SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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ダクソのガーゴイル→周回だろうと立ち回り次第で安定して倒せる。むしろ周回すればするほどに楽な部類。ソラールさんやロートレクと戦える楽しさが際立つ。
ダクソ2のガーゴイル→周回すればするほどに数の暴力が理不尽化。誰か助けてください。お願いします。白サインくらいあっても良いじゃないですか。

結論、どちらのガーゴイルだろうと理力を高めてソウルの槍を放てば良い。


Episode10-11 鐘のガーゴイル

 潜入用のファルコン盗賊団のマントなどをオミットし、元の武装に戻したオレはシステムウインドウを眺めながら、自身のステータスを再チェックする。

 バランス特化のオレであるが、こうして改めて眺めると近接型ではあり得ないVITの低さは無視するとして、TECとDEXとCONがバランスよく高められ、STRは中量級の両手剣と軽量型戦槌を使用できるか否かの限界ギリギリ、そしてMYSとSANをそれなりの水準で保っている。

 未だにSANだけはどんなステータスなのか今以って解明されておらず、多くのプレイヤーは『捨てステ』と言って成長ポイントを割り振っていないのが現状だ。だが、オレはゲーム開始時のチュートリアルでこのステータスを目にして以来、どうにも不安に駆られてチマチマとではあるが、ポイントを与え続けている。

 魔法・光・闇の3つの属性の防御力を高めるMYSは最低限振っておいて損は無い。魔力と魔法枠に関係するPOWと各種魔法の使用に必須のINTは完全に捨てている。

 こうなってくると、MYSに依存する【奇跡】の使用を前提に入れるのも面白いかもしれない。全体的にサポート系の術が多い奇跡は、≪信心≫スキルを得なければ使用できないが、回復術を始めとしたソロにはお優しいラインナップが揃っている。また、癖はあるが攻撃系の術もそれなりに幅があるので愛用者も最近は増加傾向にある。

 だが、面倒な事に≪信心≫は≪魔法感性≫と同様に、NPCから習得するタイプのスキルだ。しかも大半に誓約が絡んできて何かしらの信徒や眷属にならねばならず、オレとしてはそういう面倒な事はご免だ。

 ちなみに誓約とは、言うなれば自分に敷くルールのようなものだ。このルールに反すると手痛いペナルティがある為、プレイヤーは必然的に誓約に添った行動や言動を強いられる事になる。普通のゲームならばロールプレイ要素に成り得るのだろうが、デスゲーム化したDBOでは仮想世界の神を『本物の神』として崇める者も現れ始めている。また、新興宗教のように他のプレイヤーを勧誘して信徒を増やす者、同じ神を信じない者を排他的に扱う集団も現れている。

 そして、厄介な事に信仰とはギルドで統一されている限りではないのだ。敵対ギルドに属している者同士が裏では同じ神を信仰して密やかに親交を深めている、なんて事もあり得るわけである。

 そう言えば、とオレはファルコンの部屋で武装変更を念入りに行っているスミスを横目で見る。オレがこうして暇を持て余している理由は、ファルコンの遺言を元にして武装変更を行っているスミスが時間を食っているからだ。

 

「どーでも良い話だけどさ、何か誓約とか結んでるか?」

 

「結んでいるよ」

 

 意外だ。オレは『神などに縋る軟弱者ではないさ』と鼻で笑うだろうと思っていたスミスの返答に素直に驚いた。

 オレの反応に、まるで傷ついたようにスミスは嘆息する。

 

「使える物は何でも使う。生き残る為ならば利用できるものは髄まで利用する。神の名を呼んで有用なアイテムとスキルが貰えるならば、私は喜んで土下座して路上の馬糞だって舐めるさ」

 

「さすがだな。オレは面倒だから、ああいう神様万歳は駄目だ。何処かに楽で緩い誓約ねーかな」

 

「ふむ。そうだな。私が結んだ【戦女神の尖兵】はお勧めだがね。とにかく戦い続ければ良いだけだ。だが、この通り刻印を入れねばならないというデメリットがある。コイツが厄介でね。闇属性の攻撃に弱体化の修正を受けてしまうんだよ。後は強制召集イベントが入る場合もある。大抵はモンスター討伐なのだが、厄介な闇属性系列のモンスターばかりで困りものだよ」

 

 そう言って袖を捲り、スミスは右の二の腕に彫り込まれた女神と槍とオリーブが組み合わさったタトゥーを見せた。デザインはそれなりに良いのだが、厄介な敵や攻撃手段が多い闇属性に弱くなるのはいただけない。

 だが、わざわざスミスが結んだ誓約だ。それなりに意味があるのだろう。

 

「ちなみにどんな特典があるんだ?」

 

「誓約には誓約レベルというのがある。今の私の誓約レベルは+2だが、攻撃のクリティカル率が若干上がっているな。後はスタミナ消費量は心無しか減ったような気もする。その程度だが、その僅かな違いが勝敗を決める場合もある」

 

 スタミナの消費量が微量とはいえ抑えられるならば、それだけで有用と言えるだろう。特に重装備プレイヤーはスタミナ回復量が低下する。その低下分を少しでも補えればそれだけで戦術の幅は大きく変わるだろう。

 しかし、スミスから自分の情報を明かすとは、オレもそれなりに信頼されていると言えるのだろうか。あるいは、彼もまた軽口になってしまう精神状態なのだろうか。

 そう……たとえば、『命』あるNPCであるファルコンを殺した事に、この男も動揺していたりするのだろうか。

 

「なぁ、スミス。お前って他のプレイヤーを殺した事あるか?」

 

「3人ほどね。護衛依頼中に襲ってきたPK連中を始末したよ」

 

「どんな気分だった?」

 

「特に何も無いさ。殺されるべくして殺された連中だ。害虫駆除に一々感情を割くのも馬鹿らしい」

 

 コイツの事だ。心の底からの本音を喋っているのだろう。だが、その目にあるのは無感情というよりも『慣れ』に近い物に思えた。

 死に対して慣れている。もしかしたら、スミスは現実世界で嫌という程人の死を見てきたのではないだろうか。あるいは、実際に自分の手で命を奪っていたのではないだろうか。

 だが、スミスは自衛官だ。戦争に赴く機会など無いだろうし、訓練はともかく実戦の経験はあるのだろうか?

 

「私が最初に人を撃ったのは19歳の時だ」

 

 と、オレの思考を察知したのか、やれやれと言った具合にスミスは自ら話を切り出す。

 

「射撃訓練中に錯乱した同僚を撃った。威嚇射撃のつもりだったが、当時の私は腕がイマイチでね。運悪く同僚の喉を撃ち抜いてしまった。当時はニュースにもなったはずだよ」

 

 そう言ってスミスは自身の喉を指で叩く。その目には初めて悲しみに近い色が混じったような気がした。

 

「その同僚と言うのが昔からの友人さ。共に自衛官の道を志したまでは良いが、訓練に耐えきれず、ある日突然にストレスで精神が爆発してしまったのさ。優しくて、面倒見が良くて、勧善懲悪の精神を持っていた。自衛官よりも刑事を目指せば良かったものを。馬鹿なヤツだよ」

 

「…………」

 

「私は自身の手で仲間を……友を殺した。世間からのバッシングは酷い物だったが、そんなものはどうでも良かった。ただひひたすらに困惑していたよ。罪悪感に押し潰されそうな一方で、『あの時の自分の判断に間違いは無かった』という確信が私を支え続けてくれたのだからね」

 

「……もう良い」

 

「上官は自衛官を辞めろと勧めたが、残り続けた。やがて私はPKOで中東に派遣された。ところが傑作な事にね、私が現地に到着した次の日に大規模テロさ。目の前で100人以上が死んだよ。幸いにも自衛隊には死者こそ出なかったが、米軍に随分と死者が出てね。少しばかり仲良くなった『ジャック』というヤツが死んでしまったよ。周囲がパニックに陥っている中、私は右腕だけになったジャックの銃を手に取り、テロリストを射殺した」

 

「もう良いって言ってるだろ」

 

「10人……いや、もっと殺したかもしれない。記録には一切残っていないさ。あのパニックと土煙の中では誰も私の所業に気づけなかったのか、それとも握り潰されたのか。どちらでも構わない。あの日、私は理解したのだよ。友を……サユリを殺したのは私の腕が未熟だったからだ。だが、撃つという判断を下したのは、恐怖でもなければ本能でもない。私の思考によるものだ」

 

 自身の右手を見下ろすスミスの声音には僅かな変化も見られない。それは彼にとって既に消化した過去の出来事だからなのだろう。もはや、思い出した程度では迷いも悔恨も生まない程に過ぎ去ってしまったのだろう。

 

「そう、私は撃てる人間だ。私の為に。仲間の為に。大義の為に。国の為に。組織の為に。民間人の為に。戦友の為に。家族の為に。故郷の為に。権力の為に。政治の為に。金の為に。そして……ファルコンのような死を望む者の為に。善悪の基準なく撃つべき時に撃てる。それが私だ」

 

 確固たる信念の眼差しの矛先を挑戦的にスミスはオレへ向ける。

 それはオレが良く知るおじぃちゃんのような『狩り、奪い、喰らう』の目ではない。何処までも人間的な冷たさを持っていた本能ではなく理性に恐怖を染み込ませる、氷点下の炎で凍傷によって焼かれるような感覚が走る。

 オレが本能的に殺せる人間ならば、スミスは何処までも理性的に殺せる人間なのだろう。それは似ているようで、本質はまるで異なる。

 

「クゥリ君。キミは多くの人間を殺した。これからも殺し続けるだろう。私も同じだ。一切の躊躇なく信念を以って殺す。傍から見れば我々は迷惑極まりないエゴイストさ。でもね、キミと私は違う。私は選択した『道』が狂人に部類されるだけだ。だが、キミが狂人扱いされるのは『生まれ持ったあり方』が大多数から見て恐ろしいからなのだろう。だから、選ぶ『道』は誤るな」

 

 そこまで言ってスミスは、いつもの茶化すような皮肉っぽい笑みを浮かべる。だが、そこから見出せる印象は今までと大きく違う。

 オレは今までスミスを少しばかりクレイジーな野郎だと思っていた。だが、コイツは何処までも理性的な狂人だ。PoHとはまるでベクトルが異なるが、同じ規格外の精神を持った人間だ。

 

「社会の先輩としての忠告だ。気を付けろ。キミの心はまだ幼い。年齢不相応なまでに。顔と身長と同じさ。要は子どもなんだよ」

 

「最後の最後でケンカ売って来たな。良し、買ってやる」

 

「ツケで頼むよ。そろそろ時間だ。少しゆっくりし過ぎたな。キミは見ている限りでは面白いから、ついつい口が軽くなっていけないな」

 

 殴り掛かったオレの一撃を軽々と避け、スミスはベッドの上の天井を指差す。ファルコンの遺言通り、隠し通路があるのだろう。目立たないように天井と同じ塗装が施された金属の取っ手が取り付けてある。

 何かで引っ掛ける棒は無いかと探し、オレはベッドの下から手頃な長さの先端にフックが付いた木の棒を見つける。恐らくファルコンが使用していたものだろう。

 彼女は死の『道』を選んだ。それは絶望と苦悩の果ての安息だったのだろう。オレは『道』を選んだつもりでありながら、スミスの言うように本能に従っているだけなのだろうか。

 狩り、奪い、喰らう者。それがオレだ。だが、同じ『狩人』でもオレとおじぃちゃんを分かつ物があったのではないだろうか。オレは本能に振り回されているだけであり、おじぃちゃんは本能を飼い慣らしていたのだろうか。それこそが『道』の有無の違いなのだろうか。

 分からない。何も分からない。忌々しいが、スミスの指摘通り、オレはまだ幼いガキの頭のようだ。だが、この世界を生き抜く為にはオレは本能を研ぎ続けるしかない。これだけがオレの武器だ。天才や鬼才に対抗する為の唯一の力だ。

 スミスが天井の取っ手に木の棒を引っ掛けて引っ張る。すると天井のタイルが動き、梯子が下りてきた。

 

「amen amen gospel amen♪ amen amen gospel amen♪ amen amen gospel amen♪」

 

 梯子を上りながら軽やかにスミスは歌を口ずさむ。

 何処かで聞いた事がある曲だ。だが、上手く思い出せない。頭の隅を引っ掻かれるような痒みを覚えるのだが、スミスに曲名を教えてもらうのも先程の1件のせいでどうにも腹立たしい。あ、この辺りがガキっぽいのか? 少し自覚できたな。自己嫌悪しそうだ。

 

「oh,I'm scary♪ so I'm scary♪ all that I see♪」

 

 梯子を上り終えると、何もない薄暗い空間が広がっていた。鼠の白骨や炭化した人間の死骸が転がっている。この先に待つ危険の暗示だろう。

 先行するスミスが僅かに光が漏れる扉を開く。乾いた風がオレ達を撫でた。どうやら扉の向こうはアジトの最上部の屋根らしく、動き回るには十分過ぎる広い面積がある。

 良い景色だ。屋根の四方には高い塔のようなものがあり、数十センチの金色の鐘が飾られている。だが、オレ達が目指すのは、巨大な青銅の鐘だ。それは屋根を伝った先、更に上へと続く塔の屋上にある。

 そして、その塔を飾るのはガーゴイルの石像たちだ。ファルコンの遺言を受け取っているオレ達は、既に次に何が起こるのかを知っている。

 青銅のガーゴイルが軋み、動き出す。その翼を広げ、ハルバードを手にして屋根へと2体舞い降りた。3メートルはあるだろう巨体と、本当に金属製なのか疑いたくなるほどに活き活きと揺れる尾の先端に付いた斧が危険な雰囲気を宿す。

 HPバーの上には【鐘守のガーゴイル】と表示される。ネームドだ。それだけで危険性は十二分に把握できる。だが、オレには恐れなどない。あるのは、ヤツらを糧として明日を生き抜く力を得ようという飢えと渇きだけだ。

 

「now,I'm scary♪ all is fantasy♪ all is fantasy♪」

 

 2体のガーゴイルが咆哮で仮想世界の大気を轟かせ、オレ達に殺意をぶつける。

 動き出す。オレとスミスは互いに言葉も視線を交わすまでもなく、1対1の状況に持ち込むべく左右に分かれた。ガーゴイルは見事に釣られ、それぞれがオレ達へと襲い掛かる。

 ここ最近戦ったヤツとは格が違う。最前線のネームドだ。横振りのハルバードが巻き起こした暴風にバランスを崩されそうになるが、何とか堪えてカタナでガーゴイルの腹を斬る。

 だが、手応えは嫌になる程に硬い。何とか振り抜く事ができたが、ガーゴイルのHPは僅かに削れた程度だ。

 やはり物理属性……特に斬撃属性に高い防御力を持っているようだ。純斬撃属性の物理攻撃であるカタナでは十分なダメージを与えられない。ここぞという一閃以外は使用すべきではない。

 ならばとモーガンの鉄槌槍へと切り替える。背負った鉄槌槍を抜きながら、ガーゴイルが装備する左手の小さな円盾のシールドバッシュを懐に入ることで回避し、逆に羽付き兜を被った頭部へと叩きつける。

 ダメージは良好だ。ガーゴイルのHPはどうやら少なめらしく、1割削れる。頭部なのでクリティカル扱いなのかもしれないが、それでも通常攻撃で1割はネームド相手には十分過ぎる成果だ。

 物理属性と一言で言っても、斬撃・打撃・刺突の3種類がある。全てのタイプに高い防御力を発揮できるモンスターはそういないし、そんな万能防具はあり得ない。まぁ、全ての防御力がバランスが取れた弱点も強みも無いタイプはあるにはあるのだが。

 ガーゴイルはどうやら打撃防御力が他に比べれば低い部類らしい。硬い敵は砕く。ゲームの常識だ。

 オレの方は攻略の目途が立ったが、スミスはどうだろうか。チラリと戦況を確認する。

 ファルコンの寝室で武器を切り替えたスミスが使っているのはショットガン【KURENAI mdl.1】だ。それなりの射程距離と継戦能力を備えたバランスに優れたショットガンである。

 ハルバードを潜り抜けては至近距離でショットガンを発砲する。ショットガンは射程距離が短く、威力減衰も大きい。故に至近距離でダメージを稼ぐか中距離からばら撒いて牽制するかのどちらかが主な運用となる。

 だが、今回のスミスは近接武器を捨て、左手にショットガン、右手にライフル装備だ。4つある武器枠全てを銃器で埋め、近・中距離戦でネームド相手に戦況を支配するプレイヤーなど、DBOでも片手の指にも満たないだろう。

 そもそもライフルを片手で運用するだけでも命中精度が悪くなる。ショットガンを片手で撃てば反動に耐えられずに隙が出来る。それらのデメリットをまるで感じさせないスミスの立ち回り方と誤差の許されないステータス、そしてアバターという仮想世界の肉体操作は、いずれも非凡の領域だ。

 銃器にはソードスキルが無いが故に弓矢よりも決定打が足りない。また銃弾を持ち込める量にも限りがある為、弓矢よりも長期戦に向かない。だからこそ、銃使いは1部のGGO出身プレイヤーが戦闘における中・遠距離『補助』程度で持ち歩くのが限度だ。銃を主体にした近・中戦闘スタイルなど、まさしく『これ、そういうゲームじゃねーから!』状態だ。

 仮にスミスと初対峙した時にまともに彼と戦えるのはGGO出身の、それも近接での銃撃戦に慣れた一握りのプレイヤーだろう。それ以外のプレイヤーは一方的に翻弄されて撃破されるに違いない。

 ガーゴイルが突進攻撃を仕掛けるが、攻撃を読んでいたスミスは火炎壺をばら撒いていた。自ら火炎壺へとぶつかりに行ったガーゴイルの全身は爆風を浴びる。そして、熱を孕んだ爆炎でスミスを見失った瞬間には、彼は接射同然でショットガンを放ち、ガーゴイルの左腕を吹き飛ばしていた。

 オレも負けていられない。火炎ブレスを吐いて牽制するガーゴイルは駆けるオレを追って首を傾ける。だが、途端に停止してラビットダッシュを発動させたオレはスピードを乗せたカタナの斬撃を放つ。相変わらず手応えは薄いが、斬撃防御力を突破した火力を引き出された結果か、先程以上のダメージを与える事に成功した。

 カタナの旨みは耐久値の低さの代償に与えられた高火力条件だ。刃を綺麗に立てればクリティカル率が上昇するし、防御力を貫通してより大ダメージを与えられる。そのピーキー過ぎる性能故に使い手は少ないが、完璧に使いこなせばカタナ1本でダンジョンもボスも撃破できるとさえ言われている。実際に聖剣騎士団には、ディアベル直々にスカウトした剣豪がいるらしい。何やら無口で影が薄いらしく、たまに戦闘で活躍したかと思ったら『終始』だけしか言わなかったとか、幹部の会議に出席していたのに欠席扱いされていたとか、とにかく良く分からないヤツらしい。

 ガーゴイルが尾を回転させ、先端の斧をオレへと振り下ろす。オレはそれをギリギリまで引きつけ、斧剣でカウンターを決める。斧剣は片手剣と戦斧の2つの武器カテゴリーを持ち、先端の斧状の部分は特に戦斧の性質が濃い。そして、戦斧は高いレベルで斬撃属性と打撃属性が混合したカテゴリーだ。

 息を止め、吐き、そして吸い、また吐く。その動作がオレの中の澱んだ疲労感を吐き出す。不思議だ。仮想世界では二酸化炭素など無いはずなのに、こうした動作をすると体に新鮮な空気を取り込んだように意識がよりクリアになる。

 最短距離で突撃した結果、ハルバードの突きがオレの左肩を裂く。だが、オレはダメージを物ともせずに前傾姿勢を取り、その頭部へとソードスキルの輝きを叩き込む。≪戦斧≫の連撃系ソードスキル【パンサー・ツリー】だ。叩き付けから手首の切り返しによる斬り上げ、再度叩き落とす3連撃を頭部に浴び、ガーゴイルが怯む。その隙に斧剣を仕舞うのも惜しいので放り捨て、口内へとモーガンの鉄槌槍を突き刺す。戦槌でありながら鋭い先端を持ち、刺突属性を持つ攻撃は全身をバネにして突き出す事で助走をしたかのような速度を付与され、ガーゴイルの口内へと押し込まれる。

 ダメージが何だというのだ? HPなど1でも残っていればそれで良い。HPが半分奪われようと、腕の1本が飛ぼうと、それに見合うリターンを得れば良い。これがオレの戦い方だ。たとえ、まだオレは自分自身を操りきれる心が備わっていないとしても、戦う時だけは自分の深部へと潜って、より戦いへと思考を純化できる。この瞬間こそがオレに、何よりも満ち足りた感覚を与えてくれる。

 と、そこでスミスと交戦中のガーゴイルがすぐ傍にまで近寄っていた。どうやら彼の猛攻で押し込まれ、その巨体を後退させているらしい。

 一瞬のアイコンタクト。同時にオレ達は互いの相手をするガーゴイルを交代する。これまでスミスに合わせて中距離を詰めようとしていたガーゴイルは突如として接近傾倒のオレに入れ替えられた事で攻防のテンポが崩される。その隙にオレはモーガンの鉄槌槍を短く持ち、小型メイスのように下顎を打ち抜く。対してオレが相手していたガーゴイルは突如として自在に距離を変えるスミスに翻弄され、ライフルによって堅実にダメージを重ねられる。

 この辺りでヒートパイルの時の意趣返しも面白いだろう。これだからオレはガキなのだろうが、オレは『オレ』だ。カタナを仕舞ったオレの体勢を見て、スミスは察知したのか、大きく距離を取る。

 まず発動させるのはラビットダッシュ。それは前方へと高速移動するスキルであるのだが、オレは一瞬の接地の瞬間に、更にラビットダッシュを重ねる。かつてダークライダーが成り損ないの苗床戦で披露した、≪歩法≫スキルを重ねて超スピードによる方向転換を可能とした絶技。それの応用だ。

 そもそもソードスキルとは何か? それは立ち上げモーションによって発動される、自動剣術だ。だが、≪歩法≫スキルのソードスキルは加速やジャンプ、方向転換などに特化したものであり、推力を得た段階で発動自体は終了している。

 ならば、推力を維持したままに更に重ねて推力を増幅させる。それはダークライダーが見せたようなバランス感覚が求められる。完全に自分の指先まで掌握する繊細な意識の伝達が求められる。

 ステータスを完全に活かす。本能が『お前ならできる』と囁く。バランス型のオレが特化型と1対1で勝ち続けるには、常に最高のパフォーマンスを発揮する以外に道は無い。そして、それこそがバランス型が真価を発揮する必須条件とすら思っている。ならば、ダークライダーの境地に至ってみせる。そうしなければ、オレを好敵手と望むヤツとは満足いく殺し合いなどできるはずがない。

 ラビットダッシュの2段掛け。それに加えて次の設置で≪カタナ≫の単発ソードスキル【月牙】を発動させる。世にも珍しい居合攻撃であり、ソードスキルでブーストされた超加速の抜刀が持ち味である。一方で外した時の隙は大きいが、広範囲を斬り払える強力なソードスキルだ。

 それが2段ラビットダッシュによって加速を得ながら放たれる。それは居合でありながら半ば辻斬りのようなものであり、2体のガーゴイルの間を駆け抜けながら斬撃を浴びせる。

 その場にカタナを突き刺してブレーキをかける。カタナが悲鳴を上げるが、調子に乗ってスピードを出し過ぎたオレはこのままでは屋根から転落だ。屋根を抉りながら何とか止まったオレは、赤黒い光となって砕けた2体のガーゴイルを見届ける。元々2体ともHPは2割を切っていた。オレの最後の必殺は完全なオーバーキルだ。

 当然ながらオレのスタミナは危険域だ。ソードスキルどころか、僅かでも走ればスタミナ切れになるだろう事は間違いない。調子に乗り過ぎた。

 

「DEX特化の御株を取るようなスピードだな。だが、リスクが高過ぎてリターンが見合わないのではないかな? 2段掛けは驚かされたが、スタミナを消費し過ぎだろう。それにどれ程に強烈な斬撃でもVITが余程低くなければHPフルの相手を一撃で仕留められる事はないだろうに。せいぜい最後の仕留めとして有用程度だろうな。しかもキミのSTRでは制動が効かない。欠陥技としか言いようがないな」

 

 しかもスミスはまるで驚いてくれていない。オマケに駄目出しだ。うな垂れそうになるが、負けてられない。

 少なくともオレの意思は伝わったはずだ。スミスの心に届いたはずだ。

 オレは確かに幼いかもしれない。だが、オレは心と魂が追い求めるままに飢えと渇きを満たし続け、より強さを手にしてみせる。この世界で生き抜く為にだけではなく、今はまだ不鮮明な『道』を選ぶ時の為に。

 

「そろそろ時間が危うい。さっさと鐘を破壊しに行こう」

 

「だな。あ、そうだ。破壊はよろしく。多分しばらくは戦えな――」

 

 全てを言い切るより先に、あの万里の長城のようなアンデッド系が守っていた城壁からずっと続いていた悪寒が別の寒気に上書きされる。

 鐘を頂く塔。その頂点にある一際大きいガーゴイル像。それが翼を広げ、オレ達の前に降り立つ。

 

「やれやれ。2体だけと思ったら3体目か。ショットガンのペース配分を間違えたな」

 

 呆れた様子のスミスだが、その顔色は優れていない。残弾に余裕が無いのだろう。いかにバランスが取れたショットガンでも、専用の【散弾】系は他の弾丸に比べれて持ち込める数が少ないと聞いた。それにライフルは昨日から戦い続けて弾薬を消耗している。短期決戦の為に銃器だけの装備にしたのが裏目に出たのだろう。

 対してオレも調子に乗ってスタミナ切れ寸前だ。馬鹿馬鹿しい位に危険な状況だ。

 新たなガーゴイルの名は【双尾のガーゴイル】だ。名前の通り、2本の尾を持っている。HPバーは変わらず1本なので、ボスというわけではないらしい。あくまでガーゴイルの親玉ポジションといったところか。

 

「スミス、正午まであと何分だ?」

 

「12分だ。撤退する暇は無さそうだな。私はヒートパイルに武器を切り替える。その間の時間を稼いでもらえると助かるんだが」

 

「スタミナ切れ覚悟なら20秒稼いでやるよ。でも、確実に当てられるか?」

 

「……善処しよう」

 

 却下だ。双尾のガーゴイルは唸り声を上げ、火炎ブレスを放つ。どうやら尾の数と巨体以外は普通のガーゴイルと同性能らしい。HPもガーゴイルより若干多い程度だろう。オレはほとんど転がるようにして火炎ブレスを避ける。せめて最低限のスタミナが回復するまでは無様でも最小限の動きで攻撃を回避するしかない。

 もう一頑張りするか。オレは深呼吸を挟み、2本の尾を振るうガーゴイルを睨んだ。




ガーゴイルA「馬鹿な。これじゃ俺たちがやられ役みたいじゃないか。仮にもボスモンスターなんだぞ」

ガーゴイルB「元ネタでも数で押すタイプだし、単体の性能自体は大したことないからな。こんなものだろ」

ガーゴイルA「いっそアセンブルを変えるか。もっと飛行能力を有効活用する方にさ」

ガーゴイルB「空の王者(笑)みたいに倒し辛いだけになるんじゃないか。そんなの嫌だぞ」

ガーゴイルA「ならどうするんだよ」

ガーゴイルB「そうだなぁ。いっそ誰かを乗せる騎獣だと割り切るとか?」

大弓銀騎士「話は聞かせてもらった! 私に名案がある!」

ガーゴイルA・B「!?」

~次回に続かない~


ガーゴイルさんには最悪の形でいずれ再登場してもらう予定です。
それでは65話でまたお会いしましょう。

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