SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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超強化の虚ろの衛兵さん達、出陣!
その力を存分に見せ付けるが良い!


……さて、虚ろの衛兵たちのお墓を準備しないと。


Episode15-15 虚ろの衛兵と結晶

 虚ろの衛兵アレサンドラはリーチの長いウォーハンマーを回転しながら振り回し、オレへと迫る。暴風を纏いながらの回転突進であるが、虚ろの衛兵は3メートルを超す身長なので、打点が高いから頭を下げれば回避も容易……のはずがない。当然ながら、対策と言うべきか、この回転攻撃はどうやら攻撃判定が虚ろの衛兵の全周囲にある。

 ウォーハンマーの直撃こそ免れても、同時に放たれる衝撃波を浴びればHPは削られる。この削りダメージが半端ではなく、オレは最初の回転攻撃を身を屈めて回避しようとして直撃を受け、HPを3割ほど持っていかれていた。

 まぁ、オレのVITと近接型としてはギリギリの防御力のせいかもしれないが、何にしても1度回転攻撃を繰り出せば、その間は虚ろの衛兵の周囲には絶対的な攻撃判定が発生すると見て間違いないだろう。

 だからと言って、大きく回避すると、この様だ。頭上から落下するようにウォーハンマーを振り下ろした虚ろの衛兵ルカの一撃をサイドステップで躱し、弾けた石畳の床の破片がオレとルカの間で舞う。

 ここだ。右腕しかないオレはカタナでルカの脇腹を薙ごうとする。だが、それを即座にカバーに入った虚ろの衛兵レギムの盾によって防がれる。

 手応えは硬質だ。盾越しに貫通ダメージが与えられているとは思えない。舌打ちしながら、背後からウォーハンマーの突きを放つアレサンドラを意識しつつ、オレは身を反転させ、カタナで直撃寸前でのウォーハンマーの先端を捌き、軌道を変えさせてレギムに誘導させて盾と直撃させる。凄まじい衝撃音が響くも、レギムはまるで揺るがず、またアレサンドラも仲間を攻撃したという事に動揺も無い。

 再び3体の虚ろの衛兵は距離を取り、盾を構える。そして、アレサンドラとルカが盾を投擲する。フリスビーのように回転し、刃となった円盾が脅威的な追尾性能を持ってオレを襲う。まるでチャクラムのように宙を舞っては再び虚ろの衛兵たちの手元に戻るまでに、回避に撤したオレを盾1つにつき5回は攻撃を仕掛けてきた。そして、回避に集中していた間にレギムはチャージを溜めたようにウォーハンマーの先端に凝縮した闇を放つ。それは数メートル進むと肥大化し、周囲の塵を引き摺り込み、オレもまた闇へと無理矢理引き込まれそうになる。

 単なる闇術ではない。まるで重力のように、周囲の物質を引き込む攻撃か! カタナをその場に突き刺して耐えようとするが、吸収攻撃など無視して移動できる虚ろの衛兵3体がそれぞれ回転攻撃をして迫る。

 まずい! オレは咄嗟にユージーン達の目も気にせず、その場でライアーナイフを起動させる。黒い分厚い刃から白い細長い刃への変化……それを虚ろの衛兵ではなく自分の足下へと発動させる。

 伸びた刃は地面を突き刺し、尚も伸びるそれは脱力したオレの体を宙へと押し上げる。寸前で3体の回転攻撃を上空に逃れる事で躱したオレは、カタナを手放し、羽鉄のナイフを投擲する。それは回転攻撃中だったアレサンドラの兜に命中し、その貫通性能を遺憾なく発揮して突き刺さるも、ダメージは無いに等しいほどに微量だ。

 だが、勝機は見えた。あの回転攻撃は台風と同じだ。虚ろの衛兵本体の頭上にまでは攻撃判定が無い。ライアーナイフを元に戻して着地し、カタナをファンブルキャッチしたオレは反りで肩を撫で、左踵で地面を数度叩く。

 残り240秒ってところか。ここまでの情報を纏めれば、虚ろの衛兵たちは『命』あるAIではない。彼らはオペレーションに盲目的に従う、ごく普通のAIだ。

 だが、問題となっているのは、彼らの対応力の高さだ。それを押し上げているのは、『視覚情報の共有』だ。

 アレサンドラ、ルカ、レギムの3体……コイツらは常にオレを取り囲んでいる。そして、回り込もうとしたり、死角から攻撃を加えようとしても、必ず他の2体がカバーに入り、防御する。そして、視覚を共有しているが故に、常にオペレーションに則って最適の攻防を実現できる。

 

「面白い」

 

 なるほど、『命』ないAIならではの強みだな。自我が無いからこそ、他の2体から送られている視覚情報を信用するしない以前に受容できる。何故ならば、彼らには仲間の視界を疑うという発想自体が無いのだから。

 ならば、3つ分の視界を相手にして、3体分の攻撃を同時に捌けば良いだけの話だ。それを前提に殺しにかかる。

 オレはまず頭部に羽鉄のナイフが突き刺さったアレサンドラへと突進する。それを他2体の虚ろの衛兵が盾を構えながら壁になりながら、ウォーハンマーを槍の如く突き出す。

 前傾姿勢を極限まで、それこそ鼻先が地面を擦る寸前まで行い、一気に加速したオレはウォーハンマーの突きを逃れて2体の虚ろの衛兵の隙間を潜り抜け、オレを叩き潰すべくウォーハンマーを振り上げていたアレサンドラを睨む。

 振り下ろされたウォーハンマーが爆炎のごとく粉塵を巻き上げる。瓦礫がオレのHPを微量に削る中で、叩きつけられたウォーハンマーの柄を足場にして一気にアレサンドラへと迫る。カタナの一撃を頭部へと放つ。

 通常攻撃ではHPがほとんど減らず、せいぜい5パーセントが良いところだろう。頭部へのクリティカルダメージがコレとは、どうやら斬撃属性に高い防御力を持っているようだな。

 背後からルカがウォーハンマーの先端にチャージした追尾魔法弾を多数放つ。それは1発1発がソウルの槍のように尖り、大きく、そして追尾する。オレはそれをアレサンドラに誘導しようとするも、アレサンドラは高く跳躍してそれから逃れ、上空でウォーハンマーに雷をチャージする。

 本能が叫び、オレは無意識にルカへと突進し、その身に蹴りを打つ。それを盾でガードしてくれるが、それこそが狙いだ。盾を利用して三角飛びをして滞空したオレは、アレサンドラの落下攻撃が地面を打った瞬間に、地面全体へと雷撃が広がる様を見つめる。

 特殊攻撃は、アレサンドラが雷チャージで地面限定の広範囲攻撃、ルカがソウル槍のような多数の追尾魔法弾、レギムがプレイヤーやオブジェクトを引き寄せる重力のような闇術か。

 嘆息も漏れない程の圧倒的な劣勢。だが、オレの本能は久々の強敵の登場に歓喜し、涎を撒き散らす。

 最近は雑魚ばかりで喰い足りなかったところだ。この辺りで『食事』を済ますとしよう。

 もう殺し方は分かった。オレはアレサンドラが回転攻撃を仕掛けたところで、身を反らしながら跳び、攻撃範囲を背中でなぞるように飛来し、その頭部に到達すると≪格闘≫の空中専用ソードスキルである剛雷墜だ。強烈な踵落としのソードスキルはアレサンドラの額に直撃し、回転攻撃を中断させて地面に叩き付ける。減ったHPは3割ほどか。やはり打撃属性が弱点だったみたいだな。斬撃属性に強いヤツは打撃属性に弱いのはお決まりだもんな。

 即座にアレサンドラのカバーへとルカとレギムが入る。そうだ。それこそがオマエらの弱点だ。『仲間』を切り捨てるという発想が無い。

 必要なのは勝利だろう? オレを殺しきる事だろう? ならば、アレサンドラを見捨てて魔法弾と重力闇術を挟み撃ちで使うべきだったのに。

 

「ああ、それでこそだ」

 

 同時に迫るウォーハンマーの突き。地面に押し付けられたアレサンドラがいる以上は、叩き潰し攻撃があり得ない。オレはカタナを投げ捨て、チェーンブレードを抜いてまずはルカのウォーハンマーを切り上げて弾き、バック転で続いたレギムの突きを跳び越える。あっさりとレギムの背後を取ったオレは投げたカタナが狙い通りのところで落下してきたのを見て口で咥え、チェーンモードの激しい駆動音を響かせる。

 ポリゴンの欠片を撒き散らし、チェーンブレードが悲鳴を上げる。やはりユージーンに受けたダメージが深刻だな。そう何度も耐えられないだろう。

 だが、まずは1体だ。がら空きのレギムの背中へと怪物の如く駆動音を撒き散らすチェーンブレードを突き刺す……その寸前に割って入ったのはアレサンドラとルカが投げた盾だ。それが防護壁となり、チェーンブレードは2枚の盾を突き破りながらもレギムに迫るが、反転させるだけの時間を与えてしまい、レギムの持つ3枚目の盾によってチェーンブレードの貫通が完全に止まる。

 レギムは半壊した盾を捨て、ウォーハンマー1本へと切り替える。それは他の盾を失った虚ろの衛兵たちも同じだ。

 素晴らしい。ここに来て、『進化』を遂げたか。やはり、オマエたちは面白い。

 あの瞬間の行動はオペレーションではない。コイツらの自立的判断に基づいた『仲間意識』が生んだ、防御手段を捨てるという献身だ。

 オペレーションに従う人形。そこに宿るAI進化の種。それは意図的に組み込まれたものか、それとも偶然の発露か。どちらでも構わない。

 確かなのは、レギムを庇う為に、アレサンドラとルカはオペレーション上の判断で勝利から遠いはずの、防御を捨てるという行為を選択した事だ。

 そうだ! もっとだ! もっと『進化』しろ! 殺し合いとは『命』のある者同士のみに許された宴だ! さぁ、オレを殺してみろ! 今まさに! オマエたちは『人形』から『生命』へと移ろっている! もっともっともっとだ! もっと楽しもう!

 虚ろの衛兵たちはウォーハンマーを撫でる。防御を捨てた3体の虚ろの衛兵たち……彼らは更なる戦闘能力の強化を行う。

 エンチャント。アレサンドラは雷を、ルカは魔法を、レギムは闇を、それぞれウォーハンマーにエンチャントを施し、火力を増強させる。それはウォーハンマー全体に及び、もはや先程までオレがしたウォーハンマーを足場にする戦法は無効化されたものと見て間違いないだろう。

 ルカが回転する! それと同時に全方位へと小さな魔法弾がばら撒かれる! 射程距離は短いが、より強化された回転攻撃は執拗にオレを追尾する。

 回避コースに先回りしていたレギムが闇を纏ったウォーハンマーの4連撃でオレを叩き潰そうとする。それを間合いの奥に入り込んで、逆にレギムの腹に肘打をお見舞いするも、追撃はアレサンドラがウォーハンマーの先端から放った雷の槍によって阻まれる。

 感じる。コイツらの絶対的な仲間意識がオレの本能をざわつかせる。

 チェーンブレードを背負い、咥えたカタナを手に取る。スタミナ残量的にも、チェーンモードは使用できないだろう。

 

「クヒ……クヒャ……クヒャハ」

 

 ああ、もっと楽しみたい。だが、時間は150秒を切っているな。残念だが、この辺りで始末するしかないか。

 STRとDEXを最大の出力まで引き上げる。まずは宣言通り、アレサンドラからだ。ヤツの雷による広範囲攻撃は厄介だ。アレを潰さねば、地上戦もできない。

 カタナを鞘に収め、オレが取り出したのは木の杭だ。そして、続いてアイテムストレージから粘性爆弾を取り出し、地面に落とすと木の杭で突き刺す。

 その間にもレギムが地面を抉りながらウォーハンマーを振るい上げる。直線的な軌道は誘いだ。本当の狙いはオレの右斜め後ろでルカが放つ魔法弾。追尾性の高さは称賛に値するが、それはあくまで追尾時間の長さであり、旋回半径は大きい。つまり、至近距離ですれ違うように回避すれば、それだけで再追尾には時間がかかる。

 魔法弾を潜り抜け、レギムの振り上げ後の追撃をスプリットターンで回避して背後を取り、ミドルキックを背中にお見舞いする。やはり、血風の外装が無いだけで格闘攻撃が激減しているな。それでも通りが良いから別に構わないが。

 アレサンドラが雷を纏ったウォーハンマーを振るう。オレはそれをバックステップで回避する。本来ならば悪手だ。コイツらの攻撃は躱す度にその巨体を回り込むようにした方が、圧倒的にダメージを受ける確率が低い。

 何故ならば、後退とは連撃のチャンスを与えるからだ。アレサンドラは連打を繰り返し、オレを押し込んでいく。だが、ウォーハンマーの先端がオレに掠るか否かの軌道を取るばかりで、なかなか命中はしない。まぁ、そうなる風に回避してるんだけどな。

 やがて、オレの背中が硬いものにぶつかる。それは配置された5つの燭台……その1つだ。アレサンドラは逃げ場のないオレへと渾身の横振りを狙うも、そのタイミングを見計らってラビットダッシュでオレはアレサンドラの脇を潜り抜ける。当然のように待ち構えていたルカとレギムはそれぞれ魔法弾と闇術を放つが、それを無視してオレは崩壊した燭台……そこから落下する炎の光に向けて木の杭を投擲した。

 木の杭の先端につけられた粘性爆弾が炎に触れ、爆発する。博物館の壁を崩壊させるのに一役買ったほどだ。その爆炎を至近距離で浴びたアレサンドラのHPは5割以上が吹き飛び、残り3割にまで押し込まれている。

 闇術の重力がオレと魔法弾を巻き込む。なるほど、闇術の重力を利用して魔法弾を吸い寄せて直撃を狙う作戦か。やはり進化しているな。

 鎧に亀裂が入ったアレサンドラはもう1歩だろう。オレは闇術から逃れる為に、躊躇なく羽鉄のナイフを自らの両足の足の甲に突き刺す。それはスパイク替わりとなり、重力の中でも強引に動く為の、足の裏が地面にしがみつく鉤爪となる。

 重力の中で突進してくるのはオペレーションに入っていないのか? オレは嘲いながら、追尾性を失った魔法弾を楽々と回避し、≪歩法≫のライジング・ラインを発動させる。ラビットダッシュよりも推進力を維持できる距離は短いが、短距離ならば爆発的な速度を得られるこのソードスキルを用いながら、オレは右手に≪格闘≫のソードスキルの光を溜める。

 炸裂する青のライトエフェクト……≪格闘≫の単発ソードスキル【破玉】。アバターの加速度に応じて火力ブーストを高めるこのソードスキルは、敵の懐に入った後の1発に適したソードスキルだ。

 レギムの鎧に亀裂が入ってたじろぐ。オレはそこから容赦なく、更に烈火を発動させる。亀裂への1発、さらに拳が密着状態からの1発はレギムの腹を拳が貫いた。

 それは虚ろの衛兵の中身と言うべきか、ソウルのような青い光の粒子が腹から溢れだす。レギムが金属を擦り合わしたような悲鳴が心地良い。そのまま蹴り倒して兜の隙間からカタナを押し込んでやりたいが、アレサンドラが広範囲の雷撃で地面を揺らす。

 つまらん。ジャンプして雷撃を躱すも、雷撃を受けながら、自らもダメージを受けるのも厭わずに突進するルカにオレは目を見開く。

 

「そう来たか!」

 

 空中ならば連撃を躱すことは不可能だ。ダメージを負うリスクに見合うリターンを計算する。それはAIの成す業か、仲間を甚振られたことへの怒りか。

 どちらにしても、『狙い通り』だ。オレは羽鉄のナイフを数本抜いて指に挟み、今まさに横振りでオレを潰そうとするルカの肘……その鎧の繋ぎ目へと正確に投擲する。羽鉄のナイフは耐久度こそ低いが、それでも塵も積もれば何とやら。羽鉄のナイフを挟み込まれ、モーションが阻害され、ルカの横振りは強制的に停止する。それでもさすがはネームドのSTRと言うべきか、羽鉄のナイフを砕いて攻撃を続行させる事を可能とするも、その間に着地したオレは逆手で抜いたカタナでルカの足を斬りつける。そのまま背後を取って背中を駆けのぼりながらカタナを鞘に収めてからライアーナイフを抜く。

 ルカの頭部を背後から右腕で絞めると、兜ごとSTRを全開にして捩じり、僅かに空いた隙間へと逆手持ちのライアーナイフを押し込み、鋭く伸ばす。

 ルカがビクビクと痙攣し、中身が暗器の刃で蹂躙された事を示すように膝をつく。

 

「……つまらん」

 

 急速にオレの中の本能が冷めていく。

 どうした? 貴様の執念はそんなものか? もっとオレを追い詰めてみろ。オレを殺してみろ。

 いや、違う。コイツらはまだ『命』を持っていない。まだ発露しきっていない。

 この辺りが限界か。時間的猶予もない。

 

「さっさと死ねよ。死ね死ね死ね死ね死ね。つまらんヤツは死ね。壊れろよ。雑魚が」

 

 ライアーナイフを鞘に戻し、倒れたルカの背中を逆手抜きのカタナで何度も突き刺す。足掻くようにルカの指が痙攣し、何度もカタナを刺された事によって、そこから開いた穴からソウルの輝きが血飛沫のように漏れる。

 だが、カバーに入ろうにもアレサンドラは爆発で満身創痍でまともに動けず、腹を砕かれたレギムも同様だ。明らかに動きが鈍い。

 

「所詮は人形か。出来損ない共が」

 

 ルカの巨体の腹を蹴りを上げ、宙に放ったオレは、その足をつかむとSTRの出力任せにアレサンドラの雷ウォーハンマーとルカをぶつける。それがルカへのトドメとなり、鎧が砕け散って、中身の光が臓物のように炸裂した。

 

 

 

▽   ▽   ▽

 

 

(素晴らしい……素晴らしいわ、【渡り鳥】くん!)

 

 鉄格子越しでエイミーは、最初こそ押し込まれていたが、ある一線を越えた辺りから、瞬く間に【渡り鳥】が3体のネームドを蹂躙し始めたのを見て、うっとりとした熱を帯びた眼差しを向けていた。

 理解を超えた強さとは存在する。観察し続けていたエイミーが見たのは、【渡り鳥】の強さの一片だ。

 彼は成長する。恐らく、苦境であればある程……敵が強ければ強い程に、その本能が闘争の為に進化を強要する。

 当初の動きこそ3体の虚ろの衛兵に対応し切れていなかったが、僅か数十秒で虚ろの衛兵の動きを観察し終えると、それに最適の動きの実現し、なおも不足しているとなれば、別の所から『引っ張り出した』のだ。

 今の【渡り鳥】の動き……特に踏み込みの部分にはユージーンと僅かに重なる。彼はユージーンとの戦いの間に、彼の動きを文字通り『糧』にして学習し、蓄積し、そしてこの戦闘で反映するに至ったのだ。

 

(ああ、本当に可愛いわぁ! もう、そんな事ができるなら最初から見せてくれないと、お姉さん誤解しちゃうじゃない! まったく、ユージーンとの戦いっぷりときたら、まるで蛆虫みたいな無抵抗主義者みたいだったから、思わず失望しちゃったわよぉ)

 

 虚ろの衛兵ルカが撃破され、残りの虚ろの衛兵は2体。どちらも満身創痍であり、勝負はついたと見て良いだろう。

 3体のネームド相手に、300秒の時間制限と片腕隻眼武器破損のハンデで、まるで勝負にならない。その顔は先程までの新しい『玩具』との遊びに興じていた無垢な子どものような嬉々とした表情から、退屈になったから『壊す』事にしたような、理不尽な冷たさが滲んでいる。

 動きのキレも序盤とは比べ物にならない程に増し、もはや虚ろの衛兵たちの動きは観察し尽されて掠ることはおろか、彼を追う事も難しくなっている。ルカが撃破された事によって共有する視覚が1つ失われた事も原因だろう。

 

(本当に、あの目……まるで『命』を踏み潰す事に何ら抵抗が無い、冷たくて燃え滾るような目。本当にセサル様にそっくりだわぁ! 本当は実子なんじゃないかってくらいに!)

 

 無抵抗主義者っぷりの余り、【渡り鳥】への興味を半ば失っていたエイミーだが、少し話をして目を見続けてみればすぐに分かった。彼は傭兵としてのルールに従うことによって、自分の戦闘本能を抑制している。

 理性と本能のせめぎ合い。そんなものは、ちょっとした『楽しみ』を与えてあげれば簡単にバランスは崩れる。今の【渡り鳥】の状態が良い例だ。本能にやる気を起こさせるだけの遺憾なく戦える強敵を与えてあげれば、簡単に仮面に亀裂が入る。

 

(もっと残忍に、残酷に、残虐になって良いのよ! セサル様が求めているのは暴虐の王! 今のゴミ共が王を気取って、人気取りと金の為に政を仕切る世界をぶち壊す、絶対的な蹂躙の覇者! あなたは間違いなく、ヴェニデの王の後継に相応しいわ!)

 

 見たところ、今のところは『獣』の部分も上手く首輪をかけている。このまま上手くセサルの『計画』通りに成長させれば、彼は必ず赤い鳥の後継の道を選ぶだろう。

 

(さてと、あたしは【渡り鳥】キュンの本性を見れて大満足だけど、ランク1様はどういう考えでこのアホらしい茶番劇を演じているのかしらねぇ)

 

 エイミーは自覚している。自分は馬鹿だ。品性もなく、卑屈で、おしとやかとは程遠い性格をしている、ちょっとだけ顔に自信がある女だ。

 だからこそ、彼女は立ち回り方を熟知している。女の世界はコミュ力の世界だ。頭が良いとか、運動神経に優れているとか、そんな事はどうでも良い。大事なのは、いかに自分が優位に立てるポジションを維持し、その為の努力を怠らないか、だ。

 ハッキリ言って、エイミーはユージーンが嫌いだ。だが、戦闘能力・頭脳・情報網に至るまで、彼が自分より上だと認めている。

 重要なのは認識する事だ。それを阻むプライドなど要らない。エイミーは自分が思いつく事はユージーンも当然のように到達しているという前提で物事を考える。

 

(あの古書……1つだけ古竜語以外で記載された文面が書き込まれてたのよねぇ。明らかに誰かが『細工』を施した後だった)

 

 そもそもユージーンは最初からソウルの場所に見当がついていた。ならば、ソウルの情報を探るよりも先に、安置されている場所を確認する方が筋ではないだろうか? なのに、あえてユージーンは数時間以上も博物館の探索に時間を割いた。あまつさえ、明らかにソウルの情報が載ってるはずがない古書まで解読させた。

 

(古書に書き込まれていたのは、『牢屋に入れ』だった。最初はどういう意味か分からなかったけどね)

 

 つまり、ユージーンは最初から虚ろの衛兵のギミックを把握していた。

 そして、エイミーを『謎かけ』の時間稼ぎの生贄にさせる事で『予定通り』に彼女を牢屋に送った。

 問題はその後だ。エイミーが稼いだ300秒、そして自分の300秒を合わせた計600秒。

 その間に『悪魔を殺せ』という意味をユージーンが見抜けなかったとは思えない。エイミーは結局最後まで意味を理解できなかったが、だからと言ってユージーンも同じだったとは思えない。

 何よりも、ユージーンは自分の持つ300秒の早期に回答し、その後は沈黙を守った。伊達に何度も協働で依頼を達成していないのだ。ユージーンは、何か違和感を覚えたならば、必ず新たな策を打ち出す。

 

(つまり、ランク1様にとってこの状況までが『計画』通りってわけね。そうなると、【渡り鳥】くんと衛兵をぶつける気だった? でも、【渡り鳥】くんが気づかなかったら……ああ、そうか。この牢屋は声を封じるモノじゃないし、気付いたフリをして教えてあげれば良いのね。その前に、すぐに【渡り鳥】くんが試練の意味を理解しちゃったみたいだけど)

 

 以上の情報から、ユージーンは間違いなく『ユニークスキル獲得』以外の目的も抱えている。それが何かは分からないが、エイミーはもしかしたら……と、牢屋で沈黙を守るクレイトンを見つめ、ようやく歯車を噛み合わせる。

 

(そういう事ねぇ。【渡り鳥】くんも可哀想に。最初から、全てはあなたの為に準備された喜劇。でも、大丈夫よ。今のあなたは最高に綺麗だわ。キュンキュンしちゃうくらいに可愛いわぁ)

 

 

▽   ▽   ▽

 

 

 フレイディアの亡骸から登場した、新たな結晶フレイディア。それは竜の頭蓋のような胴体から生えた足を動かし、前のフレイディアに比べれば、遥かに巨大になった頭部から結晶混じりのレーザーを吐き出す。

 以前の薙ぎ払いレーザーで無くなった代わりに、太さが増したレーザーを回避したシノンは、飛び散る結晶にも呪い蓄積効果があるのに冷や汗を掻きながら、結晶フレイディアの目を狙ってトリガーを引く。

 だが、結晶フレイディアはその肉体そのものが結晶なのだ。目に命中してもダメージはなく、もはや怯むことすらない。

 

「ふざけるのも大概にして! こんなのボス級じゃない!」

 

 幸いにもHPバーは1本しかないのだが、そもそもダメージが通らないのであるならば、対処法が無い。

 オートリロード分も含めて、残弾は4発。これを撃ちきれば、スナイパーライフルは弾詰め作業をしなければ使い物にならない。だからと言って、シノンのサブウェポンであるナイフとハンドガンで戦うには、余りにも結晶フレイディアは強大だ。

 

(クールになりなさい、『シノン』。喚き散らすだけならば羊にだってできる!)

 

 歯を食いしばり、シノンは地面から突き出す結晶攻撃をDEX任せに躱すも、追尾して次々と生える結晶攻撃のペースは余りにも早い。咄嗟にブレーキングをかけ、膝と足首にかかる負荷に唸りながら、彼女は何とか切り返しで結晶とすれ違うことで追尾を振り切ろうとするも、今度は生えた結晶が次々に炸裂して彼女のHPを奪い取る。

 残り3割。地面を毬のように跳ねたシノンは、即座に虎の子の白亜草を口内に押し込むも、回復を焦った彼女の頭上に結晶フレイディアの足が迫る。

 

『シノン!』

 

 それをUNKNOWNが二刀流でガードし、押し潰されそうになるのを拮抗するも、ソードスキル無しで結晶フレイディアの重量に耐えられるはずが無く、2秒ほどの時間稼ぎに留まる。

 だが、その2秒がシノンの延命を果たす。UNKNOWNと共に攻撃範囲外に出た彼女は、視線で感謝を告げる。

 

「それで、押し切ると言いきった『キリマンジャロ』さんには、何か秘策があるのかしら?」

 

『……ある。でも、それは――』

 

「まだ隠し玉があるのね。だったら、躊躇しないで。この状況を打破できるなら、どんなチートだって歓迎してあげるわよ」

 

 UNKNOWNは遠距離から人工炎精を放ち、ロックオンした頭部に向かって人工炎精たちは群がる。だが、それは足のガードによって阻まれ、数体が頭部に到達するに留まった。いや、逆に言えば遠距離からでも数発はガードを潜り抜けるこのイカレ性能はバランスブレーカーだろう、とシノンは呆れる。

 だが、爆炎を受けても結晶フレイディアはまるで無傷だ。HPは揺らぎもしない。

 

『やっぱりだ。弱点部位が変わってる』

 

「どういう事?」

 

『銃弾、人工炎精、それに俺の剣。どれも頭部に通じないんだ。フレイディアは弱点部位以外の全てのダメージを無効化する。逆に言えば、そこさえ分かれば、押し切るのは難しくない』

 

 なるほど、確かに筋は通っている。超防御力ではなく、弱点部位が変化したとなれば、自分たちの攻撃がまるで通じないのは当たり前だ。

 それにしても悪質だ。仮に弱点部位が変わったならば、最初のフレイディアは『頭部が弱点』とプレイヤー側に刷り込ませる事が目的だろう。そうして、結晶フレイディアの登場で慌てふためいたプレイヤー達が立て直そうと頭部を攻撃しても通じず、それが余計に混乱を生むというロジックだろう。

 いかにも茅場の後継者が考え付きそうだ。そして、それを看破するUNKNOWNもさすがと言うべきか。

 

「それで、あなたの隠し玉は何? 言っておくけど、私に奇術を期待しないでもらいたいわ」

 

『……≪集気法≫だよ』

 

 聞いた事が無い単語だ。シノンはそんなスキル、あるいはソードスキルがあっただろうかと知識のページを捲るが、やはりそんな物は無く、もしかして、と頬をヒクヒクと痙攣させる。

 あり得ない、とは絶対に言えない。この黒ずくめの糞野郎ならば、それくらいは想定の範囲内と言えるだろう。シノンは、全プレイヤーの嫉妬を集めて謀殺されかねないビックバン級の爆弾をUNKNOWNが抱えている事を悟る。

 言いたい事は山ほどある。そんな『理不尽』が許されて堪るものか、と叫びたくもなる。だが、それをぐっと堪えて、シノンは残弾4発の使い道を探る。

 

「あなたは撹乱に撤して。私が弱点部位を探り出す」

 

『恩に着るよ』

 

「ただし! もう隠し事は無しよ。それと、これが終わったら仮面を剥いで鼻っ面にストレートをお見舞いするわ。覚悟しておく事ね」

 

 再び結晶フレイディアの間合いに飛び込んだUNKNOWNは、連続の踏み潰し、それに伴う生える結晶を見事に潜り抜け、再度頭部に到達すると≪二刀流≫によって強化された斬撃を浴びせる。だが、それを嘲うように、結晶フレイディアは斬撃を受けながら口内から結晶混じりの酸を飛ばす。それの直撃を避けようとするUNKNOWNだが、執拗に狙いをつけられ、また足下から伸びる結晶で動きが抑制され、ついに命中させられる。危うく、直撃といったところだったが、右手の分厚い片手剣で酸を斬り払って難を逃れる。

 だが、あの手の攻撃は耐久度を減らす効果がある。いかに重量型の片手剣とはいえ、耐久度が特大剣級といったチート装備ではないだろう。ならば、あの酸攻撃を剣で防いだ事は後々まで響くダメージになりかねない。

 一刻も早く弱点を探さねばならない。シノンはスタミナ切れも厭わずに走り回り、結晶フレイディアの弱点と呼べる部位はないか探す。

 脚部はさすがにあり得ないだろう。攻撃に多用し、またガードにも利用している事から、弱点が隠されているはずがない。ならば、やはり胴体だ。

 シノンは結晶フレイディアの隈なく観察するも、弱点と呼べそうな部位は発見できない。

 やはり頭部が硬過ぎるだけで、自分たちのダメージが目に見えていないだけかのではないだろうか? そんな不安がシノンの脳内を駆け巡る。

 だが、シノンの目は小さな違和感を正確に切り取る。それは、結晶フレイディア……その半透明の結晶で出来ているからこそ、内臓も何もかも見えている、グロテスクな怪物。その臓物の中を蠢く『這う虫』の存在だ。 

 体長は20センチ程度だろう。蜘蛛のようにも見えるが、胴体が縦長だ。その不気味な『白い蜘蛛』がフレイディアの体内で脈動している。よくよく見れば、その足の動きがフレイディアの動きと連動している。

 あの白い蜘蛛こそが結晶フレイディアを操っているのだ。言うなれば、巨体に見える結晶フレイディアは鎧に過ぎない。どれだけダメージを与えても通るはずがないのだ。

 

「もしかして……アレが弱点なの?」

 

 こんなもの、どうしろと言うのか? そもそも弱点部位以外へのダメージが無効化されるというのに、内側に弱点があるなど、完璧な防御策だ。

 

(どうすれば良い……どうすれば良いの!?)

 

 いかにUNKNOWNがどれ程に強力なユニークスキルを持っているとしても、ダメージが与えられないのであるならば勝ち目はない。血の気が失せていくシノンは、必死になって弱点部位へとダメージを与える方法を考える。

 

(そうよ。こうしたボスは、何か突破する為のギミックがあるはず! それを……それを探すのよ!)

 

 今こうしている間にも、スタミナが失われる寸前のUNKNOWNが耐えているのだ。この時間稼ぎを無駄にはできない。

 シノンは周囲を見回し、何とかして結晶を砕く方法は無いだろうかと探す。

 そして、見つける。最初からこの空間にあった、フレイディアが巣にしていた巨大な竜の亡骸。その首の部分にある僅かな亀裂を。

 蜘蛛の巣を揺り籠に、まるで垂れるように安置された竜の死骸。その首の亀裂へとシノンは狙撃する。それは亀裂を拡大させるも、さすがは竜骨と言うべきか、1発程度では足りない。

 2発、3発、4発……スナイパーライフルの弾丸全てをお見舞いしても亀裂は大きくなる程度で、その首が真下のフレイディアに落下する様子は無い。直接攻撃をしようにも、竜の亡骸がある場所は高過ぎて届かない。

 違う。シノンは否定する。方法はあるのだ。他でもない、結晶フレイディアが竜の亡骸の真下に陣取っている。つまり、結晶フレイディアを足場にして竜の亡骸に飛び乗れば良い。

 だが、直接接触するともなれば、呪いの蓄積は免れない。つまり、フレイディアとは『誰かが呪いの犠牲になる』事で撃破の道が開く、ソロでは撃破が無理なネームドなのだ。

 

「後は……任せたわ」

 

 ぼそりとシノンは信用を……いや、『信頼』を込めてUNKNOWNへと呟く。

 不思議だ。あのいけ好かない黒ずくめの背中を見ていたら、どうしようもない位に不安が吹き飛ぶのだ。

 シノンはスナイパーライフルを捨て、フレイディアの足の叩き付けが迫った瞬間に、その足へとしがみつく。

 

『シノン!?』

 

「私の事は見ないで! あなたは目の前の敵に集中しなさい!」

 

 UNKNOWNを怒鳴りつけ、シノンは結晶の体をよじ登る。それに気づいた結晶フレイディアは振り落とそうとするが、そうはさせまいとUNKNOWNが頭部を連撃を浴びせる。たとえダメージは通らずとも、ヘイトを集めることには成功したのだろう。結晶フレイディアは体を揺する程度に留まり、ついにシノンは結晶フレイディアの背中に到達する。

 発動させるのは≪歩法≫のムーンジャンプで高さを稼ぎ、竜の亡骸……その頭に着地する。

 だが、そこまでだった。シノンは自分の体が鉛のように重くなり、鈍くなっていくのを感じる。レベル1の呪いだ。呪いは多種多様な効果をもたらし、一概にどのような効果が表れるのかは実際に受けるまで分からない。

 だが、シノンの呪いは鈍足のようだ。彼女の武器である速度が殺され、シノンは鈍い体を動かし、亀裂の前に立つ。

 

「これで終わりよ」

 

 ナイフを掲げ、ソードスキルをひたすらに、スタミナ切れになるまで放ち続ける。それは亀裂を拡大させ、ついに落下させる。

 竜の頭部と共に落ちたシノンは、背中を貫いた衝撃が結晶フレイディアへと見事に竜の頭部が命中したのだと把握する。地面に投げ出されたシノンが顔を見上げてみたのは、背中が割れ、そこから這い出た白い不気味な蜘蛛へと剣を突き付けるUNKNOWNだ。

 

『終わりだ。スターバースト……ストリーム!』

 

 もはや、それはライトエフェクトの嵐だ。≪二刀流≫の専用ソードスキルだろう連撃は、もはやシノンには数えるのも億劫な程に白い蜘蛛を刻み続ける。それはジリジリと白い蜘蛛のHPを奪い続け、たった1回で残り4割まで奪い取る。

 あれだけのソードスキルの連撃を浴びても6割のダメージ。それがいかに白い蜘蛛が桁違いの防御力を持っているかを知らしめる。恐らく、結晶に覆われた事によって物理防御力が高まっているのだろう。

 

「そ、そんな……」

 

 押し切れなかった。今の専用ソードスキルでUNKNOWNのスタミナは切れたのだろう。片膝をつき、荒々しい呼吸を繰り返している。そうしている間に、白い蜘蛛は結晶フレイディアの体を動かし、その関節を強引に曲げて結晶フレイディアの背中に乗るUNKNOWNを押し潰そうとする。

 だが、その直前で、両手の片手剣をUNKNOWNはまるで翼を広げるかのように振るう。すると、彼の周囲で緑色の光の粒子が集まり、そのアバターの内側に吸い込まれていく。

 動く。UNKNOWNがスタミナ切れから復帰したかのように、その剣を躍らせて足を弾き返す。

 

『まだ死ねない』

 

 UNKNOWNの呟きに、シノンは死神の息吹を感じる。

 おかしい。今ここにいるのはUNKNOWNのはずなのに、その背中は彼女が知る白い傭兵に近いものを感じる。

 

『たとえ、全てのプレイヤーに憎まれようとも、俺は勝ち続ける。アスナを取り戻すまで……俺は死ねないんだ。だから――』

 

 次々と結晶がUNKNOWNを襲うが、その度に彼は剣を振るう。その火花の色は緑であり、それが何を意味するのか、シノンは僅かに理解する。

 スタミナ切れの状態では動けない。ならば、どうすれば良いのか? 簡単だ。『スタミナを回復してしまえば良い』のだ。

 

 

 

『≪集気法≫専用ソードスキル【リカバリーブロッキング】』

 

 

 

 ただ剣を振るう。その刹那に刃に踊る緑色のソードスキルの光。それは衝撃をスタミナに変換しているかのように、彼の周囲に鮮やかな緑の火花を輝かせていく。

 この異常事態に対し、白い蜘蛛は結晶の触手を伸ばし、自身を守る繭を作る。だが、それに対してUNKNOWNは右手にソードスキルの輝きを光らせる。

 それは≪片手剣≫の連撃系ソードスキル【バーチカル・スクエア】。振り下ろす斬撃から続く上下の連撃、そして上段斬り。ソードスキルでも高速攻撃が売りだ。

 本来ならば、これで終わり。だが、UNKNOWNはソードスキルの硬直モーションを無視して左手で≪片手剣≫の連撃系ソードスキル【スカラ・レイダー】を放つ。逆袈裟斬りから振り下ろしまでの使い易い2連撃のソードスキル。

 終わらない。結晶の繭を破壊し続けるまで、一切の硬直モーションもなく、UNKNOWNはソードスキルを連発し続ける。

 ソードスキルのモーション中に別のソードスキルのモーションを上書きして、2連続ソードスキルとするチェイン・ソードスキルという技術は存在する。それでも使えるのはごく一握りであり、実戦でまともに使えるのはユージーン1人だという。

 だが、UNKNOWNの連続ソードスキルは更にその上をいく。もはや止まる事が無い6連続のソードスキルで、ついに繭が破壊され、ようやく硬直モーションに捕らわれたUNKNOWNであるが、それは残心のようなものであり、もはや白い蜘蛛には攻撃手段も防御手段も無かった。

 再びスターバーストストリームの輝きを見た時、シノンはへなへなと腰を抜かし、今度こそ撃破されてリザルト画面が表示されたのを見つめた。

 こんなもの、誰も勝てるはずがないではないか。

 片手剣でありながら特大剣級の高火力ソードスキルを備えた≪二刀流≫。

 その詳細は分からないが、スタミナを回復させる、正真正銘DBOのシステムにおける頂点を成す≪集気法≫。

 そして、UNKNOWNの持つ、他を隔絶したプレイヤースキル。チェイン・ソードスキルが児戯にも見える、硬直無視の連続ソードスキル。

 

「……1発殴らせて」

 

 とりあえず、シノンは全プレイヤーに代わり、鈍足であり得ない鋭い踏み込みで、勝利の余韻に浸るUNKNOWNの腹を右ストレートでぶち抜いた。




超火力の二刀流とスタミナ回復などの恩恵がある集気法、ダブルユニークスキル持ちという超強化の実態が露わになったUNKNOWNさん。

もう、コイツ1人で良いんじゃないかな?


それでは、159話でまた会いましょう。

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