そうね、よいしょっと」

「あ、こら、俺様の許可無く勝手に服を着るな」

「なんで服を着るのにランスの許可を得なきゃいけないのよ!」

 

 ヘンダーソンの死体を確認しながらルークがそう口にし、シィルもそれに頷く。ランスは服を着ているマリアとじゃれ合っていた。ヘンダーソンの死を確認し終えたルークが立ち上がると、丁度部屋の窓から外の景色が見える。町のすぐ側で何やら戦っている様子が目に飛び込んでくる。カスタムの町の方向とは逆側だ。恐らく、あれが先程話に出ていた傭兵部隊。遠目からでも壊滅寸前な事が判る。

 

「ランス、マリア、シィルちゃん。地下の魔法使いは任せていいか? リーザス兵を操るのに精一杯で、魔法使い自体は大した驚異ではないはずだ」

「ルークさんはどうされるんですか?」

 

 シィルの問いかけに窓の外を親指で示すルーク。

 

「あそこでリーザス兵と戦っている連中がいる。恐らく、ヘンダーソンが口にしていた傭兵部隊だ。その加勢に行ってくる」

「何だ、壊滅寸前ではないか。止めておけ。集団戦なんだ。貴様一人が行ったところで何も変わるまい」

 

 ランスが窓の外を眺めながらそう口にする。それは尤もな言葉だ。だが、ルークはそうではないと首を横に振る。

 

「いや、戦力としてではなく伝令役だな。あと少し耐えればリーザス兵の洗脳が解け、戦いが終わるという事を伝えてくる。戦いの終わりが迫っていると判れば、それだけで大分持ち堪えられるはずさ」

「ふん、傭兵部隊など放っておいても良いものを。まあ、地下の魔法使いは任せろ。ナースという名前からして、間違いなく女だろう。ぐふふ……」

「頼んだぞ。出来るだけ早く片付けてくれ。俺も、カスタムのみんなも、あの傭兵たちも、いつまで持ち堪えられるかは判らんからな」

「任せて下さい!」

「ルークさんもお気を付けて」

 

 こうして、ルークは一時的にランスたちと分かれて単独行動を取る。ランスたちは屋敷の地下を目指し、ルークはヘルマン兵に化けたまま屋敷を後にし、戦いが行われている町の外へと駆け出す。

 

 

 

-ラジールの町周辺 荒野-

 

 一人、また一人と傭兵が倒れていく。決して傭兵たちの実力が劣っている訳ではないのだが、彼らが壊滅寸前になっているのは二つの理由がある。一つは、圧倒的な物量。傭兵部隊の数倍はいるであろうリーザス軍に数で押されているのだ。そしてもう一つは、彼らのモチベーションの問題。

 

「参ったねぇ。まさか、雇われたリーザス軍に襲われちまうとは……」

「こういうゲスな行動をする国ではないはずだが……ヘルマンに無理矢理やらされているのか?」

 

 そう、この傭兵たちはリーザスに雇われたのだ。リーザス陥落後、国を救うための戦力増強のため、白の軍将軍であるエクス・バンケットが彼らを雇ったのだった。しかし、仲介役を通して救援に駆けつけてみれば、そのリーザス軍が自分たちに襲ってきた。これではモチベーションが上がる訳がない。

 

「これじゃ、報酬は無しか? プルーペット様に何て言やぁ良いんだ?」

「ふん、報酬よりも生き延びる事が先決だな……おっと!」

 

 最前線で話ながらリーザス兵を倒し続ける二人。明らかに周りの傭兵たちよりも手練れであり、傭兵部隊を仕切っているのはこの二人であった。モヒカンの男戦士と、赤い甲冑に身を纏った女戦士。ボロボロになりながらも、二人は必死にリーザス軍の猛攻を耐えていた。

 

「しかし、流石に厳しいな。終わりが見えん。年貢の納め時かな」

「おいおい、俺はまだまだ殺し足りねぇぞ!」

 

 1000名引き連れてきた傭兵たちも、既に100名を切った。周囲を囲まれている為、逃げ出す事も出来ない。二人はまだ平然と戦っているが、周りの傭兵たちには諦めにも似た空気が漂っている。そのとき、ラジールの町の方から一人のヘルマン兵がこちらに駆けてくる。仲間であるためリーザス軍は手を出さず、その間を縫ってその男は傭兵たちの前までやってくる。瞬間、二人は察する。それは、長年傭兵稼業をやってきた勘であろう。

 

「なんだぃ、新手か?」

「気を付けろ、手練れだ」

「判ってらぁ」

 

 目の前のヘルマン兵が明らかな強者である事を瞬時に見抜いた二人は構え直す。いよいよ年貢の納め時かと自嘲気味に笑った女戦士だったが、その二人を制するように男が口を開く。

 

「いや、違う。俺はヘルマン兵じゃない」

「どこをどう見てもヘルマン兵じゃねぇか」

「いや、この服は奪ったものだ。ここまで安全に辿りつくためにな」

「……ふむ、話を聞かせて貰えるか?」

 

 女戦士の方が目の前の男の言葉に興味を持つ。勿論、警戒を完全に解いた訳では無いが、構えていた剣をスッと下ろしながら問いかける。

 

「加勢に来た。それと、あと少し耐えればリーザス軍は正気に戻るはずだ」

「あぁん? どういう事だ?」

「リーザス軍はヘルマンの魔法使いに操られているんだ。既にラジールの町の司令官は討ち、今は仲間がその魔法使いを倒しに向かっている。後少しの辛抱だ」

「ほう、敵の内部に入り込んで司令官を討ったというのか? 面白い話だ」

 

 突如現れたヘルマン兵の格好をした男の言葉に驚きを隠せない二人。女戦士の方がクスクスと笑い、モヒカンの方は訝しむ様な視線を向けてくる。

 

「どうする? 信じるか?」

「ふ、わざわざこの状況で危険を冒してまで嘘を言いに来る奴もいないだろ」

「あー、そりゃ同感だ」

「わざわざの救援、感謝する!」

「てめぇら、もう少しで戦闘は終わるぞ! 気合入れ直しやがれぇ!」

 

 女戦士の言葉にモヒカンが納得をし、この男の言葉を信用する事にする。すぐさま周りの傭兵たちに渇を入れるモヒカン。中々に気持ちの切り替えとそれに伴う行動が早い男だ。周りの傭兵たちがその言葉に沸き立つのを確認した後、モヒカンは深いため息をつく。

 

「でも国がこの状況じゃ、報酬は期待できそうにねぇな」

「仕方なかろう。プルーペットの小言は面倒だがな」

「いや、そんな事はないぞ」

「ん、どういう事だ?」

「どうせこのまま帰っても殆ど無報酬だろ? なら、このままリーザスを解放するのに協力してくれないか?」

 

 男のその言葉に傭兵の二人は目を丸くする。次いで、女戦士が口元に笑みを浮かべる。

 

「ほう、ラジールだけではなく、リーザスそのものを解放するつもりなのか?」

「まあな。成功したらリーザス王女からたんまりと報酬が出るぞ」

「おいおい、随分と大口を叩くな? 保証出来るのか?」

「ま、一応知り合いなんでな。王女も侍女もそういうのにケチな性格でもないし、一応口利きをしてやっても良い」

 

 意外な返答に驚く二人。モヒカンが身を乗り出して問いかけてくる。

 

「おいおい、あんた思ったより大物か?」

「そんなんじゃないさ、ただの冒険者だ。偶然知り合う機会があってな」

「ふ、乗った! どうせこのまま帰っても、プル-ペットの奴に小言を言われるだけしな」

「面白ぇ、俺も乗るぜ! まだヘルマン兵を殺し足りないと思っていたところだ」

「それじゃあ、これからは仲間だな。短い間だが宜しく頼む」

 

 そう言い合い、武器を握りしめて迫ってくるリーザス軍に向き直る三人。リーザス解放までの契約を結んだのだ。途中で死ぬのは傭兵としても、口利きを約束した者としても契約違反になる。となれば、ここで死ぬ訳にはいかない。

 

「俺の名はルーク・グラント。リーザス解放のために動いている」

「ルイス・キートワックだ! しばらくの間世話になるぜ!」

「セシル・カーナだ。宜しく頼む」

 

 

 

-カスタムの町防衛線-

 

「ルークさんに任されたんです! ヘルマン軍はそこまで迫っていますが、みなさん、張り切っていきますですよー!」

 

 トマトが剣をブンブンと振りながら部隊の仲間たちにそう宣言する。ルークたちが町を出る前、丁度すれ違ったトマトにルークは頑張るよう声を掛けたのだ。それ以降、ずっとこの調子で張り切っている。誰がどう見てもルークに何かしらの感情を抱いているのはバレバレだった。かなみがため息をつく。

 

「やっぱりルークさんって、もてるんだなぁ……アイスでもそんな話を聞いたし……」

「かなみさん……で、よかったわよね?」

 

 後ろから声を掛けられる。振り返ると、声を掛けてきたのは魔法部隊を指揮する魔想志津香であった。先程の作戦会議で軽く自己紹介をした相手だ。そのときはクールだけど優しそうな女性という印象を受けたが、何故か今は少し違う。口元には笑みを浮かべているのに、目が笑っていない。

 

「はい、かなみで合っています。志津香さん、何か用ですか?」

「いえ、ちょっと面白い事を耳にしたものだから気になってね。今の話、少し聞かせて貰ってもいいかしら?」

「今のって……ルークさんの事ですか?」

「そう。アイスの町でどんな事を聞いたのかしら?」

 

 そう問いかけてくる志津香。因みにかなみは気が付いていなかったが、後ろでは真知子も聞き耳を立てていたりする。かなみはキースから聞いた話を思い出し、少しだけ頬を赤らめながら口を開く。

 

「その……ギルドの人によく告白されていたとか……ひ、一晩限りの関係をよく持っていたとか……」

「……へーえ」

 

 

 

-ラジールの町周辺 荒野-

 

「急に寒気が……」

「おいおい、戦いの最中に倒れないでくれよ?」

 

 ルークが言いしれぬ悪寒を感じていた。良い勘をしている。

 

 




[人物]
ミリ・ヨークス (3)
LV 20/28
技能 剣戦闘LV1
 カスタムで薬屋を営む女戦士。実戦部隊第二軍指揮官。指揮官には向いていないとは本人の談だが、前線で颯爽と戦うその姿に他の者たちも引っ張られる形となり、第二軍は中々に良い形に収まっている。

芳川真知子 (3)
LV 1/5
技能 戦術LV1
 カスタムの町の情報屋。防衛軍作戦参謀。コンピュータを駆使して生み出す作戦は的確であり、素人とは思えぬ働きを見せる。ルークと久しぶりの再会を果たし、表情にはあまり出さないが内心はかなり喜んでいたりする。

チサ・ゴード (3)
 カスタムの町の町長。父親の後を引き継ぎ、精一杯頑張っている。防衛戦では戦えないながらも、手当や炊き出しなどで奔走している。

ルイス・キートワック
LV 23/39
技能 剣戦闘LV1
 腕利きの傭兵。プル-ペットという商人を仲介役としている。恩義があるようで、彼には頭が上がらないらしい。殺しに快楽を覚える危ない性格だが、義理堅く、受けた依頼を途中で投げ出す事もない。才能でこそセシルに劣るが、傭兵稼業はルイスの方が長く、その経験の差から実力ではまだルイスの方が上である。

セシル・カーナ
LV 21/42
技能 剣戦闘LV1
 腕利きの傭兵。プル-ペットという商人を仲介役としている。紅の天使の異名を持つ実力者で、女としてではなく戦士としての評価を欲している。ミリとは親友の間柄。

ミーキル・デバ・ラジール
 ラジール家の娘。ヘルマンに慰み者になり人生を諦めていたが、ルークたちに助けられ希望を取り戻す。

ヘンダーソン
LV 12/18
技能 変身LV1
 ヘルマン第3軍司令官の一人。気持ちの悪いオカマだが、司令官という立場であるためそれなりに優秀ではある。カスタムの町侵攻を指揮していたが、意外な反抗に手をこまねいていた。絶滅したと思われていたリカーマンであり、変身能力を有する。変身出来ていれば強敵であった。

スプルアンス
 ヘルマン第3軍小隊長。ヘンダーソンの忠実な部下で、カスタムの町侵攻を前線で取り仕切る。豚のような醜い姿をしている。

アイザック
 ヘルマン第3軍小隊長。パットンの護衛に残っていた下っ端の中では一番偉い存在。評議員のハンティに憧れており、いつかカラーの恋人が欲しいと思っている。

オルグ
 ヘルマン第3軍一般兵。スプルアンスに負けず劣らず、醜い豚のような姿。生まれが良いらしく、自分の階級にいつも愚痴を言っている。


[技能]
変身
 自分の姿を変身させる技能。自分より強い者に変身する事も可能。変身出来る時間は対象の強さで変化。

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