ランスIF 二人の英雄   作:散々

47 / 200
第46話 魔剣カオス

 

-リーザス城 封印の間-

 

「おい、剣が喋っているぞ!? 魔剣カオスには喋る機能がついているのか?」

「リア、知らない……」

「伝説の魔剣ですから、有り得なくはないですが……」

「意志を持っている剣という事でしょうか……?」

 

 突如喋り出したカオスに困惑するランスたち。折れたカオスを取り囲むようにしながら眺めていると、その様子に構うことなくカオスが陽気に喋り続ける。

 

「そうじゃ! 儂は自らの意志を持った世界最強の剣。誉めろ、誉めろ」

「わー、すごいです」

「こら、暢気に拍手なんかするな」

 

 無邪気に拍手するシィルを諫めるランス。すると、カオスがぐふぐふとイヤらしい声を上げ始める。

 

「うーむ、絶景じゃ。一人見苦しい男がいるが、後は裸の美女ばかり。うほほ。心のちんちんがうずくわい」

「きゃっ……」

「やん、ダーリン助けて。Hな剣がリアを視姦するの……」

「おい、カオス! 俺様の女たちに色目を使うな!」

 

 カオスの言うように、光の道を通ってきたランスたちは全員裸のままであった。女性陣が肌を隠し、ランスがカオスに文句を言う。

 

「なんじゃい、けちんぼ。減るもんじゃないだろうに」

「……ランス様の性格と似ていますね」

「おい、マリス! 俺様をこんなへなちょこ剣と一緒にするな!」

「へなちょこって……儂泣いちゃうぞ。この世に一本しかない魔人を斬れる伝説の剣なのに……」

「なにが伝説の剣だ。すぐにポキンと折られた情けない剣のくせに!」

「儂が折られるのを黙って見てる事しか出来なかった弱虫剣士のくせに!」

「なにぃ!」

「なんじゃと!」

「確かに、似ているかもしれませんね……」

 

 目の前で言い合うランスとカオスを見ながら、シィルがマリスの言葉に同意する。リアも隣で頷いている。

 

「ふん、魔人を斬れる伝説の剣だろうが、折れた今となっちゃ何の役にも立たん。それとも、ノリでくっつけたら復活でもするのか?」

「いや、そんな事しなくても、儂復活できますよ?」

「えっ!?」

 

 カオスの言葉に四人が驚く。その反応に気を良くしたのか、自信満々にカオスが言葉を続ける。

 

「女性のエクスタシーパワーがあればあっという間に復活可能じゃ!」

「エクスタシーパワー……?」

「女を抱かせろと言っておるんじゃ。心のちんちんがビンビンに反応して、あっという間に元通りじゃ。がはは!」

「ふざけた剣だ。俺様が叩き折ってやる」

「いや、もう儂、折れてますよ?」

「ランス様、魔剣カオスは魔人討伐の切り札です。折るなんて以ての外ですよ」

 

 ランスの軽率な行動を諫めるマリス。いくらふざけた事を宣おうと、このカオスは魔人討伐のためには必要不可欠なのだ。折るなんて以ての外。マリスに諫められたランスは仕方なさそうにしながらカオスに問いかける。

 

「ちっ、本当にそれで復活するんだろうな?」

「もちろん。それと、抱くと言っても本当に挿入する訳じゃなく、精神的に楽しむだけじゃから安心していいぞ。儂、紳士なんで」

「どこがだ!」

 

 ランスが声を荒げる中、マリスは周囲を見回す。リアをカオスに抱かせる訳にはいかないし、シィルを抱かせるのはランスが反対するだろう。となれば、自分しかいない。マリスが一度目を瞑った後、決意したように一歩前に出る。

 

「判りました。では、私がカオスに抱かれましょう。全てはリーザス、いえ、この世界の為です」

「ケバいからイヤ」

「ケバっ……!?」

 

 決意を一瞬で吹き飛ばすカオスの言葉にマリスが硬直する。そのマリスに向かって、カオスは構うことなく言葉を続ける。

 

「土台は悪くないんだが、二十過ぎた年増じゃ儂のちんちん萎え萎えじゃ。出直してきてちょ」

「ランス様、この世界の為に叩き折りましょう」

「マリス!?」

 

 表情はいつものままだが、額にくっきりと青筋を浮かべたマリスがカオスを折る事を提案する。見た事もないマリスの姿にリアが驚愕し、ランスもその威圧感に少し押されている。ノスとジルがいたときと同等に張り詰めた空気の中、それを払拭すべくリアが明るく挙手する。

 

「じゃ、リアがする。ダーリン以外に抱かれるのはイヤだけど、しょうがないものね。可愛がってね?」

「うーん……駄目じゃ。嬢ちゃんはそっちの年増と違ってピチピチじゃが、淫乱だ。儂はうぶなねーちゃんが好みなんじゃ」

「ふふふ……そんなに折られたいみたいですね……」

「マリス、恐い……」

「何て我が儘な剣だ!」

 

 マリスのプレッシャーが更に増す中、我が儘な注文にランスが文句を言う。すると、カオスがシィルの方に視線を向けながら言葉を続ける。

 

「そこのピンクのもこもこちゃんなら全然オーケーじゃが」

「えっ……」

「馬鹿者! シィルは俺様専用の奴隷だ。他の誰にもやらせん!」

「ランス様……」

「ぶぅー……ダーリン……」

 

 ランスの発言にシィルは嬉しそうにするが、対照的にリアは不満そうだった。

 

「でも、儂このままじゃ復活できませんよ?」

「ランス様、ここは世界の為にシィル様を……」

「駄目だ。それだけは世界が滅んでも許さん」

「…………」

 

 カオスに向けている威圧感を残しながらも、マリスがランスに進言する。ランスが反対するのは予想していたが、シィルしかいないのであればそれ以外方法がない。だが、ランスは断固として反対し続ける。シィルは嬉しくも申し訳無い気持ちに苛まれていた。

 

「ではカオス、好みを聞こう。どんな女がいいんだ?」

「そうじゃな……若い処女とか最高じゃな……考えただけで心のちんちんが……」

「若い処女か……」

 

 カオスの言葉にランスが考え込む。数多くの処女を自らの手で奪ってきたランスであるため、パッと処女が思い浮かばない。マリアもミリもランも、あのミルでさえ処女ではないのだ。全部自分が奪ったのだが。そのとき、ユニコーンの蜜を手に入れたときの出来事を思い出す。

 

「かなみと志津香が処女だったよな……」

「でも、ランス様。お二人は……その……」

「あ、名前的にその二人は東洋系じゃな? ならパスじゃ。西洋系の娘の方が好みじゃ」

「贅沢な……」

「そいでもって、清楚な神官とかじゃったら、もう最高じゃ!」

「……いるぞ! その条件に合う相手が一人!」

 

 ランスが声を上げる。カオスの望みに合致する女性が思い浮かんだのだ。シィルもほぼ同時に思い浮かんだようであり、ハッキリと口にする。

 

「判りました、ランス様! ロゼさんですね!」

「お前はあの淫乱が清楚に見えるのかぁぁぁ! ええい、こうしてやる!」

「いたい……いたいです、ランス様……ひんひん」

 

 ランスから頭をぐりぐりとされるお仕置きを受け、シィルは涙目になる。だが、今回ばかりはシィルの天然ボケが原因である。

 

「とにかく、セルさんを呼んでくるぞ!」

「お、心当たりがあったようじゃな。それでは儂は待たせて貰うとするかの。1000年以上ぶりのお楽しみじゃ……ぐひひ……」

 

 こうして、ランスたちはカオス復活の為にセルを連れてくる事になった。一度封印の間から抜け出し、セルを探すべくリーザス城の入り口まで向かった。すると、そこにはお誂え向けにセルがおり、他にもかなみや志津香といった面々が揃っていた。そして、重傷で寝ているルークの姿もそこにあった。流石にこれにはランスも驚く。

 

「うおっ!? 死んだのか?」

「生きてるわよ!」

 

 何故かルークを膝枕している志津香にキッと睨まれるランス。理由を聞きたいところではあったが、今はカオス復活が先決。ルークの側にいたセルを上手い事言いくるめ、カオスの下へ連れて行く事に成功する。

 

「おおっ! 清楚な神官で儂の好みドストレートじゃ! ぐふふ……」

「えっ、なんですか? 何が起こるのですか?」

「セルさん……ごめんなさい……」

「シィルさん、何で謝るんですか!? ……い、いやぁぁぁぁぁ!!」

 

 そして、封印の間にセルの悲鳴と嬌声が響くのだった。

 

 

 

-リーザス城 入り口前-

 

「んっ……」

「ルークさん! 目が覚めましたか!?」

「かなみか……今の状況は……」

 

 トーマとの激闘後、気を失っていたルークが目を醒ます。目覚めたルークの顔を覗き込みながら、かなみが安堵した表情を浮かべる。

 

「今はバレス様たちが城内部の攻略に当たり、リックさんたちは東の塔攻略、コルドバさんたちが西の塔攻略、他の部隊はモンスターやヘルマン軍の残党退治を行っています。城を攻めるバレス様たちは、延々と湧き出るオイウェートや冷凍系の攻撃以外ダメージを受けないNATOなどに苦戦しているようですが、徐々に進行しているようです」

「俺は……どれくらい寝ていた……?」

「20分程だと思いますが……」

「なら、ぐずぐずしていられないな……」

 

 そう言って立ち上がろうとするルーク。ふと、かなみが膝枕をしていてくれた事に気が付いて目を丸くする。

 

「すまない。重かっただろ?」

「い、いえ! 気にしないで下さい! それよりも、もう大丈夫なんですか? もう少し休まれていた方が……」

「そうです、ルークさん! もう少し休んでいて下さい! 次はトマトの番だったんですから!」

「うぉっ、トマトか!?」

 

 急にドアップで迫ってきたトマトに少し驚く。次の番とか言っているが、ルークには意味がよく判らなかった。そのトマトの後ろからスッと志津香が顔を覗かせ、一歩前に出てきて話し掛けてくる。

 

「おはよう、寝坊助さん」

「みたいだな。その分しっかり働かせて貰うさ」

「何言っているんですか。ルークさんはもう十分すぎるほど……」

「まだ、魔人が三人も残っている。こんな所で休んでいる訳にはいかないさ」

「まあ、そう言うと思っていたけどね……はい」

「悪いな」

 

 志津香から二本の剣を受け取る。妃円の剣と幻獣の剣だ。それを腰に差したところで、ルークは違和感を覚える。何故自分はこれ程までに普通に動けているのか。いくらなんでも怪我の回復が早すぎる。

 

「志津香、俺の治療は誰が……」

「ルークさん!」

 

 志津香に問いを投げようとした瞬間、一人の女性が駆け寄ってきてルークの胸に飛び込んできた。見れば、セルが涙を流している。芯の強い女性だと思っていたセルの涙にルークは驚き、すぐに問いかける。

 

「どうした、セルさん!?」

「うぅ……ルークさん、私は汚れてしまいました……神に仕える者として情けないです……」

「汚れた?」

「なんじゃい、ちょっと体をまさぐったくらいで大げさな」

 

 聞き覚えのない声を響かせながら、セルが駆け寄ってきた方向からランスたちが歩いてくる。こんな事をする者といえば一人しかいないとばかりに、志津香がランスを睨みながら口を開く。

 

「ランス、セルさんに何をしたのよ!?」

「俺様は何もやっていないぞ。全部コイツがやった事だ」

 

 そう言いながら持っていた剣を目の前に突き出してくるランス。志津香は訝しげにその剣を見ていたが、何の変哲もない普通の剣だ。顔を上げてランスに苦言を呈す。

 

「剣がどうやってセルさんを……」

「ハロー!」

「きゃっ!?」

「け、剣が喋った……」

 

 急に喋り出した剣に驚く一同。胸の中で泣いているセルを抱きしめながら、ルークがランスに問いかける。

 

「なるほど、それがカオスか?」

「ああ。死ぬほど面倒くさい奴だから、この戦いが終わったら叩き折る事にしている」

「それは素晴らしい提案ですね」

「ヒドっ!? 儂、泣いちゃうよ?」

「ま、マリス様に一体何が……」

 

 笑顔でランスの意見を肯定するマリスに、かなみが冷や汗を流す。その威圧感はルークも感じ取り、乾いた笑いを浮かべる。どうやら、あちらはあちらで色々あったらしい。

 

「それで、セルさんに何をしたんだ?」

「このへなちょこ剣が魔人に一度折られやがってな。復活のためには、清楚な神官にHな事をする必要があったんだ」

「ルークさん、一応緊急事態だったので……その……」

 

 シィルが申し訳無さそうにしながらランスの言葉を肯定し、マリスとリアも無言で頷く。ふう、とため息をつきながら、ルークが泣きじゃくっているセルの頭を更に抱きしめながら口を開く。

 

「緊急事態だったから仕方なかったのかもしれないが、あまり可哀想な事はするな」

「俺様に言うな! 全部この馬鹿剣のせいだ!」

「なに、この兄ちゃん? 話が判らなそうで判るような、頭が固そうで柔軟そうな、変な奴じゃの」

「ルークさんと言って、私たちのとても頼りになる仲間です」

 

 カオスの問いかけにシィルが答える。ルークの胸に長い事抱きついているセルだったが、突如頭に何かがぶつかる。小石が飛んできたのだ。

 

「ほら、いつまでもイチャついてんじゃないわよ。神に仕える者がはしたない」

「ロゼさん……あっ、すみません。はしたない事を……」

「ロゼ。間違いなくお前が言っていい台詞ではないだろ……」

 

 小石を投げたのはロゼ。ルークが寝ていた側のシートの上に横になっており、額には濡れタオルが置かれていた。明らかに疲労困憊といった様子。顔を赤くしながらセルがルークから離れる中、ルークはロゼの様子を見て驚く。

 

「ロゼ!? 一体どうした?」

「ルークさん、ロゼさんはルークさんの治療を行って、体力が殆ど残っていないんです」

「ロゼが……それじゃあ、俺の怪我が殆ど完治しているのは……」

「このロゼお姉さんの秘技、大回復を使ったからよ! あんたの怪我は私の体力と等価交換過不足無しトレード!」

「そうだったのか……すまない、ロゼ……」

「後でたんまり報酬貰うから覚悟しておいてねー」

 

 額から汗を流しながら、気にするなという風にいつもと変わらない飄々とした笑顔を向けてくるロゼ。強い女性だ。その姿を見ながら、ルークはロゼに最大限の感謝をする。すると、一連の流れを見ていたランスがルークに問いかけてくる。

 

「そういや、さっきセルさんを呼びに来たとき重傷だったな。どうしたんだ?」

「ああ、人類最強とやり合った」

「人類最強……トーマ・リプトンとですか!?」

「はい、マリス様。それに、ルークさんが勝ったんですよ!」

「なんだと!?」

 

 マリスが驚愕し、ランスも大声を上げる。流石のランスもトーマの事は知っていたのかと思うルークたちであったが、その直後ルークに文句を言ってくる。

 

「馬鹿者! あの親父は俺様が倒して人類最強の称号を手に入れる気だったのだぞ! 横取りしやがって!」

「流石にそれは知らんなぁ……」

 

 ルークがポリポリと頭を掻き、志津香やかなみが呆れた表情を浮かべている。一行は怒るランスを宥めながら、先行しているバレスたちの協力をすべく城の中へ入っていった。

 

 

 

-リーザス城 二階-

 

「魔王ジルが……」

「嘘……」

「残念ながら、本当の事です」

「あらー、知らない間にとんでもないことになってますですかねー?」

「魔王……ああ、神よ……」

「儂の封印を解いたから仕方のない事なんじゃがな」

 

 二階に上がり、バレスたちの姿を捜しながら城の探索をしているルークたち。歩きながら互いの情報交換をしていたのだが、ランスたちから驚愕の事態を聞かされて空気が沈む。魔人打倒の武器は手に入れたが、代償として更に凶悪な魔王を解き放ってしまったのだ。

 

「魔人をまだ一体も倒せていないのに魔王だなんて……」

「ルークさん……私たち、勝てるんでしょうか?」

「勝てるさ。いや、勝たなきゃならない。そうでなければ、世界が終わる」

「うむ、世界の命運を賭けた戦い。英雄である俺様にピッタリだな」

「世界が……」

 

 ルークの返答を聞いたランスは胸を張りながらそう口にするが、対照的にかなみはゴクリと息を呑む。魔人が絡んできているときからそうではあったが、魔王復活によって改めて実感する。これは、リーザスだけの問題では無い。人類全ての命運が掛かっている戦いなのだ。不安そうにしているかなみを見て、ルークは静かに微笑む。

 

「心配するな。魔王ジルはカオスに封印されていたんだろう? なら、カオスの方が格上って事だ」

「お、判っとるじゃないか!」

「そう……ですね! 必ず勝てますよね!」

 

 かなみとシィル、セルとトマトの表情が明るくなり、志津香もやれやれという顔をしながらも、その表情は先程よりも安心した様子であった。その様子を見ていたリアとマリスがルークにゆっくりと近づいていき、ルークの耳を自分の口元に引き寄せてリアが小さく呟く。

 

「相変わらず口が上手いわね……」

「モチベーションで戦いは大分変わるものさ」

「その通りですね。ルーク様、感謝します」

 

 最初に世界を引き合いに出したのは、ランスのモチベーションを上げるためだ。だが、想像以上に女性陣が緊張してしまったため、ルークは即座にカオスを引き合いに出してその不安を和らげた。そのやり口を見抜いていたのは、この場ではリアとマリスの二人だけ。

 

「やっぱりリーザスに来ない? 歓迎するわよ?」

「そうだな……リア、その事で少し話があるんだが」

「あら? ようやく来てくれる気になったの?」

 

 リアが意外そうな表情を浮かべるが、ルークは真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 

「この戦争を通してリーザス軍の兵たちを見てきたが、中々に腐った連中も多いぞ。この状況では仕える気にはならんな」

「……やっぱり、気が付く?」

「まあな。清廉潔白の軍など不可能だとは思うが、もう少しなんとかならないのか?」

「中々、尻尾を掴みきれなくてね……」

「耳の痛い話です……」

 

 リアとマリスも軍の内情を把握してはいたのだろう。だが、ゼス程でないにしても膿というのは中々に抜ききるのは困難。痛いところを突かれたと顔を歪ませる。

 

「ま、全てとはいかないまでも、この戦争が終われば多少は膿を出せると思うぞ」

「?」

「それは……」

「がはは、かなみの部屋で面白いものを見つけたぞ!」

 

 ルークの意味深な発言を尋ねようとしたリアとマリスだったが、その言葉をランスの笑い声が遮る。先行していたランスが本を抱えながら駆けてきた。どうやらこの階にかなみの自室があったようだ。目を見開いて驚くかなみ。

 

「ちょっ! 勝手に部屋に入ったの!?」

「がはは。見ろ、この通販雑誌を。セクシーな黒い下着に赤丸が付けてある。はっきり言っておこう。お前に黒は似合わん、やめとけ」

「きゃぁぁぁぁ! 何てもの見つけてくるのよ!」

 

 かなみが真っ赤な顔をしながらランスの持っていた本をひったくる。すると、他の持ってきていた本がバサバサと地面に落ちる。丁度落ちた本が視界に入ったため、ルークはそのタイトルを口にする。

 

「魅力的な女性になる法、意中の相手を振り向かせる法……ふむ、女の子らしいな」

「み、見ないで下さい!」

「ふんっ!」

「うごっ!」

 

 かなみが本を隠すようにうずくまり、ルークの足を思い切り志津香が踏み抜く。久しぶりの痛みにルークは呻き声を上げるのだった。

 

 

 

-リーザス城 三階-

 

「属性パンチ・氷!」

「ぐぉぉぉぉっ!」

「おお!? 格闘家でありながら、冷凍系の攻撃が出来るとは……見事ですじゃ、アレキサンダー殿」

 

 三階ではアレキサンダーが必殺の拳でNATOを打ち倒しているところだった。冷凍系の攻撃以外ダメージを受けないNATOは、本来戦士や格闘家の天敵である。だが、アレキサンダーはそれをものともしない。汗を拭いながらバレスに向き直るアレキサンダー。

 

「いえ、まだまだ修行の身。先程のルーク殿の戦いを見て、それを改めて実感しました」

「俺も見たかったぜ」

「んー、ミルはランスの戦いの方が見たいかなー」

 

 城の攻略に当たっているのはバレス率いる黒の軍だけではない。アレキサンダー、ミリ、ミルといった面々も行動を共にしていた。

 

「うむ、まさかトーマを倒すとは思わなんだ。是が非でもリーザスに来て欲しい人材じゃ……」

「先程の戦いを見てから体の火照りが止まりませぬ」

「お、見つけたぞ!」

 

 そんな事を話しながら城の攻略を進めていくバレスたちであったが、突如後ろから声を掛けられる。振り返れば、そこに立っていたのはルークたち。

 

「ランス殿、ルーク殿……むっ!?」

 

 バレスの言葉が止まり、その目が見開かれる。ランスたちの後ろに立っている人物の姿が目に入ったからだ。それは、王女リア。元気そうに手を振ってくるリアの姿を見たバレスが感激に打ち震える。

 

「おお、リア王女……マリス殿も……」

「やっほー、バレス!」

「ご心配お掛けしました」

「ルーク殿、もうお怪我は……」

「ああ、いつまでも寝ていられないからな」

 

 涙を流しているバレスを横目に、アレキサンダーはルークに話し掛けてくる。あれ程の重傷がこの短時間で本当に治った事に驚いている様子だ。

 

「がはは、俺様が来たからには貴様ら三下の出番はないぞ。全て叩き斬ってくれる!」

「お、遂に儂の出番か?」

「その事ですが、ランス殿。少し問題がありましての……」

 

 ランスがやる気満々にカオスを抜くが、涙を拭ったバレスが困ったような声を出す。

 

「どうした?」

「先遣隊の話では、この先にはどうも罠を発動されているようなのですじゃ」

「罠? それはまさか……?」

「東西の罠ですじゃ」

「……なるほど、知られていましたか」

「どういう事だ、マリス?」

 

 マリスの問いにバレスが頷く。何か知っているのかとルークが問いかけると、マリスは真剣な表情をしながら口を開く。

 

「リーザス城には、有事の際に敵の侵入を防ぐためのトラップを発動させる装置があるのです。発動、解除共に東の塔と西の塔の最上階にある二つの装置で行われます」

「東の塔と西の塔って、結構高いですよね……」

「ええ。ですが、解除するためには両方の装置を切る必要があります」

「無視して先には進めんのか?」

「難しいですね。多くの犠牲を払う事になるでしょう……」

 

 シィルが東の塔と西の塔を思い浮かべながら尋ねると、マリスがその問いに頷く。城の警備用の罠であるため、強行突破はあまりにもリスクが大きい。それを聞いたランスは舌打ちをする。

 

「ちっ、面倒くさい。誰だ、こんなもん考えたのは」

「はーい、リアです!」

「となると、先に東西の塔で装置を解除する必要があるな」

「ではまた二手に分かれるとするか。一つずつ回っていたのでは手間だからな」

 

 そう言ってルーク組とランス組でメンバーを分けるべく話し合う。戦力で分けようにも中々難しい案配であるため、単純にどちらについて行きたいかで決を取る事にする。だが、決定した内訳にランスが文句を言い出した。

 

「馬鹿者! 貴様の方が、女が多いのは許せん! 誰か一人寄越せ!」

「そう言われてもな……」

 

 ルーク組がルーク、かなみ、志津香、トマト、セル。ランス組がランス、シィル、リア、マリス。ランス組の方が女性が一人少なかったのだ。これを許すランスではない。ぎゃあぎゃあと文句を言うため、ルークは女性陣を振り返りながら口を開く。

 

「誰か、ランス組に行ってもいいというのは……」

「イヤです」

「死んでもいや」

「トマトはルークさんと一緒が……ぽっ……」

「今はカオスと少しでも離れていたいので……その、トラウマが……」

 

 見事なまでの即答であった。セルは致し方ないところもあるが。

 

「ええい、じゃんけんでいいから誰かこっちに来い! そうでなければ、俺様はテコでも動かんぞ」

「なんて我が儘な……」

「はぁ……しょうがない。恨みっこ無しの一発勝負ね」

 

 ため息をつきながら志津香が折れる。他の三人も真剣な表情で頷き、一斉に掛け声を上げる。

 

「「「「じゃーん、けーん!」」」」

 

 

「これが……これが敗北のグーですかー……」

 

 トマトが悲しみに打ちひしがれる。勝負は非情であった。自身の出してしまったグーの拳を涙目で見ており、シィルとマリスに肩を叩かれ慰められている。上機嫌なランスと、ため息をつくルーク組。その一行にバレスが話し掛けてくる。

 

「儂らはトラップの発動箇所までのモンスターを掃討しておきますじゃ」

「皆様、ご武運を!」

「死ぬんじゃないよ、ルーク、ランス」

「この戦いが終わったら、ミルがサービスしてあげてもいいわよ、うふふ」

「いらね」

「がーん!」

 

 こうして、東の塔と西の塔に向かうメンバーが決まった。ルーク組とランス組が向かい合って話し合う。

 

「それじゃあ、互いに装置を解除したらまた中央の塔に来て先へ進もう。相手を待つ必要は無い。どうも、魔王ジルは不完全な力を取り戻そうとしているらしいからな」

「はい。ノスに力が戻るまでは頼むと言っていました」

 

 ルークの言葉にシィルが頷き、その場にいたリアとマリスも頷く。ランスは耳を穿っていた。

 

「となれば、早く進まなければそれだけ相手が強くなるって事だ。時間は無駄にしたくない」

「ふん、遅れるんじゃないぞ」

「ああ、出来る限り早く着けるようにするさ」

「それで、どちらがどちらの塔に行くんですか?」

「そうだな……それじゃあ……」

 

 互いに向かう塔が決まり、中央の塔を後にしようとする一行。すると、後ろからミリに呼び止められる。

 

「ルーク、ランス」

「ん?」

「なんだ?」

「ほらよ」

 

 二人が振り返ると、ミリは小袋を投げてくる。それをキャッチする二人。

 

「パラライズの粉だ。モンスターが落としたのを拾った。短時間だが、敵を麻痺させる効果があるアイテムだ。まぁ、魔人相手に効くかは判らないけどな。お前らが持っていた方がいいだろうと思ってな」

「感謝する」

「麻痺させるという事は、これを美女に使えば……ぐふふ……」

「お、儂もそれに賛成!」

「馬鹿コンビ……」

 

 ランスとカオスに呆れる志津香。こうしてルークたちは二手に分かれ、トラップの装置を解除するため東西の塔に向かった。

 

 

 

-リーザス城 西の塔 三階-

 

「うおりゃぁ! キンケード、こいつでこの階の敵はあらかた終わったか?」

「ええ、残すは最上階のみですね」

 

 先に西の塔の攻略に来ていたコルドバ率いる青の軍がモンスターを一掃する。防衛に長けた部隊とはいえ、決して攻めがお粗末なわけではない。守りながらも攻める、攻めながらも守る。それがコルドバ率いる青の軍の特徴であった。残すは最上階のみとなり、一息ついていたコルドバの視界にルークの姿が飛び込んでくる。丁度階段を上がってこの階にやってきたのだ。

 

「おお、ルーク殿じゃねえか」

「こ、これはルーク殿。お元気そうで……」

「ああ、そういえば青の軍は西の塔を攻めているんだったな。だからここまで殆どモンスターがいなかったのか」

「お陰で楽にここまで来られました」

「かなみも一緒か。なーに、これが俺たちの仕事だからな」

 

 ゲラゲラと豪快に笑うコルドバ。対照的にキンケードはルークの顔を見てばつの悪そうな表情をしている。

 

「それで、後は最上階のみなんだな?」

「ああ……それなんだが、ちょっと厄介な事になっていてな……」

「厄介?」

 

 コルドバの言葉にルークが眉をひそめると、キンケードが説明をする。

 

「最上階には金髪の男がおり、何やら目を閉じて考え事をしているようなのです。近づこうとした部下は一睨みで恐怖を覚え、逃げ帰ってきた次第です」

「金髪の男……」

「まさか……」

「心当たりがあるのか?」

「恐らく、魔人アイゼルだ」

「な、なんだって!?」

「(危ないところだった……知らずに突っ込めば怪我ではすまんぞ……)」

 

 ルークの発言にコルドバが目を見開き、キンケードが冷や汗を流す。魔人という言葉にセルが不安そうにするが、かなみと志津香は別の事を考えていた。魔人アイゼル。彼と一度対峙し、ルークの口から予想だにしない発言が飛び出たあの時の事を。

 

「コルドバ将軍、キンケード。ここは俺たちに任せて、外の残党処理の方に向かってくれ」

「おい、魔人がいるんだぜ。少しでも戦力は多い方が……」

「魔人は特殊な結界を持っていてな、普通ではダメージを与えられないんだ」

「なんと……」

「ちっ、そういやエクスもそんな事を言っていたな。みすみす見逃すしかないって事か……ルーク殿たちはどうするつもりだ?」

 

 コルドバが悔しそうな表情を浮かべながらルークに問いかける。それを受けたルークは少し思案し、静かに口を開く。

 

「少し奴と話したい事があってな……」

「話? 魔人とか?」

「…………」

 

 腑に落ちない顔をしていたコルドバだったが、最終的には理由を聞かず折れてくれ、部隊を率いて塔を出て行った。複雑な表情をしているかなみと志津香の肩に手を乗せ、ルークが口を開く。

 

「大丈夫だ。さあ、行くぞ」

 

 

 

-リーザス城 東の塔 二階-

 

「あ、ランス! どうしたの、こんなところで?」

「うむ、少し最上階に用があってな」

 

 東の塔にやってきたランスたちが見たのは、巨大な杭の先端に金属を取り付けているマリアと、その側で作業を手伝っている、リック、メナド、レイラ及び赤の軍の姿だった。作業中のマリアにシィルが尋ねる。

 

「何をなさっているんですか?」

「上の階にガーディアンのシーザーがいるの。まともに戦っても勝てそうにないから、これで壁に串刺しにして身動き取れないようにしようと思って」

「お恥ずかしい話です……」

 

 リックが少し悔しそうにしている。先程のルークの戦いを見て滾っていたリックだが、流石にシーザーと一騎討ちは分が悪い。戦いたい気持ちはあるが、今はリーザスの為勝利を優先。我が儘を言う訳にはいかないと自分を押し殺しているのだ。金属をくくりつけていたメナドがランスたちを見て口を開く。

 

「あれ、かなみとルークさんは?」

「二人は西の塔よ、メナド」

「こ、これはリア王女! 失礼しました!」

「あら、そんなにかしこまらなくてもいいのに。それと、かなみは親友だから判るけど……ルークねぇ……」

「こ、これは別に深い意味は……」

「むっ、待てよ……」

「どうかしたの、ランスくん」

 

 リアからの意地悪な追求にしどろもどろになっているメナドを余所に、ランスがマリアの言葉を聞いて考え込む。そして、一つの結論に至る。

 

「ここにシーザーがいるという事は……ぐふふ……」

「お、悪い顔。そして儂は良い予感」

 

 パラライズの粉を見ながらイヤらしい顔で笑うランス。カオスがその顔を見ながら、何か良い予感に胸を弾ませていた。

 

 

 

-リーザス城 東の塔 最上階-

 

「なんか寒気が……」

 

 ノスの裏切りとジルの復活をアイゼルから聞き、最上階で途方に暮れていたサテラが突然寒気を感じ、嫌な予感がする。その予感は、これより数分後に見事的中する事になる。

 

 




[モンスター]
オイウェート
 ゼス南の熱帯雨林地方にしか存在しない大型モンスター。特殊な転移魔法で延々と召喚され続けていた。

NATO
 冷凍系の攻撃しかダメージを与えられない巨大な鎧のモンスター。攻撃力も高く、中々の強敵。


[技]
属性パンチ・氷
使用者 アレキサンダー
 アレキサンダーの必殺技。水の神の力を借り、己の拳に冷気を纏わせる。殴られた相手はその箇所が凍り付いてしまう驚異の技である。


[装備品]
魔剣カオス
 ランスが手に入れた魔人を斬る事の出来る伝説の魔剣。自らの意志を持っているが、その中身はスケベ親父そのもの。心の弱い者が持つとその心を悪に染めてしまうという呪いの剣。本人は魔人を斬れる唯一の剣と主張しているが、対になる聖刀日光もその能力を保有する。


[アイテム]
パラライズの粉
 対象を短時間の間麻痺させる事が出来る魔法の粉。強い相手には効きにくいが、多感症だったりすると無駄に効いてしまったりする。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。