第58話 誓いは今もその胸に
GI0344
-魔法院-
それは、魔法使いの能力が世に認められていなかった頃の話。
「若き魔法使いの諸君。我が学院に入学してくれた事を心から感謝します」
ここは魔法使いの学校、魔法院。今この場所に、多くの若き魔法使いたちが集っていた。この日は学院への入学式。立ち並ぶ若者たちはみな、現状を変えたいと目を輝かせていた。
「今は『力』が世界を制している。だが、魔法は十分それに取って代わるだけのものである」
舞台上で学院の長が話を続ける。彼の言うように、この時代では魔法使いは詐欺師と罵られていた。剣を始めとした、武器による純粋な力が支配する時代。当然、今ここに集まっている若者たちもこれまで迫害を受けてきた者が殆どだ。魔法の力を世間に認めさせる。皆がその思いをしっかりとその胸に抱いていた。そしてその思いは、この学院に首席で合格したある若者も同じであった。
「(魔法使いの力を世間に認めさせるんだ……この学院でしっかりと学んで……)」
彼の名はルーカ・ルーン。常識を遙かに超えた魔力量を持ち、幼少の頃には既に賢者と呼ばれるような魔法使いでさえ彼には敵わなかった。そのあまりに膨大な力を制御するため、普段は魔力の足枷で自身の力を封じ込めている。それでも魔法院に首席で合格する程の、文字通り天才である。
「ではここで、我が学院に在籍する魔法使いの講師の紹介に移らせていただきます。フリーク殿、こちらへ……」
「うむ」
促されて舞台上に上がってきたのは老魔法使い。フリークという名前を聞いて周囲がざわつくが、それも無理はない。魔法使いであればその名を知らぬ者などいない。魔力というものは瞬間的に放たれ、すぐに消えてしまう儚いものだ。それは世間の一般常識であり、普遍的な考えであった。だが、フリークはその固まった考えをぶち壊す。魔力を専用の装置に溜め込み、必要なときに取り出して自由に使うという『魔蓄技術』を発明したのだ。これはあまりにも革新的な発明で、人類の歴史を大きく変えるほどのものであった。魔法工学の権威であるフリークの第一声に注目が集まる。
「ではまず……この中に清楚で美しい母か祖母を持つ者がおったら、ワシに紹介するように」
学生たちが盛大にずっこけた。その学生たちの様子を見ながら、狙い通りだと意地悪そうに笑うフリーク。これが、ルーンとフリークの出会いであった。
GI0348
-魔法院-
「恩師フリーク、この空中都市の発案は素晴らしいです!」
「判るか、ルーン。じゃが、何度計算しても実現可能な魔力量に抑える事ができんのじゃ」
フリークとの出会いから早四年。学院を無事卒業したルーンであったが、未だ研究者として学院に残り続けていた。彼はフリークの人柄と鬼才ぶりに魅せられ、共に魔法工学の研究を行っていたのだ。フリークもルーンの人柄と才能を認め、親交を深める。親子以上に年の離れた二人だったが、気が付けば親友という間柄になっていた。今二人が話しているのは、都市ごと空中に浮かび上がらせようとする魔法技術。だが、それには膨大な魔力を要し、他の魔法使いからは空想の産物と一笑に伏せられたものであった。
「そうじゃの、もう少しこちらの魔力を転用して……ごほっ、ごほっ……」
「恩師フリーク!」
空中都市への魔力利用をいかに効率的に出来るかを詰めていたそのとき、フリークが苦しそうに咳き込む。慌てた様子でその背中を擦るルーン。それを受け、困ったような笑みを浮かべるフリーク。
「大丈夫じゃ。年には勝てんのぉ……そろそろ徹夜で研究というのも厳しくなってきたわい……どれ、ちょっと顔を洗ってくるかの……」
そう言い残し、フリークが部屋から出て行く。その背中を悲しげな瞳で見送るルーン。既にフリークはかなりの高齢であり、最近はますますそれが顕著に表れていた。失いたくない。無二の親友、そして、偉大なる魔法使い。ふとルーンの目にある研究書物が目に入る。それは、フリークが研究を続ける中で意図せず生まれてしまった技術。人道に外れるこの技術をフリークは誰にも打ち明けず、こうして書類だけ残し後は全て処分していた。親友のルーンですら初めて見る技術。
「死体……死者……蘇らせる……この技術は……」
それは、ネクロマンサーと呼ばれる禁呪。これより二年、ルーンはフリークの下に殆ど通わなくなり、自身の研究室に閉じこもる事になる。
GI0350
-魔法院-
フリークは頭を抱えていた。研究を続けている空中都市の技術。この実現のためには後数十年はかかるだろう。だが、自身の死期が近い事をフリークは悟っていた。
「ワシの死後、この技術を継げる程の魔法使い……一人しかおらんのぅ……」
頭に浮かんだのは、かつて共に研究をしていた親友。その彼は、最近ではすっかり自分の研究室に閉じこもってしまっている。一体何を研究しているというのか。そのとき、部屋の扉がけたたましく叩かれた。
「なんじゃい、騒がしい……」
フリークがブツブツと口をこぼしながら扉を開けると、そこには丁度今その顔を思い浮かべていた親友が立っていた。理由は判らないが、嬉しそうな表情を浮かべている。
「ルーンか、どうしたのじゃ?」
「恩師フリーク、見てください! 遂に完成したんです。新技術……バイオメタルが!」
「バイオメタル……?」
ルーンが机の上に書類を広げる。その技術に目を通したフリークだったが、徐々にその目が見開かれていった。人間の細胞を金属質に変更し、永遠の命を手に入れる不死の技術。
「これは……」
「ネクロマンサーの技術を参考にさせていただきました。当初は肉体を完璧に維持しようと研究していたのですが、やはり人間の肉体を維持するのは難しく、最終的には脳と眼球以外は全て金属の体にする事で落ち着きました。ですが、これなら永遠の命を手に入れられる!」
「じゃがこれは……」
フリークが難しい顔をする。永遠の命など、人の身に余る領域だ。だが、ルーンはフリークの顔を見据えながら言葉を続ける。
「死者を弄んでいるわけではありません。人が持つ無限の可能性を、たった数十年で終わらせないための進化です。恩師フリーク。既に終身刑の犯罪者を使ってこの技術が実現可能な証明は済んでいます。貴方もバイオメタルで永遠の命を授かってください!」
「人体実験をしたのか、ルーン……」
「罵ってくれて構いません。でも……それでも……私は貴方を失いたくない!」
「ルーン……」
ルーンの真っ直ぐな想いにフリークが折れ、これより数日後、フリークはその体を金属にし、永遠の命を手に入れる事になる。かくして老衰による優秀な人材の損失を防ぐ事に成功したルーンは、当初の目標であった魔法使いの地位向上のために動き出す事になる。
GI0353
-魔教団-
26歳になったルーンは、既に世界最強の魔法使いとしてその名を轟かせていた。人々は尊敬と畏怖を込めて、彼の事を『
「ルーンよ、組織の長になった感想はどうじゃ?」
「恩師フリーク……」
魔教団内の渡り廊下で、ルーンはふいにフリークに話し掛けられる。少しだけ考えた後、苦笑を返す。
「難しいものです。全員の足並みが揃っている訳ではない。教団の中には、魔法を使えない者を蹂躙しろと言う意見を持った過激派も存在する……」
「ふむ……」
「ですが、必ず成し遂げてみせます。人類に真の平和を……」
「人類に真の平和か……ふむ、お主になら、出来るような気がするわい」
そう言って笑うフリーク。その笑顔を見ながら、ルーンの表情は少しだけ曇る。ルーンにはある懸念があった。それは、自身がいつまで清廉潔白でいられるかという事。恩師フリークを救うためとはいえ、人体実験に手を出した。そして今、過激派の意見に賛同したくなる時も何度かあった。それは、人の道を外れた行為。一度だけ目を閉じ、ルーンは静かに口を開いた。
「一つだけお願いがあります……」
「……なんじゃ?」
これ程までに真剣な表情のルーンを見た事がなかったため、フリークもルーンの顔を正面から見据える。
「もし、私が間違った方向に進んでしまったら……恩師フリーク、貴方が私を止めてください。貴方に否定されたのなら、私は自分の死に疑問を抱かなくて済みます」
GI0360
-バルシン王国-
世界最強の軍事国家、バルシン王国。今この国は宣戦布告を受けていた。それを行ったのは、わずか100人足らずの魔法使いの集団、魔教団。世界中が無謀な宣戦布告だと馬鹿にしていた。バルシン王国も完全に魔教団を見下していたが、一応の備えとして魔法使い対策は万全に行っていた。バルシン王国の圧勝。誰もがそう予想していたが、その予想は大きく覆される。この戦争に、魔教団から魔法使いは一人も参加しなかった。
「鉄の兵士だと……」
参戦したのはわずか24体の鉄兵。だが、この24体にバルシン王国は滅ぼされる事になる。後に鉄兵戦争と呼ばれるこの戦争は、魔教団の圧勝に終わった。バルシン王国跡地に魔都デトナルーカを置き、魔教団は世界中の国家に戦争を仕掛けた。そして数年後、ルーンは歴史上初めて人類統一を果たす。世界中の魔法使いは魔教団に所属し、魔力が世界を制する時代となった。
GI0389
-魔都デトナルーカ-
「完成だ……遂に完成した……」
「よもやこの目で空中都市を見られる日が来ようとは……」
長い年月を掛け、ルーンとフリークは遂に都市を空中に浮かび上がらせる事に成功する。この頃には魔教団は『聖魔教団』と名前を変え、鉄兵を更に進化させた『闘将』と呼ばれる存在で魔物たちを大陸の西に追いやり、人類に平和をもたらしていた。だが、これ程の偉業を成し遂げたというのに、ルーンはまだ満足していない。
「まだだ……まだ真の平和は来ていない……魔人の支配から人類を完全に解放する……その為にも、この空中都市、闘神都市をもっと増やさなければ……」
自室でそう呟きながら書類と睨み合うルーンを心配そうに見るフリーク。最近のルーンは鬼気迫るものがある。
「ルーン、あまり無茶はするでないぞ。それに、最近はあまりにも闘将の研究を進めすぎている。人の命を弄ぶ行為でもある闘将をむやみに増やすのは……」
「恩師フリーク。今は少しでも力が必要なのです。魔人を完全に駆逐するために! 研究を急がなければ……」
「…………」
何かに取り憑かれたように研究を進めるルーンの背中を見ながら、フリークの胸には言いしれぬ不安が押し寄せていた。
GI0420
-魔都デトナルーカ-
この年、西の大陸に追いやられていた魔の者が動く。闘将がモンスターたちを駆逐している事に我慢の限界が来た魔人たちが、遂に聖魔教団に戦争を仕掛けてきたのだ。魔人が攻めてきたという報告を受けたルーンは唇を噛みしめる。いずれは戦わねばならぬ相手と思っていたが、魔人がここまで早く動くとは思っていなかったのだ。
「想定よりも早すぎる……くっ、まだ20番目の闘神都市、ユプシロンは完成していないというのに……」
「やはりここは、人間よりも優秀な肉体を持つモンスターで闘将を作るべき……」
「黙れ、モガンダ! ダイロス、その狂人をさっさと連れて行け!」
「はっ!」
幹部にそう命じ、不愉快な発言をした狂人を会議室から追い出す。そのまま椅子に深く腰掛けたルーンに、部下は更に報告を続けた。
「戦争は各地で激化しております」
「その上、当初はケイブリスやメディウサなど2~3の好戦的な魔人しか参戦していなかったのですが、今では参戦している魔人が10体を越えています!」
「何故だ……何故魔人はそんなに早く動いた……」
ルーンの誤算は二つ。闘将があまりにも強すぎた事。最前線で戦っていた闘将バステトは、たった一人で2000を越えるモンスターを倒してしまった。それを見て、武闘派の魔人の血が滾った。
「くくく、此度の戦争など興味はなかったが、中々に楽しめそうじゃな。ジル様との時代を思い出すぞ……」
「ノス! どちらがより多くの人形を殺せるか勝負と行こうじゃないか。げっげっげ!」
「おー、面白そうな奴らがいるじゃねぇか。人類の飯は美味いし、ちょっとやる気出すかな!」
「魔王ガイ様に歯向かうとは愚かな……」
ノス、レキシントン、ガルティア、バークスハムが強者を求め戦場を駆ける。そしてもう一つの誤算。この年に作り出された闘将、ディオ・カルミス。その残忍な性格をフリークは懸念していたが、その悪い予想が的中する。ディオはあまりにも残虐にモンスターを殺しすぎた。その事に、多くの魔人が怒りを覚える。
「このような振る舞い、紳士のやる事ではありませんね……」
「ジーク、共に奴らを駆逐するぞ……」
「……許さん」
「行こう、姉さん!」
「闘将なんか、みんな氷漬けにしてやるわ!」
ディオの蛮行に、本来率先して人類に戦闘を挑まないジーク、ケッセルリンク、メガラス、ハウゼル、サイゼルの五人も参戦を決める。
「聖魔教団ねぇ……ちょっとは役に立つ技術でもあればいいんだけど……」
「けけけけけけ、殺す、殺す、人間殺す! ついでにあのボディをミーがいただくね!」
そして、自身の望みを果たすためパイアールやレッドアイといった魔人も参戦する。最終的にはなんと15体もの魔人が、聖魔教団との戦争に参加する事になる。人類を見下している魔人をここまで本気にさせた事が、聖魔教団の力を示す何よりの指標である。聖魔教団は、ルーンの作り出したその組織は、あまりにも強すぎたのだ。
「仕方がない……未完成ではあるが、ユプシロンも参戦させる! 怯むな、我らなら負けはしない!」
こうして、魔人戦争が始まった。準備の整っていなかった聖魔教団は切り札である闘将を闘神都市の護衛に回す。拠点でもある闘神都市は絶対に死守しなければならない存在であったからだ。そのため、前線で戦うのはかつて魔法使いを力で支配していた蛮族と呼ばれる人間たち。だが、この時点では人類の足並みは揃っていた。人類の為に魔人を駆逐するという理念の下、かつて対立し合っていた魔法使いと蛮族が共に肩を並べて戦っている。その事実が皆を奮起させていたのだ。
「おいおい、なんでドラゴンがいるんだ!? 食って良いのか?」
「立ち去れ、魔人!」
更にルーンは、一部のドラゴンとも手を結んでいた。防空ドラゴン部隊は闘将にも劣らない程の戦果を上げる。
「眠れ、ディオ。貴様はあまりにも好き勝手やり過ぎた」
「フリーク……貴様……」
蛮行が続いていた最強の闘将ディオは、フリークの手によって戦争の最中に封印される。だが、それでも人類の戦況は変わらなかった。こうして聖魔教団は、魔人相手に30年以上も渡り合う事になる。人類史上最強の集団であるのは間違いのない事であった。だが、長きに渡る戦争の中で、人類の絆は綻び始めていた。
GI0451
-魔都デトナルーカ-
それは、魔人ノスの一言から始まった。
「くくく、魔法使いに良いように扱われている愚かな人間共よ。痛みを受けるのは貴様らばかりだというのに、何故そうも戦い続ける……」
この言葉は蛮族たちに波紋を呼んだ。魔法使いは危険の少ない後衛に引きこもったままか、前線に出てきたとしても危険の少ない鉄壁の闘将だけ。何故俺たちばかりが痛い目を見なければならない。その不満はみるみる内に拡散し、遂にはこの戦争は聖魔教団が仕掛けたものだという噂にまで膨れあがった。そして、人類は割れる。
「M・M・ルーン様! 蛮族が、我らに反旗を翻しました!」
「な……なんだと!? ふざけるなぁ!」
長すぎる戦争に嫌気がさしていた蛮族は、ノスの口車にまんまと乗ってしまい聖魔教団を裏切る。この人類の裏切りに、ルーンは激怒する。
「人類の……人類の平和のために戦っているんだぞ! ふざけるな……ふざけるなぁ!!」
「M・M・ルーン様……」
「ふふ……ふはははは! そうか……そうだよな……やはり魔法を使えぬ者と足並みを揃えるなど……無理であったのだ……くくく……」
報告を受けたルーンは不気味に笑い出し、デトナルーカの地下にある部屋へと一人で降りていった。そこは、各地の闘神都市と闘将へ命令を伝える司令室。
「全ての魔法使いに告げる……敵は魔人だけではない、魔法を使えぬ愚かな蛮人共を、皆殺しにするのだ!!」
この命令を受け、闘神都市は蛮族たちの住む大地に向けて魔導砲を発射する。たった一撃で町一つが消滅し、闘将たちが魔人やモンスターだけでなく、人間を虐殺し始めたのだ。31年目の悪夢と呼ばれるこの出来事から見て取れるように、ルーンは狂人の道を歩み始めていた。
「カレン……目を開けてくれ、カレン……」
闘神都市から放たれた魔導砲を受け、ある国の王女がその命を失った。亡骸を胸に抱き、号泣するのはその兄。王位を継ぐのが嫌で、魔鉄匠としての人生を歩んでいた男だ。
「許さない……聖魔教団を……絶対に許さない……」
魔法使いへの憎悪から、この男は魔法を通さないミスリル銀を使用し、妹のカレンを闘将として蘇らせた。鉄壁の防御に加え、魔法を通さない奇跡の闘将、レプリカ・ミスリー誕生の瞬間である。
GI0452
-王国跡-
「ルーンよ……お主が人類にもたらしたかったのは……この風景なのか……? これが、真の平和だというのか……?」
焼けただれた大地を見て、フリークが独りごちる。そこは王国跡。闘神都市の魔導砲を受けたため、生きている者は誰一人としていない。地面に放り出されたクマのぬいぐるみを拾う。一体いくつくらいの子のものだったのだろうか。主人を失ったボロボロの人形を強く握りしめるフリーク。そのとき、後ろから人の気配を感じる。まさか、生き残りがいたというのか。慌てて振り返ると、そこに立っていたのは黒髪のカラーであった。
「……ワシを殺しに来たのか?」
「話が通じるのですか!?」
聖魔教団である自分を殺しに来たのかと問うフリークだったが、その問いに黒髪のカラーは驚愕していた。フリーク以外の闘将は全て人類抹殺の命の下動いており、既に自分の意思というものを持っていない。フリークただ一人だけが、自身の意志で動けていたのだ。そのフリークの顔を見据え、黒髪のカラーが口を開く。
「貴方たち魔法使いが手を引かなければ……人類そのものが滅亡してしまう……」
「そうか……そうじゃの……」
その言葉を聞いて、フリークはかつての約束を思い出す。そして、自分ただ一人だけが自由に行動出来ている意味を考える。
「ワシが……やらねばならんな……」
こうして、フリークは黒髪のカラーと共に立ち上がる。強大な魔力を持つルーン打倒の手段を探し歩き、魔法を通さない奇跡の闘将、レプリカ・ミスリーと出会う。ルーンを殺し得る、最大の天敵と。
-魔都デトナルーカ-
届く報告にルーンが顔を歪める。蛮族の虐殺は上手くいっているが、その分手薄になった闘神都市が魔人たちによって次々と落とされているのだ。少し前に受けた報告によれば、遂にユプシロンの内部にまで侵入されたらしい。だが、この際に魔人レキシントンが戦死。この報告には久しぶりに心が躍った。とはいえ、状況は圧倒的に不利。
「どうすればいい……やはり、魔導砲の一斉照射で大地を消すしか……」
そのとき、部屋の扉が開かれる。振り返れば、そこに立っていたのは見慣れぬ闘将と黒髪のカラー。そして、無二の親友。
「恩師フリーク……」
「約束通り、お主を止めに来た……」
フリークの言葉に応えるように、スッと闘将ミスリーがルーンの目の前に立つ。その姿を見たルーンは口元を歪める。
「出来損ないの闘将が……私を殺すつもりか? 身の程を知るがいい!」
右手をミスリーに向け、凶悪な魔力を放つ。空間が歪むとさえ思えるその魔力を感じ、黒髪のカラーが目を見開く。
「この魔力……あたし以上だ!? 人間がこれ程の魔力を……」
「死ね! 出来損ないが!!」
ミスリー目がけてその魔力を解き放つ。だが、直後ルーンは目を見開く。ミスリーに直撃した魔力がすぐに四散したのだ。そして見る。そのボディの輝きが、他の闘将とは違うのを。
「ば、馬鹿な! ミスリルの体だと!? 魔法を跳ね返す素材で闘将を作れるはずがない!」
迫ってくるミスリーに次々と魔法を放つが、その体を傷つける事が出来ない。目前まで迫ったミスリーは、ルーンの額に小剣を深々と突き立てる。ザクッ、という肉を断つ音と共に、ルーンの体が崩れ落ちる。薄れていく意識の中、最後に見たのは佇んでいるフリーク。金属製の顔からは表情が判らないが、その顔にかつて魔法院で共に研究していた頃の顔が蘇る。それは走馬燈のように流れていき、最後に至ったのはあの日の約束。
「(そうか……私は、いつの間にか道を違えていたか……感謝します。そして、申し訳ありませんでした……恩師フリーク……)」
こうしてM・M・ルーンは死に、歴史上唯一であった人類統一国家も滅亡する。人類はまた、混迷の時代を歩む事になる。親友を殺した事と多くの同胞を裏切った後悔から、一度は自ら命を絶とうとしたフリーク。だが、それは共に戦った黒髪のカラーに止められる。
「再び人類が魔人に挑むとき、貴方にはするべき事があるはずです!」
この言葉を受け、フリークは自分には世界を見続ける義務があると感じ、黒髪のカラー、ハンティと永遠の友情を誓う。ルーンの死によってその活動を止めた闘将たちを全て封印し、フリークはその番人となった。魔人に落とされず空中に浮遊したままの闘神都市ユプシロンにはミスリーが番人として残り、こうして長きに渡る魔人戦争は終結した。そして数百年後、フリークはハンティと共にヘルマンの評議委員となる。あの時の約束が、今でも思い出される。
『もし、私が間違った方向に進んでしまったら……恩師フリーク、貴方が私を止めてください。貴方に否定されたのなら、私は自分の死に疑問を抱かなくて済みます』
「(ルーンよ……お主は最後の瞬間……疑問を抱かずに逝けたのか? ワシはこうして生き長らえておる。お主の生み出した技術のお陰じゃ。お主が残した闘将が再び暴走をする事があれば……必ずワシの手で止めてみせるぞ……それが……ワシに出来る償いじゃ)」
それは、遠き日の約束。それからまた長い月日が流れ、ヘルマンではシーラが新たなる女帝として君臨する事になる。それと前後して評議委員のビッチ・ゴルチの提案により、闘神都市ユプシロンの調査が決定。フリークの反対を押し切っての決定であった。それにより、今は歴史に埋もれてしまった闘将が再び歴史の表舞台に上がる事になる。そう、教団の遺産が……
[人物]
ルーカ・ルーン
LV 62/80 (生前)
技能 魔法LV3 魔鉄匠LV1
聖魔教団の創始者。その膨大な魔力から『
[技能]
魔鉄匠
魔法で動く鉄人形を作り出す技能。闘将を作れるのはこの技能を持つ者のみ。
[都市]
バルシン王国
かつて世界最強の軍事力を誇った国家。M・M・ルーン率いる魔教団の手によって滅ぼされる。
魔都デトナルーカ
バルシン王国の跡に建設された都市。歴史上で唯一、人類圏完全統一を果たした国家でもあるが、M・M・ルーンの死亡と共に滅亡する。