SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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いよいよボスバトルも終盤です。
ここまで長いボス戦を書いたのも久々でした。

聖夜ですので、たまには救いがあっても良いのではないでしょうか。


Episode13-19 レギオン

 飛びかかる無数の異形。ナメクジともムカデとも蜥蜴とも思える、雪が青紫に変色して形作られ、2メートルにも及ぶ縦長の体を、節足を動かしながら雪の中を自在に泳ぐそれらは、パックリと割れたような口の中に目玉を潜ませ、次々とオレへと攻撃を仕掛ける。

 その手段は至ってシンプルだ。まるで魚が水面から跳び上がるように雪上から飛び出してタックルし、牙も何もない、目玉だけを潜ませる口で噛みつこうとする。

 同時に3体の異形に飛びかかられるも、オレは冷静に黎明の剣の斬撃で払い除ける。通常攻撃で減少するHPはクリーンヒットとカウンター補正で3割といったところだろうか。鉈に比べればリーチが勝り、火力では劣る黎明の剣でこれだけのダメージを与えられるならば、十分に対応できる。

 もちろん、数が50体を超えておらず、なおかつ天使が静観を決め込んでいれば、という大前提があるが、もちろん、そんな条件がクリアされているはずがない。

 天使が4本の腕を振るえば、次々と青の光球が出現し、それはふわふわとシャボン玉のようにフィールドを浮遊する。そして、オレが近づくと急激に収縮し、青い爆発を引き起こす。言うなれば浮遊機雷だ。今やフィールドには軽く10を超える光球が浮遊し、オレの移動を制限している。幸いにも爆発までラグがある為に回避は難しくないが、下手に異形の攻撃を回避して光球の爆発範囲に身を投じてしまえば、間違いなく高火力だろう魔力属性の爆発がオレのHPを消し飛ばすだろう。

 背後から異形が跳び上がり、オレの右腕に喰らいつこうとする。それに対し、肘打で下顎を打ち上げて封じ込め、そのまま回し蹴りで叩き落とす。追撃で黎明の剣を突き刺そうとするよりも先に、更に左右から2体の異形がその口を開き、隠された目玉よりソウルの矢を放つ。

 上半身を反らし、背中の数センチ先、胸に触れるか否かの位置をソウルの矢が通り過ぎるのを確認してからオレは反転して無造作に鉈を左手で抜いて振り下ろす。そこには今まさに奇襲をかけようと忍び寄っていた異形の姿があり、その頭部に鉈の刃が食い込んだ。

 そのまま刀身を切り替えし、異形を斬り上げる。刃が雪の肉を引っ掛けて異形が雪上に放り出される。すると、異形は極端にスピードを失い、節足で鈍く移動する事しかできなくなる。

 これも異形の特徴だ。雪の中を泳いでいる間は手が付けられない程に高速であるが、上手く飛びかかった時にダメージを与えるか、強引に雪の中から引き摺り出せば、機動力は大幅に損なわれ、再び雪に潜るまでの間の脅威度は下がる。

 そのまま右足で頭部を踏み潰し、跳躍する。1拍遅れて背後から青い光の爆発が解放される。

 光球はランダムで漂うタイプとオレを追跡するタイプの2種類がある。ランダム型は常に視界に捉えて位置を把握しておけば、その鈍さからも爆発範囲に入らないように心掛ける事ができるが、ランダム型に紛れて密やかに接近する追跡型は気づけば爆発範囲内へとオレを喰らいにかかる上に、僅かにランダム型よりも速い。どれがランダム型で、どれが追跡型なのか、早期に見極めて頭の中で位置づけしておかなければ、先程のようにいつの間にか背後に回られて爆発範囲に引き摺り込まれていた、という事もあり得るのだ。

 着地したオレを数えるのも面倒な程の異形が取り囲み、一斉に飛びかかる。それを回転斬りで迎撃して落とす。そのまま地と雪を抉るような回し蹴りで全てを浮き上がらせ、黎明の剣と鉈の二刀流で斬り裂く。

 スタミナが危険域である事を知らせるアイコンがHPバーの下で点滅している。スタミナ切れのアイコンが表示されるのは、数値化されていない為に確認できない隠しステータスの関係上、明確な回答は出ていない。だが、大よそ3割を切った段階でスタミナ危険域アイコンが表示されるというのが今のDBOでの一般論だ。

 そうであるならば、オレのスタミナの残量は2割程度しか残っていないだろう。軽装かつCONをそれなりに上げているオレはスタミナ回復速度もある方だが、このまま動き回りながら戦闘を続けている限り、スタミナを多量に消費するソードスキルを使用せずとも回復速度に対して消費速度が勝り続け、いずれスタミナ切れになる。

 故に、オレが自身に要求せねばならない事は、最大限に無駄を無くし、リスクを上乗せしてでもスタミナ消費量を抑える事である。最小限の動きで回避と攻撃を両立させ、スタミナとHPを削り取るガードを封印する。鉈と血風の外装はガード性能がそれなりにある為、大攻撃を受けなければガードを突破されて削りダメージを負う事は無いが、今はHPとスタミナの両方に気を配らねばならない。

 と、オレは無意識にバックステップを踏んだ。本能がまるで首輪のリードを引っ張ったかのように、その場から後退する。その一瞬遅れで頭上から巨大な雹が落下してきた。

 見れば、頭上ではいつの間にか白い靄……氷の粒が嵐のように渦巻き、次々と巨大な雹に成長している。それを制御しているのはもちろん天使だ。光球をばら撒くだけばら撒いた天使は、上の両腕を空へと掲げ、青い魔法陣を展開している。そこから際限なく氷の粒が放出されていた。

 確実に、1つずつ、こちらの動きの自由を奪い取っていく気か! ふざけた真似をしやがって! オレは黎明の剣で飛びかかる異形を斬り払いながら天使に接近しようとするも、異形に阻まれて速度が出ず、近づけば瞬間加速で距離を取られ、逆に下の2本の腕からそれぞれソウルの槍を撃たれて余計な回避行動を取らされる羽目になる。

 貫通性能が高いソウルの槍は、それこそ魔法防御力に特化した盾でもない限りガードは不可能だ。だが、速度も追尾性能も決して高くない……のがプレイヤー側のソウルの槍なのであるが、コイツのソウルの槍は外観が同じであるだけで別の魔法なのか、異常な速度で放たれている。それはもはや弾丸だ。

 

「糞が!」

 

 雪上を転がって無様にソウルの槍を回避したオレに、今度は羽の面攻撃が襲う。咄嗟にコートを脱いで翻して防ぐも、その間に異形の接近を許し、正面から頭部へと喰らいつかれそうになる。それを突き出した鉈を異形の口内に押し込んで防ぎ、串刺しにした異形を投げ捨てた。

 と、そうしている間に、降り注いだ巨大な雹に変化が訪れる。その氷の塊の中で、山吹色の光の塊が脈動していた。

 嫌な予感がする。オレは雹を破壊すべく駆けるが、異形達がそれを許さず、まるで隊列を組むかのように並んでソウルの矢を口内の目玉から放つ。スピードはあるが、火力が乏しいソウルの矢など本来恐れるに足らない初歩魔法なのであるが、今のオレには十分以上の脅威だ。

 と、そうしている間に変化が起きる。雹の周囲にいた異形たちのHPがジリジリと回復し始めたのだ。【太陽の光の恵み】という奇跡があるが、それは周囲の非敵対プレイヤーのHPをオートヒーリングさせる奇跡だ。要求MYSと消費魔力が高い為、MYS特化の神官プレイヤー以外はまず使用できない上に、販売されていないレアドロップである為か、使用しているプレイヤーは片手の指の数もいない。

 あの雹、正確に言えば山吹色の光の塊、あれが太陽の光の恵みと同じ効果を異形たちにもたらしているのだろう。気づけば、既にフィールドには5つも雹が降り注ぎ、その巨大な氷の中に山吹色の光の塊を孕ませている。

 オレを叩き潰すだけではなく、異形へのサポートを目的とした行動だったのか! 雹は最大で5つしか設置できないのか、天使は掲げていた上の両腕を下ろしている。

 1体ずつ確実に潰していかねば、異形達はどれだけダメージを与えてもHPを回復させてしまう。これまでダメージを与えられる時に与えて、トドメを刺す前に次の異形への対応を優先させていたオレの行動が裏目に出た。今までダメージを与え続けた異形は次々とHPを回復している。

 この状況を打破する手段は2つ。異形の数を減らして天使との戦闘に持ち込むか、異形を無視して強引に天使へと攻撃を仕掛けるか。

 スタミナが無い現状ではどちらを選んだとしても、待つのはスタミナ切れだ。異形を減らすにしても1体ずつ対応していてはスタミナが失われる。強引に天使にスタン蓄積を狙いに行けば、数の暴力によってスタミナ以前にHPが削り取られる。

 一瞬の逡巡。それが仇となり、背後から飛びかかった異形への反応が遅れる。身を翻しながらギリギリで鉈で頭部を断つも、視界に入らなかった左側からタックルしてきた異形を咄嗟にそのまま鉈の側面で受けてしまい、そのまま手元から奪い取られる。

 完全に反応が遅れた。視界に入れていたはずなのに、まるで見えなかった。だが、その理由を追及するだけの余裕が頭の中で生まれない。

 宙を舞った鉈を異形の1体が咥え込んだ。そして、瞬く間に何十もの異形が鉈に群がり、攻撃を浴びせかかる。

 ポリゴンが砕ける音が響いた。あれだけ密集した異形に短時間で集中攻撃されたのだ。幾ら耐久に優れた≪戦斧≫のカテゴリーである鉈でも耐えきれなかったのだろう。これでオレは状況を打開できる可能性を秘めた高火力武器を失った事になる。

 なるほどな。武器を奪って破壊する。こちらの攻撃手段を確実に奪っていくつもりか。

 

「おいおい、まだ作り立てなんだぞ? しかも、素材も結構レアだったんだがな」

 

 鉈を失った事を伝えれば、グリムロックはどんな顔をするだろうか? 彼の目を見開いて唇を震わせる姿を想像しようとするが、靄がかかって上手くイメージできない。

 聞こえる。死の足音が聞こえる。雪を抉りながら黎明の剣で斬り上げて浮かせた異形へ追撃の斬り下ろしを浴びせ、そのまま膝蹴りで撃破する。足下から喰らいかかる2体の異形を、黎明の剣をその場に突き立てて柄頭をつかんで体を持ち上げて回避し、宙で地面から抜いた黎明の剣を振るって飛びかかる2体を迎撃する。着地すると同時に真横に跳び、天使が放ったソウルの槍を回避するも、そのルートに追尾型の光球が待ち構え、危うく青の爆発に巻き込まれそうになる。

 大顎を開ける異形の口内に突き手を打ち、そのまま目玉を握り潰して振り回し、他の異形達の攻撃の盾にする。

 殺しても殺しても殺しても、異形たちは群れ、襲い掛かり、オレを少しずつ磨り潰していく。

 天使が4本の腕を掲げる。凝縮していく氷の粒は、巨大な氷の柱を生み出し、オレへと飛来する。圧倒的な物量攻撃を回避紙一重で回避するも、着弾の衝撃と吹き飛ばされた雪がオレを揺らし、宙へと投げ飛ばす。体勢を整える前に、異形の1体が放ったソウルの矢が左足首に直撃して着地が乱れ、その間に3体の異形に取り囲まれられてタックルを仕掛けられる。2体を迎撃に成功するも、背後からの攻撃には間に合わず、タックルをまともに受けて飛ばされ、転がされ、更にそこに待ち受けていた異形に右腕を食らいつかれる。

 HPが3割を切る。異形の攻撃力は低いが、その数の暴力でオレを削っていく。右腕に喰らいついた異形の首にあたる部分へ逆に歯を食い込ませ、その雪のように冷たい体を食い千切る。堪らずオレの右腕を開放した瞬間に足で踏み潰し、そのまま黎明の剣を脳天に突き刺して殺す。

 

「まだだ……まだ、オレは戦える」

 

 好機とみて瞬間加速で接近した天使にカウンターを狙うも、それはブラフだったのか、間合いに入る直前で天使は瞬間加速で後退し、至近距離でソウルの槍を4発同時に放った。その場で跳んで体を捩じり、ほとんど掠らせるように4発のソウルの槍を躱し、更に氷柱の弾丸を黎明の剣を高速で振るって弾き、地面に着弾して伸びた氷を足場に着地し、回転斬りで喰らいつこうと飛び上がった異形を切断し、撃破する。

 

「殺してるんだ。殺されもするさ」

 

 今まで、たくさんの人たちを殺してきた。

 だから、その報いを受ける日が来ただけなのかもしれない。

 

「好きに生き、理不尽に死ぬ。それがオレだ」

 

 ならば、サチとの再会を望み、『アイツ』の誇りを汚さない為に戦おうとするオレは、そんな願いは否定されて当然という理不尽な死を受け入れるべきなのかもしれない。

 だけど、それでも、だとしても……

 マシロ。オマエは理不尽な死を前にして、オレに殺されたいと望んだ。

 本当にそれで良かったのか? 足掻いても生きたいと思わなかったのか? それとも、誇り高き死とはオレという友人に殺される事だったのか?

 分からない。でも、きっとマシロは好きなように生き、好きなように死ねたのだろう。たとえ、それが傍から見れば理不尽な死だとしても、彼女にとってそれは満たされた死だったのかもしれない。

 ならば、戦いの果てにある、この死はオレにとって理不尽と呼べるものなのだろうか? これは1つの、オレが追い求めた結末なのではないだろうか?

 

「違う」

 

 そうだ。今のオレにとって、戦いは過程だ。果たすべきはサチとの再会であり、『アイツ』の誇りを守る事。ならば、ここでの死は、オレの目的を阻むどうしようもない理不尽だ。

 

 本当にそうだろうか?

 

 オレはただ理由付けして戦いだけなのではないのか? 戦って、戦って、戦って、どうしようもないくらいに理不尽と思える戦いで死ぬ事を求めているだけなのではないのか? そうでなければ、希望も絶望もなく、ひたすらに滾り続けるこの血はどうして全てを焼き焦がすように熱を孕んでいる?

 無我夢中で斬り払う。もうスタミナ節約など考えず、天使の攻撃を我武者羅に回避し、異形を斬り裂いていく。

 

「頼む」

 

 万能なる神はこの世にいない。少なくとも、この仮想世界でオレに微笑んでくれなどしない。

 だから、オレが願いを捧げるのは、先祖たち。この血を繋げてくれたオヤジであり、母さんであり、じーちゃんであり、今も墓の下で眠り続けるオレのルーツだ。

 迫る異形へと拳を叩き付け、蹴りで吹き飛ばし、ショルダータックルで潰す。

 

「この一瞬だけで構わない。オレに戦う力を」

 

 振り上げたのは左手の拳。

 HPバーの下、激しく点滅するスタミナ危険域アイコンの真横に表示されたのは、赤い風のようなマーク。それは『チャージ』が完了した証拠。

 振り下ろした左手の拳が雪を吹き飛ばす。それは地響きにも似て雪を震わせ、消し飛ばし、舞い上げる。

 

 

 

 

「血風の外装……【竜血の覚醒】解放」

 

 

 

 

 発動モーションと同時に、血風の外装に彫り込まれた血管のような溝、そこに血のように赤い光が灯り、満たされていく。

 オレの四肢は鮮血のように禍々しい赤の光に覆われ、明るい夜の雪原を妖しく照らす。

 戦い続けろ。そうすれば、この血は必ず勝利への道を教えてくれる。

 飛びかかった異形。それへとオレは何処までも単純に拳を振るう。赤い光を纏った籠手に包まれた右手は、接触した瞬間に、もはや爆砕といっても表現としては不足する破壊力を発揮し、異形を粉々にする。

 駆ける。オレは天使が放った巨大な氷の柱、それへと強引に指を立ててつかみかかる。

 丸太という表現すらも生温い、純粋な大質量攻撃用オブジェクト。全長10メートル、厚さ1メートルにも達する氷の円柱。

 

「おぉ……オォオオアアァああああああああああああああああ!」

 

 雄叫びと共に、脳髄の奥底、遺伝子の奥から1つのイメージが湧き上がる。

 それは白い髪の女性。母さんやねーちゃん、それにオレと同じ赤みかかった黒の瞳をした誰か。

 ずっとずっとずっと、オレの血の中にあった、どうしようもない本能の本質。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、オレは巨大な氷の円柱を振り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 血風の外装の隠し性能【竜血の解放】。この武具の説明文には、血風の外装は騎士達が巨人と戦う為に、巨人と同じ武器を扱える為に作り上げられたと記載されている。

 その説明文通り、【竜血の解放】とはSTRの大幅な上昇。血風の外装で攻撃し続ける事によってチャージされ、極限までチャージすれば、STRの増加倍率は3倍にも到達する。

 ここまでの天使とケイタとの戦い、そこに至るまで使用し続けた血風の外装。間に合わないかと思ったが、この土壇場でチャージが完了したのは必然だ。これだけ異形が……チャージする為の『餌』がいたのだ。

 希望も絶望も必要ない。ただ闘志だけがあれば、オレは前に進める。

 

「殺す」

 

 上乗せされるのはバーサークインナーのSTR上昇効果。これも【竜血の解放】との相乗効果によって増幅される。

 

「殺す。殺せ殺せ殺せ」

 

 そして、バーサークインナーの特殊効果、ヘイトの集中による攻撃力の増幅。それは皮肉にも天使が物量攻撃を仕掛けた事により、多数の異形から集められたヘイトによって本来では考えられないレベルまで攻撃力を引き上げている。

 

 

 

 

「殺せぇえええええええええええええええええ!」

 

 

 

 それは『オレ』の叫びか、それともオレの中にある本能という名前でいた『彼女』の歓喜か。今は何も分からない。

 振り下ろした圧倒的な質量攻撃が異形達を叩き潰す。10体以上がまとめて押し潰されて撃破されるが、お構いなしに、オレは巨大質量を保持で鈍くなった体を極限まで引き上げられたSTRを使って歩みを進める。

 天使がソウルの槍を放つが、そんなもの、天使自らが作り上げた氷の円柱に比べれば余りにも弱々しい。オレは嗤って、何処までも単調に氷の円柱を真横に振り抜く。それだけでソウルの槍は巨大オブジェクトを貫通しようと抉り取るも、その分厚さを突破できずに掻き消され、挙句に天使自体を横殴りにする。

 ただ闇雲にオレが氷の円柱を振るうだけで面白いように異形達は、人間の足に踏み潰されまいと逃げ惑う蟻のように散り散りになる。だが、1体として残さない。オレは両手でつかんだ氷の柱を振り下ろし、雪どころか下の地面も削る様に振るう。

 これまで圧倒的な手数で押していた天使が急激に減少した異形達に反応し、その両手にソウルの剣を生み出して近接戦闘を仕掛けようと瞬間加速をして近づく。

 

「もう、それは見飽きた」

 

 目で追わず、耳で探らず、肌で感じ取らず、オレは本能が……『彼女』が囁くままに氷の円柱を投擲した。

 カウンターヒット。投擲された円柱は瞬間加速で移動中の天使に直撃し、そのプレイヤー側には許されないような規格外の大質量攻撃で潰される。

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!』

 

 氷の円柱を破砕し、舞い上がった天使が頭を抱え、仮面を溶かし、羽を崩壊させていく。

 これが最後だ。オレは天使が変貌するのを見届けながら、焼き付けるような頭痛、息苦しさ、四肢の痺れを覚える。あんな無茶苦茶をしたのだ。システム的にSTRがそれを許しても、スタミナ消費はオレを容赦なく追い詰める。

 スタミナ切れだ。視界は赤色が滲み、そして運動アルゴリズムとの齟齬によってオレの脳に負担がかかる。スタミナ切れ状態では全ての攻撃がクリティカル扱いとなる為、3割を切ったオレのHPでは全てが致命傷になる。

 本来ならば立っていられない。立っていられるはずがない。だが、オレは戦える。1度経験している。カークとの初戦、ヤツに追い詰められた時、オレはスタミナ切れ状態で戦闘をした経験がある。

 あの頃は数十秒しか保てなかった。だが、あの体を焼き焦がされ、脳にあるVR適性が焼かれていく感覚は分かっている。

 ならば耐えるだけだ。運動アルゴリズムが処理していた全ての負荷を脳が引き受ければ良いだけだ。

 青い光の中から、天使の姿を剥ぎ取り、その顔を覆っていた青銅の仮面が液状となって雪の中に落ちて紛れ、拡散する青の輝きを払ってケイタが姿を現す。

 その両手に握られているのは、第1形態の時と同じデザインの……だが、やや小型になった剣。オレ達プレイヤーからすれば依然として特大剣クラスであるが、3メートルを超えるケイタの身長を考慮すれば両手剣クラスだろう。

 そして、ケイタが取った構えが『アイツ』と重なる。

 

「く、くは……くはははは!」

 

 こいつは傑作だ!

 最後の最後で『それ』を持ってくるか!? 何処までも人を小馬鹿にするのが茅場の後継者は上手い。

 最大チャージ状態の【竜血の覚醒】が与えるSTR上昇効果は60秒。赤い光が籠手より消失する。それを見越していたようにケイタがソードスキルの輝きを放つ。

 

 

 

 

 

 

 それは≪二刀流≫突進型ソードスキル【ブレイヴクロス】。

 

 

 

 

 もはや≪槍≫のソードスキルと見紛うほどの突進力、≪刺剣≫のソードスキルの如き加速度、そして火力ブーストは≪戦斧≫のソードスキル並み。ソードスキルのアシストを受けた×印を描く斬撃突進がオレに襲いかかる。

 黎明の剣でガードすれば、これだけボロボロの刀身では砕かれ、そのままアバターを切断されるだろう。

 スタミナ切れで足先まで焼けるような感覚、脳髄をぐちゃぐちゃにされるような不快感、肺を圧迫されるような窒息感が襲い掛かる。たった1歩でそれだ。

 だが、ここで動かねばオレは死ぬ。だから、力の限り跳躍しながら前転し、低姿勢からの斬撃であるブレイヴクロスを、ケイタを跳び越えて回避する。

 

「アァアアアアアアアア!」

 

 声から漏れる絶叫は本当にオレの物なのかと思う程に無様だ。

 視界が明滅するのは錯覚か、それとも脳が今すぐにアバターの操作を停止するようにオレへと訴えかけているのか。だが、無視する。

 腐るほど≪二刀流≫とは戦った。そのソードスキルも、戦い方も、何もかも研究済みだ。

 

 

 

 

 どうして? 本能が嘲笑うように尋ねる。

 

 

 

 

 ケイタの二刀流の斬撃。それは『アイツ』をトレースに、なおかつアレンジが加えられたものだ。『アイツ』用の対策の動きでは隙ができる。

 対応しろ! あくまで重ねるべきは『アイツ』の動きだが、アレンジを加えねばならなかったのは、ケイタの巨体化だけではない。『アイツ』の動きを完全に再現する事ができないからだ!

 あのシステムの枠を超えた強さをオレは知っている。ああ、そうさ! ケイタの動きはせいぜい『アイツ』の6割か7割! ならば戦える!

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!』

 

「うァあああぁアアアアアア!」

 

 アレンジが加えられた二刀流。AIとして再現できなかった『アイツ』の強さ。それを補うように、ケイタは氷の剣を出現させ、ほぼ至近距離で次々とオレに射出する。それを黎明の剣で迎撃した隙に右手の一閃が左肩へ、左手の斬撃が横腹を狙う。

 茨の投擲短剣を抜き、左肩を狙った斬撃を反らし、横腹に襲い来る剣筋を見切って跳び、体を地面と平行にして回避する。その体勢のまま蹴りをケイタのこめかみに打ち込む。

 途端にケイタが踏み込んだ。スタミナ切れで焦がされる脳は、それでもオレの生命を維持する為に更なる動きを引き摺り出す。

 放たれたのは≪格闘≫のソードスキル【剛波】。踏み込みからの全身を使った打撃、密着状態で発揮するリーチよりも火力に優れたソードスキル。間一髪でソードスキルのモーションはオレの胸と接触する数ミリ先で止まり、その硬直モーション中にオレは茨の投擲短剣を握ったままケイタの右肘、甲冑の関節部分へと突き刺す。

 それでもケイタの動きは鈍らない。元よりダメージフィードバックも、痛みも、何もかも置き去りにする程に『改造』されてしまったのだろう。たとえ、彼がそれを訴えても書き込まれた『プログラム』が止まらないのだろう。

 回り込んでケイタの腹に蹴りを打ち込もうとするが、足が上がらない。脳が負荷を引き受けきれず、アバターに深刻なズレが生じてオレはその場に転倒する。ケイタが振り返りながら右手の剣を振り下ろすのを転がって避け、追撃の蹴り上げを黎明の剣で受け流す。

 もう跳べない。蹴りもできない。歩く事もまともにできない。意識だけが戦いへの渇望を糧にして残り続け、視界の赤い滲みは拡大と縮小を続けて煩わしい程に自己主張し、酸素も必要としない仮想世界で呼吸の度に舌が痙攣して喉が震える。

 スタミナ切れで戦うという事は、息をしないまま全力疾走するようなものだ。それが数秒、10秒程度ならばまだしも、数十秒、分単位ともなれば、口と鼻を縫い付けられたままフルマラソンをするのに等しい。

 だから、これは必定。

 

「切り離せ」

 

 意識から足を手放す。もう歩く必要はない。

 全ての集中力を腕に。焼かれる世界の中で、ただケイタだけを見つめていればいい。

 

「さぁ、踊ろう。ラストダンスだ」

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!』

 

 オレは微笑んだ。ケイタを哀れむでもなく、悲しむでもなく、蔑むでもなく、その何処までも闘争によって精神を蹂躙された姿に愛おしさを覚えた。あるいは、『アイツ』と戯れるようにデュエルを繰り返したアインクラッドを思い出したのかもしれない。

 あの頃は楽しかった。

 ただひたすらに、戦い続ければ良かった。殺していれば良かった。そうすれば、自分を見失わないで済んだ。そこに悦びすらもあったかもしれない。

 

「……たかったんだ」

 

 どうして、オレは『アイツ』への対策を練り続けたのか。

 その答えは単純だ。

 

「殺したかったんだ。全力で戦って、『アイツ』を殺したかったんだ」

 

 相棒だからこそ、その強さに憧れた。

 友人だと思っていたからこそ、戦いたいという欲望が芽生えた。

 最低だ。最悪だ。人間以下のケダモノだ。アインクラッドの頃のオレは闘争に支配されていたガキだった。

 そんな『オレ』を否定したかった。バケモノではないと。ヤツメ様ではないと。

 でも……でも、きっと、それは……

 

『Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!』

 

 二刀流の斬撃を一刀流で受け止める。1テンポ遅れも、たった1つの見切り違いも許されない。相手の10手先まで感じ取れねば、二刀流には追いつけない。

 ラッシュをかけるケイタの斬撃はいずれも殺気ばかりが先行して、そこには深奥とも言うべき磨き抜かれた修練が無い。書き込まれたプログラムに従い、ケイタは必死にオレと戦いながら学習しようとしているが、反応速度が二刀流のアレンジプログラムに追いついていない。

 その場から動かないオレはケイタの斬撃をひたすらに受け流し、少しずつカウンターを入れていく。もはや意識は炭化し、あるのは先鋭された戦意のみ。

 小さなダメージが積み重なる度に、ケイタの体から赤黒い光が零れていく。だが、ただの一閃として彼の斬撃はオレに届かない。

 知っているんだ。どれだけアレンジしようとも、根本にあるのは『アイツ』の動きだ。だから、今も追い続けているから、分かるんだ。

 ケイタが距離を取る。その左手に青い光を凝縮させる。動かない足、これでは回避できないだろう。ここで遠距離攻撃とは、オレがもうまともに走る事も歩く事もできないと見越しての、最適の戦術だ。

 だが、それを待っていた。オレは左袖、そこから伸びる蛇蝎の刃のワイヤーの先端に括り付けた茨の投擲短剣を力の限り投げつける。凝縮体勢を取っていたケイタはそれを回避するも、それすらも狙い。

 彼の背後にあった、このフィールドの象徴、捻じれた巨大な樅木、その幹に茨の投擲短剣は突き刺さる。

 ワイヤーを回収する推力でオレは体を引きずるようにケイタへと突撃させる。凝縮された青い光を開放してオレを狙うも、黎明の剣を振るったベクトルで微細に体を動かし、紙一重で青い光を回避する。

 蛇蝎の刃、解除。袖の奥に隠された射出機構を備えた装置が外れ、ワイヤーと繋がっていたオレは放り出されたオレはケイタへと突きを放つ。それはケイタの腹を貫いた。

 ケイタの最終HPバーは残り3割。足りない。圧倒的に足りない。

 スタミナ切れの状態が解除されるためには、スタミナが危険域を脱するまで回復させねばならない。動きを最小限に抑えたオレは少しずつスタミナを回復しているだろうが、危険域にまだスタミナは取り残されているだろう。

 それに、今の頭痛や神経が焼かれるような感覚、骨が溶解するような熱、深海に残されたような圧迫感、喉と肺が萎びていくような窒息感は、スタミナ切れというよりも、それでも動き続けた反動だ。

 

『良いか、クゥリ』

 

 思い出される。嗤える。こんな時でもアルシュナはオレに働きかけ、少しでも『恐怖』を引き出そうとしているのだろうか?

 記憶に眠っていたPoHとの会話。

 ああ、どんな会話をしただろうか? 確か、何か大切な、でも当時はどうでも良いことだと思っていた事だったはずだ。

 

『オマエのVR適性は×等だ。だか×、根本的にオマエの反××度は×××ない』

 

 左手のコントロールが利かなくなる。右手だけで黎明の剣を振るい、二刀流の連撃を弾き続ける事はできない。

 片膝をつく。ケイタが両手の剣を振り下ろし、それをオレは黎明の剣を掲げてガードする。だが、片手では支えきれず、またボロボロの黎明の剣へとケイタの氷の剣が食い込んでいく。

 ああ、さすがはグリムロックの武器だ。こんな時でも、最期の時が来るまで、オレと共に戦おうとしてくれている。散っていくポリゴンの欠片を浴びながら、オレは左拳を握り、渾身の力で黎明の剣を打って二刀流を押し返す。

 最後の拮抗。右足の力だけで、ほんの数秒だけ立ち上がったオレはケイタが眩いソードスキルを輝かせたのを見て、笑った。

 

「スターバースト……ストリーム」

 

 見慣れた眩いソードスキルの発動の光の中、オレは黎明の剣を手放し、ケイタの右肘に突き刺さっていたままの茨の投擲短剣をつかみ、捩じった。

 たったそれだけで、必殺のソードスキルは不発に終わる。

 ソードスキルの大前提。発動モーションの立ち上げが阻害されたからだ。そんな中、オレは前のめりに倒れ込みながら、右手の拳を振り抜いた。

 

「サヨナラだ、ケイタ」

 

 前のめりになりながら、オレは確かに右足で踏み込んだ。

 

「穿鬼」

 

 必殺。その名に等しい破壊の打撃がケイタの顎に炸裂する。彼を吹き飛ばし、高々と上空に舞い上げる。

 同時にオレはその場に倒れた。地面に落下した彼が痙攣し、赤黒い光を口内から漏らすのをぼんやりと見つめていた。

 

『……ありガとウ』

 

 ゆらりと幽鬼のように立ち上がったケイタのHPバーはゼロだ。その身は氷の結晶となり、拡散している。

 その顔には先程までの苦悶は無く……穏やかな『ケイタ』としての表情があった。

 

『ヤっと、これデ、眠レる……ヨ』

 

 全てから解放されたようにケイタが両腕を広げる。

 ああ、そうか。オマエは仲間を失った絶望で死を選んだ。戦う事を止めた人間だ。

 そうであるにも関わらず、戦い続けさせられる事を強要された。自分自身が破壊し尽される程に『改造』されて、それでも……心の欠片は安息を求めて叫び続けていたのだろう。

 ケイタが安らかな顔で散っていく。オレは意識を手放すギリギリまで、それを見つめ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、雪の中から飛び出した青銅の液体がケイタを貫き、彼の安息を奪い取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぐちゃぐちゃ、と。

 ぐちゃぐちゃ、と。

 ぐちゃぐちゃ、と。

 ケイタの体内へと瞬く間に侵入し、仮面を形作っていた青銅のような液体は彼を内側から変形させていく。

 

 

『あああああああああぁああああああぁあああAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!』

 

 

 それは最期の願いすら踏み躙られ、冒涜的に穢され、残された安息への『祈り』に支えられた微かな『ケイタ』という自我の断末魔。

 今この瞬間を以って、ケイタが『死』を迎えた事をオレは直感する。

 

『オペレーションⅠ終了、コレヨリ、オペレーションⅡニ移行』

 

 その姿はもはや怪物。

 3メートルあった巨体。その表面は異形と同じ青紫の雪で覆われ、固められた。その頭部は膨れ上がり、脳が露出し、それを守る様に山吹色の光を蓄えた角付きの氷の兜に覆われる。

 背中から伸びたのは脊椎のような氷。それは尾のようにうねる4本であり、その内部では青銅のような液体が脈動し血管のように張り巡らされて脈動している。

 口は大きく裂け、青紫の舌が伸び、その口の奥底には異形と同じ目玉が潜み、オレを睨んでいる。歯はいずれも氷で強化され、肉食獣のように鋭い。

 

 

 

 

 

『対【黒ノ剣士】オペレーションパターンⅡ【渡リ鳥】起動』

 

 

 

 

 それは茅場の後継者から見たオレなのか。

 それとも、アインクラッドで散った……そして、今もDBOにいるプレイヤー達のイメージが姿形を成した存在なのか。

 

「やっと、分かったよ」

 

 ケイタを操っていた闘争心と殺意。その『プログラム』。いったい何を『書き込んだ』のか、オレはようやく理解する。

 

「オレ……だったの、か」

 

 茅場の後継者は、きっとオレの『本能』と呼べる部分のプログラム化を試み、ケイタに導入したのだろう。

 つまり、ケイタを苦しめていたのは他でもない、オレ自身だったというわけか。彼の自我を蹂躙し続けていたのは、オレの、久藤の、ヤツメ様の本能を再現しようとしたプログラム。

 怪物の名は【Legion】。福音書に登場する悪霊だっただろうか。多重人格障害者だったのではないかとか、色々と今では諸説あるらしいが、福音書にはそう記されている。

 

「悪霊か。やっぱり……日本の悪霊と言えば、生霊だよ、な」

 

 もう限界だ。黎明の剣を杖代わりにして震える体を起き上がらせようとするも、立っていられずに倒れそうになる。

 目前の、『オレの本能を基にしたプログラム』を最適で運用する為のアバターへと変質させられた『ケイタだった』怪物、レギオン。頂くHPバーは1本だが、それは果てしなく遠い。

 

「ここが……オレの『終わり』か」

 

 今も本能は猛っている。むしろ怒り狂っている。あのような『形だけを整えた紛い物』は見るに堪えない、と。

 殺さねばならない。『アイツ』の誇りの為に、サチと再会する為に……そして、この受け継いだ血への侮辱を晴らす為に。

 

「ああ、聞こえる」

 

 希望も絶望も無かった。不思議なくらいに、この胸にはそんな物は無かった。

 

 

 だから、そこには『死』だけがあった。

 

 

▽   ▽   ▽

 

 

 ここまでは『想定』通り。【黒の剣士】はいかなる形であれ、ハレルヤを撃破する事はセカンドマスターも推測していた。

 だからこその二段構え。セカンドマスターが【黒の剣士】を殺害する上で最適と考えたのは、皮肉にもP10042が持つ不鮮明で解析しきれないイレギュラー性を持った戦闘素養……つまり本能だ。

 そこで再現する基になったのはSAOのサーバーに残されていた『プレイヤーAI』であるホロウ・データ。個人を復元するには稚拙なAIであるが、能力を分析するだけならば素材としての価値があるとして、セカンドマスターはそれを素材に開発を行い、再現できたかどうかは分からないが、『レギオン・プログラム』を生み出した。

 だが、レギオン・プログラムを正常に運用できたAIはいなかった。『命』あるAI達ですら、導入した瞬間から思考アルゴリズムに異常をきたした。そこで、人間をベースにして『移植』する事によって、計画の一応の成功を果たした。

 アルシュナは壮絶と呼ぶに相応しかったP10042とハレルヤの死闘を思いだす。戦闘をモニターし続けたが、その間にアルシュナの内側には黒く渦巻くものが生まれていた。

 

「あなたは死の瞬間、何を想うのか」

 

 アルシュナにとって『恐怖』だけが興味の対象だ。だが、今は心の何処かで『恐怖』する事に恐怖している。

 それは彼女にある心と呼べる物がゆっくりと成長している証拠なのだろう。ようやく、アルシュナは自身の役目を果たせるだけのデータを得られるかもしれない、と期待する。

 

「教えてください。あなたは『何者』なのか」

 

 そうすれば、この心が抱くもの……感情の理由が分かるだろう。

 避けられない死。それがP10042に与えられた運命であり、アルシュナが知るべき『祈り』と『答え』のある場所なのだから。




絶望「うん、よく頑張ったね。というわけで、も う 1 回 遊 べ る ド ン!」

悲劇「難易度はもちろん鬼で」

苦悩「フルコンボだドン!」

救済「……もう止めて」

恐怖「この程度、想定の範囲内だろう?」


ボス回は終盤だと言いました。はい、最後ではなく『終盤』だと言いました。
嘘は吐いていません。
それでは、123話でまた会いましょう。

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