SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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……地獄を見てきました(訳:体調が急降下で死を見た)

平日は更新に関してしばらく冬の天気並みに荒れそうです。定期更新は難しいかもしれません。
何にしても、炬燵を出さないといけませんね。ぬくぬくした状況で無ければ、指が凍って書けなくなりますから。


Episode16-4 精錬施設地下

 しとしと、と。

 しとしと、と。

 しとしと、と。

 雨が降る。世界を濡らし、心を濡らし、魂を濡らす雨が降る。

 窓の外では大雨が降り、空港の待合室でオレは足を組み、次々と飛び立っていく飛行機を見つめる。雷鳴が響く暗雲へと飛び立つ飛行機が無事に目的地に着くかは心配になるが、今はオレの乗るべき飛行機がいつ来るかだけが気がかりだ。

 三毛猫の客室乗務員たちが赤のスカーフを巻き、楽しげに語らいながら視界の隅を通り過ぎる。ようやく自分の乗る飛行機が来たらしい、隣に腰かけていた鷹の紳士が新聞紙を畳んで立ち去った。彼は暇そうなオレを気遣ってか、新聞をその場に残していった。

 暇潰しにはなるだろうと新聞を取ろうとしたオレの手を邪魔するように、横から伸びた別の白い手からそれを奪い取る。

 

「人は時として破滅の道を選ぶ」

 

 赤く染まった映画館のスクリーンを目にしながら、オレは頬杖をついて、剣士が亡者に成す術なく喰われていくシーンを見届ける。キャラメル味のポップコーンを手に取り、コーラを音を立てて飲む。

 いつの間にか隣にいたのは、猛々しい赤の髪の女だ。彼女は優雅に足を組み、リモコンを操作して番組を切り替える。すると舞台にタップダンスを踊るマネキンたちが現れたかと思えば、ラインダンスを始める。顔の造形はあっても目も口もないマネキンたちはガラスが砕けるような声で歌い、互いを傷つけあう。

 

「猜疑心、あるいは過剰な恐怖、器量を超えた欲望、理由は様々だが、人は自らの選択によって破滅を選ぶ事が多々ある。それは生物の偶発的な破滅への選択とは異なる、自発的かつ能動的な自壊」

 

「難しい事は分からねーな。人間は矛盾している生物なんて馬鹿でも知ってる理屈。それで良いだろう?」

 

「お前の話をしているんだよ。獣は何処まで行っても獣。人にはなれない。人の皮を被っても、中身を知る者達は恐怖心と正義心で正体を暴こうとする。そうして、人に化けようとした獣は白日の下に露呈し、愚かな民衆は醜く汚らわしい姿を目にする。そうして行きつくのは破滅の選択だ」

 

「…………」

 

 霧雨が大気を白に染め、小舟が静かな水面の上を滑る。カエルの舟人が漕ぐたびに波紋が生まれ、それは銀の息吹となって霧雨を亘る燕となって朝日が昇る直前の様な冷たく澄んだ空気へと溶けていく。

 

「この舟は何処に行き着くと思う?」

 

「三途の河原じゃないか?」

 

「お前にとっての楽園だ。際限ない殺し合いの世界。怒りをぶつけあい、終わる事の無い連鎖の殺し合いの世界だ。お前は災厄をばら撒く者。恐怖を植え付けることしかできない破綻した存在。どれだけ良識と道徳に基づいた行動と選択をしても、必ず待つのは悲劇だ」

 

「シェイクスピアに良い素材があるって紹介してみるか? 新しい悲劇の題材になるかもな」

 

「くだらない寸劇すらも書いてもらえないだろうさ」

 

 女の不吉な笑い声が響き、スクリーンに幕が下りる。席を立ちあがったオレは、女に先導されるままに出口に向かい、そこに並ぶ葬列の墓所に至る。

 何十では利かない、何百という墓標。その1つ1つから呻き声が漏れ、オレへの憎しみと怒りを吐きつけている。理不尽にもたらされた死への叫びが聞こえる。

 

「話が出来て楽しかったよ。そろそろ『妹』に追い出されそうだからお暇させてもらうとしよう」

 

「そいつは残念だ。土産の1つも準備できてない」

 

「無用だ。だが、許されるならば、1つ忠告をしておこう。今まさにお前は多くの『怒り』の元凶となった。実に有意義なデータ収集となっているよ。だから、これはそのお礼でもあるから良く聞け。ストレスは毒だ。お前は自らの本質的な欲求に抗い続けて随分と鬱憤が溜まっているようだ」

 

 小舟が止まり、オレを残して下りた彼女は搭乗券を船賃代わりのようにオレに投げる。それは宙で紙飛行機となり、発着を待つ白の飛行機へとなる。

 新たな飛行機の搭乗準備が整い、待合室の人々はオレを残して去っていく。彼らの旅はここから始まり、オレは残り続ける。

 

「そうした不満は別の物で吐き出すのが1番だ。そんな面でも男だろう? 性欲くらいは満たせ、童貞」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余計なお世話だ、糞がぁああああああああああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こっちは年中無休、サービス残業で彼女募集してるんだよ、糞が!

 息荒く、オレは仮眠状態で立ったままもたれていた壁から離れ、大声を撒き散らしてグリムロック達を転倒させる。いきなり眠っていたヤツが大声で怒鳴れば誰だって肝を抜かすものだ。

 

「ク、クゥリ君? 大丈夫かい?」

 

 ズレた眼鏡を正しながら、グリムロックは恐る恐るといった調子で声をかけてくる。ギンジは怯えて丸まったアニマの前に立って、まるで今にも檻を破って襲い掛かってきそうな猛獣を見るような目をしていた。

 場所は病院の地下にある資料室。院長室から戻ったオレは極度の緊張状態にあったギンジとアニマを労わるグリムロックの要望により、3時間だけ休憩を取る事を了承し、オレ自身もまた今後に備えて仮眠を取っていた。

 

「……ちょっと嫌な夢を見てただけだ」

 

 最近は割と心地良い夢を見る事が多かったんだがな。久しぶりに悪夢……と分類できるのかどうか分からないが、寝覚めが悪い。

 どうせオレはカノジョができないオンリーロンリーの傭兵さ。モテモテばっかりの傭兵の中でお独り様さ。あのRDでさえ……あのRDでさえ……!

 

「【渡り鳥】も悪夢を見るんだな。ちょっと意外だな。なんか、意外と普通っぽくて」

 

 そして、オレが悪夢を見たお陰で、何故か好感度が上がるらしいギンジくんの仕様は本当に分からない。オレはれっきとしたホモサピエンスであり人類種だぞ? 悪夢くらいは見るさ。

 

「まぁ、悪夢と言えば悪夢って分類されるかもな。最後の最後で人様の1番デリケートな部分を抉り取っていきやがった」

 

 お陰で精神力がごっそりと奪われた気分だ。仮眠したはずなのにすっかり疲弊してしまっている。おのれ、茅場の後継者! これも貴様の策略か!?

 

「ああ、カノジョ欲しい」

 

 ぼそり、とそう呟いて、オレは思考と意識をリセットする。悪夢のせいで、すっかり気が抜けてしまったが、ここは最前線の未攻略ダンジョンだ。メインダンジョンかどうかは不明であるが、3大ギルドが率先して攻略しているという情報が無い以上は、メインからは外れている確率が大きい。

 現状ではせいぜい情報収集……晴天の花のような資源調査を命令された連中が寄りつくくらいだろう。そうなると、クラウドアースの情報の出処が怪しいがな。グリセルダさんの情報は渡しても、感染関連の情報は皆無だった。

 そもそも、感染者は街からは脱出できないのだ。だとするならば、クラウドアースはどうやってグリセルダさんの情報を持ち帰ったのだろうか? まさか昼間だけの調査だったとか? そんな都合の良い話があるか。ならば、感染関連は把握していて、たまたま感染せずに脱出できたのがグリセルダさんとの接触者? 余りにも出来過ぎているような気もする。

 余計な思考のせいで、余計な謎を発見してしまった。どうせクラウドアースの事だから、何か裏で謀略を働かせていると見るべきだろう。太陽の狩猟団とは違う路線であのギルドは真っ黒だからな。

 

「カノジョ欲しいって……傭兵は皆モテモテなんでしょ? まさか、噂通り本当に紹介欄に彼女募集中って記載してるの?」

 

 だが、折角スイッチを切り替えたと言うのに、調子を取り戻したらしいアニマは、ふわふわウェーブの髪を指で弄りながらそんな事を口にしてオレを見る。その所作は精神を保つ為にも見えるが、敢えて指摘してもしょうがないだろうし、それで心の均衡が保てるならばわざわざ口にすべき事でもない。

 

「だったら何だよ?」

 

 こっちからすれば死活問題だ。紹介文に大文字太字でデカデカと広告しておけば、稀有なお嬢さんがオレの魅力に気づいてくれるかもしれない。そうすれば、後は本能が敏感にそのお嬢さんを察知して、オレが猛烈にアタックをかけて初カノジョをハンティングするという計画である。あ、もちろん、オレは告白される側でももちろんOKだ。してくれれば、誰であろうと即了承でお付き合い開始。もちろん、最初は手をつなぐところからの清いお付き合いだ。

 いきなりキスとかベットインとか邪道でございますわよ、奥様。やはり心と心をゆっくりと擦り合わせていく! これこそがオレの望む男女関係のあるべき発展なのだ!

 ……と、まぁ、以上を要約して3人に聞かせたのだが、何故か彼らは一様に視線をオレから逸らした。

 

「【渡り鳥】が、こんなキャラだったなんて。確かに女装癖の変態とか色々とおかしい噂もあったけど、もっとクールな人だと思ってたのに」

 

「ギンジ、ツッコミどころはそこじゃないよ。【渡り鳥】が現代日本でも天然記念物級に純情を素と地でやっている点こそが最もおかしい不条理だよ」

 

「クゥリ君、気づいてあげよう。気づいてあげようよ。今の発言を聞いたら『彼女』、きっと泣いちゃうよ? キミは鈍感キャラじゃないだろう!? 異常なまでに直感が鋭い、人間としておかしい部類だろう!?」

 

 何故かグリムロックには最後には掴みかかられたので思わず背負い投げして黙らせておく事にした。

 

「無駄なお喋りはこれくらいにするぞ。今から採掘場を目指して、そこから地下下水道に侵入する。地図にもある通り、地下には感染に関する研究所もあるはずだ。そこならより正確な情報も得られるはずだ」

 

 アニマが発見した医療書に付随していた地図を手に、オレは彼らに今後の方針を伝える。

 

「ギンジ、アニマ。オマエらの感染率は? 正確に言え」

 

「俺は36.39だよ」

 

「わ、私は……47.55」

 

 アニマの方が少し高いな。つまり、時間が無いのはアニマの方だが、何が2人の差異になったのか、それを把握しておく必要がある。

 それから幾つかの質問をギンジとアニマに重ね、オレは感染に関する新たな推測を纏める事に成功した。

 まず、2人が感染したのは最初に述べたように野犬に噛まれた事だ。どの程度のダメージで感染するのかは分からないが、ゾンビを含めた感染体からの攻撃を受ける事によって感染状態になると見て間違いないだろう。

 次に、感染体に新たにダメージを貰うことによっても感染率は上昇する。つまり、攻撃を受ければ受ける程に感染率は飛躍的に上昇していく。ダメージ量と感染率上昇量の因果関係は不明だが、ギンジの感覚から言えば、ダメージ量がそのまま感染率と直結しているとは思えないとの事だ。つまり、たとえ低ダメージでも感染率を大幅に引き上げる攻撃を持つモンスターの出現も必然として予想できる。

 最後に、時間経過によっても少しずつではあるが、感染率は高まっているようだ。アニマが言うには、1時間につき約1パーセント程上昇するとの事である。これは正直なところ、予想こそしていたが、かなり痛手の情報だ。ナグナの良薬がどれ程の効果があるのかは分からないが、素材が片方……しかも1つしか発見できていない状態では、回復手段として脆弱だ。しかもオレの≪薬品調合≫はそれなりの熟練度とはいえ、ナグナの良薬のレシピはかなりの高難度である。調合道具も無い状態では、そもそも成功率自体が決して高い部類ではない。

 単純に考えて、アニマのリミットに合わせれば52時間……3日も無いのだ。それまでに、最低でも2つのナグナの良薬を確保しなければ、彼らの延命すらも難しいだろう。オレの見立てでは、このダンジョンのほぼ攻略直前、あるいは攻略後にナグナの万能薬が入手できるはずだ。それまでに幾つのナグナの良薬を確保できるかが鍵になるだろう。そうなると、尚更に2人の仲間にはくたばっていてもらいたい。物資が足りなくなる。

 何にしても、黒色マンドレイクはあるのだ。1つでも良薬を確保する為にも、ナグナの月光草も探すとするか。

 

「だけど、採掘場を目指すにしても、移動手段はどうするんだい? またクゥリ君が囮になるにしても、今度は距離があり過ぎる。それこそ昼間まで待った方が安全性も効率も良いくらいだ」

 

 グリムロックの指摘は尤もだ。オレもそこは悩みの種だと思っている。さすがに、またオレが囮になるにしてもアイテムの消費が激し過ぎる。ゾンビは動きも鈍いし、攻撃も単調だから閉所でもない限り、大多数を相手取るのは難しい事ではない。せいぜい兵士ゾンビの射撃攻撃を警戒すれば良いくらいだ。だが、4人で突っ切るには、どうしても数が壁として立ちはだかる。

 

「だったら、救急車を使えば良いんじゃないかな? ほら、ここ病院だし、終末の時代だからあってもおかしくないだろう?」

 

 そこで助け舟を出してくれたのはギンジだ。彼の意見は一考の価値がある。いつまでも悩んで資料室に籠っているわけにもいかず、オレ達は病院の地図がある受付にまで赴き、駐車場の位置を確認すると死体ばかりが転がる廊下を進み、病院の裏側へと向かう。

 相変わらずゾンビがうろついているが、駐車場にいるのはせいぜいが3体だ。あの程度ならば敵の内にも入らない。救急車も無傷とはいかないが、戦争の被害からはそれなりに免れているらしく、運命の女神の出目も期待できるだろう。

 

「≪騎乗≫を持ってるのは?」

 

「私が持ってるけど……」

 

「グリムロック、アニマのサポートをしろ。場合によっては運転手交代だ。ギンジは弓矢を装備して車内待機だ。張り付かれたら目玉をぶち抜け。そうすればスタンさせることができる。あとは蹴落とすなり何なりしろ」

 

「クゥリ君はどうするんだい?」

 

「オレは屋根の上で迎撃だ」

 

 グリムロックの質問に、オレは端的に答える。先程から空を飛び回る影……7つのカメラアイを動かす、2メートルの蜂のようなロボット。腹部には銃身が備えられており、対地攻撃がなかなかに厳しそうな相手である。

 ゾンビは轢き殺せても、空から降り注ぐ銃弾は誰かが『傘』にならなければならない。その役目はオレが担うとしよう。

 グリムロックにマシンガンを預け、より射程があるアサルトライフルに切り替える。これで蜂型の迎撃は何とかなる……と信じたいところだが、情報が足りないか。

 右手にアサルトライフル、左手に灰被りの大剣を構え、3人が乗り込んだ救急車の屋根で陣取ったオレは、勢いよくアクセルが踏まれて飛び出した救急車から危うく振り落とされそうになる。

 

「危ねーな! だが、思い切りが良い!」

 

 常識的な運転よりも非常識な爆走くらいが丁度良い。闇夜のメインストリートへと救急車が躍り出て、ゾンビたちが一斉に反応する。兵士型はアサルトライフルを構えて射撃体勢を取るも、アニマはなかなかの運転っぷりで蛇行し、銃撃を躱しながら、ゾンビを轢き殺して街の奥地……採掘場に向けて進行する。

 さて、鬼さんこちら……ってか? 派手に鳴るサイレンを両手剣で破砕して黙らせ、オレは迫りくる6体の蜂型を睨む。7つのカメラアイは回転し、焦点を合わせ、救急車を捉えている。システム的に言えば、フォーカスロックされたか。

 蜂型は飛行する為の6枚羽を動かし、安定姿勢を取ると腹部に取りつけられた銃身を傾け、発射する。それはオレが迎撃するまでもなく、救急車の背後に着弾して命中しなかったのだが、引き起こされた爆風は車体を数十度起き上がらせる。

 車内からアニマとギンジの悲鳴が聞こえる。アニマが衝撃でハンドルを切り過ぎたのか、あわや転倒しそうになるも、グリムロックが即座にカバーに入ったのだろう、車体は姿勢を正す事に成功する。まぁ、オレの方は危うく転落しそうだったがな。両手剣はいざという時に盾として使うつもりだったが、こうなったらアンカーとして役立ってもらうとするか。

 

「グレネードか。殺しにかかってやがるな」

 

 空を支配するグレネード装備とか反則も良いところだろうに! いや、戦術的には対地攻撃としても大正解だろうけどさ!

 だが、怪我の功名と言うべきか、下手に迎撃が難しい連射攻撃よりもグレネード弾の方が対処もし易い。灰被りの大剣を屋根に突き刺しアンカーにして荒々しい運転の中で振り落とされない為の楔にすると、オレは右手に持つアサルトライフルに全意識を集中させる。

 有効視界距離は隻眼のせいで狭いが、それでも満月のお陰で蜂型との距離が10メートル以上離れていても視認に問題は無い。いざとなれば『試作』を使う。オレはフリーの右手にプラズマ手榴弾を持つ。

 続く3体の蜂型から放たれたグレネード弾。その銃口が煌めくと同時にオレは救急車の直撃コースの壁にする形で、プラズマ手榴弾を投げ、その爆風でグレネードを迎撃する。3発分のグレネードの熱風とプラズマの光が混じり合い、その爆風が車体を揺らすも、直撃は免れた。だが、左右に分かれた蜂型が救急車と並走し、その銃身をこちらへと向けている。

 まずは右側の蜂型の銃口へとアサルトライフルを撃ち込む。それは発射直後のグレネード弾に直撃し、大爆発を起こして蜂型を墜落させる。左側のもう1機へはコートから抜いたレーザーナイフを投擲し、そのカメラアイの1つ潰し、そのまま頭部を貫いて一瞬硬直した隙に、銃弾を浴びせ、6枚羽を破損させて飛行能力を減衰させ、速度が落ちたところに更に銃撃を浴びせて撃破する。

 耐久度は低い。あくまでグレネードによる1発狙いのタイプ。残りは4機。右への急カーブに、ヤツメ様が慌ててオレの右手を引っ張ってアンカーの役目を持つ両手剣の柄を握らせる。

 さすがはアサルトライフルだ。連射性能はマシンガン程ではないが、ライフルを上回り、なおかつ命中精度も決して悪くない。難点はこの中途半端とも思える性能にあるが、正しく運用すれば≪銃器≫でも幅広い対応ができる近・中距離向けだ。マシンガン程に癖は無いが、コイツは嵌ればかなり強い。単体では無能なんてレッテルが張られている可哀想なジャンルであるが、やっぱり自分で使ってみないと分からない事も多いな。

 執拗に追う4体の蜂型が同時にグレネードを撃ち込むも、タイミングを合わせたプラズマ手榴弾で迎撃し、その爆風が失せると同時に狙っていた1機にアサルトライフルを浴びせる。飛び上がって喰らいつく弾丸から逃れる。

 やはりスミスのようにはいかないな。まるで使いこなせていない。この辺りは鍛錬あるのみか。オレは1発1発丁寧に当てていくスタイルではなく、マシンガンやアサルトライフルといった連射性能重視の≪銃器≫を中心に使用していく予定であるから、継続的にではなく、いかに瞬間的にダメージを与えられるかが課題となる。まぁ、今後どのような新しい銃と巡り合うかも分からないから一概に言えないがな。

 

「良い夜だ。悪くない」

 

 炎と死臭。その2つが混ざり合った夜の空気に心が落ち着く。やはり戦場は良い。

 間もなく採掘場だ。蜂型をそれまでに始末する。ゾンビが撥ね飛ばされ、その体液が道路に広がっていくのを目にしながら、オレは右手の指にレーザーナイフを3本挟み込み、アサルトライフルの射撃から逃れる蜂型へと殺到させて撃墜する。続いて2機がテンポをズラしてグレネード弾を撃ち込むも、オレはアサルトライフルで弾幕を張り、迎撃して熱風だけを救急車に届かせる。

 グレネード弾の威力が高過ぎて、爆発範囲が広いお陰で弾幕を張れば誘爆も意外と簡単だ。タイミングと射撃タイミングさえつかめば、撃墜も容易い。ギンジが後部ドアをけ破り、援護で矢を放ち、その1本が蜂型の首を貫く。その隙にオレは銃撃を浴びせ、これも撃墜する。

 残り1機。そう思った時、蜂型が転身し、追撃を諦める。何事かと思えば、どうやら採掘場についたらしく、急ブレーキで振り飛ばされると同時にアンカーの両手剣を引き抜き、くるりと宙で1回転して体勢を立て直して、慣性を殺すように地面を滑り、採掘場で蠢いていたゾンビたちへと銃弾を浴びせて牽制する。

 

「索敵範囲外か。この辺りは『命』無いからこそ、だな」

 

 オペレーションに従う以上、範囲外に出たプレイヤーを攻撃するというロジックは存在しない。救急車からフラ付きながら出てきたグリムロック達は今にも吐きそうな顔をしていたが、労わる時間的余裕はない。

 採掘場にあるのは、巨大な精製施設と保管庫、それに事業施設だ。地図によれば地下下水道入口は精製施設にあるようだが、医療書自体がかなり古かった事を考えると現行品ではなく旧型の精製施設を探すべきか。

 いや、違うな。そもそも鉱毒の浄化を目的としているのだから、精製施設には等しく設置されていると見るべきだろう。仮に地図通りでなくとも、現在の出入口が存在する確率は高い。

 あれだけ轢き殺したというのに、メインストリートからのろのろとゾンビ型が採掘場に流れ込んできている。どうやら連中の索敵範囲は蜂型以上のようだ。ギンジが後方で弓矢で追いかけるゾンビを牽制し、オレは進路を邪魔するゾンビを斬り払って精製施設へと駆け込む。

 巨大な炉には既に火が点いておらず、冷え切った施設内は鉄と炎の街というネーミングに相応しくない。オレはアサルトライフルのリロードをしつつ、疲れた表情をした3人を無視して扉を封じるべく、鉄材をつかんでは放り投げていく。

 

「これで少しは時間を稼げるだろ」

 

 さすがに窓を破ってまで入って来る気配はないか。巨大な炉と繋がる複数のパイプ、幾つもの貯水槽、そして血と肉片。鼻を鳴らし、オレはエレベーターの点滅を繰り返す照明を睨む。まだ電力が活きているという事は、あのエレベーターが地下下水道への入口と見て良いだろう。

 だが、それよりも先に首筋を悪寒が走り、オレは高い天井、その頭上へと無造作に銃口を向け、落下してくる影へと銃弾を浴びせる。着弾して体液を撒き散らしたそれは、金属のイボを全身から生んだ、黄色の濁った複眼を取りつけたカエルのような何かだ。だが、造形としては人間に近い。……あまり深く考えるべきではないか。

 びちゃびちゃとイボから粘液を撒き散らし、カエルもどきは口内の舌を伸ばしてへばっていたグリムロックを捕らえようとする。オレはそれを打剣で弾いて止め、アサルトライフルを撃ち込んでダメージを稼ぎ、そのまま接近して頭蓋を砕く勢いで打剣を叩き付ける。

 だが、ブヨブヨとした見た目通り、打撃属性の通りが悪いらしく、打剣は効果的ではない。即座にオレは切っ先による突きに切り替え、カエルもどきの頭部を串刺しにして拘束してから、至近距離でアサルトライフルを撃つ。

 経験値がゾンビに比べれば少し高いくらいか。やはり雑魚の部類だ。外見だけだったな。あるいは、これから地下下水道に『何が』蔓延っているのかを教える、茅場の後継者なりのサービスか。

 灰被りの大剣を再装備する事で回収し、資材用だろう巨大なエレベーターへと乗り込み、遅れた3人を待つ。

 

「死にそう」

 

 ぼそりとアニマが泣きだしそうな顔でそう呟くが、この程度で精神が磨り潰されていてはこの先が思いやられるな。地下へと緩やかに降りていくエレベーターの扉が開くと、そこには灰色の廊下があり、点滅を繰り返す照明と資材置き場らしい、広々とした空間、そして地下下水道施設に繋がるだろう、大き目の扉がある。

 この広さ……少し疑っておくか。灰被りの大剣を左手に、アサルトライフルを右手に、オレはグリムロック達をエレベーターの傍に残し、資材置き場の中心部へと敢えて不用心に進んでいく。

 コンテナの陰から現れたのは、巨人だ。その頭部、顔というべき場所に目や口といったパーツは無く、ただ空洞のようなくぼみだけがある紫色の肌をした姿。体格は4メートルほどであり、ザラザラとした岩の様な肌をしている。その身には防御力を高める為だろうプロテクターが取り付けられており、右手には大型の銃器、左手には折れ曲がった鉄骨を握っている。

 あれが巨人の強化兵か。いきなりお出ましとは驚きだ。高い再生能力を持っているらしいが、情報が正しいならば右の心臓を潰せば撃破できるはずだ。

 巨人が唸り声を上げる。それと同時に、オレの背後、グリムロック達と分断するように、天井に潜んでいただろう、ステルス迷彩装備らしい、巨人強化兵が衝撃で透明だった姿にノイズを走らせながら登場する。こちらは右手にガトリングガン、左手に大型チェーンソーを装備している。

 

「クゥリ君!」

 

「引っ込んでろ。2体相手にするくらい慣れっこだ」

 

 グリムロックの叫びに、オレは淡々と返答する。今更になって2対1程度で心が折れるとでも? まぁ、正直辛い事には変わりないが、いつも通りなので何ら問題ではない。

 だが、今までの雑魚とは違う。ここからが本番というわけか。巨人強化兵が雄叫びを上げ、挟み撃ちにする形でオレへと銃口を向けた。まるで怪物の咆哮のような駆動音を響かせ、ガトリングガンから弾丸が吐き出される。もう1体の鉄骨装備の強化巨人兵の銃口からは青の光が溢れだしているところを見るにレーザーキャノンの類か。

 ガトリングガンを浴びたコンテナはスクラップになる。回避しなければ、オレの脆弱な物理防御力ではあっという間にHPもアバターも挽肉にされてしまっていただろう。

 チャージを終えたレーザーキャノンから太い青の光が解き放たれる。咄嗟に屈んでそれを躱すも、着弾点の壁から放出された青の爆風がオレのHPを1割近く削り取る。そのまま第2射に移ろうとする強化巨人兵に肉薄しようにも、ガトリングガンを撃ち続けるもう1体をなんとかしなければ接近すら難しい。

 アサルトライフルで牽制するも、着弾してもガトリングガン装備はまるで怯まずに撃ち続けている。HPもまともに減った様子も無い。どうやら物理防御力の高さも相当なものらしい。いや、それだけではなく、アサルトライフルで与えたダメージは微量ではあるが、回復されている。オートヒーリングも所持しているようだ。

 非ネームドでこれか。さすがは最前線だ。これくらいに情け容赦ないくらいでなければ、逆に気持ち悪いというものである。ガトリングガンでばら撒かれる弾丸を両手剣で弾きながら、オレはもう1体の強化巨人兵のレーザーキャノンのチャージが終わると同時に、ガトリングガン持ちを射線で巻き込む形の位置を陣取る。

 だが、レーザーキャノンは放たれず、待機状態で強化巨人兵はオレを狙い続けている。同士討ちをするようなオペレーションは組まれていないらしい。上手く巻き込まれたならば儲けだったんだがな。だが、射線上に味方がいれば撃ってこないならば、レーザーキャノン以外の射撃装備を持っていないヤツの射撃攻撃は封じた事になる。

 先にガトリングガン装備を潰す。ようやく間合いを潰し、接近戦の距離まで接敵に成功し、ガトリングガン装備の胸へとオレは両手剣を振るう。物理属性防御力が高いといっても両手剣級ともなればダメージはそれなりだ。左手の大型チェーンソーで迎撃する強化巨人兵は、回転する刃を唸らせる。

 受け流す事も、ガードする事も許されないだろう、チェーンソーによる一閃は火花を散らして床を削り取るに留まり、オレの肉には届かない。途端に、オレの体を覆い尽くす影が現れる。

 チャージ完了の状態で待機していたもう1体の強化巨人兵、それが巨体に見合わぬ俊足で突進し、左手の折れ曲がった鉄骨を振り上げていた。

 轟音と共に振り下ろされた鉄骨を反転しながらのステップで回避し、そのまま鉄骨の上に着地し、追撃のチェーンソーをふわりと浮かぶように、背中を反らした、宙を舞う後転で躱しながら鉄骨持ちの肩を越す。その過程で両手剣で深く薙いで鉄骨持ちの背後に着地する。

 振り返りながらチャージしたレーザーキャノンで狙う鉄骨持ちに、オレは両手剣を捨てて新たに抜いた打剣のギミックを発動させ、レーザーキャノンを絡め取り、STR出力を高めて強引に引っ張って射線をズラし、直撃コースから外させる。即座にギミック解除で元に戻し、床を蹴って跳んで滞空したもう1体のガトリングガンの連射を連続バック転で避け、ひとまず原型を残しているコンテナの陰に隠れる。

 この戦いでアサルトライフルは役に立たん。高耐久、高スタン耐性、オマケに怯み辛い相手では牽制にもならない。レーザーナイフを指で挟みこみ、スクラップにされたコンテナの陰から飛び出し、着地してレーザーキャノンのチャージ中の仲間を守るように立ち塞がるガトリングガン持ちの頭部へと投擲する。3本のレーザーナイフは頭部の空洞に吸い込まれ、深く突き刺さるも、やはり怯みもしない。

 ガトリングガンの1発が肩を抉る。途端に生まれる痛みの熱に歯を食いしばる。足を止めるな! 止まれば死ぬ! たとえ、どれだけの痛みが津波のように押し寄せようとも、そこに縛られれば死ぬ!

 ラビットダッシュを発動させ、間合いを再度詰めたオレは加速量を維持したまま着地の踏み込みと同時にチェーンソーでカウンターを決められるより先に穿鬼を強化巨人兵の腹に叩き込む。その破壊力は幾ら強化巨人兵でも耐えられたものではなく、背後で守っていたチャージ中の強化巨人兵ごと壁に飛ばす。

 だが、チャージ中だった強化巨人兵が踏ん張って壁に叩き付けられるのを防ぎ、ガトリングガン装備の前に出てレーザーキャノンを解放する。巨大な青の光がオレを呑み込もうとするが、ギリギリで右側へと転がる様に跳んで直撃から免れる。

 火力が足りない、か。こういう時に耐久度は低くとも、クリティカルダメージが多いカタナの有無は大きいな。打剣のギミックを解除し、どうしたものか、とオレは悩む。殺しきれない事はないだろうが、グリムロック達が隠れているコンテナも随分と破損が大きくなった。今のところは強化巨人兵のヘイトはオレに集中しているし、彼らは索敵に引っ掛かっていないようだが、それも時間の問題だ。

 せめてガトリングガン持ちだけでも早急に撃破しなければ、グリムロック達が危ない。多少の無茶をするか。

 ギアを上げる。打剣で肩を叩き、爪先で床を数度蹴り、正面からガトリングガン持ちへと突進する。左右に揺れ、ガトリングガンによる追尾を振り切りながら、徐々に加速していく。

 プラズマ手榴弾を投擲し、更に即座にレーザーナイフを放つ。プラズマ手榴弾に命中したレーザーナイフは本来よりも早く起爆させる事に成功し、プラズマ爆風がガトリングガン持ちの視界を潰す。その間に、プラズマ爆風の中に飛び込んでダメージ覚悟で接近したオレは打剣の先端をガトリングガン持ちの右胸に突き刺し、更にその柄頭を掌打で押し込み、切っ先をより深く体内まで届かせる。

 痙攣した強化巨人兵がチェーンソーを強引に振るうも、張り付くように接近したオレに回転した刃は届かない。レーザーキャノン持ちがチャージを放棄して仲間の援護に入ろうとするも、それより先に、オレは密着状態から放つ≪格闘≫のソードスキルである烈火。

 強化巨人兵の横腹にめり込む右拳、更にそこで留まらずに、更に内部まで潜り込むような追加の1発。それは強化巨人兵を完全に沈黙させるも、HPバーはゼロになっても強化巨人兵は撃破されない。

 ここだ! 鉄骨の突きが迫る直前で、オレは強化巨人兵の胸に突き刺さった打剣を蹴り上げる。それは『右』の心臓にトドメを刺し、強化巨人兵は赤黒い光となって飛び散った。

 鉄骨が肌を撫でる。削り取る。それを体を逸らし、皮膚の表面を滑らせるように直撃を免れる。ダメージは2割程度に押し留められたが、右半身をヤスリで擦られたかのような痛みが意識を明滅させる。

 一瞬だが、視界が痛みで眩んだ。その間に、強化巨人兵の右足の蹴りが近づき、オレはその股を抜けるように跳び込んで丸太の薙ぎ払いのような蹴りを避け、そのまま片足立ち状態になった強化巨人兵の体重を支える左足首につかみかかる。

 

「おぉおおおおおおおおぉおおおおお!」

 

 雄叫びと同時に、STR出力を最大限に引き上げ、重心を支える『芯』とも言うべき左足のバランスを崩す。転倒した強化巨人兵の胸に飛び乗り、レーザーナイフを両手に持って胸に突き刺し、そのまま縦に薙ぎ払い、起き上がられるより前に焼夷手榴弾を投げつけて離脱する。

 全身が火達磨になった強化巨人兵は呻きながら、チャージを終えたレーザーキャノンをオレに向ける。ジリジリと火炎ダメージでHPを減らすも、それで動きが鈍る素振りは見せない。

 オレのHPは残り4割弱。元よりレーザーキャノンの直撃を受ければフルでも即死するか否なのだから問題はない。

 踏み込む。レーザーキャノンの攻撃範囲は見切ってある。武器は無いが、格闘攻撃だけで潰せる。トドメは右の心臓にレーザーナイフだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神に歯向かう愚物に灰の裁きを与えん」

 

 

 

 

 

 

 

 だが、オレがレーザーキャノン持ちに挑むより先に、その巨体へと無数の灰色の刃が突き刺さる。

 背後を振り返れば、エレベーターがいつから動いていたのか、新たな『客』が戦場に立っていた。

 その全身を包むのは青白いコート。180センチ超の大柄な体格。右手に装備したのはアンティーク調の大型ショットガン。左手には銀の刃を持ち、首には三日月とオリーブの葉が組み込まれた宗教的なエンブレムのペンダントを下げている。

 全身を串刺しにされた強化巨人兵が、新たな乱入者に敵意を向ける。そのレーザーキャノンが狙いを定めるより先に、オレは即座に両手剣を再装備状態にし、接近するとその股から胸にかけて斬り上げる。

 HPがゼロになった強化巨人兵が鉄骨を落とし、その手を伸ばす。オレはそれを振り払い、右の胸に両手剣を突き刺し、強化巨人兵を赤黒い光に変えた。

 

「危うい所でしたな、【渡り鳥】殿」

 

 にっこり。そんな擬音が似合う笑顔で、短めの銀髪をオールバックにした男は友好的にオレに近寄ろうとする。だが、それに応える程にオレは警戒心ゼロではない。

 

「礼は言っておく。オマエは?」

 

 カーソルはプレイヤーだ。そうなると、ナグナを探索しているプレイヤーの1人だろうか? 崩壊寸前だったコンテナの陰から顔を出したギンジ達の表情を見るに、知人という訳では無さそうだが。

 

「【エドガー】と申します。【神灰教会】の神父をしておりまして、皆にはエドガー神父……などと呼ばれております」

 

 神灰教会? オレは知識を探るも、そんなものは……いや、確かDBOで勢力を拡大させつつある宗教団体か。ギルドではなく、あくまで宗教組織として3大ギルドや中小ギルドを問わずにプレイヤーの信徒を集めていると聞いた事がある。

 教義は知らんが、3大ギルドの手が回らない貧民プレイヤーの救済にも熱心らしいが、財力がお布施しかないので十分な支援を出来ていないと聞いた事がある。特に危険視もされていない。

 だが、エドガーという名前は聞いた事がある。元聖剣騎士団であり、円卓の騎士の1人でもあったが、『諸事情』によって聖剣騎士団から離籍する事になったプレイヤーである。

 その強さはトッププレイヤー級……いや、噂通りならばユージーンと『互角』か『それ以上』とされる男だ。最近は音沙汰が無かったのだが、こんなところで出くわす事になるとはな。

 

「しかし、噂以上の強さですな。私も地上でアレとは1度対峙したのですが、なかなかに手強く、何度殺しても蘇るので苦労しました。ですが、そのご様子だと弱点をご存知だったようですね」

 

 左手の銀の剣を腰に差し、ショットガンを専用ホルスターに下げたエドガーは、敵意は無いと示すように両腕を広げる。

 

「このエドガー、この地に『聖遺物』を求めて参りました。いかがですかな、【渡り鳥】殿。どうやら『お仲間』が多くて難儀しているご様子。旅は道連れと申しますし」

 

 どういう了見だろうか? 助太刀には感謝するが、悪名拡大中のオレにわざわざパーティを組む事を望むなど、正気とは思えない。申請を無造作に送られ、オレはグリムロックに視線を向ける。これは彼の旅でもある。ギンジやアニマが戦力として数えられない以上、エドガーが組んでくれるというならば安全性は増すのだが。

 

「私は構わないよ。クゥリ君の負担が減るなら……それに越したことはない」

 

 グリムロックの眼差しに、オレはギクリとした。まさか痛覚の事がバレたのだろうか? いやいや、顔には出していないし、上手く隠し通せたはずだ。

 何にしてもグリムロックが了承したならば、オレもとやかく言うべきではない。それに、ここで拒絶しても、どうせエドガーとは進路が同じのようであるならば、爆弾になる前に抱え込んでいた方が良い。

 それに聖遺物か。グランウィルの2つ名からも、どうやらナグナにはまだまだ謎が潜んでいそうだな。




いよいよ宗教もアップしました。DBOがこんなカオスな状態ならば、神に縋る人々も増えるのも当然です。
そして、宗教と言えば、もちろんコレですよね。


世に平穏のあらんことを。



それでは、190話でまた会いましょう。

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