-闘将コア 地下五階-
「さあ、こっちです。出来れば、もうそろそろランスさんだけでもいいんですけど……」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、別に……」
チャオに先導され、ルークたちは闘将コアの地下五階へと下りてきていた。ぶつぶつと何かを言いながら先導しているチャオ。ここへ来て流石のサーナキアも怪しいと思い始めたらしく、トマトにこそこそと耳打ちをしていた。
「これはボクの騎士の勘なんだが……チャオという女性は怪しいと思うんだ」
「それ、とっくにみんな気が付いているんですかねー」
「なんだって!?」
思わず大声を出してしまうサーナキアの口を慌ててメナドが塞ぐ。そんな中、通路を歩いていると分かれ道に突き当たる。
「さあ、ここを左に曲がればもうすぐ……」
「…………」
「あっ! 見てください、そこの壁!」
チャオは左の道へ進もうとするが、右の道に何やら結界が張ってあるのに気が付いた志津香、ウスピラ、ナギの三人はそちらに視線を向けていた。すると、かなみが声を上げる。目の前の壁に、右の通路を示す矢印と脱出口いう文字が書かれているのだ。
「これは……?」
「脱出口!?」
「そちらには強力な魔法結界が張ってあるんです。強い力を持った魔法使いでないと破壊することは……」
そうチャオが説明した瞬間、魔法結界に向けてファイヤーレーザー、スノーレーザー、ホワイトレーザーの強力な三色の魔法が放たれる。当然、魔法結界は消滅する。
「これでいいのか?」
魔法を放ったのは志津香、ウスピラ、ナギの三人。呆気に取られているチャオにナギがそう尋ねる。
「頼もしい事で……」
「そうか、私が頼もしいか。そうか、そうか」
ルークがそうため息をつきながら漏らすと、何故かナギはその言葉に大きく反応していた。
「って、破壊するのは良いですけど、アトランタはそちらには……」
「少しだけ確認するだけだ。ちょっと待っていてくれ」
そうチャオを制し、右の通路に進んでいくルークたち。みすみす脱出口を素通りする事など出来ない。少し進むと、目の前にかなり広い空間が現れた。そこには大量の飛行艇が置かれている。
「これは……」
「ひ、飛行艇ですわ!」
「凄い数……これだけあれば、カサドの町の人たちも全員連れて行けるんじゃ……」
かなみの呟き通り、カサドの町の人たちを全員乗せても足りるほどの数だ。これが動くのであれば、ヘルマンの上陸艇を奪ったり、キーを集めて闘神都市を動かさなくても良い事になる。メリムとマリアが駆けていき、飛行艇を調べ始める。
「これは……かつて闘神都市から闘将が地上へ降り立つために使っていた飛行艇のようですね……」
「凄い魔法技術だわ……」
「どう、マリア。動きそうなの?」
志津香がそうマリアに尋ねると、マリアが首を横に振る。
「駄目ね……動きそうにないわ。何か停止信号のようなものが出てしまっているみたい」
「停止信号?」
「おそらく、闘神都市の司令部、闘神から停止信号が送られているんだと思います。キーを集めて闘神を動かして信号を止めるか、闘神自体を破壊すれば動かせるようになるかと……」
「ありゃぁ……」
メリムがマリアに代わって答える。その答えを聞いたトマトは目に見えて落胆し、ランスが側にあった飛行艇を蹴り飛ばす。
「結局、キーを集めなければならんのか。このポンコツめ」
「やい、このポンコツめー、なのれす!」
「でも、キーを集めさえすれば脱出出来る事は確定しましたね」
悪態をつくランスとあてな2号とは正反対に、シィルは満面の笑みを溢す。シィルの言うとおり、脱出の為の足は発見したのだ。この収穫は大きい。ルークは全員を見回し、口を開く。
「みんな、この場所は覚えておいてくれ。もし万が一、この先離ればなれになるような事があっても、最終的な集合場所はここかカサドの町のどちらかだ。状況を考え、どちらに集合するべきか考えてくれ」
「はい、ルークさん!」
「ようやく、脱出が現実味を帯びてきたわね」
返事をしたかなみとレイラにも笑みが溢れている。地上に降りられるか定かではなかった状況は、やはり心のどこかでみんな不安に思っていたのだろう。
「それじゃあアトランタのところまで案内しますね。こちらに隠し昇降機があるんです」
「ああ、そうしてくれ」
チャオの案内の下、この場所を立ち去るルークたち。この飛行艇で脱出出来る。そう、そのはずだ。これから先、何もトラブルが起こらなければ。
-闘将コア 地下六階-
「まさか、地下六階への隠し階段があったとはな……」
サイアスたちはジュザンに連れられ、地下五階の奥にあった隠し階段を下り、地下六階へとやってくる。
「くそっ……ハウゼルの奴がいたから昇降機を使えなかった。合い言葉がレキシントンだから、勘付かれちまうかもしれないしな。これじゃあ、アトランタに先を越されちまう……」
「ん、何か言った?」
「い、いえ、別に何も! だから乳を揺らさないでください!」
「好きで揺らしている訳じゃ……」
「揺れません……」
ハウゼルが胸を隠しながら文句を言う。その後ろでミスリーもぶつぶつと言っているが、それは聞き取れない程の小声であった。そのまま通路を歩いて行くサイアスたち。すると、開けた場所が見えてくる。
「あそこです。あそこに魔女アトランタが……」
「ちょっと待った。話し声が聞こえてくるぞ……」
「本当ね。それも、気配も大量にあるわ」
「えっ!? そんなはずは……」
サイアスとハウゼルの言葉を受け、ジュザンが目を見開く。まさか、先を越されてしまったというのか。慌てて駆け出すジュザンと、それを追うサイアスたち。そのまま部屋の中に飛び込むと、そこには十人を超える人が集まっていた。その中には、再会を待ち望んでいたルークとウスピラの姿もある。
「ルーク、ウスピラ!」
「サイアス、ようやく合流出来たな!」
「…………」
部屋に飛び込んできたサイアスを見て、ルークが嬉しそうに声を出す。ウスピラは口を開かなかったが、ホッとため息をついているのが側にいたレイラには聞こえていた。
「おほほほほ、遅かったわねジュノー。今から私がこのランスに魔血魂を飲ませ、レキシントン様の新たな肉体にするところよ。悪の心と強い肉体を持ったこの男は、新しい器にピッタリだわ!」
「レキシントン!? そうか……アトランタって、どこかで聞いたことがあると思ったら……」
「な、何だと! そんな口の大きな男は駄目だ。もっとこう、このサイアスみたいに色気の溢れる男じゃないと!」
「動けないですー」
サイアスの横にいるジュザンが焦るが、サイアスもその言葉を聞いて鳥肌が立つ。まさかこの男、俺の体を狙っていたのか、と。ハウゼルは何かに思い至ったかのようにぶつぶつと独り言を呟いている中、トマトが悲鳴を上げる。見れば、部屋の中にいる面々はどうも金縛りか何かで動けないようであり、ランスの目の前にはチャオが立っていた。手には何やら小さな赤い玉を持っており、それをランスに飲ませようとしているところだ。チャオが勝ち誇ったように笑い出し、それと同時に姿が変わる。それは、先程倒したアトランタの影と同じ姿。
「ふふふ、ここまで来たら冥土の土産に正体を教えてあげるわ。私がアトランタなのよ!」
「ナ、ナンダッテー」
「ソレハタイヘンデスワー」
「おほほほほ、まんまと騙されたようね!」
メナドとチルディが叫ぶが、どう見ても演技。サイアスが頬をポリポリと掻きながら、ルークに問いかける。
「ルーク、あまりそうは見えないが、マズイ状況か?」
「いや、別に。種は割れたし、もう演技はいいか。志津香、アスマ」
「はいはい」
「ふっ」
「へ?」
アトランタが呆けた瞬間、志津香とナギが強力な魔力を地面に放つ。瞬間、アトランタの放っていた粘着地面を改良した魔法が消滅する。目を見開いたアトランタの首筋に、即座にルークが剣先を向ける。
「動くなよ」
「き、貴様ら……私の正体に気が付いて……」
「あれで気が付かれていないと思う方がどうかしてると思うけどね……」
「がはははは、全て俺様の作戦通り」
「よくもまあ平然と嘘を言えるものね……」
ロゼの言葉に続くようにランスが笑い声を上げるが、志津香がため息をつく。ランスは絶対に騙されていたはずだ。すると、部屋の入り口でジュザンが突如笑い出す。
「はっはっは、無様だなアトランタ。人間に正体を見抜かれるなんて!」
「くっ……」
すると、ジュザンの姿もアトランタ同様変わっていく。温厚そうな青年から、褐色の全裸男に。いや、正確には全裸ではない。何故かマフラーだけ身につけていた。全裸マフラー。但し男である。
「じゃじゃーん! 俺の名はジュノー。そこのアトランタの同僚だ」
「きゃぁぁぁぁ!!」
「何故全裸ですかねー!」
「ま、趣味かな」
「変態なのれす!」
「目が、目が腐りますわ!」
「っ……」
女性陣の大半が悲鳴を上げる。ライトくんとレフトくんはご主人様のキューティに汚いものを見せないよう、必死にジャンプをしてその視界を遮っている。ナギのように特段気にも止めずに見ている者や、真知子のように口元を隠しながらも凝視している者も中にはいたが。
「さて、それじゃあ今度は俺の魔法で金縛りにあって貰おうか。ラ・バイン……」
ジュノーが金縛りの魔法を放とうとした瞬間、左右から首筋に何かを押しつけられる。左からはサイアスの炎を纏った右足が、右からはハウゼルのタワーオブファイアの銃身が、しっかりとその首に押し当てられていた。
「あれ、反応早すぎじゃね? ひょっとして……ばれてた?」
「当然」
「とりあえず服を着なさい。見るに堪えないわ……」
「あんただって正体見抜かれてるじゃないのよ、バーカ!」
数分後、部屋の中央にはロープで縛られたアトランタとジュノーがいた。ジュノーは強制的に服を着せられており、アトランタはランスの意向で全裸のままだった。
「がはは、どうだ気持ちいいか!」
「くっ……あぁっ……」
「ほーれ、ぱふぱふ!」
「止めろぉぉ! 何でも話すからそれだけは止めてくれぇぇぇ!!」
今は何故このような事をしていたのかを自白させているところ。ランスがアトランタにHな尋問をし、ロゼがジュノーに自分の胸を近づけていた。ジュノー的には物凄い拷問である。それを見るに堪えないとばかりに、一部の面々はこの広い部屋の中を歩き回っていた。サイアスとウスピラもそちら側であり、一緒に部屋の中を探りながらサイアスが口を開く。
「悪いな。心配かけちまったかな?」
「別に……心配なんてしていない……」
そう素っ気なくウスピラが返しながら、サイアスの血に染まった腰の辺りにそっと手を置く。先程シィルが治療をしたため、開いた傷口は完全に塞がっていた。
「強さに関しては……信頼しているから……」
「ふっ……そうか」
珍しく反応の良いウスピラにサイアスが内心ガッツポーズを取る。が、直後にウスピラから絶対零度の視線を向けられる。
「女性関係がだらしないのは……相変わらずだけど……」
「っ……いや、それは……」
サイアスが連れていたのはハウゼルとミスリー。人間ではないがどちらも女性であり、両手に花状態であった。ちょっとのプラスポイントの代償に、大きくマイナスポイントを稼いでしまったのかもしれないと落ち込むサイアス。ミスリーは現在マリアに傷を見て貰っているが、ハウゼルはサイアスの横に立っていた。すると、尋問を受けていたアトランタがハウゼルに向かって叫ぶ。
「ちょっと、何で魔人のあんたが人間に荷担しているのよ!」
「これだから胸の大きい女は信用ならないんだ! その胸そぎ落として生まれ変わってこい!」
「ファイヤーレーザー……」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
遂に堪忍袋の緒が切れたのか、ハウゼルがジュノーにファイヤーレーザーを放つ。絶叫と共に燃えるジュノー。一応生きてはいるようだ。
「ですが、サイアス殿。我々にも説明をいただけませんか?」
「魔人と闘将って……ちょっと凄いパーティーよね」
リックとレイラが若干の警戒を孕みながらサイアスに説明を求める。サイアスが連れてきた二人は、人類の敵である魔人と、あのディオと同じ闘将だったからだ。気持ちは十分に判るため、サイアスは苦笑しながらそれに答える。
「まぁ、色々あってな。大丈夫だ、二人とも信用できる相手だ」
「それならいいんだけど……」
「随分とあっさり引き下がるのね?」
あっさりと引き下がったレイラを不思議そうに見るハウゼル。魔人は人類の敵であり、本来はこの場で殺し合いが始まってもおかしくないのだ。その問いかけにはリックが答える。
「魔人と共闘するのは、これが初めてではないので」
「……もしかして、サテラとアイゼルの事?」
「ああ、そうだ。炎使いの魔人、ラ・ハウゼルで間違いないな?」
リックの代わりに答えたのは、こちらにゆっくりと歩いてきた黒髪の冒険者。以前に一度だけ邂逅した際は良く見ていなかったため、ハウゼルはその冒険者に問いかける。
「貴方は……?」
「俺の名はルーク・グラント。あの二人に世話になった者だ」
「そう……貴方がルークなのね。良かった、貴方に会いたくてサイアスと行動をしていたのよ」
「俺と?」
その言葉に驚くルーク。ホーネット派である彼女とは是が非でも話がしたいと思っていたルークだったが、まさかあちらからそう言われるとは思っていなかったからだ。ハウゼルが静かに笑いながら答える。
「アイゼルから話は聞いているわ。二人がお世話になったみたいだし、お礼を言いたかったの」
「そうか……アイゼルが俺の事を……」
自分の事を報告したかと思うと、少しだけ嬉しくなるルーク。あのプライドの高い男がそうしたという事は、少し認められていたという事だろうか。だが、一つ気に掛かる。ハウゼルが聞いていると言う事は、当然ホーネットの耳にも。
「笑っていたわよ」
「え……?」
「ホーネット様。貴方の名前を聞いて、嬉しそうに……」
「……そうか」
それを聞いたルークが静かに微笑む。すると、それを見たハウゼルは驚く。似ているのだ、ホーネットの笑顔と。自然と、ハウゼルも釣られて笑う。
「さて、用も済んだことだし、私はそろそろメガラスと合流しようかしらね」
「何だ、行っちまうのか?」
「そのつもり。一時的に共闘はしたけど、人間に肩入れしている訳じゃないからね」
サイアスが名残惜しそうに問いかけるが、ハウゼルはここで別れるつもりらしい。それを聞きながら、懲りずにアトランタが叫ぶ。
「何よ! 同じ魔人ならレキシントン様の復活を手伝ってよ!」
その言葉を受け、ハウゼルとルークが部屋の奥の瓦礫に目を向ける。そこには、巨大な鬼の死体が瓦礫に挟まったままになっていた。あれが、魔人レキシントン。アトランタとジュノーからの証言と、ハウゼルからの情報の結果、アトランタたちの目的は以下の通りだった。聖魔戦争で死んでしまった主人のレキシントン復活の為、自分たちが見込んだ男に魔血魂を飲ませ、新たな器にする。アトランタは悪くて強い男、ジュノーは美形の男と若干の方向性の違いはあったが、目的は同じであった。少女たちを鏡にしていたのは、その鏡をばらまき、それを回収させることで本当に強い男かの試練をさせるという理由であった。
「レキシントンの復活なんて、絶対にお断りよ。間違いなくケイブリス派に行くじゃない」
「鬼、薄情者!」
「えぇい、うるさい! ちょっとはこっちに集中しろ!」
「あぁん……」
ランスに愛撫され、嬌声を上げるアトランタ。それを無視しながら、ハウゼルはレキシントンの死体に近づいていく。
「でも、おかしいわ。何で魔血魂があるのに、死体が残っているの……?」
「え、残らないものなの!?」
「ああ、魔人は死んだ場合、魔血魂だけを残してその肉体は消滅する」
ハウゼルの呟きに驚くアトランタだったが、ルークが代わりに答える。そう、レキシントンの死体が残っているはずがないのだ。だが、その疑問に志津香が答える。
「それなんだけどね……これ、偽物よ」
「偽物?」
「そう。ただの魔法で作られた肉の塊」
「これだけレキシントンにそっくりなのに……」
「一体誰がそんな事を……?」
それは当然の疑問。何者かがわざわざこの場所に偽物の死体を放置したのだ。真知子が近づいてきて、自分の考えを口にする。
「可能性としては、士気を高めるために聖魔教団が作成したというのが現実的かしらね」
「そうね……でも、これによく似た魔法を知っているの」
「似た魔法?」
志津香の言葉にルークが問いかける。
「ええ……ルークはちょうどいなかったんだけど、魔人ノスがこれと似たような魔法を使っていたわ」
「死複製戦士……」
志津香の言葉を聞いて、ハウゼルもノスの魔法に思い至る。確かに似ている。
「だが、それだと同じ魔人であるノスがこれをやった事になるだろう? 一体何故……」
「流石にそこまでは判らないわ」
「可能性としては、無くはないかも……」
サイアスの言葉に志津香が肩を竦めながら答えるが、サイアスの隣に立っていたハウゼルがぼそりと呟く。先程までうとうとしていたセスナがハウゼルに問いかける。
「何か……思い至るところが……?」
「ええ……ノスとレキシントンは険悪な関係でね。ノスはレキシントンを邪魔に思っていた節があるの。それに、レキシントンが殺された際、人間に殺された愚かな魔人だって散々にこき下ろしていたわ」
「その無様な姿を残すため、わざわざこれを……」
「今となっては、真相は判らないけどね……」
作り物のレキシントンの死体を見ながら、かつてこの闘神都市で何があったのか思いを馳せる一同。少しだけ立ち尽くした後、ルークはゆっくりとアトランタに近づいていく。
「さて、お前が持っているというNキーを渡し、鏡に捕らえている少女たちを解放して貰おうか。従わなければどうなるかは……言うまでもないな?」
「うっ……判ったわよ……」
渋々とNキーを手渡してくるアトランタ。次いで、何やら呪文を唱えると、この闘神都市中に散らばっていた鏡が瞬時にこの部屋に集まる。その数は、十人分程はあるだろう。
「こんなに多くの人が……」
「一つだけ条件があるわ。彼女たちを解放したら、命だけは見逃して貰える?」
「…………」
ルークが考え込む。こいつらのやっていた蛮行は到底許せるものではない。だが、ハウゼル曰く、アトランタを殺しても彼女たちは捕らえられたままらしい。となれば、飲まざるを得ないか、あるいはだまし討ち。だが、そこは腐っても使徒である。身の安全が確保されてから最後の鏡を解放すると交換条件を出してきた。
「……もう二度の人間を鏡に封じ込めないと誓えるか?」
「も、勿論!」
「飲まざるを得ないか……」
「そうね……悔しいけど……」
上手い手段が見つからないルークたちは、渋々その条件を飲む。一度ため息をついた後、ルークはアトランタを見下ろしながら凄む。
「もしまた鏡で誰かを封じ込めていたら、そのときは躊躇無く殺すぞ」
「だ、大丈夫よ。もうやらないから……」
「その約束、私も聞いたからね」
ルークとハウゼルが脅しをかけると、流石に縮こまるアトランタ。ジュノーはファイヤーレーザーを食らった後ピクリとも動いていない。一応生きてはいるらしい、多分。
「それじゃぁ……はっ!」
アトランタが呪文を唱える。すると、一組の鏡を残してそれ以外の鏡から少女たちが解放される。美女ばかりであり、ランスが上機嫌に声を上げる。
「おお、美女ばかりではないか! 救ってやった英雄の俺様にたっぷりと感謝するがいい!」
「こら、ランス! 女の子の胸を揉むな!」
ランスが解放された少女たちに早速悪戯を始めるが、それをサーナキアが止めに入る。シィルは悲しげな表情を浮かべ、マリアはため息をついている。正しくいつもの光景だ。
「こ、これでいいわね。後は私たちが地下四階まで逃げるから、そこまでは追ってこないでよ。鏡はそれから解放するわ」
「鏡はここに置いていけよ。特殊な魔法で今は解除できないが、こちらの手元にあればいつか何とかなるかもしれないからな」
アトランタが残した最後の鏡を示すルーク。それは以前ルークたちが手に入れたものとは違い、アトランタの許可がないと解放されないものであった。どうやら他の少女たちと違い、強い魔力を持った魔法使いが封じ込められているらしい。カサドの町から攫った少女ではなく、彼女のお気に入りだとか。地面に鏡を置き、焦げているジュノーを引きずってゆっくりと部屋から退散しようとするアトランタ。そこに、ルークが言葉を投げる。
「それと、魔血魂も置いていけ。レキシントンは復活させる訳にはいかない」
「ちょ、ちょっと! そんな約束はなかったわ! それだけは聞けない、何があっても!」
アトランタがそれを拒否する。常に全裸の変態使徒ではあるが、こいつらの蛮行は全てレキシントン復活のため。主への忠誠心は高いようだ。だが、ルークもここは退けない一線だ。
「悪いが、それが貴様らを見逃す条件だ」
「それは……それだけは……」
「待て、ルーク。一度女性と結んだ約束だ。このまま解放しておけ」
そう言ってきたのは、入り口の前に立っていたサイアス。ルークが不思議そうにサイアスを見るが、その顔を見て何か考えがあるのだろうと納得する。
「そうだな……判った、行け!」
「そ、そう? なら行かせて貰うわ! いい加減起きなさい、ジュノー!」
「はっ……俺は一体……」
ジュノーを叩き起こしたアトランタは部屋の入り口へと駆けていく。そのままサイアスの横を通り、部屋から出て行った。
「本当に解放されるんですの……?」
「……来た」
「ああ、魔力が来たな」
チルディが訝しげに鏡を見ていると、ウスピラとナギがそう呟く鏡から大量の魔力が発せられるのを感じ取ったのだ。当然、サイアスやハウゼル、志津香もその魔力には気が付いていた。魔力が溢れ出してから程なくして、鏡から最後の少女が解放される。盲目の魔法使い。ナギが一目見てほぅ、と言葉を漏らしたところを見ると、それなりの実力者のようだ。
「ありがとうございました。私はエムサ・ラインド。旅の魔法使いでしたが、転移装置でこの闘神都市に飛ばされたあげく、あの魔女に捕らわれてしまい……」
「あんたも随分と不幸な目にあっているわね……」
「親近感が……」
エムサの不幸にフェリスが同情し、メリムが何故か親近感を覚えていた。共に不幸な境遇の二人である。
「よかった。これで全員解放ですね」
「ところで、サイアス様。何故あんな簡単にアトランタを行かせたんですか?」
シィルが少女たちの解放に喜ぶが、キューティは先程のサイアスの行動に疑問を持っていた。その問いかけは当然のものである。ハウゼルやウスピラも不思議そうにしているが、サイアスは静かに笑って答える。
「ん? それはな……」
-闘将コア 地下四階-
「ああ……酷い目にあった……」
「全く、あの乳お化けが……」
何とか四階まで逃げおおせ、一息つくアトランタとジュノー。これまで折角集めてきた鏡も全て無くなってしまった。
「はぁ……折角レキシントン様の器にピッタリの人間だったのに、あのランスとかいう男」
「それを言うならサイアスだって素晴らしい器だった……クソ、お前がドジを踏むから……」
「あんただって捕まってたでしょうが!」
互いに文句を言い合う二人。同じ目的を持ってはいるが、仲は悪いようだ。
「もうお前にレキシントン様は渡しておけん。魔血魂を俺に渡せ!」
「イヤよ! この魔血魂は私が……」
そう言って手の中の魔血魂を見るアトランタだったが、突如顔が青ざめる。持っていたはずの魔血魂が無くなっているのだ。
「あ、あれ? な、無い! レキシントン様がいない!」
「なんだって! どこで落としやがった、この乳お化けが! さっさと探すぞ!」
慌てて魔血魂を求めて今来た道を探し回る二人。だが、二人は気が付いていなかった。自分たちが命拾いをしていた事を。昇降機を使ってきたため、階段で地下六階へと下りたある者とすれ違いになっていた事を。
-闘将コア 地下五階-
「と、いう訳だ」
部屋の入り口からルークたちのいる中央まで歩いてきたサイアスが、手の中の魔血魂を見せる。すれ違い様にアトランタから奪っていたのだ。
「流石……手癖が悪いと評判なだけある……」
「それは別の意味じゃないのか……?」
ウスピラの厳しい突っ込みに悲しくなるサイアス。結局のところ、このような関係はまだまだ続きそうだ。
「で、ルーク。この魔血魂はどうすればいい? ゼスなら厳重に保管できると思うが? こちらとしても、このイラーピュに来た成果を報告しなきゃならない。貰えるとありがたいんだが……」
「俺としてはそれが望ましいな。だが、危険な代物であることは理解しておいてくれ」
「了解だ。ハウゼル、あんたもそれでいいかい?」
「出来ればこちらが回収したいのだけれど……」
ルークはゼスに保管して貰えるのは願ってもないことなのでそれを承諾する。魔法大国のゼスであれば、リーザスよりも厳重に保管してくれる事だろう。だが、ハウゼルは不服そうだ。ケイブリス派に回る可能性のある魔人が万が一にも復活するのは避けたい。自分たちの支配下に置いておきたいのだ。だが、これを持ち帰る危険性も把握している。すると、ルークがハウゼルの目を見据えながらハッキリと口にした。
「ハウゼル。これを持ち帰った場合、新たな火種になりかねないと思うが?」
「……本当に色々知っているのね。判ったわ。サイアス、くれぐれも厳重に保管してね」
「ああ、任せておけ」
本当に人間が知り得ない情報を知っているのだなと驚くハウゼル。ノスを失った直後のホーネット派としては、今すぐの戦争激化は避けたいのだ。こうして、アトランタ退治はほぼ最高の状況に終わった。アトランタとジュノーは逃がしてしまったが、二つ目の鍵を手に入れ、サイアスと合流を果たし、魔血魂まで手に入れた。そして、捕らえられた少女たちは全員無事。そう、この瞬間までは全員無事であった。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「っ!?」
突如、部屋の入り口側から少女の悲鳴が響く。ルークたちがそちらを慌てて振り返ると、一人の少女が後ろから胸を貫かれていた。心臓を一突き。血飛沫を上げ、少女の体が崩れ落ちる。彼女は十年以上前にアトランタに捕まったカサドの町出身の少女。先程まで解放されたことに安堵していた彼女だったが、その希望は一瞬で奪われ、今は物言わぬ肉塊へと化していた。
「ひっ……」
貫かれた少女の横に立っていた二人の少女が絶句し、慌てて逃げようとする。だが、その頭を掴まれて宙に浮かされる。物凄い握力だ。頭が割れるように痛い。もう少し力を込められたら、二人の頭はグチャリと弾けてしまうだろう。ルークたちは目を見開きながら、一人の少女を殺し、今なお二人の少女の頭を潰そうとしている相手を見る。忘れもしない、その禍々しき殺意。鏡から解放された盲目のエムサも、その殺気を感じ取って汗を流す。
「一体……この禍々しいまでの殺気は……」
「闘将……ディオ……」
「ククク……クカカカカ!!」
血の臭いが部屋に充満する部屋に、ディオの笑い声が不気味に響くのだった。
[人物]
アトランタ
LV 30/55
技能 魔法LV2
魔人レキシントンの使徒。魔血魂になってしまった主人を復活させるための器を捜していた。捜しているのは悪くて強い男。鏡に人を封じ込めるという大魔法を使う厄介な相手。警戒されていたため不覚を取ったが、本来は高い実力を持つ。
ジュノー
LV 30/55
技能 魔法LV2
魔人レキシントンの使徒。魔血魂になってしまった主人を復活させるための器を捜していた。捜しているのは美形の男。二人して常に全裸の変態使徒であるが、互いの美意識はかなり違うため仲は悪い。
エムサ・ラインド (ゲスト)
LV 26/30
技能 魔法LV2
アトランタの鏡に捕らえられていた盲目の魔法使い。優しい心と高い実力を持つ。アトランタの鏡は時の流れが止まるためレベルダウンも起こさないようであり、レベルは捕らえられた当時のままである。アリスソフト作品の「闘神都市3」よりゲスト参戦。
[技]
ラ・バインド
全体の動きを止める金縛り魔法。ジュノーが使おうとしたが、不発に終わる。