SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

6 / 356
スローペースで物語が進むかと思えばハイペースになったりと、上手く安定しません。
とりあえず今は丁寧に物語を書いて行こうと思います。


スキル
≪槍≫:槍にボーナスが付く。槍のソードスキルが使えるようになる。
≪戦斧≫:戦斧にボーナスが付く。戦斧のソードスキルが使えるようになる。
≪戦槌≫:戦槌にボーナスが付く。戦槌のソードスキルが使えるようになる。

アイテム
≪ロングボウ≫:癖のない弓だが、職人たちによって作られた1品。普通の人間相手ならば、この弓で倒せない者はいないだろう。
≪カイトシールド≫:騎士たちが愛用する盾。盾は攻撃を防ぐものであるが、バッシュやパリィなど使用方法は1つではない。
≪聖なる惰眠の指輪≫:何ら力を宿さない銀の指輪。惰眠の女神の信徒に与えられる銀の指輪であるが、その中でもこの指輪は高位の聖職者に与えられるものである。惰眠の女神は堕落の象徴である邪神であると同時に豊穣神としての側面を持つ。


Episode2-1 レベリング活動

 諸悪の根源は茅場晶彦にある。

 オレは元々小柄で細身の、母さん似の女顔だった。親父も線が細くて、2人の遺伝子がミックスして今のオレが出来上がった事は一目瞭然だ。

 誰もがオレにこう言った。『可愛い』ってな。だが、オレの憧れはシュワちゃんだ。あのムキムキマッチョマンだ。オレをオカマ野郎とか言った奴は例外なくぶん殴り、アスファルトとキスさせてやった。

 空手を始めた。強くなりたい。男らしくなりたい。その願いを込めて。だが、オレの遺伝子は筋肉を拒否した。

 男子校に通った。男らしい汗臭さを身に付ける為だった。入学3ヶ月目、柔道部の部長に告白された。野郎の鼻を折って停学処分になった。

 ナーヴギアに出会った。アバターだけならば男らしい姿になれる。細やかな夢は、茅場晶彦によってぶち壊された。

 SAOを100層攻略した。オレの心は男子となった。だが、第2次成長期を仮想世界で過ごし、寝たきり状態だったオレの体はすっかり弱まり、ホルモンバランスが乱れた影響か、髭も生えず、また身長が伸びる気配すら残っていなかった。

 

「分かるか? オレにとっちゃコレは死活問題なんだよ! オレはホ○でも男の娘でもねーんだよ! エロと女体が好きな健全男子なんだよ!」

 

 デスゲーム開始から10日目。オレたち即席3人組は終わりつつある街から離れた廃村を拠点に、順調にレベリングを行っていた。

 終わりつつある街の周辺のMobはすぐに狩り尽くされる。これはSAOの初期でも大きな問題となった。だからこそベータテスター達の情報独占は、そのままレベル上昇速度に直結した。

 今回もベータテスターは似たように迫害されるだろう。シノンにそう警告した。その上でパーティを組み、安全を確保しながらのレベリングに賛同した。

 現在、オレ達がいる廃村は、宿はおろか住人すらもいない廃墟群だ。Mobも平然とポップする。およそ拠点には似つかわしくない場所だ。

 だが、ここには1人だけ奇怪なNPCが存在する。『墓守のズーラ』だ。その全身は骨となり、見た目は完全にスケルトン系モンスターだ。だが、彼には理性と知性があり、話しかければ眠っている間の見張り番をしてくれる。寡黙だが、善良なNPCだ。

 何でも倒せばそれなりの経験値が手に入るらしいが、攻撃した瞬間から敵対関係になり、強力な範囲魔法とメイスのコンビネーションを繰り出す強敵となる。1度倒すと30日間は復活しないらしく、また1度でも手にかけるとスケルトン系Mobに付け狙われるようになるそうだ。

 

「はいはい。私が悪かったわ。それよりも集中して頂戴。軽装の貴方じゃ1発でも受ければ4割はHPが消し飛ぶわよ」

 

 シノンが矢で援護射撃をし、オレが接近戦でヘイトを稼いで翻弄する。ディアベルは他のMobが乱入しないように見張りに立つ。オレとディアベルは役割をローテーションし、互いになるべくスタミナ切れを起こさないように心掛ける。これが今のオレたちの戦法だ。

 この廃村でポップするMobは経験値とコルのバランスが取れている上にリポップが早く、狩り易い。肉を溶かされ、スライム状になった人間のようなモンスターの外観にさえ耐えられれば、の話だが。

 墓守のズールによれば、このモンスターは『出来損ないの肉塊』というらしい。そのまんまじゃねーか、とツッコミを入れたが、寡黙な彼から反応はなかった。

 ともかく、出来損ないの肉塊は攻撃手段が乏しく、鈍い。火力は高めに設定されているが、1対1ならばまず負けることはなく、2対1ならばほぼ一方的に攻撃できる。だが、注意しなければならない事は、コイツはとにかく数が多いという事だ。その分経験値とコルは少なめだが、数でカバーする事ができる。

 この戦法を発案したのはディアベルだ。前回の骸骨戦士の強襲を考慮して、1人は周囲の見張りを担う事が望ましいと提言したのだ。シノンも自分は安全な位置で射撃攻撃を続ければ良いだけなのだ。矢の補充は墓守のズールが売ってくれる格安の『獣骨の矢』で購入することでクリアされた。

 シノンからすれば、これ程に楽なレベリングはない。知能も低く、遠距離攻撃の手段もない出来損ないの肉塊は、この戦法ではまさにカモだ。唯一の問題があるとすれば、矢の威力が低く、また出来損ないの肉塊は矢の攻撃を半減してしまう事だ。

 

「別に顔なんてどうでも良いじゃない。貴方は十分男らしいわ。容姿とアンマッチしてて違和感があるくらいにね」

 

「そりゃどーも」

 

 慰められても全然嬉しくない。むしろ虚しいくらいだ。オレは鬱憤を晴らすように出来損ないの肉塊をウォーピックでミンチにする。

 今のオレのレベルは4だ。8日間朝から晩までこのスライムもどきを相手にして上がったレベルはたった3だ。パーティだから経験値が分散するとはいえ、いかに効率性よりも安全性を重視している事が分かる。

 だが、オレはDBOを舐めていない。SAOと決定的に違う、製作者の底知れない悪意が込められたこのゲームでは、せめて最初のレベリングだけでも安全を考慮する必要がある。

 そうこうしている内にノルマの30体目を撃破し、ディアベルにバトンタッチした。

 

「お疲れ様。後は俺に任せてクーは休んでてくれ。ただし見張りはくれぐれも怠らないでくれよ」

 

「分かってるさ」

 

 ディアベルとハイタッチし、オレは廃村を一望できる、かつては教会の類だったのだろう、天井に穴が開いた建物の屋根に上る。

 随分とディアベルやシノンとも打ち解け、今では何らストレスなく普通に会話する事が出来る。コミュ障気味のオレには、これは奇跡のような状態だ。最近では2人には愛称の『クー』と呼ばれている。

 2人とも良い奴だ。それに人間関係の距離感という物を弁えている。ディアベルもシノンもそれぞれ胸の内には秘密や問題を抱えているのだろうが、誰も踏み込もうとはしない。臆病だからではない。信頼がないからではない。蜂の巣を対策無く突いても泣きを見るだけだと理解してるからだ。

 だから2人ともオレがSAOでどんな体験をしたのか、聞き出そうとはしない。まあ、オレの容姿を玩具にしてる感は拭えないが、それは許容範囲内だ。どうせDBOをクリアし、現実世界で2人と再会した暁には顔面パンチで鼻を砕いてやる予定なのだから。それを思えばフラストレーションの蓄積も来たる日の喜びの貯金であり、ゲームクリアのモチベーションにもなる。

 

「さてと、ついにレベル5か。シノンに言わせれば、北のダンジョンはレベル6あれば安全マージンらしいから、良いペースだな」

 

 見張りの為と言っても他のプレイヤーが廃村に入ったり、出来損ないの肉塊が押し寄せてきたりしたならば2人に警告をするだけだ。そこまで難しい仕事ではない。

 これも1つの方針だが、安全圏が見つかるまでは他のプレイヤーと無暗に接触しない事もオレ達が取り決めたルールだ。

 DBOはPKが推奨されている。そして、このゲームで最も安全を得る為に必要な事は、あらゆる障害を打ち砕き、降りかかる火の粉を払い除ける程の高レベルに至る事に他ならない。そして、PKは破格な経験値、相手が所有する全てのコル、更には所有アイテムまでランダムでドロップする。いかにレベルアップの近道かは言わずもがなである。

 SAOにおけるオレンジやレッドに準ずる、いわゆる『犯罪プレイヤー』は必ず出現する。最低限の倫理観が組み込まれたSAOでそうだったのだ。DBOならば尚更だ。

 せめてPoHのような犯罪のカリスマがDBOに居ない事を願うばかりである。

 

「にしても、いい加減成長方針決めるか」

 

 デスゲームと化し、オレを苦しめているのは最初に行ったポイント振りだ。

 ディアベルはVITとSTRに多く振り分けた、物理攻撃主体の近接型だ。スキルは≪片手剣≫、≪盾≫、≪魔法防護≫の3つを取得している。特に≪魔法防護≫は、魔法防御力を引き上げる為、魔法に対抗手段が乏しい現状では大きなアドバンテージだ。

 シノンはTECとDEXを中心に振った、遠距離攻撃を主軸にした高速戦闘型だ。スキルも≪弓矢≫、≪短剣≫、≪精密射撃≫と、スタイルを明確に決めて選択している。

 そしてオレは全ステータスを平等に振り分けた、突出した能力を持たない器用貧乏だ。幸いにも≪戦槌≫のソードスキルとウォーピックの優秀さに助けられているが、この先を考えれば何かしらの完成形を目指さねばならない。

 だが、オレは知っての通り、SAOでもアレやコレやに色気を出し、迷走しまくってバランス型に落ち着いた糞プレイヤーだ。どうせ今方針を決定しても貫き通せるとは思えない。

 尤も、CONにポイントを優先して振る事だけは決定事項だ。スタミナは、場合によってはHP以上の生命線となる。いかにソードスキルを連発できるかは命綱だ。VIT? 避け続ければ死ぬ事はない。『当たらなければどうという事はない』って赤い大佐も言ってたじゃねーか。それにHPが1でも残ってる限りは戦えるんだ。HPがフルの状態で相手の最大火力を1発は耐えられる。その最低条件を満たしておけば良い。

 

「レベル8でスキル枠が1つ増える。それから北のダンジョンを攻略するだけの物資と武器を集める。あと1ヶ月はかかりそうだな」

 

 回復アイテムは行商人しか販売していない以上、どのプレイヤーも宿でHPを回復させる他にない。

 DBOでは時間経過と共にHPが回復する仕様だ。具体的には1時間一切の戦闘を行わなければ5パーセント回復する。街にいる間は1時間に付き1割、宿ならば1時間で3割回復する。他にも食事を行えば微量回復し、また料理次第では様々なバフが得られ、その中にはHP回復スピードの増加がある。

 回復アイテムの入手が難しい以上、どのプレイヤーも時間経過が主流の回復方法になる。そうなると、結局のところオレ達のように無限湧きの脅威度が低い雑魚を無傷のまま狩り続ける事は理想的なレベリングと言える。

 つーか、ディアベルはそこまで計算して、シノンから得た情報を元にこの廃村でのレベリング合宿を計画したのだろうか? しかもたった5分足らずでだ。ヤベェ。オレ、かなりチートな頭してる奴と組んでるかもしれない。

 レベリングに問題はない。回復アイテムはこの強化合宿で蓄えたコルで行商人から纏め買いをすれば良い。そうなると、目下の難題は武器だ。

 当然だが、レベルアップで得られるボーナスよりも武器をより強力なものに切り替えた方が攻撃力の上昇する幅は大きい。いかに優秀な武器を入手し、それを強化するかが生存の分かれ目だ。

 今現在、パーティで最も火力が高いのはディアベルだ。オレが渡した片手剣『レッドローズ』は、ロングソードとは比較にならない程の攻撃力と耐久力がある。リーチもロングソードよりも拳1つ分長く、より遠い間合いから攻撃を当てられるメリットがある。その破格の性能の割には必要ステータスもレベル1だったディアベルが装備できる程度には緩い。唯一の問題点があるとするならば、強化素材の収集が今のエリアではドロップせず、一切の強化が今のところはできない事だ。

 オレのウォーピックは強化すれば、とりあえずは北のダンジョンを攻略できる程度には優秀なようだ。だが、切断系の攻撃が利き辛いMobが中心の北のダンジョンでは鉤爪の出番はないだろう。一応強化しておくが、あまり人目に触れさせない方が吉だ。≪暗器≫なんてPK向きの武器を装備していては警戒されるばかりだ。

 そうなるとシノンの新しい弓が目下の必需品だ。そして、その為にはあるイベントをクリアせねばならない。

 

【弓職人のゲンゾウの苦悩】

 

 終わりつつある街で弓職人を営むNPCのゲンゾウに破損状態の弓を修理に持っていくと挑戦する事ができるイベントらしい。

 内容は自分の1人娘が街の衛士と祝言を挙げるらしいが、素直になれないゲンゾウは祝福することができていない。そんな彼に代わって娘に結婚祝いのプレゼントを贈る。娘の評価に応じてゲンゾウからアイテムを貰うことができ、最高評価で【霊弓アカツキ】が入手できる。

 残念な事だが、シノンはあくまで最高評価で霊弓アカツキが貰えるという情報を持っているだけであり、どのようなアイテムが高く評価されるのかまでは知らない。だが、シノンが言うにはベータテストの時に入手したプレイヤーはNPC達から相当の聞き取り調査をしたらしい。

 そこでオレ達はレベル6に到達した時点で1度この廃村を離れ、終わりつつある街に移動する手筈になっている。そして霊弓アカツキを入手し、武器の熟練度を上げながらまたこのルーチンワークのレベリング作業である。

 

「…………物足りねーな」

 

 不思議だ。デスゲームが始まった頃からオレの心は日に日に渇き、まるで乾季が訪れてヒビ割れた地面のようになっている。

 茅場の後継者を倒し、このデスゲームを終わらせる。その目的は揺るがない。その為の安全策だ。その為のレベリングだ。

 だが、オレの中の歯車が上手く噛み合わない。油を差し忘れたかのように、歯車同士が悲鳴を上げながら軋んでるような感覚がある。

 オレは死にたいのか? そんな疑問が浮かぶ程度に、オレは現状に物足りなさを覚えていた。

 ……危険な傾向だな。シノンの事も言えたもんじゃない。

 

「何サボってるの」

 

「サボってねーよ。つーか、終わったのか?」

 

「まあね。日が落ちる前にズールのところに戻るわよ。夜の廃村は昼間ほど生温くないわ」

 

「知ってるって。あの肉塊共が合体して巨大化するんだろ? キングスライムかよ」

 

 いつの間にかオレの背後にはシノンが立っていた。≪気配遮断≫を持ってないはずなのに大した忍び足だ。

 さすがのシノンも疲労が溜まっているようで、夕闇の中のせいかもしれないが彼女の顔色が悪いように見える。それも仕方ないだろう。オレやディアベルと違って、いくら安全とはいえ朝から夕方まで矢を放ち続けるのは並大抵の根性ではできない。

 改めてオレはシノンを高く評価する。彼女はオレの想像を超えた逞しさがある。彼女がいかなる『強さ』を求め、どのような『強さ』に固執しているのか知らないが、今の彼女ならば自力でたどり着けるのではないかと思う。

 

「……綺麗ね」

 

「何が?」

 

「夕焼けよ。滅びかけた世界のせいかもしれないけど、夕日が映えると思わない?」

 

 そして、意外とセンチメンタルなのかもしれない、とオレのシノン分析に付け加えておこう。

 地平線に沈む夕日を眺めるシノンに、オレは何かを語り掛けようと思ったが、何も思い浮かばなかった。『アイツ』なら何か思いつくのだろうが、オレには今のシノンには沈黙こそが相応しいと思う。

 だから、オレは、小さな反抗を込めてこう言うのだ。

 

「夕日なんてどれも一緒だろ」

 

「貴方はそう言うと思った。本当に期待通りで助かるわ」

 

 優越感に浸るシノンに対し、オレは思わず頭を掻く。

 

 どうやら分析しているのはお互い様らしい。

 

 




RPGにおいてプレイヤーは大きく分けて、雑魚でレベル上げしておいて無双するタイプとイベントやボス以外は極力戦わないようにするタイプの2種類いると思います。

ちなみに私はエンカウントしたらとりあえず倒すタイプです。そしてエリクサーは使わずコレクションとして取っておくタイプでもあります。

では第7話でお会いしましょう。
またよろしくお願いいたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。