ランスIF 二人の英雄   作:散々

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第84話 闘神復活

 

-闘将コア 地下六階-

 

「ククク……やはり生きていたか、ルーク、サイアス……」

 

 ディオが少女二人の頭を掴み上げながら不敵に笑う。ディオの事を知っている者と知らない者がこの場にはいるが、戦闘要員でない真知子でさえ目の前のディオの禍々しい殺気を感じ取れるのだ。自然と全員が身構える。

 

「何で……何でここにいるのよ! メガラスはどうしたの!?」

 

 最初にディオに向かって言葉を発したのはハウゼル。何故こいつが生きているのか、メガラスはどうしたのか。その疑問が頭を占める。

 

「奴との戦闘は時間切れだ。まぁ、次に会ったときは殺すがな」

「メガラスと……引き分けたですって……」

 

 ハウゼルが息を呑む。ホーネット派最古参であり、戦闘経験は全魔人の中でも間違いなくトップクラス。そのメガラスの強さを知っているからこそ、今の言葉が信じられない。

 

「つまり、この目の前の敵は魔人と同等という事なのね……?」

 

 レイラの頬を汗が流れる。強いのは察しがついていたが、それ程の敵とは。緊張した面々の様子を見ながら、ディオが不敵に笑う。その態度が気に障り、ルークは顔を歪める。

 

「その娘たちを離せ。用があるのは俺たちだろう!」

「ふむ……そうだな。本来なら貴様らとここで戦うつもりはなかったのだが……」

 

 ディオの目的はあくまでもキーの奪取。この少女たちを人質に取り、交換を迫ればいいだけの事。だが、それはこの獣には無理な要求であった。怯えた表情を浮かべている二人の少女の視線がルークと合った瞬間、グシャリとその頭が潰された。

 

「なっ!?」

「っ……!!」

 

 絶句する一同。人質のはずの少女を、目の前の闘将は即座に殺したのだ。血飛沫が舞い、少女だったものが地に落ちる。

 

「クカカカカ、この状況で戦いを我慢しろというのは無理な話だな!」

「貴様ぁぁぁぁ!!」

 

 咆哮と共にルークが即座にディオに飛び掛かる。振り下ろされる剣を手刀で受け止めるディオだったが、激しい金属音と共にルークの剣を睨み付ける。

 

「この剣は……なるほど、この間よりは楽しめそうだな」

「貴様は殺す、この俺が必ずな!」

「無理だな……もう一度その腹を貫いてやろう」

 

 ディオがそう言い放ち、手刀を高速でルークに繰り出していく。それを全て躱しながら、ルークも剣を振るい続ける。互いの攻撃を全て躱しながら、ディオは興味深そうに呟く。

 

「ほう……これが貴様の本来の実力か」

 

 ディオがニヤリと笑う。前回と変わったのは剣だけではない。志津香たちの目を潰されたという嘘から怒りで我を忘れていた前回と違い、その動きにキレがある。だが、動きが違うのはディオも同様。ルークのブラックソードの猛攻をかい潜り、ディオの手刀がルークの左肩目がけて突き出される。

 

「ぐっ……」

「だが、私の敵ではないな……んっ!?」

 

 繰り出された手刀を何とか躱すルークだったが、少しだけ肩を掠めて血が吹き出る。ディオがニヤリと笑うが、突如後ろから殺気を感じて振り返る。

 

「ランスアタァァァック!!」

「バイ・ラ・ウェイ!」

「死ねっ!」

「炎舞脚!」

 

 飛び込んできたのはランス、リック、フェリス、サイアスの四人。自分に振るわれるそれぞれの攻撃を冷静に見ながら、ディオはまずフェリスの鎌を左腕で止め、振り下ろされるランスアタックを右腕で止める。そのまま炎舞脚を首だけ動かして躱し、バイ・ラ・ウェイの軌道をかい潜ってリックに強烈な蹴りを与える。

 

「ぐっ……」

「こいつ……強くなっている!」

 

 リックが苦痛に顔を歪める横でフェリスが絶句する。明らかに前回対峙したときよりも強くなっているのだ。それは信じられないような成長スピード。いくら闘将とはいえ、こんな事があっていいのか。

 

「クカカカカ!」

「ディオ、ここで討つ!」

「はっ!」

「今度は以前とは違いましてよ!」

 

 続いてミスリーとかなみが飛び掛かるが、ディオに攻撃は当たらない。チルディも動けていなかった以前とは違い、今度はディオ相手に果敢に攻める。だが、当たらない。マリアの攻撃も、レイラの攻撃も、メナドの攻撃も、全く当たらない。

 

「スピードが……前と違う……」

 

 セスナが絶句する。以前対峙していたからこそ判る、明確なディオの違い。メガラスとの戦闘を経て、ディオの素早さと動体視力は格段に上がっていた。その時、ディオに顔面に強烈なライトニングレーザーが放たれる。魔法による攻撃であるためダメージはないが、ディオはゆっくりとその魔法を放った相手を見る。それは、ナギ。

 

「おい、人形。貴様がルークの腹を貫いた相手だな」

「だとしたらどうする?」

「殺す」

 

 ナギが続けざまにライトニングレーザーを放つ。光線がディオの体を包み込み、それに続くように他の者たちの魔法も放たれる。

 

「ファイヤーレーザー!」

「スノーレーザー……」

「雷撃!」

「エアレーザー!」

 

 志津香、ウスピラ、キューティ、そして鏡から解放されたエムサが次々に魔法を放つ。凄まじいまでの一斉照射にディオの体が煙で隠れて見えなくなるが、それを見ていたハウゼルが叫ぶ。

 

「駄目っ! あいつに魔法は……」

「っ!?」

 

 その言葉と同時に、煙の向こうから現れたディオがナギ目がけて一気に駆けてくる。手刀に闘気を纏い、ナギの首目がけてそれを一直線に突き立てる。鳴り響く金属音。

 

「ちっ……」

「させるか!」

 

 ナギの首筋目前で、ルークのブラックソードがそれを阻んでいた。そのままルークは横薙ぎに剣を振るうが、少しだけ体を後ろに動かしてディオがそれを躱す。そのままディオの猛攻が始まり、ルークは防戦一方。折角手に入れたブラックソードも、当てられなければ意味がない。

 

「ジルほどでも、メガラスほどでもない……だが……」

 

 目で追えない速さではないが、体はついていくのがやっと。人間と闘将には肉体の限界に大きな差があるのだ。防戦一方の状態に唇を噛みしめた瞬間、突如ルークの体が軽くなる。

 

「これは……ふっ!」

「なにっ!?」

 

 ルークが軽くなった体で一気に反撃に出る。剣速が上がり。ディオの猛攻を一気に押し返す。突然の変容に驚くディオ。そのまま攻守が入れ替わり、今度はディオが防御に回る。

 

「これは……」

「エムサ、あんたの仕業?」

 

 真知子が呆気に取られる中、ロゼが冷静にエムサに話し掛ける。彼女の手には、普段から身につけている巨大な懐中時計があった。その時計の針が普通よりも早く回っている。

 

「身体加速。あまり一般には知られていない、付与魔法の一種です」

「そんな魔法が……」

 

 聞いたことのない付与魔法に、同じく付与魔法使いであるキューティが絶句する。先程使っていた風魔法もかなりレアな魔法だ。魔法大国の警備隊長である自分の知らない魔法を、彼女は多く知っているのかもしれない。

 

「ちっ……この剣は厄介だな……」

 

 ディオが舌打ちをしながら一度後方に跳んでルークたちと距離を置く。そのまま地に足がついた瞬間、後ろから何者かが飛び掛かってきた。

 

「トマト爆裂アタックですぅぅ!!」

「ただの上段斬りですわ!」

「しかもどことなく真滅斬に似ている!?」

「……雑魚が」

 

 トマトがディオの左肩目がけて斬りかかる。チルディとかなみが突っ込みを入れる中、ディオは興味なさそうにしてその一撃を避けようともしない。あんな攻撃では、自分の体に傷一つ付けられないと判断したのだ。トマトの剣先がそのままディオの左肩に振り下ろされる。本来なら間違いなくノーダメージ。だが次の瞬間、ディオの左肩で小規模な爆発が起きる。

 

「なにっ!」

「えぇぇぇぇぇ!!」

 

 チルディが叫ぶ中、ディオから距離を置いたトマトは自分の腕を見ながらプルプルと震える。

 

「こ、これは……トマトの秘められた力が解放されたとかですかねー!?」

「す、凄いよトマトさん!」

「魔力を感じなかった……何者だ、あの女戦士」

 

 メナドが爆裂アタックを信じてしまい、ナギも興味深そうにトマトを見つめる中、左肩から煙を上げているディオはゆっくりと天井を見上げる。

 

「(ちっ……見ているな。これは警告ということか……)」

 

 勿論、今の爆発はトマトの技によるものではない。ルークたちと戦うなという命令に背いたディオに対し、ビッチが警告の意味を込めて爆弾を爆発させたのだ。一度舌打ちをし、ディオはルークに向き直る。

 

「ククク……残念だが、ここまでのようだ」

「ここまでだと!?」

 

 ルークが声を荒げた瞬間、ディオが横に一気に駆け出す。それは、解放された少女たちが固まっている場所。

 

「させるか!」

「雑魚はどいていろ!」

 

 少女たちの護衛として側に残っていたサーナキアが火炎ブレードをディオに振るうが、それを跳び上がって躱すディオ。そのままサーナキアの顔面に跳び蹴りを食らわし、サーナキアは勢いよく壁に吹き飛ぶ。少女たちが悲鳴を上げる中、その中でも一番前に座っていた少女の頭を持って掴み上げる。

 

「貴様!」

「動くな。この娘の頭が先程の女たちと同じようにされたくなければな」

「くっ……卑怯な……」

 

 少女一人を人質に取られ、動けなくなる一同。だが、不可解な行動だ。一度人質を殺しておきながら、もう一度脅迫をしてくるだなんて。

 

「随分と回りくどい事するじゃない……?」

「こちらにも色々とあるのだよ……色々とな……ククク……さぁ、貴様らが持っている二つの鍵を寄越せ。そうすれば、この娘は返してやろう」

 

 不可解な行動の意味を知るため、ロゼが少しでも情報を引き出そうとするが、ディオは不敵に笑うだけ。ロゼは内心舌打ちする。こいつはただの戦闘狂ではない。それなりに考えを巡らせて動いている。

 

「馬鹿者! 誰が貴様なんぞに……」

「なら、この娘が死ぬだけだ」

「ぐっ……あぁっ……」

 

 ランスが文句を言うが、その文句をかき消すようにディオは少女を掴んでいる腕に力を込める。少女が口元から涎を垂らし、声にならない声を上げる。

 

「くっ……ランス殿、ここは……」

「ランス様……」

「ちっ……」

 

 リックとシィルの言葉を受け、ランスが渋々二つの鍵をディオに向かって投げる。それを左手で受け取りながら、ディオは少女を掴んだままゆっくりと部屋の入り口に後ずさっていく。

 

「貴様らは部屋の奥に行け……私に近寄るなよ……」

 

 ルークたちに部屋の奥に行くように命じるディオ。従わざるを得ない。広い部屋であったため、ディオとはかなり離れた形となる。

 

「鍵は渡したんだ。とっととその美少女を返しやがれ!」

「ああ……返すさ……」

 

 ランスの言葉を聞いたディオは、そう呟くと同時に少女の頭を潰した。繰り返される惨劇に全員が目を見開いている中、ディオはそのまま首の無い少女の体をルークたちに向かって投げつける。

 

「確かに返したぞ。クカカカカ!」

「てめぇ、待ちやがれぇぇぇ!!」

 

 そのまま入り口を通り、通路へと姿を消すディオ。ランスが叫び、ルークやサイアスも即座に入り口に向かうが、やはり距離が離れすぎていた。入り口まで辿りついた時には、既に通路にディオの姿は無かった。

 

「やられたわ……」

 

 レイラが顔を歪める。鏡から解放された少女の内、四人が奴に殺され、その上みすみす鍵を奪われてしまった。サイアスが少女たちの死体を見下ろしながら、拳を握る。

 

「ルーク……奴は殺すぞ」

「当然だ」

 

 ルークもまた、始めに心臓を貫かれた少女の体を抱えながら強烈な殺気を放っていた。その二人の後ろから、ハウゼルが口を開く。

 

「ここで別れるつもりだったけど……もう少し一緒にいる事にするわ……」

「ハウゼル……?」

 

 横たわる無残に殺された少女たち。その姿に、ハウゼルはかつて魔人戦争で殺された同胞を重ねていた。許せない。許す訳にはいかない。

 

「あいつだけは……野放しにする訳にはいかないから……」

「……頼りにしている」

 

 他の面々もディオの蛮行に怒りを燃やし、ミスリーも静かに拳を握る。奴を倒し、闘神都市を守る事こそが我が使命。だが、一人では勝てない。この者たちと共に、奴を討つ。ミスリーもそう決意をしていた。四つのキーが敵の手に渡り、闘神都市を動かせるようになった今、猶予はもうそれ程残されていない。

 

 

 

-下部司令エリア 司令室-

 

「ケヒャケヒャ! 遂に、遂に四つのキーが揃ったぞ!」

 

 部屋にビッチの笑い声が木霊する。ルークたちから二つのキーを奪ってきたディオが帰還し、遂に四つのキーがビッチの手の中に揃ったのだ。それ即ち、闘神都市はビッチのものという事。

 

「木偶人形でも少しは役に立つじゃないか。命令違反で爆破されなかった事を感謝するんだな」

「ククク……」

 

 ビッチが目の前に立つディオを睨み付けるが、ディオは気にした様子も無く不気味に笑うだけだ。ビッチはそのままヒューバート、デンズ、イオの三人を順々に見回しながら、これまでの調査に思いを馳せる。

 

「役に立たない部下たちよ、ご苦労。思えば苦しい任務だった。数々の危機をわたくしの天才的な頭脳で切り抜け、遂にここまで来た!」

 

 勝手な事を宣うビッチ。まるで舞台役者のような大げさなパフォーマンスは続く。

 

「この闘神都市を手に入れれば、我が偉大なるヘルマン帝国の未来は明るい。わたくしの未来もバラ色だ」

 

 その言葉を聞きながら、部屋の隅の机の下でシャイラとネイがこそこそと話す。

 

「何か知らない間にとんでもない事になってる件について……」

「何……みんなはどうなったの……?」

 

 状況をまるで把握出来ていないシャイラとネイは、必死に見つからないようにしながら部屋の状況を見守る。命の恩人であるデンズとヒューバートがいるが、あのディオとかいう奴がいる以上、見つかれば今度こそ殺されるだろう。

 

「では、キーを入れるぞ!」

 

 ビッチが部屋の奥にあるキーの差し込み口のついた巨大な扉に近づいていく。それを見ながらイオは唇を噛む。どうすれば、ビッチからディオの爆破装置を奪えるだろうか。ひたすらにその事だけを考えていた。

 

「まずはNキー。そして、Sキー。Wキー。最後に……」

 

 順々にキーを差し込んでいき、三つのキーが扉にはめ込まれる。そして、残すは最後のキー。ビッチがそれを高々と掲げながら感慨深げに差し込もうとした瞬間、司令室の扉が勢いよく開け放たれた。

 

「待て、ならぬ! ユプシロンを動かしてはならぬ! それは今の人類では手に負えぬ!」

「フリーク、貴様が何故ここに!?」

 

 入ってきたのはヘルマン評議委員にして、かつて聖魔教団を滅ぼした闘将、フリーク。予想外の乱入者にビッチが目を見開き、デンズとイオも呆気にとられる中、ヒューバートだけが即座に反応を示す。

 

「じいさん!」

「トーマの息子、何をしておる、奴を止めろ! 何故ここまで放っておいた!」

「ちっ、やっぱりもっと前に動かなきゃいけなかったのかよ!」

 

 フリークの叫びを聞いたヒューバートは舌打ちをし、すぐさま剣を抜いてビッチに向かって駆け出す。フリークも両腕に魔力を集中させ、ビッチを睨み付ける。

 

「止めよ! キーを差し込もうとすれば、容赦はせんぞ!」

「二人とも裏切り者か! 何と言われようと、この闘神都市はわたくしが動かす!」

 

 フリークの制止もビッチには届かない。二人を激しく睨み付けながら、ビッチは最後のキーを扉へ差し込もうとする。

 

「そうか……ならば、躊躇いはしない。友との約束じゃからな。スーパーティーゲル!」

 

 フリークがそう言い放ち、強力な闇魔法の塊を扉の前のビッチに向けて放つ。だが、ビッチの前に何者かが割り込んできて、その魔法を自らの体で受け止めた。普通であればただでは済まない。だが、その者の体に当たった魔法は宙に四散してしまう。それは、その者が持つ完全魔法無効化能力による効果であった。フリークは驚愕しながら割り込んできた者を見る。それは、因縁深き最強の闘将。

 

「貴様……ディオ・カルミス! 復活していたのか!?」

「ククク……フリーク、貴様と再び会えるとは私も運が良い。旧来の恨みを晴らせるようだな……」

 

 自身を封印した憎きフリークに強烈な殺気を向けるディオ目がけ、ヒューバートが剣を振り抜く。だが、ディオはその一撃を悠々と手刀で受け止める。目を見開くヒューバート。

 

「なにっ!?」

「良い剣だ……だが、使い手がこれではな……」

「なんだとっ、貴様っ!!」

 

 その侮蔑の言葉にヒューバートが激昂する。ヒューバートも大陸で屈指の剣の使い手の一人だ。だが、その技能レベルは1。どうしても越えられぬ壁がある。その事を実感しており、また、幼い頃から父のトーマと比べられていたヒューバートは、ディオの挑発に簡単に乗ってしまった。

 

「馬鹿者! 挑発じゃ!」

「ふっ……」

 

 フリークが叫ぶが、それで冷静になれるようなヒューバートではない。大振りになったその右肩に、ディオの手刀が突き刺さる。押し寄せる激痛と噴き出す血にヒューバートは声を漏らす。

 

「がはっ……」

「あにぃ!」

「ククク……クカカカカ!! ビッチ、キーを差し込め!」

 

 笑い声を上げながらヒューバートの体を蹴り飛ばし、ビッチに命令をするディオ。

 

「わたくしに命令するな。だが、でかしたぞディオ!」

「し、しまったぁぁ!!」

 

 ビッチが最後のキーを扉に差し込み、部屋に轟音とフリークの叫び声が鳴り響く。四つのキーが差し込まれた扉がゆっくりと開いていき、巨大な影が扉から出てくる。

 

「ケヒャケヒャ! これでわたくしの天下だ!」

「あれが……闘神……」

 

 ビッチが勝ち誇ったように笑い飛ばし、イオが絶句する。全長は3メートルほどだろうか。闘将と比べ遙かに巨大な鉄の人形が、ゆっくりと姿を現す。

 

「セルジオ……いや、闘神ユプシロンか……」

 

 フリークがボソリと呟く。それは、闘神ユプシロンが人間であったときの名前だ。だが、その言葉はセルジオには届かない。彼の意思は、ユプシロンになったときに死んでしまっている。そんな中、ビッチは両手を広げながらユプシロンに近づいていく。

 

「おぉ、巨大な人形よ。貴様のご主人様はこのビッチ様だ。蘇らせた者の命令を聞くのであろう?」

「ククク……」

 

 ディオから貰った文献の内容を信じてしまっているビッチは、まるで警戒せずにユプシロンに近づいていってしまった。それを見ながら静かに笑うディオ。今のビッチは、あまりにも無防備。そんな思惑も知らず、ビッチはユプシロンに命令を出す。

 

「まずはあの裏切り者どもを皆殺しに……」

「馬鹿者! そやつから離れるのじゃ!!」

「へ?」

 

 フリークの叫びにビッチが間抜けな声を出す。それが、ビッチの最後の言葉であった。目の前に立っていた闘神ユプシロンがビッチを横に拳で払う。それを受けたビッチの体はまるで人形か何かのように勢いよく吹き飛び、壁に激突する。グチャリ、という音と共に激しい血飛沫が舞い、ビッチであったものの肉塊が崩れ落ちる。

 

「うっ……」

 

 イオがその光景に顔を歪める。クズだとは思っていたが、あの死に様は流石に哀れである。そんな中、ユプシロンがゆっくりと喋り出す。

 

「我は闘神ユプシロン。指令、契-337を実行する。我が使命は、人類と魔人の撲滅」

「なんだとっ……」

「恐れていた事が……」

 

 ヒューバートが出血する右肩を押さえながらユプシロンを睨み付ける。それは、恐るべき言葉。フリークも頭を抱えている。どうやらフリークはユプシロンの目的を知っていたようだ。

 

「我が本体よ。前進を始めろ」

「撤退じゃ!」

「あ、あにぃ、掴まるだ!」

 

 ユプシロンが歩き出すのを確認し、フリークが叫ぶ。デンズが即座にヒューバートに肩を貸し、三人は部屋から駆け出す。だが、イオだけは三人とは対照的に部屋の奥に駆けていく。そのイオの行動に気が付いたヒューバートが叫ぶ。

 

「おいっ、何をしている!」

「駄目なのよ……爆弾のスイッチ……あれを手に入れなきゃディオを扱えない……」

 

 今は爆弾のスイッチなど気にしている場合ではない。すぐにでも逃げなければならない時なのだ。だが、イオの頭の中は復讐心が占めており、冷静な判断が出来ないほど盲目的になってしまっていた。

 

「間に合わん、逃げるぞ!」

「ちっ……馬鹿野郎が……」

 

 フリークの言葉を受け、ヒューバートは悔しそうにしながらも部屋を出て行く。イオを見捨てるのは忍びないが、死ぬ訳にはいかない。あの男、必ず生きているだろうパットンと再び出会うまでは絶対に死ねないのだ。

 

「ど、どうする……?」

「このどさくさで逃げましょう!」

 

 シャイラとネイもどさくさに紛れてこそこそと部屋から出て行く。そんな中、イオがビッチの死体まで辿り着き、その崩壊した体を探る。すると、目の前にはディオの爆破装置。

 

「あった……」

 

 そう声を漏らし、爆破装置に手を伸ばした瞬間、その装置がグシャリと踏み潰される。

 

「あっ……」

「ククク……クカカカカ! これで私は自由だ!」

 

 踏み潰したのは、当然ディオ。歓喜の高笑いを上げた後、イオを見下ろしてくる。その強烈な殺気に、イオは自分の死を確信した。だが、意外にもディオはイオの横を通り過ぎる。

 

「ククク……今は貴様と遊んでいる暇はない。怨敵が目の前にいるのだからな……」

 

 そう言い残し、ディオはイオに手を出さずに部屋から出て行く。助かったのか、そう息をついたイオだったが、当然助かってなどいない。

 

「人間の女……撲滅する……」

「っ!?」

 

 イオの目の前には、闘神ユプシロンが立っていた。逃げ場はない。そして、その腕がゆっくりとイオ目がけて振り下ろされた。

 

 

 

-下部司令エリア 通路-

 

「じいさん、一体どうなっている!?」

「詳しい説明は後じゃ!」

 

 必死にこの場から逃げようと通路を駆けていくヒューバートたち。状況を聞かれたフリークだが、一番困惑しているのはむしろフリーク自身。番人の部屋にいるはずのミスリーは見つからず、ディオとユプシロンが復活してしまった。考え得る最悪の事態だ。唇を噛む思いで通路を曲がると、突如目の前にある壁が崩れた。何事かと立ち止まる一同の目の前に、その壁の穴からゆっくりとディオが現れた。

 

「フリーク、逃げられると思ったのか?」

「ディオか、くそっ……ふんっ!」

 

 ディオがゆっくりと手刀に闘気を纏わせ、三人に近づいてくる。奴に魔法が効かない事を重々承知しているフリークは、自らの右腕を外してその下に隠された砲身をディオに向ける。そのまま激しい砲撃をするが、ディオの体には傷を付けられない。

 

「その程度の攻撃、効かんよ……」

「ちっ……万事休すか……」

 

 デンズに肩を借りた状態でヒューバートが呟く。流石に勝ち目が無い。すると、デンズがその肩を離し、ゆっくりと口を開く。

 

「あ、あにぃ……今まで楽しかっただ……」

「デンズ……何を……?」

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

「なっ!?」

 

 ヒューバートの問いかけに答えるかのように、デンズが咆哮しながらディオに突進していく。ディオは一瞬呆気に取られる。あまりにも無謀な特攻。これでは殺してくれと言っているようなものだ。

 

「馬鹿が……死ね!」

 

 ディオは腰を落とし、闘気を纏った手刀をデンズの腹部目がけて突き出した。デンズの体から鮮血が舞う。

 

「デンズ!!」

「うぐっ……うがぁぁぁぁ!!」

 

 手刀が背中の肉まで突き破り、デンズの体を貫通する。大量の血飛沫を上げながらもデンズは咆哮し、がっしりとディオの体を抱きかかえた。

 

「に、逃げでぐで! ヒューあにぃ……今のうちだ……逃げでぐでぇ!!」

「この……どけぇぇぇ!」

「どか……ないだ……ヒューあにぃが逃げるまで……おでは離れねぇ……」

 

 ディオの手刀がデンズの体に突き刺さったまま上下左右へと動き回り、更に激しく出血をする。口からも血を吐き出しながら、それでもデンズはディオを離さない。

 

「デンズ!!」

「行くぞ、トーマの息子よ!」

「だが、デンズは俺の仲間だ! 見捨てろというのか!?」

 

 この場に残ろうとするヒューバートだったが、フリークはそれを激しく叱責する。

 

「仲間だったら、奴の気持ちを無駄にするんじゃない! 逃げられるのは今しかない!」

「デンズ……」

 

 悲しげな瞳でデンズを見るヒューバート。それに答えるかのように、デンズはディオを抱きかかえながら、首だけ動かしてヒューバートを見てくる。自身の血で汚れた顔に、ニッコリと気持ちの良い笑みを浮かべていた。

 

「ヒューあにぃ……行ってくれ……生きて……ヘルマンを良くして……おで、あにぃと一緒で……本当に楽しかった……」

「くそっ、どけ雑魚!」

「デンズ……畜生……ちくしょうがぁぁぁ!!」

 

 ヒューバートは叫びながらフリークと共に通路を駆けていく。己の不甲斐なさが、仲間を見捨てる無念が、ヒューバートの心を締め付け、叫ばずにはいられなかった。二人の姿が見えなくなって程なくした頃、デンズの力が抜けていく。

 

「あにぃ……生きて……くで……」

「この雑魚が……」

 

 ディオが手刀をデンズから引き抜くと、そのまま膝立ちに倒れ込むデンズ。怨敵であるフリークを取り逃がした怒りから、憎々しげにデンズを睨み付ける。

 

「放っておいても死ぬだろうが……貴様の頭蓋骨は取り出すぞ! その上で、粉々に砕いてやろう! 貴様のような雑魚はコレクションにも必要ない!」

「あにぃ……」

 

 意識が朦朧としているデンズの頭目がけて、ディオの手刀が振り下ろされる。だが、直後に予想外の事が起こる。

 

「「てめぇ、あたし(私)らの命の恩人に何してくれたんだこらぁぁぁぁ!!」」

 

 突如現れた二人組から跳び蹴りを受け、少しだけ後方に飛ばされるディオ。ダメージを受けた訳ではない。あまりにも目の前の二人の戦闘力が低く、気配に気が付けずにいたのだ。そのため予想外の攻撃となり、直撃を受けたその体が少しだけ吹き飛ばされたのだった。

 

「ば……ばか……早く……逃げろ……」

 

 朦朧とする意識の中、デンズが目の前の二人に言葉を掛ける。二人の足が震えているのが判る。目の前のディオの恐ろしさは判っているのだろう。それなのに、何故飛び出してきたのか。もし自分を助けるためだというのなら、逃げて欲しい。若い彼女たちが命を落とす必要は無い。

 

「何だ貴様ら……」

 

 ディオが興味なさそうに目の前の二人組に尋ねる。足が震えている。息を呑むのが判る。こんな状態で、私と戦うつもりか。震える声を必死に抑えながら、目の前の二人が口を開く。

 

「愛の戦士、シャイラ・レス!」

「勇気の戦士、ネイ・ウーロン!」

「虫けらが……」

 

 それは、あまりにも勝ち目のない戦い。

 

 

 

-下部司令エリア 司令室-

 

「ぬぐっ……」

 

 振り下ろされるユプシロンの腕に、思わず目を瞑るイオ。だが、直後に聞こえてきたのはユプシロンの呻き声。部屋の入り口から入ってきた相手から攻撃を受けたのだ。

 

「何者だ……」

 

 ユプシロンがイオを無視してゆっくりとそちらに向き直る。それを受け、イオもその目を開いていく。一体誰が自分を助けてくれたのか。最初に思い浮かんだのは、トーマのおじ様。だが、そんなはずはない。あの人はもう死んでしまっている。次に思い浮かんだのは、意外にもルーク。少しの間とはいえ共に迷宮を潜り、一瞬だが信頼していたからだろうか。だが、それは無い。奴はおじ様の仇だ。

 

「一体誰が……」

 

 イオが目の前に立つユプシロンの巨体の横から自分を助けてくれた人物を見る。瞬間、目を見開く。違う、あれは私を助けに来た訳では無い。

 

「やれやれ、闘神が起動しているとは……でも、手間が省けましたね……」

 

 白髪の少年がユプシロンを見ながらそう呟く。周りには、数体の機械兵が立ち並んでいる。

 

「貴様……我がデータにあるぞ。魔人パイアールだな」

「へぇ……古い人形の分際で、ボクの名前を知っているんですね」

 

 現れたのは、人類の敵。魔人パイアール。

 

「何用だ……」

「そうですね……ちょっと……」

 

 ユプシロンの問いかけに対し、パイアールはニヤリと笑う。それと同時に、周りにいたPG-7とmk-2たちがその銃身をユプシロンに向ける。

 

「貴方を倒して、闘神都市を乗っ取ろうかと」

「抹殺する!」

 

 魔人対闘神。500年以上前の因縁が、今再び相見える。

 

 




[人物]
ユプシロン
LV -/-
技能 格闘LV1 魔法LV2 魔鉄匠LV1
 闘神。24機製造される予定であった闘神の20機目で、その後聖魔教団が滅んだため、事実上最後の闘神。闘将に比べ遙かに強力な力を持ち、魔人とも対等に渡りあえる存在。中身はセルジオという魔法使いだが、闘神になる際に死亡しており、教団の命令を忠実に聞くだけの操り人形に過ぎない。


[技]
トマト爆裂アタック (オリ技)
使用者 トマト・ピューレ
 上空に跳び上がって振り下ろすトマトの必殺技。実際は真滅斬を真似ているだけで、ただの上段斬り。爆発するような特殊効果はない。

エアレーザー
 風を収縮した光線を放つ上級魔法。マリアの水魔法同様、使い手の少ない稀少な魔法。

身体加速
 対象の素早さを上げる付与魔法。回避率、命中率の向上に繋がる。単純に身体能力を向上させている訳では無く、時を少しだけ操っている高度な魔法である。そのため、一般的にはあまり知られていない付与魔法である。

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