SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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デモンズソウルを久々にやってみたところ、王城2でワンワンに3回もYOU DIEDさせられました。
アクション系のゲームだと犬系モンスターって本当に強いですよね。


Episode10-8 ニューオーダー

 橙色の嘴と紫色の羽毛に覆われた【ミッドナイトシーフ】。全長80センチにもなる、DBOの鳥形モンスターでは小型の部類である。

 HPは決して高くないが、必ず8羽以上の群れを成し、名前の通り深夜に出没する夜行型だ。攻撃力もスピードも無いが、特殊攻撃『窃盗』によってコルを奪うという悪質な攻撃を得意とする。まさしく名前の通りの盗賊鳥というわけだ。

 オレは牛小屋の屋根に寝そべりながらスコープを覗き込み、トリガーを引く。反動が全身を余すことなく響かせ、衝撃音と共に鋼のボルトが射出され、ミッドナイトシーフの胴体を貫いた。

 ボルトとはクロスボウ専用の小型の矢の事であるのだが、専用の矢筒が無い為に携帯性には優れていない。弓矢は装備枠を1つ潰して矢筒を装備すれば、100本以上の矢を常時装備できるのだが、ボルトは補給の度にアイテムストレージを開くか、それこそ足下に置いておくしかない。

 だが、スナイパークロスBGスペシャルは自動リロード機構がある。最大で12本のボルトを事前にセットすることができ、一々手動でリロードする手間もかからない。問題点といえばリロードに60秒もかかる点、そして射撃時の発射音の大きさによる隠密性の欠如、ヘビィクロスボウを上回る反動の3つだ。

 だが、もはやスナイパーワロスとは呼ばせない怪物武器と化したスナイパークロスBGスペシャルは、ミッドナイトシーフを一撃で葬り去る。射撃精度も上々であり、後はオレの腕次第だ。

 そこでオレはこうして【マーブル牧場夜間警備】という長々としたイベントをこなしながら狙撃の練習を行っている。ようやく舞い込んだ依頼であり、駆け出しの新ギルドがオレを指名してくれたものだ。

 オレの悪評をそこまで耳にしておらず、恐らくオレの依頼達成率の高さから試しに依頼を出してみたと言った程度だろう。拘束時間が長い上に日没から夜明けまでぶっ通しのこのイベントは傭兵に丸投げしてアイテムだけいただくには丁度良いと言えば丁度良い。

 ちなみにこのイベントのクリア条件は一切の被害を出さない事だ。この牧場のミッドナイトシーフは時間経過事に増加する特殊仕様となっており、合計20羽を突破するとミッドナイトシーフの親玉である【ビックミッドナイト】が出現する。これが登場したらまず牛小屋か羊小屋のどちらかに被害が出る為、イベントクリアの為には1晩中ミッドナイトシーフを狩り続けねばならないという苦行を強いられる。

 こんな退屈極まりないイベントで得られるアイテムというのが【マーブル牧場の黄金ミルク】と呼ばれる極上ミルクだ。レアアイテムであるが、食材系アイテムであり、使い道といえば料理の食材に使うか、それとも皆で乾杯するかくらいだ。

 まぁ、大方ギルド発足のお祝いにでも飲むのだろう。傭兵は依頼背景など気にせず淡々と実直に職務をこなすだけである。

 それに低速ではあるが、動き回るミッドナイトシーフは強化スナイパークロスの練習には丁度良い。まずこんな辺鄙な牧場に夜中に訪れるような物好きのプレイヤーも居ない為、このじゃじゃ馬の性能を限りなく隠蔽できる。

 どうせ派手に暴れる襲撃依頼でも請け負えば、1日と待たずして情報屋に出回ってしまうだろうが、隠したまま挑める1回分の依頼では絶大な効果を発揮できる。何事も積み重ねが大事なのだ。

 間もなく夜明けだ。淡々と、だが1発1発トリガーを引く時は自らに狙撃の感覚を刻み付けながら、オレはミッドナイトシーフを狩っていく。

 太陽が地平線から昇る景色をを見届け、オレは屋根から飛び下りる。太陽と共にミッドナイトシーフたちは牧場から去って行った。イベント完了だ。後は牧場の主から極上ミルクを貰い、サインズに納品すれば依頼完了である。

 今にも折れそうな枯れ木を思わせる牧場の主から極上ミルクを貰ったオレは帰路に着く。

 最近はミュウからの依頼数が大きく減った。以前はフルタイムで依頼をこなしていたのだが、この1ヶ月はご無沙汰だ。以前の食事の時に俺が暴れ回り過ぎた弊害を語っていたが、これではパートナー契約した意味が無い。どうせ来月で契約期間も終わりで晴れてフリーの身になれるのだが、どうにも嵐の前の静けさな気がしてならない。

 もちろん、単純にサインズの設立に伴い、オレ以外の傭兵を活用し易くなったというのもあるだろう。それならばそれでオレは大歓迎だ。ミュウと関わり続けていれば、必ず賽の目は悪い方に転がるに決まっている。

 終わりつつある街のサインズ本部に到着し、オレは欠伸を噛み殺す。徹夜はソロで慣れているのだが、それでも眠いものは眠い。早く安全なホームハウスでぐっすり眠れる日が来てほしいものだ。

 

「ほい。マーブル牧場の黄金ミルク、納品完了」

 

「納品を確認しました。こちらが依頼料となります」

 

 オレの担当であるヘカテちゃんは笑顔で2リットルの極上ミルクを受け取り、【貪欲者の箱】へと仕舞う。これはグリムロックが使っていた探索者の背嚢と同じで、装備枠を潰してアイテムストレージを広げるアイテムだ。だが、要はリュックサックである探索者の背嚢と違って、貪欲者の箱は木箱である為持ち運びが不便だ。代わりに極めて容量が大きく、また耐久値も高い為に現行最高火力を引き出されるとされる特大剣や大槌のソードスキルを浴びても破損することはない。

 ヘカテちゃんから貰った封筒開け、オレは中身の2000コルの額面の小切手を得る。コルは直接受け渡しをしようとすると金貨に変換されて不便である為、こうして小切手にするのが最近の流行だ。額が大きければ大きい程にコルをアイテム化すると金貨袋は重く、また数を増してしまう。

 そして、この小切手化なのだが、実はプレイヤー個人では行えない。≪金融≫スキルが無ければ変換できないのだ。この≪金融≫スキルが曲者で、あるイベントをこなさなければ入手できない。これがまた難問で、素の頭脳を使うイベントなのだ。

 では多くのプレイヤーはどうやって小切手化を行っているか? 実はここにある大ギルドが関わっている。そう、クラウドアースだ。他の2大ギルドを差し置いて、誰よりも先に≪金融≫スキル保持者を揃えたクラウドアースは、ほぼこの小切手化事業を独占している。

 小切手化には額に関わらず100コルの手数料を取る。クラウドアースの儲けは薄いが、その影響力を広めるという意味では絶大な効果を発揮している。ちなみに小切手を元のコルに戻すのも≪金融≫がいるのだが、100コル単位で1コルの手数料が必要になる。

 他にも個人からギルドまで幅広くコルの融資を行っていたり、質屋、他にもレストランなどの娯楽施設も開いているらしい。聖剣騎士団や太陽の狩猟団に比べれば戦力は充分ではないクラウドアースであるが、その影響力からは既にDBOに広く根を張っている。

 不気味だ。ネイサンからはまだ新たな依頼こそ届いていないが、今後もクラウドアースの動向には注意すべきだろう。

 

「にしても、肌寒くなってきたな。現実じゃ10月か」

 

「そう言えばそうですね。終わりつつある街があるこの始まりのステージだけは、現実世界と季節が連動していますから、随分と気温が下がってきましたよね」

 

 同意するヘカテちゃんは椅子に腰かけながら、温かそうなホット珈琲を口にする。両手でマグカップを持つ姿は見ているだけで癒されるおんにゃのこの良き姿だ。

 

「でも、このまま寒くなると寒冷状態になる恐れがあるらしいですよ。そこでクゥリさん、サインズ印のマフラーを先行販売しているんですがいかがですか?」

 

「もちろん買わせていただきます」

 

「はい! 1000コルとなります♪」

 

 ぼったくりレベルでお高い気もするが、ヘカテちゃんの笑顔と営業成績の為ならば! オレは即金で支払い、盾と剣が組み合わさった白黒のサインズのエンブレムが入った、赤い毛糸マフラーを買う。まだ使うには早過ぎるが、一足早い冬対策だ。

 マフラーを頬に当てながら、オレは先程から受付の隣で何やら話し合いをしているプレイヤー達に目が惹かれる。恰好からして何処かしらのギルドの連中のようだが、依頼を持ち込みに来た様子ではない。もちろん、これだけ傭兵業が盛んになれば『傭兵団』なるギルドが登場してもおかしくないのだろうが、その割には武装が貧弱……というか皆無だ。

 

「ああ、彼らは大工ギルド【松永組】とデザイナーギルド【グリーンオーシャン】の方々ですよ」

 

「大工ギルドとデザインギルド?」

 

「はい。松永組はギルドリーダーの【マツナガ】さんが率いる、その名の通りDBOで建設業を営んでいるギルドです。メンバー全員が≪建築≫と≪設計≫を持っていて、1からホームハウスを造ったり、リフォームを手掛けたりしているんです」

 

 さすがはサインズのスタッフ。よくご存じのようだ。オレはヘカテちゃんからサービスの珈琲を貰いながら、男臭い大男とオカマ臭い痩身の言い争いを見守る。話の内容はもはや喧嘩腰なので良く分からない。

 

「グリーンオーシャンは≪裁縫≫を始めとした芸術関連のスキルで固めたデザイナーのギルドなんです。インテリアデザインなども手掛けていて、リーダーのムームーさんは現実世界でも名が売れたデザイナーだとか」

 

「それが何でサインズで言い争ってるんだ?」

 

「ああ、それは新しく作る『傭兵ランキング』のボードについて議論されているんですよ。作成は松永組、デザインはグリーンオーシャンが請け負っていますから。それに松永組は聖剣騎士団の傘下ですし、グリーンオーシャンはクラウドアースの所属ですから。仕事でも心情的にもあまり仲が良くないんです」

 

 傭兵ランキング? オレは初耳だとヘカテに視線で問う。敏感にオレの疑念を感じ取った彼女は少し困ったような顔をしながら答えてくれる。

 

「多くのギルドからの要望により、傭兵の実力や依頼達成率を考慮して割り出されたランキングが作られる事になったんです。サインズとしては余り好ましくないのですが、やはりこうした分かり易い目に見えるものが必要という事に成りまして」

 

「あくまで中立の立場である傭兵斡旋組織のサインズとしては、傭兵間の苛烈な競争を生みかねないランキングは望ましくないってわけか」

 

 それに、こうしたランキングはどうせ組織間の自己顕示の場に成り代わるのは目に見えているだろうしな。

 パッチの情報によれば、実力を見せた多くの傭兵が次々とパートナー契約を結んでいるとの事だ。もちろん、傭兵たちは自分のバックに誰がいるかなど口にはしないだろうが、依頼主が偏るのだから公然の秘密となる。

 多くの衆目に曝される傭兵ランキングは、『自分たちにはこれ程までに強力な傭兵を抱え込んでいる』という、まさしくギルドの力を誇示することができ、また他ギルドへの牽制にもなる。

 下手すれば『政治的配慮』ってヤツで、ランキングが真実ではない事もあり得るかもしれないが、その辺りはサインズの腕の見せ所ってところか。

 何にしてもオレには興味が無い話だ。絶賛不人気のオレが上位ランカーになれるはずもないし、またサインズもオレみたいな糞野郎がランカーになられては困るだろう。適当な大ギルドのお抱え傭兵に上位は独占してもらうとしよう。小耳に挟める松永組の話では、人目に付く部分にはトップ10の発表ボードだけになるみたいだしな。それ以下は出涸らしみたく、脇にちょこんと小さいボードで豆粒みたいに小さい文字での発表になるだろう。

 

「ぶっちゃけどうでも良いや」

 

「あはは。クゥリさんは本当にマイペースですね。さて、そろそろ傭兵のお仕事のお時間ですよ。指名依頼が入ってます」

 

 マジか。徹夜で疲れているのだが、わざわざオレを指名してくれる物好きの依頼を蹴るわけにもいかない。

 気合を入れ直し、飲みかけの珈琲をカウンターに置くと、システムウインドウを操作するヘカテちゃんに黒いプレートが付いた鍵を渡される。

 

「『02号室』でお待ちください」

 

「どーも」

 

 個室行きか。余りによろしくない傾向だ。オレは笑顔の裏で嘆息する。個室で依頼説明があるという事は、依頼主が直接来ているか、仲介人と面会があるかのどちらかだ。

 最近は仲介人を生業とするプレイヤーも増えた為、ネイサンのようなサインズ所属の特定ギルド専属仲介人とも限らない。個室行きも珍しい事ではないのだが、オレはなるべく依頼主と関わり合いが薄い文面かボイスメールの方が気分的に楽で好きだ。

 とはいえ、大きい依頼ほど人を介さねば安心できないのも確かだ。オレは02号室に入り、1人がけの椅子に腰かける。01号室と違い、こちらはテーブルが木製であり、備え付けの2つの椅子も全く同じ規格だ。01号室では片方がソファであり、片方は質素な椅子だった。テーブルもガラス製の高品質なものだったが、こちらはどちらかと言えば武骨な印象が強い。部屋番号によって内装が異なるのだろうか。

 いや、違うな。オレは依頼主側のドアが開く音を耳にした段階で、またも厄介事が舞い込んで来たと確信する。

 

「やぁ、お前さんが噂の【渡り鳥】くんか」

 

 入って来たのは、肩幅が広い30代半ばくらいの男だ。髭を生やした、いかにもアウトドア系の茶髪をしたワイルドそうな男だ。

 オレは立ち上がって男と握手を交わす。オレよりも一回り大きい手であり、STRも高めなのか心なしか圧迫感が強い。

 

「俺は【オニール】だ。KHSの専属仲介人……とは言っても、サインズ所属でもないし、KHSとの繋がりも薄い。まぁ、フリーの仲介人がお得意様でKHSを抱えていると思ってくれ」

 

 KHS? ああ、Knights of Holy Swordの略称、つまり聖剣騎士団か。

 オレとオニールは同時に腰かける。さっさとオレは依頼の説明に入ってもらいたいのだが、オニールはまるで観察するようにオレを頭から足下まで見回す。

 

「なるほど。通りでKHSのお偉いさん方も無視できないわけだ」

 

「は? どういう意味だ?」

 

「今回の依頼だが、どの傭兵に依頼を回すかかなり揉めたのさ。パートナー契約による傭兵の囲い込みに乗り遅れたKHSとしては、重要度の高い依頼の1つ1つが傭兵へのラブコールそのものだ。だが、お前さんはどう考えても太陽の狩猟団寄りだろう? 最近はそうでもないらしいがね」

 

 吸って良いか、とオニールはそう断りを入れて1秒で懐から煙草を取り出した。オレはまだ許可も何もしてないのだが、どうせ仮想世界では副流煙も無いのだ。喫煙者に優しい世界らしく、彼には存分に葉巻の味を堪能してもらうとしよう。

 

「まぁ、その中でキミが候補に挙がったわけだ。KHSの幹部……『円卓騎士』なんて言われている連中はほとんどがDBOでもトップクラスの武闘派プレイヤーだ。傭兵雇用などの内政担当の連中が別にいるんだが、これがまた碌に最前線に出たことが無い連中でね。傭兵を『文面』でしか知らないヤツらが多いのさ」

 

「戦闘特化の少数精鋭であるが故の弊害ってヤツか」

 

 オニールが言わんとする事は大体把握した。確かに組織のトップは聖剣騎士団だ。そのリーダーであるディアベルは優秀であるが、彼の方針はあくまで『1部のトッププレイヤーによって攻略し続ける』という、弱者を守らんとする純白の意思だ。だが、大組織化によってディアベル1人では下部組織の増加も伴って全てを管理できなくなった。当然だ。ミュウと違ってディアベルは実力を示し続ける為に最前線で立ち続けねばならないのだから。

 結果、内政面はディアベルの手から離れがちになり、あくまで彼は報告書を確認したり、大まかな指示を出すだけなのだろう。というか、それが普通のリーダーなんだけどな。副団長ながら全てを管理しているミュウが異常なだけだ。

 この様子だとKHSの内政面は他のギルドに比べて脆弱そうだ。どう補強するのか見物だな。オニールがわざわざ情報を傭兵であるオレに零したのだ。それ相応の変化があり、今の情報は『過去』になりつつあるのだろう。

 

「前置きはこれくらいで良いだろ。依頼内容の説明を頼む」

 

「そうだな」

 

 ニッと強気というか爽やかというか、とにかく他意や悪意が無い微笑を浮かべてオニールが依頼内容の説明に入る。

 

「作戦を説明する。雇い主はKHS。目標は、【盗賊王スカーベンの記憶】にある【ファルコン盗賊団】のアジトだ。ファルコン盗賊団はNPC【隻眼のファルコン】が率いる大規模な盗賊団だ。もちろんメンバーは全員NPC。作戦は単純明快。アジトを襲撃し、ファルコンが持つ【盗賊王の結界】を破壊する。それだけだ。KHS本隊は盗賊王の結界が破壊されたタイミングにスカーベンの記憶のメインダンジョンへと進撃する。どうやらメインダンジョンの解放条件が盗賊王の結界の破壊らしい。つまり、お前さんが盗賊王の結界を破壊と同時に迅速にメインダンジョンに突入して他ギルドに先んじるってわけだ。だが、ファルコン盗賊団までの道のりはハイレベルのモンスターが出現する上、肝心のアジトにどれだけの戦力があるのかも分かっていない。また、強力なネームドも出現するって話だ。偉いさんハッキリとは言わなかったが、本当なら厄介な話だ。ああ、さっきのネームドの話もあるんだろうが、協働相手を準備している。上手く協力してくれ。こんなところか。危険な作戦だが、見返りは充分に大きいぞ。連絡を待っている」

 

 それを最後にオニールからフレンド登録の申請が届いた。

 太陽の狩猟団、クラウドアースと続いて、今度は聖剣騎士団か。オレは今日も組織運営と前線指揮で奔走しているだろうディアベルのやつれた顔を思い浮かべるのだった。

 

 

Δ    Δ    Δ

 

 

 全体的に荒野が広がる【盗賊王スカーベンの記憶】は『王の時代』でありながら、繁栄の色がないステージだ。朽ち果てた王国に根なし草のように盗賊たちが跋扈し、盗品を売りさばく市場を開く。一応『盗賊王』と呼ばれる、かつてこの地を治めていた王族の末裔がいるが、この王が厄介者で、あくまで全ての盗賊団の調停役であり、本人もまた巨大な盗賊団を率いている。

 当然ながら部外者であるプレイヤーは恰好のカモだ。街ではスリ、野外を歩けば強盗、眠れば夜盗と、気が休まらない。だが、スカーベンの御膝元である市街では殺しはご法度らしく、とりあえず命だけは無事ではある。

 しかし、ステージの特色上攻略が極めて難航し、またイベントの発見も遅れている。今回の依頼はそんな状況を打破するものであり、オレに与えられた依頼は聖剣騎士団にとっても決して軽い意味を持つものではない。

 オレはファルコン盗賊団のアジトまでのマップデータを開く。大雑把ではあるが、一応斥候によってルートの情報は割り出してあるらしい。ミュウに丸投げされていた頃に比べれば依頼をこなす上での情報はあるのだが、やはりクラウドアース程の精度は無い。

 だが、何となくだが、あのオニールという男のスタンスは気に入っている。サインズに属さず、また聖剣騎士団とも距離を置いている。ああいう仲介人ならば、『信用』はできないが『信頼』はできる。まさしくネイサンとは真逆だ。ミュウ? あの糞女は『あれを守ってください』やら『これの救援に向かってください』とかアバウト過ぎて評価外だ。絶対にわざと情報隠してるだろ。オレを殺す気か。

 盗賊王の市街から赤剣で転送され、オレは協働相手との待ち合わせ場所である『白猫の見張り砦』に到着する。朽ち果てた見張り砦は3つ目の白猫【全てを見通すサリア】が住まう場所であり、彼女は盗賊王と長きに亘って親交のある雌猫だ。幾つか特殊な魔法を教えてくれるのだが、習得のためには彼女の欲するアイテムを捧げなければならない。それが無理難題ばかりであり、多くのプレイヤーが習得を挫折する事になった。

 マップデータの頼り過ぎは怖いが、大よそここから半日の場所にファルコン盗賊団のアジトがある。途中でどれだけの交戦か予想されるか分からない為、回復アイテムを余分に多く持ってきた。

 武装も厳選して不要のものはサインズに預け、アイテムストレージの余裕を持たせた。今回は固定武装のカタナの羽織狐、ガード能力を持つ暗器である爪撃の籠手、あとは【斧剣ラギア】を準備した。斧剣ラギアだが、切っ先が片刃の斧状になっており、≪片手剣≫と≪戦斧≫の2つのカテゴリーを持つキメラウェポンだ。当然ながらステータスボーナスの振り分けも2分化されている為に≪戦斧≫しか持たないオレではその火力をフルに引き出せないのだが、D3L3(耐久3軽量3)の強化を施し、軽量長期戦対応武器にしてある。

 もう1つの武器は【モーガンの鉄槌槍】だ。槍と名前が付いているが、その正体は1メートル弱の柄の先端に先端が鋭い鉄塊が付いているといったものだ。刺突属性を有する戦槌である。リーチの割に軽量で、ボーナスが半分である斧剣のサポートとして有用だろう。継戦能力も申し分ない。

 

「そろそろか」

 

 望郷の懐中時計で時刻を確認する。午前11時の5分前。協働相手との待ち合わせ時間まで残り300秒。

 今回の依頼の肝は必ず明日の正午に盗賊王の結界を破壊する事だ。早過ぎても遅すぎてもいけない。誤差は許されて前後15分といったところか。相手はNPCとはいえ、大規模ギルドにたった2人で喧嘩を売るようなものと同等と考えた方が良い。更にネームドの出現も想定される。これらを考慮すれば、難易度はボス戦レベルに相当するだろう。

 故に報酬も協働依頼でありながら破格だ。ネームド撃破時にレアドロップやソウルが出た場合には所有できず、聖剣騎士団による買い取りとなる。もちろん、不当に安値を付ける真似をしない。そんな真似をすれば傭兵たちは離れていくからだ。

 確かに見返りは大きい。オレは口元を歪めてしまう。捕らぬ狸の皮算用は敗北への1歩だが、それでもレアドロップを含めれば5万コルは固いだろう。そうなると、ドロップの奪い合いが協働相手と生まれる訳であるが、そこは傭兵同士、早い者勝ちで当然だ。

 

 

 

「やれやれ。まさかこんな形で再会になるとはね」

 

 

 

 午前11時ジャスト。今回の依頼の協働相手が柱の影より姿を現す。恐らく元から≪気配遮断≫で隠れ潜んでいたのだろう。

 見覚えのある醤油顔の男性プレイヤー。以前見た時と装備は異なり、迷彩マントと半透明の白のクリアボディアーマー、それに足には黒光りする隠密性が高そうな脚甲を装備している。

 

「よう、スミス」

 

「久しいね、クゥリ君」

 

 ジャック・スミス。オレと共にコボルド王に挑んだ戦友であり、今もオレの武具として愛用されている【双子の魔爪】のトレード相手だ。

 相変わらず武装は銃器らしく、ライフルを背負っている。マントのせいで他の武装は見えないが、どうやら刀剣の類は装備していないようだ。アイテムストレージの中か、それとも他の武装があるのか。

 

「お互い傭兵だ。下手な気負いは無しで行こう。我々に必要なのは依頼の完遂。それだけだ」

 

 いつものように煙草を咥え、スミスは喉を鳴らしながら笑う。それは何処か残念そうに見えるのは気のせいだろうか。もしかしたら、スミスとしては『敵』として再会する腹積もりだったのかもしれない。

 相変わらず、何を考えているか分からないヤツだ。だが、その実力だけは微塵の疑いも無く信用できる。伊達にコボルド王戦で背中を預け合ったわけではない。

 

「オレもそのつもりだ。まぁ、気楽にいこうぜ」




協働相手がいつから女の子だと錯覚していた?
え? 最初から野郎だろうと思ってた? そうですか。申し訳ありません。

……そろそろ本気でこの野郎祭りを何とかしないといけませんね。別に狙ってやっているわけではないのですが、何故か主人公の周囲は野郎ばかりになってしまうんですよね。


それでは、62話でお会いしましょう。

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