まだ序盤にも関わらず10話以上を消費しているのに、本当にありがたい限りです。
これからも皆様に楽しんでいただけるように執筆させてもらいます。
これからもどうぞ、よろしくお願いします!
スキル
≪作曲≫:曲のデータを作成することができる。作成した曲は≪演奏≫で自動演奏する事ができる。
≪演奏≫:曲データに応じて演奏する。熟練度が一定に達する事に演奏できる楽器を1つ増やすことができる。
≪暗号解読≫:暗号ならば種類を問わずに解読できるようになるスキル。
アイテム
≪絶縁性の手袋≫:電気を通さない分厚い手袋。高い文明が生み出した感電を防ぐ為の品であるが、その用途は攻撃の防御ではなく、作業中の事故から瀬戸際で人命を守る為のものであり、頑丈ではあるが戦闘用ではない。
≪白夜の魔女の口紅≫:高名な魔女である【白夜の魔女】の品。彼女は1人の貴族の五男坊に恋をし、彼に家督を継がせる為にその力を使った。その際に作成したこの口紅は、使用者の異性誘惑の能力を高める。これはその精巧な贋作である。
≪囚人の鎖≫:終わりつつある街の特産品。重く、頑丈で壊れにくく、1度縛れば純粋な力だけでは抜け出す事はできない。故に囚人を捕らえるのによく使われる。これが特産品である事自体が街の実情を表している。
北のダンジョン攻略を再開してから3日目。オレ達は意外な程に順調な攻略をしていた。
確かにこのダンジョンのモンスターは強い。だが、リポップするまでの間隔が長く、1度撃破すれば安全地帯を作るのは難しくないからだ。
トラップはトラップで、電子ロックや光学センサーが主で、注意すれば差ほどの脅威はない。
拍子抜け。それがオレ達に再び忍び寄っていた。だが、以前と違うのは精神的に余裕はあっても油断はない事だ。
「だけど、こうして攻略してみると、茅場の後継者もなかなかのゲームデザイナーね」
「あー、確かに。グロテスクな敵が多いけど、モンスターの配置も悪辣じゃねーし、イベントは結構豊富で必ず見合うリターンがあるし、苦労して倒した敵からはちゃんと良いアイテムがドロップするからな」
「本当にそこよね。あの狂人のドロップ率調整だけは他のVRMMOデザイナーにも見習ってもらいたい限りね」
オレとシノンは無駄口を叩きながら、あの8脚機械蜘蛛を同時に2体も相手取っていた。ディアベルは射手であるシノンの背後から攻撃しようとする、浮遊するボールのような警備ロボットの群れを丁寧に1体ずつ潰している。
浮遊型警備ロボットは経験値もコルも少ないが、代わりに武器熟練度に大きなボーナスが付く。武器熟練度やスキル熟練度はパーティ全体では成長しない。あくまで個人の戦績によって成長する。
ディアベルのレッドローズは熟練度の上昇が極めて遅い。未だに熟練度は段階8だ。対してシノンの霊弓アカツキは既に段階13である。いかに差があるかは火を見るよりも明らかだ。
武器の熟練度を高めれば高める程に武器本来の性能が引き出され、威力やクリティカル率が上昇したり、隠し性能が解放される場合もある。
たとえば、シノンの霊弓アカツキは物理属性の矢に対し、更に火炎属性のブーストを上乗せさせることができる。この機能はオンオフができ、威力が低くて安価な木の矢を使う時はオフにしており、現在のように鉄矢を使用する時はオンにしている。
シノンの矢が命中する度に命中場所からは火が起こり、追加ダメージが起こる。更にロボット系は一定以上の火炎属性のダメージを受けると装甲が脆弱になり、攻撃の通りが抜群に良くなる。これによってオレは大した労力もなく8脚機械蜘蛛を撃破する事ができるようになった。
そして、この隠し性能はディアベルのレッドローズにも設定されている。
判明した理由は単純だ。レッドローズの性能紹介欄に、ご丁寧に『????‐熟練度が一定値に達すると解放されます‐』という項目があったからだ。
武器ごとに到達させねばならない熟練度は違うだろうが、霊弓アカツキは段階12で隠し性能が解放された。この事を考慮すれば、ディアベルのレッドローズも熟練度が段階12に達すれば隠し性能が解放される確率が高い。
こんな美味しい話を、たとえイケメンだろうと、こんなグロゲーに参加している程のゲーマーであるディアベルが逃さないはずがない。ダンジョン攻略中に、毎度のごとく武器熟練度の上昇チェックし、どのモンスターが1番熟練度上昇に貢献しているか調べ上げ、積極的にそれを撃破するようになったのだ。
まあ、レッドローズは耐久度が異常に高いから3,4日は無修理でも十分に運用できる武器だ。もしもの時の為にロングソードも強化してあるので大丈夫だろう。
「……っと! 危ねーな!」
8脚機械蜘蛛が今までにない、短距離射程ではあるが、蜘蛛の巣状のレーザー……というよりもビーム攻撃を射出した。幸いにも射程が短くて咄嗟のバックステップで助かったが、仮に射程が長ければオレの回避は回避にならなかっただろう。
だが、考えようによっては、これはチャンスだ。オレはレベルアップして新たに得た2つのスキルの内の1つを披露する。
足が緑色に光り、オレは弾丸のような速度で前方に跳ぶ。新スキル≪歩法≫のソードスキル【ラビットダッシュ】だ。スタミナ消費はそこそこだが、一気に間合いを詰めるのに役立つ。
それに何より、速度が乗ればモーション値が高まり、通常攻撃の火力が飛躍的に上昇する。オレのウォーピックは8脚機械蜘蛛の脳天に突き刺さった。その破壊音はクリティカル特有の心地良い金属破壊音を立て、2割も残っていた8脚機械蜘蛛のHPを全て奪う。
実質ソードスキルのようなものだが、恐ろしい事にラビットダッシュと併用できるソードスキルは多い。ただし、1度試してみたが、2つのソードスキル同時に発動させるとスタミナ消費量が単純に2つ分になるのではなく、1+1=2.3なんて珍解答のように余分なスタミナまで奪われるようだ。その証拠に試したオレのスタミナは一気に減り、危険域を示す涙マークが状態異常欄に表示された。
「油断しないで! コイツらはどんな新戦術や新攻撃を編み出してくるか分からないんだから!」
「分かってるって! まったく、相変わらずうるせーな」
トントン、と肩をウォーピックの柄で叩きつつ、すでにシノンによって装甲は溶かされ、キャノン砲も以前の個体と同じ方法で破壊された残り1体の8脚機械蜘蛛の脅威は、ハッキリ言って皆無だ。
ならばパーティとしてトドメは彼に任せるとしよう。
「ディアベル、終わったか?」
「ああ、たった今ね。それで、アレも俺が貰って良いのかい?」
仮想世界でなければ爽やかな汗を掻いていただろうディアベルは、まるで騎士の英雄譚の主人公のようにオレの隣に立つ。これもディアベルが新たな得た盾【ブルーシールド】のお陰だろう。
このブルーシールドはZOOのメンバーから信頼の証と北のダンジョン攻略する上での手助けとして贈られたものだ。勿論、それは建前で本当の狙いはまだ入手方法の情報が出回っていなかった霊弓アカツキの入手方法を欲していたからである。ツバメちゃんはどうやら良い弓が入手できていなかったらしく、初期装備のロングボウのままだった事から、火力増強の為にも彼女の強化はあのパーティの必要事項だったのだ。
このブルーシールド入手方法をいっそZOOから聞き出そうとしたが、レイフォックスに『ダメよー。これは情報屋から高値で買ったからね』と断られてしまった。
しかし、DBOでもついに情報屋が出始めたか。あの鼠女並みに根性がある奴が出始めたな。本人談で情報屋程敵も味方も多い職は無いってのに。
「……案外本人だったりしてな。だとしたらオレ以外にも不運なデスゲームのリピーターがどれだけいるのやら。まあ、数がそれなりにいるからリターナーなんて言われてるんだろうけどな」
ディアベルが軽やかに8脚機械蜘蛛を両断する様を見守りつつ、オレはそんな感想を漏らすのだった。
Δ Δ Δ
最終生存者数438名。SAO95層攻略時点で全安全圏は喪失し、また同時に96層以降は95層のボスエリアの先から直に96層に上がった者以外は転移門で行く事はできなくなった。
同時に発生した、95層以下に対する大規模モンスター襲来イベント。アレによって生存していた多くのプレイヤーが死亡する事になり、その後も安全圏が失われた彼らがまともに生きていけるはずもなく、ただでさえ数が少なくなっていたプレイヤー達はじりじりと数を擦り減らされた。あの時、真に安全に近かったのは、皮肉な事に最も危険な場所で生き続けた攻略組の連中だった。
オレは96層だけはボス攻略以外に参加せず、下層プレイヤーの救済に奔走した。まあ、オレ自身の発案ではなく、エギルが義憤に駆られてオレに多額のコルを積んで依頼してきたからだ。実際に、オレは傭兵業みたいな事もやっていたから特に不満も不平も漏らさずに依頼を受理した。まあ、そんなプレイヤーだからエギルも金で依頼して来たんだろうけどさ。
そこでオレが見たのは阿鼻叫喚だ。もはやプレイヤー同士の殺し合いすら始まっていた、末期の世界だ。
美しいアインクラッドの外観のまま、仮想世界は修羅道に叩き落とされていた。
あの時ばかりはオレも茅場晶彦に問いかけずにいられなかった。『これがお前の望んだことなのか?』と。
今にして思えば、あの悪趣味なイベントは、既に茅場の後継者として彼に協力していたあの狂人が仕組んだものなのかもしれない。だからと言って、奴に対して何ら怒りも憎しみもは覚えないが。むしろ尋ねて肯定されたら疑問が1つ解消されてオレが晩年まで悩む必要がなくなって万々歳と感謝して握手してやる。その上で左手で全力パンチだ。これは譲れない。
……エギルか。元気にしているだろうか。オレはシノン特製のパサパサのパンにベーコンを挟んだ、オレがデスゲーム初日食べさせた即席サンドイッチを食しながらナイスガイの彼の事を思い出す。DBOにおける食事情からも分かるように、これはかなりの高級食だ。
ZOOでの晩餐以来、ついにシノンはオレ達の貧弱な食事に耐えられなくなり、翌日の朝になると改善を要求した。
オレは正直何でも食べれればそれで良い。美味いメシである事に越したことはないが、メシに金かける暇があるならば今は回復アイテムの購入に回したい。だが、決定権はリーダーのディアベルにあるのでオレは何も言わずに彼の判断を仰いだ。
『朝は今まで通り。昼食は豪華に。夕食はその日に稼いだコルに応じて決める。これで良いかい?』
『さすがディアベル! そこの脳筋と違って話が分かって助かったわ!』
目を輝かせたシノンの軽蔑の眼差しは、明らかにオレの思考を見抜いたものだった。いや、だってデスゲームだからオレの考えの方がむしろ正しくないか?
そうは思ったが、ふと『アイツ』の話が蘇った。あの【閃光】さえもメシと風呂でやる気を充填して第1層のボスに勝つ事ができた、という素晴らしい、女性プレイヤーのやる気上昇に関する説法だ。
『良いか、クー。美味いご飯とお風呂だ。これさえあれば女性プレイヤーは最強になるんだ。ただし、自分の家の風呂を使わせる時は必ず風呂場の鍵をかけておくんだ! 俺との約束だぞ? 絶対に鍵をかけるんだ!』
あー、思えばアレが『アイツ』と初めて夕飯を一緒に取った時の会話だったかもしれない。以降は【閃光】への惚気話だったから憶えてないが。
「百面相する程に私の作ったサンドイッチはいろいろな味がするの? 変な頭を持ってると変な舌を持つのね」
「……昔の事思い出してただけだよ。ちょいとSAOの頃をな」
オレ達はモンスターが襲い掛かれない侵入禁止エリアで、仲良く3人並んで腰を下ろして食事を取っている。荒れ果てた狭い部屋だが、警備員の仮眠室のようなデザインをしている場所だ。ちなみに、シノン、オレ、ディアベルの並びである。
オレがSAOと言うと途端にシノンは閉口する。シノンは絶対にオレのSAOの過去をほじくり返そうとはしない。最近は軽口も言い合える仲になったが、それでも彼女はオレの最も危険なエリアに立ち入る事がない。オレがシノンの胸でどろりと毒のように彼女を蝕んでいるだろう闇の正体を探らないのと同じように。
そして、それはやはりディアベルも同じだ。シノンと違うのは、ディアベルはSAOという単語を聞く度に渋い顔をする事だ。まるで頭の中の異物に不快感を示すような、そんな顔だ。
「ほら、オレみたいなのってリターナーなんて言われてるだろ? だからさ、今まであんまり考えないようにしてたけど、どれくらいの数のSAO生還者がDBOに居るのかなって思ってな」
「…………私も実際に会ってはいないけど、サボテン頭のプレイヤーが『SAO生還者』って肩書きでルーキー達を教育しているらしいわね。かなり頭もキレて、教育手腕も確か。今は南方のダンジョンの近くにある村をNPC全員縛り上げにして家屋を奪った挙句、そこでルーキー100人をスパルタ教育合宿してるらしいわね。それこそソードスキルの使い方から集団戦術、ステータスの振り方、対人戦で立ち回り方、SAOで存在したトラップについての座学まで、ありとあらゆるデスゲームの生き残り方を」
感慨深そうに尊敬も込めて話すシノンだが、恐らく、というか、オレの想像通りなら、その容姿のリターナーは1人しか思いつかない。オレ以外のリターナーが同じ事を聞いても嫌な顔をして1人の男しか見当を付けない。
あの野心家で、軍を我が物にしようと暴走してシンカーを殺しかけた挙句に『アイツ』と【閃光】によって悪事の全部を鼠女に大報道された、あの男がルーキーの教育とは恐れ入る。
改心したのか。それとも新たな野望の為か。どちらにしても、あの男は必ずデスゲームをクリアする為に動くだろう。少なくともその心が満たされない限りは。せめて、その願いの果てがラスボス撃破の先にある事を祈るばかりだ。たとえば『【黒の剣士】に次ぐデスゲーム解放の英雄誕生!』みたいなリアル世界での名声とか。あの男は『アイツ』に対抗心持ってたと思うし、存外あり得るかもしれない。
「少なくとも貴方が教えてくれた、大半が心構えのデスゲームの生き残り方よりも有意義ね。しかもあちらは無償」
「へいへい。どうせオレは役立たずさ」
「ははは。クーは実戦で俺達をいつも助けてくれてるさ。だからむくれないでくれよ。ほら珈琲」
ディアベルがいつものように食事の締めのディアベル珈琲を差し出す。研究の成果か、香りだけはほんの少しだけ珈琲に近づいた気がした。味はやっぱりゲロマズだが。
「そうね。確かに、貴方の方が実用的で助かったかも」
「まぁ、自惚れなくオレはドラちゃんの道具くらいに役立つからな」
「せいぜい日用品の鋏レベルね。秘密道具とはマリアナ海溝と冥王星くらいまでの差があるんじゃない?」
「だったら、かなり人類に貢献してるな。鋏が人類文化をどれだけ豊かにしたか分からないじゃん」
そんな軽口で昼食を締めたオレ達は再び北のダンジョン攻略に乗り出す。
通路、倉庫、通路といった順で北のダンジョンの区画を1つ1つ攻略しているオレ達は、既に口では言わないが、このダンジョンの奇妙さを感じ取っている。
茅場の後継者のゲームデザインの腕は確かだ。殺し合いなんてのたまっているが、ルールはしっかり守ったゲームとしての体裁を失わない範疇での殺し合いを望んでいる。それに何より、確かにこの世界は終末感が漂っているが、シノンが美しいと思う程に綿密に作り込まれた、自らの師でもある茅場晶彦の名を決して汚さないという奴の確かな矜持を感じる世界を構築している。
そうして奴自身が生み出したゲームの中でこそ、奴の求める【人の持つ意思の力】の打倒に繋がるのだろう。仮に皆殺しにするだけならば、不死属性のレベル300くらいのモンスターを量産して無限に送り込んでくればいいだけだ。1時間もかからずにオレ達は駆逐されるはずである。
だが、茅場の後継者はそれをしない。むしろ勝ち目をしっかり残している。その事実として1ヶ月程度での南のダンジョン攻略とボス撃破だ。このデスゲームは確実にオレ達を殺しに来るが、どう足掻いても死が訪れるわけではない。
そんな狂人がデザインした、序盤のダンジョンの1つが北のダンジョン。滅びた先進文明が残した地下の巨大通路だ。
だが、複雑に絡んだ通路や倉庫街は、どうにもデザインに統一された流れがない。そもそも、この地下道のコンセプトがまるで分からない。まるで迷宮として設計された地下道といった感じだ。
まあ、結局はダンジョンなのだから、茅場の後継者もそうせざるを得なかったと考えればそこまでだが、奴ならばそんな妥協すらも何かしらのトラップか、オレ達への悪趣味なメッセージにしてきそうなものである。
「今度は、何かの実験場みたいね。多分ロボットの性能実験場って所かもね。こんなエリアを見た憶えがある」
「明瞭じゃねーとなると、この辺りはベータテストとは入れ替えてあるって事か」
「ご名答」
「なら2人共、十分に警戒していこう。停止しているロボットがオブジェクトじゃなくてトラップって可能性もあるだろうからね」
ディアベルの警告は最もだ。障害物代わりに3メートル級のロボットが半壊状態で転がっている。コレの幾つか、あるいは全部がトラップならば全滅は免れない。
便利な≪気配遮断≫もロボット系には無意味である以上、あらゆるトラップを警戒しながら慎重に進む他にない。
だが、そんなオレ達の願いもむなしく、薄明かりだった実験場の照明が一際強くなり、ある1点に注がれる。それは、他のロボットに比べれば明らかに破損が少ない、まさに実験場のチャンプのような5メートル級の4つ腕のロボットだった。
「あー、どうやらコレは中ボス戦っぽいな。シノン、お前はどう思う?」
「同意見。でも丁度良いんじゃない? 他のプレイヤーに横取りされずに経験値とコルを得られると思えば。ディアベル、貴方は?」
「愚問だね。倒せないと攻略できないし、俺達に未来はない。ならば倒させてもらうだけだ!」
クールと熱血がいてくれてオレは大助かりだ。もう1つの新スキルも含めて熟練度上昇の糧になってもらうとしよう。
起動し、7つあるカメラアイの内の5つに光が宿り、大型ロボットはオレ達と戦うべく、収納された6本脚を伸ばして立ち上がる。
まさにその時だった。
大型ロボットの背後の空中。そこに、まるで強引に何かが差し込まれるような、データが上書きされるかのように、ノイズが走った。
そして、銀色のバイクに跨った、まるで西洋甲冑のようにスタイリッシュなデザインをしたパワードスーツを着た戦士がノイズの果てから現れた。
謎の戦士は空中でバイクの前フレームに搭載された2門のキャノン砲を放つ。それは8脚機械蜘蛛とは違う、光学兵器である事を示す赤色の閃光となって大型ロボットを穿つ。それを受けて、大型ロボットの3本あるHPバーの1つが消し飛ぶ。
着地後、戦士は反撃しようとする大型ロボットに間髪入れずにバイクの後輪を持ち上げてそのままアタックをかまし、更に両手に持つ銃を乱射する。右手は実体弾の散弾、左手は2連装で連射性能が極めて高い光学兵器……まるでビームマシンガンだ。
ほぼ一方的な攻撃で瞬く間に大型ロボットを撃破した謎の戦士は、オレ達に向き直る。そのカメラアイは不気味に赤く光っていた。
『勝負ダ。モウ1度見セテミロ。オ前達ガ【可能性】カ否カ。ソノ全テデ証明シテミロ!』
ノイズが走った声が求めるのは闘争。そしてオレ達との戦い。
コイツは何かが違う。オレの中で何かが警告し始める。あの狂人が準備したイベントではない。恐らく、奴にとっても予想外の何か。
それを証明するように、周囲に激しい警告音が流れ始める。仮想世界の音ではない。その上位から直接響く、システムから直接響く音だ。そして、オレたちと戦士の周囲に次々とシステムウインドウが開く。そこには1つの英単語が描かれていた。
《ERROR》
『ウルサイ。黙レ! コノ戦イヲ邪魔スルナ! 去レ!』
戦士の銀色のパワードスーツから黒い霧のようなものが滲み出る。それは刹那の後に暴風となり、全てのシステムウインドウを破壊した。同時に警告音も消え去る。
いつしかオレは手に持つウォーピックが震えているのに気付いた。隣を見ればディアベルも体を震わせ、シノンは仮想世界にも関わらず過呼吸に陥ったかのように大口で息をして今にも窒息しそうな顔をしている。
存在としての格が今までのモンスターとは比較にならない。そして、オレ達は以前とは比べ物にならないプレッシャーであるが、同じ存在と対峙していた事を思い出させられる。
『済マナカッタナ。大事ナ戦イノ前ニ水ヲ差シテシマッタ。詫ビヨウ。デハ、改メテ戦イヲ求ム。存分ニ殺シニ来ルガ良イ!』
それは奴なりの勝負前の邪魔入りに対する詫びなのか、オレ達のHPは全快する。
そして、戦士がそのアクセルを踏み、エンジンを激しく吹かすと共にその名が明かされる。
《Dark Rider》
かつての闇の騎手が、かつてより凶悪に進化した鋼の騎馬に跨り、再びオレ達に襲い掛かる。
次回はダークライダーとの再戦です。
このネームドは本作でも重要な立ち位置にあり、根幹に関わっている存在でもあります。
更にバイオのネメシス張りに再登場すると強化されて襲ってくる仕様です。
ストーカーされるプレイヤーはきっと哀れです。レオンやジル並みに苦労するはずです。
では、第14話でお会いしましょう。