ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第43話 離反

 

-リーザス城 表門 内側-

 

 夜明け前のリーザス城表門。この場所には数名のヘルマン兵が配備されていた。解放軍の夜襲に備えての対処だ。その中の一人、新入りのヘルマン兵が心配そうに同僚に尋ねる。

 

「なあ、門の警護は俺らだけで大丈夫なのか?」

「解放軍は降伏したんだから何の心配もないだろ? 今は明日の勝利記念パーティーの為に人員を割いているんだからしょうがないさ」

 

 新入りの言うように、夜襲に備えての警備にしてはあまりにも人数が少なく、不安に思うのも無理は無い。だが、その不安を他の警護兵が笑い飛ばす。

 

「心配するな。もし解放軍が攻めてきたとしても、門を開けられる前に応援が駆けつける。このリーザスの門が皮肉にもヘルマンの俺らを守ってくれているって訳だ」

「いきなり城の中から攻められでもしない限り、大丈夫さ」

「そんなまさか」

「悪いな。そのまさかなんだ」

 

 有り得ない事を言うなと笑い飛ばしていたその瞬間、背後から聞き覚えのない声が響く。誰が発言したのかと首を傾けながら後ろを振り返った瞬間、ヘルマン兵の意識が途絶える。後ろに立っていた男、ルークに斬り伏せられたのだ。それを見た周りのヘルマン兵がざわつく。有り得ないはずの城の中からの奇襲。それがこうして実行されたのだ。慌てて武器を取ろうとするが、そのヘルマン兵に左右から剣が振るわれる。

 

「はぁっ!」

「遅いんだよ!」

 

 レイラとミリがヘルマン兵を斬り、その体が崩れ落ちる。最後に残った一人が後ろに下がりながら、目の前に立つ四人の解放軍を見る。

 

「馬鹿な……なんで、どうして……」

「志津香!」

「任せて! ファイヤーレーザー!」

 

 志津香の放った魔法は表門に向かって一直線に飛んでいく。門の周りに数体いたモンスターを全て吹き飛ばし、門へと直撃する。流石に城の表門だけあり、少し焦げただけで壊れたりはしていない。だが、これで門の周りから敵がいなくなった。それを確認したミリとレイラが門に駆け寄り、左右の門を二人で押す。徐々に開け放たれていく表門と、迫ってくるルークを見ながら最後に残っていたヘルマン兵が絶叫する。

 

「て、て、敵襲だぁぁぁぁ!!」

 

 その声は城に響き渡り、リーザス城に敵の侵入を知らせる鐘の音が鳴り始める。だが、それにいち早く反応したのはヘルマン軍ではない。

 

 

 

-リーザス城近辺 森中-

 

「開いたぞ! 突撃じゃぁぁぁ!」

「ルーク殿たちの活躍、無駄にするんじゃねぇぞ!」

 

 警鐘と門が開かれるのを確認した解放軍は潜んでいた森から抜け出し、一気に城へと雪崩れ込んでいく。ランが後方に待機している部隊にも狼煙を上げて合図し、それを受けた後方部隊も一斉に動く。リーザス城に解放軍の全戦力が集結する。城の内部に攻め込む者、外で巨人属モンスターと相対する者、防御兵器を破壊する者とその役回りは様々。想定外の襲撃にヘルマン軍の指揮系統は一気に混乱し、次々に兵やモンスターが倒れていく。そして、解放軍の奇襲はすぐにトーマの耳にも届いた。

 

「奇襲だと!? 馬鹿な!」

「どうやら敵はゴールデンハニーの中に潜んでいたようです!」

「くっ……ミネバ隊に警護を任せていたはずじゃが、やられたのか!?」

「判りません!」

 

 その報告にトーマが驚愕する。ミネバ隊にゴールデンハニーの警護を命じたのはトーマであった。流石にあれだけ怪しい代物を放っておくトーマではない。だが、まさかミネバ隊が警護を放棄する事までは予測出来なかった。

 

「現在、指揮系統は完全に混乱しています」

「ええぃ、ワシも出る! まだ表門を破られただけじゃ。敷地内には入られたが、建物の中には入られていない。パットン皇子の為、何としても城内部への侵入は死守するのだ!」

「はっ!」

 

 トーマ隊も大急ぎで戦場に出る。トーマを中心とした側近たちが城の入り口を固め、建物の中への侵入は断固として死守する。他の隊員は敷地内の至る所に散らばり、侵入してきた解放軍に立ち向かう。ヘルマン軍と解放軍の戦いがリーザス城内の至る所で起こっていた。先に潜入していたルークたちも後発の部隊に合流し、ヘルマン軍と戦闘を始める。

 

「真空斬!」

「うわぁぁぁっ!」

 

 剣戟が乱れ飛ぶ中、ルークは城の内部に潜入したランスたちの事を考える。リア王女の救出とカオスの奪還、どちらも勝利には必要不可欠だ。成功を祈りながら目の前の敵を次々と斬り伏せていると、こちらにロゼとセルが駆けてくるのが見える。

 

「ロゼ、セルさん、どうしてここに? ここは最前線だ、もう少し後方に……」

「ねえ、ミリはどこ!? 一緒じゃないの!?」

「いや、部隊と合流後すぐに別れたが……どうかしたのか?」

「それは……」

 

 いつもとは違う、少しだけ真剣味を帯びた表情でロゼが問いかけてくる。その雰囲気に何かを感じ取ったルークが何事かと返すが、セルは言いにくそうな表情を浮かべている。

 

「セル、この際だからルークには話しておきましょう」

「……判りました。ルークさん、お願いがあります。実はミリさんは……」

 

 

 

-リーザス城 地下牢-

 

 地下牢に捕らわれているマリスは異変に気が付いていた。どうにも上が騒がしい。何かあったのだろうか。そのとき、この牢に近づいてくる足音が聞こえる。また拷問係がやってきたのだろうかとマリスが顔を上げると、そこに立っていたのは見覚えのある三人組であった。

 

「マリス様、ご無事ですか!? 今拘束を解きます!」

「かなみ……それに、ランス様も。来て下さったのですね……」

「当然だ、俺様は英雄だからな。美女の頼みはなるべく聞くようにしているのだ!」

「貴方様の勇気に感謝します……」

 

 ルークたちと別れた後、ランスたちは彫像の下に隠されていた通路を使って城の中に潜入。通風口を通って地下牢までやってきたのだ。かなみの手によって拘束を解かれ、自由の身となるマリス。一瞬安堵の表情を浮かべるが、すぐに表情を引き締める。

 

「リア王女はすぐ側の拷問室にいらっしゃいます。急いで救出へ……」

「ランス様、行きましょう」

「うむ!」

 

 マリスに連れられ地下牢の先へと進んでいき、すぐに拷問室まで辿り着くランスたち。そこでは、壁に拘束された状態で拷問官サヤの鞭を受けているリアの姿があった。サヤがすぐにランスたちに気が付く。

 

「何者だ! ……マリス!? お前らが解放したのか!?」

「きゃー、ダーリン!」

「がはは、愛と正義の大英雄、ランス様参上!」

「その助手、シィル!」

「こら、お前は奴隷だろうが!」

「リア様、助けに来ました!」

「リア様、もうご安心下さい」

 

 ランスたちの登場にリアが歓喜の声を上げ、サヤが戸惑う。ランスはババンとポーズを取り、シィルもそれに続くが調子に乗るなとランスから折檻を受けている。

 

「警備兵は何をやっている、どうしてこんな奴らが……」

「さあ、リアを返して貰おうか! 抵抗するなら、イヤっていうほど犯してやるぞ!」

「そうだ、そうだ! ダーリンやっちゃえ!」

「ちっ、こうなれば……」

 

 サヤが拷問用の鞭を構えてランスに対峙する。ニヤリと笑うランス。

 

「ほう、やる気か?」

「サヤの鞭は痛いわよ!」

 

 鞭で風を切りながら、サヤが自信満々に言い放った。

 

 

 

-リーザス城内 中庭-

 

「火爆破!」

「白冷激だおー!」

「へへ……派手にやっているみたいだねぇ……」

 

 リーザス城中庭、モンスター部隊に魔法を放っている志津香やアスカの声を少し遠くに聞きながら、ミリはサイクロナイト三体と対峙していた。モンスターとしては強い部類に入る相手に、奥まった場所で若干孤立してしまっていたミリは三体からの攻撃を一人で受け続けていた。全身のあちこちに生傷が目立つ。既にかなりのダメージを受けているが、ギリギリここまで持ち堪えていた。

 

「流石に分が悪いな……誰か、加勢に……ごほっ……」

 

 流石に厳しいと悟ったミリが助けを呼ぼうとするが、咳き込んでしまい大声を出せない。その隙を突き、サイクロナイトが肩から突進してくる。

 

「ぐあっ!?」

 

 咳き込んでいたミリは無防備な状態でその一撃を受けてしまい、勢いよく吹き飛ばされる。

 

「くっ……ごほっ……ごほっ……ちきしょう……」

 

 地面に倒れ込み、尚も咳き込みながらサイクロナイトを睨み付けるミリ。その様子を見ながら先頭のサイクロナイトがゆっくりとこちらに歩み寄り、ミリの目の前で剣を高々と振り上げる。アリスソードを握る手に力が入らない。ミリが歯噛みをしながら呟く。

 

「ふざけるな……俺はまだ……死ぬ訳には……」

 

 ブォン、と風を切る音が聞こえ、剣がミリに振るわれた。だが、その剣先がミリに届くより早く、サイクロナイトの右腕が斬り落とされた。

 

「!?」

 

 驚いた様子で斬り落とされた右手側の方向に視線を向けるサイクロナイトだったが、直後今度は体が一刀両断される。ミリは見る。立っていたのは解放軍の中で、ミリが最も頼りにしている男、ルーク。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 向かってくる二体のサイクロナイトを一瞬の内に斬り伏せる。自分が苦戦していた相手をこうも簡単に倒された事にため息をつきながら、ミリはルークに礼を言う。

 

「すまないね。でも、もうちょっと苦戦してくれないと俺の立場がないんだがな……」

「ミリ……」

 

 軽口で礼を言ったミリだが、ルークが真剣な表情でこちらを見ているのに気が付く。そして、そのルークがゆっくりと口を開いた。

 

「いつからだ……いつから病気だった? やはり烈火鉱山の時の違和感は本物だったんだな?」

「!?」

 

 ルークの発言にミリは目を見開くが、直後に後ろからセルとロゼが駆けてくるのが見えて全てを察し、セルとロゼに向かって文句を口にする。

 

「黙っていてくれって言っておいただろう……ごほっ……」

「殺されかけておいて馬鹿言ってんじゃないわよ」

「ミリさん、薬です」

 

 ロゼがミリを見下ろしながら言い放ち、セルが急いで薬を渡す。その薬を右手で受け取り、小瓶の中から錠剤を出して飲み込む。そのミリにルークは更に問いかける。

 

「何故言ってくれなかった。知っていれば最前線には……」

「それじゃあ困るんだよ……」

「……困る?」

「戦いたがりの俺が最前線にいないってのは、誰が見たっておかしいだろ。そんなことしたら、ミルに感づかれちまう……」

「ミリさん……」

「…………」

「妹にだけは……心配掛けたくないんだよ……」

 

 ミリが声を絞り出す。それは、ミリの心からの願いであった。妹の前では強い姉でいなければならない。だからこそ、無理を押して最前線に立ち続けたのだ。そのミリの気持ちが、ルークには痛いほど判ってしまう。

 

「だが、病気は大丈夫なのか?」

「自分の体だから判るさ。今すぐ命がどうこうっていうものじゃない……」

「ロゼ、セルさん。ミリの病気は何なんだ?」

 

 ルークのその問いかけにセルが首を横に振り、ロゼもお手上げとばかりに両手を挙げる。

 

「判らないんです。病院でも見て貰いましたが、未知の病なんです。今飲んだ薬も、いくつか試して若干効果があったものを飲み続けて貰っているだけなんです」

「でも、すぐに命に別状はないってのは本当よ。数年後は判らないけどね。確実に体は蝕まれているわ」

「…………」

「ルーク、頼みがある。この事は胸に仕舞っておいちゃくれないか? 妹に心配掛けたくない気持ち、あんたなら判ってくれるだろ……?」

「お姉ちゃーん!」

 

 ミリがルークに懇願するのとほぼ同時に、魔法部隊が戦っていた方角からミルがこちらに駆けてくる。魔法部隊の戦いが一段落し、ミリの姿が見えたため近寄ってきたのだろう。だが、ミリは気まずそうな表情で近寄ってきたミルを見ている。倒れているミリを不思議そうに見ているミルだが、ふとその目にミリが手に持っていた小瓶が飛び込んでくる。

 

「お姉ちゃん、大丈夫? 何で倒れているの? それに、その瓶は……」

「いや、これは……」

「ミル……」

「ん? ルーク、どうかした?」

 

 言いあぐねるミリだったが、そのときルークが真剣な表情でミルに言葉を掛ける。ミルも何事かとルークの方に視線を向けると、ルークはゆっくりと口を開いた。

 

「お前……解放軍に参加していたのか……?」

「ひどっ! 何言っているの、カスタムからずっといたじゃない!」

「なん……だと……」

「何でそこまで驚くのよ! 確かにルークたちとはすれ違い気味だったけど、ラジールでもレッドでもテラナ高原でもあんなに頑張っていたのに! テラナ高原での幻獣さんの大活躍、見てなかったの!?」

「すまん、全く記憶にない」

「る、ルークの中年! おじさん!」

 

 ミルがぷんすかと怒り、ルークが頭を掻く。場の空気は一変し、ミルはすっかり抱いていた疑問を忘れてしまったようだ。ミリがスッと立ち上がり、ミルの頭に手を乗せながら口を開く。

 

「俺はちゃんと見ていたからな、ミルの大活躍」

「えへへ、お姉ちゃん大好きー」

 

 ミリにギュッと抱きつくミル。ミリがその頭を愛おしげに撫でていると、魔法部隊の方からミルを呼ぶ声が響いてくる。この声は志津香の声だ。

 

「ほら、志津香たちが呼んでるぞ。部隊に戻っておけ」

「あ、うん。じゃあまた後でね。お姉ちゃんたちも気をつけて」

 

 そう言い残して部隊の方に戻っていくミルの背中を見送りながら、ミリがルークに向かって呟く。

 

「ありがとな、黙っていてくれて。それにしても煙に巻くのが上手いねぇ……それで何人の女を泣かしてきたんだか……」

「礼を言うなら礼だけにしろ、全く……」

「悪い、悪い。とにかく、俺の事は放っておいてくれ。治療法は自分でなんとかしてみせるさ……」

「放っておく気はないぞ」

 

 その言葉にミリがルークの顔を見る。

 

「俺も全力で治療法は探してみせる。お前を死なせはしない」

「お節介だねぇ……」

「性分でな。とりあえず、無理はするなよ。ロゼ、前科持ちを見張っておいてくれ」

「りょーかい」

 

 この場にロゼを残し、ルークがセルを連れて戦場に戻っていく。目指すのは最前線である城の入り口前。その背中を見送り、ロゼにヒーリングを受けながらミリが小さく呟く。

 

「本当にいい男だねぇ……志津香たちが惚れた理由も判るってもんだよ」

「ほらほら、志津香が聞いたら後が恐い事言ってないで、今は治療に専念しなさい。それと、今の発言をバラされたくなかったら、後で口止め料ね」

「げっ……」

 

 

 

-リーザス城 地下牢-

 

「うぅ……強い……」

「がはは、相手にならん!」

 

 威勢よく戦いを挑んできたサヤだったが、ランスに一撃で叩きのめされていた。どこからあの自信が沸いてきていたのか、はなはだ疑問である。床に倒れ伏しているサヤにランスがじりじりと近づいていく。

 

「がはは、ではお仕置きを……」

「待って、ダーリン。この女はリアに任せて! 拷問の恨み、たっぷりとお返ししてやるんだから!」

「なんだ? 俺様はこれからお楽しみを……」

「それなら後でリアがたっぷりしてあげるから。ねっ、お願いダーリン」

「ちっ、しょうがないな。今回だけだぞ」

「やったー! ダーリン大好き!」

 

 リアがランスに抱きつき、シィルがその光景を悲しそうな表情で見ている。ランスから離れたリアは怯えるサヤに冷たい視線を送りながら、サヤが持っていた鞭を手に取り床に振るう。風を切る音がサヤのものとは明らかに違う。一国の王女がどうしてこれ程鞭の扱いに手慣れているのかと普通なら疑問に思うところだが、この場にいる者はサヤ以外全員その理由を知っているのであえて口にはしない。

 

「さて、一国の王女を虐めてくれたお礼をたっぷりとしてあげなきゃね。二度とオイタの出来ない体にしてあげるわ」

「ひっ……」

「ただの拷問好きと、本物の違いを教えてあげるわ……くす……」

 

 かつて何人もの少女を拷問死させたリアの本領発揮であった。地下牢に悲鳴が響き渡り、それから十数分後、ランスたちはカオスの封印されている間を目指して地下牢を後にする。

 

「馬鹿者、時間を掛けすぎだ!」

「ごめんなさい、ダーリン。悪い子のリアを後でたっぷり叱って」

「さあ、封印の間へ急ぎましょう」

 

 ランスたちが牢から立ち去ってから更に数分後、丁度ランスたちとは入れ違いになる形でアイゼルが牢へとやってくる。カオスの秘密を知るリア王女とマリスの身柄を確保し、解放軍の手に渡らないようにするためだ。だが、そこにリアたちの姿はない。部屋に残されていたのは悦楽の表情で痙攣するサヤだけであった。

 

「まずいな……このままでは……」

 

 すぐに引き返し、アイゼルもカオスの封印されている間を目指す。何としてもカオスの封印を解かせる訳にはいかない。恐れているのはカオスそのものでなく、それが封じているモノ。

 

 

 

-リーザス城 入り口前-

 

「ぬぉぉぉぉぉっ!!」

「ぐあっ!」

「何という力……これがトーマ・リプトン……」

 

 リーザス城の建物の入り口の前でトーマが鉄球を振り回し、押し寄せるリーザス兵を次々と打ち倒していった。とはいえ周りに控えるトーマの部下は既に二十人を切っており、トーマ自身も全身に傷を受けている。トーマの部隊は既にボロボロの状態であった。そのトーマたちの周りを囲むのは黒の軍と赤の軍、一部の傭兵部隊と魔法部隊だ。

 

「ふんっ!!」

「くっ、属性パンチ・炎!! 大丈夫ですか、サカナク殿!」

「ほう、見事!」

 

 数では圧倒的に勝っている余裕からか、勇猛果敢に正面からかかっていったサカナクだったが、あえなく鉄球に吹き飛ばされる。意識が朦朧とする中で追撃を受けそうになっていたが、その間にアレキサンダーが割って入り、向かってきていた鉄球を拳で弾く。その姿にトーマが感嘆していると、周囲を囲んでいる黒の軍の先頭に立っているバレスが叫んでくる。

 

「トーマ、いい加減諦めろ! お主の……いや、儂らの時代はもう終わったんじゃ!」

「そんな事は百も承知! これからは若い者の時代じゃ! だからこそ、ここでパットン皇子をやらせる訳にはいかんのだ!!」

「炎の矢!」

「ふんっ!」

 

 バレスの忠告に頷きながらも、トーマが攻撃の手を緩めることはない。後方から志津香が炎の矢を放つが、その矢を左手で受け止めて握り潰す。

 

「ああも涼しい顔をされると、こっちのプライドが傷つくわね……」

 

 志津香が呆れたように呟く。先程火爆破の直撃を食らったときも、トーマはああして何事もなかったかのように立っていた。恐るべきはその耐久力。流石は老いた今でも人類最強と呼ばれている猛将という事か。

 

「さあ、死にたい者から掛かってくるがいい!!」

「うっ……」

 

 トーマのその圧倒的な力と迫力に、数で勝っているはずの解放軍が気持ちで押され始める。そんな中、トーマの呼びかけに応えるように一歩前に出た男がいる。トーマ同様、最強の二つ名を持つ男。リーザス最強、リック・アディスンだ。

 

「赤い死神か!」

「リーザス城での決着がまだでしたね。自分とやり合ってはいただけませんか?」

「リック将軍! 一騎打ちを挑むつもりですか!?」

「いえ、決して悪い判断ではありません。トーマ将軍は広範囲に攻撃できる武器を持っている事ですし、下手に力の足りない者が一緒にかかれば、リックの邪魔をするだけになりかねません」

 

 メナドが驚いた様子でリックに叫ぶが、エクスは状況を冷静に分析して一騎打ちを肯定する。勿論、危なくなれば加勢に入るつもりではあるが。リックと対峙しながらトーマがニヤリと笑うが、鉄球を下ろして臨戦態勢を解く。

 

「……ふむ、そうじゃな。少し待っていて貰えるかの、赤い死神」

「待つ?」

「お主よりも気になる者が二人いる。貴様との決闘も魅力的ではあるが、何度か戦争で相対したことのあるお主よりもまだ手を合わせていないそちらの二人と先にやりたくてな」

「二人……?」

「一人はランスという小童。今この場に姿が見えないのが残念じゃが……」

「ランス殿ですか!?」

「ほう、やはり知っておるか」

「あのトーマに興味を持たれるとは……流石ランス殿……」

 

 トーマの口からランスの名前が出てきたことに驚く一同。リックも驚きはしたものの、どこか納得がいっていた。先日ランスにトーマの事を尋ねられたが、トーマの方もランスの強さを見抜いていたようだ。バレスが後ろでうんうんと頷いている。

 

「そして、もう一人は……そこの若造。貴様、先程から随分とワシの部下を斬ってくれたな!」

 

 トーマが近くで戦っていた一人の冒険者に向かって叫ぶ。その男は目を瞑り、何かを噛みしめるようにしながらぶつぶつと呟いていた。

 

「若い……久しく聞いていなかった良い響きだ……」

「ほら、ご指名よおじさん!」

 

 ドンと志津香に背中を押されて、一歩前に出る男。それはルークであった。それを見たリックはまたも納得のいった表情。そのルークの顔を見ながらトーマがハッキリと言う。

 

「貴様の強さに興味がある。ワシと一騎打ちをして貰いたいのじゃが」

「ほう、人類最強からご指名とは嬉しい限りだな」

「という訳じゃ。決着は少し待っていて貰えるか? 赤い死神よ」

 

 前に出てきたルークと対峙しながら、トーマがリックにそう言ってのける。それを聞きながら、ルークが静かに笑う。

 

「悪いが、その約束は果たされんぞ」

「何?」

「随分と余裕だな。俺に負ける心配はゼロか?」

 

 そう言いながら剣を構えるルーク。周囲のヘルマン兵たちは一様に驚く。戦う者でその名を知らぬ者無しとまで言われている人類最強に、目の前の若造はハッキリとそう言ってのけたのだ。

 

「ワシに勝てるとでも?」

「厳しい勝負ではあるが、負けるつもりはないな」

 

 ルークの目を見ていたトーマが確かに感じ取る。驕っている訳でも、実力が見抜けない訳でもない。目の前の若造は、純粋にお互いの実力を推し量り、確かな自信を持ってそう言ってのけたのだ。トーマの口から自然と笑みが溢れる。

 

「気に入った! ヘルマン第3軍将軍、トーマ・リプトン! 全力で行かせて貰う!」

「キースギルド所属冒険者、ルーク・グラントだ! ここで越えさせて貰うぞ、人類最強!」

 

 周囲で解放軍とヘルマン軍の戦いが続く中、互いに笑みを浮かべながら武器を振るう。激闘の始まりを告げる金属音が周囲に鳴り響いた。

 

 

 

-リーザス城 最上階 ヘルマン軍司令部-

 

「くそっ……奴らめ、この私を謀ったな……何と卑劣な……」

 

 先程ゴールデンハニーの中に敵が潜んでおり、現在城の中で戦が起こっている事を聞いたパットンは苛立ちを隠せずにいた。この大失態を招いたのは自身の判断ミスであった事を自覚しているからこそ、その苛立ちを抑える事が出来ない。そこに、新たな報告を持ったヘルマン兵が司令部に駆け込んできた。

 

「報告します。現在、トーマ将軍が騎士団を引き連れて城の入り口前で防戦。黒髪の剣士と戦っています。ですが、敵の数があまりにも多すぎます。奴等がここにやって来るのも、時間の問題かと……」

「おい、本当かよ……」

「俺たちもやばいんじゃないか……」

 

 その報告に護衛兵がざわつく中、パットンがその場に膝をつき、頭を抱える。

 

「おっ……な……なんてことだ……」

「パットン、お前はよくやったよ。今回はここまでだ。一時撤退するよ。カラーの森になら、あたしの口利きで身を隠せる」

 

 パットンの肩に手を置いてそう言葉をかけるハンティ。だが、パットンはその手を振り払ってノスの方を見る。

 

「い、いや、まだだ! まだ私には魔人たちがいる! 戦いはまだこれからだ!」

「そ、そうだ……俺たちには魔人の力がある」

「魔人さえいれば、リーザスの連中なんぞ相手じゃねえ!」

「…………」

 

 その言葉に護衛兵も沸き立つが、ハンティは難しい顔をしながらノスの方を見る。ノスはこのような状況にあっても、未だ無言で玉座の後ろに立ち続けていた。

 

「ノス、お前の力を私に見せてくれ! 今すぐリーザスの奴らを皆殺しにしてくるのだ!」

「…………」

「ノス!」

「ふむ……どうやらお前は、もう利用価値がなさそうだ」

「な、なにぃ!?」

 

 そう静かに言い放つノス。パットンの目が見開かれ、護衛兵は呆然としている中、ハンティだけが瞬時に身構える。そのハンティの反応速に一度静かに笑った後、ノスは平然と言葉を続けた。

 

「間もなくカオスの封印は解ける。私の計画通りだ。パットン、もうお前の役目は終わった」

「ノス、気でも狂ったか!? この私にそのような口の聞き方……」

「くくく、本当に魔人を利用できるとでも思っていたのか。つくづくおめでたい奴だ」

 

 堪えきれないとばかりに笑い出すノス。パットンが歯ぎしりをしながらノスを睨み付け激昂する。

 

「裏切るつもりか!?」

「元々、仲間であったつもりもないのだがな」

「ようやく本性見せたようだね……」

「後は貴様らで自由にやっていろ」

「くくく……馬鹿め、本当に私が貴様らの裏切りに何の対策もしていないと思ったのか?」

 

 そう言い残し、ノスが部屋から出て行こうとする。だが、突如パットンが意味深な事を口にしたのだ。ノスが振り返りその顔を見ると、パットンの顔には不気味な笑みが浮かんでいる。

 

「忠告したはずだぞ、ノス。私に歯向かうなとな!」

「ほう、貴様如きで私を倒すつもりか?」

「周りを見てものを言うんだな!」

 

 パットンが右手を挙げる。すると、それに応じるように部屋の四隅にあったカーテンが上げられ、ノスがそちらに視線を向ける。そこには四つの結界志木が立てられていた。それは紛れもない、セルがサテラを封じようとした際に用いたものと同じ。

 

「ほう……」

「ノス、私を裏切った罰だ。永遠に時空の狭間を彷徨え! ハンティ、封印しろ!」

「ワルヤテジ閉テシ間空ノ遠永カンナ物魔イ悪……魔封印結界!」

 

 ハンティが呪文を唱えると、結界志木から強力な魔力が放たれてノスの体を包む。それを受けたノスの動きがぴたりと止まる。勝ち誇ったように笑みを浮かべるパットン。

 

「どうだ、苦しいだろう!」

「……この程度で私を封印するつもりとは、愚かな」

「なにぃ!?」

「ふん!」

 

 ノスが気合いを入れた瞬間、その体を覆っていた強力な魔力が吹き飛ばされる。逆流してきたその魔力を受けきれず、四本の結界志木は吹き飛んで消滅した。難なく拘束から解かれるノス。

 

「ば、ばかなぁ……」

「サテラやアイゼルだったら封印できただろうがな……私は奴らとは格が違うぞ」

「ちっ! 火炎流石弾!」

 

 咄嗟にハンティが魔法を放つ。平然と放ってのけたが、通常の魔法使いでは放つ事の出来ない超上級魔法だ。直撃を受けたノスの体が炎に包まれる。

 

「や、やったか……ひっ!? ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 恐る恐る炎に近づいていった護衛兵だが、突如炎の中から出てきた手に頭を握り潰される。次いで炎の中から平然と出てくるノス。その体は全くの無傷であった。悔しそうに吐き捨てるハンティ。

 

「無敵結界……くそっ……」

「ふむ、中々に強力な魔法を使うカラーのようだな」

「ば、化け物だ。うわぁぁぁぁ!」

 

 仲間の死に恐怖した護衛兵小隊長のアイザックが悲鳴を上げながら逃げ出す。そして、恐怖は連鎖するもの。他の護衛兵たちもそれに続き、パットンを置いて司令部から逃げ出して行ってしまう。

 

「お、お前たち!」

「ははは、良い部下を持ったではないか」

「くっ……」

「残るはお前たちだけだ。貴様のような無能は死んだ方が良いな」

「や、やめろ……来るな……」

 

 ノスが一歩ずつパットンに近づいてくる。怯えながら後ろに下がっていき、壁に背を預けるパットン。その二人の間にハンティが即座に割り込んでくる。

 

「パットンはやらせないよ!」

「邪魔をするな……女!」

「はぁぁぁぁ!!」

 

 ハンティが次々と魔法を繰り出すが、その全てが無敵結界に阻まれる。防御の態勢すら取らずにノスは前進していき、そのままハンティの腹に強烈な一撃を叩き込む。

 

「ぐぁっ……」

「ハンティ! 貴様ぁぁぁぁ!!!」

「ほう、向かってくるだけの気概はあったか……」

 

 崩れ落ちるハンティの姿を見たパットンは、かつてトーマに譲り受けた名剣スターブラスターを抜き、単身ノスに立ち向かう。その姿に一瞬驚いたノスだが、静かに笑いながらパットンに対峙する。

 

「だが、あまりにも無力……」

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

-リーザス城 二階-

 

「だめだ、一階は魔人直属のモンスターが……うわぁぁぁ」

「に、二階だ! 二階の窓から飛び降りるんだ!」

 

 パットンを残し逃亡した護衛兵だが、魔人の命令しか聞かないモンスターに次々と殺されていき、アイザックともう一人の部下を残すのみであった。二階の窓から城の後方へ飛び降りる二人。

 

「うわぁぁぁぁ……」

「ん?」

 

 その下にはミネバ隊が待機していた。既に戦闘が激化している中、遊撃に出る事もせず悠々と後方で待機していたのだ。窓から飛び降りてきた二人を不思議そうに見るミネバ。

 

「なんだい、護衛兵の奴らじゃないか。上で何かあったのかい?」

「ま、魔人が裏切りました。上ではハンティ様が残りパットン皇子を守っていますが……化け物です。生き残れるはずがない!」

「で、逃げて来た訳かい。……そうかい、魔人がねぇ」

 

 アイザックの報告を聞いたミネバが顎に手を当てる。とんでもない事態だというのに、何故かその顔には不気味な笑みが浮かんでいた。すると、アイザックの部下が口を開く。

 

「すぐにトーマ将軍にも知らせないと!」

「いや、知らせる必要は無い」

「は? 何を言っているんですか、すぐにでもトーマ将軍に知りゃぴゃ!?」

 

 ミネバの言葉に反論したアイザックの部下が瞬時に頭をかち割られる。その光景に目を見開くアイザックに向けて、血の滴る小斧を持ちながらミネバが口を開く。

 

「察しの悪い奴は嫌いだよ。あんたはどうする?」

「わ、私はトーマ将軍に報告など行きません!」

「良い子だ。お前たち、撤退するよ!」

 

 そう部隊の者に言い放つミネバ。タミのように心からミネバに使えている部下たちは黙ってその指示に頷くが、そうでない者たちが若干ざわつく。

 

「て、撤退って、パットン皇子を見捨てるんですか!?」

「もう助かりゃしないよ。そうなったら、これはもうヘルマン軍の戦じゃない。魔人とリーザスの争いだ。そんな関係ない戦いに巻き込まれるなんて馬鹿みたいじゃないか。えぇ?」

「しかし、どこから撤退を……」

「タミ!」

 

 ミネバの言葉を受け、タミが城の後方にある城壁の前に積んであった木材をどかす。そこには人が通るには十分な大きさの穴が開いていた。

 

「後ろはがら空きなんだよ。さあ、行くよ! とりあえずはまだ確認しなきゃならないことがあるから、ひとまず後方の丘を目指すよ!」

「トーマ将軍は……」

「残りたい奴は勝手に残りな! だが、確実に死ぬよ」

「うっ……」

 

 こうしてミネバ隊は、解放軍にもヘルマン軍にも、そして魔人にも気が付かれる事無くリーザス城から撤退する。ただでさえ数で圧倒されていたヘルマン軍は更にその数を減らし、最早勝ち目は無くなってしまっていた。そしてそれとほぼ同時に、最上階の司令部から微かに聞こえてきていた戦いの音が止んだ。暗雲は、ますます立ち込めていた。

 

 




[人物]
リア・パラパラ・リーザス (3)
LV 2/20
技能 政治LV2
 リーザス国王女。ヘルマン軍に捕らえられ激しい拷問を受けていたが、最後までランスの事を口にはしなかった。ランスにより救出され、共にカオスの間を目指す。

マリス・アマリリス (3)
LV 30/67
技能 神魔法LV2 剣戦闘LV1
 リーザス国筆頭侍女。リアと共に激しい拷問を受けていたが、頑として口を割らなかった。侍女でありながらその戦闘力は非常に高いため、ランスの手によって救出された今、頼りになる戦力である。

ミル・ヨークス (3)
LV 16/34
技能 幻獣召喚LV1
 カスタム四魔女の一人。ミリの妹。カスタム魔法軍に所属し、各地の戦いで奮戦。幻獣で敵をばったばったと倒していたが、その姿を見ていた者は少ない。


[モンスター]
サイクロナイト
 甲冑に身を纏ったモンスター。攻撃、防御共に優れた強敵。


[技]
火炎流石弾
 灼熱の炎を纏った岩石を敵に向かって放つ炎属性の最上級魔法。本来は二人がかりで放つ魔法だが、四本腕のある術者や、一部の魔法LV3の使い手ならば一人で放つ事も可能。その威力は同じく炎属性最上級魔法であるゼットンをも凌駕する。


[装備品]
スターブラスター
 パットンの持つ名剣。若い頃、トーマから稽古を受けていた際に譲り受けた。紛れもない名剣だが、パットンでは上手く扱いきれていない。自分でもその事はよく判っており、歯がゆく思っている。
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