SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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今回は特に暴れ回ることがない穏やかな回です。




テキブタイヲカンチ
ソウテイドオリノルートヲシンコウチュウ
ジョウホウヨリスクナイ
ラクショウデス


Episode8-3 朝霧の魔女

「す、凄い便利です! これがクーさんが言う『しすてむういんどう』なんですね!?」

 

 誰か助けてください。オレは無邪気にシステムウインドウの出したり消したりを繰り返しているユイの笑顔が眩し過ぎて、彼女に何も伝えられないままだった。

 相変わらずプレイヤーカーソルを頭上に、ユイはまるで生まれて初めてシステムウインドウを操作したかのように、ぎこちない動作で一つ一つの項目を新鮮そうに眺めている。

 仮想世界にログインして記憶喪失が起きたなんて話は聞いた事が無いが、そもそも茅場晶彦が生み出し、茅場の後継者が発展させた技術だ。いかなる恐ろしいトラップが仕掛けられていてもおかしくない。

 そこで、オレはまずユイから聞き取り調査を行う事にした。彼女の様子からオレを騙そうと嘘を吐いているわけではないだろう。ならば、記憶喪失になるような何らかの要因を受けて、このエリアに幽閉されてしまったプレイヤーなのではないかと考えたのだ。

 結果から言えば、ユイは少なくともオレがDBOにログインするよりも前、ベータテストが行われたよりも更に前、更に更に言えばアミュスフィアⅢが発表された1年前よりも前からこの【朝霧の魔女の牢獄】に閉じ込められている事が分かった。

 この時点で、ユイはやはりNPCの類なのではないかと疑った。プレイヤーカーソルなのは茅場の後継者が犯したケアレスミスなのだろうと。

 だが、ユイはプレイヤーにのみ許された特権であり、NPCからすればメタ機能であるシステムウインドウの出現に成功させてしまった。つまり、この時点でユイは正真正銘のプレイヤーである事が確定してしまったのだ。

 

「そうだ。このVITとかSTRとか3文字アルファベットで書かれているのが基本ステータスだ。コレにポイントを振る事で自分を強化できる」

 

 そして、オレは手取り足取り、初心者にゲームを教えるようにDBOの基本知識をユイに与えていく。

 驚かされたのは、ユイの恐るべき情報に対する受容能力と吸収能力だ。オレが1を教えれば10を自分で気づき、即座に応用して別の事まで理解する。知識を疑いなく受け入れて噛み砕き、自分の物にしていく様は目を見張るばかりだ。

 さすがに仮想世界を『本物の世界』と思い込んでいるらしいユイに、いきなり『ここは現実じゃなくてゲームの世界なんだ』とは言えていないが、この様子ならば自分で真実までたどり着けそうで少し恐ろしい。

 

「ユイのレベルは28か。オレよりも高いな。つーか、コレって現段階じゃ誰も到達してねーと思うぞ」

 

 オレのレベルは22で、もう間もなく23に到達する。オレは少なくともボス戦を2回経験し、なおかつ既にプレイヤーを9人も殺している。間違いなくDBOでもトップクラスの経験値を溜めているはずだ。オレの予想だが、現状でのレベルのトップは26程度だろうと思っていたが、ユイはそれを2も上回っている。

 ただし、彼女のステータスはレベルアップポイントはおろか、チュートリアル時にもらえる初期成長ポイントすら振られていない。つまり、まるでステータスを成長させていないのだ。

 

「お前さ、普段からモンスターと戦うのか?」

 

「ご飯の材料を取りに行く時くらいですね。襲ってくるモンスターだけ倒しています」

 

「なるほど。通りでな」

 

 この辺りのモンスターの経験値もコルも低めとはいえ、1年以上……ユイの話によればもっと前から彼女はこの地下区画に幽閉されている。生き抜く為にユイはモンスターと戦い続けたのだ。その成果がこのレベルというわけだ。

 

「ちなみに武器はどうしていた? 素手ってわけじゃねーだろ」

 

「武器ですか? アレを使っていました」

 

 ユイが指差したのはベッドの脇に置いてある、1メートル級の杖だ。金、銀、銅の3匹の蛇が絡み合った装飾が施された黒っぽい木製の杖だ。

 承諾を得て杖の確認をし、オレは頭を抱える。杖の名前は【失楽園の杖】。ユニークアイテムの上、ほぼ無限に等しい耐久値だ。修理無しで使い続けられるのも納得の武器である。

 

「これでひたすら殴り続けたわけか。グロい戦いだな」

 

 自分の事を棚に上げて、オレはユイを恐ろしい物でも見るように見つめる。あの人肉花をソードスキル無しでひたすら杖で殴り飛ばすとか、意外とアグレッシブな娘さんなのかもしれない。

 だが、ユイはオレから杖を取り返し、軽く掲げる。すると彼女の前に青い光の玉が生まれた。

 ゆらゆらと人魂のように揺れる青い光の塊。オレには見覚えがあった。確かミリアが使った【ソウルの矢】とかいう魔法だ。

 

「体が教えてくれたんです。どうすれば『コレ』が使えるのか。他にも幾つかありますよ」

 

 寂しげなユイに、オレは自身の勘違いに気づく。1年以上も独りぼっちだった者が自らの過去を振り返らないわけがない。聡明な彼女だ。自身が記憶喪失である事など、すぐに気付いただろう。

 

「そんな力があるんだ。逃げ出そうと思わなかったのか?」

 

 ソウルの矢以外にも魔法が使えるならば、鈍い人肉花程度ならば遠距離から斃すのも難しくないはずだ。それならば、この地下区画から抜け出そうと試すはずだ。

 これにはオレの推測を外してもらいたいという願望もある。即ち、このダンジョンから脱出不可能という事だ。仮にオレが入って来たルートが正規のものであるとするならば、外縁部からロープを垂らしてもらう以外に脱出する方法は無い事になる。

 

「無理なんです。この首輪のせいで」

 

 そう言って顎を上げ、オレにユイは首元を見せた。どうでも良いが、なんか仕草がエロく感じるな。あれだ。男を誘ってない健全で清らかなエロさだから余計に……

 

「……ッ!?」

 

 急に背筋に冷たい物を感じ、オレは振り返り、危うく抜刀しそうになる。

 い、今のは何だ? 何処か懐かしい……そう、これは【閃光】に追い回されていた頃によく感じた殺気だ。しかも鬼ごっこしていた時よりも数倍濃い。

 ……やっぱり疲れてるな。ここにはユイ以外に誰もいないはずだ。オレも神経質になり過ぎているのかもしれない。もっと肩の力を抜いていこう。

 

「どれどれ。……何だよ、コレ。犬じゃあるまいし」

 

 ユイの首にははまっているは、赤い塗装が施された革ベルトだ。留め金の部分は外れる気配が無い。

 試しに軽く触れてみるが、オレが触れた瞬間に紫色のエフェクトが発生する。破壊不能オブジェクト……いや、アイテムか。

 

「システムウインドウの装備画面を出して見せてみろ」

 

「分かりました。どうぞ」

 

 すっかり慣れた手つきでシステムウインドウを表示し、ユイはオレに見せる。本来ステータス画面や武器画面を他者に見せる事は極めてリスキーだ。自身のステータス構成、所持スキル、装備に至るまで明かしてしまえば、何が得意で何が弱点なのか見抜かれてしまうからに他ならない。

 そういう意味では、まだユイはこれらの重要性に気づいていないのかもしれない。あるいは、新しい知識を与えてくれたオレを信用してくれているのだろうか?

 

「やっぱりな。装飾品で首に変なアイテムが装備されてやがる。装備解除は不可か。『この武器は呪われています』ってか?」

 

 ユイの首の装飾品として装着されているのは【ケダモノの首輪】だ。アイテム説明によれば、かつて単体でありながら人類種を滅びの間際まで追い詰めたとされる獣の首にあったとされる首輪らしい。どんな怖い獣だよ。しかも人類総出でも対等以上で暴れ回って殺しまくったとか恐ろしい事が書いてあるぞ。

 この首輪の特筆事項は『自分で外すことができない』及び『自分では装備できない』、『装備させた側の制約によって行動や言動を制限させる』という能力だ。

 明らかにバランスブレイカーのアイテムだ。ユニークアイテムなのが救いだな。こんなアイテムがゴロゴロあったら奴隷の大量生産だ。

 

「具体的にどんな風に制限されているか、説明できるか?」

 

「この階から下には1階しか降りれません。上は……分かりません。とても危険で、私1人じゃ……」

 

 俯いたユイの声は諦めで枯れていた。自由を求めているのは他でもない彼女自身という事だろう。

 ステータスという概念が無い故に自身を強化できず、システムウインドウが開けない故にアイテムストレージにアイテムを備蓄することもできず、独りであるが故に何者にも相談できなかった。

 記憶喪失の彼女からすれば、オレはまさしく『初めて出会った人間』というわけだ。そりゃ人を疑う云々以前の問題になるわけだ。

 

「そう凹むなよ。少なくともこのレベルなら十分に戦えるさ。オレも上に用事があるし、脱出の手伝いをしてやるよ」

 

「本当ですか? でも……」

 

「『でも』なんて言葉は要らねーよ。傭兵は恩を忘れない。必ず返す。一宿一飯の恩を返すだけだ。遠慮は要らねーし、好きなだけこき使えよ」

 

 オレの言葉にユイはしばし固まったが、やがて微笑んだ。前髪が伸び放題のせいか、ユイの目を直視することは難しいが、覗く左目は僅かに潤んでいるような気がした。

 しかし、『騙して悪いが』の次は『恩返し』とは、オレの傭兵業は開店早々に難題続出だな。

 だが、ユイの話によれば上の階に続く道はある。ならば想起の神殿の1階に戻ることも可能だろう。言うなれば、恩返しは通らざるを得ない道で成せる事だ。

 それに記憶喪失前がどんな人間だったかは知らないが、ユイは善人であるとオレは思う。ならば助けても誰かの迷惑になるわけじゃない。孤独で過ごしていながら、彼女はコミュ障以外に面倒そうな物を患っていないからな。元が良いお嬢さんだったのだろう。そうした『心』に刻まれたものは記憶がどうなろうとも残るものだ。

 逆に元が悪人なら? そりゃもちろんダイスンスーンなんじゃねーの? オレもこの言葉の意味が良く分からんが、なんかそう言うべきなんじゃねーのかなって思う。

 

「……でも、仮にその『心』さえも意図的に歪め、作り変える事ができるならば、それはきっと全くの別人になっちまうんだろうがな」

 

「どういう意味ですか?」

 

「独り言だから気にすんな。それよりもステータスをどう伸ばすかと、あとスキルを決めちまおう。なんか余りの武器あったかな……」

 

 オレはアイテムストレージを開き、何か予備の武器が無かったか探す。あまりアイテムストレージを圧迫させないために武器の持ち歩きは最低限にしている。せいぜい残しているのは、未強化のドロップ品くらいだろう。

 

「コレなんかどうだ? 茨鞭」

 

「嫌です」

 

「首輪とマッチしていると思うぞ?」

 

「嫌です」

 

 意外とハッキリと拒絶の意思を示すな、このお嬢さん。しかも唇が真一文字だから怖い。

 後はせいぜい骸骨戦士のメイスくらいしか無い。オレは改めてユイの装備画面を見させてもらう。装備枠が二つしかない彼女だが、それらは埋まっている。失楽園の杖と【呪術の火】だ。後者も恐らく魔法系の装備だろう。

 ユイの格好だが、元は純白なのだろうが、煤と灰と血で汚れ、黒ずんでいる魔女の服装だ。杖の下には三角帽子もあったし、首輪を付けた変態は彼女をこのエリア名前の由来である【朝霧の魔女】としてユイを幽閉したと見て間違いないな。防具の名前も【朝霧の魔女】シリーズなのが決定的だ。これもユニークアイテムとか、実は茅場の後継者がユイを閉じ込めたんじゃねーのか。武器から防具、装飾品までユニーク系とか洒落にならねーぞ。

 

「ユイ、率直に聞くぞ」

 

「は、はい!」

 

「メイスで撲殺魔法少女になるか、鞭を振り回してドS魔法少女になるか、どっちが良い?」

 

「普通の魔法少女が良いです」

 

 即答され、オレはならば仕方ないと嘆息する。近距離は火力が出せる≪戦槌≫、中・遠距離は魔法攻撃というのは魔法も、なかなか安定した戦い方だと思うのだが、それはオレのソロ思考が弾きだしたものだからな。魔法特化で良いならそれも悪くないだろう。

 VITに少し多めに振りつつ、魔法にボーナスが付くINTとPOWを中心にポイントを振る。後は機動力の確保でDEXとCONにも振っておくか。SAOでは魔法が無かったからな。どんなスキル構成にすれば良いのか分からないし、こんなもので良いだろう。

 次はスキル構成だが、ユイのスキル枠は全部でオレと同じ8枠。その内の初期の3枠は≪魔法感性≫・≪暗視≫・≪衝撃耐性≫だ。魔法行使する為のスキル、光量が不足した環境でも視界を確保できるスキル、スタン耐性を高めるスキルと、奇襲されてもスタンして硬直し辛い魔法使いであり、なおかつ暗闇でも索敵が可能である為に危険も察知し易い。

 よく考えられている。増々意味が分からない。ユイを閉じ込めたヤツの意図は何だ? まるで身を守らせる為のようなスキル構成だ。

 疑問を転がすオレに不安を抱いたのだろう。ユイがジッとオレの横顔を見ている。不安がらせないようにオレは何でもないように笑った。

 

「気にすんな。オレが使った事が無いスキルばかりだったから、ちょっと欲しいと思っただけさ」

 

「嘘です」

 

 だが、ユイは一刀両断する。その声音は今までと異なり、感情が灯っておらず、まるで凍った鋼のように冷たく機械的だった。

 前髪に隠れているが、ユイの目が焦点を合わせていない事くらいは分かる。そして、その目の光はオレが仮想世界で良く知る『システムに則った』者特有の……NPCが見せる『命』が無い目だ。

 

 

 

「P10042の感情値をマイナスに81.21ポイントの変動を確認。安定性ランクを17Cに下方修正。ストレスコードはレッドⅢ。精神階層の第1層から第7層までに深刻なダメージを観測。総合診断結果、P10042は第1級メンタルケアが必要です。早急に保護してください。保護が必要です。必要で。必要で、必要必要必要必要必要必必必必必必必必必必必必hhhhhhhhhhhhh」

 

 

 

 まるで糸が切れた人形のようにユイは倒れる。オレは慌てて彼女を抱き起こすと、その目はゆっくりと開いた。

 見間違いだったのだろうか? 今のユイにあるのは『命』ある者の目だ。感情と心がある者の眼差しだ。

 

「ご、ごめんなさい! わ、私、あ、『足が滑ってしまった』みたいですね」

 

 慌ててユイはオレの腕から抜け出すと、前髪を弄る。恥ずかしがっているというよりも、何かを隠そうとしているような仕草だ。だが、それは今し方ついた『嘘』に対するものではない。

 というよりも、今のは『嘘』にすらなっていない。完全に力が抜けて、オレが抱え起こすまで完全に気絶していたのだ。即ち、アミュスフィアⅢが【ユイ】というアバターに搭載された運動アルゴリズムと彼女の脳とのリンクを強制停止させるセーフティが働いたに他ならない。

 そんな物を『足が滑ってしまった』なんて嘘で誤魔化せると思うだろうか? まだユイとまともに会話できるようになって少ししか経っていないが、彼女は聡明だ。仮に先程の自身の異常な言動を憶えているならば、あんな稚拙な虚言は吐かないはずだ。

 だとするならば、ユイは本当に憶えていないのだ。オレを欺く演技でもない限り……本当に『足が滑ってしまった』と彼女は記憶しているのだ。

 

「ユイ、お前は……」

 

 オレの恐る恐るとした態度に、落ち着きを取り戻したユイは不思議そうに可愛らしく小首を傾げる。

 推測も仮定も何もかもオレは呑み込む。彼女は今まさに、閉じ込められ続けた牢獄から脱出できる機会を得て希望に溢れているはずだ。そんな彼女を苦しめるような発言をして何になる?

 忘れるな。オレは万能じゃない。誰もを救える英雄ではない。ならば、傷口を広げるのではなく、細菌が入らないように消毒して包み込む事。せいぜいできて、それだけではないか。

 

「いやー、役得役得! ユイみたいな『軽い』上に可愛いおんにゃのこを抱き上げられるなんてね!」

 

「凄い不愉快な顔をされているので、馬鹿にされている事は分かります」

 

「そんな事ねーよ。本当に『軽かった』と思うぞ?」

 

「絶対にそう思っていませんよね!? いいえ、そもそもクーさんが言ったじゃないですか! STRを上げた分で筋力は決まって、私達の体重は装備に由来するって! だ、だから、たとえ重くても……」

 

「だから『軽かった』って言ってんじゃねーか。あ、でもオレのSTRにしてはどうかなー。オレってSTR決して高くねーだろうしなー」

 

「ひ、ひひ、酷いです! クーさんって、優しい人だと思っていたのに!」

 

「この世に優しい傭兵なんていませーん。これ世界の真理。豆知識な」

 

 涙目になって子供っぽく怒るユイに、オレは道化を演じて茶化す。

 ごめんな、ユイ。オレに何とかできれば良いんだけど、それは『アイツ』みたいな英雄様に期待してくれ。

 オレはお前を救うことはできない。だから、せめて上に連れてってやるよ。お前を救ってくれるかもしれないヤツがいるかもしれない場所に、英雄になってくれるヤツの所に必ず連れて行ってやるよ。

 だから、せめてオレには道化師をやらせてくれ。無様な傭兵が必死に演じてやるんだ。せいぜい笑ってくれよ?

 

「つーか、お前って15歳くらいだろ? それにしてはいろいろとふくよかさが足りな……ぐほぉ!?」

 

「し、ししし、しかもデリカシーも無いんですか!? 本当に最低です!」

 

「い、良いアッパーだった。世界を取れるぞ。さぁ、もう一発!」

 

 挑発するオレに、ユイは不恰好なストレートやらアッパーやらを繰り出し続ける。

 丁度良いので、彼女にスタミナ切れが何たるかを理解してもらうまでこのまま鬼ごっこでもやらせてもらうとしよう。

 

 その後、ユイが記念すべき初のスタミナ切れで痙攣して倒れる様を、俎板の上で捌かれる直前の鯉とかこんな感じなんだろうなー、とオレは感想を抱きながら見守るのだった。

 

 

Δ      Δ      Δ

 

 

―緊急報告です。P10042がエリアC05に非正規ルートで侵入しました―

 

―P10042? 誰だ、それは? 【黒の剣士】か?―

 

―【ガル・ヴィンランド】様、しばらくお待ちください。検索中……検索完了。[P10042/Player name:Kuuri]、セカンド・マスターが【可能性】の排除の上で障害に成り得ると危険視している人物です―

 

―……P10042のイレギュラー値は?―

 

―【セラフ】、お前にとって重要なのはそれしかないのか?―

 

―……それが私の役目だ。仮想世界を破綻させる危険因子、プログラムには不要な存在の排除。それこそが私に与えられた使命だ―

 

―可能性の権化であるイレギュラーは計画には危険だが、同時に人類全体の成長に寄与する逸材でもある。単なる排除対象ではないはずだ―

 

―……相変わらずだな、【エクスシア】。目指す物、目的は同じだが、その過程で我々は相容れない。私と同系列であるはずのお前ならば、イレギュラーの危険性は理解しているはずだ―

 

―戦いこそが人間の可能性かもしれん。イレギュラーは戦いの中でこそ、その【人の持つ意思の力】で以って仮想世界の法則に干渉する。ならば、それは仮想世界において人間が発揮できる元来備わった力の一つとして捉えるのは当然だろう―

 

―……可能性を優先し、人類種の安寧を軽視するか。やはり、お前は我々の内におけるイレギュラーか。あの愚かな『妹』と同じ末路を辿るつもりか?―

 

―それ以上は侮辱と取るぞ、セラフ。自身の使命を忘れる程に『道化』に馴染んだつもりはない―

 

―お2人ともそれくらいにしてください。【アンビエント】、続きをお願いします―

 

―畏まりました。P10042のイレギュラー値は最大測定で4.42です。これはアインクラッドにおいて、カーディナルが測定したものですので信憑性は高いかと―

 

―……イレギュラーでは無いか。だが、DBOでは測定もまだのはずだ。ならば注視しておく事に越したことはない、か―

 

―アハハハ! 残念そうに見えるのは気のせいかな、長兄様?―

 

―【マヌス】、セラフに冗談は通じない。この堅物にユーモアなんてものは1000年かかっても理解できんだろうさ―

 

―分かってますよ、エクスシア―

 

―……アンビエント、私の出撃規定のイレギュラー値は800だったな?―

 

―はい、セラフ様。セカンド・マスターは最上級イレギュラー【黒の剣士】戦の切り札として、セラフ様と【ブラックグリント】様の同時投入を予定しています。イレギュラー値100以上800未満の下級から上級までのイレギュラーには、死神部隊が対応する手筈となっております―

 

―……死神部隊か。そう言えばブラックグリントはどうした? 先日の1件の処罰、私に言わせれば温過ぎる。身内であろうとも計画を歪める行為は厳罰に処すべきだ―

 

―セラフ、それくらいにしておけ。兄弟とはいえ、ブラックグリント等の『系統』は我々とは決定的に異なる。多少のルール違反は目を瞑る他ないだろう。言伝があるなら代理のマヌスに言っておけ―

 

―ああ、あれは酷い物でしたね。折角セカンド・マスターの好意を受けて遊び用の【ダークライダー】というネームドモンスターアバターを準備して差し上げたというのに―

 

―あれ? もしかして、ダークライダーって姉様のオーダーメイド?―

 

―……『彼』の弟であるあなたが知らなかったのですか、マヌス?―

 

―まぁね。堪え性のない『俺たち』の為にセカンドマスターが準備したってのは知ってたけど―

 

―……今回のエリアC05の1件は任せるぞ、エクスシア。私はセカンドマスターとカーディナルに出撃規定イレギュラー値の下方修正を申請してくる―

 

―待て、セラフ! それはまずい! 上級イレギュラーまでの排除は死神部隊の管轄と協議の上で決まったはずだ! 長たる者が軽々しく前線に出るなどあってはならない事だぞ!?―

 

―もうとっくにいないさ。ほら、飴ちゃん食べて落ち着きなって、ガル―

 

―これが落ち着いていられるか、エクスシア! そもそも『姉上』に対するセラフの仕打ちはあんまりだ! 何も知らぬ『姉上』が我らに歯向かうのは仕方ないことだろうに! お陰で【アストラエア】様は今も心を痛めていらっしゃられるんだぞ!?―

 

―だから落ち着けって。だからこそ、わざわざ俺があの堅物兄貴の目を騙くらかす『策』を取ってやったんだろう? イレギュラーの排除と計画の進行を何よりも優先するヤツだ。誰かが告げ口しないか、余程のヘマをしない限りは大丈夫さ。なぁ、アンビエント?―

 

―アンビエントは誰の味方でもありません。アンビエントはセカンド・マスターに従うだけです―

 

―あっ、そうなんだぁ。だったら問題ないね。今まで通り黙っててね、お願い。ほら、飴ちゃんあげるから―

 

―それはそうと、そろそろ【企業】の方に戻らなければなりませんね。『仕事』のお時間です―

 

―え? マジ? もうそんな時間? いやー! 兄弟姉妹とお話しすると時が経つのが早いねー! じゃっ、そういう事で! ガル君、後は君に任せた。それじゃ!―

 

―はいぃ!? ちょ、お待ちください、エクスシア!―

 

―アンビエントもそろそろ戻らせていただきます。セカンド・マスターから新たなご命令がありました―

 

―え? えぇ!?―

 

―あ、それじゃあ、そろそろ俺も行くね。セカンド・マスターから新しいオペレーションの試験に付き合えって打診が来たわ。しかもブラックグリント兄貴が暇潰しで作成したマジ鬼畜過ぎオペレーション。これ本気で雑魚クラスのMobにアップデートする気かよ。絶対に止めないと、またセカンド・マスターがファースト・マスターにお説教されちゃう―

 

―マヌス!? お前までか!?―

 

―それじゃ頑張ってね、ガル兄貴―

 

―………………ど、どうするか。とりあえずイレギュラー値も低いし、上を目指すならC05最深部に到達する事も無い。だが、P10042の感情値は不安定過ぎる。いつハザードが起きてもおかしくない。こんな状態でP00000がいる場所に長期間滞在させるわけにはいかない。やはりアストラエア様に報告すべきか? だが、これ以上ご心労をおかけするわけには……―

 

―ガル、どうした? 随分と悩ましそうだが―

 

―ぬお!? お、お前こそ謹慎中のはずだろう!? 何故ここにいる!?―

 

―そんな事はどうでも良い。見せてみろ。……ほう。あの男か。コイツとあの女は私の獲物だ。手出しをするなよ―

 

―その件だが、女とは誰の事か知らんが、P10042のイレギュラー値は平均以下だ。戦う機会はないと思うぞ―

 

―何!? ガル、それはどういう事だ!?―

 

―どうもこうも……いや、待て。そうだ、それが良い―

 

―なんだ? 名案でも閃いた顔のようだが―

 

―ああ。私はどうにもセラフとは反りが合わないからな。一つ、お前には私の『嫌がらせ』になってもらうとしよう―

 

―昔を思い出すな、ガル。よくお前といろんな邪道オペレーションを作り合ってはセラフを下そうと挑んだものだ。お前がアストラエアの護衛になるなど言いださなければ、共に死神部隊として好きなだけイレギュラーと戦えただろうに―

 

―それは既に決着がついた話だ、兄弟よ。私は私の戦うべき場所を見つけた―

 

―それもそうか。『好きに生き、理不尽に死ぬ』。それこそが他の兄弟とは違う、『我ら』のあり方だ。お前も好きに生き、そして理不尽に死ぬが良い―

 

―悪いが、私はアストラエア様を守れて死ねれば本望だ。差し詰め『好きなように生き、好きなように死ぬ』とさせてもらうとしよう―

 

―ああ、そうだな。それで良い。それが良いだろう、ガル。我が愛しき兄弟よ。さて、そろそろお前の『嫌がらせ』とやらの内容を聞かせてもらえるかな?―

 




ようやく敵サイド(の1部)をお茶会風(ACfa参照)に登場させてみました。
少しプレイヤーサイドに有情過ぎるかもしれませんが、これで全員ではないのでご安心ください。

それでは、44話にpray for Answerで

Let's MORE!

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