ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第34話 決着は再戦の誓いと共に

 

-レッドの町 ヘルマン軍司令部-

 

「はっ!」

「……っ!」

 

 部屋の中央ではルークとリックの高速の戦いが繰り広げられていた。リーザス最強の戦士であるリックが、たかが一戦士相手に苦戦している事にフレッチャーが怒りの声を上げる。

 

「何をモタモタしているぶー! さっさと片付けるぶー!」

「(……愚図が。戦況すら判らぬのか?)」

 

 フレッチャーの言葉を聞き、後ろで事態を見守っていたアイゼルが内心悪態をつく。確かに目の前で繰り広げられている打ち合いは、一見先程までと変わらないように見える。だがその実、徐々にではあるがリックが押され始めているのだ。リーザス最強の戦士が、目の前の一戦士に、だ。この段階でそれに気が付く事が出来るのは相当の手練れであろう。だが、アイゼルは難なく事態の変化に気が付く。

 

「(このままではこの豚は負けるな……)」

 

 そう考えながらも、アイゼルに動く気配はない。レイラを横に携えたまま、不気味に部屋の奥に佇んでいた。

 

 

「真空波! どうした? 大口を叩いて置きながら、逃げ回るだけか?」

「真空波! いつでもかかってきていいのだぞ? 出来るものならな!」

 

 部屋の右隅では、ボウとリョクがアレキサンダーとある程度の間合いを保ちながら真空波を連発していた。それを躱し続けるアレキサンダーだが、真空波は二人から休むことなく放たれるため、二人に近づけずにいた。だが、その顔に焦った様子はない。真空波を回避し続けながら、集中した様子で何かぶつぶつと言葉を発している。

 

「万物の祖よ……私に力を……」

「何をぶつぶつと……真空波!」

 

 ボウが放った真空波に対し、アレキサンダーは避けるのを止め正面から受ける。右拳を突き出し、真空波とアレキサンダーの正拳がぶつかり合った。

 

「はぁっ!」

「馬鹿め! 貴様の右手が風によって切り刻まれるだけだ!」

 

 そう叫んだボウだったが、直後に目の前で起こった事態に目を見開く。風の塊である真空波が大気に四散したのだ。突き出されたアレキサンダーの右拳は無傷。いや、実際には無傷かどうか判らない。なぜなら、アレキサンダーの拳は燃えさかる炎を纏っていたからだ。

 

「し、真空波が……なんだ、それは!?」

「貴様、魔法使いだったのか!?」

「いえ……魔法とは少し違う……」

 

 ボウとリョクが狼狽している中、魔法使いである志津香はアレキサンダーの纏う炎が、魔法使いが体内の魔力を変換して生み出す炎とは違うものであることに気が付く。すると、アレキサンダーが炎を纏ったままの右拳を見ながら口を開く。

 

「ルーク殿に敗れ、己の未熟さを知った私は一から鍛え直すべく修行に明け暮れた。その修行の日々の中、ある時私は感じ取ったのだ。八人の神を」

「か、神?」

「狂っているのか? こいつは?」

 

 アレキサンダーの突然の発言に正気を疑うボウとリョク。それを気にする事もなく、アレキサンダーは言葉を続ける。

 

「八人の神がどこにいるのかは判らない。恐らく、人が立ち入れる領域ではないだろう。だが、私は彼らの存在を確かに感じ取った。その事に八人の神も驚き召され、私如きに多少の興味を持っていただけた。そして、彼らにとっては少しばかり、だが私にとっては大きな力を貸していただける事になった」

 

 そう言って炎を纏った右拳を前に突き出す。距離があるにも関わらず、怯むボウとリョク。

 

「これが、その力の一つだ! はっ!」

 

 アレキサンダーが駆け出す。慌てて真空波を放つボウとリョクだが、その風は全てアレキサンダーの拳に四散させられる。風の威力が炎に対して弱すぎるため、右拳の炎の威力を更に増すだけで、拳を傷つける前に四散してしまうのだ。為す術もないまま、目の前に迫ってくるアレキサンダーにボウは恐怖する。

 

「し、真空波がなぜ破られる!」

「奥義が破られたときの準備くらいしておくべきであったな!」

 

 ボウががむしゃらに拳を出すが、動揺した状態の攻撃を受けるほど甘くはない。その拳をかいくぐり、アレキサンダーは炎を纏った右拳を全力でボウの顔面に放つ。

 

「属性パンチ・炎!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

「ボウっ!!」

 

 壁に吹き飛ばされ、そのままずるずると崩れ落ちていくボウの姿にリョクが声を上げる。が、すぐにアレキサンダーは身を翻し、今度はリョクに狙いを定めて駆け出す。右拳に炎を纏いながら近づいてくるその姿に恐怖し、リョクが絶叫する。

 

「く、来るなぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 部屋の左隅ではメナドが攻めあぐねていた。洗脳され、意識が殆どなくても理解できる。目の前の男、ランスの纏う空気が自分のものとは比べものにならない事を。一見隙だらけに見えて、その実攻め込む隙がない事を。そのとき、ランスがこちらに向かってゆっくりと歩みを進めてくる。

 

「がはは、来ないならこっちから行くぞ」

「ランス、殺したりしないでよ! あと、変な事も絶対にしない事!」

「殺す訳ないだろう。メナドちゃんには傷一つつけん。最初に傷物にするのはベッドの上だからな!」

「だから、それが駄目だって言っているんでしょ!」

 

 これまで隙を見出せなかったメナドだが、ランスとかなみが言い合いをしている今がチャンスだと考えたのか、一気に距離を詰める。瞬間、ランスは剣を両手で素早く持ち直し、高々と掲げて一気に振り下ろす。

 

「いきなりランスアタァァァック!!」

「……っ!!」

 

 ランスアタックが地面に放たれる。メナドにはすんでのところで命中していない。だが、ランスアタックが振り下ろされた場所から発生した衝撃波がメナドを襲い、その勢いで剣が後方に吹き飛ばされてしまう。メナドが無防備になったのを見たランスは一気に距離を詰める。先程メナドの胸を揉んだのと似たような流れだが、今度は剣をしっかりと握っている。そして、そのままメナドに向かって剣を振るう。

 

 

「はっ! はあっ!」

「……んっ! んんっ!?」

「まさか、リックが押されているのかぶー!?」

 

 部屋の中央部、ルークとリックの高速戦は未だ続いていた。ここへ来てようやくフレッチャーも目の前で起こっている事態に気が付く。圧倒的な手数で押していたはずのリックが、いつの間にか相手の手数におされ、防戦一方になっているのだ。絶句しているフレッチャーに冷たい視線を送りながらアイゼルが口を開く。

 

「当然だ。確かにあの男は強いが、洗脳によって全力で戦えていない」

 

 アイゼルが脳裏に浮かべるのは、リーザス城を攻め落とした日の事。自身の足に剣を刺してまで洗脳される事を拒み、絶望的な戦力差にも関わらず立ち向かってきた。人間を見下してはいるが、命を賭して立ち向かってくる者の姿は美しいとアイゼルは感じていた。あのときのリックに比べれば、今の洗脳状態は見るに堪えない動きである。

 

「そして、対峙しているあの男も人間にしてはそれなりに強い。洗脳によって全力で戦えぬ死神では負けるだろうな」

「せ、洗脳で全力では戦えないだとぶー!? 無能な魔法ぶー! お前のせいだぶー!」

「いや、例え全力であったとしても判らぬか。あの男も全力で戦ってはいない」

 

 フレッチャーの言葉を完全に無視し、ルークをその瞳に見据えるアイゼル。魔人である自分の敵では無いが、人間にしてはかなりの動きである。アイゼルのその言葉にフレッチャーが困惑する。

 

「どうしてあの男は全力で戦っていないぶー?」

「ふ、技の一つも使ってこない相手に、自分が技を使うのも失礼だとでも思っているのだろう。嫌いではない考え方だがね。ほら、決着がつくぞ」

 

 洗脳状態にあるリックはまともな思考での戦いが出来ず、単調な攻撃の繰り返し。そのうえ、技の一つも使えない状態なのだ。並の相手ならいざ知らず、そんな状態で倒せる程目の前の相手は甘くない。狼狽えるフレッチャーの醜さに苦笑しながら、目の前で繰り広げられる戦いが終わる事を伝えるアイゼル。それを受けフレッチャーがそちらに視線を向けると、丁度ルークが下から上に剣を振り上げ、リックの剣を弾き飛ばしたところであった。

 

「死神よ! 奥義の一つもあるだろうに、それすら使えず不本意であろう。こんな事で決着がついたとは思わん。いずれまた、互いに全力で!」

「…………」

 

 ルークのその言葉に、洗脳されているリックが確かに微笑む。是非、という声がルークには聞こえた気がした。そして、無防備になったその体に、剣を振り抜く。

 

「はぁっ!」

「妙技、手加減アタァァァック!」

「属性パンチ・炎!」

 

 三人がほぼ同時に言葉を発し、リック、メナド、リョクの体が同時に崩れ落ちる。

 

「ば、馬鹿なぶー!」

「今だっ!」

 

 敵が減った事でその道が開けたため、かなみが遂に動く。部屋の奥まで一気に駆けて行き、奥で集中していた魔法使いルナンの腹に一撃入れ、気絶させる。これでリーザス兵の洗脳は解けたはずだ。この状況にアイゼルが愉快そうに笑い出す。

 

「くくく、洗脳も解けたな」

「笑ってるなぶー! こうなったら、流石にお前が行けぶー! 魔人の力を見せるぶー!」

 

 アイゼルに向かって指示を出すフレッチャーだが、冷酷な視線を送りながらアイゼルが再度断る。

 

「お前は醜すぎる。私は、限度を超した醜い者の指示を受ける気にはなれない」

「な、なんだとぶー!?」

「たまには自分で戦わないと、太りすぎて動けなくなるぞ。拳法の達人なんだろ? くくく……」

 

 フレッチャーを見下しながら馬鹿にしたような笑みを浮かべるアイゼル。フレッチャーの顔が怒りで真っ赤に染まる。

 

「アイゼル、この事は後でパットン様に報告してやるぶー!」

「おい豚、次に殺される奴は決まったか?」

 

 怒り狂うフレッチャーに向けてランスが挑発をする。その挑発に面白いようにかかり、キッとこちらを睨んでくるフレッチャー。そして、遂にその重い腰を上げた。

 

「どうやら死にたいらしいぶー! 世界最強の格闘家と言われた私の力、見せてあげようぶー! 光栄に思えぶー!」

「あれが世界最強……? 私は夢を見ているのか……?」

「油断するなと言いたいが……流石にあれはな……」

 

 アレキサンダーが絶句し、ルークもそれに同意してしまう。でっぷりとした肉を揺らしながら、ふっ、はっ、とフレッチャーが拳や足を繰り出す。あまりにも遅い動作であり、そのうえ手足を動かす度に、ぶよん、ぶよん、と肉が揺れ動く。どこからどう見ても強そうには見えない。今の準備運動で既に一汗掻いているフレッチャーが額の汗を拭い、こちらに向き直りながら構える。

 

「どこからでもかかってきなさいぶー! 必殺のモーデル脚で、全ての攻撃にカウンターを取ってやるぶー!」

「ぶーぶー、うるさい! さっさと死ねぇぇぇ!!」

「ぶひぃーーーー!」

 

 ランスの一太刀が炸裂する。こんな体ではカウンターを合わせる事など出来るはずもなく、絶叫と共にフレッチャーが瞬殺された。

 

「世界最強も、驕り高ぶるとああなるという良い見本だな」

「私たちも気をつけなければなりませんね……」

「ランスならともかく、ルークとアレキサンダーさんは大丈夫でしょ」

「ランス様があんな体になってしまったら……うぅ、嫌です……」

 

 フレッチャーの死体を見ながら話す二人に志津香も加わる。後ろではシィルが泣きそうな顔をしている。どうやら、でっぷりと太ったランスを想像してしまったらしい。と、何かが気になった様子でアレキサンダーが志津香に向き直る。

 

「志津香殿、自分が呼び捨てでないのに変な話ではありますが、私の事は呼び捨てで構いませんよ。恐らく、年もそう離れていないでしょうし」

「なにっ!?」

 

 アレキサンダーのその言葉に目を見開いたのはルーク。アレキサンダーは割と老け顔であるため、正直なところ自分と同じくらいの年齢だと思っていたのだ。慌ててアレキサンダーに問いかける。

 

「待て、アレキサンダー! お前、今いくつだ!」

「今年で20になります。まだまだ若輩の身」

「と、年下……だと……」

「ふふっ、パーティー最年長はまだまだ譲らないわね。ルークおじさん?」

「大丈夫です、まだまだルークさんは若いです!」

「そうですよ。10代……いえ、20代前半でまだまだ通じます!」

 

 アレキサンダーの年齢にショックを受け、その場に呆然と立ち尽くすルーク。その様子がおかしかったのか、志津香が笑いながらおじさんと呼んでくる。かなみが部屋の奥からフォローを入れ、シィルもそれに続くが、シィルのはあまりフォローになっていなかった。

 

「ええい、ルークが中年の親父な事などどうでもいい!」

「ぐはっ!」

「ルークさん! しっかり!」

「魔人アイゼルとやら、次はお前だぞ!」

 

 崩れ落ちるルークを尻目に、ランスがアイゼルに向けて剣を突き出す。それを見たアイゼルは高笑いを上げる。

 

「はははは、よくぞその醜い肉塊を倒してくれた。あんなのが仲間にいるのは、非常に不愉快だったのだ」

「そりゃそうよね。私だって、あれが仲間だったら不愉快だわ」

「ふふ、貴女とは美的センスが似ているようだ」

 

 志津香の言葉にアイゼルが気を良くする。そのまま上機嫌な様子でルークたちを見回し、言葉を続ける。

 

「君たちをここで倒すのは簡単だが…………」

「なにぃ!」

「ここで戦うと、私があの豚の仇討ちをしたようで気分が悪い。今日の所は帰るとしよう」

「逃げる気か、この卑怯者が!」

 

 ランスが怒鳴るが、その態度に苦笑するアイゼル。完全にこちらを見下した様子である。

 

「見逃されているという事に気が付かないとは愚かな。まあいい、いずれまた会うこともあるでしょう」

「待て! アイゼル!」

「ん?」

 

 逃げようとするアイゼルを引き留めたルークだったが、アイゼルが振り返るのと同時に倒れていた二人の人物から声が漏れる。

 

「くっ……」

「あっ……ぼくは……」

「っ!?」

 

 洗脳されていたリックとメナドが意識を取り戻し始めたのだ。かなみがルナンを倒した事が切っ掛けだろう。それを見たルークは言葉に詰まる。もし、この場にいるのがランス、シィル、かなみ、志津香の四人だけであったのなら、ルークは言葉を続けていたかもしれない。だが、今から話そうとしている内容は、信用しているとはいえ共に行動をし始めたばかりのアレキサンダー、そして、リーザス軍人であるリックとメナドの前で話せる内容ではない。言いあぐねているルークを不思議そうに見ていたアイゼルだが、少しだけ不機嫌そうに言葉を返す。

 

「人間如きが私を引き留めるな。レイラ、私はこの場から去るが、聞き分けのない奴らが私の妨害をしようとするんだ」

「はい、アイゼル様」

「レイラさん! どうして洗脳が解けてないの!?」

「多分、レイラさんはあの魔人に直接操られているのよ」

「ほう、聡明な魔法使いもいるのですね」

 

 アイゼルの命令を聞くレイラの姿にかなみが声を上げるが、志津香が冷静に分析する。その予想は的中しており、その事を見抜いた志津香を更に気に入った様子でアイゼルが声を漏らす。

 

「レイラ、私の為に奴らを倒してくれるね?」

「はい、愛するアイゼル様の為でしたら何でもいたします」

「良い子だ。では、私の為に戦ってくれ」

「はい、アイゼル様」

 

 アイゼルとそんな言葉を交わしていたかと思うと、レイラが剣を取ってこちらに向かってくる。だが、リックを含む強敵たちを倒したこの面子に、レイラ一人で敵うとはアイゼルも思っていないだろう。となれば、レイラはただの時間稼ぎのための捨て駒だ。

 

「はあっ!」

「おっと」

 

 迫ってくるレイラの剣をランスが剣で受け止める。洗脳されているとはいえ、レイラも一流の戦士。決して油断のならない相手だ。

 

「待て!」

「行かせないわ」

「くっ……」

 

 ルークがアイゼルを追おうとするが、すぐにレイラがその前に立ちふさがる。だが、そのために無防備になった体にランスが一撃を入れる。ぐらりと体勢を崩すレイラだったが、すぐに立て直して再びルークたちの進路に立ちふさがる。勝つ事など考えていない、ただアイゼルが逃げるのを手助けするだけの妨害。

 

「ふんっ!」

「ぐっ……アイゼル様……」

 

 アレキサンダーの拳がレイラの腹部にめり込み、その体が崩れ落ちる。流石に多勢に無勢、レイラは数分と持たず倒される事になったが、その頃には既に魔人アイゼルの姿はどこにもなかった。

 

「……くそっ!」

「ふん、俺様に恐れをなして逃げたか」

「ランス様、違うと思いますけど……」

「口答えをするな、シィル!」

「ひんひん、痛いです、ランス様……」

 

 ルークが悔しそうに吐き捨てる横で、ランスとシィルは見慣れた光景を繰り広げていた。魔人が恐れをなして逃げるなど有り得ない。奴等は、こちらよりも遙か高みにいる存在なのだから。フレッチャーの死体と倒れているボウ、リョク、ルナンを見回しながら志津香が一息つく。

 

「レッドの町はこれで解放完了ね」

「そうですね。ひとまずリーザスの方々を運びましょう。立てますか? 肩を貸しましょう」

「すみません……」

 

 アレキサンダーがリックに肩を貸して起き上がらせる。フラフラとした様子ではあるが、リックの洗脳はすっかり解けたようだ。かなみがアレキサンダーに向かって声を掛ける。

 

「とりあえず、みんなはバレス将軍の下へ」

「では、ナイスバディーのレイラさんは俺様が運ぼう。メナドちゃんも後で運ぶからそのままにしておけ」

「そんな事出来る訳ないでしょ! まったく……」

「あ、こら! どさくさに紛れてレイラさんの胸を揉まないの!」

 

 ランスがレイラの胸を揉みながら運び、かなみと志津香がその行為に苦言を呈している。一時的にではあるが、戦いが終わったことを実感する平和な光景だ。未だアイゼルを取り逃がした事を気にしていたルークだったが、その光景に気持ちを切り替え、意識を取り戻したメナドに声を掛ける。

 

「大丈夫か? 意識ははっきりしているか?」

「あ……はい……貴方は……?」

「俺はルーク、解放軍の者だ。君たち赤の軍はヘルマンに洗脳されていたんだ。だが、もう大丈夫だ」

「そうだったんですか……ぼんやりとですが覚えています……あっ……」

 

 ふらふらと立ち上がろうとするメナドだが、足がもつれて倒れ込む。

 

「あはは……すいません、もうちょっと時間が掛かるみたいなんで先に……」

「そうだな、それじゃ悪いが失礼して……よっと!」

「ひゃぁ!」

 

 メナドを抱き上げるルーク。お姫様だっこのような状態になり、メナドが顔を赤くする。

 

「な、何を……お、降ろしてください。一人でも歩けます!」

「嫌かもしれないが、少しだけ我慢してくれ。可愛い女の子が無理するもんじゃないぞ」

「か、可愛い!? ぼ、ぼくが!? そんな、ぼくなんて男みたいだし……」

「ん? 十分魅力的だと思うけどな」

「あ……あぅぅ……」

 

 顔を更に赤くし、黙り込んでしまうメナド。そのままメナドを運ぶルークの様子を後ろから見つめる二人の女性。

 

「(やばい……全力で足を踏みたい……でも、セルさんと違ってあの状態のメナドさんじゃ、ルークが万が一にでも落としたら危ないわよね……くっ!)」

「(メナド、お願い。その段階で留まって。親友の貴女と取り合うのだけはイヤっ!)」

 

 リックとメナドを引き連れたルークたちはレッド司令部を後にし、バレスたちの下へと戻る。丁度あちらも残存兵を全て倒し終えたところであり、これから司令部に乗り込もうとしているところだった。突如リーザス軍の洗脳が解けた事に驚いている様子だったが、先行したルークたちが司令部を落とした事を伝えるとバレスは驚愕し、感激に打ち震えるのだった。

 

「流石はランス殿とルーク殿じゃ!」

「がはは、俺様に任せておけば何の問題もない!」

 

 こうして、戦いは終わった。魔人アイゼルは逃したものの、フレッチャー率いるヘルマン軍を打ち破り、リーザス赤の軍と魔法軍の洗脳も解いた。圧倒的な勝利でレッドの町の解放に成功したのだ。

 

「やれやれ……なんとか生き残れたな……」

 

 ミリがため息をつく。周りでは解放軍が忙しなく動いているのが目に入る。勝利の喜びに浸る間もなく、解放軍は戦後処理に大忙しであった。怪我人の治療や壊れた建物の修復、また、ラジールに置いていた司令部をより前線に近いレッドに移動させることも決定していた。ランスは捕まえた女魔法使いのルナンとお楽しみの後、既に宿で寝ていたが、それ以外の者はしっかりと働いていた。ルークも各部隊の手伝いや町の復興、更には作戦会議への参加と休む間もなく奔走していた。

 

「はぁ……」

 

 メナドも赤の軍の指示に動き回っていた。洗脳されていた赤の軍は当然此度の戦闘でそれなりの被害が出ており、その確認と立て直しに特に忙しい状況であった。そんな中、赤の軍の一般兵がメナドに声を掛けてくる。

 

「メナド副将、無事だったんですね!」

「……ああ、ザラック。うん、ぼくは大丈夫。みんなも怪我はない?」

「流石に死傷者0とはいきませんが、解放軍がリーザス軍には手を抜いてくれたお陰で、それ程死者は出ておりません」

「……そう、良かった」

 

 赤の軍一般兵、ザラックの言うように、被害の規模に比べて死者はそれ程出ていなかった。今はセルとロゼを中心にした医療班が治療を続けているところだ。

 

「それにしても、心配しましたよ。強いとは言っても、メナド副将はか弱い女の子ですから。ははは!」

「……そう。ごめんね、心配かけて。それと、作戦会議があるからぼくは行くね」

「あ、あれ?」

 

 どこか上の空の様子でこの場を離れるメナド。その背中を見送りながら、何か当てが外れた様子でザラックは呟く。

 

「ちっ、おかしいな。メナド副将は女の子扱いすれば簡単に落とせると思ったんだが……」

 

 とぼとぼと会議室に向かっていくメナド。彼女の頭にはザラックの言葉はあまり届いておらず、女の子扱いされた事にも気が付いていなかった。その頭の中を占めるのは、先程のお姫様だっこ。

 

「ど、どうしよう……あんな風に女の子として扱ってくれる人なんて初めてだ。うぅ、まだドキドキしてる……」

 

 実のところ、ザラックという男はあまり褒められた男ではなく、もしメナドが彼に惚れてしまっていたら、その恋愛は不幸なものとなってしまう運命にあった。だが、タッチの差でメナドを初めて女の子として扱ってくれた男性がザラックではなくルークに変わったため、その運命が変わる事になり、ザラックの魔の手から逃れる形となったのだ。だが、今から突き進む道も茨の道である事をメナドはまだ知らない。

 

 

 

-リーザス城 ヘルマン軍司令部-

 

 一方その頃、リーザス城には新たな来訪者がやってきていた。

 

「ハンティ、遠路はるばるよく来てくれた!」

「きしし、場所さえ判れば距離は関係ないさ」

 

 玉座から立ち上がり、パットンが両手を広げて喜ぶ。目の前に立つのは、ハンティと呼ばれた黒髪のカラー。無邪気に笑うその見た目は若いが、少なくとも数百年は生きているカラーだ。パットンの乳母であり、姉のような存在でもある。このハンティは、パットンが最も信頼する人物だ。再会を喜び合う二人だが、すぐにハンティが顔を引き締めながらパットンに報告する。

 

「それより、今回のお前の行動で皇帝はかなりご機嫌ななめだ。パメラが焚きつけた形だがな。大丈夫なのか、パットン?」

「なーに、この作戦が成功すればどうとでもなる。それより、紹介しておかないと。こいつが魔人のノスだ。アイゼルとサテラという二人の魔人を引き連れ協力してくれた、中々頼りになる奴だ」

「…………」

「…………」

 

 紹介されたノスがハンティの方に少しだけ頭を下げる。それをジッと見るハンティ。一瞬不穏な空気が流れるが、パットンはそれに気が付いた様子もなく話を続ける。

 

「ハンティ、お前も協力してくれるんだろう?」

「当然。その為に来たんだ。あんたを守るのがあたしの役目だからな」

「頼りにしているぞ」

 

 ハンティがニカッと気持ちの良い笑顔を見せ、パットンも嬉しそうな表情を浮かべる。そのとき、部屋に伝達兵が駆け込んできた。すぐに伝令兵に向き直るパットンとハンティ。

 

「申し上げます。レッドの町にてフレッチャー司令官の部隊が……」

「どうしたのだ?」

「リーザス解放軍と戦闘状態に入り、壊滅。レッドの町も敵軍に制圧されました」

「な……なんだと……」

 

 その報告に目を見開いて絶句するパットン。周りに控えていた護衛兵もざわざわと騒ぎ出すが、すぐにハンティが一喝する。

 

「いちいち騒ぐんじゃないよ! 護衛だろうが、あんたらは!!」

「負けた……そんな馬鹿な……フレッチャーはどうした!?」

「勇猛にも敵兵100人に戦いを挑み、後一歩の所で無念の戦死をしたと伝えられています」

「20年前ならいざ知らず、今のフレッチャーがねぇ……」

 

 その報告にハンティが疑いの眼差しを向ける。どうやらフレッチャーの最期に関しては全く信じていないようだった。まさかの敗戦にパットンが頭を抱えるが、伝達兵は更に報告を続ける。

 

「リーザス解放軍はレッドの町で既に進軍の準備を続けている模様。このままでは、ジオの町まで落とされる危険性があります」

「くっ、トーマに我が軍の主力を集めさせて解放軍を撃破させろ。急げ!」

「ですが、我が軍はリーザス各地に散らばっております。今この軍を動かすと、各地で反乱の火の手が上がる恐れが……」

 

 伝令兵が危惧しているのは、各地で起こっているゲリラ活動の事。日に日にその規模は大きくなっており、各地に散らばったヘルマン軍がなんとか抑えているのが現状だ。

 

「構わん! まずはリーザス解放軍を撃破することが先決だ。これ以上、奴らが大きくなる前にだ!」

「はっ! 判りました。全軍をトーマ将軍の下に集結させます」

 

 だが、パットンはこれを一蹴。優先すべきはリーザス解放軍と考えているのだ。敬礼をし、伝達兵が部屋を後にする。疲れた様子で玉座に座り込むパットンにハンティが声を掛ける。

 

「あたしが行ってやろうか?」

 

 自分が出ればこの状況を覆せる。実に平然とした口調で彼女はそう言ってのけたのだ。だが、パットンはその申し出に首を横に振る。

 

「い、いや、今回は俺の力でやってみたい……」

「そうか……」

 

 普段の『私』ではなく、ハンティの前では『俺』という一人称になる。皇帝に相応しい言動をと普段から気を張っているパットンだが、彼女の前でだけは素の自分に戻れるのだ。だからこそ、彼女には情けない姿を見せる訳にはいかない。彼女の手は借りず、自分の力でリーザス解放軍を叩きつぶす。気が付けば、パットンは右拳を固く握りしめていた。

 

 

 

-リーザス城 地下牢-

 

 地下牢には鎖に繋がれた状態のマリスがいた。先程までサヤの拷問を受けていたが、今は奥でリアが拷問を受けている。拷問は日に日にその激しさを増しており、なんとかここまで耐え切ってきたが先行きは不安である。そのとき、サヤがリアを連れて戻ってくる。その表情には妖しい笑みが浮かんでいる。

 

「ふふ、残念だったね。リア王女は墜ちたよ。さあ、言われたとおりにしな!」

「うふふ、マリス。リアと楽しみましょう?」

「リア様!?」

 

 虚ろな表情をしながらリアがマリスに迫ってくる。驚いているマリアの胸を揉み、秘所へと手を伸ばす。墜ちたということは、ランスたちの事を話してしまったのだろうか。マリスが内心焦るが、サヤがリアを見下すようにしながら言葉を続ける。

 

「まさか本当に何も知らず、全て侍女であるマリスに任せていたとはね。とんだ無能者だよ、この王女様は。だが、聞いたよ。あんたはリアからの熱烈なアプローチを頑なに拒んでいたんだってね。そんなあんたには、リアにいたぶられるのが最大の拷問になりそうだ。今日から夜は徹底的にこの拷問で行くよ。覚悟するんだね!」

「(……なるほど、そう言う事ですか。流石はリア様)」

 

 ジッとリアを見返すマリス。その虚ろな瞳の奥に、強い意志が秘められているのを確かに見た気がした。マリスも嫌悪の声を上げる演技をしながら、格段に楽になった拷問を受けきる。必ずランスたちが助けに来る、そのことを信じて二人はひたすら耐えるのだった。

 

 




[人物]
リック・アディスン (3)
LV 40/70
技能 剣戦闘LV2
 リーザス赤の軍将軍。リーザス最強の戦士であり、洗脳された状態でルークたちの前に立ちふさがった。ルークに敗れ、洗脳も解けた今、最も頼りになるリーザス軍の一人である。朧気な記憶ではあるが、ルークが手を抜いていた事にも気が付いており、いずれもう一度、そのときは互いに全力でやり合いたいと思っている。

メナド・シセイ
LV 29/46
技能 剣戦闘LV1
 リーザス赤の軍副将。まだ若いが、その実力を見いだされ副将に抜擢される。かなみの親友。男兄弟の中で育った為、本人も男のような性格をしている。それゆえ今まで口説かれたりした経験はなく、女の子として扱ってくれる男性に弱い。

ザラック
LV 14/20
技能 なし
 リーザス赤の軍一般兵。メナドの部下だが、実力は高くない。メナドのことをチョロそうな女として密かに狙っていたが、当てが外れる。

ハンティ・カラー
LV 126/1000
技能 魔法LV3 剣戦闘LV1
 ヘルマン国評議委員の一人。パットンの乳母であり、彼が最も信頼を置く人物。親友であったパットンの母親に頼まれ、幼い頃から彼の身辺警護を務める。パットンが立派な皇帝になるのが彼女の夢でもある。背中に二本の鉄の腕を背負い、併せて四本の腕から魔法を同時に繰り出す実力者。今では微かに伝説に残るのみだが、かつては黒髪のカラーと呼ばれ人類から英雄視されていた。

フレッチャー・モーデル
LV 5/100
技能 格闘LV3
 ヘルマン第3軍司令官の一人。かつては大陸にその名を轟かす世界最強の格闘家であったが、慢心故に修行をしなくなり、今ではぶくぶくと太りまともに動けない体になってしまった。20年前の彼であれば、ルークやランスなど一瞬で叩き伏せていたであろう。

ボウ
LV 22/30
技能 格闘LV2
 フレッチャーの弟子。肥えた師匠とは違い、実力は本物。師より教わった真空波で敵を切り刻むが、それに頼りすぎたためアレキサンダーの前に敗れる。

リョク
LV 22/30
技能 格闘LV2
 フレッチャーの弟子。こちらも真空波を放つことが出来るため、実力は本物。師匠のことを盲目的に尊敬しており、それゆえ既に動けない体であることに気が付いていない。

ルナン
 ヘルマン第3軍魔法兵。捕縛後はランスに美味しくいただかれました。名前はアリスソフト作品の「闘神都市2 そしてそれから…」より。ディアと名付ける予定が間違ってルナンに。ルナンは男だ。盛大なミスであるが、まあ女っぽい名前なのでそのままにしました。改訂でもこちらは変更せず。


[技]
手加減攻撃
使用者 ランス
 ランスの必殺技。どんな相手でも殺すことなく必ず体力を残す妙技。

属性パンチ・炎
使用者 アレキサンダー
 アレキサンダーの必殺技。炎の神の力を借り、己の拳に炎を纏わせる。格闘家でありながら属性攻撃を可能とする脅威の技である。

モーデル脚
使用者 フレッチャー・モーデル
 フレッチャーの必殺技。相手の攻撃に対してカウンターで蹴りを繰り出す。その威力は絶大で、これを受けて立ち上がることの出来た者は一握りである。


[都市]
レッドの町
 自由都市。町を覆う赤レンガが特徴的だが、警備体制としては甘い。最近教会に新しく赴任した美人神官セルが話題の的である。


[その他]
永遠の八神
 人間界にその存在を知られていない、高位の神々。地位は三超神に次いで高い。本来は人間界に興味はなく、支配も望んでいないが、自分たちの存在に気が付くことの出来たアレキサンダーに少しばかり興味を示し、力を授ける。それぞれの仲は悪いため、同時に複数の力を借りることは出来ない。

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