SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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V系はそれなりに好きですが、やはりプラズマキャノンとグレネードが恋しいです。
AC6が出たら、この2つには是非とも復活してもらいたいですね。
あ、ムラクモのリストラは勘弁してください。お願いします。


Episode10-9 暴虐は傭兵と一緒にやって来る

 白猫の見張り台を出発したオレ達は荒野を歩み、草が僅かばかり生えた山々の間を抜けていく。

 スカーベンの記憶に登場するモンスターは多きく分けて3種類だ。

 まずは群れで襲い掛かる狼系のモンスターだ。その中でも特に注意せねばならないのは、赤黒い体毛をした【紅天狼】だ。体長1メートル程度であるのだが、とにかく素早い上に他の狼モンスターを統率するボス的な存在だ。高い攻撃力を備え、なおかつ高い魔法防御力でほぼ魔法攻撃を無効化するという、魔法使いの天敵である。しかも群れの統率も極めて的確で、ダメージを稼ぐよりもこちらを欠損状態にさせて攻撃力を削る事に終始する。何よりも群れの数が減ると撤退する特性を持ち、こちらが油断した頃に再襲撃する狡猾さを兼ね備えている。

 次にアンデッド系だ。かつて滅んだ王国の跡地という事もあり、アンデッド系モンスターは頻繁に出現する。剣、槍、弓矢、クロスボウといった具合にオーソドックスな武装で纏めているのだが、いずれもソードスキルを使いこなす難敵だ。特に【亡者魔術師】は魔法攻撃を連発してくるため、迅速に撃破せねば一気に追い詰められる。

 最後に爬虫類系だ。特にトカゲ型モンスターの【ロックキーパー】は迷彩になった体色で音も無く近寄り、背後からの奇襲を得意とする。単体では弱いが、他のモンスターと同時に出現すると思いもよらない攻撃によってパニックに陥りかねない。

 あとは注意すべきなのは盗賊のNPCがモンスター以上に出現する事だろう。大半が名無しでほとんどMob同然に襲い掛かって来る。人の言葉を話す上に感情表現もしっかりする為に攻撃を躊躇いがちになるプレイヤーが続出し、このスカーベンの記憶の攻略の妨げにもなっている。

 だが、逆に言えばNPCであろうと躊躇なく攻撃できるプレイヤーからすれば、このステージの難易度は大きく下がる。狼系のモンスターは生肉アイテムを持っていれば誘導が可能であるし、アンデッド系は型通りの攻撃しかしてこないのでパターンを見切り易い。厄介なロックキーパーも最初から潜んでいるという前提で動けば、攻撃力も低いので動揺は小さく済む。

 

「しかし、キミも苦渋の決断だっただろう。あのミュウと手を組むとはね」

 

「まーな。お陰でストレスが溜まってしょうがなかったさ」

 

 オレは雑談しながら、踏みつけた狼系モンスター【ラガーウルフ】の脳天を斧剣で叩き割る。脳症のように赤黒い光が飛び散り、断末魔と共に赤黒い光となってラガーウルフはその名の通りビールを思わす輝きの体毛を消し飛ばした。

 対するスミスはボスである紅天狼と戯れるように右手のライフルを撃ち続けている。銃弾は1発と外れることなく、高速で動き回るラガーウルフの胴体に命中し続けていた。

 銃器系の武器に詳しくないオレにスミスが教えてくれたが、彼が装備するライフルは【AM/RFA-222】というらしい。装弾数もそれなりであり、次弾発射までのインターバルも短く、リロード時間も少なくて済む優秀なライフルとの事だ。

 玄人向けの武器とされる銃器であるが、その強化はクロスボウと同じだ。正確に言えばクロスボウが似ているのだが、その他の武器と違ってチューンする事によって火力の増加や命中精度を引き上げる。

 スミスのAM/RFA-222は命中精度に絞った強化が施されているらしく、射撃反動も小さく、中距離機動戦向けの改造が施されている。

 ほぼ一方的に、少なくないプレイヤーを葬って来た紅天狼は撃破され、残された狼系モンスターも散り散りに逃げていく。リザルト画面で得た毛皮などの素材系アイテムを不要な物は廃棄し、オレ達は再出発した。

 

「だけど、オレの場合はどうしても【渡り鳥】の悪名が付きまとう。傭兵業やる上であの糞女の申し出を受けるしかなかったんだよ」

 

「同情するよ。私も何回か彼女の依頼を受けた事があるが、まさしく『使い潰される』といった感じだね。傭兵の扱い方を心得ている女だよ。だが、ああいうタイプほど身内になれば色々と便宜を図ってくれるものさ。更新するならば、次はより親密なパートナー関係を結んだらどうかな?」

 

「冗談言うな。来月でようやく糞女と縁が切れるんだ。フリーになって思う存分に羽を伸ばしたいんだよ。そう言うお前はどうなんだ?」

 

 もちろんパートナー契約を結ぶのか、という意味でオレはスミスに尋ねる。

 何といっても銃器はコルの消費が激しい武器だ。弓矢もそうだが、とにかく1回交戦するだけで多額のコルが失われるのだ。他の武器ですら耐久値を回復させる修理代が馬鹿にならないというのに、銃器、弓矢、クロスボウの3つは上乗せで弾代や矢代がかかるのだ。

 たとえば、オレが使っているスナイパークロスは、高めの火力を出せる鋼のボルトを主力として採用している。だが、鋼のボルトは1つ40コルもする。10発撃てば400コルだ。これでも鋼のボルトは安値の部類である。

 加えて銃器の修理代は他の武器よりも遥かに高額だ。その敷居の高さと扱い辛さから今でもDBOでは銃器を主兵装としたプレイヤーはレアな部類だ。

 

「馬鹿を言わないでくれ。ようやく仮想世界で自由を手に入れた身なんだぞ。組織に縛られるのはご免さ」

 

 まぁ、この男ならばそう言うに決まっている。本当に何で規律が厳しい自衛官なのか分からないヤツだ。多分銃をぶっ放せるとかそういう理由で自衛隊に入ったんだろうな。間違いない。そして、同じ理由で銃は持てるけど撃つ機会があまりない警察官にならなかったんだろうな。

 

「だが、幾つかの組織から声がかかっている身ではあるさ。特にクラウドアースからは破格の条件を出してもらっている。たとえば、今後の依頼は全てクラウドアースが弾薬費を受け持つ事や最新武具の提供とかだね」

 

「……うわぁ、スゲェな。オレとか【渡り鳥】の悪名を情報操作してもらうだけだぞ」

 

「むしろキミはよくその条件で半年契約なんて結んだね。もっと色を付けて貰っても良かったのではないかな?」

 

 ニヤニヤと、オレにそんな選択肢などあるはずが無かった事を見抜いた上でのスミスの質問に、オレは沈黙の睨みで答える。

 確かに聞く限りでは、オレのパートナー契約は余りにも対価が安過ぎる。だが、契約を結んだ当時はオレ以外に傭兵などいなかったし、今ほどにパートナー契約の基準もできていなかった。

 ある意味で先人の苦労というわけだ。オレはそういう事にして我が身の不始末を嘆くしかない。契約書にサインした身として、ミュウが裏切らない間はパートナー契約を結んだ者として、傭兵の責務を果たすまでだ。

 

「とはいえ、懐事情が芳しくないのも事実だ。幸いにも依頼が途絶える事は無いので助かっているが、それでも生活は厳しいさ。いい加減にホームハウスを持ちたいものなのだがね」

 

「オレも我が家が欲しいな。温かい毛布とふかふかベッドで安眠したい」

 

「いっそルームシェアするかい?」

 

「HAHAHA、Nice joke! 脳天ぶち割るぞ?」

 

 何が悲しくて女っ気が無い人生で、殺伐とした仮想世界の憩いの場にすら男を持ちこまねばならないのだ。しかも傭兵同士となれば獅子身中の虫レベルじゃねーぞ。

 とはいえ、傭兵=ソロというわけでもなく、タッグで依頼を受けている傭兵もいない事ではないので、スミスとチームを組むのも確率は皆無ではあるが、選択肢として存在しないわけではない。タッグ傭兵の利益はソロに比べれば少ないが、依頼達成率が高く、評判もそれなりのようであるようだ。

 今やソロ=傭兵とすら言われる時代だ。その中でもフリーを貫く傭兵は減少傾向にある。当然、ギルドのバックアップを受けられるパートナー契約を結んだ傭兵の方が物資面が充実し、依頼達成率も生存率も高まる。

 そんな中でスミスは『組織に属したくない』という、まさしく私心のみの理由でフリーを貫いている。逆に言えば、だからこそコイツは強いのだろう。

 

「依頼と言えばだが、あの噂を聞いたかね?」

 

 噂? 噂とはどの噂だろうか? あまりにもDBOは風聞の類が多過ぎる。傭兵の話題でも思い付く噂の数は軽く10以上ある。

 

「【沈黙者マルクネスの記憶】だよ。どうやらメインダンジョンの奥地でようやくボス部屋が発見されたらしい」

 

「ふーん。特に言う事ねーな。どーせ、オレにはお呼びかからないだろうし」

 

 ボス部屋が発見される度にサインズにはボス戦に参加するギルドからのボス討伐戦参加依頼が届く。だが、オレには今まで1回としてその通知は来たことが無い。やはり、何処のギルドもオレがしでかした腐敗コボルド王戦の再来を恐れているのだろう。あのミュウでさえ、無用な恐怖心で統率を乱しかねないという理由でオレを省いている。

 ボス戦に参加できないというのはそれだけで大きな損害だ。莫大な経験値とコル、それにレアアイテムを入手するチャンスを失うのだ。それだけ上位陣との差は大きくなるばかりである。

 独占した苦痛のアルフェリア戦、それにユイ達と3人で分け合った成り損ないの苗床戦での経験値があるオレでさえ、トッププレイヤーとのレベル差はじわじわと広がっている。特に今や3大ギルドによって経験値やコルを効率的に稼げる狩場は占領されている。ミュウに便宜を図ってもらうのも癪であるオレは太陽の狩猟団の助けを借りていない為、狩場の旨みをなかなか堪能できない。

 厄介で危険ではあるが見返りが大きい依頼を多くこなしている為、ソロという事も重なって何とか喰らいついていけている実情もある。故に、オレがフリーになった場合、依頼数が少ないのは傭兵業の廃止に止まらず、DBOにおいても中間層に転落する事を意味する。

 最近は傭兵業にかまけているが、オレの最大の目的はあくまで茅場の後継者をぶちのめす事だ。来たるラスボス戦に参加できるレベルに位置していなければならない。

 ……まぁ、最悪の場合は猫を被って何処かのギルドに属させてもらうというのもあるのだが、それができれば【渡り鳥】なんて言われていない。オレには傭兵として生き残る以外に道は無いのだ。

 

「【アウトウォール】という新進気鋭のギルドがあっただろう?」

 

「……聞いた事はある。規模は小さいが、他のVRMMOタイトルでトッププレイヤーだった連中の集まりだとかなんとか」

 

 口を濁してしまったが、要は3大ギルドに属する事を良しとせず、自分達でやっていく事を決意したプライド高い連中だ。オレは依頼を受けたことが無いが、それなりに金払いが良い連中らしい。どうやら元は3大ギルドのメンバーだった連中らしく、それらのギルドから勝手に武具やアイテムを持ち出して新しいギルドを作ったとの事で揉めていたはずだ。

 

「マルクネスの記憶のステージボスに挑んで壊滅したよ。メンバーの半数が死んだようだ。雇い入れた傭兵4人は全員死んだらしい。可哀想に」

 

 口ではそう言いながら、まるで心がこもっていない声音と共にスミスは口元の煙草の紫煙を揺らす。まぁ、コイツからすれば同業者が死ねばそれだけ依頼が回って来るのだから当然と言えば当然か。

 ドライな言い方かもしれないが、傭兵なのだから勝ち続けねば死ぬだけだ。常に状況は最悪であり、リターンも割に合わない時がある。『騙して悪いが』で殺されかける事もある。死んだ4人は勝てなかったから死んだ。それだけだ。勝てないならば撤退するのも1つの手段だろうに。オレとか何回逃げ回ったか数えられないレベルだぞ。

 

「それなりに腕の立つ連中がほとんど成す術も無く敗れたボスだ。下手すればコボルド王クラスの激戦もあり得る。私はもちろんだが、キミにもボス戦参加の依頼が来るだろうさ。その為に『当て馬』が使われたのだからね」

 

 やはりか。オレは哀れなアウトウォールの連中に合掌する。

 3大ギルドから武具やアイテムを持ち出した連中に『抗議』で済むはずが無い。ミュウならば問答無用でオレに『あの連中を締め上げてください』という依頼を出したはずだ。だが、彼女からは音沙汰も無く、他のギルドも放置だ。

 考え得るのは『危険分子の排除』だ。恐らくわざと彼らが脱退するように促したのだ。密やかアウトウォールを支援し、ボス戦に挑ませてその強さを測る定規にしていたわけだ。

 まさしくアウトウォールは壊滅する為だけに作られたボスへの『当て馬』であり、『危険分子の殺処分』の役目を全うしたわけだ。恐らく3大ギルドによる密約……やり方からしてあの糞女の入れ知恵だろう。

 

「お喋りはこれくらいにしようぜ。見えたぞ」

 

 俺は岩陰に隠れ、まるで万里の長城のような城壁を視認する。何処までも続くかのような長大な城壁の上では、亡き後も見張りの任を続けるアンデッド達で溢れている。

 ファルコン盗賊団のアジトを通る上で厄介な難関の1つだ。突破の方法は城門を開けるか強引に跳び越えるかのどちらかだ。

 

「最低でも同時に15体は相手にしなければならないか。少々厳しいな」

 

 双眼鏡で見張りの数を確認したスミスも、さすがにこの数は予定外だったのだろう。悩ましそうに顎を撫でる。

 突撃戦術でも生き残れない事も無いが、中距離射撃戦がメインのスミスとしては、本番の明日の為に銃弾は消耗したくないのだろう。戦えば戦う程にスミスの財布は薄くなっていくのだからそれも当然だ。

 ならばどうするか。すぐに方針は決まった。

 オレは岩陰から出ると、堂々と城門の方へと歩いていく。それに気づいた亡者兵士たちは次々と砂場に落ちた飴に群がる蟻のように集結し始める。

 

「鬼さんこちら……ってか?」

 

 亡者魔術師がソウルの矢を城壁の上から放ち、亡者弓兵が続々と矢でオレを狙う。仲間の攻撃を恐れずに亡者戦士が剣と盾を持って果敢に襲い掛かって来る。

 まずは1体目の亡者剣士の突きを回避し、その顔面をつかむと後頭部を地面に叩き付ける。その間に横から襲い掛かって来たハルバード持ちの突きを斧剣でいなし、逆に懐に飛び込んで肩から斬り裂く。仲間の援護という概念が無い亡者兵士達は、当然ながらコンビネーションも無い。怯んだハルバード持ちごと貫きながら長槍持ちがオレに突進攻撃を仕掛けてくる。

 チラリと城門前を確認する。他のアンデッドとは異なる、分厚い白の甲冑に身を包んだハルバードと大盾持ちの2体のアンデッドは門番なのか、動く気配が無い。アレらの排除が大きな目標だ。

 だが、その前に城壁上からの射撃攻撃を何とかしなければならない。矢の1本が腹に突き刺さる。ランダム行動で狙いを付けさせまいとしているのだが、とにかく数が多過ぎるのだ。亡者兵士達の攻撃を回避しながらとなると全ての攻撃を躱し続けるのは無理だ。

 モーガンの鉄槌槍で周囲を薙ぎ払い、亡者兵士たちと距離を開ける。だが、オレと亡者兵士諸共に【降り注ぐソウル】が襲い掛かる。青いソウルの光は雨の如く降りかかるが、着弾しそうな数発を斧剣を盾にして防ぐ。

 さすがはグリムロック肝入りの改良コートだ。魔術防御力も高く、オレのHPはまだ8割近く残っている。矢の一撃も含めれば現行トップクラスの防御力を発揮している。

 仲間の降り注ぐソウルでスタン状態になったハルバード持ちの亡者兵士の口内にモーガンの鉄槌槍を突き刺し、そのまま振り回して投げ飛ばす。オレのSTRは高くないが、スタン状態で脱力した相手ならばそう難しい事ではない。

 再び亡者魔術師が降り注ぐソウルを発動させようとする。だが、それよりも先にその腐った顔面は弾丸で吹き飛ばされた。

 オレが全てのモンスターの注意を惹きつけている間に≪気配遮断≫と隠密ボーナスが付く迷彩マントで城壁に忍び寄ったスミスがそのボロボロの壁を素早くよじ登り、城壁の上に至ったのだ。完全に地上のオレばかりに気を取られていた弓兵や亡者魔術師はスミスのライフル攻撃を浴び、そのHPを失っていく。

 だが、亡者弓兵もスミスの登場で射撃戦を不利と見るや否や、腰の片手剣を抜いて彼に次々と襲い掛かる。だが、バックステップを踏みながら射撃して距離を詰めさせないスミスに攻撃を当てられるはずも無く、次々と撃破されていく。

 射撃攻撃の援護さえなければ亡者兵士など敵ではない。抜刀し、オレは長槍持ちの攻撃を弾き飛ばしたオレはそのまま踏み込んで脳天から唐竹割りにする。赤黒い光を撒き散らしてクリティカル攻撃を浴びた長槍持ちを蹴飛ばし、背後から襲い掛かった剣と盾持ちの攻撃を籠手でガードする。その攻撃の重みはさすがといったところだが、爪撃の籠手のガード性能の方が上のようだ。オレのHPは微動もしない。籠手で剣を弾き飛ばし、グリムロック謹製の茨の投擲短剣を投げつける。それは亡者兵士の右目を貫き、ノックバックさせる。その隙に背負ったモーガンの鉄槌槍で頭から叩き潰す。

 振り飛ばされたハルバード持ちが頭上でそれを回転させ、オレに叩き付ける。≪槍≫の単発ソードスキル【バスター・ウインドミル】だ。頭上で得物を回転させてからの叩き付け攻撃は威力こそ高いが、隙が大きいので単体使用には向かない。あくまでコンビネーション攻撃でスタンにさせた隙に放つタイプだ。

 

「ソードスキルってのはこんな風に使うんだよ」

 

 赤い光を纏った突進突き。≪カタナ≫の突進系ソードスキルである猪突はハルバード持ちの心臓を貫く。それが決定打となって最後の1体は消滅する。

 城壁上の射撃部隊を続々とやられ、門番の甲冑装備もついに動き出す。豪奢な鎧を纏った姿から察するに精鋭なのだろう。大盾と肉厚刃のハルバードという装備でありながらも軽快に彼らはオレに襲い掛かる。

 だが、一足先に城壁上のアンデッドを全滅させたスミスが跳躍し、頭上から甲冑装備達に銃弾を撃ち込む。だが、それらは分厚い甲冑に阻まれてか、大したダメージは与えられていない。

 

「コイツでは火力不足か」

 

 素直にライフルの性能がモンスターに負けている事を認めたスミスは、懐から何やら金属体を取り出す。それはグリップがついた何かの発生機器のようだ。

 着地と同時に襲い掛かった甲冑装備の1体。その1体の横腹を金属体から発生された、苛烈な雷撃を迸らせた青白い光の刃が斬り裂く。更に背後から刺突をしかけてきた1体の攻撃を身を反転させながら回避し、逆にその横腹へと、マントの中に隠し持っていた1つの武器を押し付けた。

 

「取って置きだ。光栄に思うが良い」

 

 それは……図太い杭を打ち込む装置のようだった。スミスがトリガーを引くと同時に密着状態にある甲冑持ちの脇腹へと杭が爆撃にも似た轟音を響かせて突き刺さる。それはほぼHPがフルだった甲冑装備を一撃の名の下に葬り去る。

 だが、もう1体の光の刃で斬られた方は健在だ。それに杭を打ち出す攻撃の代償か、スミスは動けないでいる。オレは兜の覗き穴へと茨の投擲短剣を放つ。3本の内の2本は兜に弾かれるも、1本は見事に覗き穴に潜り込んで突き刺さる。僅かに動きが鈍ったその隙にオレは駆け寄ると、斧剣で豪快にその横腹を薙ぎ払う。復帰した甲冑装備は大盾のシールドバッシュをしかけてくるが、それを身を屈めて回避し、逆に足首をカタナで斬り裂く。それで甲冑装備がバランスを崩したところに、オレはゆらりとカタナを上段へと振り上げた。

 単発ソードスキルの轟鬼。かつてキャッティが使った必殺の上段斬り。緩やかな1歩に次いで放たれるのはまさしく鬼一閃だ。それは甲冑諸共中身のアンデッドを両断し、赤黒い光へと変えた。

 これでモンスターは全滅だ。だが、オレの首筋は途端に悪寒を駆け巡らせ、それはアバターの脊椎にまで侵蝕する。

 スミスの方を向けば、彼はライフルの銃口をオレに向けていた。オレも背負うモーガンの鉄槌槍を手に取る。

 発砲音と投擲はほぼ同じタイミングだった。

 銃弾はオレのこめかみを抜け、モーガンの鉄槌槍はスミスの左耳を掠める。

 そして、それらは互いの背後から忍び寄っていた、透明同然のロックキーパーの額へと吸い込まれた。HPが低いロックキーパーはそれぞれの攻撃で一撃で斃される。

 

「危ねーな。当たったらどうする気だよ」

 

「その時はキミと殺し合うだけの話ではないかな?」

 

 互いに外すとは思っていないからこその、一瞬のアイコンタクトも無しの攻撃の交差だった。それに、もしもスミスの銃弾がオレの額を撃ち抜いたならば、相応の報いを受けさせるだけの話であるし、オレが投擲したモーガンの鉄槌槍が彼の顔面を潰せば、その時は宣言通りに殺し合いになるだけだ。

 リザルト画面が表示される。周囲のモンスターはオレ達によって殲滅させられた証拠だ。相応の経験値とコルが流れ込む。やはり、あの甲冑装備は強力なモンスターだったのだろう。幾つかレア度の高いアイテムも入手している。上手くいけば聖剣騎士団に売りつけられるかもしれない。

 

「やれやれ。まさか【光剣】のみならず、【ヒートパイル】まで使わされるとはね。大出費だ」

 

 出費の計算をしているのだろう。スミスは優れない顔色だ。

 ヒートパイルか。オレも噂に聞いていた武器ではあるが、まさか実用しているプレイヤーがいるとは思わなかったと素直に驚きを隠せない。

 まず光剣であるが、これは『終焉の時代』で入手可能な近接武器の1つだ。火炎属性と魔法属性の2つを持つレーザーブレードを発生させる。ステータスに依存しない強力な武器である反面、エネルギー武装である為か、使用する度に魔力が消費される。しかも装備する為には≪光剣≫スキルを持たねばならず、また武器のランクに応じてスキルの熟練度を上げていなければ、その真価は発揮できない。

 今回スミスが使ったのは、オレの記憶が正しければ【KAGIROI mdl.2】だ。トータルバランスに優れ、威力とブレードレンジのどちらも癖が無く使い易い。だが、それでも0.1秒単位で魔力と耐久値を消費する為、POWをそれなりに上げて魔力量を増やしていなければ10秒も展開すれば魔力切れを起こすはずだ。

 そして、もう1つの甲冑装備を一撃で撃破したのはヒートパイルだ。こちらも≪ヒートパイル≫スキルが無ければ装備することができない。ここまでは≪光剣≫と同じなのであるが、決定的に異なるのはその絶大な威力だ。刺突属性の超攻撃力はドラゴン種のモンスターの堅牢な鱗でさえ無力化させて貫通させる。

 だが、その一方でデメリットも多い。上位ソードスキルに匹敵するスタミナ消費量、ほぼ密着状態で無ければ命中しない射程距離の短さ、またトリガーを引いてからのラグまでに時間があるが故のタイミングの難しさ、使用後は命中の有無に関わらず強制的に行動不能状態になる。

 この行動不能状態はスタミナ切れと同じでありとあらゆる攻撃がクリティカル扱いだ。今回のスミスは8秒近く動きが封じられてしまっていたが、オレが助けに入らなければ甲冑装備によって彼は殺害されていたかもしれない。

 ちなみにオマケと言ってはなんだが、このヒートパイルは購入お値段も高いが、1発の単価もお高い。噂では最弱クラスでも1回使用するだけで2000コルは吹っ飛ぶとかという話だ。また装填弾数も少なく、オマケに野外での補充は禁止されている。鍛冶屋の設備でなければ弾数を回復させられないという仕様だ。

 笑いが出るくらいに使い辛い武器なのであるが、それに見合うだけのリターンがあるらしく、あるプレイヤーがボスに使用してみたところ、HPバーを1本消し飛ばしたという嘘か真かは定かではない噂もある。ちなみにその噂のオチはHPバー1本を削ったが、強制硬直中にボスにそのプレイヤーは踏み潰されて殺されたというものだ。

 

「そんな怪物まで持ち出してくるなんてな」

 

「保険だよ。この【Au-R-H01】はまだ可愛いものさ。装弾数も8発あるし、威力も低い部類だ。これでも低反動化の改造を行っているのだが、それでも8.3秒は完全に動けなくなる。しかも指が痺れてしばらく左手はまともに使い物にならないさ。もっとSTRを上げないといけないのだが、そうなると私の戦闘スタイルに弊害が及ぶので困りものだよ」

 

 それでも一撃か。まぁ、いかに甲冑を着ていてもアンデッド系のモンスターだ。HP自体は大したものではなかったのかもしれないが、それでもあの威力は凄まじい。さすがは『対ボス特攻兵器(戦死前提)』なんて言われているだけの事はある。

 だが、これで1つハッキリした。最低でもスミスの装備枠はオレと同じ4つだ。ハンドガンなどの小型を除けば、銃器は2つの装備枠を潰す。そして、光剣とヒートパイルで1つずつ消費したはずだ。

 スキル構成も見えた。≪銃器≫、≪気配遮断≫、≪曲剣≫、≪光剣≫、≪ヒートパイル≫、≪武器枠増加≫、≪武器枠増加2≫だ。皮肉にもオレと似たような戦闘特化のスキル構成である。あと1つ空きがあるが、それはいったい何なのやら。

 戦闘スタイルやスキル構成、ステータスは生命線だ。ましてや傭兵同士ともなればいずれ殺し合う事にもなるかもしれない間柄である。だが、戦い続ければいずれ露見することであるし、情報屋にはいつまでも隠し通せない。

 それでも、今回スミスはオレにわざわざ見せ付けた。あの場面でヒートパイルまで明かすメリットは無かったはずだ。ならば理由は? 簡単だ。挑発である。

 スミスはこう言っているのだ。『私は手札を明かす事を恐れない。その上でキミを斃せる自信がある』と。そして、恐らくヒートパイル以外にスミスは真の切り札を隠し持っている。それでオレを仕留めるはずだ。あるいは、そうオレにありもしない切り札を意識させるのが狙いか。

 

「さて、そろそろ行くとしよう。長居すれば他のモンスターに勘付かれる」

 

「……そうだな」

 

 オレは首に手をやり、背後へと一瞬だけ視線を這わす。オレ達が歩いてきた山々は隠れる場所も無い岩肌であり、特に何かを確認することはできない。

 だが、あの一瞬……ロックキーパーやスミスに向けられた銃口かとも思った悪寒は、今も残り続けている。

 気のせいである事を祈りたいが、大ギルドからの依頼で何も起きない方がおかしいので、トラブルが起きる事を前提に動いた方が良さそうである。城門を開けたオレ達は足早にその場を離れる。

 やがて地平線へと太陽が沈み、夜の暗闇が訪れる。モンスターは活発化する為にエンカウント率は高くなるが、ファルコン盗賊団のアジトまですぐの距離までオレ達はたどり着いていた。岩と多少の茂みがあるばかりで隠れる場所は少ないが、オレ達は盗賊団が見張りに利用していると思われる半壊した塔を見つけて頂戴する事にした。

 まずはオレが塔の裏口から≪気配遮断≫で侵入し、1階で舟を漕いでいた髭面の盗賊NPCの口を押さえてカタナで喉を斬り裂く。赤黒い光が飛び散り、盗賊NPCは暴れ回って物音を立てる。その音を聞いて入口を見張っていた盗賊NPCが何事かと視線を塔の内部へと向ける。その隙にスミスが背後から忍び寄り、ライフルに備えられた銃剣で心臓を背後から貫く。

 盗賊NPCのレベルはせいぜい15から18くらいに設定されているのだろう。モンスターに比べれば動きは厄介だが、性能自体はオレ達と同規格だ。装備も決して良い物ではない。オレは暴れ回る盗賊NPCの首を強引に捩じり、更に左手の爪で胸を抉り取って殺害する。同タイミングで銃剣で滅多刺しにしたスミスもまた入口の見張りを撃破したようだ。

 あとは屋上の見張りだろう。≪気配遮断≫のあるオレの方が有利という事でこっそりと階段を上り、仲間を呼ぶ鐘の脇に立つ盗賊NPCを背後から拘束する。暴れる手足が鐘を叩かないように階段へと引き摺り込み、1階でロープを持って待機していたスミスが捕らえた盗賊NPCを手慣れた手つきで椅子に縛りつけた。

 

「て、テメェら何者だ!? ファルコン盗賊団の縄張りでこんな事して、タダで済むと思ってるのかよ!?」

 

「月並みの台詞ありがとう。クゥリ君、彼をどう料理する? まずはキミの調理法を聞かせてもらうとしよう」

 

「とりあえず舌を抜いて『尋問』だな。YESとNOの区別くらいジェスチャーで付けられるだろ」

 

 目を見てすぐにコイツが『命』のないNPCだと分かるし、何よりも盗賊ならば何をされても文句は無いだろう。オレは茨の投擲短剣を抜き、スミスが強引に開けた口から盗賊NPCの舌を引き出すとそのまま切断する。

 喉を鳴らした絶叫が響き、盗賊NPCの口から赤黒い光が漏れる。切り落とされた舌は床に落ち、数秒後に砕けた。

 

「まずは指を落とす。その次は膝を砕く。その次は肘だ。そして目だ。性器は最後に潰す。五体満足でいたいなら、オレとコイツの質問に答えろ。良いな?」

 

 喋ることが出来なくなった盗賊NPCは反抗的にオレに赤黒い光が混じった唾を飛ばす。残念だ。オレは茨の投擲短剣をスミスに投げ渡す。アイテムなので所有権がなく簡単に受け渡しが可能なのも投げナイフの利点だ。

 物珍しそうに茨の投擲短剣を見たスミスは、酷薄な笑みを浮かべる。

 

「合格点をあげよう。だが、順序というものを知らない」

 

 そう言いながら、スミスは盗賊NPCの右耳を切断する。彼の舌を抜かれた哀れな悲鳴が響き、オレは黙れという意思を込めて彼の喉を拳で突いた。

 

「まずは、こうして不要な部分を切り落として、私たちの声がよく聞こえるようにしてあげないと駄目だろう?」

 

「さすがは社会人。勉強になる。そんじゃ、次は左耳だな」

 

「みゃて! はにゃしゅ! はにゃしゅから!」

 

 だが、オレの手は止まらない。投げられた茨の投擲短剣は左耳を削ぎ落して壁に突き刺さった。

 今度は悲鳴を堪えた盗賊NPCに、オレはなるべく笑顔でその俯いた顔を前髪を引っ張って上げさせる。

 

「これから喋れないお前の為に細かく質問をする。YESなら右足で床を1回叩け。NOなら左足で1回だ。良いな?」

 

 何度も頷く盗賊NPCに、オレはわざとらしく残念だと溜め息を吐く。その間にスミスは縛られた盗賊NPCの右手親指を切断した。

 顎を押し付けてオレは盗賊NPCの絶叫を閉ざす。これ以上騒がれては荒野と言えどもファルコン盗賊団の縄張りだ。近くを通った仲間が助けに来ないとも限らない。ネイサンの情報ならば盗賊NPC達の見回りルートまで細かく割り出してくれているのだろうが、あくまでアジトまでのルートしか情報を貰っていないオレ達は警戒を怠るわけにもいかず、また明日の為に情報収集せねばならない。

 

「YESなら右足。NOなら左足。良いな?」

 

 右足で1回床を叩いた盗賊NPCに、オレはよろしいと微笑んだ。

 その後、オレ達はアジトにいる大よその戦力、アジトの構造、NPC【隻眼のファルコン】の特徴について『質問』し続けた。

 聞けるだけの情報を聞き出した後に残ったのは、全身に茨の投擲短剣が突き刺さった盗賊NPCだ。全ての情報を吐き出せばあとは用無しだ。赤黒い光となって、この世界から退場してもらうだけである。『命』のないNPCである彼は、同じアバターとして何処かで再生し、また盗賊として定められたルールの中で生活するのだろう。

 

「しかし、良いナイフだな。オーダーメイドかい?」

 

「オレ専属のブラックスミスの商品さ」

 

「そうか。私も専属がいるのだが、こうした投げナイフを作ってもらうのも悪くないな」

 

 投げナイフも銃弾ほどではないが出費がかさむ事は言わないでおくとしよう。オレは新たな戦術を見つけたらしいスミスを無視する事にした。

 明日の為の下準備は整った。スミスと共に塔の屋上に立ち、満天で王の如く光る満月を見上げる。

 

「アジトの戦力はおよそ50人。1人頭25人の担当だ。奇襲を仕掛け、迅速にアジト最上部にいる【隻眼のファルコン】を捕らえる。盗賊王の結界の正体が分からない以上は『尋問』が必要になるだろう」

 

 ワインボトルのまま赤い液体を口にするスミスに、こんな状況でよく飲めるなとオレは呆れながら乾パンを食す。味付けが簡素で、正直不味いのだが、とにかく飽きが無いのでオレの主食となっている。もちろん飲み物は0コルで得られる水だ。

 まだ首筋で虫が這うような感触は消えない。何かがオレを……オレ達を見ている。だが、見張り塔の屋上から見回しても周囲に人影はない。

 

「今日の所は3時間交代で休もう。先にキミが寝たまえ。ほら、寝付きに1杯どうかな?」

 

 差し出されたワインボトルを受け取ったオレはそのまま口に運ぼうとして、途端にその動きを止める。

 

「やっぱり良いや」

 

「おいおい。見た目はともかく、キミも子どもじゃないだろう? それとも『尋問』の後では赤ワインなど口にできないかな?」

 

 試すようなスミスの眼に、オレは冗談じゃないと鼻で笑う。

 確かに現実世界の頃はちょくちょく酒を口にしていた。オレも19歳だし、大学生ならば付き合いもそれなりにあった。コミュ障なりに酒の席では邪魔にならない術の1つとして、テーブルの隅でちびちびと飲み続けるくらいの事はしていた。

 だが、少なくとも今のオレは酒を飲む気はない。

 

「お酒は20歳になってから。それまで我慢して飲んだ方が美味いって……大切な仲間と約束したんだよ」

 

 蘇ったのは、その大切な仲間の首を刈り取った感触だ。

 他の誰かを斬った時とも異なる、決して忘れる事が無い、生温いものが今もオレの手の中に残っている。

 

「それも1つの楽しみ方か。では、飲めるようになったら言ってくれたまえ。良い酒場を知っているからね」

 

「そいつは楽しみだ」

 

 明日は死闘になる。オレとスミス、どちらかが死ぬかもしれない程の規模だ。正直、2人で相手にするにはいかにNPCと言えども数が多過ぎる。

 だが、戦い方というのは幾らでもある。特に『命』無いNPCはルールに縛られた機械人形だ。

 星の海の中でスミスの煙草の煙が風に乗る。それは白い帯となり、月光を浴びながら霧散した。




AC最終兵器とっつき登場です。
より使い手と運用を選ぶ武器とさせていただきました。じゃないと、ボス戦とか全員とっつき装備なんて事になりそうなので。

そして、よりインモラル化した展開になってきたかなと心配しましたが、思えば序盤で主人公がPK野郎を嬲り殺しにする作品なので問題ないと割り切る事にしました。

それでは63話でまたお会いしましょう。

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