SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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黒騎士「無双させてくれるんですか!? ヤッター!」

プレイヤーの皆さんを恐怖させてくれる存在、黒騎士の初陣です。




Episode5-4 乱入者

「どうする? 攻撃してこないみたいなんだけど」

 

 黒騎士との距離はおよそ10メートル。大空洞へと続く入口を守る門番のように立つ黒騎士は、まさしく不動のまま、こちらが有視界に入っているにも関わらず攻撃をしかけてくる気配はない。

 T字型の兜の覗き穴、その奥は闇に包まれ、黒騎士の表情などは窺い知れない。だが、盾と剣を構えたままの黒騎士からは、異様なプレッシャーを感じる。だからこそキャッティはオレ達にどう攻めるべきか尋ねているのだろう。

 

「見たところ物理攻撃しかないし、誰かが陽動になれば囲んでボコせるだろう」

 

 クラディールの意見は尤もだ。確かに黒騎士は剣以外に攻撃手段を持ち合わせているようには見えない。3人で囲めば、倒す事は難しくないだろうとは思う。

 だが、オレには嫌な予感しかしない。このゲームで、いきなり正統派の騎士モンスターの登場など、どう考えても茅場の後継者がご丁寧に準備してくれた地雷のようにしか見えないのだ。

 

「毒だ。毒で行こう。キャッティ、投げナイフをくれ」

 

 四方手裏剣を使えば手っ取り早いのだが、オレはあえてキャッティから投げナイフを貰う。武器ではなく消費アイテム扱いの投げナイフは装備枠を削らないで済む優良アイテムだが、一方で耐久値が無いに等しく、また火力も乏しい。手元から離れれば30秒足らずで消滅してしまう上に1度使用すれば再利用は絶望的である。

 この投げナイフの利点は先にも言ったように、1つ目は装備枠を削らない事、2つ目は≪投擲≫で威力を増幅させられる事、3つ目が牽制として有用である上に比較的安価で入手できる事、そして4つ目がデバフにする事が出来る薬系アイテムを使用する事で遠距離からデバフ攻撃ができる事だ。

 蓄積値が低い為に実用性はあまりないが、オレが今回使うのは現段階では入手困難なレベル3の毒にする事が出来る【エキドナの模造毒】だ。オレの持つスキル≪薬品調合≫で作り出した切り札である。

 四方手裏剣にセットする事が出来る毒はレベル1までだ。仮にセットできたとしてもエキドナの模造毒は1つしかない為、作れる毒塗り手裏剣は10枚である。これならば現段階でセットしているレベル1の麻痺薬の方が実用性が高い。

 それに何より、まだクラディールにもキャッティにも暗器の事は秘密にしておきたい。だからこそ、オレはあえて四方手裏剣をオミットし、鉤爪を装備してある。これならば袖に隠れる為、手裏剣のように太腿のホルスターで気づかれる心配がないからだ。

 キャッティはオレに投げナイフを渡す。オレはどろりとした紫色の液体が入った瓶に投げナイフの刃を浸す。それで使用されたと判断されたエキドナの模造毒は砕けて青い光となった。

 毒の塗装が有用なのは僅か30秒。オレは2人に視線を向け、頷き合うと黒騎士の前に躍り出る。

 距離にして3メートル。ついに黒騎士が動き出す。オレはガルム族の手斧で振るいかかるも、それはあっさりと盾で弾かれた。だが、雷属性が混じっている為か、黒騎士の盾を貫通して微量のダメージが通り、HPバーを僅かに減らす。

 黒騎士のHPの総量からすれば1パーセントもないだろう、小さなダメージ。だが、オレは瞬時にこの黒騎士のバー1本に濃縮されたHPのすさまじさ、それこそこのステージでは余りにも莫大過ぎるHPだと理解する。

 

「やっぱり毒で正解だったな!」

 

 黒騎士に至近距離から投擲したナイフ。それは黒騎士の反撃の斬撃に対してカウンターで放たれ、その胸部に突き刺さる。途端にレベル3の毒状態になった黒騎士のHPは凄まじい勢いで削れ始める。デバフの蓄積値は武器の蓄積性能と薬品の蓄積能力の相乗だ。たとえ投げナイフ自体の蓄積能力が低くとも、現段階でレベル3の毒の蓄積に耐えられるような者はプレイヤーでもモンスターでも存在しないだろうという、オレの読みが当たったわけだ。

 

「良くやった、ガキィ! 後は俺に任せろ!」

 

 毎秒削れる黒騎士のHPを見て、クラディールが両手剣を構えて黒騎士の間合いに入り込む。だが、黒騎士は流麗かつ豪快な剣術でクラディールを迎撃し、一振りでクラディールの両手剣であるフランベルジュを半壊させる。

 

「は?」

 

 呆気に取られて隙を見せたクラディールであるが、彼の命を救ったのは他でもない黒騎士だった。

 黒騎士が次に選んだ攻撃はシールドバッシュだった。強烈な盾の体当たりを受け、クラディールは4メートル近く吹き飛ばされる。そのHPは3割も削れ、いかに強烈な打撃だったのかを物語った。

 一方のキャッティはクラディールのカバーに入るべく、投げナイフを≪投擲≫のソードスキルで放つが、距離がある為か、黒騎士は悠然と回避する。

 やっぱり動きが良い。黒騎士は滑らかな動作で最も近距離にあるオレに向かって突きを放つ。両刃剣を片手で振り回しているが、黒騎士にとっての片手剣は明らかにオレ達からすれば両手剣級のスケールだ。火力は侮れないだろう。

 幸いにもレベル3の毒によるスリップダメージは十分だったらしく、残りのHPは3割弱まで減らす事ができた。やはり、現時点ではレベル3の毒は切り札に成り得る。惜しむべくは、今のオレの≪薬品調合≫の熟練度では成功率が低く、なおかつ素材もレアドロップである為、再生産が絶望的であるという点だろう。

 黒騎士は盾で堅実にガードしつつ、鋭い踏み込みでオレに斬りかかる。上段からの一撃を手斧で刀身の側面を叩いて軌道をズラして回避しようとするが、十二分に変化させることができず、オレの肩から赤黒い光が飛び散る。

 ダークライダー流の攻撃軌道変化防御。オレが最近になって多用し始めたが、これはSTRとモーション、武器重量が深く影響する。当然ながら、相手の方のSTRが上回っていればズラせる軌道は小さくなり、またモーションスピードが速ければそもそも武器に命中させてズラす事が難しく、武器重量……より正確に言えば武器ごとに与えられた安定性が高ければ高い程に攻撃軌道は安定する為にズラし辛くなる。

 今回の場合、恐らく黒騎士のSTRがオレを圧倒的に上回っていた事が影響したのだろう。

 クラディールが片手剣と盾に持ち替えて、黒騎士の側面に回り込む。盾を左手に持っている関係上、黒騎士の防御力はオレ達から見れば右側に集中している事になる。逆に言えば、誰かが囮になった上で時計回りに回り込めば常に盾の妨害を受ける事無くダメージを与えられるのだ。

 一方のキャッティは背後から幾度となく斬りつけているが、黒騎士のHPは減少する様子が無い。

 カタナは高い威力を誇る反面、耐久値が低くて長期戦に不向きという側面がある。一方でモーションの際に刃を立てて命中させた場合、耐久値減少を抑え、なおかつボーナスダメージを上乗せできるという強力な特性を持っている。これはDBOで新たに加えられたカタナの性質であり、キャッティから得た知識の1部だ。

 キャッティはオレが訊いてもいない情報を幾つかくれた。カタナにしてもそうだし、他にも幾つかの有用なアイテムの入手法を教えてくれた。

 彼女は友人とDBOにログインし、見捨てられ、友人の死を経てソロになった。根本では群れるタイプの人間だ。つまり、彼女はソロプレイヤーとしての素質が低いのだろうとオレは思う。

 立ち回り方にしてもそうだ。ソロの戦術は突き詰めれば3種類に分けられる。

 1つ目が徹底的なヒット&アウェイ。強力な一撃を叩き込み、そして逃げる。それを繰り返す事によって、なるべく1対1の状況に持ち込む。

 2つ目が各個撃破。そもそも単体のみを狙う事によってリスクを極限まで下げる。効率は悪いが、ソロで最も安全性が高い。

 3つ目が乱戦。思考も動作も止める事無く戦い続ける。千変万化や臨機応変などとカッコいい言葉を並べても良いが、要は個で多を制する事が出来るか否か、それを突き詰める必要がある。それを恐怖心が無いAIを相手にして行うのだから大変だ。

 オレの場合は3番目に偏重している節がある。クラディールは明らかに1番目だ。だが、キャッティの場合はどうにも、パーティにおける戦術をそのまま無理にソロとして運用しているようにも見える。

 恐らくだが、彼女は別のVRMMOで友人とパーティを組んでいつも遊んでいたのではないだろうか? そして、なまじ個人の強さがある為にここまでパーティにおける戦い方で上手く生き残る事が出来た。

 だが、先は長くない。消極的な投げナイフによる消耗攻撃が続けられるのはまだモンスターが弱いからだ。その証拠に、ステージのレベルに見合わない黒騎士相手に、上手くキャッティは踏み込めていないようだった。

 ……面倒臭ぇが、後で助言しておくか。あまり干渉しない主義だが、パーティ組んだ相手が死なれるのは余り気持ち良いものではない。

 

「チッ! 気を付けろ! コイツの剣には微弱な火炎属性があるぜ!」

 

 クラディールの鋭い指摘に、オレは斬られた肩が妙な熱を持っているのはそのせいかと納得する。せめて斬った場所から炎が出るとか解り易いエフェクトがあれば良いのだが、どうやらクラディールの言うように微弱にしか火炎属性が無いのだろう。

 幸いにも足場は泥が固まっており、動きに支障はない。黒騎士の動きにも慣れてきた。確かに優秀だが、ダークライダーのような知性も知能も自我もない。だが、妙に引っ掛かる強さがある。その正体は不明だが、ともかく3人がかりならば倒せない敵ではない。

 黒騎士の剣の薙ぎ払いを片手斧の柄を盾にして防ぎ、そのまま懐に潜り込んでクレイモアで袈裟斬りにする。≪両手剣≫を持っていない以上ソードスキルが使えないのは欠点だが、やはり火力とリーチの優秀さは通常攻撃でも遺憾なく発揮してくれる。

 

「毒が入ったわ! 2人とも攻撃の手を緩めて! 剣のリーチ外なら、そこまで恐れる必要はないわ!」

 

 キャッティの持つ赤蛇刀にはレベル1の毒が帯びている。たとえ鎧で弾かれ、また刃を十分に立てずとも蓄積させる事が出来る以上、必要なのは攻撃回数だ。ここに来て固定ダメージが見込める毒は嬉しい。

 ついに黒騎士のHPがレッドゾーンに到達する。果敢に攻める黒騎士だが、ある意味でオーソドックスの範疇を抜けない攻撃法は、ソードスキルも使ってこない以上恐れる必要もない。

 後数発で終わり。オレは一息を吐こうとした時、背筋に悪寒のようなものが走る。

 それは仮想世界でありながら、確かに感じる生命の危機感。その方向性は眼前の黒騎士ではなく、背後からする。

 途端に密林から飛来したのは、無数の曲射の矢だ。それも1本や2本ではない、2桁単位の矢である。

 オレは咄嗟にクレイモアをその場に突き立ててその場にしゃがみ込んだ。全てを防ぐ事はできないが、最低限のガードを行う事は出来る。クラディールもオレに遅れて矢に気づき、盾を構えて矢を防ぐも、幾本かは肩に突き刺さった。キャッティは咄嗟の判断で矢が飛来する方向に対して黒騎士の後ろに回り、黒騎士自体を盾にする。

 黒騎士も盾を構えて矢を防ぐが、既にギリギリまで削られていたHPは矢によって更に失われる。もはや後一撃で倒せるのは誰の目から見ても明らかだった。

 だが、矢の強襲を退けたオレ達には黒騎士を仕留める余裕はなく、密林を抜け出てきた1人のプレイヤーが振るった槍を見守るしかなかった。それは黒騎士のT字型の覗き穴を貫き、そして1拍遅れてその身を灰色の煤となって黒騎士は散らした。

 生物系は赤黒い光のはず。だが、黒騎士は煤とはどういう事だろうか? オレは現実逃避するように眼前の新情報を整理しながら、腹に突き刺さっている矢を引き抜く。

 オレのHPはイエローゾーンにある。黒騎士の先の一撃があるとはいえ、2割近くが矢の襲来で失ってしまった。

 

「おい、2人とも生きてるか?」

 

「ガキに心配されるほど落ちぶれてないってんだよ」

 

「何とかね。少しばかり死にかけたけど」

 

 オレの安否確認に、クラディールとキャッティは応えて無事を伝える。2人ともオレよりはVITに振っているだろうからHPには余裕があったのだろう。特にクラディールは軽量とは言え鎧を着ている。防御力は十分といった所か。

 さて、どうしたものか。オレは密林からぞろぞろと現れた2桁は軽く届いているプレイヤーを前にして、いかなる反応で彼らを迎え入れるべきか悩んだ。

 

「やぁ、君達! 無事で何よりだよ!」

 

 だが、先手を打ってきたのは黒騎士にトドメを刺した槍を持ったプレイヤーだ。穂先が肉厚の石の刃になっているそれは、オレの見間違え出なければガルム族の石槍だ。STR条件が厳しいが、槍とは思えない程の高ダメージを叩き出す事が期待できる重量武器である。

 他に武器らしい武器を持っていない石槍持ちのプレイヤーは、赤色の髪をした30歳前後だろう男だ。いわゆる体育会系のような顔をしているが、爽やかというよりも暑苦しさが目立つ。

 防具も軽量で、オマケに上の服装はタンクトップのようなものだ。防御を捨てた高火力と高機動力といった所か。オレは3種類の武器を運用する上にDEXも低い為、軽装でも差ほどのスピードはでない。そこで≪歩法≫を併用する事で速力を補っているのだが、コイツは素のスピードがヤバそうだ。

 つーか声がデカいんだよ。オレの1番苦手とするタイプだ。大人しく後ろに下がってクラディールかキャッティに対応を頼むとしよう。

 

「ああ、『助けて』くださったのは貴方でしたか」

 

 そして、どうやら感情的になりそうなキャッティを抑えて前に出たのは、妙に板についた友好的な笑みを浮かべたクラディールだ。つーか、何だよ、キャラ変わってんぞ。

 

「私はクラディール。彼女がキャッティ、こちらはクゥリ。私の姪と甥です」

 

「ほう。ご家族でパーティを組まれている訳か。それは大変だな。うんうん! 俺は【サンライス】だ。【太陽の狩猟団】の団長を務めている!」

 

 サンライスから迸る馬鹿オーラに毒気が抜かれそうだが、オレはサンライスの背後に控える、痩せた女と目が合い、最悪なパターンだな、と内心で舌打ちする。

 淡い紫色の髪をした大きめの弓を持つ女。年齢は20歳半ばといったところか。髪の色同様の口紅をしており、その目にあるのは狡猾な蛇のような眼光だ。

 

「彼女は副団長の【ミュウ】だ! 弓隊を仕切っている!」

 

「ミュウです。以後お見知り置きを。団長、ここからは私が」

 

 サンライスと並んだミュウは170センチはあるだろう長身で、クラディールを前にしてシステムウインドウを操作する。

 

「まずは謝罪を。あの黒い騎士は相当な強敵と思われましたので、貴方達が巻き込まれるリスクを承知で曲射攻撃をさせていただきました」

 

「それで、ですか。いやはや、突然矢が降って来て驚きましたよ。『ほら、このステージではスコールが良く降るじゃないですか。でも雨じゃなくてまさか矢が降るなんて思ってもいませんでしたよ』。なぁ、キャッティ?」

 

 突然話を振られ、肩を跳ねさせたキャッティはしどろもどろになる。だが、振り返ったクラディールの食い殺さんばかりの眼光に、彼女は委縮して小さく頷いた。

 

「そ、そうね、クラディール……おじさん?」

 

 一応は姪と紹介された為か、後付けで『おじさん』と付けたキャッティだが、完全に混乱しているのだろう。オレに説明してくれと訴えるように視線を向けるが、解説して欲しいのはオレの方である。

 だが、少なくとも誰よりも先に【ガルム族の英雄ラーガイの記憶】にいるオレは、このステージでスコールが降るなど記憶にない。つまり、クラディールはミュウに対して嘘を吐いた事になる。

 

「あら、そうなんですか。私は『このステージでスコールが降るなんて聞いた事ありませんけど』、そういう事なら対策を準備しておいた方が良さそうですね」

 

 不敵な笑みでミュウは切り替えす。意図はクラディールだけが知るところだろうが、一体どんな知略を巡らせているのやら。

 オレは回復を行いながら、ミュウの背後で毅然と整列する総勢12名の弓を所持するプレイヤー達を観察する。

 いずれも同じ武装、同じ防具を装備している。【狩人の帽子】を被り、ミュウとは違って通常サイズの弓を所持している。確か【コンポジットボウ】だ。TECよりもSTRが要求され、飛距離は短いが、その分威力が高い弓である。矢はいずれも鉄の矢だ。

 そして、遅れて密林の中から登場したのは、分厚い大盾と槍の中でも特に貫通特化のランスを装備した4人のプレイヤーだ。大盾は確か【タワーシールド】だ。物理攻撃の防御に優れた大盾である。一方で纏う鎧や兜には所々に青のラインが入っている。ディアベルが持っていたブルーシールドと同じ塗装ならば、物理防御と魔法防御の両立を行っているのだろうか?

 更に10名余りの片手剣と盾を所持したプレイヤー達が現れる。こちらも弓隊や槍隊と同じでまったく同じ武装と防具だ。

 狩猟団よりも軍隊の方が適切じゃねーのか? 一糸乱れもない20名以上のプレイヤー達を前にし、オレはこの数を相手にした場合は逃げる以外にないな、と逃走路を探しておく事にする。

 

「それでミュウさん。幾ら助けていただいたとはいえ、我々のHPが危険域だった場合、最悪あの矢の雨で死んでいたかもしれない。もう少し穏便な手段は無かったのか教えていただきたい」

 

 にこにこ。そんな擬音が相応しいだろうクラディールの笑顔は、どうにも彼の本性を知っているオレからすれば吐き気がしそうだ。

 つーか、コイツらはオレらを助けたわけではないだろうに。単純にレアモンスターだろう黒騎士の横取りを、オレ達が死ぬかもしれないリスクと秤にかけた上で行っただけだ。

 

「その点はご安心を。我々の『偵察員が貴方達のHPには余裕がある事を確認し』、なおかつ矢は威力の低い木の矢に切り替えた上での攻撃です」

 

「そうでしたか。これは失礼を」

 

「いいえ。ですが、私達が貴方達を『意図せずとも』攻撃してしまったのは事実。こちらはお詫びの品です。どうかお納めを」

 

 そうしてクラディールが受け取ったのは燐光草の束だ。せいぜい10個といったところだろう。

 黒騎士からのレアドロップからすればお釣りがくるだろう、安価な回復アイテムで済ませるつもりか。とはいえ、この場で言い争っても仕方ないだろう。元よりオレに怒りなど無い。むしろ、大体の事情が呑み込めたので、さっさと攻略に戻りたいくらいだ。

 

「これはご丁寧に。ありがとうございます」

 

「これからどうなさりますか? 我々はこれより『このダンジョンを攻略しようと思いますが』、よろしければご一緒にどうですか?」

 

「残念ながら我々も武器の損耗が激しいので、『また後日にでも改めてダンジョンに挑もうかと』」

 

 嫌な笑みを交差し、クラディールとミュウは互いに軽く会釈して背を向ける。

 途端に感情を消し去った能面のようになったクラディールはオレの耳元で囁く。

 

「さっさと行くぞ。腐った因縁ほど食えたものはないからなァ」

 

 まぁ、それは確かにその通りだ。

 クラディールに従いながら、オレは1つの疑問を弄ぶ。

 サンライスって何だよ。サンライズじゃねーのかよ。どういうネーミングなんだろうな。




黒騎士「ただのやられ役じゃないですかー! しかもほぼ毒殺じゃないですかー!」


それでは、次こそ黒騎士が活躍できる可能性があるかもしれない26話を祈って、

Let's MORE DEBAN!

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