SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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古い竜狩りはやっぱり無印の本物竜狩りに比べれば強くないんですよね。超追尾ダッシュ突きや高速雷撃が無い分、とてもやり易いです。
あと、やっぱりスモウさんとのコンビネーションがオーンスタインの危険度を跳ね上げていると思います。


Episode15-9 蝕まれた竜狩り

 連続突きが頬を掠め、飛び散る結晶が視界で踊る。

 兜から伸びる赤の毛髪は、兜の飾りではなく伸びた地毛だろうか? オレはそんなどうでも良いことを考えながら、蝕まれた竜狩りの十字槍を回避し続ける。

 レベル1の呪いが蓄積し続ける以上、悠長に観察している暇など無いのだが、回避に撤せねばならない程に蝕まれた竜狩りの槍捌きは巧みだ。

 1発1発に必殺の意思が宿っていながら、そのいずれもブラフ。狙いはカウンターへと逸ったオレを迎撃する一撃だ。だからこそ、オレは蝕まれた竜狩りへと踏み込めないでいた。

 コイツも『命』があるAI特有の、生命の息吹というべき気配を感じるのだが、どうにも奇妙だ。感覚としては呪縛者に近い。縛られ、削られ、自由を奪われたかのような、虫食いだらけの絵画のような不完全さを覚える。

 だが、それを深く掘り下げるのは後だ。このまま回避一択では敗北こそ必定。オレはチェーンブレードの先端で床を削り、火花を散らしながら十字槍の突きに合わせて穂先を弾き上げる。

 一瞬だが、確かにできた蝕まれた竜狩りの懐に入り込む隙。オレは即座に左手で逆手抜刀したカタナで蝕まれた竜狩りの腹を薙ぐ。

 

「今のを躱すか」

 

 だが、それを見越していたと言わんばかりに、蝕まれた竜狩りはバックステップして紙一重でカタナの一閃を回避し、逆に左手を突き出す。そこに闇が渦巻いたかと思えば、黒く小さな球体が扇状に拡散しながら解放される。

 ナナコが保有していた改造死体が放った闇の飛沫だ。オレは咄嗟に屈んでやり過ごすも、その隙にダッシュ突き……もはや滑空しながらの突進攻撃を蝕まれた竜狩りは狙う。

 チェーンブレードとカタナを交差させ、鋏で挟むように十字槍の先端を絡め取り、強引にダッシュ突きを止めようとするも、蝕まれた竜狩りの方がSTRは上のようだ。オレが出力を引き上げて踏ん張るより先に威力で押し込まれて壁に叩き付けられる。

 幸いにもHPの減少は目に見えない微量。だが、先制を許した。オレは十字槍の薙ぎ払いを跳躍で回避し、チェーンブレードを背負ってカタナの一刀流に切り替えると蝕まれた竜狩りの首を斬りつける。だが、それを蝕まれた竜狩りは身を反らして躱す。

 器用だ。それにスピードもパワーも備わっている。大抵のネームドというのは、何処かしら尖った性能を持ち合わせているものだが、コイツは高いバランスで纏められている。

 気分としては、ネームド性能のトッププレイヤーを相手にしているのに近い。ダークライダーとの戦いを思い出してしまう。だが、あの時はディアベルとシノンと組んだ3人で挑んだ。時間制限も無かった。

 今のオレは1人だけだ。誰もいない。背後を守ってくれる人も、アドバイスをくれる人も、励まし合う仲間もいない。

 振り払え。余計な思考が、まるで白紙に零れた墨汁のように広がる事にオレは舌打ちする。

 分かっている。オレは確実に弱くなっている。SAOの頃の【渡り鳥】と呼ばれた頃の実力を取り戻し、DBOでの経験を糧に更に成長した今のオレは、戦う者としては確実に強さを増している。

 だが、一方で心としての『強さ』は削られ続けている。そうでもなければ、ナナコやウルガンと組む事は無かったはずだ。裏切りと策謀が横行するジャングルで、知己でもない2人とチームを組む方の危険性を優先したはずだ。

 

「糞が!」

 

 だから言っただろうに!? 思考の濁りが回避の遅れを呼び、十字槍がオレの横腹を裂く。HPの減り具合は1割弱か。突きをまともに受ければ、HPの半分は持っていかれると考えた方が良い。

 純化させろ。今は目の前の敵を殺す事だけを考えろ。呼吸を1つ挟み、オレは十字槍の横薙ぎの瞬間にカタナを滑らせ、槍の柄を滑走路代わりにするように刃を蝕まれた竜狩りに迫らせる。

 サイドステップを踏んで斬撃から逃れる蝕まれた竜狩りだが、その動きは予想済みだ。コートの裏地に仕込んだ多量の羽鉄のナイフ、その内の3本を左手の指の間に挟み込み、投擲する。STRの出力を引き上げて強引に速度を引き上げたナイフが蝕まれた竜狩りに突き刺さるも、HPの減少は微々たるものだ。だが、ヤツの鎧の強度は、貫通性能が高い羽鉄のナイフで貫ける程度だ。

 これならばカタナで弾かれる事は無いな。

 もっとだ。もっと引き上げる。全身を1度脱力し、呼吸から脳へと訴えかけ、アバターを支配する神経の全てに意思を届かせる。

 必要なのは、全力。リミッターを外していく。致命的な精神負荷を受け入れない状態での、最大級の能力を要求する。

 自分でも分かる程に、体の動きが暴れ馬になる事を実感する。

 7割の世界。オレは先程の1歩がまるで鉛の手枷と足枷を付けられていたかのようにすら感じる程に動きのキレが増した事を把握する。

 一瞬だが、蝕まれた竜狩りの反応が遅れる。オレの動きから実力を測っていたのはヤツも同じだったのだろう。瞬時に間合いを詰めたオレの動きに追いつけず、カタナの一閃が蝕まれた竜狩りの胸に刻まれる。

 飛び散ったのは結晶と青黒い泥だ。それが血飛沫の代用のように宙を舞うも、スタン蓄積性能が低いカタナでは怯まず、蝕まれた竜狩りは十字槍の柄でオレを殴りつけようとするも、それを腕でガードして強引に止める。STRで押し勝ち、そのまま蝕まれた竜狩りの脇腹へと膝蹴りを打ち、僅かにたじろいだところへと肘打につなげて胸を打つ。

 硬い! 想像以上の手応えが指に伝わり、オレは歯を食いしばる。さすがはネームド。一連の攻撃で与えたダメージは1割未満だ。クリーンヒット1発分を考えれば、ヤツの斬撃耐性はかなり高い。打撃・斬撃・刺突の全てに対して高水準の防御力を持っていると判断して良いだろう。

 ソードスキルが必要になるも、既に戦闘時間は60秒を突破した。このペースでは呪いは免れない。

 蝕まれた竜狩りが間合いを離し、十字槍を振るう。すると祭礼室を支配する闇を纏った結晶が呼応し、十字槍へと黒い光が集まっていく。

 それはソウルの槍……いや、闇の槍とでも言うべきか。結晶を媒体にした槍がオレを狙って飛来する。咄嗟に回避しようとするも、突如として弾けて全方位へと闇の結晶の礫をばら撒く。

 回避不可に見えたそれをカタナで丁寧に弾いてノーダメージで凌ぐも、蝕まれた竜狩りを見失ったオレは、本能の囁きのままに無意識で頭上へと刃を振るう。いつの間にか上空からの突き刺し攻撃を狙っていた蝕まれた竜狩りを迎撃し、槍の穂先とカタナの刃が激突して火花が散る。

 強い。着地した蝕まれた竜狩りは、オレの全力に対して瞬時に合わせてきている。恐らく、コイツは自分の力をかなりセーブさせられている。それでいて、オレの全力と互角かそれ以上の実力。

 面白い。ならば、オレはその力を超える。オマエを糧にして、オレは牙と爪を研ぐ。

 蝕まれた竜狩りの十字槍に再び闇が集まり始める。またしても闇の飛沫かと思ったが、今度は十字槍の穂先に黒い刃が形成されてリーチが伸びる。外観としてはランスに近くなり、より突撃性能が増したようにも見えた。

 ダッシュ突きが来る! 闇をブースターのように放出し、神速の域に達した蝕まれた竜狩りに対し、オレは納刀してソードスキルの光を纏わせる。

 発動させるのは≪カタナ≫のソードスキルの1つ、月牙。抜刀術のように納刀状態で発動する広範囲の斬り払い。

 闇のランスとソードスキルの光が交差する。ランスはオレの左肩を抉り取り、カタナの刃は蝕まれた竜狩りの左腕を肩から奪い取る。体を強引に傾けながら発動させ、横の薙ぎ払いである月牙を縦斬りで放ったオレはソードスキルの反動で床を転がり、即座に立ち上がってカタナを構える。

 左腕を失った蝕まれた竜狩りのHPの減少は3割程か。まずまずのダメージだ。いや、少ないくらいか? ネームドはやっぱり硬いな。

 だが、これでオレの方が有利になった。瑠璃のコートが魔法属性と闇属性の防御力を重視してある。それがダメージを軽減し、オレのHPは2割半ほど失うに留まった。VITの低さを考えれば、十分過ぎる成果だ。

 蝕まれた竜狩りの肩から青黒い泥と結晶が流れ出る。それが足下に広がる中で、周囲の結晶が蠢く。

 今までオレに呪いを蓄積させ続けていた結晶が3分の1ほど粉々になり、塵となって蝕まれた竜狩りの左肩へと集中する。それは新たな左腕となり、青黒い泥が纏わりつき、元通りの外観になる。

 復元能力か。だが、HPは減少したままだ。奪い取ったアドバンテージが失われたのは腹立たしいが、これくらいの性能はネームドならば持ち合わせて当然だろう。それに、オレの呪い蓄積ペースも遅くなった。60秒は新たに稼げただろう。

 残りの結晶量を考えれば、復元できる回数は2回か。もちろん、それに付き合う気はない。

 

「いくぞ」

 

 オレは騎士の礼に則る様に逆手で構えたカタナを、その剣先を床に向けて蝕まれた竜狩りに構える。それに呼応するように、蝕まれた竜狩りも十字槍を頭上で回し、その穂先を下げて構えを取る。

 仕切り直しの先手はオレだ。ラビットダッシュで踏み込みながら、強引に跳躍して蝕まれた竜狩りのカウンター突きを跳び越え、その背後の壁に着地し、更に跳んで彼の背後を斬りつける。だが、十字槍を背中に回して斬撃をガードした蝕まれた竜狩りは振り返りながら左手に溜めた闇を放つ。

 闇の飛沫の数発が着弾するも、ダメージ量は大したものではない。あくまで闇の飛沫は広範囲攻撃を主軸とした闇術だ。至近距離からのフルヒットさえなければ、そこまで脅威となる闇術ではない。

 床に足をつけたオレへと十字槍の叩き付けで攻撃する蝕まれた竜狩りだが、その動きは鈍い。ブラフか。左に跳んで叩き付けを回避したオレに、即座に叩き付けから派生した横薙ぎが襲うも、チェーンブレードを抜いてガードする。だが、片手のガードでは足りなかったのか、蝕まれた竜狩りの渾身の薙ぎはオレを数歩分だけズラし、その分だけオレの体勢が揺らぐ。

 それを見逃さず、蝕まれた竜狩りは左手に闇を溜める。この距離で闇の飛沫は危険だ。オレは強引でも構わないと右手の片手突きでカタナを押し出す。

 だが、それこそ蝕まれた竜狩りの真の狙いだったのだろう。あろうことか、ヤツは自分の胸に迫るカタナの突きを、その左手でつかみ取る。

 

「そう来るか!」

 

 刃をつかんだ蝕まれた竜狩りのHP減少は僅かだ。だが、それでヤツはオレの手からカタナを奪い取り、投げ捨てる。豪速で飛んだカタナが壁に突き刺さり、亀裂を生み出すが、そんな事はどうでも良い。

 チェーンブレードで槍の連撃を凌ぎ、今度こそ放たれた闇の飛沫を前転しながら回避する。蝕まれた竜狩りの間合いに入り込んだオレはスタンロッドを抜き、電撃を開放させながら蝕まれた竜狩りの脇腹を打つ。

 打撃属性が利いたのか、それとも雷撃属性が弱点なのか、蝕まれた竜狩りのHPが多めに減少する。そのままスタンロッドの連撃で蝕まれた竜狩りを連打するも、その身に黒いオーラが纏い始め、オレは後退する。

 全身から放出されたのは白い湯気を纏ったような黒の御霊の嵐だ。それは蝕まれた竜狩りの周囲で渦巻く。やはり全方位攻撃を持っていたか。最近のネームドやボスはこれを備えているのが当たり前だ。複数人による張り付き対策なのだろうが、とにかく範囲攻撃は高威力で、下手に攻撃を欲張れば大ダメージは確定だ。

 そろそろ呪いの蓄積が厳しくなってきた。だが、スタンロッドが有効ならば、このまま≪戦槌≫のソードスキルを決めれば、大ダメージを狙えるかもしれない。オレがそんな算段を立てていると、今度はこちらの番だと主張するように蝕まれた竜狩りがダッシュ突きで迫る。

 それは見切った。闇の放出で加速していなければ、十分に回避は容易だ。オレはチェーンブレードの斬り上げで穂先を弾こうとするも、余りにも手応えがぬるい事に驚く。それを証明するように、十字槍は蝕まれた竜狩りの手元から吹き飛び、天井に突き刺さる。

 まさか! オレが1つの危険性に至ると同時に、蝕まれた竜狩りの正拳突きが胸の中心部に吸い込まれていく。腕を交差してガードを取るも、その破壊力がアバターの芯まで届き、一瞬だがアバターの動かし方を脳が見失う。

 そのまま回し蹴りでオレを側頭部を襲うも、何とか掲げた左腕で防御するが、嫌な音と神経をミキサーにかけたような不快感が突き抜ける。

 砕かれたか。左肘から左手首にかけて、関節がない場所からオレの左腕は折れ曲がっている。あの場面で槍を捨てて徒手格闘に持ち込むとは、オレのお株を取るような真似をしやがって。

 HP残量は4割を切ったか。ガード出来ていなかったら1割未満まで押し込まれていたかもしれないな。片腕だけになったが、これでもマシと割り切ろう。

 蝕まれた竜狩りの両手に結晶が集まり、それは剣となる。それは闇を纏って強化され、二刀流になった蝕まれた竜狩りが踊る様にオレを斬りつけてくる。それを右腕1本、チェーンブレードだけで何とか凌ぐも、連撃のさなかに左手の結晶剣を器用にも投擲し、左脹脛に突き刺さる。怯んだところに頭蓋骨を叩き割るような縦斬りが迫るが、それをオレはチェーンブレードでガードして押し戻し、全身を投げ出すような突きで蝕まれた竜狩りの兜を僅かに削り取る。

 残り2割か。不死鳥の紐のオートヒーリングでじわじわと回復こそしているが、3割まで回復するより先に呪いが蓄積するな。ここで勝負をかけるべきか。

 蝕まれた竜狩りのHPは4割。削り切れるか? オレはチェーンブレードに頼みの綱を託す。

 高く跳躍し、天井に突き刺さった十字槍を引き抜き、その反動を天井で蓄え、砲弾の如く蝕まれた竜狩りがオレに飛来する。十字槍の穂先には竜狩りの姿を隠す程の凄まじい量の闇が集中し、再びランスのような姿へと変貌させる。あれを受ける訳にはいかない。

 いや、違う! 本能が叫びのままに、オレは斜め上空から迫る槍ではなく、真正面を睨む。そこには頭上にいたはずの蝕まれた竜狩りが、再び闇の結晶剣を精製した二刀流でオレに突撃していた。

 あの闇を纏うランスを生み出すのはオレに、見当違いの方向にカウンターを狙わせる為の誘い。実際には、ランス化させた闇を纏わせた瞬間、その闇が集まってオレがヤツを見失った瞬きに、蝕まれた竜狩りは着地していたのだ。

 上空から迫る投擲された闇の十字槍、意識を逸らしたところへの奇襲。二重の必殺狙い。これを凌げねば、死するのはオレだ。

 ランスが脊椎を撫でるようにオレの背後を通り抜ける。回避の為の前進は、その分だけ蝕まれた竜狩りとの間合いを急速に詰めていく。

 赤熱する。チェーンブレードが起動し、変形音を奏で、その刃を微細振動させながら回転していく。

 勝負を分けたのはリーチの差。闇の結晶剣は十字槍に比べ、そしてチェーンブレードと比較しても短かった。ラビットダッシュを上書きして突進力を増したオレのチェーンブレードの突きが蝕まれた竜狩りの腹に突き刺さり、そのまま振り抜いて爆砕させる。

 腹部から千切れ、青黒い泥と結晶を撒き散らしながら、蝕まれた竜狩りの上半身がオレの背後に落ちる。

 

『ミ……ゴ、ト』

 

「……アンタも強かった。次があるなら、『本気』を見せてくれ」

 

 さすがに、チェーンブレードの起動とラビットダッシュはスタミナを奪い尽した。オレは息荒く、それでも倒れる事無く、蝕まれた竜狩りの賛辞を受け取る。

 蝕まれた竜狩りの遺体が消え去る。ジャングルではモンスターでも死骸が残るのだが、コイツは例外なのだろうか? あるいは、とオレは先程読んだ研究書を思い出す。闇と結晶、コイツこそがこの洋館の主が蘇らせた四騎士の長だったのだろうか? だとするならば、元より死人である騎士は再び殺された事で塵芥に戻ったのかもしれない。

 それにしても、オレも随分とスタミナ切れに慣れてきたな。赤黒く滲んだ視界、失われたバランス感覚、全力疾走した後のような息苦しさ、そのいずれにも以前ほどに苦痛を覚えなくなっている。さすがにこの状態で戦闘を続行したいとは思わないが、ハレルヤ戦のように出来ない事も無いだろう。

 少し休もう。壁に突き刺さったカタナを回収して再装備したオレは、壁にもたれてスタミナ回復を待つ。HPの回復は不死鳥の紐のオートヒーリングで十分だろう。7割回復させるとなると相応の時間が必要になるが、休憩には丁度良い。

 水を取り出し、減少していく呪いの蓄積を見つめながら、オレは乾いた喉を潤す。

 凄まじい強さだった。正統派としての実力はダークライダーに迫るものがあった。

 超絶した槍捌き、接近戦に対応する格闘術、あらゆる戦術を実行する決断力、二刀流攻撃のような槍だけに依存しない戦闘技術。アレでも、まだ本領には至っていないと、ヤツ自身から放出される苛立ちのような物から理解できた。恐らく、闇術もまたヤツからすれば『お遊び』未満の児戯なのだろう。本命の攻撃手段は別にあったのかもしれない。それが使えない事情があったのか、何にしても、とんでもないネームドだった。

 だが、感じる。ヤツとの戦闘を経て、オレもまた強くなった。本能が満足すればするほど、成長している。それに、システム的にも蝕まれた竜狩りの単独撃破は美味しい報酬をもたらす。経験値はかなり貰えた。アイテムは魔術書で【闇の突撃槍】がドロップしている。内容は武器に闇術をエンチャントし、ランスにして突進するというものだ。恐らく、蝕まれた竜狩りが披露したあの技だろう。オレには無用の長物だが、売却すればかなりの高値がつくに違いない。

 オートヒーリングでHPが5割まで回復した頃に、オレはようやく体を起き上がらせて祭礼室を改めて確認する。左腕の回復にはもうしばらく時間がかかりそうだな。欠損したわけではないので大丈夫だと思うが、長引くようならばジャングルで治癒する薬物を調合する必要があるかもしれない。最悪の場合、虎の子のバランドマ侯爵のトカゲ試薬で強引に回復させるのも手だ。

 戦闘で荒れ放題になっているが、元より荒廃していたのだ。大差はない。呪いを蓄積させていた結晶も蝕まれた竜狩りの撃破と共に砕け散っている。

 そして、祭壇では青と赤の光が渦巻く何かがある。オレがそれを手に取ると、【封じられたソウル】というアイテムが手に入った。アイテムストレージを喰わず、消費容量が無い。

 

〈封じられた12のソウルの1つ。神殺しとは繰り返される儀式である。シャルルは神を憎み、神を殺し、そして神に至った。彼は玉座で真実を知り、絶望と共に自らのソウルを12に分かち、神殺しの力を捨てた〉

 

 封じられたソウルの説明文を読み、オレは疑念を覚える。どうやら封じられたソウルとは、シャルルのソウルを12個に分割した物らしい。蝕まれた竜狩りは、この封じられたソウルを守っていた事は間違いないが、どうにも引っ掛かる。

 だが、何にしても12のソウルの内の1つは入手した。祭壇にソウルはなく、どうやら1つだけしか入手できないようだ。これが複数人で挑んでいたならば、その分だけ封じられたソウルが得られたのか疑問は残るが、それは考えてもしょうがない事だ。

 祭礼室から出て食料庫に戻ったオレはじわじわと回復するHPを見ながら、やはりオートヒーリングは偉大だと涙を流したくなる。いやね、やっぱりクリスマスで回復アイテム不足の辛さを味わった身として、HPがちょっとずつでも回復するのは途方もない感動だ。

 

「おぉ、残骸とはいえ、四騎士の長を倒すか。これは優秀な不死だ」

 

 だが、そんな感動に水を差すように、食料庫から地上に戻る階段を塞ぐように1人の老人が立っている。

 顔はすっかり皴だらけだが、あの肖像画に描かれていた人物に間違いないだろう。立派な洋館の主とは思えぬボロボロのローブを纏っているが、それが逆にこの男の良からぬ知恵を得た賢者だと印象付けている。

 無言でオレはカタナを抜く。コイツには『命』がある。問答通りに受け答えするNPCではない。

 

「うむ? 不死……不死……不死ではない? 人間性が薄らいだ? いいや、違うか。なるほどなるほど。1つだけの命、そこに人間性の全てを凝縮して不死を捨てて昇華させたか。貴様は闇の血を持つ者。あの愚かな旅人と同じ、デーモンへの道を歩む者。記憶と記録を渡り歩く者か」

 

 長い顎髭を撫で、老人はまるで奇怪な植物に出会った学者のように好奇心溢れる眼差しをオレに向けている。

 いや、それよりもコイツは重要な事を言わなかった? そうだ。記憶と記録を渡り歩く……つまり、この老人はステージに縛られたNPCでありながら、想起の神殿を知り、この世界がDBOの歴史から切り取られた時間に過ぎないと自覚しているのだ。

 

「そう驚く事ではあるまい。長い時間、私は自分の存在を考察し続けた。そして、自分が生から死へと連続する存在ではなく、まるで小説の1章の中だけで生きる事を許された思い出に過ぎないと理解したのだよ。さぁ、闇の血を持つ者よ、老いぼれと少しばかりお茶でもしよう」

 

 ここで斬るべきか? 悩んだオレだが、今ここで情報源を切り捨てるのもばからしいとカタナを収める。

 老人に招かれて地上に戻ったオレは驚く。あれ程に荒れ放題だった屋敷が綺麗に整頓され、美しさを取り戻しているからだ。

 開頭された女性たちが椅子に縛り付けられていた食堂へと老人はオレを招き入れる。死体はすっかり消えている。

 

「まずは闇の血を持つ者よ、お前の名前を聞かせてくれ」

 

「……クゥリだ」

 

「ほうほう。お前が生きた時代はそんな名前が流行りなのか? 私はオルウェン。封じられたソウルを預かりし者だ」

 

 椅子に腰かけたオレに、オルウェンは濁った血が混じった紅茶を差し出す。もちろん、飲めたものではないので無言の断りを入れると、オルウェンはやや寂しそうに自分のティーカップを傾けた。

 

「さて、何年眠っていたのやら。切り取られた思い出に過ぎない身とはいえ、時の流れを感じずにはいられんな」

 

 疲れ切った声を漏らすオルウェンに、オレは書斎で死んだ冒険者の遺書を思い出す。

 館の主を起こすな。その警告は既に破られた。ならば、今この状況は考えるだけでも最悪だと嫌でも分かる。だからこそ、リスクを冒してでも情報を集めねばならない。

 質問は慎重に選べ。相手は『命』あるAIだ。NPCのように型に嵌った返答は無い。

 

「アンタは自分を思い出って言ったな。どういう意味だ?」

 

「言葉通りの意味だ。今ここにいる私は歴史の中から切り取られた時間にあった私だ。本物の私は歴史の流れの中でとうに寿命を終えているだろうな。お前の装備を見れば、時代がいか程まで進んでいるのかも分かる。どうやら、魔術が廃れる程に歴史の歩みは続いたようだな」

 

 なるほど。どうやら、コイツはDBOのゲームコンセプトを把握しているようだ。こんなNPCは初めてだな。

 DBOは想起の神殿から、歴史上のあらやる時間と場所に移動し、起きた出来事を体験する、というものだ。あるいは本来起きた出来事を改変する『IF』でもある。もちろん、それが正史に影響を与えることはない。たとえば、何処かのステージの王様を殺したからと言って、DBOの歴史でその王様が名も知れぬ誰かに殺された、なんてことにはならないのだ。

 限られた時間の中にある世界。それがDBOにおいて、想起の神殿から移動できるステージなのだ。そして、終わりつつある街は正史の最先端……つまり、現在進行形で進むDBOの世界であり、末路だ。

 

「オレの仲間があと2人いるんだが、アンタを起こしたのはソイツらか? 1人は女で、もう1人は変な喋り方をする男だ」

 

「さぁ、どうだっただろうな。確か男ではなかったかな? 変な喋り方はしているようには思えなかったが」

 

 ウルガンが起こしたか否か、それすらも曖昧か。はぐらかされてるだけか? 実力行使で尋ねても答えてくれないだろう。

 

「オレはユニーク……じゃなくて、シャルルの≪剛覇剣≫を探しに来た。何か知ってる事があったら教えてくれ」

 

「神殺しの力か。そんな物を求める程に、歴史は逼迫しているのか? あの冒険者もそうだったが、どうやら世界の歴史とは滅びに向かう運命のようだな」

 

「言葉遊びは好きじゃねーんだ。YESかNOで答えろ」

 

 苛立つオレに対し、オルウェンは指でテーブルを軽く叩き、血が混じった紅茶を舌で丹念に味わう。

 

「神殿の奥、シャルルの亡骸と共に神殺しの力は眠っている。封じられたソウルを3つ集めれば神殿の扉は開くだろう。だが、12のソウル、その全ての封印が解かれたのであるならば、話は別だ」

 

「……つまり?」

 

「それは自分で知るが良い、闇の血を持つ者よ。私はそろそろお暇しよう。闇の血を持つ者よ、貴様に白竜の祝福があらん事を」

 

 そう言うや否や、オルウェンを黒い霧が包み込んで姿が失せる。同時に、オレは今まで幻を見ていたのか、荒れ放題の館へと戻る。オレの隣には開頭された白骨死体が椅子に腰かけていた。

 蝕まれた竜狩りの撃破がトリガーになっていたのか、それともオルウェンという特異なNPCの能力なのか。どちらにしても、12のソウルを全て入手すると危険な事が起こるのは間違いなさそうだな。

 はたして幾つ残されているやら。少し、封じられたソウルについても調べていくとしよう。

 オレはオルウェンがいただろう談話室に戻るが、安楽椅子にあの老人はもちろん腰かけていない。本当にナナコとウルガンは何処に行ったか気にもなるが、それよりも今は残りのソウルの場所を特定する方が先だ。

 数十分ほど談話室を丁寧に調べたオレは、封じられたソウルに関する文献を発見する。

 

 

●    ●    ●

 

 

 シャルルはソウルを12に分割し、神殺しの力を封じた。

 内の6つは信頼できる2人の友に、この地の繁栄と王を支える為に託す。友たちは子々孫々と封じられたソウルを祀り、永劫の封印を誓わせた。

 内の6つは形を与え、デーモンとしてこの地の守護を命じる。デーモンたちは創造主の命に従い、シャルルの安息を守護した。

 3つは北の館の主に。彼は魔法に長けた白竜の信望者。3つの祭壇を作り、そこにソウルを奉じた。

 3つは南の館の主に。彼女は奇跡に長けた豊穣の神の信望者。3つの宝具を作り、そこにソウルを隠した。

 1つは結晶を貪る双頭の蜘蛛を生んだ。竜の屍を根城にする地下に潜む怪物である。

 1つは茨の女王を生んだ。敵も味方も傷つける赤き悪魔は暗闇の中で獲物を待ち続ける。

 1つは鉄の巨人を生んだ。神殿を警護する最後の砦であり、いかなる力も跳ね除ける鉄壁である。

 1つは水銀の牡鹿を生んだ。猛毒を持つ慈悲深き森の化身は、月の光を糧に永遠を体現する。

 1つは仮面の猿を生んだ。謎かけを以って愚か者を惑わすも、真実を答える者には対価を与える。

 1つは水に潜む者を生んだ。澱んだ水面に人は恐怖を映し込み、そして喰われるのである。

 12のソウルは真なる主を待っている。

 

 求めよ、求めよ、求めよ。ソウルを求めよ。

 

 

●    ●    ●

 

 

 これは大きな手掛かりだ。漠然とであるが、ソウルの持ち主について記載されている。

 オレが入手したソウルは、北の館の主が持っていた3つのソウルの内の1つだろう。だとするならば、この北側にはあと2つソウルが隠されている確率が高い。そして、逆に南側には3つのソウルがあるわけだ。

 残りの6つは探すのも大変そうだな。恐らく、強力なネームドとの対決が待っているのだろう。その内の1つ、鉄の巨人とはパッチを叩き潰そうとしたヤツだな。アイツを撃破すれば、封じられたソウルを1つ得られるわけだ。だが、文献の内容から察するに、撃破はかなり困難だな。

 文献にはこの辺りの地図も一緒に挟まれている。北の館から北東に進んだところに【古竜博物館】というものがあるようだ。地図を見る限り、それなりの街が築かれていたようだが、このジャングルだ。名残はあまり期待できないな。最高でも遺跡のような廃墟だろう。

 不死鳥の紐のオートヒーリングでHPは8割まで回復している。逆に言えば、それだけ時間を消費したという事だ。

 夜ではあるが、眠気もないし、多少無理してでも進行するか? それともナナコ達を探すか? 今のところ、屋敷は安全であるし、ここで一晩過ごすのも悪くない選択肢ではある。

 談話室から出たオレは、まだ1階でも探索していない厨房に入る。地下室に続く階段の隣にあったのだが、調査するのをすっかり忘れていた。さすがに厨房に重要な手がかりがあるとは思えないが、そういう思い込みで痛い目を見たのも1度や2度ではない。しっかりと調べていくとしよう。

 釜やオーブンといった、時代を感じさせる上流階級の設備が整った厨房は、他の部屋と同様にすっかり廃れてしまっている。だが、どうにも焦げ臭いニオイがした。

 

「オーブンに……火が入っている?」

 

 おいおい、冗談だろ? しかも、このニオイは……どう考えても『アレ』のニオイだ。

 低温でじっくりと焼かれたようで、密閉された厨房の外にニオイが漏れなかったせいで気づかなかったのか? オレは近くのボロ布で右手を覆い、オーブンを開ける。

 中から飛び出したのは、すっかり焼き焦げた人間の死体だ。アバターが破損した時と特有の赤黒い光を散らし、熱傷状態であるかのように全身は焼け爛れている。遺体をつかんで引っ張り出したオレは、その小柄な体……そして辛うじて原型を留めている特徴的な、ウサギのようなフードから、これがナナコの死骸だと判別する。

 

「舌が切り落とされてるな」

 

 それに喉は刃物で裂かれた痕跡もある。これで声を奪われたか。両手首と両足首は焦げた鎖で拘束されている。生きたままオーブンに放り込まれたか。

 遺骸を漁るも、アイテムは1つとして残されていない。全て略奪された後である。装備品である【黒兎のローブ】以外は何も残されていない。

 ナナコが死んだ。その割には、オレの心に動揺は何もない。冷たく、『まぁ、そういう事もあるだろう』と切り捨てる。殺しているのだ、殺されもする。それだけの話だ。

 問題なのは、彼女を殺したのは誰か、という点だ。周囲を見回すも、ウルガンと思われる遺体はない。そうなると、ウルガンがナナコを裏切り、彼女を殺害したのだろうか?

 それで発生する彼のメリットは何だ? ナナコは雇い主だ。それが死んだとなれば、協働相手である彼にとってデメリットしかない。

 インモラルなナナコのやり方に反発して凶行に及んだ? いやいや、アイツはナナコと同類のイカレ野郎だ。あり得ないな。

 

「面倒事が増えた、か」

 

 だが、やる事は変わらない。まずはソウルを集める。その過程で出会った全てを殺す。それだけで良い。

 

 

▽    ▽    ▽

 

 

 死者17名。その数字が重くディアベルの肩にのしかかる。

 ユニークスキル争奪戦の最初の夜、補給を担っていた部隊の内の3つが壊滅した。生存者は1名であり、夜襲を受けて一方的に殺戮されたと証言した。

 これ以上の犠牲は看過できず、残りの補給部隊を全て呼び寄せたディアベルは、ノイジエルを中心とした精鋭部隊がシャルルの森に飛び込む事を何とか抑え、部隊の再編成に追われながら、現状の把握に努めていた。

 

(補給部隊を最初に叩かれた。モンスターによるものとは考えにくい。そうなると、やっぱりクーなのか? どちらにしても、傭兵達に補給を届けられていない。この状況を打破する術がない)

 

 ディアベルの頭を悩ませるのは、シャルルの森には組織的戦略が通じない点だ。巨大なジャングルを行軍するにしても、大部隊ではモンスターを呼び寄せて大ダメージを負い、まともに森の深部にたどり着く事もできない。だからと言って、6名編成のパーティにした部隊を送りこんだとしても、生半可な戦力では二の舞だ。だからと言って、円卓の騎士クラスの戦力を派遣すれば、それこそ他の大ギルドの思う壺である。

 今回、ユニークスキル争奪戦に参加する事を主張する円卓の騎士たちをディアベルが諌めたのは、この争奪戦の裏にある熾烈な大ギルド同士の戦力の削ぎ合いがあるからである。

 ディアベルとしては、3大ギルド合同によるユニークスキル獲得への共同作戦を敷きたかったのであるが、たった1つしかない実りの為に、大組織が手を組めるはずがない。そこで、ディアベルは冷徹ではあるが、自戦力を最大限に保護する為に、あえて傭兵以外の戦力は補給部隊に限らせた。この方針は太陽の狩猟団とクラウドアースも同様である。手札こそ減るが、自戦力が失われるわけではない傭兵は、代理戦争を演じてもらうには都合が良い。

 だが、補給部隊を最初に狙い、ほぼ全滅に追い込まれた事により、大ギルドとして新戦力を送り込まねばならないという論調が高まっている。何とかディアベルは今日までそれを抑えこんできたが、それも限界に到達しつつあった。

 いっそユニークスキルを諦めて、聖剣騎士団はこの舞台から降りるという、ダメージを抑える方法もあるが、それは傭兵全てを見捨てる事にもなる。それは聖剣騎士団のイメージダウンにも繋がる為に認可できない。

 八方塞がりだ。全ては、今回の争奪戦を止められなかった自分の不始末にある。ディアベルはお湯に浸したタオルで目を覆う。眼球疲労はアバターなので蓄積しないが、それでも精神的疲労は拭えるものだ。

 

(それに、今回のユニークスキル争奪戦。何かがおかしい)

 

 ユニークスキルが入手できる。それ自体は疑う必要も無い情報だ。ディアベルも情報の精査にはかなり神経を尖らせた。間違いなく、シャルルの森にはユニークスキルが眠っている。

 だが、一方でクラウドアースの動きが奇妙なのだ。そもそもクラウドアースを実質統べるセサルは軍事顧問と名乗っているが、滅多に前線に出る事も無い男だ。彼が『たかだか』ユニークスキル争奪戦に出張る事自体が疑うに値する。

 謀略に関して言えば、太陽の狩猟団とクラウドアースに聖剣騎士団は2歩も3歩も劣っている。ラムダに情報を洗わせているが、今のところ新情報は無い。

 

「失礼します、団長。団長にお会いしたいという方が――」

 

「通してくれ」

 

 ディアベル専用の執務室としての役割があるテントに、やや困惑した様子の聖剣騎士団のメンバーが入って案件を伝える。全てを聞くより先に応えたディアベルは、タオルを外し、少しだけ長く吐息を漏らすと、いつもの微笑を浮かべる。

 テントに入って来たのは、深くフードを被って顔を隠した人物だ。ディアベルはテントがしっかりと閉じられているのを確認し、安全だと小さく頷く。

 

「お久しぶりですね、ディアベル団長。まさか自陣営の本部に呼び出すとは、まさしく灯台下暗しです」

 

 フードを外して素顔を晒したのは、聖剣騎士団の不倶戴天の敵、太陽の狩猟団の副団長を務めるミュウだ。

 昨日、ミュウから2人っきりで話したい事があると秘密裏に連絡を受けたディアベルは、こうして時間と場所を作ったのである。もちろん、聖剣騎士団のトップと太陽の狩猟団の副団長が密会など、スキャンダルどころの話ではない。これが知れれば、ディアベルもミュウも信頼と信用を大きく失うだろう。

 

「ミュウさん、あまり時間は無い。本題に入ろう」

 

「もちろんです。単刀直入に申しますが、私は今回の1件に限り、聖剣騎士団との合同作戦を提案します」

 

 驚くべき提案ではない。補給部隊の損失で大打撃を負っているのは、聖剣騎士団と太陽の狩猟団だけだ。クラウドアースは少数による機動力を重視した補給部隊を既にジャングルの深部まで潜ませているという情報もある。現状で最もリードしているのはクラウドアースだ。

 

「協定の内容はどうするんだい? ここで俺達が合意しても、ジャングルにいる傭兵達には伝わらない。彼らは互いの戦力を削り合う」

 

「もちろんです。今回の協定内容とは、互いの持つ全ての情報を開示するというものです。今我々がすべきはクラウドアースの1人勝ちを防ぐこと。そこで、我々は情報を出し合い、このユニークスキル争奪戦を『破綻』させます」

 

 どういう意図だろうか? ディアベルは一考の価値あり、とミュウの作戦に耳を傾けた。




あと二転、三転くらい本エピソードはその様相を変化させます。


それでは、153話でまた会いましょう。

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