ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第31話 新パーティー結成

 

-ラジールの町-

 

 ラジール解放戦から一日が経った。ヘルマンに占領されていた際の爪痕は大きく残っており、町の至るところに破壊された建物があった。その復旧作業のために人が忙しなく動いているのを横目で見ながら、ルークはローラがいるという酒場を目指して歩いていた。すると、目の前にかなみと志津香の姿が見える。

 

「おはよう、かなみ、志津香。戦いの疲れは取れたか?」

「あ、ルークさん。おはようございます」

「……ああ、誰かと思えば色男さんね」

「は?」

 

 元気に挨拶を返してくれたかなみとは対照的に、不機嫌そうにしながら言葉を返してくる志津香。ルークが不思議そうにしていると、突然足を思いっきり踏まれる。

 

「がっ……いきなり何を……」

「あら、ごめんなさいね。でも、父の復讐に協力するとか言っておいて、何の協力も無しに女の子と遊び回っていた人には良い薬じゃない?」

「(もしかして、私のせい? それに、志津香さんがこんなに不機嫌なのって……)」

「一体何の話をしているんだ? と、そうだ。こんなときだが、これを渡しておく」

 

 踏まれた足を押さえながら、ルークは道具袋の中から紙束を出して志津香に手渡す。何かの報告書のようだ。

 

「……これは?」

「ゼスに住むラガール姓の人物の資料だ。この中に篤胤さんの仇に繋がる奴がいるかは判らんがな」

「えっ!?」

 

 志津香が目を見開き、資料をパラパラと見る。そこには四人の人物が載っていた。アスビ、スター、アルプランド、ナギ。最後のナギの資料は少なかったが、他の三人はかなり詳細な事まで書かれている。ルークだって暇ではない事は判っている。それなのに、自分の冒険の傍らにここまで調査をしてくれていたのかと驚愕する。

 

「こんなに……いつの間に……」

「ゼスの上層部に知り合いがいてな。そいつに色々と協力して貰ったんだ。今渡してもリーザスを解放するまでは意味のない代物だが、モチベーションは上がるかと思ったんで一応渡しておく」

 

 ルークの言葉通り、この資料はサイアス協力の下で作られたものだ。四天王ナギの調査は未だ進んではいないが、ゼスの住民票に記載されているラガール姓の者を調査し、ジウの町の復興作業を手伝っていたルークにこの報告書を渡してくれたのだ。

 

「あ、あの……」

「ん? 何か資料に不備があったか?」

「いえ……さっきは遊び回っていたとか言って、悪かっ……」

 

 志津香が何かを言おうとしたそのとき、ランスがこちらに向けて全力疾走してくるのが見えた。そのままかなみと志津香の後ろまでやってきたランスは、大声で叫びながら勢いよく二人のスカートを捲り上げた。

 

「なんで昨晩サービスに来たのがミリなんだぁぁぁぁぁ!!」

「っ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 志津香は直に、かなみは下に着込んだ鎖かたびら越しにだが下着が丸見えになる。すぐに目を反らしながら、ルークがランスに向かって答える。

 

「いや、ミリもカスタムの娘だろ。その言い方はミリに失礼だぞ」

「そこじゃない! ミリの身体には何の文句もないが、あいつの相手は疲れるんだ! あれだけ疲れた後なのだから、チサちゃんみたいな娘を寄越すのが普通の考えだろうが!」

「そこまでは言われていなかったし責任は取れんな……」

「ええい、マリアに文句言って一発ヤってやる!」

 

 自分勝手なことを散々喚いた後、司令部の方へ走って行ってしまうランス。その背中を見送ったルークだが、直後場の空気が凍り付くのを感じる。見れば、かなみと志津香がこちらを睨んでいた。

 

「……見た?」

「……見ましたか?」

「いや、丁度目に埃が入って……」

「二人とも可愛い下着だったわねー」

「白とかえるだったな」

「なっ!? ふんっ!!」

 

 つい柄を答えてしまったルークの腹に志津香の正拳突きが深々と突き刺さる。志津香はそのまま立ち去ってしまい、かなみも顔を真っ赤にしながら走って行ってしまった。ルークが腹を押さえながら、後ろから声を掛けてきた人物に文句を言う。

 

「ロゼ、変なことを言わないでくれ……」

「あはは。ま、目の保養にはなったんじゃない?」

 

 声を掛けてきたのはロゼ。マリアが言っていたようにカスタムで怪我人の治療を行い、それを終えた後はこうして最前線のラジールまでやってきていたのだ。

 

「ところで、どうして前線のラジールにいるんだ? 悪魔の通路で引き返したと思っていたんだが……」

「そりゃ、より安全なところにいるのが当然ってものでしょ」

「アイスやカンラにいるよりも、ここの方が安全だと?」

「勝ち馬には乗る主義なのよねー」

 

 そう言いながらルークを指差すロゼ。その所作にルークは苦笑する。

 

「買い被り過ぎじゃないか? だが、治療をしてくれた事には感謝する」

「後でたっぷりと請求させて貰うわよ」

「それはリーザスに頼む。それじゃあ、俺は酒場に用があるんでこの辺で」

「はい、はーい。あ、レッドの町に攻め込むならさ、一つお願いがあるんだけど」

「お願い?」

 

 酒場に向かおうとしていたルークの足が止まり、ロゼに振り返る。

 

「あの町にさ、優秀な神官がいるみたいなのよねー。商売敵だから、どさくさに紛れて殺してくれない? プチッと」

「物騒なお願いをしないでくれ……」

 

 

 

-ラジールの町 酒場-

 

 ロゼと別れ、酒場の前までやってきたルーク。すると、入り口の前に立っていた男がルークに気が付き、こちらに近づいてくる。

 

「対象の人物は酒場の中にいます」

「ありがとう」

 

 その報告にルークが軽く礼を返す。どうやらアムロとレィリィに頼まれ、ローラの事を監視していた者らしい。そのまま店の中へと入っていくと、バーテンハニーの伊集院がルークの顔を見て挨拶に寄ってくる。

 

「お久しぶりです、ルークさん。聞きましたよ、今回もラジールの町を救ってくれたのは貴方なんですって?」

「なに、ちょっと協力しただけだ。ところで、ローラは?」

「話は聞いております。あちらの席です。少しくらい騒いでしまってもこちらでフォローしますので……」

「荒事にはならないよう、努力はするさ……」

 

 そう言って奥の席に進んでいく。その席ではローラ、シャイラ、ネイの三人が昼から飲んだくれていた。ローラが飲んでいるのはミルクセーキなので、実際に酔っ払っているのは二人だけだが。一度ため息をつき、目の前まで来たのに全く気が付いていない復讐者たちにルークが声を掛ける。

 

「数日ぶりだな」

「ん……あ、お前はルーク!」

「ええぃ、ここであったが100年目!」

「止めとけ、そんな酔っ払った状態で俺とやるつもりか? 来るなら手加減はしないぞ」

「「はぅっ……」」

 

 一度睨みを効かせると、それだけでシャイラとネイが黙ってしまう。これで話がややこしくなる事はないだろう。そのままルークはローラの正面に座る。ローラはぶすっとした態度でルークを見ている。

 

「……なによ?」

「盗んだ物を返して貰おうか。あれはリーザス王家の大事なものなんだ」

「いやよ! 私の大事なリスを奪っておいて、よくもそんなこと言えたものね!」

「それは誤解だ。リスは死んでなんかいない。人間になるために旅に出ただけだ」

「そんな嘘に騙されるもんですか! もし生きているって言うのなら、この場にリスを連れてくることね! そうしたら盗んだ物を返してやっても良いわ」

 

 バンバンと机を叩きながらリスをここに連れてこいと口にするローラ。だが、リスは旅に出てしまったし、一体どこへ向かったのか見当も付かない。それは難しい要求だ。

 

「あれがないと、この戦争が終わらないんだ」

「ふん、剣と鎧で戦争が終わるなんて信じられないわ。剣と鎧はある場所に隠したし、その場所は私しか知らないわ。例え拷問されたって場所は話さないわよ。リスのいない世界に未練なんて無いもの!」

 

 頑としてルークの申し出を拒否するローラ。その決意は固いらしく、目を見る限り確かに生半可な拷問程度では話しそうになかった。この状態から口を割らせるには、それこそローラを殺す覚悟で拷問を実行しないと難しいだろう。ヘルマン兵ならまだしも、ローラは巻き込まれただけの一般人。出来ればそれは避けたい。リーザス奪還まで成功し、魔人を倒すためにカオスが必要になる最後の瞬間まで、その手段を使いたくはない。ローラから聞き出すのは難しいと判断したルークは、ちらりと横のシャイラとネイを見る。

 

「な、なんだよ? やる気か?」

 

 シュッシュ、とシャドーボクシングをするシャイラ。だが、その頬には汗が流れていた。二人に睨みを効かせるルーク。

 

「ちょっと来い」

「「はいっ!」」

 

 シュタッと敬礼しながら立ち上がる二人。とっくに酔いは覚めていた。ローラからは少し離れた席へと連れて行き、二人を前に座らせて話を始める。

 

「確かにな、お前らが俺とランスを恨むのは判る。いや、俺はとばっちりだが、この際置いておくとする」

「はい……」

「だがな、一般人のローラを巻き込むのは酷すぎるだろ? あまつさえ恋人が死んだなんて嘘までついて」

「仰る通りです……」

「だったら、お前らからもローラを説得してくれないか? あの剣と鎧は、この戦争を終わらせる大事な鍵なんだ」

「そ、それなんだけどよ……」

 

 ポリポリと頬を掻きながらシャイラが口を開く。

 

「あたしらもさ、恋人が死んだと思い込んで泣いているローラを見ていたら罪悪感が押し寄せてさ。流石に悪かったかなー、と思ったんだ。で、リスは死んでないぞって伝えたんだけどさ……」

「その……慰めてくれるのね、ありがとうっていう感じで……全然信じてくれなくて……」

「しかも、あまりにもそんな話が続くもんだから、最近じゃあたしらの事もあんまり信用していないみたいで……」

「剣と鎧の隠し場所……私たちにも教えてくれないの……」

「……最悪だ」

「ええぃ、使えん!!」

「「うわっ!」」

 

 いつの間にか後ろにいたランスがシャイラとネイの胸を揉む。突然の事態に二人が驚いていると、ランスはそのまま二人を引きずっていく。

 

「悪い娘にはお仕置きだー、がはは!」

「ふざけんな、おい、離せ!」

「いやぁぁ……この前されたばっかりなのにぃぃぃ……」

「ま、今回は自業自得って事で。南無南無……」

 

 連れて行かれる二人に手を合わせるルーク。とはいえ、聖剣と聖鎧を取り返すのに暗雲が立ち込めてしまったのは事実。とりあえずは司令部に報告に行くかと考え、そのまま酒場を後にして司令部へと向かう。司令部の入り口には衛兵が立っているが、解放軍の中でも上の立場であるルークは顔パスで通れる。中に入ると、バレスとエクス、ハウレーンの三人がリーザス兵の動き方について会議をしているところだった。

 

「おお、ルーク殿。どうかされましたかの」

「軍の機密を話している最中だったか? すまない」

「気にされなくていいですよ。今は同じ解放軍なのですから。むしろ、貴方には参加して欲しいくらいですよ」

「リーザス兵の動かし方の作戦会議にか?」

「ええ。きっといつか、役立つときが来ますよ」

「ほう……エクス殿、それはもしや……」

「いや、しばらくは来ないさ」

 

 あえてしばらくという言い回しをするルーク。誘いであるのは判っていたが、エクスもそれに応じる。

 

「しばらく、ですか。まあ、今はその辺りで我慢する事にしましょう。それで、こちらに寄られたのはどういった用で?」

「ああ、一つ追加の頼みがある。酒場のローラの監視をしているのは聞いていると思うが、その恋人のリス……モンスターなんだが、そいつの足取りも追って貰えるか? 同時に、ローラが隠した聖剣と聖鎧の隠し場所も可能な範囲で調査してくれ」

「なっ!? 人間とモンスターが恋人!?」

 

 ハウレーンが驚いているが、それが普通の反応である。だが、エクスは一度だけ興味深げに頷いた後、冷静に言葉を返す。

 

「承りました。リスに何か特徴はありますか?」

「普通のリスとは比べものにならないくらい大きい。かなみが知っているから、詳しい事はそちらに聞いてくれ。人相を伝えるのは忍者のかなみの方が得意だろうしな」

「了解です。それと……」

 

 瞬間、エクスの目が冷酷なそれに変わる。

 

「リーザス奪還までどちらも達成できなかった場合は、不本意ではありますが……そういう事でよろしいですか?」

「やむを得ないな。だが、ローラは一般人だ。それは最後の手段にしてくれ」

「当然です。僕も女性を傷つけたくはありませんからね」

 

 最後の会話はバレスとハウレーンに聞こえぬよう、小さな声で話し合った二人。騎士道を重んじる二人には、この最後の手段は反対されかねないからだ。と、話が終わったのを確認したバレスが口を開く。

 

「そういえばルーク殿。マリア殿が、ルーク殿がこちらに見えられたら工場の方に寄って欲しいと言っておりましたぞ」

「マリアが? 判った、行ってみる。邪魔をした」

 

 そう言い残して司令部を後にするルーク。その背中を見送った後、バレスが真剣な表情で口を開く。

 

「それ程か?」

「ええ。武はリック並み、知は手前味噌ながら僕相当、人の上に立つ器もある。ですが、リア王女とマリス様直々に副将の地位を約束しても断られたようです」

「なんと!? ただ者では無いと思っていたが……」

 

 エクスの言葉を聞いて感嘆するバレス。腕組みをし、ルークが出て行った入り口の方向を見ながら言葉を続ける。

 

「儂も軍人としてはそう長くはないだろう」

「父上!?」

「ハウレーン、ここではバレス将軍と呼べ」

「あっ……も、申し訳ありません……」

「リーザスでは儂、ヘルマンではトーマとレリューコフ。もう古い時代の人間じゃ。そろそろ世代交代の時じゃろう。儂がまだ現役の内に、是非とも黒の軍に来て欲しいものだ」

「申し訳ありませんが、彼は白の軍が貰いますよ」

「ふふ。この調子では赤と青も狙ってきそうじゃの。リーザス奪還の暁には、一つ勝負と行くか」

「負けませんよ、バレス将軍」

 

 ニヤリ、と笑いあう二人の将軍。その様子を見ながら、ハウレーンは将軍二人にこれほど認められているルークの凄さを改めて目の当たりにし、自分の中での評価も上方修正するのだった。ルークの知らないところで、争奪戦が始まっていた。

 

 

 

-ラジールの町 工場-

 

 ルークが町外れにある工場へと入っていく。マリアが秘密兵器であるチューリップ3号を作るために臨時で建てた工場だ。狭い工場であり、中は物凄い騒音であった。すると、すぐにマリアがこちらに気が付く。

 

「あ、ルークさん! 来てくれたのね」

「ここは凄い騒音だな」

「あはは。チューリップ3号を大急ぎで開発していますから」

「ところで、以前から話に出ていたが、そのチューリップ3号というのは?」

「よくぞ聞いてくれました! チューリップ3号というのは……」

「先生。チューリップ3号の事は極秘事項なので、あまり話すのは……」

 

 マリアが言いかけたのを、奥から出てきた黒い髪の女性が止める。彼女もマリア同様メガネをかけており、服もマリアと同じ作業着を着ている。

 

「ああ、いいのよ、香澄。ルークさんは仲間だし、解放軍の中でもかなり上の人だから」

「マリア、彼女は?」

「彼女は香澄。私の助手で、チューリップ3号の開発に大きく関わっているわ」

「初めまして、香澄です」

「ああ、ルークだ。よろしく頼む」

 

 ペコリと挨拶をした後、マリアに指示を受けて作業に戻る香澄。カスタムの事件後、いつの間にか助手まで出来ていたのかと驚くルーク。

 

「それでね、チューリップ3号っていうのは物凄い兵器なのよ。ストーン・ガーディアンよりも強固で、ファイヤードラゴンより破壊力がある無敵の戦車なの。これが出来たらヘルマン軍なんか簡単に蹴散らしてやるわ!」

「そいつは頼もしいな。で、俺を呼んだ用っていうのは?」

 

 チューリップ3号の素晴らしさを延々と語っていたマリアだが、ルークの言葉にピタっと止まる。

 

「あのね、チューリップ3号は動きさえすればヘルマン兵を簡単に蹴散らせるの……」

「ほう、動きさえすればか。以前にも聞いたような話だな。という事は、燃料か?」

「ピンポーン! 流石ルークさん、話が早い!」

 

 マリアの返答にルークが苦笑する。思い出されるのは、四魔女事件。あのときも燃料であるヒララ鉱石が無くて一騒動あったなと懐かしんでいた。

 

「チューリップ3号の燃料になるヒララ合金が届かないの。烈火鉱山から送って貰える約束になっていたんだけど、鉱山で事故が起こったみたいで……」

「なるほど、それを取りに行って欲しい訳だな。了解だ、他に同行者は?」

「聞いた話だと、鉱山の事故の原因はモンスターみたいなの。みんな次のレッド解放戦の準備に向けて忙しいからあまり戦力は割けないけど、なんとかミリさんとトマトさんに同行をお願いできたわ。ランス、シィルちゃん、かなみさんも独立部隊だから自由に動けるので、その六人で向かってください」

「ミリか。戦力として文句はないな」

 

 ミリ・ヨークス。彼女も四魔女事件の際に共に戦った関係であり、その強さは重々承知している。

 

「それじゃあ、お願いします。みんなには既に伝達しているので、そろそろ町の前に集まっているはずです」

「おっと、それじゃあ急がないとな。期待して待っていてくれ」

「気を付けてくださいね」

 

 

 

-ラジールの町 入り口-

 

 マリアからの依頼を受け工場を後にしたルークは、烈火鉱山に向かうメンバーが待っているという町の入り口に向かう。ルークが到着すると、マリアの話通り既に全員揃っていた。いや、その場所にいたのは五人だけではない。何故かセシルもこの場にいた。

 

「遅れてすまない」

「何、俺たちも今揃ったところさ。また一緒に旅が出来て嬉しいぜ」

「ルークさんとこうして一緒に冒険が出来るなんて、感激ですかねー!」

 

 ミリがニッと笑い、トマトが右手を振り回しながら大げさに喜ぶ。その横でかなみが赤い顔をしながら俯き、ぶつぶつ独り言を喋っていた。

 

「どうして今日に限ってかえるなんて穿いて……いや、それよりも、あんな恥ずかしい姿を見られたからには……せ、責任を取って貰うしか……」

「かなみ、どうかしたか?」

「ひゃい!? いえ、何でもないです、ルークさん!」

「ならいいが。それと、セシルはどうしてこの場に? 一緒に来るのか?」

「いや、補充の傭兵部隊がいつ到着するか判らないから、それに備えて町には残るよ。このミリとは親友でな、見送りに来ていただけさ」

「そうだったのか」

「まあな」

 

 セシルが隣に立つミリを親指で示すと、ミリがそれに応えるようにニヤリと笑う。意外な関係性に驚きながらも、セシルに傭兵部隊の事を任せるべく口を開く。

 

「一応俺がトップにはなっているが、傭兵部隊の事はそちらに任せる。ルイスと協力して二人でまとめてくれ」

「了解だ。こちらの心配はいらない。それより、ミリの事をよろしく頼む。前に突っ込みすぎて、怪我をしやすい性格だからな」

「おいおい、俺は猪か?」

「そんなとこだろ」

 

 笑いあう二人。親友だからこその独特の空気がそこにはあった。そのまま軽く談笑した後、ランスとシィルに向き直る

 

「ランスも協力してくれるのか?」

「がはは! ま、俺様の女の頼み事は聞いてやらんとな」

「ランス様は、シャイラさんとネイさんを抱いた直後で機嫌がよろしかったんです」

 

 シィルがそっとルークに耳打ちしてくる。ランスにしては珍しく素直に応じたと思えば、どうやらそういう事らしい。

 

「じゃあ、そろそろ行くか」

「うむ、さっさとヒララ合金とやらを取ってくるぞ」

 

 セシルをその場に残し、町の門を潜る一行。すると、ラジールの町を出てすぐの場所に一人の少女が立っていた。特徴的な緑の髪に、大きな帽子と風になびいたマント。志津香だ。

 

「志津香、どうした?」

「私も行くわ。ランスがいたんじゃ不安だしね。後衛もシィルちゃん一人じゃ大変でしょ?」

「なんだと!」

 

 ランスが志津香に食って掛かろうとするが、シィルとミリがそれを抑えている。それを横目に、ルークと志津香が言葉を交わす。

 

「戦争の準備は良いのか?」

「大丈夫、任せてきたわ」

「そうか。なら、頼りにしているぞ、志津香」

「任せて」

 

 こうして志津香を加え、七人は烈火鉱山を目指しラジールを後にした。まだ見ぬ秘密兵器、チューリップ3号。その燃料を手にするために。

 

 

 

-ラジールの町 工場-

 

「マリア、大変よ! 志津香がいないわ!!」

「えっ!? 魔法部隊の準備は?」

「それが……こんな置き手紙が……」

 

 工場に慌てて入ってきたラン。曰く、志津香が町からいなくなったとの事。志津香には魔法部隊の準備を任せていたはずなのに、一体どこで行ったというのか。マリアがそう疑問に思っていると、ランが志津香の置き手紙を差し出してくる。それを受け取り、目を通すマリア。一文だけの実にシンプルな手紙だ。

 

-ランへ ちょっと烈火鉱山に行って来るから、魔法部隊の準備はよろしく 志津香-

 

「……ラン、頑張って!」

「ただでさえミリがいなくて大変なのに、これ以上は無理よ!」

「大丈夫、ランならやれるって、私信じてる!」

 

 マリアが笑顔でサムズアップを決めるんと対照的に、ランの顔が絶望に沈む。こうして、ランは部隊長三人分の仕事をする羽目になった。

 

「私だって……ルークさんと一緒に烈火鉱山に行きたかったのに……くすん」

 

 とぼとぼと工場を後にするラン。その背中には哀愁が漂っていた。すると、その横を二人の女性が泣きながら通り過ぎていく。

 

「「うぇぇぇん! 覚えてろ、ランス、ルーク! 絶対復讐してやるんだからぁぁぁ!!」」

「…………誰?」

 

 そのまま町から出て行ってしまった二人を見送りながら、ランはこれからの仕事量を考えて胃が痛くなるのだった。

 

 




[人物]
香澄
LV 6/24
技能 新兵器匠LV1
 マリアの助手にして弟子。マリアの才能に憧れ、四魔女事件後に弟子へと志願した。実は彼女自身も類い希なる才能の持ち主であり、それに気が付いているマリアも彼女を開発主任の立場にし、絶対の信頼を置いている。年齢はマリアと一つしか違わないが、まだ弟子になったばかりなので遠慮しているところがあり、マリアを先生と呼ぶ。

伊集院
 ラジールの町の酒場のバーテンハニー。アムロやレィリィ同様、以前に町を救ってくれたルークを信頼している。

アスビ・ラガール
 ゼスで洋服店を経営。仇候補。

スター・ラガール
 ゼスで喫茶店を経営。仇候補。

アルプランド・ラガール
 ゼスで大工として働く。元傭兵であるため、仇最有力候補。

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