SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

210 / 356
一夜の流れ

・ヒロインズ:『楽しく』お喋り
・主人公(黒):ボーイズと教会の御勉強
・主人公(白):難易度ジェノサイド





Episode16-25 悪夢の夜明け

 人の心はガラス細工だ。どれ程に硬く、芸術的な色彩と形状をしていても、些細な事で砕け散る。

 何があったのかを問いかけても意味が無いだろう。薄っすらとした黒い靄を体から放出している事、そして時間を求めている発言から、ノイジエルの感染率が100パーセントに到達しただろう事は容易に想像できる。そして、彼は時間を得る為に殺戮を行っている。

 ヨルコによれば、感染率100パーセントに達した時点で30分間のタイムリミットが発生する。そして、1人を殺せば6時間を得る。ならば、2人を殺して12時間だろうか? この惨状を見れば、殺した人数は1人や2人ではないだろう。そうなると、2人目以降は時間の伸びが短くなるのだろうか? それとも時間延長が貰えるのは1度だけなのだろうか。あるいは、より多くの数を殺さねば次の6時間は得られないのだろうか。さすがにヨルコも感染末期の末期まで熟知しているはずがないだろうし、また何人も殺そうとする者から話を聞くような真似もできなかったはずだ。

 ならば言える事は1つ、ノイジエルは殺し足りない。今も暴走する殺意を振りまいている。彼のターゲットは今まさに殺害したボールドウィンからオレ達へと移ろい、右手に持つ斧の刃で地面を擦りながら、円盾を構える。

 

「ノイジエルさん……アンタ、何やってるんだよ!?」

 

 迫るノイジエルに向かって深淵殺しを構えるオレとは違い、彼に憧れもあっただろうギンジが叫ぶ。

 

「聖剣騎士団は! 誇り高い円卓の騎士は! 弱き人々を守る事を大義にしているはずだろ!? どれだけ貴族気取りと馬鹿にされようとも、それを信念に戦ってきたはずだろう!? なのに、どうして戦えない人たちを殺してるんだよ!? 答えろよ!」

 

 強き者が戦場で戦い、弱き人は彼らの庇護の下で支える。それが聖剣騎士団の発足当初の信念であり、大義であり、ディアベルの掲げた理想だった。

 だが、ギルド間抗争において聖剣騎士団の理念は役にも立たなかった。そもそも、守ろうとした弱き人々すらも聖剣騎士団を利用するばかりで、彼らの理想に共感して相互協力の意思を示そうとしなかった。貧民プレイヤー達は自分達に現実世界と同じ『裕福』を分けてくれない聖剣騎士団を『貴族気取り』と罵詈しながら施しに集り、彼らの分け与えるパンの分だけギルド間抗争で聖剣騎士団が劣勢に立たされていく実状を鑑みなかった。

 そうして聖剣騎士団の誇り高い理念と思想は、内外から腐り落ちていった。誰よりも先にそれを掲げたディアベルすらも『個人』の理想に決着をつけ、聖剣騎士団という『ギルド』の為のリーダーとして戦いを始めた。もはや、ギンジが語るのは蠅と蛆ばかりが巣食う生ゴミだ。

 だが、ノイジエルはギンジの言葉が届いたかのように、足を止める。その間にオレはハンドサインで、もはや意味を成さない言葉をブツブツと並べるばかりのグリセルダさんを両腕で抱いて支えるグリムロックに退避するように指示する。

 ノイジエルは強いが正気を失っている。ギンジを戦力から省いても、オレとエドガーならば討ち取れるだろう。どう転んでもノイジエルに勝機は無い。

 だが、オレの計算を狂わすように、小さくだが、確かな悲鳴が響く。

 

「誰か助けてぇええええええ!」

 

 それはまだ生き残りがいるという地下街の住人は皆殺しにされた訳ではない証明であり、この殺戮はノイジエル単独で行われた訳ではないという危機の証拠だ。

 グリムロックは多少戦えるとはいえ戦力外。グリセルダさんは精神が限界だ。ならば、生存者の救出を確実にできる戦力は1人しかいない。

 

「エドガー、頼めるな?」

 

「……私がノイジエル殿を討ってもよろしいのですよ?」

 

「ヤツはオレが斬る。ああなった原因はオレにもある」

 

 あの時……深淵の魔物との戦いの時、ノイジエルの生存を優先して逃がした。もしも、彼の戦士としての誇りを重視し、最後の最期まで戦わせる事を良しとしたならば、少なくとも彼の戦士としての誇りは死ぬ事が無かった。

 反吐が出る。オレが彼を生かそうとした、『生きて欲しい』という糞ったれな願いが、こんな悲劇をもたらした。そのくせに、ノイジエルを探す努力を怠った。彼が堕ちてしまったのはオレの責任だ。

 悲鳴を聞き、ギンジの言葉で僅かに呆けていたノイジエルが再び動き出す。本格的な戦闘になれば、ノイジエルを相手にしながら悠長にお喋りなどできない。

 

「時間……時間ガ……あト30分しかナいんだ。くれ……わたシ、ガ、おまエたちの分も戦オう……だカら……死ネ!」

 

 ノイジエルが地面を蹴り、大斧を振り上げながら舞う。エドガーは別れ際の援護射撃とばかりに重ショットガンを撃つも、円盾と重厚な鎧に守られたノイジエルにダメージは無い。当然ながら近接アタッカーとして≪射撃減衰≫も所持しているだろうノイジエルには、距離減衰が激しいショットガンは近距離射撃以外ではほぼ効果が無いだろう。

 

「グリムロック殿、こちらに! まずはあなたとグリセルダさんを安全な場所に匿います!」

 

「分かりました! グリセルダ、走るんだ!」

 

 フラフラとしたグリセルダさんに無理を言っていると分かっていながらも、グリムロックは彼女を引き摺る様にして駆ける。それを見逃さないようにノイジエルが大斧の振り下ろしをオレに避けられ、土煙が舞う中で彼らに突進しようとする。

 させるものか。刀身に亀裂が入り、チェーンモードが使用不可状態になった深淵殺しであるが、それでも重量級両手剣として、ガチガチに鎧で固めた近接アタッカーでもダメージは通るはずである。

 

「オマエもエドガーを援護しろ!」

 

 ギンジに叫びながら、大斧と深淵殺しがぶつかり合い、火花を散らす。両手持ちと片手では幾らSTRに差があるとはいえ、拮抗には十分だ。更にオレはSTR出力を引き上げていき、深淵殺しを押し返そうとするノイジエルを逆に弾き飛ばそうとする。

 そこに飛来した矢がノイジエルの肩に命中する。鎧に弾かれて突き刺さりこそしなかったが、自分にダメージを与えた存在……ギンジに気を取られた一瞬に、オレは一気に深淵殺しを振り抜いて大斧を弾き、ノイジエルへと突きを繰り出す。それは寸前で円盾に防がれるが、そこから更に連撃を畳みかける。

 

「アンタを殺したくない。でも、アニマを害するなら……敵だ!」

 

 涙で頬を濡らしながら、ギンジはオレの連撃の合間を縫うように矢を放つ。それはノイジエルに命中し、彼の膨大なHPを削り続ける。だが、幾ら近接ファイターとしてVITが高いとはいえ、HP総量が異常過ぎるようにノイジエルのHPバーの減りが小さい。ギンジもレベルが低いとはいえ、それを補う為に射撃間隔が長い分だけ強力な一撃を撃てる弓矢をグリムロックに仕立ててもらったのだ。使っている矢もザリア戦で使用していた物から1ランク落としているとはいえ、余りにもダメージが小さい。

 オレが知らない、何か特別なトリックをノイジエルは使っているのだろうか? だが、幾らHP量が高いとはいえ、ボスのように桁外れというわけではない。ギンジの援護があれば、確実に押し切れる。ギンジがいるといないとでは、オレも攻めのリズムを変えねばならないが、援護射撃があるならば戦いも幾らか楽になる。ギンジにはできればノイジエル殺しに関わってもらいたくない本音もあるが、彼が責任を負う覚悟があるならば、それを止めるべきではないだろう。

 

「【渡り鳥】……死ヲ告げル凶鳥……私ノ邪魔をすルナ、この殺人狂がぁあああああああ!」

 

 明らかな憎しみの籠った咆哮で、オレの連撃を≪盾≫の特殊ソードスキルであるパリィで弾こうとする。それは寸前で深淵殺しを止めた事で不発で終わるも、半成功と見做されてオレの体は大きく隙を作ってしまう。そこにノイジエルが大斧を突き出すも、即座に深淵殺しの刀身でガードする。だが、続く膝蹴りが腹に突き刺さり、ぶわりと体が浮いた所に円盾に横殴りにされる。

 さすがは円卓の騎士。正気を失っても激戦を潜り抜けた実力は本物か。脳が揺れるような痛みと衝撃で意識が眩む中で、オレは床を転がる中で体勢を整える。

 

「貴様さえいなけレば! 貴様さえ貴様さえ貴様さぇえええええええ!」

 

 激昂するノイジエルは円盾でガードしながら、戦斧を振り回してオレに迫る。鬼気迫るノイジエルの連続攻撃をバックステップで躱し、敢えて壁際に追い詰められると壁を利用して三角跳びをしてノイジエルの頭上を跳び越えて背後を取りながら左手だけで深淵殺しを振るって彼の背中を薙ぐ。

 

「ぐごぉおぉおお!? この程度……この程度ぉおおおお!」

 

 切断面から赤黒い光が……いや、どす黒い光が飛び散る。まさかと思い、オレは感染率をチェックすれば、95パーセントで停止していたはずなのに、今は97.12パーセントだ。

 攻撃に感染効果が付与されてやがるのか!? いや、ダメージ判定か! 恐らく感染上昇は先程のノイジエルの攻撃を浴びてしまった時だろう。アバター本体への直接ヒットに感染効果があると見るべきだ。もはや感染率も限界のオレでは、肉を斬られて骨を断つといった強引な攻めはできない。

 

「気を付けろ! 攻撃に感染効果がある! 直撃したら爆上げ確定だと思え!」

 

 それに放出している黒い靄も少しずつ濃くなっている気がする。タイムリミットの減少と共に周辺への感染攻撃も追加されるならば、ノイジエルは生きた災害そのものだ。

 いや、そもそもノイジエルは感染率100パーセントに達しているのだ。もはや彼を救う手立てはない。ならば、たとえノイジエルというプレイヤーによって操られているアバターが残っているとしても、今ここにいるのはゾンビと同じだ。動く死体だ。

 

「貴様ガ戦争を呼ンだノだ……微睡んだ平和ヲ壊シた……汚らわシい戦争屋のカラスが! 血に飢エた殺戮者が! どれダけ綺麗に取り繕ッても私ハ騙さレンぞ、バケモノめ!」

 

 ……分かっている。ノイジエルは正気ではない。本来の彼は、誇り高く、戦士に等しく敬意を払う高潔な男だ。

 感染状態の30分。それは精神を壊す悪意の猶予だ。目前にある死に挑むのでもなく、死が確定しながらも敵を討って誉れを得られるでもなく、ただ淡々と命が削られる無機質な音が脳髄に滴り落ちる恐怖が彼の心を壊したのだろう。そして、染み込んだ恐怖が彼に『誰かを殺しても生きたい』という、とても人間らしい感情の支配の呼び水となったのだろう。

 分かっているんだ。オレへの罵りを吐き散らすのは本来のノイジエルではない。そんな『本音』を卑しくも口にするような男ではない。むしろ、そんな『本音』を恥じて我が身を戒める男だ。

 もうここにオレの知るノイジエルはいない。彼の心は死んでしまった。聖剣騎士団初期の理想に生きた、正しく貴族の役割を果たし、弱者の騎士となろうとした男は死んでしまった。

 壊れてしまわなければ……きっとノイジエルは生き抜けなかったのだ。それは悲しい事であるが、揺るがない事実のはずだ。ならば、たとえボールドウィンを殺そうとも、逃げ惑う戦えぬ弱者を追い詰めて葬ろうとも、こんな真似をする前に『誰か』を……たとえば命を懸けて守ろうとしていた仲間達に手をかけてでも生きようとした、彼の生存本能にだけは讃えねばならない。

 どれだけ卑しくとも、心を壊そうとも、自身の『命』を生かそうとする抗いに善も悪もない。それは人も獣も同じだ。

 

「ふざけるなよ」

 

 今のノイジエルに少しだけ寂しさを覚えたオレの背中に、ギンジの震える声が突き刺さる。

 

「アンタ、今の自分の姿を見てみろよ。バケモノはどっちだよ!? 良いか!? アンタが自分の命に縋っている間、【渡り鳥】は皆を……アンタも救うために戦っていたんだ! どれだけ犠牲があろうとも、揺るがず戦い抜いたんだ!」

 

「止めろ、ギンジ」

 

 小さく、オレは彼に制止を呼びかける。そんな言葉を誇り高き騎士の心なき動く骸に吐くべきではない。オレは罵られて当然だ。バケモノ扱いされて当たり前の、血で汚れた傭兵だ。何百人も殺してきたオレが擁護される理由なんて欠片も無い。

 

「いいや、言わせてもらうね! 自分の命は大事さ! 他人を殺してでも生きたいのだって普通さ! それが人間なんだろうさ! でもな、アンタに……今のアンタに、【渡り鳥】を蔑む資格なんて無いんだよ! ノイジエルさんはそんな恥ずかしい真似をする男じゃない! 今のアンタはノイジエルさんの皮を被ったバケモノだ!」

 

「ギンジ!」

 

 咆えるギンジに、オレはノイジエルから目を離さないように、深淵殺しを構え直しながら、彼の名を読んで諌める。

 

「それ以上のノイジエルへの侮辱は……オレが許さない」

 

 バケモノ呼ばわりされて不機嫌そうなヤツメ様が、だったら望み通り首を斬り落としてやろう、とノイジエルの首を人差し指で優しく撫でている。

 

「彼は『人』だ。どれだけ狂えようとも、『人』なんだ」

 

 そう、たとえ……たとえ、その姿が変わり果てようとも。

 少しずつであるが、ノイジエルのHPは回復している。オートヒーリングが発動している。そして、同時にノイジエルの兜がガタガタと鳴り、フェイスガードが捲り上がって、赤黒い複数の、まるで枝分かれしたような舌が伸びる。

 そして、ノイジエルの兜が弾けた。ポリゴンの欠片となって散っていく淡い光の中で露わになったノイジエルの頭部は……もはや人間の形から逸脱していた。

 ゾンビと同じように銀色の斑点が浮かび上がって膿み、頭部は割れて肥大化割いたような脳から伸びた青黒い枝のようなものが伸びている。口は円形となって人間的な平たい歯が並び、そこからフェイスカバーを捲って見せた枝分かれの舌が揺れている。頭部には黒真珠のような目玉が幾つも並び、その中心部では赤い光が薄っすらと鬼火のように揺れていた。

 ギンジが言葉を失って後ずさる音が聞こえる。それは仕方ないだろう。もはや、その姿は『モンスター』にしか見えない。そして、プレイヤーカーソルは点滅し、今まさに完全にモンスターカーソルに移行しようとしている。

 感染末期の本当の恐怖は、姿形が人から逸脱していく事にあるのかもしれない。蝕む死の時計に応じる自身の変質が、自我の喪失と生命の崩壊を同時に感じさせて、正気を奪い取り、精神を溶かし尽くすのかもしれない。

 そこまで……そこまで『人』が憎いのか、後継者? まるでオマエからのメッセージにも思えるよ。

 

「私ハ……私は……私ハァあああああああ!?」

 

 ノイジエルが……泣いている。無数の黒い目玉からどす黒い血の涙を流して『痛み』を叫んでいる。

 

「大丈夫だよ」

 

 だから、オレは微笑む。深淵殺しを振るって風を巻き起こし、ノイジエルの悲鳴を斬り裂く。

 

「オマエは『人』だ。オレとは違う」

 

 そうさ。オレは汚らしい血塗れの傭兵。オマエとは比較にならない殺戮者。殺す事に悦楽を見出すだけに留まらず、好意を持った相手にすら……友でありたい者や愛する人すら惨たらしく殺したがるバケモノだ。

 だけど、オマエはちゃんと泣いている。泣けている。どれだけ狂い果てようとも、正気を失って生に縋る殺戮を行おうとも、心の奥底にはちゃんと『人』の心がある。そうでなければ涙を流せるはずがない。

 

「痛かったね。苦しかったね。辛かったね。でも、もう終わりだよ。ここがあなたの旅の終わりだよ。だから、せめて騎士として眠ろう?」

 

 右手を差し出したオレに、ノイジエルの黒い目玉が全て向く。それに縋るように。求めるように。どれだけ砕け散ろうとも、確かな最後の誇りの残り火があると示すように。

 殺せ。さぁ、『仲間』殺しの時間だ! ヤツメ様が歓喜で震えながら叫ぶ。

 ノイジエルが突進するオレに応じる。大斧で床を擦りながら斬り上げ、それを右に躱したオレに大斧の横面積の広さを利用して殴りかかる。それを屈んで躱し、そのまま身を捩じりながら重い深淵殺しを振るうも、ノイジエルはステップでそれを避ける。

 その回避はヤツメ様の導きの中だ。深淵殺しを振るうモーションの中で両手持ちから左手のみに切り替え、慣性で振り回される中で残り本数に限りが見え始めたレーザーナイフを投擲する。それは肥大化した頭部に突き刺さり、ノイジエルがノックバックした所にギンジの援護射撃が口内に突き刺さる。

 

「アァアアああアアアあアアあああアアアアアアあアアアアアア!」

 

「さぁ、踊ろう! 全ての涙が枯れるまで踊ろう!」

 

 全力を尽くせ! どれだけ姿が怪物に成り果てようとも、その身に宿った、この糞ったれな殺し合いの世界で誇りと共に築き上げたあなたの力はこんなものではないはずだ! その全てを憎たらしい【渡り鳥】にぶつけろ!

 円盾によるシールドタックルからの膝蹴り。それを躱されたところへの形振り構わぬショルダータックル。それすらも避けられたならば、身を守る盾など不要とばかりに円盾をオレに投擲する。≪盾≫の単発ソードスキル【シールド・シューター】だ。

 深淵殺しでフリスビーのように高速回転した青いライトエフェクトを纏った円盾を弾くも、強烈な衝撃で体勢が揺らぐ。そこにノイジエルはオレを空いた左手で掴みにかかるも、ギンジの援護射撃が頭部に命中し、ヘッドショット補正でノイジエルが怯む。

 ここだ! ノイジエルの胸の中心に向かって深淵殺しを突き出す。その刃は鎧に食い込み、火花を散らしながら内部の肉にまで到達する。抉り進む刃が伝える感触は、これまでプレイヤーを斬った感触とは明らかに異なる。もはや、鎧の内部も人の姿から逸脱しつつあると見るべきだろう。

 深淵殺し全てを押し込むより先に、HPを半分以下まで減らしたノイジエルがバックステップを踏んでリーチ外に逃れる。やはり深淵殺しはチェーンモードを持つが故に、通常攻撃は重量級両手剣クラスには僅かに到達できていない。ましてや、破損状態の下方修正も加わっているはずだ。だが、このままいけば、確実にノイジエルは殺せる。オートヒーリングが間に合うまでもなく殺せる。

 だが、ノイジエルもまだ終わりではない。大斧を両手で握りしめると、その長い柄を半ばから分離し、大斧の刃に接続し、両刃のそれを分割する。そうして出来上がったのは、分厚い片刃の取り回し易い斧2つだ。

 姿がバケモノになろうとも、騎士の『戦い』は捨てぬ。そんな意志を見せるように、ノイジエルの無数の黒い目玉がオレを睨む。

 

「ハハハ! 最高だよ、ノイジエル! それがあなたの奥の手なんだね!? カッコイイよ!」

 

 これまでノイジエルの噂で、彼が戦斧二刀流で戦ったなど無かった。つまり、それは彼が人前で決して披露しなかった最後の切り札であり、盾を捨てて攻撃に傾倒する最強の姿であると言えるだろう。

 右手の振り下ろし。そこから続く1テンポ……いや、2テンポのディレイをかけた回避を狙った左手の横薙ぎ。それを体を捩じって躱しながら、深淵殺しでカウンターを狙って振るうも、ノイジエルは一撃ならば耐えられると踏んで、深淵殺しの斬撃を胴に浴びながらも攻撃を止めない。

 光り輝くソードスキルが開放される。左手から放たれたのは、乱撃系であるパンプキンペインだ。だが、オレもそこそこ使うソードスキルだけに、軌道の全ては分かっている。どれだけ乱雑に見えてもランダムではない。それがソードスキルというシステムアシストに則った動きをする攻撃の弱点だ。

 

「ゴガァあぁああアアアアアア!」

 

 だが、ノイジエルは止まらない。人から外れたような雄叫びに『人』の魂を乗せている。ソードスキルの隙をギンジに狙われて矢を首に刺されても、更に踏み込む。ソードスキルが続く!

 スキルコネクト!? 右手の燃え盛るような茜色のライトエフェクトから始動したのは、オレも記憶が無いソードスキル……OSSか!?

 振り下ろしから即座に手首を返しての斬り上げ、そのまま僅かに舞い上がりながら宙で振るわれる回転斬り。そしてそのまま大きく振るいあげた斧の斬撃から続く渾身の薙ぎ払いは首を狙う事を想定してのものか。OSSでもトップクラスとなる、しかも完成度の高い、恐らくはヘルズゲートをモデルとしただろう5連撃は、亀裂が入った深淵殺しでのガード以外の選択肢を奪い、その連撃が深淵殺しの破片を散らす。

 こんなに砕けても……刀身の半ばまで失っても、まだ折れないか! さすがはボールドウィンだ! この剣にもまた、亡き彼の鍛冶屋魂の血がしっかりと流れている! 深淵の魔物を倒すまで折れるものかという根性を感じる!

 

「スキルコネクトまで体得していたのか。あなたは本当に『強い』ね」

 

 やっぱり、あなたは『人』のままだ。バケモノになどなっていない。OSSの衝撃がガードを突き抜けて、攻撃が遅れたオレは最大のチャンスであるソードスキルの硬直時間を活かせず、反撃はノイジエルの左肘から先を奪い取るに留まる。

 黒い光が断面から溢れ、ノイジエルが獣の金切り声のような悲鳴を上げる。そのHPは残り1割を切った。オートヒーリングも微々たるものだ。ならば、次の一撃でその首を落とす。

 安らかに眠れ、ノイジエル。オレは左腕を奪った深淵殺しを切り返し、両手で握って全力で薙ごうとする。

 殺せる。殺すしかない。それしか、ノイジエルの誇りを、心を、意志を救う方法は無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だけど、本当は殺したいだけなのではないのか? 殺すしかないなど言って、『生かして救う』方法を探そうとしていないだけなのではないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かが言った。

 理想とは病気だ。それが過ぎたものとなり、思考を蝕めばまるで『病』のように判断を狂わせる。

 ノイジエルを殺せたはずの一閃は、理想が病ませた思考を反映したように僅かに鈍り、その刹那のズレがノイジエルの左腕を蠢かせる。そして、殺意が錆びた瞬間に生まれた時から備わっていた闘争本能で堪え続けた堰が決壊したかのように、心臓が訴える痛みが爆発する。

 

「がぁあ!?」

 

 1歩。たった1歩。ノイジエルが後退した。その大きな1歩が深淵殺しの間合い外へとノイジエルを逃がし、剣先は僅かに彼の首筋を撫でるに留まる。それはとてもではないが、ノイジエルのHPを刈り取れるものではなく、赤く点滅する彼のHPバーが、狂える生の存続を示す。

 まずい! ヤツメ様が悲鳴を上げて体を引っ張り、オレは半ば投げ出すようにバランス感覚を喪失した足で跳ぶ。その瞬間にノイジエルの左腕の断面から黒い触手が伸び、肉の槍となって伸びた。

 ギリギリ間に合った回避。それがオレの安堵の吐息を漏らす。オレが無事でよかったとヤツメ様が頬擦りして、そして呟いた。

 

 

 

 

 あと3人♪ あと3人♪

 

 

 

 

 オレが躱した触手の槍。それはターゲットのオレを見失い、そのまま直線状に結ばれた、矢を構える体勢を取っていたギンジへと向かう。

 

「え?」

 

 そんなギンジの声が漏れ、彼の腹の中心部を触手の槍が貫いた。宙へと舞い上げられた彼の口から赤黒い光が零れ、その手から弓矢が落ちる。

 オレが……躱したから? いいや、違う。オレが……いつだって殺す事に迷いが無かったはずなのに、それしか取り得が無いはずなのに、オレがノイジエルを殺すのを躊躇ったから?

 

「がぁあああああああああああああ!?」

 

 ギンジの叫び。それにヤツメ様が歓喜する。これが聞きたかった! これが聞きたかったんだよね!? と、大口を開けて笑いながら、『オレ』を嗤いながら、同意を求めてくる!

 急速に減少するギンジのHPだが、まだ間に合う! ヤツメ様の笑い声を振り払い、心臓の悲鳴を無視して深淵殺しを振り下ろす。肉の触手を断つ。

 

「ワたシ……きシ……いキル……イきル……だンチョう……ど、うシテ……?」

 

 失った左腕を揺らしながら、ノイジエルが逃げていく。そのカーソルは激しく点滅し、プレイヤーのものかモンスターのものか分からなくなっている。だが、彼を追うよりも先にギンジだ! 大穴が開き、欠損状態になったギンジはダメージフィードバッグがもたらす痛覚とは異なる脳をミキサーにかけられているような不快感で、涙を溢れさせて痙攣している。

 

「あ……がぁ……いぎぃあ……!」

 

「しっかりしろ! まだ死んでねーぞ!」

 

 止血包帯を使用し、腹の欠損をHPがゼロになるギリギリで止めるも、傷口からどんどん肌が黒ずんでいる。感染攻撃の追加効果か!? 肉の槍の直撃だけでも感染上昇はかなりものであるはずなのに、欠損状態にされた事で感染拡大が進んでいるのか!? 糞が! これはレクチャーされてないぞ!

 

「良薬だ! 飲め!」

 

 とりあえず感染率を引き下げなければならない。アイテムストレージからナグナの良薬を取り出し、ギンジに押し付けるも、彼は逆にオレを食い殺すと言わんばかりに睨む。

 

「それは……アニマの分……だ! 彼女を、助ける、薬、だ! 死んで、も、飲んで……堪るか!」

 

 良い根性しやがって! だが、どうする!? どうすれば良い!? 喘ぐギンジが震える右手をオレに伸ばす。それをつかみ、彼を死なせてなるものかと、その口に深緑霊水を流し込み、深淵殺しを手放してギンジを背負い、ヨルコの医務室へと駆ける。この騒動で彼女がいないとしても……仮に殺されていたとしても! 医務室にはギンジを救える何かしらの手段がある確率は高い!

 

「【渡り鳥】……追え……ノイジ、エルさんを……殺……せ……!」

 

「黙れ! オマエの方が今は優先だ!」

 

「駄目……だ……彼を……殺さ、な……いと」

 

「良いから黙れ!」

 

 医務室まで走れ。走れ走れ走れ! 道中で巨大な蚤が立ち塞がるも、その全てを蹴飛ばし、踏み潰し、跳び越えて一直線で医務室を目指す!

 

「アン、タってさ……本当に……馬鹿な、くら……い……優し、い、よ……な。ふつ、うは……あん、なに、狂、った、ら……見捨て、るぞ? なの、に……アンタは、ノイジエ、ルさんを……『人』だって……あん、な、バケモノ、みたい……な、姿に、なって、も……『人』だって……迷い、なく、言い、きって……凄いよ」

 

「それ以上喋ったら殺すぞ! 遺言みたいで気持ち悪いだろうが!」

 

 間もなく医務室だ。通路を駆け抜けたオレが見たのは、医務室の隣、アニマを収容する特別医務室の鉄扉が破壊し尽くされた光景だった。外部から壊されただろう扉を見るに、ノイジエルか、あるいはモンスターが収容されているアニマを狙っての事だろう。

 

「アニマ……アニ、マァアアアアアアアアア!」

 

 オレの背中から跳び下りて、ギンジが這いながら特別医務室へと向かう。オレは彼に肩を貸し、破壊された扉の向こうの後継を彼に見せたくないが、それでも彼の望みに託して足を進める。

 

 

 そして、オレ達を待っていたのは、分厚い刃……戦斧の類で深く傷つけられたベッドの姿だった。そこにアニマの姿は無かった。

 

 

 ふらふらと、ギンジが前のめりに、両手で床をつかむ。その身を震わせ、嗚咽を奏でる。

 

「糞ぉおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「落ち着け、ギンジ」

 

「アニマがぁあああ……アニマがぁあああああ!?」

 

「だから落ち着け! アニマは生きてる!」

 

 オレの言葉に、我を失っていたギンジの目に理性が戻る。こんな事をしている暇はないのだが、ギンジにはしっかりと伝えねばならない。

 

「遺品ドロップが無い! あれだけ地下街に遺品が溢れてたんだぞ!? もうノイジエルのアイテムストレージは満杯のはずだ! わざわざ鉄扉を壊す手間をかけてアニマを殺すのは、目がつく連中を殺し尽くした後だ!」

 

「つま、り……ここに、遺品が、無い……なら、アニ、マは、無事に、逃げた……んだ、な?」

 

「恐らくな。マックスレイがずっと傍についていたはずだ。オマエのリーダーだろ? 愛しのアニマちゃんが好きな男だろ? 信用してやれ」

 

 オレの言葉は絶対なる自信など無いが、十分に推測として成り立っているものだ。何にしてもアニマはこの特別医務室で殺されたわけではない。そして、特別医務室の外にも遺品は無いところを見るに、少なくともノイジエルの魔の手からは脱せられたようだ。

 

「ここで少し待ってろ。何かアイテムを探してくる」

 

 ギンジをベッドに腰かけさせ、オレは医務室へと向かう。荒れ放題の医務室もまたノイジエル、あるいはモンスターの襲撃を受けたようだが、遺品の類は無い。そうなるとヨルコは無事なのだろうか。

 欠損状態の感染追撃を抑えるアイテム……抑えるアイテム……糞が。棚をチェックするも、それらしいアイテムは収納されていない。感染に効果があるのは丸薬ばかりだ。

 どうする? ナグナの本ならば、あるいは万能薬以外の薬の作り方も載っているかもしれない。ならば、希望にかけてグリセルダさん達と合流すべきか? だが、できたとしてもそんな都合の良いレシピが載っている確証は無く、あったとしても素材はまず無いだろう。

 考えろ考えろ考えろ! そうだ! 感染部位を抉り取れば良い! ダメージは追加されるが、感染上昇は抑えられるかもしれない! これしかない! オレは踵を返し、ギンジの待つ特別医務室に向かおうとした。

 だが、医務室の出入口を塞ぐように、ギンジが大穴を隠す止血包帯が巻かれた腹を右手で押さえながら立っていた。

 

「感染部位の肉を抉り取るぞ。HPを回復しろ。少しキツいだろうが――」

 

「もう、いいんだ」

 

 さすがに刃物で肉を抉るのは怖いのか、ギンジは小さく笑いながら、首を横に振る。

 

「安心しろ。泣き叫んでも愛しのアニマちゃんには言わないさ。ベッドに横になれ。回復を忘れるな」

 

「だから、もう良いんだ……もう、良いん、だよ」

 

 頑なにギンジはオレの指示に応じようとしない。苛立ったオレは彼の腕を握り引っ張ろうとするが、どういう訳か力が入らない。

 あれ? おかしいな。ギンジは、こんなにも、重いのだろうか? それともオレが後遺症のせいで力が出せないだけだろうか?

 

「……やっぱり、アンタは、優し、い……『人』だよ」

 

「…………」

 

「もう、分かって、るはず、だ。俺は……俺の旅も……終わりだ」

 

 静かに、全てを悟り切った落ち着いた声音で……ギンジはオレの肩に触れる。

 ああ、そうさ。分かっていたさ。分かっていたさ!

 今のギンジの目はノイジエルと同じように黒真珠の如く真っ黒に染まり、その中心部で赤の光が揺れている。そして、その右頬の皮は剥げ、腫瘍のように……ゾンビの証のように、銀色の金属質の斑点が膨れ上がっていた。

 感染末期。これからギンジはゆっくりとゾンビに……いや、もっと酷い怪物の姿となり、そして死ぬ。

 

「すまない」

 

「アンタ、が、謝る……事じゃ、ない。俺が、『弱い』から、死ぬんだ……」

 

 違う。オレがノイジエルを殺すのを躊躇ったからだ。それがオマエを殺す事になったんだ。

 ギンジはふらふらと俺の隣を通り抜け、医務室のベッドに腰かけて息を吐く。長く長く……これまでの人生を……いや、この殺し合いの世界で『ギンジ』として戦ってきた日々を思い出すように。

 

「怖いなぁ……ああ、分かる、なぁ……ノイ、ジエルさんの、気持ちが……さ。スゲェ……怖、い。生き、る、為なら……殺す、しか、ない。酷い、ぞ? メッセージが、さ、視界で、点滅、して……生きたければ、殺せって……はは……残り、時間も、しっかりと、表示されて……親切だよ、なぁ……」

 

 全て茅場の後継者が感染末期のプレイヤーを追い詰める為に仕組んだ演出だろう。生への欲求を散らかせる為の餌だ。凄惨な殺し合いをさせる為の仕掛けだ。

 だが、それに縋ることは間違いだろうか? たとえ僅かであろうとも、自分が生き残れる道があるならば、それを迷わず選ぶのが人間の……いや、生物のあるべき姿だ。

 

「……良し、OKかな。ノイジ、エル……さ、んを……今度、こそ、殺すぞ」

 

 そして、そんな生への渇望に打ち勝てるのもまた『人』だからこそだ。

 ギンジは一切ブレない、生への執着を完全に断ち切った眼で、オレを射抜く。感染によって黒に染まった目でオレを見据える。

 

「アンタも、感染率……ヤバいだろ? バレバレだよ。目がさ、もう、ほとんど黒っぽい」

 

「ヨルコに言われたっけな。どんなに隠しても症状が出るってさ」

 

 弱々しくも凛として笑うギンジに、オレもまた笑いかける。彼の覚悟を無駄にしない為に。

 

「アニマが……生きて、るなら、脅威は、消さない、とな。ノイジエルさん……殺さ、ないと。でも、感染が……アンタもヤバい。攻めきれ、ない、だろ? だから、一撃、だ。一撃で……殺す。俺が……ノイジ、エルさんの動きを、止め、る。だから……頼む、ぞ?」

 

 ギンジの作戦は全てを言わずとも伝わる。

 迫る死への恐怖と怪物に変貌していく恐怖。その2つでギンジの精神も擦り減っているはずだ。それでも、彼は『人』として戦い、アニマへの愛に殉じる覚悟で以って決着をつける事を決めた。

 

「なぁ……できる、かな? 俺にも、アンタを……『仲間』を、奮い立たせる、死に方、が、さ……」

 

「ああ、できるさ。オマエの死は……必ず糧にする。無駄になんかしない。だから、安心してオレの糧になれ」

 

 今にも泣きだしそうなギンジの額に、オレは額をコツンと合わせて、彼に祈りを捧げる。せめて、彼の覚悟がその最期の瞬間まで折れる事無く、戦士として誉れ高い死で以ってオレの糧となる事を祈る。

 

「……怖いよぉおおおお。怖いよぉおおおおお! 死にたくないよぉおおおお!」

 

「それが当たり前だ。怖いのが当たり前なんだ。死を怖がらないのは『バケモノ』だけだ。本当に『強い』戦士はな、死に怯えて、怖がって、それでも乗り越えて、戦える奴だ。だから、オマエは最高に勇敢な戦士だ」

 

 泣き出したギンジを抱きしめ、彼の嗚咽と涙を受け止める。泣きじゃくって胸に縋りつくギンジの頭を撫でて癒す。

 涙はここに置いていけ。死の間際に恐怖に呑まれないようにする為に。最期の一瞬まで戦士としてあり続ける為に。

 

「覚悟完了、だ」

 

「そうか」

 

 短い返答と共に、涙を拭うギンジから離れてオレは深淵殺しを再装備する。破損したスパークブレードよりも半壊した深淵殺しの方が威力は上だ。幾らオートヒーリングがあると言っても、この短時間ならばフルまで回復していないだろう。確実な一撃でノイジエルを殺す。

 逃げ出したノイジエルをどうやって探せるかと考えるも、まるで待っていたかのように、鎧は剥げ落ち、上半身全てがブヨブヨとした銀色の斑点で覆われ、右手の斧を引き摺り、左腕の触手を揺らす彼が、オレ達が殺し合った場所で待っていた。

 そのカーソルは完全にモンスターのものであり、黒い目にはもはやノイジエルの誇り高い意思が残されていない。それでも、彼があの場所で待っているのは、決して偶然などではないと理解できた。

 ノイジエルがオレ達を発見し、触手を伸ばす。オレとギンジは左右に分かれるも、オレの方は跳び込まずに、距離を取って待機する。

 

「死んで来い、ギンジ」

 

「任せろ」

 

 

▽   ▽   ▽

 

 

 心が折れたのはいつだったか、もはや思い出すのも億劫だ。

 だが、上位プレイヤー達の凄まじい働きの中で、自分の『弱さ』を痛感し、また彼らとは決定的な差がある事を悟り、ギンジは最前線を離れた。

 上位プレイヤーとしての実力があったギンジは幾つかのギルドに誘われ、身を置いた事もあるが、どうにも肌が合わずに……いや、最前線を逃げ出した事実に耐えきれずに、それを影で嗤われている気がして、逃げるように離籍を繰り返した。

 そうしてレベルが上位プレイヤーから中堅にまで下がった頃になると、誘うギルドは減っていった。それでも最前線での経験を買われてスカウトされたのが、晴天の花だった。

 どうせ長続きしない。逃げ出すに決まっている。そう腹の内で諦めていたギンジは、自分を迎えてくれた晴天の花のメンバーの中でアニマに真っ先に目が奪われた。

 恋に落ちたとはまさにこの事だ。絶対に晴天の花を抜けるものかと足掻きに足掻き、彼女に接近できるチャンスがあれば何度も何度も迫った。だが、いつもアニマの視線はマックスレイを追っていた。

 特別強い訳ではないが、穏やかであり、また皆を気遣える性格をしたマックスレイは、ギルドの司令塔というよりもまとめ役といった方が近しかった。それは大ギルドのトップ……ディアベルやサンライスには遠く及ばないリーダーの素質であったが、小ギルドに過ぎない晴天の花には過不足なかった。

 どうせ大ギルドの意向に従うだけだ。聖剣騎士団の使い走りでも、毎日はそれなりに充実していた。

 もう最前線なんてコリゴリだ。いつも誰かが死ぬ恐怖が付き纏う。そして、情報も無い戦いばかりを強いられる。そんな場所で戦い抜けるのはごく僅かだ。ましてや、ソロで暴れ回る傭兵達のなんと異常な事だろうか。

 

『最前線にあるナグナというダンジョンの資源探索を行う。かなり報酬も良いし、護衛も付く。僕らがステップアップするチャンスだ』

 

 だから、マックスレイが持ち帰った大仕事にギンジは反対した。どうにもきな臭い依頼であるし、何よりも未探索状態の最前線の実情も分かっていないダンジョンの資源探索などおかしいと思ったからだ。

 だが、晴天の花は乗り気だった。アニマだけが怖がって拒絶を示したが、多数決の流れは変わらなかった。

 どれだけギンジが今のぬるま湯に満足していても、情勢の変化と晴天の花が抱えていた向上心はそれを許さなかった。

 蓋を開けてみれば晴天の花は壊滅状態だ。死に怯えるしかないギンジを救ったのは、戦争の誘発させたという噂が流れている白き傭兵【渡り鳥】だった。

 その悪名が示すのはいずれも夥しい死だ。人殺しを厭わず、むしろ好んで殺すとされる殺人狂。そして女装趣味の変態。

 アニマを守る。ギンジは【渡り鳥】がゴミ掃除のように自分達を殺そうとするに違いないと、目障りという理由で斬り殺すだろうと覚悟した。

 だが、【渡り鳥】は噂とは違う、何処にでもいる……いや、普通の人よりもずっと『人』らしく、『人』とは思えないほどに優しく、純情で、ジョークを好み、クールとは縁が無く、世話焼きで、何かと子供っぽい人物だと嫌でも分かった。

 

(アンタと、もっと早くに出会えてたらさ……こんな事にはならなかったんだろうなぁ)

 

 肉の触手が鞭の如く振るわれる。そこに既にノイジエルが編み出した戦闘技法はなく、ただ闇雲に暴れ回る怪物の力があるだけだ。

 こんなもの怖くない。まるで児戯だ。ギンジは恐れずに踏み込んでいく。間合いを詰めていく。その右手にデス・アリゲーターを握り締める。

 もしも、マックスレイが依頼を持ち帰った夜に、今のギンジの『強さ』があれば、場の雰囲気に流されずに、怖がるアニマの前に立って、リーダーにハッキリと聖剣騎士団の覚えが悪くなるとしても断わるべきだと進言しただろう。

 全ては仮定の話だ。なんの意味も無い、分岐したかもしれない過去であり、未来であり、現在の話だ。

 

(でもさ、アンタも難儀だよな。好きな人を殺したいなんて……そんな苦しみと生きて行かないといけないなんてさ)

 

 聞こえていた。【渡り鳥】を会議室に呼ぶ際に、彼が枯れた噴水で漏らす叫びを、ギンジは聞いてしまっていた。

 果てしなく狂い、それでもなお、自分の欲求に抗おうとする【渡り鳥】のなんと哀れな事だろうか。そして、その後は何事も無かったように振る舞い、挙句にギンジをボス攻略作戦に参加する事を認め、激励までしてくれた。

 刻み込まれた『仲間』を奮い立たせる誉れ高い死。それが自分に成せるとは思えない。今だってそうだ。これからギンジがするのは、結局は感染の恐怖からの逃亡でもあるのだ。【渡り鳥】に苦しみを押し付ける行為だ。

 

(ごめんな。俺はやっぱり『弱い』みたいだ。だけど、本当に嬉しかったんだ)

 

 いつだって自分を卑下していた。最前線から逃げ、アニマを守れる力も失い、自分の存在意義を無くしていた。それでも彼女への愛だけが胸には確かに宿っていた。

 だからこそ、ギンジを本当の意味で戦士に変えてくれたのは、【渡り鳥】が皆の前でギンジを『強い』と言いきってくれた事だ。彼が……彼だけが……ギンジすらも認められなかった自分の力を……『強さ』を信じた。

 ノイジエルまであと10歩。彼の右斧が煌めく。ギンジを迎え撃とうとする。ノイジエルのHPは5割まで回復してしまっているが、作戦に支障はない。

 

(最後に1度だけで良い! アンタが信じてくれた『強さ』を! 今! ここで!)

 

 振るわれた右手の斧。それをギンジは左腕を掲げ、肉に刃を喰い込ませて減速させる。その間に蠢く左腕を拘束すべく、デス・アリゲーターを左肩に突き刺して押し込む。

 ノイジエルの絶叫が轟く。本当の……円卓の騎士としてのノイジエルならば、ギンジの無謀な突撃など意味を成さず、軽々といなされていただろう。

 届かない。届いているはずがない。誇り高き円卓の騎士であるノイジエルにも、傭兵【渡り鳥】にも、遠く及ばないとギンジは自嘲する。

 数秒で良い。1秒で良い。完全なる無防備な状態を作り出す! そうすれば【渡り鳥】が終わらせる! ギンジは駄目押しの頭突きをノイジエルの異形の頭部へと叩き込む。それに悶絶したノイジエルの動きが止まり、右腕を斬り落とす寸前で斧が止まり、更に左腕は片手剣の突きで完全に拘束する事に成功する!

 背後でソードスキルのサウンドエフェクトが弾けた。ギンジが決死で作り出した隙を活かすべく、最速最短で斬るべく、その斬撃はギンジごとノイジエルを狙うだろう。

 

「【渡り鳥】! アニマを救ってくれ! 頼んだぞ!」

 

「ああ、必ず救う! 必ずだ!」

 

 深淵殺しの分厚い刃が背中に侵入していく。刃がアバターの肉を引き裂き、分断していく。

 その感触の中で、ギンジは愛する人の笑顔へと手を伸ばした。だが、アニマの眼差しは決してギンジには向いていない。

 

(そっか……そうだったんだ……)

 

 両断されていく体の感触は不思議な程に優しく甘い。それは脳が今際に作り出した仮想世界を支配するシステムに抗う幻想か、あるいは【渡り鳥】の血塗れの翼の抱擁か。どちらにしても、ギンジは砕け散る意識の狭間で確かに悟った。

 

(俺……アニマが恋している姿に……惚れてたんだなぁ……)

 

 勝ち目がないわけだ。最初から負けた恋をしていたのだから。情けない自分に心底呆れて、ギンジは苦笑しながらその身と心を赤黒い光へと変えた。

 

 

▽   ▽   ▽

 

 

 赤黒い光となって砕け散ったギンジの仮想世界の血肉。それを全身に浴びながら、今度こそオレは一切の迷いなくノイジエルを深く袈裟斬りにする。深淵殺しの刃はノイジエルの体を斜めに切断し、彼の人間としての造形を失った上半身が背中から床に落ちた。

 

「……今度こそ、終わりだ」

 

 上半身だけになっても暴れる彼の胸を踏みつけ、オレは逆手で構えた深淵殺しを振り上げ、ノイジエルの頭部へと振り下ろそうとする。

 心の奥底の『病』が叫ぶ。救う方法があるはずだ。最後の1秒まで抗うべきだ! そうオレの殺意を止めようとしている。

 反吐が出る。ギンジを殺した理想など要らない。これは理想ですらない。ただの悪夢だ! 自分に都合の良い、変わりたいという願いに寄生した醜い願望だ!

 

「お休み、ノイジエル」

 

 微笑みながら躊躇なく振り下ろした深淵殺しはノイジエルの顔の中心に突き刺さり、更に奥深くに沈んでいく。

 

「ダンチョう……わ、タしは……こん、な……にンム、したく……なかッ……た」

 

 震える手がオレに伸びる。だが、それがオレに触れるより先に、ノイジエルの体が黒い光となって弾けた。

 

 

 

「キし……と、して……ホこり……たカ……く――」

 

 

 もうノイジエルの名誉が穢れる事は無い。

 深淵殺しを振るってノイジエルの残滓を払って背負い、入りきらなかったギンジとノイジエルの遺品ドロップを見回す。

 殺した。オレが殺した。『仲間』を……2人も殺した。

 ヤツメ様が血溜まりで舞っている。2人も殺せて満足だと笑っている。これこそがオレの生きる道だと囁いている。

 

「アニマを探さないとな」

 

 ギンジとの約束だ。休息を要求する心臓を無視して、オレはフラフラした足取りで地下街を歩き回る。エドガーの援護もしなければと思ったが、モンスターはほとんど残っておらず、群れでもなければ脅威にもならない巨大蚤を破損したスパークブレードで薙ぎ払っていく。

 何処だ? 何処にいる? オレは特別医務室に戻り、アニマたちが逃げるならば何処だろうと見回し、通路の1つ先の奥……物資保管庫だろう扉の前に立つ。遠くに逃げたと見せかけて、近場に隠れ潜む。有効な欺きだ。

 オレは物資保管庫のドアノブに手をかけ、ゆっくりと開く。薄暗い物資保管庫には、確かな人の気配があった。

 

「アニマ?」

 

 オレは彼女の名前を呼ぶ。ヤツメ様が上機嫌で先導していく。血の海に波紋を作って、オレを誘う。

 物資保管庫の、バリケードのように並べられた棚の向こう側へ、オレはスパークブレードを手放して、今にも倒れそうな体を傾けながら、その音を聞く。

 

 

 

 

 

 何度も、何度も、何度も、肉の塊へと刃を振り下ろす、湿った音を聞く。

 

 

 

 

 そこにいたのは、指先が痙攣するマックスレイに馬乗りとなり、彼の頭へと武器の曲剣を振り下ろし続けるアニマの姿だった。そして、その緩やかな黒髪のウェーブが隠す首には……感染末期の証である銀色の斑点が膿んでいた。

 

「死にたくない……死にたく、ない……死にたくない……死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」

 

 当たり前だ。

 勇敢な戦士であるノイジエルすら耐えられなかったのだ。怖がりで、臆病で、すぐヒステリーを起こして、でも意外と元気づけるのが上手で、褒められると恥ずかしそうに笑う顔はギンジが惚れるのも分かるくらいに魅力的だった1人の女が……死と変質の恐怖を前に正気を保ち続けられるはずがない。

 

「……アニマ」

 

 もう1度、囁くように、オレは彼女の名前を呼ぶ。振り返ったアニマはオレの姿を見て、真っ黒に染まった目玉を向けて、小さく悲鳴を上げると曲剣を捨てて尻餅をついたまま後ずさる。

 

「来ないで。来ないでぇえええええええ!」

 

 頭を抱え、膝を引き寄せ、物資保管庫の隅まで逃げたアニマは小動物のように震える。だが、もはや彼女を守るために立ち続けたギンジはいない。

 チラリと見ればマックスレイのHPはギリギリ残っているが、もはや1ドットあるかないかだ。欠損ダメージを考えれば、今から止血包帯を使っても間に合わない。即座にオレはアニマに『仲間』殺しを背負わせない為に、深淵殺しを抜いてマックスレイに振り下ろす。その身が赤黒い光となって爆散し、彼にトドメを刺す。

 頭の隅で分かっていた。たとえノイジエルの一撃に耐えられたとしても、アニマの感染率は95パーセントなのだ。100パーセントに到達するのは目に見えている。恐らくマックスレイと共にここに逃げ込んだは良いが、感染率が100パーセントに到達し、また救いが来ない現実を前にして狂い果てたのだろう。

 

 

 

 さぁ、悪夢から覚める? それとも、まだ悪夢に溺れてる?

 

 

 ヤツメ様が後ろからオレに抱き着き、もう答えが出ている問いを投げかける。

 1歩、アニマに近づく。

 

「来ないで!」

 

 また1歩、アニマへと歩み寄る。

 

「来ないで来ないで来ないで! 死にたくない! 死にたくない! 殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで!」

 

 ギンジ、すまない。

 約束したのに。必ずアニマを救うと約束したのに……それは、とてもじゃないが、オマエが望む形で果たせそうにない。

 

「殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで殺さないで」

 

 もはやアニマを生かす方法は無い。深淵殺しの剣先を引き摺って床を削りながら、アニマとの距離を詰めていく。

 彼女の眼前に立ち、オレはゆっくりと、緩慢な動作で、深淵殺しを持ち上げる。

 

「死にたくないか?」

 

 オレの問いにアニマはガクガクと首を縦に振る。涙で汚れた顔でオレを見上げている。

 ああ、なんて素晴らしい顔だろう。死の恐怖と微かな生への希望に縋りつく顔だ。それをこの一閃で絶望のものに変えられるとは、悦びが止まらない。

 

「……呪え。オレは殺す。オマエを殺す。だから……呪え。オマエを殺すオレを呪え。生きたいと願うオマエを殺すオレを憎め」

 

 踏み躙る。湧き上る悦楽を力の限り、害虫を踏み潰すように奥底へと押し戻す。

 

「詫びる気は無い」

 

「嫌ぁあああ! 死にたく――」

 

 全てを言い切らせる前に、変形が始まっている顔面へと深淵殺しを突き刺し、そのまま声帯がある喉まで刃を振り下ろし、腹部へ強引に刀身を捩じり、再び頭頂部まで斬り上げる。

 アニマの遺体は赤黒い光となり、ゆっくりと霧散していくも、彼女の死をオレに焼き付けるように、しばらく漂い続けた。

 

「オレの糧になれ」

 

 悪夢は終わりだ。

 オレは殺すことしかできない殺戮者だ。それしか能がない戦闘狂だ。ノイジエルの言う通り、どれだけ綺麗に取り繕うとも、オレは殺すこと以外できない破綻者だ。それどころか、オレは死を振りまくばかりの、それこそ周囲に死と恐怖を感染させる元凶のようなものだ。

 それでも、オレは変わるんだ。殺す事しかできないからこそ悦楽に溺れず、そこに意味と意義を見出さねばならない。

 

「【渡り鳥】殿」

 

 どれだけの時間が経ったのだろう。背後から足音がして振り返る。そこには普段の笑みを隠したエドガーが立っていた。彼の両腕は下がり、右手に両刃剣を、左手に重ショットガンを握っている。地下街に巣食っていた脅威は取り払えたのだろう。あるいは、同じように感染末期のプレイヤーを始末したのかもしれない。

 

「グリムロックとグリセルダさんは?」

 

「ご無事です。生存者は他に3名ほどです。ヨルコさんも幸いながら……」

 

「そうか。ノイジエルも、ギンジも、アニマも、それにマックスレイも……死んだ。オレが殺した」

 

「……そうですか」

 

「殺した。オレが……彼らを……殺した。オレが殺したんだ。オレが……オレが……オレが殺した。殺した殺した殺した……殺したんだ。『仲間』を殺したんだ」

 

 去っていくエドガーを見送りながら、オレは自らの口元を撫でると、内なる悦びに堪え切れなかったように、醜く歪んでいる。

 ずっと『仲間』が欲しかった。誰かを生かして救える、皆に喜ばれる尊い行いがしたかった。

 そんな理想に縋る自分に酔っていた。

 もう要らない。『仲間』なんて要らない。オレはいつだって独りで戦ってきた。どんな戦いだって、独りで戦い抜いてきた。『アイツ』だけがオレの隣に立てる唯一無二の相棒だったんだ。殺す事しか能が無いくせに、それすらも捨てて何が成せるというのだ? 何が変われるというのだ?

 

「オレは狩り、奪い、喰らい、戦い、そして殺す者」

 

 瞼を閉ざしても、もう赤紫の月光も、黄金の蝶の燐光も、何も見えず、暗闇だけが広がっていた。




いよいよ本エピソードも終盤に入ります。

それでは、211話でまた会いましょう。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。