ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第67話 三つ巴の攻防

 

-食料コア 地下二階-

 

「死ね。エンジェルカッター!」

「くっ……チョウアンコク!」

 

 ナギの手から光の刃が乱れ飛ぶ。相手がリーザスとヘルマンの人間だと判るや否や、先制攻撃とばかりに全体魔法を放ったのだ。すぐさま志津香が闇の全体魔法を放ち、それを相殺する。その様子を見ながら困ったように頭を掻くサイアス。

 

「始めちまいましたか……状況を確認してからにしたかったんですけどね……」

「なーに、やり合っておれば自ずと相手の人柄も判るってもんじゃ。情報を聞きたければそれからでも遅くないじゃろ」

「……雷帝殿はただ戦いたいだけではないのですか? やりすぎないでくださいよ?」

「保証は出来んの」

 

 カバッハーンが意気揚々と魔力を溜め始め、サイアスも何だかんだで臨戦態勢に入る。ルークを助け出すため、こんな所で倒れる訳にはいかないのだ。

 

「四将軍三人とは厄介だな……一時リーザスと共闘という訳には……」

「やれ、ヒューバート! リーザスのクソ共とゼスのクソ共を皆殺しにするのだ!」

「いかないか……状況判断くらいしろってんだ……はぁっ!」

「ふっ!」

 

 ヒューバートが愚痴りながらかなみに剣を振る。素早く振られたその剣を躱しながら、かなみも忍剣で斬りかかる。即座に剣を反転させて忍剣を受け止め、感心したようにかなみの目を見るヒューバート。

 

「やるじゃないか、お嬢ちゃん。リーザスにも忍がいたとはな」

「はぁっ!」

「おっと、真面目な忍みたいだな。ヘルマンが契約を結んでいる女忍者に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだな」

「ついでに親衛隊に在籍している、役立たずの先輩にも飲ませたいですわね。ふっ!」

 

 かなみの忍剣をバックステップで躱したヒューバートだったが、直後横から剣が迫ってくる。それは、先程まで自身が首筋に剣先を向けていた親衛隊の少女、チルディだ。奇襲とも言える一撃だったが、ヒューバートは自身の剣で軽く受け流す。

 

「おいおい、二対一かよ……」

「(一撃も当たっていませんですけどね……)」

「(この人……強い……)」

 

 軽口を叩きながらも、かなみとチルディの攻撃を易々と躱すヒューバート。明らかに自分たちよりも格上の相手。かなみとチルディの頬に汗が流れるが、次いで冷たいものが頬に当たる。周囲を見回すと、白い粉のようなものが舞っている。触ると冷たく、手の熱で溶けてしまう程儚い存在。それは、雪。

 

「雪……?」

「まさか!」

「ちっ! 横やりを……」

 

 自分たちの周囲に舞っている雪が何なのかにいち早く気が付いたヒューバートが術者を睨み付ける。その視線の先には、右手を掲げて三人を見ているウスピラの姿。

 

「氷雪吹雪……」

「火爆破!」

 

 舞っていた雪が三人に襲いかかろうとした瞬間、志津香が炎魔法を放ってその雪を溶かし尽くす。

 

「大丈夫、かなみ、チルディ!?」

「ありがとう、志津香!」

「助かりましたわ」

「ついでに助けて貰っちまったな。上司の許しが出りゃ、共闘したいところなんだが……」

「そんな手には乗らないわよ。雷撃!」

「おっと……割と本気なんだがな……」

 

 志津香がヒューバートにも魔法を放つが、それを後方に跳んで躱すヒューバート。だが、着地した瞬間に横から炎の矢が飛んでくる。不意を突かれたため躱しきれず、左腕でその炎を振り払う。

 

「つっ……」

「まずは貴様からだ!」

「あ、あにいに……なにするだ!」

 

 ナギの放った炎の矢で軽く火傷をし、熱そうに手をブンブンと振るヒューバート。そのヒューバートに対して追撃しようとするナギだったが、ヒューバートを傷つけられて怒り心頭のデンズが斧を振りかぶりながら突進していく。

 

「し、死ね!」

「防御付与! ライトくん!」

「キュー!」

 

 だが、デンズの斧は突如割って入ってきたウォール・ガイによって阻まれる。キューティが指示を出し、ナギを守ったのだ。防御付与で硬くなったウォール・ガイは、デンズの強烈な一撃を完全に受けきる。

 

「アスマ様、防御はこのキューティにお任せを!」

「ああ、任せる」

「続いてレフトくん! 左からこっそり近寄って来ている女の剣を受け止めて!」

「げっ!? ばれていますですかー! ええぃ、とぉぉっ!」

「キュー!」

 

 トマトがこっそりとゼス勢に近寄っていたが、しっかりとそれに気が付いていたキューティはすぐさまウォール・ガイに指示を出す。今更退けないため、一か八か剣を振りかぶってキューティに攻撃を仕掛けるトマトだったが、こちらも割って入ってきたウォール・ガイに阻まれてしまう。トマトの剣をガシリと受け止めたウォール・ガイだったが、直後にぷるぷると震え出す。

 

「あれー? なんですかー?」

「まずいだ……」

 

 ウォール・ガイの様子を見たデンズは慌てて斧を引くが、トマトは剣をウォール・ガイに当てたまま呆気に取られている。何が起こるかが判っていないのだ。

 

「いけない! トマトさん、早く剣を引いて!」

「へ?」

 

 慌てて真知子が叫んだが、時既に遅し。直後にウォール・ガイから強力な反撃の電撃が発せられ、トマトの全身に電流が走る。

 

「あわわわわわわ! 痺れるですぅ……」

「あっちのでかいのは知っていた訳ね。トマトを引っ張ってくるから援護を!」

「はい、チューリップ1号、いって!」

「いっけぇぇ、私のチューリップ!」

 

 敵であるキューティの目の前で倒れ込んでしまうトマトを救うためにロゼが駆けていき、その援護に香澄とマリアが砲撃をする。だが、サイアスが指をパチンと鳴らすと、床から突如火柱が立ち上がり、キューティに向かっていた砲撃が空中で爆発する。

 

「なっ!?」

「火爆破」

「マジか……えぇい、仕方ない! 食らいなさい、ロゼ姉さんの最終奥義、神聖分解波!!」

「マズイ! ライトくん、レフトくん、全力ガード!!」

 

 援護射撃が爆散してしまったため、ロゼは完全に無防備な状態でキューティに駆けていってしまっている。ロゼに対して迎撃の魔法を放とうとしていたキューティだが、直後ロゼが真剣な表情になったのを見る。次いでその口から出たのは、問答無用で体力を奪う上級魔法。慌てて二体のウォール・ガイに自分の体を守らせるキューティだったが、いつまで経っても魔法が放たれない。恐る恐るウォール・ガイの隙間からロゼを確認すると、既にロゼはトマトを引きずって逃げているところだった。

 

「そんな凄い魔法使える訳ないでしょ、やーい!」

「う……あ……むきー!!」

「「キュー!!」」

「やれやれ、まだまだ実戦経験は足りていないか……」

「あちらの神官が一枚上手……」

 

 怒りで顔を真っ赤にしながら叫ぶキューティと二体のウォール・ガイ。それを見ながらサイアスはため息を漏らし、ウスピラはロゼの剛胆さを褒める。と、丁度良い感じに間合いが出来ている。戦いを止めるなら今だ。

 

「さて、そろそろ互いに冷静になってだな……」

「待て、サイアス。ワシの攻撃がまだじゃ」

「やれやれ……」

 

 サイアスの言葉を遮るカバッハーン。振り返って見れば、全身からバチバチと電流を帯びた魔力が溢れている。サイアスがため息をつきながら一歩横にずれる。カバッハーンのために攻撃の斜線上を空けたのだ。ニヤリと笑うカバッハーン。

 

「さて、耐えきれるかの? 電磁結界!」

「防ぎきれるか……電磁結界!」

 

 カバッハーンの全身から放たれた魔力が電撃を帯びてリーザスとヘルマンの面々を襲う。あまりの眩しさにカバッハーンの姿が一瞬見えなくなるが、志津香が即座に魔法を放ち真っ向から相殺しようとする。だが、流石に雷魔法での勝負ではカバッハーンに分がある。志津香の魔力を持ってしても完全には相殺しきれず、残ってしまった魔力の束が一気に志津香の体に流れ込む。

 

「きゃぁぁぁ!」

「志津香!」

「ちょっと……えぇい、回復の雨!」

 

 トマトを引きずってきていたロゼがすぐさま回復の雨を唱える。その雨が志津香とトマトに降り注ぎ、受けた傷を少しずつ癒していく。その様子を見ながら、カバッハーンは顎に手を当てながら興味深げに声を漏らす。

 

「ふむ……先程からあの魔法使いの娘、中々にやりおるわい」

「闇、火、雷と既に三属性もの魔法を使っていますね……それに、威力も高いです……」

「ゼスに欲しいくらいの人材ですね」

「ふふ……面白いな、あの女……」

 

 四将軍の三人と四天王のナギ、その全員が志津香に興味を持ち始める。たった一人でこちらの魔法攻撃を抑えているのだ。否が応にも注目は集まる。そのとき、水路の方から大声が響いた。

 

「属性パンチ・氷!!」

 

 それは、アレキサンダーの声。水路に落ちたアレキサンダーはその水に対して拳を放つと、その場所だけがみるみる内に水が凍る。その氷の上に両手を置き、勢いをつけて空中に高く跳び上がる。突如水上から高く跳び上がった芸当に驚くゼスの面々。

 

「なんと。水上から一気に跳び上がってこちらに向かってくるとは……」

「器用な……本当に格闘家か?」

 

 その様子に驚きながらも、特に焦った様子もないカバッハーンとサイアス。空中にいるこちらに攻撃をしてこようともしない。その様子に眉をひそめるアレキサンダーだったが、考えている時間はない。そのままカバッハーンに向かって全力の拳を放つ。

 

「ご老体、覚悟! 属性パンチ・炎!」

「おぅおぅ、年寄りを労らんかい」

 

 カバッハーンが余裕のある口ぶりでそう言うと同時に、アレキサンダーの拳がカバッハーンの顔面に命中した。

 

「おお、やりましたですー!」

「流石アレキサンダーさん!」

「いや……違う!」

 

 トマトとマリアが歓声を上げるが、アレキサンダーが目を見開く。全くと言っていいほど手応えがなかったのだ。すると、今殴ったはずのカバッハーンの体と、その側に控えていたサイアスの体が四散する。

 

「幻影!?」

「雷と光の魔法を合わせると、こういった事も出来るのじゃよ」

「なっ!?」

 

 その声は、アレキサンダーが立っていた場所からはかなり離れた位置から聞こえてくる。カバッハーンは光の屈折を利用して、自身の幻影をその場に置いていたのだ。だが、そんな暇はなかったはず。志津香も当然『雷帝』の名はよく知っていたため、要注意人物であると考えカバッハーンから極力視線を外さないようにしていた。完璧に視線を外したのは、先程電磁結界で周囲を強烈な光が覆ったとき。その考えに至り、志津香が目を見開く。

 

「まさか……さっきの電磁結界は目眩ましも兼ねて……」

「戦いとは半歩先を読むものじゃよ。ライトニングレーザー!」

「スノーレーザー……」

「ホワイトレーザー!」

「やれやれ、ファイヤーレーザー」

「うぅ……一応雷撃!」

 

 四将軍の三人とナギがそれぞれの属性のレーザーを放つ。そのレベルの魔法を放てないキューティは恥ずかしそうにしながら一応雷撃を放ち、五つの強力な魔法がリーザスとヘルマンの面々に迫る。志津香も白色破壊光線を放つために光の魔力を両手に溜めていたが、とても間に合わない。瞬時にその光の魔力を別の魔法に変換し、迫り来る魔法に向けて放つ。

 

「光爆!」

「属性パンチ・炎! 属性パンチ・雷! はっ!」

 

 志津香の放った光爆がライトニングレーザーとホワイトレーザーを防ぎきり、相殺する。その爆発音を聞きながら、アレキサンダーが右腕に炎を、左腕に雷を纏わせ、ファイヤーレーザーと雷撃を同時に撃ち落とす。流石にサイアスの放ったファイヤーレーザーを完全に相殺する事は敵わず、手に多少のダメージを負うが、それでも直撃を受けるよりは遙かにマシだ。ゼスの面々がその二人の対応を見て驚く。

 

「なんと……光まで使えるのか!?」

「あちらの格闘家も凄いですよ。両手に炎と雷を纏っている。魔力とは少し違いますね……」

「特異体質か?」

「三人とも……ヘルマン兵が近づいてきている……」

「うぉぉぉぉ!」

 

 ウスピラの言葉通り、デンズがゼスの面々に向かって猛突進を仕掛けてきていた。ウスピラの放ったスノーレーザーを正面から受けたデンズは肩に凍傷を負っていたが、まるで気にする様子もなく向かってくる。

 

「頑丈な奴じゃのう」

「皆様、下がってください。ライトくん、レフトくん、全力でガード!」

「その必要は無いな」

「へ?」

 

 キューティが再びウォール・ガイにガードさせようとするが、サイアスがそれを制する。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

「……うぃ」

「!?」

 

 デンズが斧を振りかぶった瞬間、その横から突如女の声が聞こえてきた。目を見開いてそちらに視線を向けると、そこにはいつの間にか新手の女が立っていた。その女がハンマーを横薙ぎに振るい、強烈な一撃がデンズの脇腹に直撃する。バキボキという骨が砕ける音を響かせながら、デンズの巨体が吹き飛ぶ。

 

「デンズっ!」

「セスナさん!」

「うぃ」

「かっかっか。やはりあの嬢ちゃんは、残りの二人とは違うようじゃの」

「一体どこにあれ程のパワーが……?」

 

 セスナの強烈な一撃を受け、一気にヒューバートのいる辺りまで吹き飛んだデンズ。一体あの華奢な体のどこからあれ程の力が出ているというのか。想定していたよりも遙かに頼りになるセスナの実力にキューティが内心嬉しく思う。流石に自分の選んだ傭兵四人が全員ハズレとあっては、出世の道が閉ざされるからだ。脇腹を押さえているデンズにヒューバートが近づいていく。

 

「大丈夫か?」

「な、何本か骨が砕けてるだ」

「俺も左腕を火傷しちまってるから、万全じゃないな……んっ!?」

「そこまでよ!」

 

 そのとき、更に新手の声が響き渡る。全員がそちらに視線を向けると、そこに立っていたのはレイラとメナド。アレキサンダーに続き、彼女たちも水路から上がってきたのだ。別に彼女たちを倒した訳ではなかったのだから、長期戦になれば必然的にこうなる。

 

「不意をつかれたけど、もうそうはいかないからね!」

「レイラさん、メナド!」

「不味いな……リーザスの方にも新手か……」

 

 ヒューバートが眉をひそめながら呟く。戦える人数的に、自分たちが圧倒的に不利な状況。レイラはヘルマンとゼスの面々を交互に見ながら、剣を抜いて宣言する。

 

「リックももうすぐ来るわ。覚悟しなさい!」

「リックだと!?」

「リーザスの赤い死神が来ているんですか!?」

「ふむ……そいつは厄介じゃのぉ……」

「やはり先程の騎士は赤い死神か……となれば、取る手段は一つ。逃げるぞ、ビッチ!」

 

 リックの名前を聞いて驚いているゼス勢を尻目に、ヒューバートはデンズに肩を貸して一気に後ろへと駆けていく。勝ち目がない現状、逃げるのが上策だと判断したのだ。ビッチがこちらへ駆けてくるヒューバートに文句を言う。

 

「くそっ、お前がさっさと奴らを始末しないから……この無能め!」

「こんな姑息な作戦立てる方が無能なんだよ。それに、人数が違いすぎる」

「とにかく撤退だ。クソ共め、覚えておけよ!」

「逃がすと……」

 

 ヘルマンの四人が後方へと駆けていくが、このまま逃がすほどこの場にいる者たちは甘くない。すぐに追いかけようとしたが、それを阻止したのはこれまで一番目立っていなかったヘルマンの一員、メリム。

 

「メリム!」

「はい!」

 

 メリムが懐から煙玉を出し、床に向かって投げつける。即座に発生した大量の煙がヘルマン調査隊の姿を隠していく。カバッハーンが魔力で煙を吹き飛ばそうと試みるも、どうやら特別な調合をしている煙玉らしく、吹き飛ばすどころか煙の勢いが増してしまった。姿を消していくヘルマンの面々を睨み付けながら、チルディが叫ぶ。

 

「敵前逃亡など、騎士のやる事なんですの!?」

「悪いな、ちっちゃい嬢ちゃん。俺は騎士じゃない、戦士だ」

「!?」

「くっ……雷の……」

「無駄だ、キューティ。もう遅い」

 

 雷の矢を煙に向かって放とうとするキューティだったが、サイアスに止められる。煙が晴れた頃には、ヘルマン勢の姿は忽然と消えていた。少人数で遅れを取っていたヘルマン勢だったが、少人数だからこそ撤退も素早い。ふぅ、とサイアスが一息つき、リーザスの面々に向き直る。

 

「さて、どうするかな? そろそろ話し合いで解決とはいけないものかな?」

「いきなり襲ってきておいて……」

「かっかっか。既にドンパチ始めている状況じゃったからの。少し汗を流した方が落ち着くというもんじゃ」

「どんな理論ですの!?」

 

 カバッハーンが悪びれる様子もなく笑い飛ばす。先に仕掛けたのはナギなのだが、そこら辺の責任は全てカバッハーンが取るつもりのようだ。互いに向き直り、身構える。リーザスは前衛が多く、ゼスは後衛が多い。相性的にいえばリーザス側が逆転した状況ともいえる。だが、ゼス陣営には全く焦りの色は見えない。その堂々とした立ち振る舞いが、リーザス陣営に焦りを生ませる。

 

「レイラさん……リックさんがもうすぐ来るというのは……」

「本当よ。でも、あまり当てにしないで……」

「え?」

 

 小声でレイラに耳打ちするマリアだったが、レイラから返ってきたのは意外な言葉。リーザス最強の戦士、リックを期待するなとは一体どういう事なのか。すると、こちらに駆けてくる足音が聞こえてくる。リックかと期待してそちらを見る面々だったが、駆けてくるのは三人の女性。

 

「おい、セスナ。勝手に一人で行くな!」

「貴女みたいな眠り姫が戦えるほど甘い相手では……」

「いや、十分役に立ったぞ」

「使えないのは……貴女たち二人だけ……」

「「なんとっ!?」」

「これは後で徹底的に鍛えるとするかの。楽しみじゃわい」

 

 リーザス側の期待は打ち砕かれる。やってきたのは、ゼス側の増援であった。どうにも緊張感の無い二人であり、カバッハーンやウスピラの雰囲気も若干和らぐ。カバッハーンから後で鍛えるという言葉を聞き、ぶーぶーと文句を言い始めるシャイラとネイ。

 

「勝手に決めるな、クソジジイ!」

「断固として断ります!」

「んっ!?」

「「お手柔らかにお願いしますっ!」」

 

 だが、カバッハーンの一睨みを受け、抗議をしていたシャイラとネイが即座に土下座をする。既にカバッハーンの恐ろしさを嫌というほど体に刻み込まれている二人であった。同じくカバッハーンに頭の上がらないサイアスが若干苦笑しながら土下座している二人を見ている。

 

「また新手が……」

「それも、前衛みたいね……」

「でも、大した事はなさそうですー」

「……あの二人、どこかで」

 

 やってきた二人にどこか見覚えのあるかなみは顎に手を当てる。知り合いではない。だが、少し前にどこかで会ったような気がする。かなみが必死に記憶を探っていると、ゼス勢の頭上に突如雨が降った。

 

「回復の雨。皆様、大丈夫ですか?」

「マズイ、ヒーラーの増援とは……」

 

 シャイラとネイの影に隠れてよく見えなかったが、もう一人の増援はヒーラーらしい。リーザス有利と思われていたが、前衛とヒーラーの追加はそれを逆転させかねない。全員がその女性に視線を向けると、神官の服を着た女性は視線を感じたのか、クルリとその顔をリーザスの陣営の方に向ける。

 

「……って、セルじゃないの!?」

「えぇぇぇぇぇ!」

「な、なんでゼスの人と一緒に?」

 

 それは、見知った顔であった。共に解放戦を戦い抜いたレッドの町の神官、セル。ロゼがいち早くそれに気が付き、次いで一同が声を上げる。マリアが代表して疑問を投げるが、セルはのほほんとした様子で返事をする。

 

「あら、皆さん。もしかしたら会えるかもと思っていましたが、本当に会えるとは……これも神の思し召しですね」

「……知り合いかい、セルさん」

「はい。以前お世話になった方たちです。とてもいい人たちなんですよ」

「で、敵なのか?」

「へ? て、敵ではないかと……」

 

 ナギのど直球な質問にたじろぎながら答えるセル。その言葉を聞いたサイアスがスッと手を下ろし、レイラに向かって提案を投げる。

 

「ひとまず、状況確認といかないかい? そちらの知り合いもいるみたいですしね」

「……ええ、こちらも異論はないわ。無駄な戦闘は避けられるに越した事はないから」

 

 レイラも構えていた剣を下ろす。敵国ではあるが、知り合いであり人格者でもあるセルがいるのであれば話は変わってくる。元々闘神都市に来た目的はルークたちの救出なのだ。無駄な争いは避けたい。他の面々も次々に臨戦態勢を解いていき、マリアはその場に漂っていた緊張感が四散するのを感じた。一度息を吐き、ゼス側を代表して話し始めるサイアス。

 

「さて、何から話したものか……」

「そちらの目的は? ゼスが何故イラーピュに?」

「技術力の塊である空中都市の調査が目的さ。それと、もう一つ理由はあるがな」

「セルさん?」

「本当です。もう一つの理由というのは知らされていませんが……」

 

 サイアスの言葉が真実かどうかセルに問いかけるレイラ。その質問に対し、セルはコクリとレイラに向かって頷く。どうやら本当の事らしい。

 

「それで、そちらの目的は……」

「あー、思い出した!」

「かなみ!?」

 

 今度はサイアスがレイラに尋ねようとした瞬間、かなみが大声を出してシャイラとネイを指差す。

 

「貴女たち、リスの洞窟で以前会った……」

「ん? お、お前はあの時の女忍者!」

「ルークとランスの仲間だった奴じゃない! 何でこんな所に? あれ、あの二人は?」

「かなみ、知り合い?」

 

 シャイラとネイもかなみの顔を思い出し、互いに指を差し合う。メナドがどういう関係なのかかなみに尋ねている目の前で、サイアスはネイの口から飛び出したルークという名前に表情を変える。

 

「ルーク……だと……?」

「ええ、それが私たちの目的よ。ルーク、ランス、シィルの三人の冒険者を救助するためにここに来たの。リーザス解放戦における恩人たちなの」

「何だと!?」

「なんじゃ、こちらと理由が被っておるようじゃの」

「え?」

「さっきのもう一つの理由は……冒険者ルークの救助……」

 

 ウスピラが言った理由にリーザス救助隊の面々と、理由を聞かされていなかったゼス側の面々が揃って目を見開く。まさか、ゼス陣営もルークたちの救助に来たというのか。一体何の為に。

 

「なっ!?」

「ゼスもルークさんを……」

「一体どうして……」

「口から出任せという訳ではないでしょうね?」

「違うさ。調査がメインで、こちらは個人的な理由だ。ルークと俺は旧友でな」

「それだけで軍を動かしたと言うの?」

 

 訝しむ志津香。だが、その反応は当然だ。上手い事こちらに話を合わせ、油断したところで寝首を掻くつもりなのかもしれない。だが、サイアスは平然としながら言葉を続ける。

 

「まあ、似たような事態で以前十年も行方を眩ませているんでな。心配にもなるさ」

「十年って……あの時の?」

「ほう。そちらにも知っている方がいるみたいだな」

 

 十年と聞いてかなみと志津香は以前聞いた話を思い出す。その様子を見たサイアスはフッと笑う。案外リーザスにも深い事情を知っている者がいるじゃないかと嬉しくなったのだ。そのとき、真知子が以前カスタムの町の祝賀会でルークが話していた事を思い出す。

 

「そういえば……ペペさんを、ゼスにいる知り合いの偉い軍人に紹介すると以前……」

「ペペ? 写真家の娘かな? それなら、紹介して貰ったぞ」

「どうやら嘘じゃないみたいね」

「なによ、ただの骨折り損じゃないの」

 

 ペペと言う名前で写真家と判るのであれば、どうやら言っている事は本当の事だろう。はぁ、とロゼがため息をつくと同時に、何人かがその場に座り込んでしまう。緊張の糸が完璧に解けたのだろう。レイラも腰に手を当てながら、サイアスに向かってこちらの結論を投げる。

 

「目的は同じみたいだし、お互い邪魔はしないで不干渉って事でいいかしら?」

「そうだな……いや、ここは互いに協力しないか?」

「協力? 敵国であるゼスと?」

 

 サイアスから返ってきた意外な言葉に目を丸くするレイラ。まさか魔法使い絶対主義のゼス側からそんな提案があるとは思っていなかったのだ。そのまま自身の意見を口にするサイアス。

 

「ああ、正直言うと、調査よりもルークの捜索の方がメインでな。救助の可能性が高まるなら、こちらとしてもありがたい。雷帝、どうですかな?」

「ふむ、そうじゃの……こちらは前衛がイマイチ弱い。そちらも後衛をその魔法使いの娘に任せすぎな節がある。そちらにも悪い提案ではないと思うがの」

「い、いえ。そうでなくて、大丈夫なの? 魔法使いでない私たちと協力して……」

「ん? ああ、そういう事か。ウチの国の悪習も世界に広まっている事で……」

 

 ようやくレイラが何を気にしているのかに合点がいくサイアス。ゼスの悪しき慣習は他の国にも広く知れ渡ってしまっているのだ。だが、この場にいる者たちにその慣習は通じない。サイアスがチラリと他の面々に視線を向ける。口火を切ったのはセスナだ。

 

「別に……構わない……」

「かっかっか。有事の際の出来事じゃ。後から文句を言う輩が出てきたら、ワシが責任を取る。キューティ、お主はどうじゃ?」

「私も特に異論はありません」

「アスマ様とウスピラは?」

「構わない」

「…………」

 

 カバッハーンが笑い飛ばし、以前の出来事で考え方が変わっていたキューティもそれに賛同する。ナギも気にした様子を見せず、ウスピラはグッと親指を突き立てて賛成の意を示した。魔法使いでない者たちを傭兵として下に置くのではなく、あくまで協力関係としての立場にしようというのだ。魔法使い絶対主義のゼス側から出た提案とは思えなかったためレイラが戸惑うが、どうやら目の前にいる五人の魔法使いはその思想が薄いようだ。

 

「反対! ルークには恨みがある!」

「そうだ、そうだ!」

 

 全員が賛成ムードの空気を破ったのは、シャイラとネイ。不満げな表情でぶーぶーと抗議をしてくる。

 

「恨み? どんな恨みが……?」

「私たち二人は、あいつに無理矢理犯されたんだ!」

「「「「なっ!?」」」」

「えっ、えぇぇぇぇ!?」

「ルーク殿が……まさか……」

 

 どうせ大した恨みじゃ無いんだろうと踏んで質問をしたレイラだったが、返ってきたのはとんでもない内容だった。困惑する一同。俄には信じがたい。

 

「嘘です! ルークさんがそんな事するはずありません!」

「女の敵……サイアス、本当にその男大丈夫なの?」

「いや、ルークがそんな事をするはずが……」

「それ、やったのランスだけじゃないの?」

 

 一同が慌てふためく中、話を聞いていた志津香は腕を組みながら冷静に問いかける。

 

「まあ、あたしはランスだけだな。でもネイが……」

「えっ? 私もランスだけだけど?」

「へ? じゃあ、なんであたしたちルークを恨んでいるんだ?」

「……さぁ?」

 

 首を傾げるシャイラとネイ。自分たちが恨んでいる理由が判らないものを、他の誰かが判るはずもない。だが、どうやら二人の勘違いだったようだ。安堵するトマト。

 

「ホッ……よかったです」

「人騒がせのバツじゃ。電磁結界」

「「ぎゃぁぁぁぁ!」」

「きゃはははは、骨が見えてる」

 

 カバッハーンの電撃をまともに食らい、骨が見えるほどの衝撃を受けるシャイラとネイ。ジュリアが爆笑し、他の面々も人騒がせな二人へのお仕置きを苦笑しながら見ている。それを横目に、サイアスがレイラに向かって手を差し出す。

 

「勘違いで攻撃を仕掛けてしまい、申し訳ない」

「それはこちらも同じようなものよ」

「だが、これからは味方だ。よろしく頼む」

「あ、ちょっと待って。リーダーは私じゃないの。マリアさん」

「え? は、はい」

 

 レイラに呼ばれてサイアスの前まで出てくるマリア。レイラを差し置いてこの少女がリーダーをやっているのかと、サイアスが興味深げにマリアを見ている。

 

「ほう。こちらがリーダーか。サイアス・クラウン。一応調査隊の責任者をやらせて貰っている。短い間だがよろしく頼む」

「マリア・カスタードです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 互いに手を握り合うサイアスとマリア。一時的とはいえ、リーザスとゼスが手を組んだ瞬間であった。やれやれと帽子を深く被り直す志津香に、ナギがゆっくりと近づいていく。

 

「……何か?」

「お前、中々強いな。これほどの使い手に会ったのはゼスの軍人以外では久しぶり……いや、初めてかもしれない」

「貴女もね……四将軍や四天王という訳ではないんでしょう?」

「ああ、ただの一魔法兵だ」

「本当に人材豊富なのね、ゼスは……」

 

 志津香がため息をつく。先程の一戦で目の前の少女の力はハッキリと判っていた。他の四将軍に引けを取らない、いや、下手したら彼女の方が上かも知れない。こんな人材が一魔法兵と聞いては、最早ため息しか出ないというものだ。その志津香にナギは問いを投げる。

 

「名前は?」

「志津香よ。貴女は?」

「アスマだ」

「そう、短い間だけどよろしくね。アスマ」

 

 スッと志津香が手を差し出すが、ナギはその手を不思議そうに見ているだけであった。

 

「……これは?」

「握手よ。それくらい知っているでしょう?」

「なるほど、これが握手か」

「ふふっ、変な娘ね」

 

 ナギのおかしな様子に自然と笑いが込み上げる志津香。しっかりと手を握り合う二人を遠目で見ながら、マリアが首を傾ける。

 

「(あの二人……なんだろう。全然違うのに、どこか似ている気がする……)」

 

 それは、志津香と長年連れ添ってきた親友のマリアだからこそ感じた微かな感覚。顔も性格も似ていない。それなのに、何か同じ空気を纏っているように感じるのだった。

 

「あ、リックさんが戻ってきたです」

「よかった、リックさんも無事だったのね」

「噂に名高いリーザスの赤い死神か……」

 

 水路に落とされ、ずぶ濡れ状態のリックがふらふらと戻ってくる。だが、どこか様子がおかしい。何やらビクビクしているように見える。よく見れば、リックは愛用のヘルメットをしていない。どうやら水路に落ちた際、水に流されてしまったらしい。普段は隠れている素顔が、今はハッキリと見えている。

 

「あれ? リックちゃんってそんな顔だったんだ。可愛い。もっと恐い顔してるかと思ってた」

「確かにな」

 

 まじまじとリックの顔を見る一同。文句なしの美青年であり、少し童顔。化粧をすればそんじょそこらの女性よりも綺麗になりそうな顔立ちであった。興味深げに自分の顔を見てくる一同を見ながら、リックは怯えた様子で口を開く。

 

「あの……モンスターが出そうですし……恐いし……一旦テントまで帰りませんか?」

「……へ?」

「り、リックさん?」

「これが……赤い死神……?」

 

 まさかのリックの発言に一同が困惑する。はぁ、とレイラが深くため息をつき、頭を掻きながら言いにくそうに口を開く。

 

「そう、これが赤い死神リック・アディスンのもう一つの顔よ。リックはヘルメットがないと、気弱な性格になってしまうの。まさかゼスに知られちゃうなんてね……」

「ふむ……赤い死神の弱点見たりじゃな」

「この事はどうか内密に……」

 

 ゼスに機密クラスの事を知られてしまい、レイラは内心焦る。だが、カバッハーンもサイアスも内密にしてくれると快く約束してくれた。ウスピラもグッと親指を立ててくる。どうやら世間に知れ渡るのだけは避けられたようだ。

 

「さて、まずはヘルメットを探すとしますか」

「そうですね。リック殿がこのままというのは、あまりにも痛い」

「すいません……」

「えー……こっちのリックちゃんの方が可愛いのに……」

 

 こうして一時的に協力関係になったリーザス救助隊とゼス調査隊。ひとまずリックのヘルメットを探し、その後ルークたちの捜索をする方針となった。

 

 

 

-上部司令室-

 

「くそっ! リーザスとゼスのクソ共め、忌々しい!」

「ビッチ様、落ち着いてください」

 

 何とか逃げ延びたヘルマン調査隊。ヒューバートとデンズの怪我は既にビッチが治療していた。ビッチが忌々しげに喚き、メリムが宥めているのを横目で見ながらヒューバートは考え事をする。

 

「な、何考えてるだ、あにい。や、奴らの事だか?」

「ん……ああ、そんな事じゃない。そんな事じゃ……」

「お、皇子の事だな……」

 

 ヒューバートの返答に何か感づいたデンズ。そのまま皇子の事だなと問い直すと、ヒューバートの表情が歪む。

 

「パットンが魔人に裏切られて死んだだと? 嘘だ! ミネバのくそババアめ……あいつは生きている。絶対に……そんな簡単にくたばるような奴じゃない……」

「おでも……そう思うだよ……し、シーラ派の言う事なんか……嘘に決まってるだ」

「早く……早く帰ってきやがれ、グータラ皇子め……」

「…………」

 

 ヒューバートの悲痛な呟きにデンズが一瞬黙った後、真剣な表情で言葉を続ける。

 

「あにい……おでたちも……い、生きて帰らないと……」

「そうだな……こんな、こんな所で……死ねないな……」

 

 ヒューバートがかつての事を思い出す。パットン、アリストレス、そして自分。父であるトーマの指導の下、共にヘルマンの未来の為に鍛錬を積んだ子供時代。

 

「あいつが帰ってくるまで……死ぬ訳にはいかない……」

 

 父は死に、友は行方不明になった。だが、あの日の誓いはまだその胸に残っている。

 

 




[人物]
ビッチ・ゴルチ
LV 4/12
技能 神魔法LV1
 ヘルマン調査隊メンバー。ヘルマン評議委員の一人で、親の七光りを利用して出世してきたが、本人の才能は文武共にない。超兵器発見のため、イラーピュ調査へと乗り出す。

ヒューバート・リプトン (4)
LV 40/60
技能 剣戦闘LV1 弓戦闘LV1 盾防御LV1
 ヘルマン調査隊メンバー。トーマの息子にして、パットンの親友。リーザス解放戦においてパットンが死んだというミネバの報告を信じておらず、今でもパットンの生存を信じている。

デンズ・ブラウ
LV 45/52
技能 剣戦闘LV1
 ヘルマン調査隊メンバー。ヘルマン第2軍に所属する兵士で、ヒューバートの事を「あにい」と呼んで慕っている。実力は高く、もう少し周りに指示を出せる性格であったのなら、将軍・副将といった地位にいてもおかしくない隠れた強者。剣の才能に気が付いておらず、斧を使っているのも惜しい点の一つ。


[技]
エンジェルカッター
 光属性の中級魔法。複数の光の刃で敵を切り裂く魔法で、高威力でありながら比較的覚えやすい。

チョウアンコク
 闇属性の中級魔法。魔力を帯びた暗雲を敵に放つ技だが、使い手があまりいない魔法である。

電磁結界
 雷属性の中級広域魔法。敵の周囲を高電圧の電磁波が襲う魔法で、麻痺効果も付属する。

ライトニングレーザー
 雷属性の上級魔法。強力な電磁砲を敵に放つ。

スノーレーザー
 氷属性の上級魔法。両手から冷凍光線を放ち、敵を氷漬けにする。

ホワイトレーザー
 光属性の上級魔法。ライトニングレーザーと混同しがちだが、こちらが光属性。

光爆
 光属性の中級広域魔法。ライトボムと読む。強力な光の爆風が敵に襲いかかる。
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