ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第73話 それは鮮血と共に

 

-食料コア 地下三階-

 

「さて、ようやく戻って来られたな」

 

 見覚えのある分かれ道にサイアスが言葉を漏らす。ルークたちは教会の地下から迷宮へ入り、食料コアの地下三階へと戻ってきていた。目の前には分かれ道。ここで左右の道に分かれてしまったからこそ、パーティーは分断されてしまったのだ。食料コアには初めてやってきたランスが口を開く。

 

「で、どっちにいけばいいんだ?」

「右には部屋が一つあるだけですわ。左に行けば、恐らくは下に通じる階段があるのではないかと……」

「そうだな。とりあえず左に進もう」

 

 チルディの言うとおり、右に進んでも意味はない。ルークたちはそう判断し、左の通路を進んでいく。すると、すぐに下へと続く階段が現れた。

 

「あら、本当に階段があったわね」

「この下に誰かいてくれるといいんだが……」

「水路の流れは結構激しかったから、少し難しいかもな……」

 

 実際に飛んで穴を降り、下に流れる水路を見てきたフェリスがそう口にする。上手い事這い上がれていれば下の階にいる可能性は十分あるが、あの激しい流れでは難しいだろう。だが、ランスは耳を穿りながら口を開く。

 

「まあ、悪運の強い奴らだ。死んでる事はないだろうし、誰かしらいるだろ」

「それを信じるしかないな。行くぞ」

 

 ランスの言葉を受けて、ルークたちは階段を下りていく。そこに仲間がいる事を願いながら。

 

 

 

-食料コア 地下四階-

 

「ふっ……」

 

 ウスピラがぷりょに向かって氷の矢を放つ。氷漬けにされて身動きの取れなくなるぷりょを横目に、かなみとウスピラは通路を進んでいく。

 

「なんだか、ぷりょが大量発生しているみたいですね」

「一体一体は大した相手ではないから、問題はない……ただ……」

「ただ?」

 

 ウスピラの言葉の続きが気になり、かなみが問いかける。

 

「大量のぷりょが合わさって、巨大ぷりょになると普通の手段では倒せない……」

「巨大ぷりょ!? そんなのがいるんですか?」

 

 初めて聞く名前にかなみが驚く。ぷりょは小型のモンスターだとばかり思っていたからだ。そんな話をしながら通路の角を曲がる二人。すると、目の前に二体の巨大ぷりょがいた。そのぷりょを指差しながら、ウスピラが口を開く。

 

「これがそう……」

「見れば判ります! ……って、レイラさん!?」

 

 マイペースなウスピラに突っ込みを入れながらも、かなみはすぐに目を見開く。目の前の巨大ぷりょの透けた体内には、レイラが取り込まれているのだ。

 

「こっちも……」

「マリアさん!? くっ……二人を解放しなさい。はっ!」

 

 ウスピラがもう一体の巨大ぷりょを指差す。そちらには、マリアが取り込まれていた。かなみが素早く忍剣を抜き、レイラが取り込まれているぷりょを斬りつける。斬りつけた箇所が周囲に飛び散るが、その傷はすぐに再生してしまう。

 

「駄目……巨大ぷりょはその強大な再生力から、普通の手段では倒せない……」

「そんな……方法はないんですか!?」

「強力な魔法で一気に消滅させれば倒すのは可能だけど……」

「でもそれじゃあ……」

 

 ウスピラが言い淀むのを聞いて、かなみも声を漏らす。そんな手段を取れば、中の二人はただではすまない。そのとき、巨大ぷりょが何やら奇声を上げた。二人が何事かと訝しんでいると、直後天井から大量のぷりょが降ってきて二人を取り囲む。今の奇声は、このぷりょたちを呼ぶ声だったのだ。

 

「囲まれた!?」

「氷雪吹雪」

 

 焦るかなみを横目に、ウスピラが即座に魔法を放つ。巨大ぷりょを発見した段階で、彼女はいつでも対応出来るように魔力を溜めていたのだ。天井から降ってきた二十を超えるぷりょが全て氷漬けになる。

 

「凄い……」

 

 かなみが唖然とする。いくら雑魚モンスターのぷりょとはいえ、一瞬の内にこれだけの数を片付けてしまったのだ。これが、四将軍。しかし、ウスピラは天井を見上げながら苦い顔をしている。

 

「まだ……」

「えっ!?」

 

 そのウスピラの声に反応するように、再度天井から大量のぷりょが降ってくる。その数は、先程よりも多いくらいだ。

 

「そんな!?」

「マズイ……詠唱が追いつかない……」

 

 ウスピラの言うように、これだけの数を前にたった二人では魔法の詠唱が追いつかない。ウスピラの得意とする氷魔法は他の属性に比べて威力が若干劣るが、その代わりに範囲攻撃に長けているという特徴を持つ。だが、範囲攻撃ともなれば詠唱時間もそれなりに掛かってしまう。先程の氷雪吹雪は先に準備をしていたからの産物であるため、この状況ではとてもじゃないが詠唱が追いつかないのだ。

 

「なら……火丼の術!」

 

 かなみが巻物を口に咥え、火丼の術を放つ。すると、周りのぷりょたちを炎が包み込む。感心したように声を出すウスピラ。

 

「ほぼノータイムでの範囲攻撃……でも……」

 

 ウスピラの言葉に応えるかのように、炎の中からぷりょがのそのそと近づいてくる。今の一撃で倒せたのは全体の半分にも満たない数。かなみの火丼の術は詠唱の短さという利点の反面、あまりにも威力が低すぎるという大きな欠点がある。だからこそ、普段は目眩まし用や相手の妨害など、搦め手として使うのを基本としている技であった。

 

「くっ……ぷりょすら全滅させられないなんて……」

 

 かなみが歯噛みしながら、炎を纏いながら飛びかかってきたぷりょを忍剣で斬る。流石に直接攻撃であれば一撃で倒す事が出来るが、続いて大量のぷりょが次々に飛び掛かってきた。

 

「はっ! ぐっ……はぁっ!」

「くっ……氷の矢!」

 

 本来であれば敵では無いモンスターだが、今はあまりにも数が多すぎる。少しずつぷりょからダメージを受けていき、二人の体が傷ついていく。人手が足りないため後衛であるウスピラにもぷりょの攻撃が及び、集中力を乱される。仕方なく詠唱の長い範囲攻撃を諦め、氷の矢で応戦し始めるウスピラ。その状況がかなみには悔しかった。前衛であるのに、詠唱時間すら稼げない。これがルークやリックであれば、しっかりと時間を稼いでいた事だろうと唇を噛みしめる。そのとき、巨大ぷりょが二人に向かってゆっくりと近づき始めた。

 

「マズイ……私たちも取り込む気だわ……氷の矢!」

「こんなところで……火丼の術!」

 

 一度逃げて態勢を立て直したいところだが、大量のぷりょに囲まれているためそれすらもままならない。火丼の術を使って再び一掃を図るが、やはり威力が弱すぎるため数体を殺すに留まる。このままでは自分たちも取り込まれる。かなみが青ざめた直後、通路に声が響き渡った。

 

「炎っていうのはこう使うんだ。業火炎破!」

 

 その言葉と共に、周囲にいたぷりょ全てを業火が包み、ゲル状の体が蒸発する。ゆっくりと通路の向こうから歩いてきながら、サイアスがウスピラにウインクをする。

 

「白馬の王子様、参上。惚れ直したかい?」

「そもそも惚れていない……」

 

 軽口を叩きながらも、天井から更に降ってきたぷりょに向けて炎の矢を放つサイアス。かなみもそれに対応しようとするが、かなみが忍剣で斬るよりも早く目の前のぷりょが斬り捨てられる。

 

「よかった……無事だったみたいだな」

「ルークさん!」

「がはは、相変わらずのへっぽこだな。何をぷりょ如きに苦戦している」

「むっ……」

 

 ルークとの合流を満面の笑みで喜ぶかなみだったが、直後聞こえてきたランスの挑発にむっとする。苦戦していたのは事実だが、もっと言葉を選んで欲しい。

 

「数は多いが、こちらも十分な人数だ。ふっ!」

「レイラ殿が不覚を取るとは……」

「全く……体がべたつくからぷりょの相手は嫌いでしてよ」

「うぃ」

「えい、炎の矢!」

 

 その後ろではフェリス、リック、チルディ、セスナ、シィルの五人がぷりょの殲滅を始めていた。これだけの人数が揃えば、最早遅れを取る事はない。詠唱時間の確保が容易になったため、ウスピラもようやく本領発揮とばかりに氷雪吹雪を連発し、数分後には巨大ぷりょ以外のぷりょは全滅していた。フェリスがやれやれとため息をつく。

 

「物凄い数だったな……百以上は余裕でいたんじゃないか?」

「うっ……やっぱり体がべたついてしまいましたわ……」

「あっちに水路があるから入ってくれば?」

「あんな勢いの早い水路に入ったら、流されてしまいますわ!」

 

 ウスピラの治療をしているロゼがそう口にするが、それは自分に流されてこいと言っているのかとチルディが突っ込みを入れる。ようやく合流出来た事にかなみがホッとしていると、その体を暖かな光が包む。

 

「いたいの、いたいの、とんでけー」

「ありがとう、シィルちゃん。無事で良かった……」

 

 かなみを更に安堵させたのは、シィルと久しぶりの再会を果たした事であった。ルークから無事であると話は聞いていたが、やはりこうして顔を合わせると安堵できる度合いが違うというもの。ランスはどうでもいいが、シィルが無事で何よりだ。そんな中、ロゼのヒーリングを受けているウスピラにランスがイヤらしい目をしながら近づいていく。

 

「うむ、美人だな。その上アスマ同様、俺様好みのエロい格好だ。どうだ、一発やらんか?」

 

 グッと人差し指と中指の間から親指を突き出し、ウスピラに向けてその拳を見せるランス。

 

「これも友人……? 少し友達は選んだ方がいいと思う……」

「断じて違う」

 

 ウスピラが悲しそうな目をサイアスに向けるが、きっぱりとサイアスがそれを否定する。そんな中、ナギが巨大ぷりょを前に魔力を溜め始める。

 

「後はこいつだけだな。跡形もなく吹き飛ばしてやろう」

「ちょ、ちょっと待ってくださいまし。中にお二人が……」

「それが何か問題でもあるのか?」

「あんたねぇ……」

 

 チルディが慌てて止めるが、何が問題なのか判らないといったような表情で聞き直すナギ。やはり、普通の感性とはどこか違っている。フェリスが何かを言おうとするが、割って入るようにロゼが口を開く。

 

「こっちのマリアは志津香の親友なのよ。死んじゃったら志津香が悲しむでしょうねー」

「むっ、そうなのか? なら止めておこう」

 

 ナギの両腕に集まっていた魔力が四散する。随分と素直に聞いてくれたものだ。やはり彼女に取って志津香の存在はまた別なのだろう。フェリスが感心したようにロゼを見る。

 

「扱いが上手いな」

「これでも神に仕える神官だからね。悩める子羊を導くのが私の役目、アーメン」

「死ぬほどうさんくさいわ!」

 

 後ろの言葉が棒読みであったため、思わずランスが突っ込む。それを横目にしながら、ルークは二体の巨大ぷりょを観察する。二体ともいきなり吹き飛ばそうとしてきたナギに対してすっかり怯えており、こちらに向かってくる気はもう無いようだった。

 

「サイアス。この二人を助け出す方法はないのか?」

「普通の魔法では無理だな。闘神都市のどこかにぷりょスレイヤーという剣があるはずだから、それを探すしかあるまい」

「あれ、どうして闘神都市のどこかにあるとご存じなんですか?」

 

 サイアスの言葉にシィルが疑問を抱く。何故ゼスの人間であるサイアスがその事を知っているのか。当然の疑問だ。

 

「ああ、合流する前にこの闘神都市を調査していたんだがな。そのときに、闘神都市にはぷりょが大量発生しやすい一角があると書かれた資料を読んだんだ。そんな一角があるのに、ぷりょスレイヤーを置いていない訳がないからな」

「この広い闘神都市の中から探し出すのか……」

「なに、そんなに大事な物ならどこかに奉ってあるだろ。例えば……その一角がある、この食料コアの最深部とかな」

 

 サイアスが確信を持って言葉にする。かなりの信憑性を持った言葉に、ルークたちも頷く。

 

「なら、もう少しこの食料コアを探索してみるとするか。他にもまだ誰かいるかもしれないしな」

「この巨大ぷりょはどうしますか?」

「任せておけ」

 

 シィルの疑問を聞いて、ナギが即座に魔法を放つ。螺旋状に放たれた魔力が二体の巨大ぷりょを捕縛し、身動きを取れなくする。

 

「これで町まで運んでおけば大丈夫だろ」

「器用ね……」

「お父様から教わった捕縛用の魔法だ」

「それじゃあ、アスマ様はひとまず町に戻っていてください。食料コアの探索を終えたらすぐに我々も戻りますので」

「かなみ。お前も一緒に戻っておけ」

「え!?」

 

 ルークの意外な言葉にかなみが目を見開く。てっきり自分も探索に加われるものとばかり思っていたからだ。そのかなみを見ながらルークは静かに微笑む。

 

「水路で流された上に、ぷりょに襲われて疲れているだろ。アスマを一人にするのも危なっかしいからな。一緒についていてやってくれ」

「それは……すいません、気遣っていただいて……」

「ウスピラ。あんたも一緒に戻ったらどうだ?」

「私はいい……問題ない……」

 

 サイアスがウスピラも戻るように促すが、それを頑として拒否するウスピラ。任務を途中で放り出すのは嫌らしい。かなみも少し迷っていたが、ルークに説得される形でナギと共に一度カサドへと戻る事にする。

 

「それじゃあ、これが帰り木だ。アスマが使えば町の教会に戻れるはずだ。なに、俺たちも食料コアの探索が終わったら、すぐに戻るさ」

「ありがとうございます。あの……ルークさん、お気をつけて」

「任せておけ」

 

 食料コアの奥へと進もうとするルークたちの背中を見送りながら、かなみはナギと二体の巨大ぷりょと共にカサドの町へと帰り木で帰還する。だが、この場からワープする瞬間、かなみは目を見開く。ルークの背中に、何か暗い影のようなものが見えたのだ。

 

「(何、今の……)」

 

 隣に立つナギには見えていないようだ。不気味な影に、言い表せないような不安をかなみは抱く。そして、その予感は的中してしまう。

 

 

 

-闘将コア付近 ヘルマン上陸艇-

 

「イオ・イシュタル、戻りました」

 

 ルークの暗殺に失敗し、一度上陸艇へと戻ってきたイオ。しっかりと名乗りを上げてから中に入ってみれば、そこにはヒューバートとデンズの二人しかいない。すぐに周囲を見回すが、ビッチとメリムの姿がどこにも見当たらない。

 

「あら? ビッチとメリムは?」

「あの馬鹿はメリムを連れて食料コアへ向かったよ。リーザス軍とゼス軍の妨害をするんだとさ。ツーペア」

「お、おでたちは謹慎中だ。フラッシュだ」

 

 退屈そうにトランプをしていたヒューバートとデンズが答える。呆れた様子のイオ。

 

「謹慎って……一体何やったのよ?」

「ちょっとばかし捕虜を逃がしちまってな」

「それはちょっとばかしで済む問題じゃ無いでしょ……」

 

 ヒューバートは悪びれる様子もなく、平然と答える。ビッチと喧嘩するなと言っておいたのに、どうしてこんな事になっているのかとイオはため息をつく。

 

「それで、任務はどうなった?」

「一応、一つだけだけど鍵を奪ってきたわ。はい」

 

 イオがトランプをやっているヒューバートに向かってEキーを放り投げる。それを受け取るヒューバート。

 

「俺たちもWキーを手に入れたから、これで二つ目か。残り二つ……あの馬鹿の野望が叶うまで、たった二つか……」

「それにしても、あの馬鹿はメリムと二人で何しに行ったのよ。戦闘要員がいないじゃない」

「ああ。あんたがいない間に、最強の闘将とかいうのを復活させてな。それを連れて行ったよ。スリーカード」

「フ、フルハウスだ。おでの勝ち」

「ちっ……」

 

 苦虫を噛みつぶしたような顔をしながら頭を掻くヒューバート。どうやら相当に負けが込んでいるらしい。だが、イオにとってはそんな事はどうでもいい。気になるのは、最強の闘将。

 

「最強の闘将……強いの?」

「……正直、奴とは戦いたくないな。空気で判る」

「あ、あれはヤバイ存在だ……」

 

 ヒューバートとデンズが口を揃えて言うのを見て、イオの目が光る。それだ、そいつを利用すれば、ルークを殺せる。

 

「イオ。あんたも混ざらないか。二人でやっているのも飽きたんでな」

「そうね……それじゃあ、少しだけ混ざらせて貰うわ」

 

 ルークを殺したいという気持ちは、今でもドロドロと胸の内に渦巻いている。だが、一人で勝てない事も十分に判っている。ビッチがその闘将を連れて帰るまで、ここで待つ事に決めたイオ。

 

「そうこなくちゃな。よし、イオが混ざったから、一度今までの結果はリセットだな」

「あ、あにぃ。それはちょっとズルイだ……」

「ねえ、ヒューバート。ちょっと聞きたい事があるの……」

「ん?」

 

 デンズの抗議を無視してトランプをシャッフルし始めるヒューバート。その横顔を見ながら、イオが唐突に質問を投げる。

 

「もし、おじ様の……トーマ将軍の仇が目の前に現れたら、どうする?」

「唐突な質問だな」

「聞かせて貰えないかしら……?」

「そうだな……どのような死に際だったかを聞いてみたいな。武人として、誇りある死に様だったかどうかをな……」

 

 それは、イオの望んでいた答えとは違うもの。

 

「憎くはないの……? お父様を殺した奴を、殺したいとは思わないの……?」

「特には思わんな。流石に死んだと聞かされたときは……まあ、少し思うところはあったが……軍人の息子として、いつでも覚悟していた事だからな」

「と、トーマ将軍の事だ。き、きっと堂々と戦って死んだと思うだ……」

「ああ、そうだろうな……」

 

 感慨深げにデンズと笑い合うヒューバートを見て、イオが唇を噛みしめる。そんなはずはない。正面から戦って、トーマのおじ様が殺されるはずがない。内心では薄情な息子だとヒューバートの事を侮蔑するイオ。そんな思いから、無意識にヒューバートの事を睨んでしまう。

 

「(最近は、少し落ち着いてきたと思ったんだけどな……)」

 

 そのイオの視線に気が付きながら、ヒューバートは無言でトランプを切る。イオがトーマに懐いている事は知っていたし、その死を知らされた直後の焦燥した姿も見ていた。だが、ここ最近は少しずつかつての明るさを取り戻していた。それなのに、今の目はかつて死を知らされた直後の目と変わらない。

 

「(リーザス軍が来ているという事は……いるのか? この闘神都市に、親父の仇が……)」

 

 先程の質問もあり、ヒューバートはその事実に勘付く。人類最強である父を殺した人間。憎しみがゼロという訳ではない。だが、それ以上にどのような人物であるかの興味が勝る。会ってみたい、その人物に。ヒューバートもまた、一人の武人であった。

 

 

 

-闘将コア とある一室-

 

「二つ目のキーが……偶然ではない……」

 

 その部屋には、一人の闘将がいた。部屋には四つの電飾。普段は四つとも光り続けているのだが、今はその内の二つの光が消えていた。隠されたキーが所定の場所から動かされると、消える仕組みとなっているのだ。古い装置で老朽化も進んでいるため、Wキーが奪われたのを今になってようやく反映させられたのだ。闘将は椅子から立ち上がり、読んでいた本を机の上に置く。

 

「また、この闘神都市を動かそうとする者か……フリーク様との約束を果たすため、行かなければ……」

 

 彼女の名は、レプリカ・ミスリー。かつてフリークと共に魔人戦争を終わらせ、闘神都市の封印を守るために一人で残った闘将である。

 

 

 

-防空コア 地下三階-

 

 一方その頃、トマトとサーナキアは遂に探し求めていた剣を発見していた。

 

「これが隠されていた剣ですかねー?」

「そのようだな。二本あるみたいだし、片方はあげるよ」

「こいつはラッキーです!」

 

 探し求めていた剣を発見し、サーナキアは満足そうに口を開く。ここに来るまで、大量のオクトマンとそれを束ねるオクトキングとの激闘を乗り越えてきたからだ。その死闘を思い出しながら感慨に耽るサーナキア。思い出される記憶の中ではトマトの方が敵を多く倒していたように思えるが、それは気にしない事にしておく。気にしすぎると騎士としてのプライドとか何やらがマズイ気がするからだ。床に刺さっている二つの剣に近寄り、斬れ味の良さそうな方を選んで手に取る。

 

「無敵鉄人の剣か……騎士であるボクに相応しい剣だな……くっ、しかし重い……」

「そんな重い剣で大丈夫ですかねー?」

「だ、大丈夫だ。ボクは騎士だからな!」

 

 剣の側にあった説明書きを読むサーナキア。相当の攻撃力を誇っているようだが、反面かなり重い。明らかに自分とは合っていない重量のある剣を持ちながら、サーナキアはトマトに向かって強がりを言う。

 

「こ、これでランスに一泡吹かせられるぞ……」

「それじゃあ、こっちの剣はトマトが貰いますですねー」

「ああ。それじゃあ、町まで戻る事にしよう」

 

 念願の剣を手に入れたサーナキアは、ランスに復讐すべくカサドへと戻る事を決める。トマトはもう一つの剣を床から抜いて、まじまじと説明書きに目を通す。

 

「ぷりょスレイヤーですかー。あんまり斬れ味はよさそうじゃありませんですかねー」

 

 こうして、トマトはルークたちが探し求めているぷりょスレイヤーを偶然にも発見する。彼女自身も気が付いていないが、彼女のアイテムに関する幸運は群を抜いているのだ。その結果によるものであった。しかし、ここにぷりょスレイヤーがあるという事は、必然的に決まる事がある。

 

 

 

-食料コア 地下四階-

 

「何が食料コアの最深部にぷりょスレイヤーがあるだ! この大嘘つきめ!」

「予想が外れたな……」

 

 ランスの文句を甘んじて受けながら、サイアスが頭を掻く。食料コアの探索を続けていたルークたちだったが、どうやらここが最深部らしく、回れる場所も全て回り終えた。その結果、ぷりょスレイヤーも、他の仲間も見つからなかった。一度通った覚えのある通路を歩きながら、ルークが口を開く。

 

「それじゃあ、一度町に戻るとするか。ここからでは、水路を通る以外に他の場所に行く手段はないみたいだからな」

「見つけたぞ、クソ共が!」

 

 町に戻ろうとしていたルークたちだったが、突如後ろから大声が響く。振り返って見れば、そこには三人の人物が立っていた。一度出会ったことのあるリックが叫ぶ。

 

「ヘルマン軍!」

「あいつらか……」

 

 初めて出くわすことになったルークが相手を見る。中央に立っているのは、どう見ても戦えそうにない親父。その横に控えているメガネの少女も戦闘要員ではないだろう。だが、もう一体の人形は違う。見ただけで判る、その禍々しさが。

 

「ケヒャケヒャ! 貴様らを殺すために、わざわざもう一度この場所に出向いてやったんだ。感謝して死ぬことだな」

「戦闘要員の二人がいないのはどういうつもりですの?」

「あの役立たず共など必要ない。わたくしには最強の闘将がついているからな」

「闘将……?」

「ちっ。あの面倒くさい奴か」

 

 ルークとランスが同時に人形に視線を向ける。先日戦ったボォルグよりはスマートな人形。だが、ビッチ曰く奴が最強の闘将らしい。となれば、手強い相手のはずだ。自身の話題になったのを確認したその闘将は一歩前に踏み出し、ビッチの前に立ちながら口を開く。

 

「私はディオ・カルミス。お初お目に掛かる。殺し以外は興味がない、戦う為に生まれてきた存在だ」

「こいつ……やばい……」

「それはわたくしでも何となく判りましてよ……」

 

 ディオの姿にセスナが少しだけ震えながら言い、チルディもそれに賛同する。気が付けば、周りの者たちも既に身構えていた。あのランスですらだ。それ程までに、この闘将が放っている禍々しさが尋常ではないのだ。ビッチに向き直りながら、とんでもない事を平然と口にするディオ。

 

「それで、全部殺してもいいんだな?」

「ケヒャケヒャ! 好きにしろ」

「ふん、俺様に歯向かうとは愚かな奴め。貴様と同じ闘将のボーリングとかいう奴は、俺様の剣の錆にしてやったわ」

「ランス様、ボォルグです……」

「ボォルグ? そうか……ククク、クカカカカ!」

 

 ランスの言葉を聞いたディオは突如ケタケタと笑い出す。その様子に憤慨するランス。

 

「何だ!? 何がおかしい!」

「カカカ、あのような出来損ないのクズを倒しただけで粋がっている貴様の姿が滑稽でな」

「出来損ない……あれが……」

 

 その言葉にシィルが青ざめる。万全の状態でないはずのボォルグがあれ程強かったのだ。もし万全であれば、自分たちが勝てたかは判らない。それ程までに強い相手であった。それなのに、目の前の闘将はそれを出来損ないと言い切ったのだ。

 

「それで、攫っていった四人は無事なんでしょうね」

「むっ……」

 

 ロゼの質問にビッチが顔を歪める。ヒューバートたちのせいでまんまと逃げられてしまっているのだが、それを正直に言うのも悔しいものがある。そんな思いから、つい口から出任せを言ってしまう。

 

「ケヒャケヒャ! あの四人ならたっぷりとその体を楽しませて貰ったわ。それと、全員左目をプチッと刺してやったから、今は片目しか残っていませんけどね」

「「「なっ!?」」」

 

 どちらも自分が失敗した事なのだが、強がりでそう口にするビッチ。その言葉を聞いて、絶句するシィル、チルディ、ロゼの三人。その三人とは対照的に、剛の者たちはビッチに強烈な殺気を送る。フェリスが鎌を持ち直し、サイアスとウスピラが両腕に魔力を溜め、リックがバイロードを伸ばし、ランスが剣を構える。セスナもゆっくりとハンマーを持ち上げるが、そのときには既に動いている者がいた。誰よりも速く、誰よりも強烈な殺気を纏って前へと駆けていたルークがビッチに剣を振り下ろす。

 

「貴様は殺すぞ」

「ひっ……」

 

 キューティ、シャイラ、ネイ、そして、志津香を傷つけられた。その事が、ルークを突き動かしたのだ。だが、振り下ろした剣は金属音と共に止められる。

 

「いい殺気だ……決めたぞ、貴様が私の標的だ」

 

 ディオが素早く右腕をルークとビッチの間に差し入れ、その斬撃を止めていた。首を動かしてビッチに邪魔だと合図を送るディオ。その合図を受けて、ビッチは急いで後ろに駆けていく。

 

「逃がすか! ファイヤレーザー!」

「スノーレーザー!」

 

 サイアスとウスピラがビッチに向けて魔法を放つが、その魔法を自らの体で受け止めるディオ。普通であればただではすまない。シィルやイオの魔法ではボォルグを倒せなかったが、本来闘将は魔法に弱い存在なのだ。特に脳に直接響くような大魔法には、為す術がない。大陸でも屈指の魔法使いである二人の魔法を受けて、無事であるはずがないのだ。しかし、煙が晴れた先に立っていたディオは無傷。

 

「魔法が効かない……だと……」

「ククク……カカカカカ!」

 

 しかし、目の前にいるディオは別。闘将になる前、生前より魔法という存在を信じていなかったディオは、いつしか魔法による痛みを感じなくなっていた。存在しないもの、空想のもの、そんなもので自分を傷つけられるはずがないと思い込んでいたのだ。

 

「ならば、直接殺すだけだ!」

 

 ルークが怒りにまかせて剣を振り下ろす。それを素早く躱しながら、ディオが手刀をルークに繰り出す。ルークもそれを剣で受け流しながら、相対するディオを見やる。

 

「ボォルグと違い、素早いな」

「ククク、あのようなクズと一緒にして貰っては困るな」

「どりゃぁぁぁぁ!」

「ふっ!」

「死にな!」

 

 ルークに続くように、ランス、リック、フェリスの三人が飛び掛かる。地上でも屈指の前衛パーティーだ。しかし、そんな強者たちを前にしながらディオは冷静そのもの。全員の様相を窺いながら、左右から繰り出されたリックの剣とフェリスの鎌を素早く両腕で受け止める。ガキン、という金属音が鳴り響き、攻撃をした側であるリックとフェリスの顔が歪む。

 

「くっ……」

「見た目と違って、さっきのボォルグと装甲も変わらないじゃない……」

「馬鹿め、がら空きだ! ランスアタァァァック!!」

 

 唯一攻撃を受け止められなかったランスが剣を振り下ろす。これまで多くの強敵を屠ってきた必殺の一撃が、ディオの体に直撃する。しかし、顔を歪めたのはランスの方。

 

「硬っ!?」

「雑魚は引っ込んでいろ! ふっ!」

「ちっ……気が付いていたか。真滅斬!」

 

 ランスの体を思い切り蹴飛ばし、その後ろから飛び掛かってきていたルークの剣を再び手刀で受け止める。20程度のレベルとはいえ、ランスも間違いなく強者。だが、ディオにとってはその程度のレベルの相手は雑魚でしかないのだろう。ランスの一撃を受けても、ディオには殆どダメージが無かった。

 

「あんぎゃっ!」

「きゃっ……」

 

 壁の方に吹き飛んだランスは、ビッチと違って逃げ遅れていたメリムに激突する。それを気にする様子もなく、ディオはルーク、フェリス、リックの三人を相手取って互角に戦い続ける。目まぐるしく振るわれる剣と鎌をディオは平然と受け、それどころか手刀で三人に攻撃を繰り出しているのだ。それは、遙か高みの戦い。

 

「レベルが……違いすぎますわ……」

「あの三人を相手に、あそこまで戦うなんて……」

 

 チルディが目の前で繰り広げられる高レベルな戦いに歯噛みする。悔しいが、自分が入り込める戦いではない。ロゼも我が目を疑っている。三人共が間違いなく相当の使い手。それなのに、ここまで互角に戦うというのか。

 

「中々に骨のある奴らだ。だが、私の敵ではないな。皆殺しにしてくれる」

「なっ!?」

 

 そのディオの言葉に、シィルが絶句する。互角と思っていたのは自分たちだけ、ディオからしてみれば、まだ余裕があるというのか。

 

「舐められたものですね……」

「相性悪いかもしれないわ……」

「ちっ……」

「ケヒャケヒャ! 最強の闘将というのは伊達ではないようだな!」

「ククク……カカカカカ!!」

 

 リックがそう口にするが、目の前のディオの強さは既に判っている。ノスほどではないだろうが、それでも自分たちより強い。フェリスもそう口にし、ルークが同意するように舌打ちをする。基本的にはこの三人は直接攻撃主体の戦士。だが、その素早い動きで殆どの攻撃を躱され、たまに当たったとしても硬い装甲で殆どダメージを与えられない。その上魔法も効かないとあってはお手上げだ。ノスよりも戦闘力は下でも、戦い難さはこちらが勝る。ディオが不気味な笑い声を響かせた瞬間、強烈な打撃が腰に直撃する。

 

「……ん?」

「効いてない……」

「セスナ!?」

 

 割って入ることの出来なかったチルディと違い、セスナは悠然とディオに向かって行き、巨漢のデンズをも吹き飛ばした渾身の一撃を繰り出していた。ディオも特にセスナは気にしていなかったのか、直撃を受ける。だが、無傷。一度だけ横に立つセスナを見て、興味なさそうに呟く。

 

「雑魚は引っ込んでいろと言ったはずだが?」

 

 瞬間、セスナの腹部をディオの手刀が貫いた。セスナの口から血が吐き出され、腹部から鮮血が舞う。

 

「ごぷっ……」

「セスナさん!!」

 

 目の前の惨劇にシィルが絶叫する。自身の体に飛んできた血と、肉を抉る感触、そして、通路に響くシィルの悲鳴を聞きながら、ディオが満足げに言葉にする。

 

「そう、その声だ。実に素晴らしい音色だ。絶望に彩られた、素晴らしいハーモニー。ククク、カカカカカ!!」

 

 セスナから手刀が引き抜かれ、その体が崩れ落ちる。瞬間、鬼のような形相をしたルークがディオに向かって剣を振り下ろす。

 

「決めたぞ、貴様は必ず俺が殺す!」

「無理だな……」

 

 ディオが振り下ろされるルークの剣に向かって手刀を繰り出す。それは、先程までの手刀とは違う。闘気を纏った手刀。それを見ていたフェリスは、おかしな現象を目の当たりにする。ルークの剣とディオの手刀が交差する光景が、まるでスローモーションであるかのようにゆっくりと流れているのだ。トーマも、アイゼルも、ノスも、そして魔王ジルも倒してきた、ルークの愛剣である妃円の剣。だがその刀身は、激しい金属音と共にゆっくりと宙に舞った。

 

「なっ!?」

「ルークさんの剣が折られ……」

 

 ディオの手刀により、ルークの妃円の剣は真っ二つに折られる。宙に舞う刀身。目を見開いている無防備のルーク。その腹部に、ディオの手刀が迫る。

 

「避けろぉぉぉぉ!! ルーク!!!」

 

 サイアスの絶叫が通路にこだまする。その声を耳にしながら、ルークはハッキリと聞く。目の前にいるディオの言葉を。先程のルークの言葉を無理だと言った、その回答を。

 

「私がお前を殺すのだからな」

 

 その言葉を言い切った瞬間、ディオの手刀がルークの腹を貫いた。ルークとディオの因縁。それは、吹き出される鮮血と崩れ落ちるルークの体と共に幕を開けた。

 

 




[人物]
ディオ・カルミス
LV 1/100
技能 拳法LV2 剣戦闘LV1 盾防御LV1
 最強の闘将。生前は世界を震撼させるほど名の知れ渡った殺人鬼で、殺した相手の頭蓋骨をコレクションするという趣味を持っていた異常者。最終的に黒髪のカラーによって殺されたが、その脳を利用した聖魔教団の手によって闘将として蘇る。絶対魔法無効化能力を持つため、聖魔教団への服従魔法もディオには効いていない。その存在を危険視したフリークによって封印されたため、彼に深い憎悪を抱いている。ケイブリスとは違う、もう一人のルークの宿敵。


[モンスター]
オクトマン
 赤いタコ人間モンスター。四本腕から繰り出される攻撃は中々に強力。

オクトキング
 オクトマンを束ねるタコの王。強さはオクトマンを少し強くした程度。


[技]
気功拳 (半オリ)
使用者 ディオ・カルミス
 闘気を纏った手刀を繰り出すディオの必殺技。レベルが上がれば威力も増すが、長い封印によってレベルが1である現在の状態でもルークの剣を折り、その体を貫くほどの威力を誇る。


[技能]
拳法
 体術の才能を推し量る技能。似たような技能である格闘は力が重視されるのに対し、こちらは素早さなどが重視される。

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