SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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何気なくAm○zonで検索してみたらワニの肉を販売していました。
幾らなんでも品揃えが良過ぎるのではないでしょうか?

もちろん即購入させていただきました。



Episode6-1 トレード

 クラディールが欲する新たな剣の名は【破砕の石剣】という両手剣だ。

 ガルム族の3代目族長が使用したという、刃が無い剣である。切っ先も尖っておらず、剣というよりも直方体に柄をつけた鈍器だ。事実として斬撃属性ではなく純粋な打撃属性のみであるらしい。

 だが、これは逆に言えば≪両手剣≫のモーションとソードスキルで純然たる打撃攻撃を与えられるという、極めて有効な武器に他ならない。それだけにプレイヤー側からすれば垂涎の品である事は言うまでも無いだろう。

 問題はその入手方法だ。実は、破砕の石剣自体はヒムンバの武器屋に堂々と展示されている。だが、価格がなく、あくまで武器としての性能を確認できるに留まっている。

 では、どうやって入手するか? それはクラディール自身がしつこく店主に売ってほしいと交渉してみた結果、偶然発生したイベントをクリアする必要があった。

 イベントの名前は【思い出の指輪の捜索】である。店主のガルム族の男は、どうやら過去に人間の女と恋に堕ち、駆け落ちを志したそうだ。しかし、女はそれを両親に気づかれ、処刑されてしまったという。女の遺体は八つ裂きにされ、遺品と共に【忘れられた井戸】に放り込まれたそうだ。

 この忘れられた井戸から女の遺品……彼女の指輪を見つけ出す事。これがイベントの内容だ。

 

「それで、忘れられた井戸って何処にあるの?」

 

 ぐびぐび。そんな音が聞こえてきそうな飲みっぷりで、キャッティは湯上がりの牛乳を飲み干す。本来なら彼女は珈琲牛乳派であるが、無いならば仕方無しと牛乳を飲む事にしたのだ。

 対してクラディールは女性の前にも関わらず、タオルを腰に巻いただけの姿で、オレに勝利の眼差しを向けながら空になった牛乳瓶を見せつけている。

 味の分からない奴らめ。オレは彼らを哀れみながらフルーツ牛乳の瓶をゴミ箱に投げ捨てる。綺麗にシュートが決まると同時に瓶が砕けて光となる音がした。

 

「店主によれば、その死んだ女が暮らしてた村があるそうだ。だが、その村は呪われ、全ての住人が死んじまったそうだ。今じゃ村も密林に呑まれちまって、何処にあるかも分からなくなっちまったらしい」

 

「情報を集めるのが大変そうね。その分報酬も良いんだろうけど。とりあえず聞き込みしてみる?」

 

「それしかねーだろ。手分けして探そうぜ。お互いソロだ。固まってないと心配ってわけでもじゃねーだろ?」

 

 2人とも同意して頷く。集合場所は公衆浴場の食堂にし、オレ達はそれぞれ情報を集めるべく別れた。

 しかし、忘れられた井戸か。どうにもダンジョンっぽい名前だな。十二分に準備しなければ痛い目に遭うかもしれない。

 そうなると、クラディールだけではなくオレも新たな武器を探す必要がある。暗器を鉤爪から四方手裏剣に切り替え、クレイモアの耐久値が十分である事を確認し、問題の武器であるガルム族の手斧をオレは嘆息と共にメインウェポンから落第させる事を決める。

 確かにガルム族の手斧はレアアイテムであり、火力も申し分ない。だが、オレが扱うには余りにも重過ぎる為に武器に振り回される。結果的に黒騎士戦では武器としてよりも盾としての役割を担う事になってしまった。火力は大きく劣るが、より小回りの利く武器が欲しい。NPCに聞き込みしながら、新しい武器を探さねばならないだろう。

 ガルム族は見た目が狼であり、いずれも身長は2メートル超えである。オレは首を上に傾けるようにして、彼らに声をかけねばならない。いや、別に慣れてはいるからどうでも良い。低身長の宿命だ。

 だが、やはり慣れていても疲れるものは疲れる。やはり、人間というのは元来見上げる生物ではなく見下ろす生物なのだとつくづく実感する。幸いにも仮想世界に肩凝りはないはずだが、疲労感が肩に溜まった錯覚は免れない。

 そういえば、SAOではマッサージ店があったな。そこの常連と言えばヒースクリフで有名だったが、かの天才・茅場晶彦も疲労には勝てなかったという事だろうか。

 

「しっかし、全然情報集まらなねーな」

 

 かれこれ聞き込みを開始して3時間。片っ端からNPCに声をかけてみたが、誰1人として忘れられた井戸について知りえていない。

 武器屋の店主はそれなりに高齢だ。そうなると店主と人間の女のラブロマンスが発生したのはゲーム時間で言えば、この【ガルム族の英雄ラーガイの記憶】の現時点よりも更に過去という事になる。

 ならば若いガルム族は知らないだろう。ならば、いっそ人間の街で聞き込みすべきだろうか? 呪いで人間の村1つが滅んだならば、何かしら情報があるはずだ。大抵そういう情報をくれるのはご老人方だし、それをターゲットにするか。

 

 

「おや、何処かで見た顔かと思えば」

 

 

 オレが新たな方針を決めかけていた時、聞き覚えのある声が雑踏の先がする。

 腰かけていた塀から跳び下り、オレは歩み寄って来た人影に、こういう縁もあるのかと苦笑する。

 以前とは異なり、軽装の半透明の胸部アーマーを装備し、近未来的な警備兵士のような恰好をしたジャック・スミスだ。

 彼の事だから最初に選べる4つのステージでは『終焉の時代』に行って銃器を得ただろうと思っていたが、どうやら武装と防具からして当たりのようだ。

 問題なのは、『終焉の時代』に赴いたならばこの『神の時代』に来る為の記憶の余熱がスミスには残っていないはずだ。一体どうして彼がここにいるのだろうか?

 

「君の顔に描かれている疑問に答えるならば、つい先日、私がいた【ラフェー警備隊の記憶】は攻略され、私は無事に記憶の余熱を入手してね。このステージが未攻略で面白そうだから来てみたら、偶然君と再会したわけだ」

 

「説明ご丁寧にどーも。つーか、もうボス斃したのかよ。早過ぎ……って程でもねーか」

 

 思えばSAOでも最も攻略に手間取ったのは第1層であり、その後は飛躍的に攻略速度が増していった。ならば、このステージに10日間以上いるオレが知らぬ間に他のステージが攻略されたとしてもおかしくない。

 

「残念ながら、私はボス戦に参加できなかったがね。どうやら桁外れに強い2人組がボスを斃してしまったようでね、ボスの姿すら見ていない」

 

「え? マジ?」

 

「つまらない嘘は吐く気はないさ。それに、そう驚くべきことでもない。ボスはどうやら2パーティ限定参加、最大12人のレイドで挑めるボスだったようだからね。2人だけというのは些か無謀だが、私と君、それにイーグルアイ君とシノン君の4人が組めば斃せないレベルでもない。その程度の話だろう」

 

 相変わらず煙草を咥えるスミスは紫煙漂わせ、事も無げに言う。

 まぁ、確かにその通りと言えばその通りだ。他でもない『アイツ』がSAOの74層のボスをほぼ単身で撃破したらしいし、不可能ではないのだろう。

 

「その2人ってどんな奴らなんだ?」

 

「私も伝聞でしか知らないものでね。残念ながら容姿は不明だ。だが、どちらにしてもそれ程までに強いプレイヤーだ。いずれ顔合わせをする機会があるだろう」

 

 軽い調子でスミスは話を区切る。本当にこの男の余裕は何処から来るのだろうか? 実は茅場晶彦だったとか、そういうオチじゃねーだろうな。

 今度はオレの情報を吐くべきだろう。スミスに対し、このステージの概要と目下警戒すべき対象である太陽の狩猟団について説明する。

 しばしの間、スミスは煙草を咥えたまま黙っていたが、やがて吸い終わると長々と息を吐く。その目には面倒事が増えたと物語るような気怠さがあった。

 

「派閥というものは結束には不可欠なものだが、どうにも好きになれんな。やはり我が身だけで何とかなる内は何処にも属したくないものだ」

 

「自衛官の言葉かよ、それ」

 

「自衛官だからこそだ。結局のところ、国同士の諍いも派閥争いとそう変わらん。いかに自分のグループに利益を誘導できるか、地位を守れるか。それに尽きるからな。見てる分には面白いが、巻き込まれるとなると身の振り方を考えなければならない。中立など所詮は夢物語だからな。完全なる中庸など存在しない」

 

「あー、そういう面倒な話は良いから」

 

「それもそうだな。今の私はソロプレイヤーの【ジャック・スミス】だ。現実世界の自衛官ではない。ただ、先程の派閥の話だが、最低限は頭に叩き込んでいてくれ。この先、必ず荒れるぞ」

 

 それくらい分かっている。かつて、SAOではアインクラッド解放軍、聖竜連合、血盟騎士団の三つ巴があったのだ。オレはいずれにも属していなかったがいろいろと因縁は腐るほどある。特にこれらの派閥争いには何度も関わった。

 特にアインクラッド解放軍と聖竜連合は【渡り鳥】として……傭兵として多くの依頼を受けた。その中には他のギルドへの妨害工作や偵察なども含まれていた。中にはギルド間の抗争で殺害されたプレイヤーの仇討ちを依頼された事もある。もちろん、依頼の多くには穏便なレアアイテムの収集や低レベル層の護衛も含まれていたが。

 血盟騎士団からはギルドとしてはなく、個人プレイヤーとして幾度か依頼があったな。多分、オレにギルドとして依頼することは【閃光】が拒絶していたのだろう。

 まぁ、節操なしに依頼を受けたせいで聖竜連合には口封じで消されそうになった事もあるし、アインクラッド解放軍はシンカーを中心とした穏健派が台頭して以降は縁を切られた。血盟騎士団とは嬉しくもない鬼ごっこ状態。

 ……あれ? オレって事実上詰んだ状態だったんじゃないか? よく生き残れたものだ。

 

「さて、そうなると現状で存在するのは3つの大組織だ。1つは君も良く知るディアベル派だ。彼を英雄視して結成された【聖剣騎士団】なるものが既に出来上がっている。上位のプレイヤーが中心で、何人かのトップクラスのプレイヤーも既に傘下に入っているようだね」

 

「聖剣騎士団ねぇ……血盟騎士団のDBO版ってところか」

 

「そして、件の太陽の狩猟団だが、名前を聞いたのは初めてだが、小耳に幾度か君の情報にある容姿のプレイヤーが率いる集団があると挟んだことがある。リーダーは気持ちの良い熱血漢のようだが、補佐の女プレイヤーがかなり厄介という話だ。聖剣騎士団に比べればプレイヤーの質は劣るが、それ以上に組織的かつ数の有利がある」

 

 サンライスはやはり熱血馬鹿か。オレの予想通りだな。そして、ミュウはやっぱり関わり合いになるのは避けた方が良さそうだ。

 スミスは新しい煙草を咥えて火を点ける。傷だらけの銀色のオイルライターは彼の雰囲気と合っていた。

 

「最後に、いずれ台頭するだろうルーキーの育成を行っている組織だ。終わりつつある街周辺でルーキーを育成しているリターナーがいる事は知っているだろう?」

 

「知ってるも何も、十中八九だけどオレの知人だ」

 

 追加で言えば、SAO時代のお得意様だ。サボテン頭の男を思い浮かべ、オレは話の続きをスミスに急かす。

 

「どうやら育成を終了したプレイヤー達を率いて攻略に乗り出すつもりらしい。低レベル層からの支持も強いからな。今後で1番警戒しておく必要があるかもしれないな」

 

「……随分と詳し過ぎねーか?」

 

 余りにも情報を持ち過ぎているスミスにオレは驚かざるを得ない。だが、彼からすればむしろオレの言葉の方が呆れの対象のようだ。

 

「現代の戦争とは即ち情報戦だ。ましてや私達はソロだぞ? 大組織からすれば目障りな鼠さ。火の粉どころか大火そのものが襲ってくるかもしれない立場だ。君も情報屋の1人や2人とは懇意にしておけ。情報は何よりも有力な武器だ」

 

 そう言ってスミスがオレに投げ渡したのは1枚の名刺だ。

 

 

〈『情報売ります!』信頼1番! お値段2番! お気持ちはプライスレス! 情報屋『白百合』リリー!〉

 

 

「……なんだよ、このキャバ嬢みたいなラメたっぷりの目に優しくない名刺は」

 

「見ての通り情報屋の名刺だ。詳しい連絡方法は裏に記載されている。私の紹介と言って名刺を見せれば信用してもらえるだろう」

 

「情報精度は?」

 

「……ゴシップネタが少々多過ぎる気もするが、参考程度にはなる」

 

 視線を逸らしたスミスの副音声の警告を受け取り、オレはアイテムストレージに名刺を入れる。

 真に有用な情報屋はスミスも教える気はないのだろう。それは虫が良過ぎる話だし、そうした情報屋はオレ自身で見つけ出さなければ信用を得られないはずだ。

 まぁ、オレがそれなりのプレイヤーになれば自ずと向こうから寄って来るだろう。情報屋も商売だ。金のあるプレイヤーに情報を売りつけようとするはずである。

 

「しかし、話は変わるが、君は随分と重そうな武器を扱っているな。戦い方を変えたのかい?」

 

 オレの腰に下げられたガルム族の手斧を煙草で指しながらスミスは問う。

 

「いいや。オレもコイツは持て余してるところさ。重過ぎてオレには使えねーからな」

 

「私の勘だが、それなりのレアアイテムだろう?」

 

「ん? ああ、そうだな」

 

「ならばトレードしないかい?」

 

 意外なスミスの申し出にオレは訝しむ。

 オレは改めてスミスの武装を確認する。彼が背負っているのは新しい武器だろう、2つの銃口が備わった2連装の銃身が長い銃を背負っている。メタリックカラーで相応の重量はあるだろうが、彼の戦闘スタイルは銃と剣の連携であり、この重過ぎるガルム族の手斧は装備重量が嵩み過ぎて彼には不利益を被らせるだけだろう。

 オレの意図を感じ取ったのか、疑念を解消する……気があるのか知らないが、スミスはやや頬を吊り上げる。

 

「使えない上に使う予定もない武器など宝の持ち腐れだ。ならばトレードし、自身の戦闘スタイルに合わせた実用性を持つ武器を入手する。私達ソロにとって何よりも優先せねばならないのはアイテムのレア度ではない。実用性と有用性だ。生死に直結する武器への投資は惜しむべきではないだろう?」

 

「それは理解できる。でも、お前にとってもコイツはお荷物じゃねーか」

 

「その点は問題ない。私も少々欲しているアイテムがあってね、所持しているプレイヤーと交渉しているのだが、多額のコルを積むか高火力高重量武器でのトレードで何とか話が纏まっているのだよ」

 

 なるほど。それでか。オレはスミスがペラペラと無償でオレに情報を分け与えた意図を察知する。

 いかにボス戦を共にした戦友といえども信頼と信用は充分ではない。そこで先に自身の持てる情報を明かして関係を築いた上でトレードを持ち掛けるつもりだったのだ。

 最初からスミスの狙いはオレとのトレード。そうと読めれば悩む必要などない。

 

「良いぜ。でも、オレにはどんな武器をくれるんだよ」

 

「ふむ。そうだな。君の戦い方とトレードアイテムのレア度を考えれば、『これ』が妥当だろう」

 

 そう言ってスミスがアイテムストレージから取り出したのは、2本の小型の鎌だ。片手持ちサイズであり、歪曲した刃に柄が取り付けられ、鋼のように見える刀身は巨大な生物の爪のようだ。しかも刀身には何やら不気味な文字が血で書き込まれている。

 

「武器名は【双子の魔爪】だったかな。トレードして得た武器だが、どうにも手に馴染まないものでね。斬撃属性と珍しい闇属性を持っていて、柄頭同士が魔法の紐で繋がっているから、好きな時に実体化させて繋ぎ合わせることができる」

 

 なるほど。確かにレア度が高そうな武器だ。いや、そもそもトレードにおいて騙せばその後の信頼感を失う。スミスの言う通り、ガルム族の手斧と釣り合うのだろう。

 

「この武器の素晴らしいところは武器枠1つで実質2つの武器を装備できる事だ。しかも軽量で、いつでも実体化できる紐で繋がっているから投擲後も回収が容易。武器のカテゴリーは≪戦斧≫だし、君には丁度良いだろう?」

 

「コイツは良いな。トレード成立だ」

 

 オレはガルム族の手斧をスミスに送り、オレは双子の魔爪を得る。

 鎌とは武器としては使い辛いが、どうせ似たような武器であるウォーピックを使い慣れているオレだ。問題はないだろう。

 武器としての火力は2つで1つの武器という事もあって低めである。片方ずつに耐久度があるものも、≪戦斧≫にしては低い。だが、それを補うだけの軽量さがある。しかもSTR依存が多い戦斧でありながらTECがボーナス対象だ。

 トレードか。悪くないな。今後は積極的にレアアイテムを集めてみるとするか。にやつきそうな顔を我慢しつつ、オレは物の序でだと忘れられた井戸について尋ねる。

 

「悪いが、このステージに関しては君以上の知識はないだろうね。力になれなくて残念だが」

 

「別に構わねーよ。駄目で元々だったしな」

 

「だが、ヒントくらいなら与えることができるだろう」

 

 知識はないがヒントは与えられる。矛盾したスミスの言葉にオレは混乱しそうになるが、コイツは元々そうして人を混乱させるのが得意そうだし、一々ツッコミを入れない方が良いだろう。

 2本目の煙草を吸い終えたスミスは、まるで出来の悪い子供に教えるかのように、言葉をゆっくりと並べ始める。

 

「君の情報によれば、その忘れられた井戸とやらは滅びた村にあるのだろう? しかも、その村は呪いで滅んだ。ここまでくれば、後はステージの要素との『齟齬』で分かるというものだ」

 

「さっさと言えよ」

 

「簡単な話さ。君が教えてくれたこのステージで登場するモンスター。その中に仲間外れがいるんだよ。存外、君達は既に忘れられた井戸の場所を知らぬ間に知ってしまっているかもしれないね」

 

 それだけ告げるとスミスは背を向けて、手を振って別れを告げる。そのまま現れた時と同様に雑踏に消えた彼をオレは黙って見送った。

 ステージの要素との齟齬? スミスには、オレには見えなかった何かが見え、忘れられた井戸の場所も想像がついたのだろうか? 

 

「何にしてもクラディールとキャッティにメッセージを……って、アイツらとフレンド登録してねーじゃん、オレ」

 

 早速ヒントについて尋ねようと思って2人にメッセージを送ろうにも、肝心要の2人とフレンド登録していない。辛うじてパーティ同士ならば同じエリア内ならば居場所を確認する事ができる。実際に足で赴く他ないだろう。このままNPCに聞き込みしていても無駄足かもしれねーしな。

 まずはキャッティからだ。彼女はどうやら市場のある大通りにいるようだ。早足でオレは彼女の元に向かう。

 キャッティは直ぐに目についた。NPCはガルム族ばかりで人間といえばプレイヤーか行商人NPCしかいない。彼女に駆け寄ろうとしたオレだが、咄嗟に物陰に隠れる。

 

「うん。だからね、これから一緒にどう?」

 

 キャッティに話しかけているのは、彼女よりも少し年下そうな少女だ。オレと同い年くらいか、あるいは少し下か。ショートカットの髪をした活発そうな女の子だ。少女の後ろには背の高い男と肩幅ががっしりとした男の2名がいる。

 無論、オレはその3人に見覚えが無い。そうなると少なくとも腐敗コボルド王戦に参加したプレイヤーではないだろう。それだけでも分かって一安心といったところだ。

 ならばキャッティの知人だろうか? 彼女もソロとはいえ、これまで誰とも関わらずに攻略してきた訳ではないだろう。

 ……何やら話し込んでいるみたいだが、物陰からでは途切れ途切れしか聞こえない。かと言って、≪魔法感性≫の為に空けているスキル枠の1つを盗み聞きしたい為に≪聞き耳≫スキルで潰すわけにもいかない。

 仕方ない。下手すれば危険な事になるが、≪気配遮断≫を使うか。まぁ、堂々と出て行っても良いのだが、どうにもキャッティの表情からして穏やかな話題じゃないみたいだしな。

 

「キャッティさんには以前助けてもらったし、私達としても3人だけじゃこれからの攻略には心許ないの」

 

「でも、ほら、私……今ね、別の人とパーティ組んでるから」

 

 物陰から飛び出し、建物の屋根にのってキャッティ+3人組の真上まで移動する。ここからならば十分に声が聞こえる。

 どうやら話の内容はキャッティに対するパーティ参加のお誘いのようだ。

 

「でも、もう解散するんだろう? だったら丁度良いじゃないか」

 

 身長の高い男が渋るキャッティに対して言う。どうやら既にキャッティはオレ達と解散が近い事をゲロった後のようだ。

 

「で、でもさ、やっぱりパーティ組んでる内に他のパーティに入る事を決めるなんて不誠実だしさ」

 

「そんなの気にする事無いだろ。どうせソロ同士が組んだだけなんだし。俺さ、このステージに来て間もないけど、終わりつつある街の周辺や北のダンジョンとは比べ物にならない位に難易度が上がっているよ。このままソロでやっていくなんて無茶だ」

 

 そう反論するのは肩幅が広い男だ。確かに北のダンジョンのように硬くて高火力のモンスターはいないが、その分デバフ攻撃がヤバいからな、このステージは。難易度で言えば格段に違うだろう。

 肩幅の広い男の言う通り、このまま攻略が進行し続ければソロの死亡率は高まるだろう。そうなれば、パーティを組むか、いずれかの既存の組織に属するか、選ばねばならない時が来る。……オレ? オレにそんな日が来るはずがない。SAOで3年以上もそんな機会を見事に粉砕し続けたから【渡り鳥】なんて呼ばれていたのだから。

 受けてしまえ、キャッティ。オレは頭上で見守りながらエールを送る。どうせ彼女の戦い方はパーティ前提のものだ。実力が伴った仲間さえいれば、彼女は存分に本来の能力を発揮する事が出来る。そうなれば生き残る確率も高まるというものだ。何よりもオレがわざわざ忠告する手間が省ける。

 

「もちろん、キャッティさんが嫌なら無理には誘わない。でも、一緒に戦ってくれるなら心強いし、私も嬉しい。だから、少しで良いから考えてみて? 3日……ううん、4日後、初代族長の石像前で正午に待ってるから、その時に返事を聞かせて」

 

 キャッティの手を握り、少女は笑いかける。素朴な田舎っぽい子だが、素材は良いな。磨けば光るタイプみたいだし、性格も天然記念物並みに良さそうだし、お近づきになりたい。糞が! やっぱり普通に登場すれば良かった!

 少女と野郎2人はキャッティに深々と頭を下げて去っていく。どうやら大恩があるようだ。

 つーか、キャッティ、何故即答しなかった? オレは隠れていた意味がないと分かりつつ、軽やかに屋根の上から跳び下りる。

 

「クゥリ!? あ、貴方いつからそこにっ!」

 

「最初からだ……って言いたいところだけど、残念ながら勧誘話が始まった辺りからだ」

 

「そ、そう。別に聞かれて困る話してたわけでもないし、別に良いけど」

 

 どうやら盗み聞きしていた事を咎める気はないらしい。1発殴られる事を覚悟して登場したんだけどな。

 いや、違う。キャッティにオレを怒鳴りつけるような、オレが盗み聞きをしていた事に感情を回せる程の余裕がないだけだ。その証拠に、彼女の目は戸惑いで揺れ、表情にも暗い影が差している。

 ……クラディールさーん、こんな時に颯爽と現れるのが大人の役目ではないでしょうか?

 だが、オレの祈りも虚しくクラディールが出現する気配はない。オレみたいに≪気配遮断≫使ってやがったらぶち殺してやる。

 

「……腹減ったし、メシにしようぜ。年下様が奢ってやるよ」

 

 どんな悩みがあるのか、それを問い質し、解消してやるような気は毛頭ない。オレにできるのは、せいぜいこの程度の気遣いだ。

 だが、腹を膨らませて、オマケに美味い物を食べれば気分も晴れる。そうすれば何か変わるだろう。

 やっぱりソロの方が気楽だ。メンタルケアとかオレの領分じゃねーんだよ。まったく、面倒な事だ。




オマケ~本当にあった怖い話↓↓閲覧注意↓↓~


夜起きたら、ペットの猫が後ろ足で立って小躍りしていました。
見間違いだろうと思ってそのまま目を閉じて寝る事としました。
朝起きたら、猫は私の隣で寝息を立てていました。
やっぱり夢かと思って顔を洗っている時に気づきました。
私は独り暮らしで、ペットの猫は実家にいるはずだ。
振り返ると猫はいませんでした。ですが、布団には猫の毛が落ちていました。
不安に駆られて両親に電話してみると、猫は私の部屋のベッドの上で眠っているとの事でした。


↑↑ここまで怖い話↑↑

不思議な事とはいつ起こるか分からないものです。
皆様もご注意ください。

それでは、皆さんの家でも摩訶不思議なミステリーが起こる事を28話に願って、

Let's MORE DEBAN!

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