SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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今回は少しばかり息抜き&最後の謀略回です。
この後は一気に本エピソードは、終盤に向かっていきます。


※体調がいろいろと危険域なので、少し投稿ペースが乱れるかもしれません。ご了承をお願い致します。


Episode15-18 アリストテレスの格言

「セサル様、お時間です」

 

 間もなく夜の闇がやって来る。争奪戦開始から9日目の夕暮れ、ブリッツはテントで身支度を進めるセサルの護衛を務めながら、いよいよ謀略と知略が交差し続けた争奪戦に1つの決着が訪れようとしていると感じる。

 この争奪戦の果てに何があるのか、それはブリッツには読めていない。だが、聖剣騎士団と太陽の狩猟団へと、わざわざ時間を与えたセサルは、ユニークスキルというものには余り執着しておらず、むしろ別の何かに期待しているような節がある。

 数時間前に聖剣騎士団と太陽の狩猟団双方からクラウドアースの理事会に、今回の争奪戦に関わる協議の場を持ちたいと連絡があった。裏ではセサルに支配されているとはいえ、表向きは理事会こそ最高決定機関だ。わざわざミュウは、外部に協議を行うという情報を拡散させてから理事会に通達した。これにより、クラウドアース側はセサルに一任していた争奪戦に関して、理事会自らがアクションを移さねばならなくなった。

 結果、聖剣騎士団のトップであるディアベル、サンライス不在の為に太陽の狩猟団からはミュウ、そしてクラウドアース理事長であるベクターの3人によって、シャルルの森にて協議の場が設けられる事になった。今回の総指揮としてセサルの出席も決定しているが、むしろディアベルやミュウの狙いは、ベクターという表向きのトップを引っ張り出す事によってセサルの動きを封じる事にあるだろう。

 組織には建前が必要だ。セサルは現在裏方で仕事をする事を望んでいる。クラウドアースの運営は理事会が処理すべき事柄であり、彼は関与しない。今回の彼らの動きは、わざわざ理事会を引っ張り出すと言う先手からも、セサルへの高い警戒心を窺わせる。

 

「さてさて、彼らはどのような策を作り上げたのか、実に楽しみだな」

 

 クラウドアースのエンブレムが施されたコートを纏い、髪をしっかりと整えたセサルは、ブリッツに身嗜みのチェックをさせる。特に問題が無いと彼女が頷くと、満足そうにセサルは背中で手を組んだ。

 テントを出れば、地平線に向かってゆっくりと太陽が沈んでいる。あの光が再び巡るのは10日目の朝である。

 

「楽しんでいらっしゃいますね」

 

 上機嫌のセサルに、ブリッツは半ば呆れに近しい感情を覚える。

 今回の一連の『裏』を既に聞かされたブリッツからすれば、この先に何が待っていようとも茶番の領域から脱する事は無い。そうであるならば、セサルからすれば今回の協議など時間の無駄以外の何物でもないのではないだろうか?

 だが、肝心のセサルはむしろ喜んでいるようにも見える。それが何故なのか、ブリッツにはイマイチ理解することができなかった。

 

「ブリッツよ、私はね……何でも自分の思い通りになるというのが1番嫌いなのだよ」

 

「と、言いますと?」

 

「暴力、運命、偶然、思慕……なんでも構わない。個でも群でも良い。その全力を以って自ら道を切り開き、策を破り、脚本を捻じ曲げる。そういった不測の事態こそ、最も喜ばしいものだ」

 

「私には、とても危険に思えますが?」

 

「ああ、そうだな。私も昔は同じだった。だが、こうして『終わり』を感じられる身になって、自分の力が及ばぬからこそ翻弄されるというのも、存外悪いものではないと思えるようになったのだよ」

 

「……セサル様」

 

 沈む夕日にセサルが何を重ねているのか、ブリッツには感じ取れそうな気がしたが、きっとそれは彼女の単なる感傷に過ぎず、きっと自分の主があの夕陽に思っている事といえば、せいぜい今晩の料理にはどんな酒が合うだろうか、くらいだろう。

 

「私に猶予はあまり残されていない。それまでにヴェニデの後継者を見つけねばなるまい。【渡り鳥】くんならば、力ある者が統べるヴェニデのトップとして、誰1人として不満を抱くことなく収まるだろう。だが、それを蹴るならば、それもまた悪くない選択だろう。幼く自由な若人が、どのような道を選んだとしても、老いた眼で背中を見送るのも趣があるというものだ」

 

「ご子息様はセサル様の思想を受け継いでいらっしゃいます」

 

「それだけだ。アイツは『正しく』生まれた。妻の血が濃かったお陰だろう。思想は学び取れても、私の暴虐までは『血』として継げなかった。優れた力は持っていても、それを振るうには、余りにも人として正しい精神を持ち過ぎている」

 

 それは、きっと親としては喜ぶべき事なのかもしれない。そして、セサルはヴェニデの王としてそれを歓迎せず、同時に父としては自らに似なかった息子に対して、失望とは違う別の物を抱いたのかもしれない。

 そう、たとえば……『未来が想像できない』という喜びだ。

 

「……仮に彼が後継者となる事を選んだとしても、セサル様にはお教えしなければならない事が多くあります。それまではご自愛ください」

 

「それは無理な相談だな。私は仮想世界の囚人。肉体にまで手は回らん。だが、どうせならば刃を交えながら死にたいものだ。私の勝利であれ、敗北であれ、死すべき場所は戦場。そうであるならば、私は満足だ」

 

 もしかしたら、セサルが後継を追い求めている最大の理由は、自分が満足できる最高の戦いを追い求めているからなのかもしれない。

 自分を殺してヴェニデの玉座を奪うも良し。自分を超える力を証明してから、誘いを蹴るも良し。あるいはその逆、力及ばずにセサルが勝つとしても、自分が選ぶ程の猛者ともなれば存分に戦いを楽しめる。その先には後継を失ったヴェニデがあるとしても、力無き者がそもそもヴェニデのトップにあるべきではないので問題は無い。

 

「セサル様は……【黒い鳥】を今も追いかけていらっしゃるのですか?」

 

「……何故そう思う?」

 

「ヴェニデの者ならば、誰もが知っています。若き頃のセサル様の前に立ちはだかり、唯一生き延びた……いいえ、互角に渡り合ったとされる規格外。セサル様が【赤い鳥】と呼ばれるようになった由縁ともいうべき人物」

 

 現実世界でヴェニデが創設される以前の、セサルの若き日の物語。古株のメンバーがポツリと酒の席で零し、今や組織全体に広まっている昔話だ。

 

「そうだな……私も、心の何処かで若き日の続きを追い求めているかもしれんな。ククク、老いとは実に良いものだ。後ろを振り返るというのも、なかなかに満たされるものだ。だが、そこに囚われていては何も変えられんし、腐るだけだがね」

 

 珍しく自身の事を饒舌に喋るセサルに、ブリッツは敬意を込めて頭を垂らす。

 3大ギルドのメンバー達が警護を務める、一際大きなテントが見えた。無駄話は終わりである。

 テントの内部には、最低限の護衛以外を省いた、現DBOで最高の権力を備えた3人が既に円卓を囲んでいる。

 1人は聖剣騎士団の団長にして、デスゲーム初期より伝説的な活躍をし続けるディアベル。

 1人は武勇こそないが、その知略で現在の大ギルドの支配構造を生み出すきっかけとなった大組織を作り上げたミュウ。

 1人はクラウドアースの理事長にして、セサルが選んだ表向きの支配者であるベクター。

 

「遅かったな、セサル軍事統括顧問」

 

「ええ。少し報告書に目を通していたものでしてね」

 

 世間話でもするように、ベクターと軽口を叩いたセサルは、あくまで席には腰かけない。円卓にある席は3つであり、彼がいるべき場所はベクターの背後だ。それは建前上でも、ベクターの配下であるという立場だからである。

 

「役者は揃いました。では、そろそろ始めましょう」

 

「ああ。茶番劇に幕を下ろす時だ」

 

 明らかな敵意の視線をディアベルが、この状況を最大限に利用しようとする打算の眼差しをミュウが、それぞれベクターとセサルに向ける。

 ああ、なるほど。彼らは『真実』に気づいたのか。ブリッツは、セサルの読み通りに全てが運んでいる事を感じながらも、そこから彼らがどう上回るのかを見届けるべく、楽しげな主の背中を見つめた。

 

 

▽   ▽   ▽

 

 

「フハハハハ! 今日は猪鍋だぞぉおおおおお!」

 

「イエーイ!」

 

 たぁのしぃいいいいいいいいいいいいいいい! 傭兵ランク14のジュピターは、半ば上半身裸体で重量型の大槍を掲げて小躍りするサンライスに応じながら、炎に薪をくべて鍋にどんどん刻んだ巨大猪の肉を放り込む。

 ジャングル生活9日目。補給部隊が壊滅した事も知らずに、傭兵としてはやや戦力不足という評価から抜け出せない、良くも悪くも使い勝手は良いだけの傭兵であるジュピターは、当然のように飢えと渇きに苦しみ、PK上等連中かモンスターのどちらかに狩り殺されるはずだった。

 だが、彼女をそんな悲劇から救ったのは、猛烈な勢いで森を、それこそ槍でモンスターも障害物も破砕しながら、そのトレードマークとも言うべき大声を、隠密性無視でばら撒いていたサンライスである。

 遭遇したのは争奪戦開始から2日目であり、見事に何処を目指したら良いのか分からず、道に迷っていたジュピターとサンライスは偶然にも巡り合ったのである。

 

『お、お恥ずかしながら、道迷ってしまって。何処を目指せば森の中心なのか分からないんです』

 

『安心するが良い! 俺なんて昨晩から迷いっぱなしだ!』

 

『え!?』

 

『フハハハハ! なーに、心配するな! 俺はあっちから来たと思うから、逆方向に進めばきっと……うーむ! いかんな! ここには見覚えがあるぞ! フハハハハ! 構わんさ! 俺の陣営の傭兵に出会えたのは幸運な事! 共にユニークスキル獲得を目指そうではないか! 前を向いて走り続ければ、いずれ目的地にたどり着く!』

 

 それが2日目である。3日目、2人は持ってきていた食料が完全に尽き、迷子状態のまま飢えと渇きを覚え始めた。それ以前にニオイがモンスターを引き寄せるのだ。消耗を強いられるのは仕方ない話である。

 3日目の昼に、サンライスはすっかり疲れ切ったジュピターにグーサインと笑顔を送った。

 

『ならばハンティングだ! 俺が狩るから、料理を頼むぞ!』

 

 当然ながら、≪狩猟≫スキルを持っていないジュピターとサンライスでは、ドロップ率も悪く、魚を獲ろうにも道具が無い。2人は試行錯誤を繰り返し、なけなしのナイフと蔦を使ってジュピターが持っていた≪工作≫で網をオブジェクト作成したのだ。

 その日の晩、2人は網にかかった巨大魚が食材として入手できて味付けもせずに空腹感に任せて齧りついた時、『何か』に目覚めた。

 もっと食べよう。もっと狩ろう。自分達には『それ』が必要なのだから! 完全にサバイバル魂に目覚めた2人は、ニオイがキツ過ぎてモンスターが近寄らない木の上に早速秘密基地を作るノリで住み家を築き、モンスターたちを片っ端から狩っていった。

 

『あれの卵、なんかゼリーっぽくて美味そうだな!』

 

『ですね! ドロップ率が悪そうですし、巣穴ごと潰しちゃいましょう!』

 

 ゲテモノ同然の巨大蟻を巣穴ごと殲滅して、卵を回収して啜った。食材ではないので美味しくなかったので、3秒で全部廃棄した。

 鋭い爪を持った夜襲型の首長梟の羽をむしり取った。肉をドロップしなかったので狩り尽くしてしまったが、1回だけドロップしたそれは美味だった。

 何か良く分からない【封じられたソウル】というものをドロップした水銀みたいな牡鹿を食べられなかったのは、ジュピターにとって無念以外の何物でもなかった。

 

(これ……これよ! 私に足りなかったものは、この自給自足のように、何にも縛られない自由な時間! カ・イ・カ・ン!)

 

 ドロップしたレアアイテム級の黄金の羽を蔦に巻き付けて冠にし、果実の赤で頬をペイントしたジュピターは、傭兵時代の良くも悪くも引っ込み思案そうな、普通の少女っぽさからすっかり脱却し、物理的肉食系女子へとジョブチェンジに成功していた。

 チマチマと槍とクロスボウで削る!? 何とナンセンスな戦いだったのだろうか! そんなものでは、いつか死ぬのは当然の摂理! 必要なのはパワー! 必要なのはスピード! 必要なのはパワー・スピード・パワーパワー・スピード! 小手先など無用の長物だったのだ!

 それを証明してくれたのはサンライスだ。防御を捨てたノースリーブ製の皮装備、ムキムキの上腕筋で振るわれる重量級の槍はまさに一撃必殺の体現! そして、何よりも精細な技量を持ち得ていながら、それを微塵も印象付けない豪快な戦いっぷり! それがジュピターに精神的革命を引き起こしていた。

 

「…………」

 

 対して、完全に沈み切っている男が1人、ジュピターが作った大味過ぎる鍋にチマチマとハーブや草の根やらを黙々と投じていた。

 その男はランク35のエディラだ。傭兵になってから日も浅いながらも、幾つかの重要な作戦にも起用された事がある。同じ陣営に属する傭兵ではあるが、ジュピターもどちらかと言えばお喋りなタイプではないので関係も薄い。彼女から見たエディラとは、腕の立つ寡黙なおっさんだ。

 

「もう、エディラさんも、もっと楽しみましょおうよぉ! ほら、お酒! お酒がありますよ!? いやぁ、≪料理≫取ってて良かったぁ! まさか、質は悪いけど、果実酒まで作れちゃうなんて! これもサンライス様の知識のお陰です!」

 

「太陽の狩猟団創設期の秘蔵レシピだ! バラしたらミュウがガチギレするから、黙っててもらえると助かる!」

 

「もちろんですよ。さぁ、猪鍋もできた事だし、迷子三連星、今日も仲良く酒盛りしましょう!」

 

「……俺は迷子ではない。依頼主のトップに何かあれば大事だろうから、護衛をしているだけだ」

 

 新しい薪を加えて火を強めたエディラは、木製の器に猪鍋を分けて他の2人に渡す。枝を利用して作った箸を手に、サンライスとジュピターは、火傷しそうな程に煮立った猪鍋を掻き込んだ。それを見て、エディラは心底疲れ切った目を向け、自分の分をゆっくりと口にし始める。

 サバイバル生活7日目に遭遇したエディラは、すっかり森に馴染んだサンライスに早く陣地に戻って全体指揮をするように呼びかけた。さすがのサンライスも我に返って戻ろうとするも、何処に帰るべきかが分からない。仕方なくエディラが森の外まで送ることになったのである。

 

「明日の夜、少なくとも明後日には森の外に出られるだろう。この辺りは外縁部に近い」

 

「うむ! ご苦労だった! しかし、やはり単身で森を突っ切ろうなど無謀だったようだな! 餅は餅屋らしく、傭兵に任せるべきだったか! これではミュウにどんな面を出せば良いのか分からん!」

 

「笑顔で帰ってくれば、きっと許してくれますよ。サンライス様は太陽の狩猟団のリーダー! 輝かしい太陽なんですから!」

 

「なるほど! 笑う門には福来るというわけか! ハハハ!」

 

 楽観視して笑い合う2人を見て、エディラは額を数度叩いて頭痛を取り払うような態度をするが、彼はすぐに何かを感じ取ったかのように背負う両手剣に手をかける。これにはサンライス、ジュピターも続き、各々の得物を握る。

 飛び出してきたのは、シャルルの森に巣食う猿型モンスターだ。両手を黒い甲で覆われた緑色の毛をした大型猿である。だが、肉系食材をドロップするも食べれたものではなく、食材としての価値はない。舌打ちしたジュピターとサンライスは、やる気もなく、だが殺意を込めて大猿を迎え撃つ。

 とはいえ、所詮はリポップする雑魚モンスターだ。一撃の重さは怖いが、エディラが両手剣で腹を薙ぎ、ジュピターがパンチ後のがら空きな横腹を短槍で貫き、サンライスが重量槍で怯んだところを狙えば、あっさりとHPは赤く点滅する。

 3対1では勝てないと踏んだのか、大猿は後退して茂みの中に逃げ込む。だが、その巨体はいかに保護色になっていようとも目立つ。

 

「狩りましょう。まずくてもお肉。お肉はご飯。ご飯はお肉。お肉とはお肉!」

 

 じゅるりと、涎を垂らすジュピターとサンライスの槍コンビは大猿を追い、あっさりとその背中に槍を突き立てる。大猿が赤黒い光を口から吐いてのた打ち回り、リザルト画面が表示されるも、肉どころか何もドロップしていないのを見て、2人してガックリとうな垂れる。

 こういう時もある。いや、むしろこういう時の方が大きい。死骸だけが残った大猿を見て、何度このデータの塊に齧りついたことだろうか? どうやら、食料としてカウントされないらしく、腹に溜まる感覚はあるのだが、飢えを満たすことはできないのだ。

 

「うむ! 仕方あるまい! 幸いにも猪鍋があるのだからそれで良しとしようではないか!」

 

「そうですね。じゃあ戻り――」

 

 そう言って茂みから戻ろうとしたジュピターは、ふと夕闇の中で人影のような物を発見する。よくよく見れば、それは腐敗が始まったようにも見える死体だった。

 途端に傭兵モードに戻ったジュピターは、すっかり耐久度が危険域になった短槍を右手に、左手に2連射仕様のクロスボウを構える。特注品であり、2つのトリガーが備わったこのクロスボウはバラバラのボルトが使用できるのだ。2種類の違う属性ボルトを装填しておく事により、いかなる敵を相手にしても確実にダメージが与えられる。

 

「エディラ!」

 

 サンライスも重量槍を頭上で振り回し、周囲を警戒する。彼の呼び声でやって来たエディラは、すぐに遺体を発見すると周囲を見回して警戒心を高めた。

 サンライスとジュピターが見張る間に、エディラが遺体を確認する。身ぐるみを剥がされた見るに堪えない姿である。

 

「顔が剥がされている。これでは誰なのか見分けもつかんな」

 

 冷静にエディラは遺体ひっくり返し、虫が集り、節々が欠損した、それらを観察する。

 

「この森で遺体がどれだけの時間残るのかは知らんが、少なくとも2、3日ではないな。幾らジャングルとはいえ、腐敗速度的に考えれば7日前後といったところか」

 

「分かるの?」

 

「……リアルの仕事柄な。仮想世界である以上に一概には言えんが、かなりの手練れにやられたな。心臓を背後から一撃、それに声帯も切断されている。背後からの奇襲で、ほとんど抵抗する暇も無かっただろう」

 

 嫌な仕事ね。ジュピターは遺体を気持ち悪いと思う以上の感情を自分が抱いていない事に、自分も随分とDBOに、そして傭兵業に染まってしまったものだ、と淡々と目の前の光景を消化する。

 

「うーむ! せめて、我が方の傭兵で無い事を祈るしかないな!」

 

 無念といった具合に黙祷を捧げるサンライスを横目に、エディラは遺体の持ち物をチェックしていく。

 

「男女2人組なのは間違いないな。遺体の破損も酷いから、これ以上は分からんが。だが、クラウドアースの連中だろうな。残されていた所持品だが、クラウドアース製が幾分か多い」

 

 クラウドアースの男女2人組か。何やらきな臭いニオイがしてきたものである。ジュピターは不安を滲ませるが、サンライスが大槍の柄頭で地面を叩いて自信に溢れた表情を浮かべる。

 

「何が来ようと斃せば良い! お前たちが無理でも、俺にはできる!」

 

「シンプルですね。でも、さすがはサンライス様です」

 

 しかし、装備を奪うところまでは理解できるが、顔を剥ぎ取るとはどういう意味があるのだろうか? ジュピターは森に潜むだろう殺人犯の意図を考察してみるも、そもそも思考がぶっ飛んだ連中が多い傭兵達から、まともな回答を求める方が間違いだと気付く。

 だったら、さっさと猪鍋をつつく作業に戻ろう。あっさりと死体への追究を放棄したジュピターもまた、世間でいう『一般人』の思考から外れつつある事を自覚していないのだった。

 

 

▽    ▽    ▽

 

 

 さすがに3人ともなると、モンスターの索敵にも引っ掛かり易いな。オートリロード分の弾詰めを小岩に腰かけながら行うスミスは、弾薬にはまだ余裕があるが、ここ数時間で4回も意図せぬ遭遇戦によって消耗を強いられた事に苛立ちを隠せなかった。

 これもそれも、全ては小川で顔を洗い、気持ち良さそうに額を拭っているグローリーのせいである。特に、彼が散々注意した泥沼に足を踏み外して落ちた際には、救出する為に20体を超える猿型モンスターの群れを相手するという、ダメージこそ負わずとも消耗を加速させる羽目になった。

 マチェットの耐久度にもそろそろ気を配らねばならない段階であるだけに、数を相手にするのはこれ以上避けたい。特にスミスの戦闘スタイルは決して継戦能力が高くないのだ。1週間以上の連続戦闘に耐えられるようなものではない。この辺りは、やはり銃器のデメリットとも言うべきポイントだろう。

 

「へぇ、あまり≪銃器≫って興味無かったけど、こうして見てみるとカッコイイね」

 

「平時のリアルならば、女の子が触るようなものではない、と言うところだが、持ってみるかな?」

 

「え? 良いの?」

 

「構わないさ」

 

 しかし、この少女のお陰で随分と戦闘面では予想外に余裕を持てたのも事実だ。2匹の狼を連れる少女は、相応の隠密系スキルを持っているらしく、むしろ索敵に引っ掛かっているのはグローリーが主因だ。彼女は軽量型片手剣を使い、1発の火力よりも手数で押し込むタイプらしく、スミスもお目にかかった事が無い程の速度・反応速度・戦闘勘を持ち合わせている。

 スミスも無傷ならば、少女も当然のようにノーダメージだ。とはいえ、軽量型片手剣もまた耐久度が高い部類ではないので連戦は厳しいだろうが、少女の様子から察するに、激戦を潜り抜けられるだけの耐久度は残されているのだろう。

 むしろこの状況で恐ろしいのは、武器破損の方だ。耐久度の完全消耗よりも、武器破損の方が武装破棄の比率は圧倒的に高いのである。耐久度が下がった武器程破損し易くなるので、それは仕方のない話かもしれないが、戦闘中に武器が壊れるなど、普通ならば死を覚悟する状況だ。

 そう言う意味では、スミスの戦闘スタイルは武器破損をあまり心配する必要が無い。近・中距離での射撃攻撃メインである為に、武器同士をぶつけ合う機会は少ないからだ。

 逆に、クゥリのように多種の武器を切り替え、惜しげも無く半ば使い捨てのように破損させていくスタイルは、DBOにおいてもかなり異常の部類だ。そもそも貴重な武器枠を、スミスのように≪銃器≫2種を同時装備するという目的があるわけでもなく取り、4種の武器を並列して運用するのはDBOでも彼だけのスタイルだ。大半のプレイヤーは初期から与えられている2つの武器枠、多くても≪武器枠増加≫を取って1つ増やす程度だ。

 そもそもレア武器の強化費用も、素材も、熟練度上昇の為に費やした時間も、全ては貴重なプレイヤー側が得られる資源の消費だ。特に武器熟練度上昇は、時間という決して取り戻せない要素を消費している。これが現実世界ならば、スミスも武器捨て上等だとは思うが、DBOでは修復不可レベルの武器の破損=戦闘能力の恒久的激減に直結するのだ。それを何ら躊躇いなく実行できるなど、尋常ではない。

 

「う~ん、重いね。ボクのSTRじゃ無理かな」

 

「ライフルはSTRとTECを両方バランスよく追及されるからね。キミはSTRが高めでは無さそうだし、ライフルは無理だろう。そうなると、せいぜいヒートマシンガンかハンドガン位が妥当だろうな。マシンガンも軽量タイプならば持てない事はないだろうが、STRで御せないと集弾性が悪くて使い物にならない」

 

 まぁ、STRを高めるのではなく、出力を引き上げれば後者の問題はある程度まで解決できるがね、とスミスは内心で付け加えた。

 物珍しそうにライフルを持って構えていた少女はスミスにそれを返すと、痺れたように手をプルプルさせる。片手持ち前提のライフルでは、少女の細腕には文字通り荷が重すぎたようだ。

 

「う~ん、だったらハンドガンが欲しいなぁ。ほら、やっぱり近距離と中距離で射撃できるのって便利だし。でも、これ以上はスキルが……」

 

 腕を組んで悩む少女は、先程までグローリーを人質に取り、場合によっては2人を殺害すると仄めかしていた人物と同一とは思えない程に馴染んでいる。

 これが自然体というものなのだろう。態度にまるでストレスが感じられない。つまり、少女はスミス達を脅威や敵と既に認識していないのだ。ならば、ここで裏切ってスミスが奇襲をかけたならば、どんな反応を示すだろうか?

 それはそれで興味深いが、今はそんな危険な好奇心に手を出すべきでも、また思考実験をすべきでもない。そもそも、契約した以上は裏切るなどナンセンスだ。

 

「無い物ねだりをするよりも、自分の手持ちのカードを鍛える方を私はお勧めるがね。何処かの誰かは毎回のように戦闘系スキルを増やしているが、あれを見習うべきではない。あれは頭がおかしいと言うんだ」

 

「それってクーの事?」

 

「肯定しよう。多種多様な武器を使いこなせる彼だからこその芸当だ。素直に補助系スキルを取って、今のスタイルを補強すべきだろう」

 

 そう言うスミスも≪曲剣≫・≪銃器≫・≪光銃≫・≪光剣≫・≪ヒートパイル≫と5つも武器系スキルを取っているので大概であるのだが、割愛する。

 

「おじさんって、クーとは付き合い長いの?」

 

 隣の小岩に腰かけた少女は、黒紫の髪を夕闇が訪れつつある中で、蒸された風に靡かせる。一瞬だが、幼さばかりが目立つような少女の瞳に、スミスは思わず吸い込まれそうになるも、そこは大人として鼻歌交じりにステップを踏みながら躱す。伊達に女関係も百戦錬磨ではない。

 

(無自覚魔性型だな。意図せずに男を狂わせていく虐殺タイプだ。このタイプの女に引っ掛かると人生10年は棒に振る)

 

 冷静に分析しながら、スミスは煙草替わりの枝を咥え、水飛沫を上げながら、『水も滴る良い男ポーズ』を極めようといているグローリーを、本当にどうやって事故と見せかけて始末しようかと脳の片隅で計算しながら、少女への回答を探す。

 特に嘘を吐く事でも、隠すべき事でもない。探られれば簡単に明らかになる事だ。そう判断したスミスは、クゥリとの出会いを述べる事にした。

 

「腐敗コボルド王戦で彼と組んだのさ。腐敗コボルド王は現聖剣騎士団のトップであるディアベルくんを筆頭にした主力メンバーが引き受けて、私と彼はいわゆる露払いだな」

 

「クーは主戦力じゃなかったの?」

 

「ああ。当時の彼はまだ【渡り鳥】だと知られていなかったし、今ほどに強い訳でもなかった。片鱗はあったが、当時の能力は上位陣よりもやや下だっただろうね」

 

 急激に強さを増し始めたのは、ラーガイの記憶で双子鎌をトレードし、彼が傭兵業を始めた頃からだ。

 人殺しすらも是とする精神的バケモノは、今や実力面でもバケモノ級までに成長している。いや、むしろ後者の方のスピードが早過ぎて、精神面に変調すらきたしている程だ。

 ラーガイの記憶で、何らかの要素が彼に爆発的成長を促す事になった。それは、スミスが想像する限りでも困難な部類の激戦であり、苦戦であり、精神的にも追い詰められる苦行だったのだろう。それが何なのかは分からないし、探ろうともスミスは思わないが、確かな変化の理由があったのは間違いない。

 

「そっか。クーも最初から強い訳じゃなかったんだ」

 

「どんな捕食者でも、生まれたての頃は弱々しいものさ。そして、捕食者を恐れる者は、そうした弱い内に間引いてしまおうとする。実に正しい選択だが、最悪の間違いでもある。幼い内に経験を積ませて『糧』を与えてしまえば、生き抜いた個体はより強力な存在になるからね」

 

「おじさんの話って難しくて分からないよ」

 

「理解してもらわなくて結構さ。『おじさん』と呼ばれるようになった男はね、若くて可愛い女の子とお喋り出来ていれば、それだけで前髪の後退を数日分くらいは遅れさせることができる」

 

「たった数日分なの!?」

 

 律儀にジョークに乗ってきてくれる少女に、これはこれで面白い素材だ、とスミスはクゥリ、シノン、と続いた3番目の興味深い若人をどう弄り倒したものだろうか、とストレス発散を込めて思考を巡らす。

 

「私の話はこれくらいにして、キミとクゥリくんの関係について聞きたいものだな」

 

「ボクの? ボクとクーは、殺し合い直前くらいまで戦って、少しだけ仲良くなって、一緒の目標を持っている。そういう関係だよ」

 

 全く意味が分からない。あっさりと即答した少女は、片手剣を抜くとまるで熱望するように、仮想敵を斬りつけるように剣を振るう。

 

「ボクとクーは、どちらが先に【黒の剣士】を倒せるかを競い合ってるんだ。ボクは【黒の剣士】を倒して、仮想世界最強である彼を超える。クーは……何か理由があるみたいだね」

 

 それは純粋な渇望と目的だろう。そうなると、【黒の剣士】本人と推測されているUNKNOWNこそが彼女の狙いなのだろう。だとするならば、このシャルルの森に彼がいる以上、遭遇した時には問答無用で殺し合いを始めるつもりなのだろうか?

 さすがに、この広いジャングルでUNKNOWNと正面から出会うなど、それこそ中心部の迷宮以外にありえないだろう。ならば、あまり心配する事ではないが、少し真意を確かめておきたい。スミスはもう少し切り込んだ質問をするか、と言葉を探す。

 

「それにしては、キミはクゥリくんの為にシャルルの森に来たような口振りだったが、それは単なる同じ目的を共有する同士として感情なのかな? それとも友情かい?」

 

 場合によってはクゥリ君に丸投げする。スミスはそれすらも視野に入れていた。UNKNOWNと少女が殺し合うのは結構だが、それはスミスの見ていない場所、被害が及ばない場所で願いたい。南の洋館で発見した日記、その内容を確認したスミスは、現在同時進行している幾つかの危機的状況も考慮しなければならない立場だ。グローリー1人でも手一杯なのに、これ以上の負荷は耐えがたい。独立傭兵の利点は単独で身軽だというのに、今回の依頼は余りにも足枷手枷が多過ぎだった。

 

「……クーは強い『人』だよ。だけど、いつだってボロボロで、独りよがりで、それでも自分だけで何とかしちゃうから」

 

 剣を収めた少女は、まるで星でも望むように天上を見上げる。夕暮れの先にある夜の闇がゆっくりと覆い始めている。木の葉の隙間から望めるそれらに、誰を重ねているのかは言わずとも分かる事だった。

 くるりと振り返った少女は悲しげに、だが、確かな温かみがある微笑みを描く。

 

「ボクは約束したんだ。クーにとって、きっと1番大事な物を……預からせてもらっているんだ。だからね、ボクくらいは良いかなって思うんだ」

 

「……何を、だい?」

 

 魅入られる、とはこういう事を言うのだろう。スミスは弾詰めを終えたライフルに視線を下ろそうとするも、少女から目を離せなかった。

 

 

 

「クーは泣きたくても泣けない人だから、本当に辛い時に『泣いて良いよ』って言ってあげられる人が……そんな物好きが1人いても良いかなって、思うんだ」

 

 

 

 途端に、パチパチと拍手が響き、スミスは我に返る。

 

「素晴らしい! 素晴らしいですよ!」

 

 それは誰であろう、望むままにポーズを取っていたグローリーだ。彼は感激したとばかりに大粒の涙をその両目から垂れ流し、鎧の金属音をこれでもかと響かせながらダッシュして少女の両肩をつかむ。

 

「ひゃ!?」

 

 これにはさすがの少女もビクリと肩を跳ねさせて驚いたようだが、グローリーは止まらない。あっという間に少女の肩に手を回し、拳を握る。

 

「ずっと聞いていれば、何たるラブロマンス! 私は誤解していました! そう、誰もが愛という演目に踊らされているのは分かっていたのに! 良いでしょう! 他人の恋道を守り、そして導くのは騎士の役目! お嬢さん、このグローリーにお任せを! キミの恋心を見事に成就させてみせよう!」

 

 だからキミは傭兵だろうに! ガチャガチャと盛大に響いた金属音に、スミスは慌てて周囲を警戒する。この辺りは南の館からも比較的近い場所にある【結晶街】と呼ばれる採掘施設があった場所なのだ。南の館で集めた情報によれば蜘蛛が大量生息しているらしく、聖剣騎士団からの情報も合わせれば間違いなく封じられたソウル持ちのネームドの住み家だろう。

 そうともなれば、モンスターの索敵も厳しいはず。なのに、この男は静かにポージングを取っていれば良い物も、大声と金属音のコラボレーションである。

 

「ちょ、ちょっと待って。誰が誰に恋してる、の?」

 

 何を言ってるのか分からないと言いたげにグローリーの手を剥ぎ取ろうとするが、圧倒的STR差を覆せないのだろう。がっしりと彼女の肩をつかんだ彼の手は離れない。

 そして、少女の発言にキョトンとしたグローリーだが、すぐに察したのか、悪意0パーセント、善意300パーセント比率の笑顔を向ける。

 

「なるほど。キミは初心ガールだったとは! これは、騎士として尚更見捨てることはできない! ましてや、相手は悪名高い【渡り鳥】ともなれば、その道は険しい!」

 

「だから、何を言ってるの!?」

 

「何って……キミが【渡り鳥】に恋しちゃっている、という件だよ」

 

 たっぷり60秒、ようやくグローリーの腕から脱出した少女はポカンと口を開け、硬直する。

 おや、これはもしかして? スミスは今とんでもない爆弾のスイッチを、またしてもグローリーがタップダンスを踊りながら押し込んでしまったのではないのだろうか、と内心で楽しげに笑いを零す。

 仮想世界の過度な感情表現を抜きにしても、少女の首から徐々に肌が赤くなっていき、そして顔面が真っ赤になって湯気が溢れだす。そして、その両手と頭を同時に振って、グローリーの言葉を否定しようとする!

 

「あ、あああああ、あり得ないよ! ボクがクーにこ、こここここここ、恋ぃ!? 違う! 違うよ! ボクとクーは友達! 同じ目的を共有する同士! 勝手に勘違いしたら、クーが迷惑するから止めてよね!」

 

「語るに落ちるとはまさにこの事! キミは! 今まさに! 自分は『迷惑ではない』と宣言したわけだね!」

 

「ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼ、ボクは、ボクはぁああああああ! そ、そうだ! そもそもボクとクーは付き合いが短いし、恋心を抱こうにも時間が――」

 

「愚か!」

 

 だが、少女の必死な抵抗を、グローリーは無駄にポーズを決めて黙らせる。スミスは、この夕闇が訪れつつあるジャングルで、何故かグローリーにだけスポットライトから眩い光が降り注がられている様を幻視する。

 

「偉大なる哲学者アリストテレスはこう言いました!」

 

 ぐっと拳を握り、まるで昇○拳のポーズを取るような姿になったグローリーは、目を見開くと同時にジャングル全体に伝播すると思うほどの大声をあげるべく、口を開く。

 

 

 

 

 

「『恋とは運命ラブハーツ! ほら、アインシュタインも言ってたじゃん! 恋は出会った瞬間に相対性理論でブッチギリで進んでいくって! だから、ハートを信じなよ、ベイビー♪』」

 

 

 

 

 

 絶対にアリストテレスはそんな事を言わない。そもそも、後世のアインシュタインの事や相対性理論について、いかに人類最高峰の哲学者が知識として保有しているわけがない。スミスはグローリーに銃口を向けてトリガーを引く1秒前で、何とか堪えて、内心ツッコミで済ませた。

 

「こ、恋……ボクが、クーに? で、でも、出会いは最悪だよ? ボクからデュエルを吹っかけて、危うく殺し合いになりそうになって――」

 

「良いじゃないか。殺し合いから始まる殺し愛もある。愛の形は9999億通りあるってピカソも言ってたさ」

 

「そ、そうなの……かなぁ。これ、恋……だったんだ」

 

 馬鹿&馬鹿&馬鹿のグローリーであるが、それ故に真っ直ぐな感情から吐き出される言葉は心に響かせる力があるというものだ。スミスはそう無理矢理納得する事にした。本当に傭兵ではなく、何処かのギルドでリーダーでもしていた方が輝かせそうな男である。

 少女は胸に手をやり、恥ずかしそうに、だが嬉しそうに、はにかんだ。

 

 

 

「この気持ちが恋だったら良いなぁ」

 

 

 

 何にしても功績はあったか。スミスは、後でグローリーにピカソに謝罪させるとして、このほんわかした空気も終わりだと悟る。

 

「さて、お喋りはそこまでだ。何処かの誰かが大声をあげたお陰で、モンスターが寄ってきたようだからね」

 

 茂みの向こうから迫る凶悪な何か。その空気を感じ取ったのだろう、少女も即場に臨戦態勢に入る。グローリーだけが展開についていけずに『?』を躍らせている。

 暗闇に呑まれつつある茂みから現れたのは、リザードマンを彷彿させる結晶に覆われた白い怪物だ。痩身ではあるが、人間よりも一回り大きく、また見た事も無い姿をしたタイプのモンスターだ。

 それが3体。だが、それ以上にスミスの胃を破壊したのは、彼らが追っているだろう、茂みから飛び出した2人組だ。

 1人はシノン。左目を潰され、右足の脛は半ばから抉り取られ、赤黒い光を撒き散らす満身創痍。

 もう1人は黒衣のUNKNOWN。彼もまた、左腕をだらんとたれ下げ、腹部に結晶を突き刺し、シノンに肩を貸しながら、命からがらといった状態だ。

 

「やれやれ。本当に……今回の依頼は上手くいかないものだな!」

 

 私はいつから苦労人キャラになったのだ!? 叫びたいのを堪えながら、何はともあれ、スミスは3体の不気味な怪物を迎え撃つ。




主人公(黒)に追加で、自分をぶち殺そうと狙ってる系ヒロイン(フラグを立てられないよ。残念でした)との遭遇が確定しました。

それでは、162話でまた会いましょう。

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