ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第42話 長い一日の始まり

 

-オクの町 司令部-

 

「皆の者、リーザスはもう目の前じゃ。恐らく、次が最後の戦。気を引き締めていくのじゃ」

「リーザス城……自分たちの城に攻め込むとはおかしなものですね」

 

 オクの町の司令部では最後の侵攻戦に備え、作戦会議が行われていた。ノースとサウスは位置が離れており、どちらかに司令部を置くともう片方の守りが手薄になる。そこで、少しリーザス城から離れる事になるが、どちらからの侵攻にも対応できるオクの町から司令部は動かさずにいた。また、メリットは守りだけではない。ヘルマン軍からしてみれば、ノース側とサウス側のどちらから解放軍が攻めてくるか判らないのだ。

 

「ゲリラ軍を加え、怪我の治療も進んでいるわ。今の私たちの兵力は8000」

「対するヘルマン軍は、斥候の報告によりますとトーマとミネバの率いる部隊が数百人。それとモンスター部隊じゃ」

「モンスターの数は不明です。強力なものが多数存在すると報告が入っていますが、それでも私たちの方が圧倒的に数では上回っているでしょう」

 

 マリア、バレス、真知子が順に報告していく。数で圧倒的に上回っている現状、モンスターが多少いたところで戦況は変わらないだろう。恐いのは、魔人の存在。報告を聞いたランスが椅子にふんぞり返りながら口を開く。

 

「ふん、楽勝だな」

「ただ、リーザス城は天然の要塞ゆえに、数倍の兵力で攻め込んでも苦戦すると思われます」

 

 サカナクの進言したとおり、今回は城攻め。単純に進軍したら思わぬ痛手を受けるだろう。だが、ランスがそれを一蹴する。

 

「がはは、城の一つや二つ、俺様に掛かったらちょちょいのちょいだ」

「ランス殿の仰るとおり。いくらリーザス城とはいえ、これだけの戦力差であれば問題はないはずじゃ」

「耄碌したな、バレス! その考えは甘いぞ!」

 

 バレスがランスに賛同した瞬間、怒鳴り声を上げながら司令部に一人の老兵が入ってくる。突如やってきた老兵を見ながらランスはレイラに尋ねる。

 

「誰だ? このじじい」

「なっ!? このワシを知らんじゃと! これだから最近の若いもんは……」

「悪いな、俺も知らない」

「ぷっ……」

「ぬぅぅ……ワシはかつて、リーザスにその人ありと恐れられた猛将!」

「なるほど、アルト・ハンブラか」

「違ぁぁぁう!」

 

 ルークの言葉に志津香が吹き出し、目の前の老兵が自分の武勲を語り始める。猛将と言われて真っ先に思い浮かんだのは先代赤の軍将軍。その名前を口にしたルークだが、どうやら違っていたらしく目の前の老兵の怒りは更に増す。先代赤の軍将軍が褒められたのに少し嬉しそうな様子のリックを横目に、目の前の状況を見かねたエクスが老兵の紹介をする。

 

「この方は先代白の軍将軍のペガサス様です。僕の前任者ですね」

「ああ……いたような気がするな、そんな将軍が……」

「ふん、勉強不足も甚だしいわ!」

「ペガサス様、甘いというのは?」

 

 行方不明になる10年前にそんな将軍がいた気がするとルークは記憶を掘り返す。あの時代はどうしてもバレスとアルトの二枚看板が目立っていたため、他の将軍は影が薄かったのだ。メナドの問いかけにペガサスが自信満々に答える。

 

「うむ、お主らはリーザス城の守備を甘く見過ぎじゃ。ノースの付近でゲリラ活動を行っていたワシらは、ヘルマンの奴らが城に敗走していくのを見て今が勝機と城に攻め込んだ。だが、奴らは城壁に多数の兵器を配備しており、ワシらの1000を越えるゲリラ軍は全滅。なんとかワシだけここまで逃げて来たのじゃ」

「お前だって敵を甘く見て攻め込んで全滅したんじゃないか! 自分の事を棚に上げて、何が甘く見過ぎじゃ、だ。このクソジジイが!」

「ぐっ……」

「ふっ……」

「ですが……1000の部隊を圧倒するとは……ノース側にある東の城壁から攻めるのは得策ではありませんね……」

 

 ランスの言葉にペガサスが苦虫を噛みつぶしたような顔をし、エクスが口元を隠しながら笑う。しかし、1000の部隊が全滅したのは事実。リックが驚き漏らした声にペガサスが乗っかる。

 

「その通り! 流石は赤い死神じゃ。ここはサウス側にある表門から攻め込むべきじゃ!」

「このじじいの言葉は信用できるのか?」

「何を言うか! ノース側に置かれていたあの重い防御兵器を配置替えする事は容易ではない。軍を整えてすぐにでも進撃すれば……」

「それは得策ではありません」

 

 ペガサスの言葉を遮るように、また新たな人物が司令部に入ってくる。全員が視線を向けるが、今度はリーザスの者たちも見覚えの無い人物であった。

 

「おっ、美少女! ……んっ、違う。こいつ男じゃないか!」

「案内ありがとうございます、もこもこさん」

「えへへ、お礼に今度一緒に出かけてね」

「お主は?」

 

 司令部まで連れてきてくれた女学生に礼を言う美男子。ランスが一瞬反応するが、男である事が判りがっかりした様子ですぐに椅子に座り直す。その美貌から女性と勘違いしそうになるが、れっきとした男である。バレスの問いかけにその男が答える。

 

「僕はカーチス・アベレンと言います」

「天才学生カーチスね。そういえば、学生たちで組んだゲリラ軍を指揮していたんだったわね」

「そんな……天才なんかじゃありませんよ……」

 

 メルフェイスの言葉に謙遜するカーチス。彼はまだ15歳でありながら、大学院に在籍。現在首席であり、今年卒業予定の人物だ。卒業後の進路に国立大学や魔法軍、果てはゼスからもスカウトが来ている紛れもない天才。

 

「で、そのオカマのかまチスが何のようだ?」

「……好きでこんな顔しているんじゃありません」

「ああ、ランスの言う事は気にしないで話を続けて」

 

 少しだけぶすっとした態度を見せるカーチスにマリアがフォローを入れる。どうやら女顔である事を気にしているようだ。

 

「表門から攻めるという事でしたが、それは難しいと思います」

「どういう事だ?」

「僕はサウス方面でゲリラ活動をしていましたが、ヘルマン軍は表門の方にも城壁沿いに防御兵器を配備。また、デカントなどの巨大モンスターがその周りを囲む完璧な防衛ラインを築き上げていました。無理に突撃しても、表門を開けるのに手間取っている間に兵の消耗を招くのみだと思います」

「それは手厳しいですね……接近戦に持ち込めればまだしも、城壁から石を投げられたり、火を吹かれたりしたら手も足も出ませんしね」

 

 ルークの問いかけにハッキリと答えるカーチス。彼が話した事が本当ならば、ノース側もサウス側も防衛は完璧という事だ。流石は天然の要塞であるリーザス城。ドッヂがどうしたものかと眉をひそめる。と、レイラが何かを思い出したかのようにカーチスに向き直る。

 

「貴方のゲリラ軍は?」

「進軍しても無駄と判断したので無理に攻めず、撤退してきました。200人ほどの少数ですが、是非とも解放軍に参加させていただきたく思います」

「ほう、被害を全く出さないとはな。若いのにやるじゃねぇか!」

「全くだ。1000もの部隊を全滅させたどこかの無能じじいとは天地の差だな」

「ぐぬぬ……」

 

 カーチスの言葉にコルドバが感嘆する。それに乗っかる形でランスがペガサスを挑発し、それに何も言い返せないペガサスは悔しそうに歯噛みをしていた。

 

「しかし、ノースとサウス、どちらからの進軍も厳しいとは……」

「何か手はありませんか、エクス殿」

「どちらか片方に戦力を集中させればあるいは……ですが、被害は相当なものになるでしょうね……」

 

 サカナクが腕を組み、ジブルがリーザスの知将であるエクスに問いかける。エクスの一点突破案は確かに有力候補であるが、トーマ、ミネバ、魔人との戦闘前に相当消耗してしまう事になるのは必至。出来れば避けたい作戦だ。頭を抱える解放軍の面々。

 

「ルークは何かないの?」

「そうだな……城壁を破壊するのが厳しいとすれば、それ以外の方法で城に侵入する方法を考える必要があるな。数名が中に侵入し、表門を開ける。そうすれば全軍が突入できるからな。多少防御兵器でやられたところで、城の中に一度入ってしまえばこちらのものだ」

「では、忍者の私が城に潜入を……」

 

 志津香の問いかけにルークがそう答える。侵入と聞いたかなみが志願するが、ルークはこれを却下する。

 

「いや、流石に一人で行くのは危険だ。夜襲したとしても、表門にはいくらか警護がいるだろうからな。複数人潜入出来ないと意味がない」

「そんな都合の良い方法があるのかしら?」

「リーザス城に、敵に知られていない秘密の侵入口のようなものは?」

 

 ランが困ったような声を漏らす中、マリアが秘密の入り口はないのかとエクスに問いかける。これを受けたエクスは首を横に振る。

 

「存じ上げませんね。リア様やマリス様ならご存じかもしれませんが」

「真知子さん、何か情報は?」

「流石にそこまでの機密は……ごめんなさい、ルークさん」

「がっはっは! 侵入と聞いて、完璧な方法を思いついたぞ!」

 

 マリアの侵入口という言葉でピンと来たのか、司令部にランスの笑い声が響く。あまりランスを好ましく思っていないハウレーンや黒の三副将が疑わしそうな視線をランスに向ける中、バレスが期待した様子でランスに尋ねる。

 

「おお、ランス殿。して、その方法とは?」

「うむ、その名もゴールデンランス作戦! 英雄である俺様に相応しい名前だ」

「センス無いわね……」

「その内容とは?」

 

 ゴクリと息を呑む一同を見回しながら、ランスが自信満々に説明を始める。

 

「まずは敵に、ごめんなさい降伏しますと言って巨大なゴールデンハニーをプレゼントする。GOLDにしても良し、置物にしても良しのプレゼントに敵は歓喜。喜んで城の中にゴールデンハニーを運び込む」

「は、はぁ……」

「ところが、ゴールデンハニーの中にはあらかじめ俺様たちが隠れている。それに気が付かない間抜けな敵を尻目に、夜になったらこっそりと抜け出して表門を開けるという作戦だ。完璧だ……完璧すぎる」

「そんな馬鹿な……」

 

 キンケードが絶句し、他の者も概ね呆れている。胸を張りながらふんぞり返るランスに向かって、マリアが一応忠告を入れる。

 

「ランス。敵の司令官も馬鹿じゃないんだから、そんな作戦に引っかからないと思うけど……」

「それに、ゴールデンハニーは貴重なハニーです。そう簡単に手に入れる事は……」

「いえ、今なら簡単に手に入れる事が可能です」

「真知子さん、もしかしてあの事?」

 

 入手の難しさを説くリックに真知子が言葉を被せる。ランも真知子に向き直りながら何かを思い出したような表情になっており、ルークがランに尋ねる。

 

「何か心当たりが?」

「先日、カスタムの町で巨大なゴールデンハニーの死体が発掘されたんです。大きすぎて運び出せないからリーザス軍に協力して貰おうと思っていたところに今回の戦争が始まって、まだそのままにしてあるの」

「何と! それはきっと俺様に惚れた美人の女神がこれを使えとプレゼントしたものに違いない!」

「どんな女神よ……」

 

 志津香が呆れたようにため息を漏らすが、ランスは既にノリノリの状態だ。

 

「そうなればゴールデンランス作戦で決まりだ! とっととカスタムからゴールデンハニーを運んでこい!」

「早計です! もう少し協議を……」

「ええぃ、やかましい。だったら別案を出してみろ!」

「んっ……」

「そりゃ困っちまうよな。それが出なくて悩んでいたんだしよ」

 

 苦言を呈していたサカナクが押し黙り、コルドバが苦笑いを浮かべながら頭を掻く。ペガサスとカーチスの情報が本当ならば、ノース側からもサウス側からも容易に攻める事は出来ない。

 

「ここにゴールデンハニーが到着するまでもっと良い案が出たらそれでいってやる! 出なかったらゴールデンランス作戦だ、判ったな!」

「ああ、待って下さい、ランス様」

 

 そう言い放ち、解放軍の下っ端連中をゴールデンハニーの回収に向かわせ、シィルと共に司令部を後にするランス。残された解放軍の面々は何とかゴールデンランス作戦だけは避けようと考え、良い案は無いか顔をつきあわせて話し合いを続ける事にした。すると、ルークもランスに続くように席から立ち上がり、司令部を後にしようとする。その背中にバレスが声を掛ける。

 

「ルーク殿、どこへ?」

「傭兵部隊の状況確認と、セルさんとロゼの手伝いに行こうと思ってな」

「話し合いには参加されないので?」

「そうですよ! ぼく、ルークさんの代替作戦も聞きたいです」

 

 エクスが不思議そうにしながら問いかけ、メナドもルークの目をジッと見ながらそう口にする。他にもルークに視線を向けてくる者はいたが、その彼らを見ながらルークは静かに微笑む。

 

「……俺は別に、そう悪いもんじゃないと思っているんだがな、ゴールデンランス作戦」

「えっ?」

 

 そう言い残し、ルークは司令部から出て行く。部屋の面々は驚いた表情を浮かべながらそれを見送った。

 

「それにしても、司令部に勝手に人が入って来すぎだな。見張りは何をしていたんだ?」

 

 出て行く最中、ペガサスやカーチスが次々と入ってきた事に疑問を覚えたルークが司令部前で見張り番をしている女性の顔を見る。見事なまでの熟睡。その顔にルークは見覚えがあった。

 

「リーザスの牢番か。相変わらず仕事してないな、この娘は……」

「むにゃむにゃ……はんばーがー……」

 

 眠っていたのは、かつてルークたちがリーザスに潜入したときに牢番をしていた女性。リアにクビにされたと思っていたが、なんだかんだでまだリーザスで働いていたらしい。これはクビにした方がいいんじゃないかと思いつつ、ルークはこの場を後にした。

 

 

 

-オクの町 教会-

 

「よっ、何か手伝える事はあるかな?」

「ルークさん! お忙しい中、わざわざ来てくれたんですか?」

「仕事なんていくらでもあるわよ。何せ、怪我人がボウフラのように沸いてくるんだから」

「相変わらずだな、ロゼ」

 

 傭兵部隊の詰め所に先に向かったルークだが、既にセシル、ルイス、アリオスの三人によってしっかりと被害状況やリーザス城侵攻の際の話し合いなどは済んでおり、ルークがあえて口出し出来るような事は特になかった。そのため、怪我人の治療室として開かれている教会にこうしてやってきたのだ。

 

「大変そうだな」

「リーザスはヒーラー少なすぎ。まあ、まともな魔法使いはゼスに取られちゃうんでしょうから仕方ないけどね」

「手伝おう。何をすればいい?」

 

 セルとロゼが怪我人の世話をしており、かなり急がしそうな状況だ。人手の少なさにロゼが文句を口にする。サウスでみすみす被害を出してしまったルークは多少責任を感じており、こうして手伝いに来たのだ。

 

「とりあえずこの薬とこの薬を混ぜて、治療薬を片っ端から作っていって」

「ロゼさん、薬の調合は資格を持っていない方には禁止されて……」

「こんな簡単な調合を間違えたりしないって。セル、頭固すぎー」

「了解。とりあえず薬を作っていくよ」

 

 ロゼから指示を受け、ルークが手伝いを始める。セルは納得のいっていない様子だったが、怪我人の多さからすぐ教会内を奔走し始める。数時間後、ようやく一段落してきた頃にロゼがある事に気が付き、ルークに尋ねてくる。

 

「ね、なんか変な感じがするんだけど? 悪魔とか魔女とか、それに連なるアイテムの類を何か持ってない?」

「ん? 別に持っていないが?」

「何か感じますか? 私は特別何も感じないのですが……」

「普段から悪魔とH三昧だから敏感になっちゃって。ねえ、道具袋開けて良い?」

「なっ!? ロゼさん! 貴方にもランスさん同様、神の教えを……」

「別に見ても構わないぞ」

 

 セルがロゼに説教を始めるが、全く気にした様子もなくルークの道具袋を漁り始めるロゼ。すぐに何かを見つけたようで、道具袋から光る何かを取りだし、ルークにそれを見せてくる。

 

「あった、これだ。ねえ、この鏡はどこで手に入れたの?」

「ああ、それは烈火鉱山で拾ったものだ。見た事ないアイテムで気になったんでな」

「普通気になったからって落ちていた鏡なんか拾わないでしょうに」

「まあ、冒険者の性だな」

 

 ロゼが手にしていたのはルークが烈火鉱山で拾った鏡の破片。中に女性の絵が中途半端に描かれているものだ。セルもその鏡を覗き込む。

 

「……確かに、若干ですが禍々しい気を感じますね。よく気が付きましたね、ロゼさん」

「悪魔とのHも無駄じゃないのよ。セルも一緒にどう?」

「絶対にしません!」

 

 真面目なセルが乗るわけはない誘いをしつつ、ロゼが鏡を持ったままルークに向き直る。

 

「ねえ、この鏡なんだけど、少し預かっても良い? ちょっと調べてみるわ」

「別に構わないぞ。調査してくれるならむしろ大歓迎だ。頼んだ」

「頼まれましたー。期待しないで待っててねー」

 

 ロゼが鏡を見ながらあっけらかんと答える。件の鏡はロゼの手の中で妖しい光を放っていた。

 

 

 

二日後

-オクの町 司令部-

 

「それでは、ゴールデンランス作戦で決まりという事で……」

「がはは、当然の結果だな!」

 

 結局、ゴールデンハニーが届くまでの間ひたすら話し合ったが良い作戦は思い浮かばず、ゴールデンランス作戦が決行される事になったのだった。回収してきたゴールデンハニーの中をマリアと香澄が徹夜で改造した甲斐あり、ゴールデンハニーの中には七人が入れる隠しスペースが出来上がっていた。

 

「それじゃあ、使者と一緒にゴールデンハニーを送るんだ。使者は司令官にこう伝えろ。強いヘルマン軍様、逆らってごめんなさい。お詫びの印をプレゼントしますのでどうか仲直りしてください、とな」

「(本当にこんな作戦が成功するのか……?)」

「それでは、その役目は自分が承りました」

「なっ、馬鹿者! 何故お主が行く!」

「リック将軍、危険ですよ!」

「だからこそです」

 

 キンケードが怪訝そうな表情を浮かべているのを横目に、危険の伴う使者にリックが自ら志願する。すぐさまペガサスとメナドがそれを止めるが、ある程度地位の高いものが使者に行けばそれだけ降伏の信憑性も増すというもの。そう考えたリックは自ら志願したのだ。

 

「うむ、失敗するなよ」

「任せて下さい」

「それでランス様。ゴールデンハニーの中には一体どなたが入るのですか?」

 

 シィルがそう質問した瞬間、部屋に緊張が走る。ある者は自分を指名してくれないかと願い、またある者は絶対に指名してくれるなよと願っていた。その者たちを眺め回し、ランスはゴールデンハニーの中に入ってリーザス城に進入するメンバーを指名する。

 

「まずは俺様、当然だな。それとシィル、かなみ、志津香、ミリ、レイラさん。それと……」

「(判りやすい選考基準ですね……)」

「(ふふ、ランスさんらしい)」

 

 見事なまでにハーレムメンバーが形成されていく。エクスが内心ため息をつき、真知子が静かに微笑んでいる。だが、最後の一人にランスは男を指名する。

 

「ルーク、お前も来い」

「……せっかくのご指名だ。張り切らせて貰うかね」

「ふん、せいぜい俺様の代わりに働けよ」

 

 こうして、リーザス城に進入するメンバーが決まる。ゴールデンハニーに隠れるためランスが司令部を出て行き、ルークたちもそれに続く。そのルークに、かなみが不安そうに話し掛けてくる。

 

「でも、本当に大丈夫なんでしょうか……? ハニーから出たら、いきなり敵に囲まれていたりとか……」

「そうだな……もしそうなったら……」

 

 不安そうにしているかなみに振り返り、少し笑いながらルークが答える。

 

「俺が命がけで守るさ」

 

 そう言って司令部を後にするルークの背中をかなみが真っ赤な顔で見送る。後ろから、こちらも顔を少しだけ赤らめている真知子がかなみに話し掛けてくる。

 

「今の顔は反則ね……」

「はい……」

「(しまった、見逃した……)」

 

 その心の声は一体誰のものだったか定かではないが、マリアは志津香が悔しそうにしているのを見て不思議そうにしていた。

 

 

 

-リーザス城 ヘルマン軍司令部-

 

「パットン皇子、リーザス解放軍の使者がやってきました」

「なに、解放軍の奴らが!? 一体何の用だ!」

「停戦降伏の申し出だそうです」

「何だと!?」

 

 突然の使者に驚くパットンだったが、降伏に来たという話を聞くとすぐに勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「ふふ、ははは! そうか、遂に私の力に屈服したか! いいだろう、通せ!」

「はっ!」

 

 パットンがそう命じると伝令兵はすぐに駆けていき、しばらくして部屋の中にリックが入ってきた。その姿を見たパットンは歓喜の声を漏らす。

 

「使者は赤い死神か!? これは信憑性が出てきたな」

「……我ら解放軍の意志をお伝えします。勇猛なるヘルマン軍に戦いを挑んできましたが、それは我々の過ちでした。ここで許しが得られるのでしたら、停戦並びに降伏をさせていただきたいと思います」

「はは……ははは! そうか、私に降伏すると!? やっと自分たちの無謀な行いに気が付いたか!」

 

 玉座に座りながらパットンが大笑いする。まわりにいる護衛兵もざわついているが、その顔は一様に嬉しそうであった。これで戦争が終わる。皆そう考えていたのだ。

 

「よし、いいだろう。降伏を許そう!」

「ありがたきお言葉。私は一旦司令部に戻り、降伏の準備を進めてきます。それと、お詫びの印として我が軍の宝であるゴールデンハニーの死骸をお納めしていただきたいと思い、用意してあります」

「それは素晴らしい! ははは、愉快だ!」

「では自分はこれで……」

「ご苦労、早く降伏の準備を整えておけ」

 

 リックが一礼の後、部屋を後にする。それを見送ったパットンは上機嫌に笑いながら椅子に深く座り直し、周りの護衛兵が次々と拍手してくる。

 

「おめでとうございます、パットン皇子!」

「ははは、終わった! これで私の勝利だ!!」

「ちょっと待て、パットン」

 

 すると、それまでパットンの面子を立てて口出ししていなかったハンティが真剣な表情で口を開く。その様子をパットンの後ろに控えながら黙って見ているノス。

 

「どう考えても怪しいぞ。別に奴等は追い詰められていないし、ここまで来ての降伏はおかし過ぎる」

「…………」

「所詮、反乱軍などこの程度だ。私の敵ではない。ははは! これで、これで皇帝は俺だ!」

「パットン……」

 

 ハンティの助言に耳を貸さず、歓喜に震えるパットン。彼は焦っていたのだろう。届かぬ援軍、見捨てられた自分たち、そして、皇帝の座を奪われる事に。だからこそ、信じてしまった。いや、信じたかったのだろう、自分の勝利を。だがこれが、この戦争における最大の悪手となる。

 

 

 

-リーザス城 ミネバ隊詰め所-

 

「降伏だって?」

「はい。ゴールデンハニーの死骸を献上し、停戦降伏を申し込んできたようです」

 

 部下の報告を聞いたミネバは眉をひそめる。明日、明後日中には解放軍が攻めてくると考え、戦闘の準備を進めていたところであった。顎に手を当て、ミネバが不敵に笑う。

 

「……ゴールデンハニーか、なるほどねぇ。無謀だが、面白い作戦だ」

「作戦……? 何の話で?」

「それで、パットン皇子はどうする気だい」

「申し出を受けるそうです。既に城の中にゴールデンハニーが運び込まれており、我々の部隊から数名程その警護に向かえとの事です」

「受ける!? 受けるのかい!?」

 

 部下からその報告を受け、ミネバが爆笑する。何事かと困惑している部下と、ミネバの後ろに無表情で控えているタミを気にせず、ミネバは笑い続けた。

 

「あっはっは、馬鹿もここに極まれりだ! 警護だが、誰も行く必要はない」

「はい?」

「無駄だって言ってるんだよ。今更パットンに恩を売ったところで、何の意味もない」

「恩を売る……?」

「気が付いてないなら、お前も無能って事さ。こうなってくると、先の戦で被害を受けたのが効いてくるねぇ……」

 

 ミネバの言うように、先の戦で傷ついたミネバ隊は城の後方に回されていた。前衛は城の兵力を寄せ集めたトーマ隊とモンスター部隊が守り、ミネバ隊は状況を見て動く遊撃部隊に命じられていたのだ。

 

「くくく、当然状況は見て動くさ。それがどんな行動でも、文句は言わせないよ……」

「…………」

 

 

 

深夜

-リーザス城 中庭-

 

「ところで、レイラさんは何でこの数日落ち込んでいるんだ?」

「ランス様、お酒の件です……」

「うぅ……もう、しばらくお酒は飲まないわ……」

「やったな、志津香! 仲間が増えたぞ!」

「……馬鹿にしているのかしら、ルーク」

 

 ゴールデンハニーの中に隠れながら小声で話し合うルークたち。無謀とも思われたこの作戦だが、特に疑われる事もなく中庭まで運び込まれ、あれよあれよという間に進入は成功していた。後はタイミングを見計らって抜け出すだけ。話し合って時間を潰しながら深夜まで待ち、頃合いとばかりにゴールデンハニーの中からルークたちが抜け出す。周りにはヘルマン兵の姿は一人も見えない。

 

「まさか、誰も警護に来ていないのか……?」

「私たちの思っていた以上に、司令官は無能だったみたいね」

「がはは、当然だ! 俺様の考えた作戦だからな!」

 

 流石にいくらかの警護がいるだろうと考えていたルークたちは肩透かしを食らう。ランスは当然とばかりにふんぞり返っている。そんな一同を見ながらミリが剣を抜く。

 

「さぁ、夜明けになる前にさっさと行動しようぜ。時間は限られているんだからな」

「そうだな、では二手に分かれるか。表門を開けて主力部隊を城に誘導する部隊と、リアたちを救出してカオスを手に入れる部隊だ」

「どちらも危険なのは一緒だけど、表門開放の方が敵に会う可能性は高いわね」

 

 レイラがそう口にしながら周囲の様子を伺っている。本当に警備はいないのか気を配っているのだ。同様に周囲に気を配りながら、ルークが口を開く。

 

「カオスの鍵である聖装備を持つランスと、城の抜け道を知るかなみは救出部隊だな。となると、戦力的に俺とランスは分かれた方が良いから、俺は表門の方だな」

「えぇっ!? そんな……」

 

 ルークの言葉にかなみが明らかにショックを受ける。その言葉を受けて、ランスが言葉を続ける。

 

「では表門はルーク、志津香、ミリ、レイラさんが向かえ。俺様とシィル、かなみはリア救出に向かう」

「まあ、順当だな。それじゃあ、行くとするか」

 

 ルークの言葉に全員が気合いを入れる。決戦を前に、互いに声を掛け合う一同。

 

「皆様、お気をつけて……」

「シィルちゃんも気をつけてね」

「腕がなるねぇ……」

「ルークさん、リア様は必ず救出してきます」

「頼んだぞ。城の中での行動はかなみだけが頼りなんだ」

「しくじるんじゃないわよ、ランス」

「それは俺様のセリフだ、馬鹿者!」

 

 シィル、レイラ、ミリ、かなみ、ルーク、志津香、ランスと順々に言葉を交わしていく。そして最後に、ルークとランス向かい合う。

 

「俺様の女たちに傷一つ付けるんじゃないぞ」

「当然だ。その為に俺がここにいる。シィルちゃんとかなみを頼んだぞ」

 

 それだけ言い合い、互いに背を向けて駆け出す。ルークたちは表門へ、ランスたちは地下牢への抜け道がある彫像を目指して駆けていく。リーザス解放戦の最終決戦は、こうして夜明けを前にして始まった。そしてこの日は、ルークが今まで生きてきた中で最も長く感じる一日となる。トーマ、ミネバ、ノス、アイゼル、サテラ、シーザー、残る敵は強敵ばかり。だが、この面々をも上回る強敵が復活を遂げようとしている事に、まだ解放軍は気が付いていなかった。

 

 

 

-リーザス城 王妃の間-

 

「馬鹿な……」

 

 王妃の部屋ではアイゼルが絶句していた。ノスの忠告を無視して王妃の部屋を漁っていたアイゼルは、遂にある書物にまで至ったのだ。それは、王妃がつけていた日記だ。若い頃から律儀につけられ保管されていたそれを発見したアイゼルは、娘がもう少ししてから伝えるつもりだったという彼女の言葉を思い出し、カルピスが王妃となった頃の日記を探していたのだ。アイゼルの予想通り、彼女が正式に王妃となった日の日記にカオスの封印の詳細を両親から聞いたと書かれていた。それに目を通したアイゼルの胸に宿るのは、確かな絶望感。

 

「ジルだと……ノスめ、これが目的か!」

 

 ノスの目的に遂に至ったアイゼルは慌てて部屋を飛び出し、地下牢へと駆けていく。絶対にカオスの封印を解かれてはいけない。となれば、聖装備を見つける前にカオスを破壊してしまおうと考えたのだ。彼は知らない。その聖装備を持った人間が着実に近づいている事を。

 

 

 

-リーザス城近辺 森の中-

 

 ルークたちが表門を開けるのを待機して待つ解放軍。その解放軍には、セルとロゼも治療班として参加していた。心配そうに城の方を見ているセルにロゼが近寄ってくる。珍しい事に、その表情が真剣味を帯びている。

 

「セル、まずい事になったわ」

「どうしました、ロゼさん」

「ミリの奴、薬を忘れていったわ……」

「えっ!?」

 

 暗雲は解放軍、ヘルマン軍、その双方の至る所から立ち込めていた。

 

 




[人物]
ペガサス・フォート
LV 17/30
技能 剣戦闘LV1
 元リーザス白の軍将軍。本人はまだまだエクスに譲る気はなかったが、若干老害となり始めていたため王に命じられて半ば無理矢理隠居させられる。リーザスの危機に黙っていられずゲリラ軍を率いて立ち上がるが、無茶な特攻に部隊は全滅。自分だけ何とか生き延び、解放軍に合流した。

カーチス・アベレン
LV 10/19
技能 魔法LV1 神魔法LV1
 リーザスの天才学生。女顔だがれっきとした男性。本来は戦闘を好んでおらず、将来は研究職に就こうと思っているのだが、リーザスの危機は見過ごせずゲリラ軍に参加。その戦闘力と先見の目から、いつしかゲリラ軍は彼の言う事に従って動くようにまでなっていた。

竹中もこもこ
LV 1/6
技能 なし
 サウスの町に住む女学生。カーチスを司令部のあるオクの町まで案内した。

リーザス城牢番 (3)
 なんだかんだでクビは免れていた牢番。洗脳が解け、解放軍に参加。相変わらず仕事はしていない。


[都市]
ノースの町
 リーザス西に位置する町。町の側に砦を持つなど、高い防衛力を誇る。

サウスの町
 リーザス南に位置する町。高い丘の上に位置する町で、経済力、防衛力共に優秀。

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