ランスIF 二人の英雄   作:散々

73 / 200
第72話 宿敵の鼓動

 

-イラーピュ 草原-

 

「さて、キューティが隠したのはこの辺りだったかな……?」

 

 カサドの町を出て、単身飛行艇の隠してある場所へと向かったサイアス。もうそろそろキューティが隠した茂みのはずだと口にしながら、頭では先程聞いたルークの話を思い出していた。

 

「闘神都市にいる魔人は三人。岩で覆われたような容貌のメガラス、美人のハウゼル、そして、白髪のガキのパイアール。メガラスとハウゼルはこちらから手を出さなければ害はないが、パイアールは危険、と。やれやれ、俺の友人はどうしてこんなに魔人の事に詳しいのかねぇ……深く突っ込むと蛇どころでは済まなそうだがな」

 

 ため息をつきながら歩き続けるサイアス。ルークの目指す人類と魔人の共存という目的。これを本人の口からハッキリと言われた事は無いが、何となくそうなのではないかと見当はついていた。ルークもサイアス相手には特に隠すような素振りを見せていなかったため、そこに至るのは必然だったのだろう。だが、それを知った上で、サイアスはあえて聞くような事はしなかった。ルークを信頼しているからである。

 

「どうせ出会うなら、ハウゼルでお願いしたいところだが……んっ?」

 

 軽口を叩いていたサイアスだが、突如表情が真剣味を帯びる。茂みの奥、飛行艇を隠したと思われる場所から気配がするのだ。サイアスが身構えながら、茂みを掻き分ける。そこに立っていたのは、女性。だが、その体の半分以上が機械に覆われている。そして、肝心の飛行艇が見当たらない。想定外の事態にサイアスは声を漏らす。

 

「これは……」

「破壊シタ飛行艇ノ持チ主ト思ワレル人物ヲ発見」

「破壊しただとっ!?」

 

 サイアスが目を見開くと、突如目の前の女性、PG-xmk2の腕が剣に変わる。

 

「パイアール様ノ命令通リ、現レタ人間ヲ抹殺シマス」

「パイアール……そうなると、こいつは魔人の部下か!」

「魔法使イ一人、問題アリマセン。抹殺ニ移リマス」

 

 そう言葉を発し、サイアスに向かって駆けてくるmk2。彼女はやってきた人間を殺すようパイアールに命じられていたため、一人でこの茂みに待ち伏せていたのだ。相手の人数が多く、分が悪そうならば状況収集だけして撤退しろと命じられていたが、現れたのは魔法使い一人。これならば自分が後れを取る訳がないと判断し、mk2はサイアスを殺すべく向かってきたのだ。

 

「問題ないか……舐められたものだな。火爆破!」

 

 サイアスがmk2目がけて火爆破を放つ。地面から噴き上がった火柱がmk2に直撃したが、そのすぐ後に炎の中からmk2がこちらに向かって飛び出してくる。機械に覆われていない部分には火傷の跡、だが、それを全く気にする様子もない。mk2は痛みに怯まず、死すら恐れていない。

 

「心まで機械という事か……」

「多少ノダメージヲ負ッテモ、接近戦ニ持チ込メバコチラノ勝チデス。抹殺シマス」

 

 サイアスに向かって剣を振るうmk2。後衛である魔法使いが自分の剣を避けられるはずがない。万が一避けたとしても、間違いなく体勢を崩す。そうなれば、もう一度剣を振るうだけ。勝ちを確信していたmk2だったが、サイアスは意外な行動に出る。

 

「ナッ……」

 

 魔法使いであるサイアスが臆することなく前進してきたのだ。振るわれた剣をすんでのところで右に躱し、そのままmk2に足払いを仕掛ける。魔法使いがそんな事をやってくるとは思っていなかったmk2は完全に虚を突かれ、体勢を崩してしまう。すぐに立て直そうとしたmk2だったが、突如その顔面を鷲づかみにされる。

 

「馬鹿ナ……」

「悪いな。女性の味方を自負しているが、人類の敵に情けをかけるほど甘くはない」

 

 直後、mk2の顔を鷲づかみにしているサイアスの手のひらが熱を持ち、赤く光り輝く。

 

「掌炎爆破!」

 

 ボン、という音が周囲にこだまする。サイアスの手の平で起こった小規模の爆発がmk2の顔面に直撃したのだ。そのまま崩れ落ちるmk2。

 

「魔法使イガ……接近戦ダト……」

「護身程度だがな。友人に近接戦闘のエキスパートがいるんで、ついつい編み出しちまった」

「ピピッ……行動不能。情報漏洩ヲ防グタメ、自爆シマス」

「ちっ……火爆破!」

 

 そう言い残し、mk2が爆発してその体が砕け散る。サイアスは爆発直前に自身の目の前に火爆破で火柱を出し、爆発の衝撃から自分の身を守る。煙が晴れ、mk2が立っていた場所に視線をやると、そこにはmk2だったものの残骸が転がっているだけだった。顔を歪ませながら、先程のmk2の言葉を思い出す。確かに飛行艇を破壊したと言っていた。

 

「マズイ事になったな……」

 

 サイアスは舌打ちをする。魔人の存在するこの都市からの脱出の手段が断たれてしまった。全員無事で脱出する事が出来るのだろうか。不安になるサイアスだったが、この事を早急に知らせる必要がある。mk2の残骸をその場に残し、サイアスは急いでカサドの町に引き返すのだった。

 

 

 

-闘将コア付近 ヘルマン上陸艇 ビッチの部屋-

 

 闘将コアに繋がっている入り口の側にヘルマンの上陸艇は停まっていた。その艦内へ志津香たちを連れてきたビッチは、四人を拘束したまま自分の部屋へと連れ込む。柱や壁に縛り付けられ、身動きの取れない四人。その四人をイヤらしい目で見ながら、上機嫌に高笑いをするビッチ。

 

「ケヒャケヒャ。拘束されて自由を奪われた娘ほど可愛いものはないのう」

「ぐっ……」

「最低ね……」

 

 志津香とキューティが気丈にビッチを睨むが、下品な笑みを向けられるだけであった。そのキューティのスカートを捲り、下着を覗き込むビッチ。

 

「青と白のストライプか……子供っぽいですね」

「見るな! この変態!」

 

 キューティが足をジタバタと動かすと、ビッチがその手を離す。ウォール・ガイはこの部屋から追い出されているため、キューティを守る者はいない。志津香、キューティ、シャイラ、ネイと順番に見回し、ビッチが高らかに宣言する。

 

「君たちは幸せだよ。これからわたくしが女としての最高の喜びを教えてあげよう」

「い、イヤすぎる!」

「これならまだランスの方がマシだわ!」

 

 あまりの嫌悪感にシャイラとネイが叫ぶ。その二人を上機嫌に見回しながら、ビッチが唐突に懐からナイフを取り出す。キラリと光る刀身に、全員が息を呑む。

 

「さて、まずは髪の毛を切らせて貰おうかな。わたくしは短い髪の方が好みでね」

「ふざけるな!」

「髪は女の命よ!」

 

 更に喚き始めるシャイラとネイ。すると、ビッチが部屋に置いてあった机に向かって持っていたナイフを勢いよく振り下ろす。ガン、という音と共に、ナイフが深々と机に突き刺さる。

 

「うるさい。そうだな……まずはその眼球に一度ナイフを突き刺させて貰おう。これがまた凄く楽しいんだ。豆腐でも切るように、信じられないくらい簡単に刺せるんだよ。ケヒャケヒャ!」

「っ……」

「狂ってるわ、こいつ……」

 

 恐ろしい事を笑顔で言ってのけるビッチ。あまりの恐怖にそれまで騒いでいたシャイラとネイが黙り込み、キューティの顔が青ざめる。そんな中、志津香はビッチの顔を見ながら吐き捨てるように口を開く。志津香は確信する。これは、狂人の顔だ。

 

「誰からがいいかな? そうだな……では貴様から」

「あ、あたしか!?」

「シャイラ!」

「……その二人は私が雇っただけの無関係な人間です! やるなら……私からやりなさい!」

「キューティ……」

「なーに、残念がらなくても、すぐにみんなお仲間だよ。片目仲間だ、ケヒャケヒャ!」

 

 シャイラに狙いを定めたビッチに、キューティが震えながらも声を振り絞る。志津香がそのキューティの顔を見ると、ハッキリと判るほど青ざめている。こんな状態であのような事を言えるとは、一体どれ程の勇気か。心の中でキューティを見直していた志津香だったが、ビッチはそう言ってのけてシャイラにゆっくりと近づいていく。手に持ったナイフが妖しく光り、シャイラが涙目になりながら首を振る。

 

「止めろ……止めてくれ……」

「ではプスッと……」

「ふんっ!!」

「あんぎゃっ!?」

 

 シャイラの眼球目前まで迫っていたナイフは、あわやという所で地面に落ちる。それと同時に、ビッチも地面に倒れ込む。

 

「ふぅ……あ、あぶないところだっただ……」

「えっ……?」

「あんたは……こいつの仲間の……」

 

 志津香たち四人は状況が飲み込めず目を丸くする。ビッチは突如部屋に入ってきたデンズに後ろから殴られ、目を回して気絶してしまっていた。デンズがすぐさまシャイラとネイの拘束を解き始める。

 

「行げ……早く行げ!」

「あんた、どうして……?」

「やっぱり、優しい人……?」

 

 すると、続けざまにヒューバートとメリムも部屋に入ってくる。二人はそれぞれ志津香とキューティに駆け寄っていき、すぐに拘束を解く。

 

「大丈夫でしたか? ウォール・ガイも無事ですよ」

「きゅー! きゅー!」

「ライトくん、レフトくん! よかった……」

「こっちだ、急げ!」

 

 メリムは一緒にライトくんとレフトくんを連れてきており、主であるキューティに返す。キューティの胸に飛び込むライトくんとレフトくんを見ながら、ヒューバートがこっちだと合図を出す。素直について行くと、そこは上陸艇の外。ヒューバートたちは四人を外へと連れ出したのだ。

 

「さぁ、ここから逃げて仲間のところへ戻れ!」

「い、急いで行くだ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 

 見送ろうとするヒューバートたちの言葉をシャイラが遮る。目まぐるしく動く事態に流されていたが、流石にこのまま立ち去る訳にはいかない。それに続くように、志津香が口を開く。

 

「ヘルマン軍の貴方たちが、どうして私たちを助けるの?」

「…………」

「まさか、何かの罠? そういえば、闘将の姿が見当たらない……」

「違います。誤解なさらないでください」

 

 志津香の言葉を聞いたメリムが首を横に振る。その目は真剣そのもの。とても罠とは思えない。一同が困惑していると、ヒューバートがコアの入り口の方を指差しながら口を開く。

 

「闘将は、今は周囲の索敵に出ている。とりあえず、コアの中に逃げ込めば出くわす事はない」

「罠じゃないとしたら……何故?」

「お前ら、あんな奴にいたぶられて楽しいか?」

 

 キューティの問いかけに、ヒューバートが問いで返す。ビッチの顔を思い出して一気にカッとなる四人。

 

「楽しい訳ないでしょ!」

「気分が悪かったです!」

「あのクソジジイ! 一発殴っておけば良かった」

「くっ……思い出すだけで腹が立つわ」

 

 四人が口々に答える。それを聞いたヒューバートは、静かに笑いながら口を開く。

 

「なら、そういう事だ。俺たちもあいつの行動にはついていけんのでな」

「でも、あの男は貴方たちの隊長じゃ……」

「ああ、あんなクズでも隊長だ」

「三人とも……こんな事をしたらただじゃ……」

「お、おでたちの心配は必要ねえ」

 

 心配するシャイラを見て二カッと笑うデンズ。ヘルマン軍という事で先入観を持ってしまっていたが、この三人は悪い人間ではないのかもしれない。そう考えた志津香はヒューバートの目をしっかりと見据え、提案をする。

 

「貴方たち、あんな奴裏切ってリーザスに来ない?」

「それなら、ゼスでも歓迎しますよ。これでも警備隊長の地位は持っていますので、口利きくらいなら……」

「おっと、あたしたちと一緒に傭兵という道もあるぞ!」

「それがいいわ。きっと楽しいわよ!」

「…………」

 

 四人から口々に飛び出す勧誘の言葉。それを聞いたヒューバートは一度目を閉じる。今のヘルマンは腐っている。どこかへ行ってしまいたいと何度思った事か。だが、それは出来ない。

 

「気持ちはありがたいが、それは出来ない。あんな腐敗したヘルマンでも……奴が戻ってくるまでは……」

「奴……?」

「いや、お前たちには関係ない事だ」

「お、おでも、あにぃと一緒にいるだ」

「私も……国に家族がいますので……」

「そうですか……」

 

 だが、三人とも各々の理由からそれを断る。残念そうに項垂れるキューティを前に、ヒューバートは飛行艇をチラリと振り返る。そろそろマズイかもしれない。

 

「さぁ、早く行け!」

 

 ヒューバートがそう指示を出す。確かにいつビッチが起きてきても、あの闘将が帰ってきてもおかしくはないのだ。コアの中へ続く入り口に向かいながら、志津香たちは一度だけヒューバートたちに振り返る。

 

「一応、礼は言っておくわ。名前を聞かせて貰える? 私は志津香」

「ヒューバートだ」

「キューティです。何かあったら、いつでもゼスに来て下さい」

「メリムと言います。その時は是非……」

「でっかい兄ちゃん。二度も助けてくれてサンキューな。あたしはシャイラ」

「ネイです。いつかこの恩は返します」

「デンズだ。べ、別に気にしなくていい」

 

 互いに名乗りあい、そのまま志津香たちはコアの中へと再び潜っていく。こうして志津香たちはヒューバートたちに助けられ、危機を脱したのだった。今どこにいるかは判らないが、少しでも遠くへ。そして、なんとかしてルークたちの下へ。志津香たちは必死にコアの中を駆けていくが、しばらくして異変に気が付く。先頭を走っていた志津香が後ろを振り返ると、そこにはキューティとウォール・ガイしかいない。

 

「……あの二人は?」

「あ、あれ!? さっきまで後ろにいたはずなのに……」

 

 キューティが困惑し、ライトくんとレフトくんもきょろきょろと目玉を動かす。いつの間にかシャイラとネイの姿が消えていたのだ。一方その頃、志津香たちのいる場所とは少し離れた場所、下部司令エリアと呼ばれるところに二人はいた。

 

「なんで二人になってるのよ!」

「あれ、転移装置だったんだなぁ……」

 

 ネイの疑問にシャイラが遠い目をしながら答える。志津香たちの後ろを走っていたシャイラとネイだったが、壁に何か文様が書かれている事に気が付き、シャイラがそれに触ったのだった。すると、突如光が二人を包み、見知らぬ場所へとワープさせられていた。どうやら一方通行だったらしく、戻る手段が見当たらない。

 

「ど、どうするのよ! 自分で言うのもなんだけど、私たち滅茶苦茶弱いわよ! こんな状況でモンスターと出くわしたら……」

「し、心配しなくても、そんな都合良くモンスターなんて……」

「カカカカカ」

「「出たぁぁぁぁぁ!! 逃げろぉぉぉぉぉ!!!」」

 

 噂をすれば影。二人の後ろにはスマイルボーンが立っていた。慌てて逃げ出す二人を笑いながら追いかけるスマイルボーン。こうして志津香たちは、戦闘要員の中では文句なしに最弱クラスのシャイラとネイのパーティー、前衛ガードキューティと後衛魔法使い志津香の理想的なパーティーという二組に分かれたのだった。

 

 

 

-カサドの町 うまうま食堂-

 

 それは、泡沫の夢。

 

「ほら、もう火が通ってるから食べな」

「おう」

 

 たき火を前にしながら、ランスはモンスターの肉を手渡される。空腹であったためすぐにガツガツと食べ始めると、目の前に座っている女戦士がこちらをじっと見ているのに気が付く。

 

「ん、なんだ姐さん」

「いや……ほらほら、ポロポロとこぼすな」

「ガキ扱いすんなよ……ぐふふ、大人なところを今夜にでも見せて……」

「昨日あれだけ懲らしめてやったのに、まだ懲りてないのかい?」

 

 ギロリと女戦士がランスを睨み付ける。昨晩夜這いをかけたランスだったが、こてんぱんに叩きのめされ一晩木の上に吊されていた。はあ、とため息をつく女戦士。

 

「下の子を相手にするのは大変だねぇ……兄貴もこんな気持ちだったのかな……」

「ん? 姐さんは兄貴がいるのか?」

「まあな。兄貴って言っても双子だから、年は一緒なんだけどな。幼い頃から面倒を見て貰っていた」

「ふぅん……どんな奴なんだ?」

 

 慕っている姐さんから出てきた男の影に、それが兄であるにも関わらず少しだけムッとしながらランスが尋ねる。その嫉妬に気が付かず、女戦士は兄の事を思い出しながら言葉を続ける。

 

「そうだな……とりあえず、強いよ。私の剣は兄貴から教わったものだ。それと、あんたとは性格が全然違うね。でも、相性はいい気がするよ。案外良い相棒になるかも……」

「ま、男の話はどうでもいいか。姐さん、おかわり!」

 

 ランスが骨を投げ捨て、次の肉を取ってくれと手を差し出す。自分から聞いておきながら、なんという態度。もう一度ため息をつきながら、女戦士は新しい肉を手渡してやった。それは、随分と昔の話。

 

 

「んっ……」

「ランス様!」

「おっ、目を覚ましたか?」

 

 ランスが目を覚ます。どうやら夢を見ていたようだ。それにしても、何故あんな夢を見たのか。ぼんやりとしながら部屋の中を見回すと、ルークが立っているのが見える。先程の事はよく覚えていない。覚えていないが、ルークにやられた事だけはなんとなく覚えている。

 

「ルーク! 貴様、よくもやってくれたな!」

「ランス様、待って下さい! 説明をしますから!」

 

 怒り心頭の様子でルークに向かって行こうとするランスをシィルが必死に抑え、イオに操られていたという事を説明する。

 

「つまり、俺様が洗脳から解けたのはルークのお陰だと?」

「はい、ランス様」

「馬鹿者! 余計な事をしやがって。イオの洗脳如き、俺様一人で十分脱出出来たわ! そのイオにも逃げられやがって……ええい、こうしてやる!」

「ひんひん、痛いですランス様……」

 

 文句を言いながらシィルの頭をぐりぐりとお仕置きするランス。その様子を見ながら、ルークは苦笑しながら言葉を漏らす。

 

「ふぅ……これぞいつものランスって感じだな」

「これが普通なのか。変わった男だな」

 

 ナギが観察するようにランスの事を見る。部屋の中には食事を終えたチルディとセスナも上がってきており、今後の方針を話し合っているところだった。と言っても、既に話し合いは終盤。サイアスの帰りを待って教会の地下から再び迷宮に入り、みんなを捜すという方針にほぼ決まりかかっていた。シィルへのお仕置きを終えたランスがチルディ、ナギ、セスナの顔を順々に見る。

 

「ん? 見知らぬ美女がいるな。誰だ? 俺様ハーレム希望者か?」

「リーザスとゼス、それぞれから俺たちを救うためにここまで来てくれたんだ」

「チルディと申しますわ。以後お見知りおきを。解放戦の時には縁がなくお会いできませんでしたが、ランス様の武功はリア様から聞いております」

「アスマだ」

「セスナ……ぐぅ……」

「ロゼって言うの。仲良くしてね」

「げぇ、ロゼ!」

 

 ロゼがからかうように自己紹介に混ざると、ランスがイヤそうな顔をする。やはりロゼには苦手意識を持っているらしい。

 

「とりあえず、サイアスが飛行艇を持ってくるのを待つか……」

「うむ。ここにもそろそろ飽きてきた頃だからな。地上に戻るとするか」

「ランス、その事なんだが……」

 

 ドカンと椅子にふんぞり返って地上に帰還する事を決めたランスだが、ルークは伝えねばならぬ事を口にする。マリアや志津香といった他のメンバーが行方不明になってしまった事だ。その説明を聞き終えると、ランスが声を荒げる。

 

「なにぃ!? ルーク! お前がついていながら、どうしてそんな事になっている!」

「……スマン、俺の油断が招いた結果だ」

「ランス殿。ルーク殿のせいではありません。ヘルマンの奴らが卑劣な手を使ってきたからです」

 

 ランスがルークに怒鳴り散らすが、リックが間に入って説明をする。ランスが舌打ちをし、窓の外を見る。

 

「あいつら、俺様に余計な手間ばかりかけさせやがって……犯したるぞ、まったく」

「マリアたちとは食料コアではぐれた。サイアスが帰ってきたら、すぐに捜索に向かう予定だ」

「そういえば、さっきから名前が出ているそのサイアスというのは誰なんだ?」

「ゼスの炎の将軍ですわ。ご存じないのですか?」

「知らん。美人か?」

 

 四将軍のサイアスを知らないと切って捨てるランス。それは美人なのかとチルディに尋ねた瞬間、部屋の扉が開かれる。全員がそちらに注目すると、入ってきたのは件のサイアス。すぐにルークが問いかける。

 

「サイアス。どうだった?」

「それがマズイ事になった……」

「なんだ、男か」

 

 サイアスの顔を確認したランスは、興味なさそうにそう呟く。ランスに視線を向けるサイアス。

 

「ん、何だこの坊やは。こいつがランスか?」

「ぼぼぼ、坊やだと!? 貴様、ぶっ殺す!」

「ふっ……血の気が多いな」

「止めろ、ランス。今のお前じゃ勝ち目はないぞ。こういう奴だから、サイアスも程々に頼む」

 

 剣を抜くランスをシィルとリックが必死に取り押さえる。その様子を見ながら、ルークがサイアスにも忠告する。苦笑しながら頷くサイアスと、未だに飛び掛かろうとしているのを抑えられているランス。相性は良くないであろう二人だった。すると、それまでうとうとしていたセスナが口を開く。

 

「飛行艇……無くなったか、壊されてた?」

「えっ!? 急に何を言うんですの、セスナさん!?」

 

 あまりにも唐突な、それでいて不穏当な発言にチルディが目を見開くが、セスナが言葉を続ける。

 

「この状況でマズイ事になったなんて……それしかない。飛行艇に乗って帰ってくるはずだったのに、乗ってきていないし……」

「ああ、セスナの言うとおりだ。飛行艇が破壊されていた」

「そんな……」

 

 その言葉を聞いて、チルディが絶望する。これでまた帰れる手段が無くなってしまったのだ。

 

「ヘルマンか?」

「いや、やったのは魔人パイアール」

「なっ!?」

「その場にいたパイアールの部下から聞いた話だ。間違いない」

 

 サイアスの更なる報告に、チルディがまたも声を出してしまう。魔人がいると聞かされても、これまでどこか実感が沸かなかった。解放戦で魔人と出会っていないチルディにとって、その存在は遙か遠く、それこそ物語の中でしか語られないような存在だったのだ。だが、魔人の存在を今は確かに感じる。

 

「となると、他に脱出手段を探すしかあるまい」

「ん? イオの話だと、キーを集めればいいんじゃないのか?」

「信憑性は薄くなったな。キーに関しては元々利用しようとしていた節があるし……」

 

 イオの話ではキーを集めれば脱出出来るという話だったが、それは自分たちを上手い事利用するためについた口から出任せである可能性が高い。あのキーは、もっと別の事に使われるものなのだろう。どうしたものかと頭を悩ませる一同。すると、セスナがまたしてもボソリと口を開く。

 

「……ヘルマンの飛行艇がある」

「……あっ!」

 

 セスナの言葉を聞いて、シィルが声を漏らす。ヘルマンもここに来ているという事は、間違いなく飛行艇に乗ってきているのだ。既にうたた寝状態のセスナの頬をぷにぷにと触りながら、フェリスが感心したように口を開く。

 

「この子、意外に出来るわね……」

「ぐぅ……ぐぅ……」

「まぁ、何にせよこれで方針は決まったわね」

 

 ロゼがそうルークに言葉を投げる。コクリと頷くルーク。

 

「ああ、全員の捜索と飛行艇の奪取。それと、見つかればアリシアの救出と魔女退治だな」

「とりあえず、見つけた人を片っ端から救って、敵を倒せばいいんだろ?」

「ふっ……フェリスの言うとおりだ。それなら、判りやすくて良い」

「敵は殺す。それだけだな」

 

 フェリスが要点だけを切り出し、サイアスがフッと笑い、ナギが一言だけ漏らす。それに続くように、チルディが口を開く。

 

「リーザス最強のリック様に、四将軍のサイアス様、悪魔のフェリス様にルーク様とランス様までいらっしゃるんですもの。きっと大丈夫ですわ」

「ま、何にせよ気をつけるべきは……」

「魔人だな。だが、ヘルマンの動向にも注意するんだ。どんな隠し球があるか判らんからな」

 

 そう、ヘルマンには隠し球がある。ルークたちの知らない、闘将ディオという最悪の隠し球が。今後の方針も決まった一同は軽く自己紹介も交えた談笑を始める。ランスとシィルにとっては初見の人物ばかりだからだ。そんな中、ルークは無言で窓の外を眺めていた。

 

「…………」

「イオの事か?」

「ああ」

 

 フェリスに問いかけられ、ルークが答える。ヘルマンの飛行艇を奪取する事を目的にした今、ヘルマンとの激突は必至。即ち、イオとの再会もまた必然となる。自分を仇と憎んでいる、イオとの再会が。

 

「……あんまり、背負い込みすぎるなよ」

「ああ……よし、行くか!」

 

 そうルークが合図をし、一同は食堂を出て教会を目指す。ぞろぞろと町の中を歩いていると、ランスがルークに近寄ってきて小さな声で呟く。

 

「勘違いするなよ。俺様が負けたのは洗脳されていたからと、レベルが下がっていたからだ。本来の俺様なら、貴様如き敵ではない」

「ふっ……そうだな」

 

 わざわざそんな事を言いに来たのかと、ルークは軽く笑う。そういえば、妹も負けず嫌いだったなと少し昔を思い出す。

 

「がはは、待っていろよ。俺様が華麗に救出してやる」

「さて、ヘルマンが出るか、魔人が出るか……」

「不吉な事を言わないでくださいませんこと」

 

 サイアスの言葉にチルディが苦言を呈しながら、一同は教会の隠し扉を通って再び迷宮へと戻っていった。そして、近づく。ルークとディオの出会いが。深い因縁で結ばれる、ケイブリスとは別の、もう一人の宿敵との邂逅が。

 

 




[モンスター]
スマイルボーン
 笑顔のまま戦う骸骨戦士型のアンデット系モンスター。剣と盾で武装し、実力はそれなりに高いため、生半可な冒険者では太刀打ちできない。


[技]
掌炎爆破 (オリ技)
使用者 サイアス・クラウン
 魔力を溜めた手の平を直接相手に押し当て、至近距離で爆破させる近接専用魔法。魔法使いは接近戦に弱いという概念を払拭するため、ルークとの手合わせの間にサイアスが考え出したオリジナル技。


[その他]
分断パーティーまとめ
・本パーティー
 メンバー:ルーク、ランス、シィル、フェリス、リック、チルディ、ロゼ、サイアス、ナギ、セスナ
 現在位置:カサドの町
 現状:全員との合流を目指し行動中

・チーム凸凹
 メンバー:かなみ、ウスピラ
 現在位置:食料コア
 現状:親交深めつつ、合流目指して行動中

・魔法使い+マスコット
 メンバー:志津香、キューティ、ライトくん、レフトくん
 現在位置:?
 現状:とにかく遠くに逃亡中

・リーダーズ
 メンバー:マリア、レイラ
 現在位置:食料コア
 現状:巨大ぷりょに飲み込まれ中

・自由都市連合
 メンバー:アレキサンダー、セル、香澄
 現在位置:下部動力エリア
 現状:合流を目指しつつも、戦力的に無理はせずじっくりと行動中

・真面目枠
 メンバー:メナド、真知子
 現在位置:南の塔
 現状:人の声がする上の階に移動中

・騎士のプライド
 メンバー:サーナキア、トマト
 現在位置:防空コア
 現状:隠された剣を探し中

・雷帝ソロプレイ
 メンバー:カバッハーン
 現在位置:下部司令エリア
 現状:当時の資料読み漁り中

・スチャラカ珍道中
 メンバー:シャイラ、ネイ
 現在位置:下部司令エリア
 現状:生き残りたい

・無理ゲー
 メンバー:ジュリア
 現在位置:上部中央エリア
 現状:声のする部屋に向かって前進中

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。