ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第62話 目指すは研究コア

 

-上部中央エリア-

 

「ふむ、四つのコアか……」

「ええ、その四つのコアにそれぞれ一つずつキーが隠されているみたいなの」

 

 モンスターを倒しながら上部中央エリアを進んでいたルークたちは、四つの扉の前に到着していた。扉の前にはそれぞれ、闘将コア、防空コア、食料コア、研究コアと書かれた看板が置いてある。イオ曰く、それぞれの部屋の中には転移装置があり、指定されているコアに繋がっているらしい。しかし、この扉には一つ問題があった。扉を調べていたシィルとフェリスが口を開く。

 

「ランス様、闘将コアへの扉が開きません」

「防空コアの扉もだ」

 

 そう、いくつか扉は固く閉ざされており、中に入る事が出来ないのだ。他の扉も調べたシィルが言葉を続ける。

 

「今開くのは一番奥にある研究コアへの扉だけみたいです」

「ちっ、なら研究コアに向かうとするか。適当に探索してりゃ、キーも他の扉を開く手段も見つかるだろ」

「他に手掛かりもないし、そうするかね」

 

 全員がそれに頷き、研究コアに繋がっているという扉を開ける。イオの言ったとおり、中には転移装置が置かれていた。それを利用し、ルークたちはまず研究コアの探索をする事にした。

 

 

 

-研究コア 地下一階-

 

「……誰かいるぞ?」

「えっ? またイラーピュに飛ばされた冒険者の方でしょうか」

 

 研究コアを進んでいたルークたちだったが、前から近づいてくる人の気配を感じ立ち止まる。すると、前からぶたバンバラを率いた老人が歩いてきた。あちらもルークたちを見つけるや否や、歩みを止める。

 

「誰じゃ、今日の実験体の管理者は。何故実験用の人間がうろうろしている! 減俸だ!」

「……何を言っているんだ、このじじいは」

「さぁ、ちょっとおかしいんじゃないの?」

 

 ルークたちを指差しながら、老人は後ろに引き連れているぶたバンバラを怒鳴りつける。明らかに頭のネジが一本、二本は外れていそうな老人だ。ランスとイオがそう話していると、それまで怒鳴っていた老人が急に冷静になったかと思うと、ニヤリとあくどい笑みを浮かべる。

 

「くくく、逃げ出した悪い実験体は、ワシの開発した新型の闘将で捕らえるとしよう。この研究さえ完成すれば、まだまだ聖魔教団は負けはせん、くひひ……」

「……確かに、イオの言うとおり狂っているのかもしれんな」

「やれい、バンバラたち!」

 

 涎を垂らしながらぶつぶつと独り言を呟いている老人を見て、ルークも彼が狂っているかもしれないと考え始めていた。そのまま老人が後ろのぶたバンバラに指示を出すと、ぶたバンバラが数体こちらに向かってきた。

 

「来るぞ!」

「ふん、ぶたバンバラ如き相手ではないわ!」

「けちょんけちょんの、ぎったんばったんにしてあげるわ!」

「(あの二人、割と性格似ているな……)」

 

 迫ってきたぶたバンバラに全員が身構えるが、ある程度の余裕を持っていた。通常のぶたバンバラであれば、流石に相手ではない。同じようなノリのランスとイオをフェリスが似たもの同士と見ている中、ランスが黄金の剣をぶたバンバラ目がけて振るう。しかし、ガキンという金属音と共にランスの剣が弾かれた。

 

「なんだ!?」

「ちょっと! こいつの体、滅茶苦茶頑丈よ!?」

「ランス様……このぶたバンバラ、サイボーグです!」

 

 イオの放った雷の矢にも殆ど効いている様子を見せない。通常のぶたバンバラよりも遙かに強い事にシィルが驚愕の声を上げ、すぐにルークたちにも声を掛ける。

 

「ルークさんとフェリスさんも気をつけ……あれ?」

「ま、こんなもんだな」

「相手にならないな」

 

 が、ルークとフェリスは既にランスとイオが相手をしていた以外の全てのぶたバンバラを倒していた。人類最強を倒した男と、下級魔人と同格の力を持つ悪魔。通常のぶたバンバラよりも強化されているとはいえ、この程度の敵では足止めにもならない。

 

「早っ……」

「おっと、そっちにもいたか。ふっ!」

「ぷぎゃぁぁぁぁ」

 

 ルークが真空斬を放ち、イオとランスが対峙していたぶたバンバラに命中させる。悲鳴を上げながら倒れるぶたバンバラ。

 

「ほら、まだ息はあるからトドメをさして少しでも経験値を得ておけ」

「えぇい、光の神が余計な事をしなければ俺様もそっち側だったというのに! 俺様に施しをしたからといって良い気になるんじゃないぞ! ふん!」

「文句を言いながらも、しっかりとトドメはさすんだな……」

 

 ランスが倒れていたぶたバンバラにトドメをさし、敵が全滅する。しかし、先程までいたはずの老人の姿が見えなくなっている。イオがきょろきょろと周囲を見回しながら、口を開く。

 

「あら、あのイカレた奴はどこへ行ったのかしら?」

「本当だな。こんな場所で出会えた貴重な人間だ。情報を聞き出したかったんだがな……」

「シィル、見ていたか?」

「あの変なおじいさんでしたら、戦闘が始まるとすぐに走って逃げて行きました」

「なにぃ、黙って見逃したのか!?」

 

 シィルを怒鳴りつけるランスを見ながら、イオが内心うずうずする。もし縛魅了の魔法が成功していれば、ここで上手い事誘導してあのシィルという小娘を鞭で叩き、ストレスを発散しているところだ。だが、そんな事は出来ない。邪魔な相手が一人いるのだ。若干Sっ気のあるイオがやきもきしている中、その邪魔な相手が口を開く。

 

「あれだけの数が迫ってきた上に、速攻で逃げられたんじゃ仕方がないだろ。さぁ、追うぞ。逃げた方向は判っているんだしな」

「まったく……奴隷に文句を言う前に自分で捕まえろよな……」

「何か言ったか、フェリス!」

「……いえ、ランス様」

「ふん、まあいい。さっさとあのイカレたじじいをぶった斬るぞ」

 

 そう、今ランスを宥めたこの男、ルークの存在がもの凄く邪魔なのだ。ここまでに現れたモンスターを悪魔と一緒に次々と撃破し、今のぶたバンバラも瞬殺した。圧倒的に強く、間違いなく洗脳は不可能。下手な動きを見せて反感を買う訳にはいかない。あの見るからに奴隷気質な娘をイジメるのをグッと堪え、イオはルークたちの後についていった。そのまま一同が通路を少し進むと、研究室のような部屋に辿り着く。気を紛らわさんとばかりにイオが張り切った声を上げる。

 

「さて、キーを探すわよ!」

「すぐに見つかればいいんだがな」

「おじいさんの姿が見当たりませんね」

「まあ、キーを探すために迷宮を歩き回っていれば、その内また会えるだろ」

「うむ、優先度的にはイカれたジジイよりもキーが上だ」

 

 先程の老人の姿は見えなかったが、いかにも大事な物が置いてありそうな研究室を発見したルークたちはその部屋を手分けして調べ始める。シィルが本棚、イオが机周り、フェリスは羽で飛んで他の者が届かない場所を見る。

 

「フェリス、もっとちゃんと調べろ!」

「お前もちゃんと調べろ!」

 

 フェリスに偉そうに文句を言うランスだったが、自分は部屋に置いてあったベッドで横になっていた。それに苦言を呈しながら、ルークも部屋の中を探し回る。すると、机の上に置いてあった一枚の紙が目に入った。

 

「……闘将メモ。そういえば、さっきのじいさんが闘将とか言っていたな」

 

 先程の事を思い出しながら、ルークはそのメモを手に取って目を通す。

 

「闘将を起動させるには脳に強力な魔力を注ぎ込む事。そもそも闘将とは何だ……闘将は食事を必要とせず、定期的な魔力供給さえあれば半永久的に動く存在。闘将は闘神の命令に絶対服従である……なるほど、ここではその研究をしていたのか……」

 

 先程現れたぶたバンバラは闘将の実験の末に生まれたものだったのかと納得するルーク。だが、闘神とは一体何なのか。気になるところではあるが、メモはここで終わっていた。他にも何かないかと机の上を探ると、机の正面にある壁に小さな穴が空いていた。

 

「……これは?」

 

 丁度覗き込める程度の穴であったため、ルークがその穴に目を近づける。

 

 

 

-カスタムの町 ランの自宅-

 

 チサと亮子に連行され、勝負すら出来ずにカスタムに戻ってきていたラン。今はピンクのパジャマ姿でベッドの上に横になっている。随分と落ち込んだ様子だ。彼女は町の人から真面目で冷静な印象を持たれており、当然ルークも同様の印象を持っている。しかし、その彼女が突如ベッドの上でジタバタと動き始める。

 

「ヤダヤダ! 私もルークさんの事迎えに行きたいの!」

「もう地味な娘だってルークさんに思われるのはイヤなの!」

「ディナーの約束も有耶無耶になっちゃったし……ヒック……ぐすん……」

 

 ひとしきりベッドの上でジタバタした後、自然とランの手が下腹部へと伸び始める。

 

「んっ……」

 

 

 

-研究コア 地下一階-

 

 スッと穴から目を離し、机の上に置いてあった物を動かしてルークは壁の穴を塞ぐ。そのまま顎に手を当てて顔を俯けていると、ルークの上空からフェリスが心配そうに話し掛けてきた。

 

「どうした? 何かあったのか?」

「……イヤ、見えるはずのないものが見えたというか……見てはいけないものを見てしまったというか……思った以上に俺も疲れているのかもしれんな……」

「はぁ?」

 

 遠い目をしながら答えるルークにフェリスが呆れたような顔をする。もし今見た光景が自分の妄想だったとしても、あるいは空間がねじ曲がって見えてしまった現実の光景だとしても、やるべき事は一つ。

 

「(地上に戻ったら、食事にでも誘うか……)」

「きゃっ!」

 

 ルークがそんな事を考えていると、突如後ろからシィルの驚いた声が聞こえてくる。ルークとフェリスが振り返ると、シィルの目の前に空中に玉が浮かんでいた。玉は不思議な魔力を帯びているようで、青白く発光している。

 

「なんだ、それは?」

「判りません。部屋を調べていたら急に……」

 

 呆然としているシィルを横目にイオが玉に近づいていき、少し調べる素振りを見せた後驚いた様子で声を上げる。

 

「これはかつて世界を紅蓮の炎で包んだ灼熱の玉よ。あぁ、駄目。触ってはいけないわ。地上が燃やし尽くされるわよ!」

「なにぃ!? シィル、さっさと離れろ!」

「ひぇぇぇぇ……」

「……そんな話聞いた事ないぞ」

「嘘だもの」

「…………」

 

 イオの嘘を聞いてランスとシィルが慌てているのを横目に、フェリスが冷静に突っ込む。そんな事をしていると、徐々に玉が輝きを増していき、うっすらと人の形になっていく。現れたのは一人の少女であった。

 

「うらめしや……」

「おお、美少女ではないか。ラッキー!」

 

 少女の容姿を見るや否や、ランスが少女に向かって飛びかかる。恐るべき早業だ。しかし、ランスの体は少女をすり抜けてしまい、そのまま地面へと勢いよくダイブする。

 

「あが!」

「ゆ、幽霊さんみたいですね……」

「……貴方たちは教団の人ではないのですか?」

「教団……? いや、よく判らないが」

 

 ランスとシィルのやりとりを不思議そうに見ていた少女の幽霊がルークに尋ねてくる。聞き覚えのない単語にルークがそう返事をすると、少女の幽霊が驚いたような顔をし、直後頭を下げてくる。

 

「お願いします! 私を成仏させてください!」

「がはは、やはりこのパターンか。優秀な冒険者である俺様は、美少女の幽霊と聞いた瞬間すぐに判ったぞ。ありきたりな王道パターンだ」

「流石です、ランス様! ぱちぱち」

「もうちょっと捻って欲しいわよねー」

「すいません、ありきたりで……」

「ああ、あっちは気にしなくて良いから話を続けな」

 

 ランスとイオが勝手な事を宣い、その言葉を聞いた幽霊は申し訳なさそうに頭を下げる。どうにも理不尽な扱いである。同じく理不尽には慣れているフェリスがフォローを入れ、話を続けさせる。

 

「私の名前はナチュリ・ドラといいます。何百年も前の事なのでしっかりとは覚えていないのですが……村で生活をしていた私はある日教団に攫われ、生体実験をされた記憶があります」

「酷い……」

「あまり聞いていて気分の良い話ではないわね」

 

 シィルとイオが顔を歪める。嘘を頻繁につくイオも、流石にこのような話は気分が悪いらしい。

 

「で、もし君を成仏させたら、何か俺様たちにメリットはあるのか? その体で払ってくれてもいいんだがな、ぐふふ……」

「……既に肉体がないので体でのお礼は出来ませんが、もし成仏させていただけたら私が持つ鍵を差し上げます」

「鍵!? それって……」

 

 それくらいしか渡せない事を申し訳無さそうにしているナチュリだったが、鍵と聞いてフェリスが驚いた様子でルークに振り返る。

 

「……四つのキーの一つかもしれんな。それで、君はどうすれば成仏する?」

「この先に『死者の安息の地』という場所があります。そこに私の白骨死体があるはずです。それに聖水をかけていただければ、私は成仏出来ます。ですが、モンスターが多く発生する場所でもあるので……」

「聖水か……」

 

 ルークが顎に手を当てる。流石に聖水までは持ち歩いていない。この場にセルがいれば良かったのだが、いない者を考えても仕方の無いことだ。聖水を持っていそうな教会関係者を考え、一人の人物が浮かぶ。

 

「フェリス。一度帰り木で町に戻り、シンシアから聖水を受け取ってきて貰えるか?」

「……どうして私なんだ?」

「今一人で安心して行動させられるのはお前だけだからな。その間に、その場所にいるというモンスターたちを片付けておくさ」

「……まあ、ルークなら心配ないか。それじゃあ、ちょっと行って来るよ」

 

 ランスとシィルが低レベルの今、単独行動はさせられない。とはいえ、全員で町に戻っていたのでは時間が惜しい。ルークの意見に同意したフェリスは帰り木を受け取り、町へと帰還する。

 

「さて、俺たちはモンスター退治に行くぞ」

「うむ、精々頑張ってこい」

「お前も行くんだよ。少しでもレベルを上げておけ」

「ちっ」

 

 フェリスを見送った後、ルークたちはナチュリから指示された場所へと向かう。面倒臭がるランスを引きずって部屋に入ると、その部屋にはそこら中に白骨死体が散らばっていた。

 

「ここから探すのか? 面倒臭いからその辺の骨に聖水をかければ、ナチュリちゃんも納得するんじゃないのか?」

「……確かに手間が掛かりそうだな」

「それよりも、これ全部生体実験の被害者なの? 教団っていうのはとんでもない集団みたいね……」

 

 尋常ではない数の白骨死体にルークもランスの意見に同意してしまう。これは骨が折れそうだ。骨を眺めていたイオが不快そうに呟いていると、突如部屋の中に不気味な声が響き渡る。

 

「ここは死者の地。生者が近づく事は許されん。今すぐ立ち去れ!」

「ふん、ナチュリちゃんとのHが待っているんだ。そう言われて立ち去れるか!」

「……そんな約束していたか?」

「してないわね」

 

 ランスが聞こえてきた声にそう返す。全く記憶に無い約束にルークとイオが首を捻っていると、部屋に響いていた声が止んだ。

 

「お? 俺様の素晴らしい目的に死者も黙ったか?」

「ランス様、違うみたいです!」

 

 シィルが前を指差すと、そこにはカタカタという音を鳴らしながら立ち上がる白骨死体がいた。それに呼応するように部屋中に散らばっていた骨たちが立ち上がる。酷い光景にイオが嫌そうな顔をしていると、先頭に立っていた骨がヌンチャクを振り回しながら口を開く。

 

「ならば、死あるのみ!」

「ファイティングボーンか……死者を冒涜するようで悪いが、倒させて貰うぞ!」

 

 珍しいモンスターの登場に驚きながらも、ルークは妃円の剣を抜いて身構える。既にそれなりの付き合いとなっているルークの愛剣が、向かってくるファイティングボーンに反応するようにその手の中でキラリと光った。

 

 

 

-闘神都市 とある一角-

 

「パイアール様、到着しました」

「ふぅ……ここに来るのも久しぶりですね」

 

 戦艦エンタープライズから魔人パイアールが降りてくる。側に控えるのは十人の改造戦士。PGシリーズと呼ばれる彼女たちは、パイアールが攫ってきた女性を人体改造して造り出した女性型戦闘兵器だ。パイアールが戦艦から降りてくるのを出迎えるようにずらっと並んでいる。その中心にいるのは、他のPGシリーズよりも機械部分の少ない女性。彼女はPG-7と呼ばれるPGシリーズの最新型で、他の者たちはPG-xmk2と呼ばれる量産型であった。性能差は段違いであるため、彼女がリーダー的役割を担っている。

 

「パイアール様はこちらにいらした事が?」

「魔人戦争の終盤でね。ノスとレキシントンが道を開いてくれたので入りやすかったですけど、調査を始めてすぐに戦争が終結してしまったので、完全に調べきれていないのが心残りでね」

「そうだったのですか。それでは、どちらに向かわれますか?」

「以前調査途中だった場所へ向かいましょう。PG-7と、mk2の内6体ほどはついてきてください」

「はっ! 他の者はエンタープライズで待機。近寄るものがいたら八つ裂きにしろ」

「ハイ、ソレガパイアール様トPG-7様ノゴ希望」

 

 機械的な口調で返事をするmk2。どうやら言語機能に関してもPG-7とはかなりの性能差があるようだ。PG-7とmk2がパイアールを囲むように陣を取り、以前調査途中だったという箇所へ向けて歩みを進める。

 

「研究コア……まだ残っているといいんだけどね……」

 

 

 

-研究コア 地下一階-

 

「ありがとうございます。これで安心して成仏が出来ます」

「がはは、気持ちよかったぞ、ナチュリちゃん。グッドだ!」

 

 ランスが満足そうな様子で裸のシィルに話し掛ける。別にこれは名前を間違えている訳では無い。今、シィルの体にはナチュリが憑依しているのだ。ファイティングボーンを片付けたルークたちは何とかナチュリの白骨死体を見つけ出し、フェリスの持ってきた聖水を振りかけた。これで無事成仏出来るようになったナチュリだが、イオの提案でシィルの体に乗り移り、お礼にとランスに体を差し出していたのだ。部屋の外で情事が終わるのを待っていたルークとフェリスが、事を終えたのを察して覗き込んでくる。

 

「ほら、終わったのならさっさと服を着ろ」

「全く、この一仕事終えた後のまったりタイムを理解できんとは……」

 

 捲し立てるルークにぶつぶつと文句を言うランス。そんな中、イオがルークに話し掛ける。

 

「本当に強いのね。それと、さっきはありがとう」

「ああ、気にしなくていい」

 

 先程のファイティングボーン戦で、イオは危ないところをルークに助けられていた。その事に礼を言ってくるが、ルークが気にするなと返事をする。

 

「なんだか、恩人を思い出すわ」

「恩人?」

「ええ、私が見てきた中で最強の人間にして、今こうして私がここにいる切っ掛けをつくってくれた恩人。角が生えていて、口からは灼熱の業火を吐く。自在に空を飛んで……」

「それはもう人間じゃないだろ」

「ま、嘘だからね」

「ふっ……さて、ランスの行為も終わったみたいだし、鍵を受け取りに行くとするか」

 

 呆れたような声を出すフェリスに平然と返すイオ。それに苦笑しながら、ルークはフェリスを伴ってランスたちに近づいていく。イオもそれに続きながら、ルークの背中を見る。先程ルークに助けられた際、一瞬だがその強さに恩人の事を思い出していた。先程の話は殆ど嘘だが、恩人がいたというのは本当の事である。少し昔を思い出しながら、小さな声でイオが呟く。

 

「トーマのおじ様……どうして死んでしまったのですか……」

 

 その呟きは、誰の耳にも届く事はなかった。

 

「それでは、さようなら……」

「フェリス、魂は回収しないのか?」

「幽霊に魂は無いよ。あれは妖怪なんかと一緒で、魂はとっくに回収されている存在だ」

「へぇ……」

 

 ナチュリが成仏し、報酬の鍵を受け取ったランスがイオにそれを見せる。

 

「がはは、これが一つ目のキーだな!」

「……研究室の鍵? これじゃないわ。必要なキーはWキー、Eキー、Nキー、Sキーの四つよ」

「なにぃ!? では、タダの骨折り損ではないか!」

「あれだけ楽しんでおいて、骨折り損もくそもないだろ……」

「まあ、もしかしたらこの研究室にキーがあるかもしれない事だし、行ってみるか」

 

 鍵を手に入れたルークたちは、一つ下の階にある研究室を目指す事になる。そこに魔人が近づいている事も知らずに。

 

 

 

-闘神都市 とある一角-

 

「ふぅ、ようやく到着ね」

「…………」

 

 パイアールに少し遅れて、ハウゼルとメガラスも闘神都市の地に降り立つ。辺りを見回しながら、ハウゼルがメガラスに話し掛ける。

 

「私はこの都市は初めてなのよね。確か、ノスとレキシントンが潜入した都市よね?」

「ああ……それに続いて……俺とパイアール、ガルティアとレッドアイが潜入した……」

「それじゃあ、道案内は頼んだわ」

 

 そう言われたメガラスはすたすたと先行して歩き始める。その背中を追いながら、ハウゼルが会話を続ける。

 

「それで、どこに向かっているの?」

「……研究コアだ」

 

 こうして、研究コアに魔人たちが集う。ルークと三人の魔人との出会いは目前まで迫っていた。

 

 




[人物]
ナチュリ・ドラ
 幽霊の少女。聖魔教団の一部の暴走した研究者の生体実験により命を落とす。ルークたちのお陰で無事成仏した。


[モンスター]
ファイティングボーン
 ヌンチャクを持った骨の戦士。見た目以上に耐久力もある厄介な敵。

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