ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第41話 人類最強の女

 

-サウスの町 広場-

 

「くっ……このわたくしが、こんな女に不覚を取るだなんて……」

「威勢が良かったのは最初だけだったようだねぇ、お嬢ちゃん」

 

 長斧のハルバードを持ちながら、筋肉質の女が笑う。この女がヘルマン第3軍副将、ミネバ・マーガレットだ。見下されているのは、サウスの町周辺でゲリラ活動を行っていた集団に属していた少女。他の仲間は既にミネバ率いる部隊に殺されてしまった。自分の実力に自信のあった彼女は一矢報いようとミネバに向かっていったが、まるで歯が立たずにこうして地面に倒れ伏していた。

 

「ゲリラ活動なんて、随分と無謀な事をしているねぇ」

「ふん、わたくしはリーザス親衛隊への入隊が内定していましてよ。このままリーザスが滅んだら、わたくしの人生設計がメチャクチャですわ!」

「国のためじゃなくて、自分のためかい。そういう考えは嫌いじゃないよ」

 

 傷だらけで倒れ伏し、殺される直前であるにも関わらず少女は気丈にミネバの事を睨み付ける。その様子が面白いのか、ミネバが笑いながら少女を見下ろす。そこに、ミネバの部下であるタミが伝令に来る。

 

「ミネバ様。オクの町からリーザス軍が侵攻してきます。町まで辿り着くのは時間の問題かと……」

「ちっ、面倒だねぇ。この戦力でまともにぶつかったら、全滅は確実か。とはいえ、前回の戦いでちょっとばかしトーマの奴に目を付けられちまったから、このまま撤退という訳にもいかないか……」

 

 テラナ高原の戦いで早々に撤退したミネバ隊は、現在ヘルマン軍で最も被害の少ない部隊であった。そのため、トーマに前線での死守を命じられてしまっていたのだ。この状況でまた早々に撤退したのでは、部隊消耗の少なさが更に群を抜いて目立ってしまう。全体の戦力が更に減っているであろう次の戦いでは、それこそ最前線での特攻でも任されかねない。

 

「となると、適度にあたしらも損耗するとするかねぇ」

「では、準備の済んでいる『穴』でよろしいですか?」

「ああ、それと『火』も準備しておきな。最終的に撤退出来ないんじゃ意味がないからね」

「はっ!」

 

 タミがミネバに敬礼し、何かを準備すべく駆けていく。地面に倒れ伏しながら今の会話を聞いていた少女は眉をひそめる。自身の部隊をわざと損耗させようという風にも聞こえたし、何よりもその後に飛び交っていた会話の内容が全く判らなかったからだ。

 

「穴……? 火……?」

「すぐに判るさ。それと、お嬢ちゃんにも協力して貰うとするかねぇ」

「くっ……」

 

 そう言い、ミネバが少女を片手で掴み上げる。憎々しげにミネバを睨む少女だが、傷ついた体で抵抗する事は不可能であった。

 

 

 

-サウスの町 入り口-

 

「皆の者、町の中へ突撃じゃ!」

「はっ!」

 

 バレスの指示で解放軍が町の中へ突入していく。オクの町の時ほどではないが、今回もここまでほぼ無傷で侵攻する事が出来た。やはりヘルマン軍は相当消耗しており、大した戦力数は残っていない。町の中には流石に多くのヘルマン軍がいたが、解放軍の数はそれを遙かに上回る。

 

「おら、おら! 死にやがれってんだよぉぉぉ!!」

「一式、ハヤブサ!!」

「(やはり強い。もしかしたらこの男、赤い死神よりも……)」

 

 黒の軍と傭兵部隊が最前線に立ち、サウスの町での戦いは続く。ジワジワと解放軍が押しているのが見て取れたため、バレスが確信を持ってルークに話し掛けてくる。

 

「最早、勝利は時間の問題。無駄な抵抗を続けるものじゃ」

「……何かおかしい」

「ルーク、どうかしたの?」

「ヘルマン軍の動きが変だ。まるで何かに誘導しているかのよう……」

 

 その戦力差から、今回指揮官たちは前線には立たず後方で待機していた。放っておいても勝てそうな戦であるのに、万が一にも指揮官を失うのはあまりにも痛手だからだ。後方から冷静に戦況を眺めていたルークは、一つの違和感を覚える。少し前から明らかにヘルマン軍の動きがおかしくなったからだ。その答えを聞いた志津香も眉をひそめて戦場に視線を向け直す。

 

「考え過ぎじゃない……? うっぷ……」

「レイラさん、やっぱり後ろに下がっていた方が……」

「考え過ぎならばいいんだがな……」

 

 二日酔いのレイラが心配ないと一蹴するが、ルークのこの不安は的中する事となる。

 

 

「はっ!」

「ぐぁっ!?」

 

 町の前線でアレキサンダーがヘルマン兵を打ち倒す。圧倒的にこちらが押している。それにも関わらず、目の前の部隊を指揮する小隊長はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。それはあまりにも不気味な姿であった。そして、その小隊長が突如声を上げる。

 

「今だ!」

 

 瞬間、地面に巨大な穴が空き、この場にいた者たちが真っ逆さまに落ちていく。

 

「なっ……!?」

 

 アレキサンダーが目を見開く。落とし穴に驚いたというのもあるが、それよりも驚いたのは目の前で落ちていく者たちの姿。落ちているのは解放軍だけじゃない。目の前にいたヘルマン兵たちも同様に落ちていっているのだ。先程指示を出した小隊長が狼狽した様子で口を開く。

 

「そ、そんなっ……俺たちの立つ場所は安全だって……」

「くっ……はぁっ!」

「ぐぎゃっ!」

 

 穴に落ちていく中、アレキサンダーはヘルマン兵の背中を蹴り、空中へ高く跳び上がる。そのまますんでのところで木の枝を掴み、何とか穴に落ちるのを回避する。下を見下ろすと、穴の中には竹槍などが敷き詰められており、落ちた解放軍、ヘルマン軍共にその殆どが死んでいた。かろうじて生きている者もいるが、竹槍に何か細工でもしていたのか、傷口を押さえながらかなり苦しんでいる。恐らく長くは持たないだろうし、あれならばひと思いに殺されていた方が良かったかも知れないとすら思う。

 

「惨いな……」

 

 木にぶら下がりながらそうアレキサンダーが声を漏らす。確かに落ちている人間の数は解放軍の方が数倍多い。だが、このような味方を切り捨てる作戦にアレキサンダーは嫌悪感を覚えていた。

 

 

「こ、このような事が……」

「酷い……」

「人間のやる事じゃないわ……」

 

 周囲を見ながら、バレスたちは絶句していた。町の至る所で穴が空き、解放軍に尋常でない被害を与えてきたのだ。特に前線に配備されていた黒の軍と傭兵部隊の被害は大きく、伝えられる報告や阿鼻叫喚の惨状に皆が立ち尽くしていた。味方であるヘルマン兵をも巻き込むやり口に、志津香が不快感を露わにする。

 

「ルークの旦那!」

「ルイス、前線はどうなっている?」

 

 遠くからルイスがこちらに向かって駆けてくる。最前線で戦っていたはずだが、どうやら落とし穴には落ちずに助かっていたらしい。

 

「すまねぇ、情けねぇ話だがボロボロだ。今はセシルとあの若造が残った戦力かき集めて立て直している」

「そうか、二人とも無事か」

 

 ルークが胸を撫で下ろす。これ以降も戦争は続く事を考えると、ここでセシルやアリオスといった強者を失うのはあまりにも痛手だからだ。アレキサンダーの事も気にはなったが、彼はルイスたちとは別行動であったはずなので聞いても無駄だろう。ルークが周囲の面々に声を掛ける。

 

「……行くぞ。この状況では俺らも動く必要がある。指揮官を必ず討つぞ」

「はい!」

「こんな作戦……認められるものではないわ……」

「穴には十分注意して進むわよ」

 

 落とし穴の罠が落ち着いたのを確認し、ルークたちも駆け出す。このような人道に外れた作戦、認められるはずがない。この作戦を実行した指揮官は、必ずこの場で討ち取る。

 

 

 

-サウスの町 広場-

 

 繰り広げられる惨状をその目に映し、ミネバに捕らえられている少女が絶句する。少女は今木の杭に縛り付けられ、身動きが取れない状況だ。目の前には大きな穴が空いており、下には竹槍が敷き詰められている。

 

「こ、こんな作戦、認められる訳ありませんわ! 貴女には騎士道というものがないんですの!?」

「そんな綺麗なものは、生憎持ち合わせていなくてね」

「自分の部下をなんだと思っていますの!?」

「部下の命なんざ、ゴミと一緒さ。あたしの役に立てばそれでいいのさ」

「なんて人……」

「ミネバ様」

 

 そのとき、ミネバの元に一人の女騎士がやってくる。彼女はミネバの部下、アミトス・アミテージ。前線に立っていた彼女はかろうじて落とし穴を回避し、単身ここまで撤退してきたのだ。共に戦っていた仲間たちは皆落とし穴に落ちて死亡していた。

 

「アミトス、どうした?」

「前線はほぼ壊滅です。私が所属していた部隊も全滅し……」

「そうかい。じゃあ、あんたも撤退の準備を進めておきな」

「…………」

「どうした? 何か気に入らない事でもあるかい? アミトス」

「……いえ」

 

 命辛々逃げて来た部下のアミトスに何の労いもないミネバ。アミトスもこのような作戦を内心認めていなかったが、一兵卒である自分が副将のミネバに意見する事は出来ない。仲間たちの死を惜しみながら、苦虫を噛み潰したような表情で下がっていく。そのやり取りを見ていた少女はアミトスに同情し、キッとミネバを睨み付けながら口を開く。

 

「何故貴女のような人がヘルマンの司令官なんですの!?」

「甘ちゃんだねぇ。戦争というものをまるで判っていない発言だよ」

「なんですって!?」

「結果だけを見てよく考えな、お嬢ちゃん。この町にいたヘルマンの戦力は明らかに解放軍よりも劣っていたんだ。まともに戦ったところで、これだけの被害は与えられなかっただろうねぇ」

「くっ……」

 

 ミネバの言うように、この町を守っていたヘルマン軍がまともに戦っていたとしても、解放軍にこれだけの被害は与えられなかっただろう。この作戦を取ったからこそ、不可能とも思える戦果を上げる事が出来たのだ。これこそが、ミネバが副将という地位にいる理由の一つ。騎士道精神を持つ兵たちからは嫌われていたが、常に結果を出し続けるその戦いぶりは実利主義である王妃や宰相から高く評価されていた。そのとき、こちらに向かって数人の解放軍が駆けてくるのが見える。

 

「いたぞ! あれが司令官のミネバじゃ!」

「バレス将軍と親衛隊のレイラか……『火』の準備はまだかい?」

「もう少々お待ちを……」

「急がせな! しょうがない、あたしが少し時間を稼ぐとするかね……」

 

 タミにそう命じながら、ミネバは目の前の解放軍と対峙する。集団の中からレイラが一歩前に踏み出し、剣の切っ先をミネバに向けながら華麗に言い放つ。

 

「観念しなさい、ミネバ! もう逃げ場は……ない……わ……うっぷ……」

「ああ、レイラさん。ほら、無理するから……」

 

 かなみに連れられて下がっていくレイラ。その様子を見ながらミネバが笑う。木の杭に縛られている少女も呆れた様子だ。

 

「なんだい? 無様な姿だねぇ」

「あれが親衛隊隊長レイラ……親衛隊に入るの、考え直した方が良さそうですわね……」

「うーむ、やはり宴を開いたのは失敗じゃったのう」

 

 バレスが顎に手を当てながらため息をつき、レイラに代わって一歩前に出る。

 

「さあ、覚悟するがよい。このような下劣な行為、断じて許す訳にはいかん。儂の剣の錆にしてくれる!」

 

 バレスがそう言い放ち、横に立っていたルークと志津香も身構える。だが、ミネバはニヤリと笑いながら木の杭に縛られている少女を指差す。

 

「こいつが見えないかい? あたしが部下に命じりゃ、この嬢ちゃんは穴に真っ逆さまだねぇ」

「くっ……卑怯な……」

「まぁ、一対一だったらやりあってあげてもいいがね。勿論、他の者の手出しが入ったらこの嬢ちゃんは死ぬ事になるよ」

 

 そう宣言するミネバ。これはミネバの時間稼ぎである。一対一の勝負を適当に長引かせつつ、『火』の準備を待つのが目的だ。

 

「さぁ、誰がかかってくる?」

「それでは儂が……」

「いや、ここは俺に任せてくれ」

「ぬっ……ルーク殿……」

 

 ミネバの前に出て行こうとするバレスを引き留め、代わりにルークが前に出ていきミネバに近づいてく。

 

「ほう、あんたがあたしの相手かい?」

「ルークだ。覚える必要はないぞ。外道を生かしておく気はないんでな」

「つれない事言うじゃないか。さて……ふんっ!」

 

 そう言うや否や、ミネバがいきなりハルバードを振るってくる。完全な奇襲。が、それをルークは妃円の剣で受け流し、一気に間合いを詰める。

 

「!?」

「はぁっ!」

 

 目を見開いているミネバに向かってルークが真一文字に剣を振る。しかし、ミネバは素早く手元にハルバードを戻してその剣を防ぎ、そのまま力任せに剣をかち上げる。

 

「くっ……」

「うおらっ!」

 

 無防備になったルークの体目がけ、ハルバードの頂点についた金属の棘を突き刺してくる。その一撃をルークは素早く躱し、互いに後方に跳んで間合いを取る。この一瞬のやりとりで、互いに相手の力量を理解する。

 

「(ちっ……この男、強いじゃないか。時間を稼ぐだけのつもりだったんだが、厄介だねぇ……)」

「(この女、ただの外道じゃないな……本物の強者だ……)」

 

 互いにどう対峙したものかと考えつつ、ジリジリと間合いを詰める。射程距離に入った瞬間、再度ルークの剣とミネバのハルバードが交差し、金属音が辺りに鳴り響いた。

 

 

 

-ノースの町近辺 ヘルマン軍砦-

 

「がはは、全く持って相手にならん。このまま殲滅しろ!」

 

 ランスが言うとおり、サウスの町と違いこちらの戦では解放軍がヘルマン軍を圧倒していた。元々人数も少ないヘルマン軍、更にミネバと違いノースを指揮するトーマは真っ向から解放軍を迎え撃っていたため、その戦は順当に進んでいくのだった。リーザス最強リックが率いる赤の軍が圧倒的な戦果を上げる。ランスも最前線に立ち、敵を殲滅していた。最早、砦が落ちるのは時間の問題だった。

 

「うわぁぁぁぁ!」

「ん、なんだ?」

 

 そのとき、ランスの目の前にリーザス兵が数人吹き飛んでくる。ランスが兵たちが吹き飛ばされてきた方向に視線を向けると、そこには巨大な鉄球を振り回しながらこちらを睨んでいる男が立っていた。

 

「先程から周りに指示を出していたな! 貴様が解放軍の司令官か!?」

「ランス殿、あれが敵の司令官トーマです」

「ふん、なるほどな」

 

 吹き飛ばされてきたリーザス兵の説明を聞き、相手が司令官である事を知ったランスはトーマに向き直る。

 

「そうだ! 俺様がかの偉大な英雄、ランス様だ! そう言うお前も、ヘルマン軍の司令官だな!?」

「いかにも。我が名はトーマ。ヘルマン第3軍の総司令官だ」

 

 ランスの名乗りを受け、トーマも名乗りを上げる。武人である以上、名乗られたからには名乗り返すのが流儀だ。

 

「だったら、とっとと降伏するんだな」

「ふん、騎士の誇りにかけて死んでも降伏など出来ぬ! 小童、かかってこい!」

「なにぃぃ!? よほど死にたいらしいな、貴様!」

 

 挑発されたランスがトーマに向かっていこうとするが、砦の奥から数人のヘルマン兵が駆けてきてトーマに進言する。

 

「トーマ司令官、この砦はもう駄目です。脱出してください!」

「出来ぬ!」

「まだ戦いは終わってはいないのです。ここでトーマ様に死なれては、我が軍は本当に勝ち目が無くなります。部隊を整え、再起してください!」

「…………」

 

 その言葉にトーマの動きが止まる。その様子を見ていたランスが剣先を向けながら言葉を発する。

 

「貴様、まさか臆病風に吹かれて逃げようと思っているんじゃないだろうな!?」

「……なに、まずは貴様を倒してからだ」

「トーマ様、戦っている余裕はありません。今撤退しなければ、もう逃げ延びるチャンスはありません!」

「ここは私たちに任せて脱出を!」

「トーマ様!」

「…………」

 

 ランスに向かって行こうとするトーマに対し、周りのヘルマン兵が必死に懇願する。それを受けたトーマは一度だけ目を閉じ、静かに口を開く。

 

「……判った。ランスとやら、この勝負は預けたぞ」

「あっ、貴様逃げる気か!」

 

 それだけ言い残し、トーマは砦の奥に消えた。慌てて追いかけようとする解放軍だが、その前にヘルマン兵が立ちふさがる。

 

「ここは我らが通さぬ!」

「ええぃ、どけ、雑魚共が!」

「命を賭してでもトーマ様が脱出なされるまで時間を稼ぐのだ。行くぞ!」

 

 トーマを逃がすため、残ったヘルマン兵が特攻を仕掛けてくる。当然そんな事で圧倒的な戦力差を覆せるはずもなく、向かってきたヘルマン兵は次々と倒れていく。だがその特攻の甲斐あり、解放軍は総司令官であるトーマに逃げられてしまうのだった。とはいえ、この戦は解放軍の圧勝。ノースの町解放の歓喜に解放軍は大いに湧いた。なにせヘルマンの英雄であるトーマを敗走させての勝利なのだ。湧かないはずがない。

 

「がはは、俺様のお陰だな!」

「お疲れ様です、ランス様」

 

 一仕事終えたランスは椅子にドカッと腰掛け、シィルから飲み水を受け取りながらマリアに問いかける。

 

「おい、マリア。ルークたちから連絡はないのか? サウスの町はどうなっている?」

「まだよ。でも、ルークさんたちが負ける訳ないわ」

「全く手間取りやがって。さっさと解放しろっていうんだ」

 

 文句を言いながら水を口にし、キョロキョロと当たりを見回したランスは近くで赤の軍に指示を出していたリックに向かって声を掛ける。

 

「そこのお前。ええっと、何だったか?」

「もう、赤の軍のリック将軍でしょ!」

「ふん、一々男の名前など覚えてられん」

「自分に何か?」

 

 マリアの苦言を右から左に聞き流しつつ、振り返ったリックにランスは尋ねる。

 

「さっきのヘルマンの親父、何者だ?」

「ヘルマン第3軍隊長、トーマ・リプトン将軍です。先程名乗られていたと思いますが……」

「そう言う事じゃない。なんだ、あの親父は!? 俺様程じゃないが、見ただけで強いと判ったぞ!」

 

 ランスがそう口にするのを聞いたリックは合点がいったように頷き、言葉を続ける。

 

「そうですね……トーマ将軍は人類最強と呼ばれています」

「ふん、俺様を差し置いて人類最強など、ふてぇ親父だ。だが、あの親父を殺せば俺様が名実共に人類最強になるという事だな? がはは!」

 

 ノースの町にランスの笑い声が響く。こうして、ノースの町解放に成功したランスたちは、戦後処理を行いながらサウスの町解放の報告を待つのだった。

 

 

 

-サウスの町 広場-

 

「何て戦いですの……」

 

 杭に縛られた少女は目の前で繰り広げられる戦いに息を呑む。プライドの高い彼女にとって認めるのは悔しいが、認めざるを得ない。目の前の二人が繰り広げているのは、自分が位置する場所よりも遙か高みの戦い。

 

「真空斬!」

「おっと!」

 

 息を呑んでいたのは少女だけではない。周りで見ていたかなみや志津香、バレスなどもその光景に目を奪われていた。因みに二日酔いのレイラは横になっていた。何と情けない、と少女がレイラの事を見下す。ハルバードを振るって真空斬を相殺したミネバに対し、ルークが口を開く。

 

「これ程の腕を持ちながら、あのような作戦を取るのか、貴様は!」

「勝つためには手段を選んでなんかいられないからねぇ。それにしても、リーザスにあんたみたいなのがいたのは誤算だったよ! 適当にあしらうつもりが、何だってマジにやらなきゃならないんだい!」

 

 ミネバがそう言いながらハルバードを横薙ぎにする。砂煙と共に強烈な一撃がルークに迫るが、後方に跳びずさりそれを躱す。

 

「別に俺はリーザス軍って訳じゃ……」

「ミネバ様、準備が整いました」

「遅いんだよ! さて、悪いけどここまでにさせて貰うよ。命がけの勝負なんてのは、柄じゃなくてね。ふんっ!」

「なっ!?」

 

 リーザス軍という事を否定しようとしたルークだが、タミの報告によってその言葉はかき消される。報告を受けたミネバは不敵に笑い、ハルバードをルークではなく木の杭に向かって振るう。木の杭は根本から真っ二つに折れ、縛られた少女ごと穴に倒れ込んでいく。

 

「きゃぁぁぁぁ!」

「うぉぉぉぉっ!」

 

 ルークは木の杭に向かって駆け、穴に落ちる前に両腕で支えて自分の方向に倒れさせる。すんでのところで間に合い、少女がルークの体に覆い被さるように木の杭ごと倒れてくる。周りで見ていたかなみたちも駆け寄るが、それと同時に町の至る所から火の手が上がる。すぐさま少女が事態を察する。

 

「こ、これが『火』ですの!?」

「当たりだ、お嬢ちゃん」

「これも貴様の仕業か……」

 

 ルークがそう言ってミネバを睨み付けるが、その瞬間ルークとミネバの間に火の手が走る。轟々と燃えさかる炎に行く手を阻まれ、ミネバに近づけなくなってしまう。その炎の向こうでミネバが体を翻す。

 

「ははは! それじゃあ、この辺でお暇させて貰うよ。出来ればあんたとは二度と会いたくないねぇ」

「くそっ、真空斬!」

「ファイヤーレーザー!」

 

 ルークと志津香が追撃するが、素早く立ち去っていったミネバにその一撃が届く事はなかった。高笑いと共にミネバの姿が炎に消える。ルークが悔しそうに声を漏らす。

 

「逃がしたか……」

「動ける者は消火活動に当たれ! 急ぐのじゃ!」

 

 バレスの指示を受け、穴に落ちていなかった解放軍が町の消火活動に当たる。逃げるためだけに町中に火を放つこのやり口、落とし穴同様とても認められるものではなかった。ルークが覆い被さってきていた少女を杭から解放し、話し掛ける。

 

「救出が遅れてすまない。大丈夫か?」

「え、ええ。危ないところを助けていただき、感謝しますわ。わたくしはチルディと申します。ゲリラ隊に所属していたのですが、どうやら生き残ったのはわたくしだけみたいですわ」

「そうか……」

 

 見れば、確かにそれなりに腕は立ちそうな様相だ。怪我の状態と彼女の気持ち次第では傭兵部隊に協力して貰うかとルークが考えていると、ルイスがこちらに駆けてくる。

 

「ルークの旦那、今の火の手でまた傭兵部隊に被害が出ちまった。ちょっと来てくれ!」

「判った。すまない、一人で大丈夫か?」

「ええ、大丈夫ですわ。わたくしの事はお気になさらずに」

「かなみ、彼女を頼んだ」

「はい、ルークさん!」

 

 チルディをかなみに任せ、ルークがこの場を去る。その背中を見送りながら、チルディが心の中で思う。

 

「(レイラの不甲斐ない姿に迷ってはいましたけど、あのルークというお方がリーザスにいるのであれば、やはり親衛隊には入った方が良さそうですわね。それに、あのミネバという女に負けたのは腹が立ちますわ。見てなさい、わたくしの目標は女性最強。いつかわたくしが討ち取って見せますわ)」

 

 ルークがリーザス軍に所属しているという勘違いをしたまま、チルディは親衛隊入りを決意する。こうして大きな被害を出したものの、解放軍はサウスの町の解放にも成功した。高い位置にあるサウスの町からはリーザス城を見下ろす事が出来る。

 

「リア様……マリス様……遂にここまで来ました……」

 

 目前にまで迫ったリーザス城を一望しながらかなみが呟く。間に大きな都市はもう無く、必然的に次がリーザス城での決戦になる。それ即ち、解放軍とヘルマン軍の最後の決戦。兵数では上回る解放軍だが、相手にはトーマとミネバという猛将に加え、魔人も未だ全員健在。激戦は必至。そして、切り札であるカオスも未だ謎に包まれたままであった。

 

 

 

-サウスの町近辺 街道-

 

「ミネバ様、お疲れ様です」

「あんな奴がいるとはねぇ……トマホークを持ってきておくべきだったよ」

「全力でやったらどうなっていたか、見てみたくはありましたね」

「勝手な事を……あんな強い奴とやりあうこっちの身にもなれってんだ」

 

 ミネバがそう言いながら、生き残った兵を率いてリーザス城へと撤退していく。本来ミネバが得意とするのは近接戦闘であり、長斧のハルバードより短斧のトマホークの方が実力を出せるのだ。興味深げに呟くタミの言葉に静かな笑みを浮かべて返すミネバ。次いで、その声のボリュームを下げる。

 

「だが、丁度良い具合に兵も減ったようだねぇ。これなら後方にいても文句は言われまい」

「ええ。リーザスでの戦いは後方に回れそうです」

 

 小声で話していたタミと話していたミネバだが、その言葉を聞いたものがいる。ミネバの後ろを歩いていた女騎士、アミトスだ。拳を握りしめながらミネバの背中を睨み付ける。

 

「(味方の兵が減った事を喜ぶだと……? ミネバめ、貴様のやり方、私は絶対に認めんぞ……)」

 

 

 

-リーザス城 地下牢-

 

 リアとマリスが捕らえられている牢とはまた別の場所。ここにリアの両親である王と王妃が捕らえられていた。聖装備の在処を知らなかった二人は早々に役立たずとされ、最低限の食事だけ与えられてこの場所に放置されていた。だが、この場所に十分程前から一人の男がやってきていた。魔人アイゼルだ。聖装備ではなく、リーザス王家に伝わるカオスの事を聞くためにこの場所にやってきていたのだ。王を人質に取りながら、王妃であるカルピスに問いかける。

 

「人間の女よ、カオスが魔人を倒せる武器なのは判った。だが、何故そんな武器を長い間封印していたのだ。人間界に魔人が攻めて来た事もあるだろう?」

「……カオスは、絶対に封印を解いてはならないのです。娘にはその事はまだ知らせていませんでしたが……」

「それは何故だ?」

「カオスは、ある者を封じているからです。それは……」

「何か判ったか? アイゼル」

 

 突如、後ろから声がする。その声の主がすぐに判ったアイゼルは、冷や汗と共にゆっくりと振り返る。立っていたのは、魔人ノス。

 

「ノス……」

「アイゼル、一度だけ忠告してやろう。余計な詮索はするな」

 

 そう言いながら、ノスがアイゼルの首に手を掛けてくる。アイゼルは身動きが取れない。立場だけでなく、実力でもノスはアイゼルの遙か上を行く。どう足掻いても勝ち目がないのだ。アイゼルの首に手を当てながら、静かに、だがハッキリと言い放つ。

 

「死にたくなかったらな」

「…………」

 

 この瞬間、アイゼルの中でノスへの疑惑が確信へと変わる。だが、取れる手段は何もない。ノスの見張りを命じていたはずのサテラの身を案じながら、アイゼルはノスが部屋を出て行くまで一歩も動けずにいた。王妃に先の話を続けさせる事も出来ず、アイゼルは大慌てでサテラの下へ向かう。

 

「(サテラ、巻き込んでしまったか……無事でいてくれ……)」

 

 ノスであればサテラとシーザーを屠る事も容易い。生きていてくれと願いながら、サテラの部屋として使っている一室まで駆けていく。部屋の前まで辿りついたアイゼルは息を呑んでその扉に手を伸ばし、ゆっくりと開けて中の様子を見る。そして、目の前に広がる光景にアイゼルが絶望する。

 

「んゆー……むにゃむにゃ……」

「人選を間違えたな……」

 

 サテラは熟睡していた。

 

 




[人物]
ミネバ・マーガレット
LV 55/100
技能 斧戦闘LV2
 ヘルマン第3軍副将。一兵卒から現在の地位までのし上がった叩き上げで、力こそ全てという考えから勝つために手段は選ばない。野心家であり、策略も巡らす頭脳派でもある。部下の事は手駒としか思っていないが、ある種のカリスマ性も持ち合わせているため、彼女に心の底からついてくる部下も多い。現人類最強の女。ルークとは長斧のハルバードで戦ったが、本来は短斧であるトマホークの扱いの方が得意であり、まだまだ手の内は見せきっていない。

タミ・ジョン
LV 35/42
技能 斧戦闘LV1 剣戦闘LV1
 ヘルマン第3軍一般兵。ヘルマン人ではないが、ミネバにかつて命を救われた事があり、彼女に忠誠を誓っている。ミネバの命令ならばどんな事でも忠実にこなし、実力も高い。ミネバにとっては優秀な手駒の一つ。

アミトス・アミテージ
LV 17/45
技能 剣戦闘LV1
 ヘルマン第3軍一般兵。軍人としての信念を重んじ、上司であるミネバの方針には納得がいっていないが、軍に入って日の浅い彼女は進言できるような立場にはない。

チルディ・シャープ
LV 15/44
技能 短剣戦闘LV2 菓子作りLV2 学習LV1 統率LV1
 リーザス親衛隊に内定が出ている少女。目の前で繰り広げられたルークとミネバの戦いに魅せられ、ルークが所属しているのであればとリーザス軍入りを決める。その目的はルークの動きを盗む事にある。女性最強を目標としており、自分を倒したミネバに対抗心を燃やしている。出会いが悪かったため、レイラの事は下に見がち。普段から優雅に振る舞っているため周りの者はそうと気が付かないが、かなりの努力家である。

ウェンズディング・リーザス (3)
 リーザス国国王にしてリアの父。実権は娘に握られている。婿養子であるため、カオスの事はあまり詳しく知らなかった。

カルピス・パラパラ・リーザス (3)
 リーザス国女王にしてリアの母。リアが女王になった際にカオスの真実を教えようとしていたが、もっと早く伝えておくべきであったと後悔している。カオスの封印は解いてはいけないのだ、と彼女は主張。


[技能]
菓子作り
 美味しいお菓子を作れる技能。将来的には良いお嫁さんになれる可能性が高いです。

学習
 効率的に物事を覚えられる才能。乾いた地面に水を撒くかの如く、恐ろしい程のスピードで成長します。

統率
 他人をまとめ上げる事の出来る才能。人の上に立つ器です。
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