SAO~デスゲーム/リスタート~   作:マグロ鉱脈

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逝ってしまった。
逝ってしまった。PS4が逝ってしまった。
ブラッドボーンのデータを抱えたまま、逝ってしまった。

……SONYさん、ちょっとお話しましょうか。まだ保証期間ですよね?


Episode12-4 One day~スミスの場合2~

 オートリロード分を使い果たしたライフルを再使用する為には、手動で弾詰めをする以外に方法は無い。だが、戦闘中に呑気に弾詰めなどできるはずも無い。故に武器枠からオミットし、スミスはサブウェポンとして持ち込んだハンドガン、そして近接戦に対応すべく≪光剣≫であるレーザーブレードを装備する。

 ユージーンが戦闘を繰り広げているだろう、爆発が頻発するエリアに急行したスミスは、2体のグレイ・スパイダーと5体のギルドNPCを相手に大立ち回りをする協働相手を確認する。

 スキル≪剛力≫によって両手剣を片手で自在に操る事ができるユージーンは、鎧を装備しているとは思えないような身軽さで取り囲もうとするギルドNPCを逆に斬り飛ばし、左手に装備したSTR依存の剛なる呪術の火から大火球を生み出してゴーレムの放つキャノン砲を相殺する。

 大火球と直撃したキャノン砲の砲弾が大爆発を引き起こし、周囲一帯を熱風で薙ぎ払う。巻き込まれたギルドNPCのHPが削れ、それはユージーンも焦がすが、火炎属性対策は万全なのだろう彼は怯むことなく、また1体首を斬り飛ばして葬る。

 ギルドNPCを巻き込む砲撃ばかりを繰り返すゴーレムを見るに、やはりオペレーションが不十分と見える。スミスはヒートマシンガンの残弾が気がかりではあるが、ユージーンを援護すべく、戦場に飛び込んだ。

 新たな敵性存在の登場にグレイ・スパイダーは目敏く反応し、2体の内の1体がスミスへと砲身を向けて砲撃する。命中すればHPの8割は消し飛ばすだろうキャノン砲をスミスは恐れる事無く、身を屈めて頭上を通らせ、背後の爆風を感じながらヒートマシンガンを浴びせる。

 

(残弾は36発。仕留めきるには不足しているか。このタフさだけは厄介極まりないな)

 

 ヒートマシンガンを次々と着弾させ、装甲を赤熱させるグレイ・スパイダーにハンドガンを撃ち込むが、ライフルよりも火力が乏しく、また有効射程距離も短く、搭載された射撃防衛システムの影響によって射撃減衰も引き起こされている以上、ダメージは十二分に与えられない。

 だが、対するグレイ・スパイダーも偏差射撃が十全ではないガトリングガンを左右に振って駆け回るスミスを捉えようとするが、その弾丸は1発として命中する事は無い。状況は拮抗しているが、時間経過と共に火力が失われるスミスの方が不利である。

 ついにヒートマシンガンが弾切れを起こし、スミスはその場に放って身軽になるとまずは煙幕爆弾をキャノン砲に向かって放り投げる。律儀にガトリングガンで迎撃したグレイ・スパイダーの目前で白い煙幕が広がる。

 やはり機械は機械か。煙幕の中を走り抜けて懐に潜り込んだスミスはレーザーブレードを起動させ、火炎属性と魔法属性の2つを持つ光の刃が装甲を焼き斬る。大幅にHPが失われたグレイ・スパイダーは浮遊機雷をばら撒き、スミスを引き離そうとするが、チャンスと睨んだユージーンがその背中に乗り、炎を纏った両手剣を突き刺す。

 呪術【炎の武器】で火炎属性のエンチャントが施されているのだろう。ユージーンの攻撃がトドメとなり、グレイ・スパイダーは爆散する。

 

「おいおい。私のボーナスだぞ?」

 

「ミッションの達成が最優先だ。オレは金に目が眩んでチャンスを見逃す気はない」

 

 思わず文句を漏らすスミスに、ユージーンはつまらなさそうに鼻を鳴らす。

 あらゆる依頼を完璧にこなすユージーンは、戦いにおいて遊びという物をしない。協働相手としては実力を見ても申し分ないのだが、1回の戦闘で弾薬費だけで報酬の3割が確実に消し飛ぶスミスとしては、ボーナス対象には余り手を出してもらいたくないのが本音だ。

 スミスがグレイ・スパイダーと遊んでいる内にギルドNPCは全滅だ。もはや戦闘用は1体と残っていないだろう。残るはグレイ・スパイダー1体だけだ。

 ハンドガンで牽制しながら距離を詰め、スミスはレーザーブレードで脚部を狙う。先端に物理ブレードが取り付けられた脚部は猛威である。また、魔力を消費するレーザーブレードは斬撃の時以外に刀身を発生させて維持すれば瞬く間に魔力切れを引き起こす以上、実体武器よりも扱いが難しい。

 左右に分かれて攻撃を分散させ、ユージーンは右から、スミスは左からグレイスパイダーの脚部を削り取っていく。接近し過ぎれば浮遊機雷がポッドから放出される。機雷はダメージこそ小さいが、高いスタン蓄積能力を持つ。軽装のスミスでは多段ヒットすれば数秒の硬直は免れないだろう。そうなれば、物理ブレード付きの脚部で彼のアバターは両断されるだろう。

 対ゴーレム戦で最も重要なのはダメージを貰わない事だ。その巨体に相応しい火力は、1発でも受ければHPは消し飛び、そうでなくともスタン蓄積によって動きが封じられてしまう。

 後部に回り込み、2門のガトリングガンの斉射を躱し、スミスはレーザーブレードの火花と雷撃を散らす光の刃で尻に当たる部分を切断する。グレイ・スパイダーは咄嗟に反転して正面にスミスを捉えようとするが、その隙にユージーンの左手に炎の渦が生まれる。

 放たれたのは炎の竜巻だ。呪術【炎の暴風】である。炎の嵐が周囲一帯を焼き尽くす呪術であるならば、こちらは溜めこそ長いが前方へと高威力の炎の竜巻を解放する呪術である。魔力の消費は大きいが、巨体であればあるほどに多段ヒットが望める。

 その全身に炎の竜巻を浴び、装甲が焼けていくグレイ・スパイダーは膝を折る。その腹へとレーザーブレードを深々と突き刺し、魔力の限り押し込んだスミスはまるで肉を抉り取る様に強引に斬り上げた。それがトドメとなり、最後のグレイ・スパイダーはポリゴンの輝きとなって散る。

 魔力切れとなって消失した光の刃を見届け、スミスはレーザーブレードを仕舞う。これで現在のスミスの武装は数発分の残弾しかないハンドガンだけだ。

 

「ミッション完了だ。退くぞ」

 

 淡白に感情を見せず、ユージーンは竜断の大剣を背負うと撤退を宣言する。確かにこのまま無意味に鉱山に残っても、いずれ到着する増援と鉢合わせするだけである。精錬施設の破壊とギルドNPCの撃破、ボーナス対象のゴーレムも全滅。依頼はほぼコンプリートしたと言えるだろう。

 だが、何かが引っ掛かる。スミスは口元を覆い、今は退くべきか否か判断を数秒迷い、決断する。

 

「私は残らせてもらうよ」

 

「……せいぜい捕まらないように警戒を怠らん事だな。月並みだが、好奇心と強欲は命取りだ」

 

 スミスを引き留めず、戦場を去るユージーンを見送り、スミスは作戦開始前に鉱山を一望していた崖の上に移動する。身を伏せて双眼鏡を手にし、逃亡したプレイヤーの報告を受けて到着するだろう聖剣騎士団を待つ。

 増援が来るまで1時間といったところだろう。最新の資源基地が襲撃を受けたのだ。必ず聖剣騎士団は精鋭を送り込んでくるはずである。スミスは先程から頭の隅で拡大し続けている1つの疑念の正体を探るべく、吸いたい煙草を我慢しながら、聖剣騎士団の到着を待つ。

 今回の依頼自体に不審な点は無い。典型的な襲撃依頼だ。だが、どうにもきな臭いのだ。

 まず第1にだが、マスグラフ鉱石が多量に採掘できる鉱山の防衛にしては緩過ぎる。マスグラフ鋼は現行では極めて価値の高い素材アイテムである。あらゆるギルドが喉から手が出る程に欲しているはずであり、マスグラフ鉱石を安定供給できる鉱山の保有は聖剣騎士団にとって大きな利益をもたらす。そうである以上、防衛には最大限に注力するのが基本だ。

 だが、実際に配備されていたのは、オペレーションが不十分な3体のゴーレム、それなりに実用化されてこそいるが上位プレイヤーを相手にするには些か地力が劣るギルドNPCが12名、そして戦闘経験が浅いプレイヤー2名である。スミスは当初依頼内容を聞いた時、倍以上の戦力を想像していた。

 第2の疑念は、ユージーンとの協働である。さすがのスミスも単身でグレイ・スパイダー3体を相手するともなれば総火力が不足している為、より『本気』の装備で挑まねばならない。そうなればコストが嵩むのだが、相応の報酬が入れば相殺できる為に問題ないし、いざとなれば協働相手を雇う。だが、今回クラウドアースはわざわざユージーンとの協働を提示した。そして、協働依頼とは思えぬほどの高額報酬には何か裏を感じる。

 

「杞憂で終わってもらえれば良いのだがね」

 

 双眼鏡を覗くスミスはようやく姿を現した聖剣騎士団の一行を確認する。部隊総数は20名以上だが、やや異様だ。と言うのも、襲撃後にしては妙に落ち着いているのである。また、プレイヤーも数名を除けば、恰好からして鍛冶プレイヤーだろう。およそ襲撃された資源基地に派遣するには場違いだ。

 それだけではない。前線ではなく内政を担当する聖剣騎士団参謀のラムダも同伴している。彼を警護するのは聖剣騎士団の幹部、円卓騎士の1人である【マリア】だ。聖母の名前の印象とは異なる、色黒の肌をした獰猛な性格をした女性プレイヤーである。迷彩柄のズボンと黒のタンクトップ、それに黒髪のポニーテールをした、スミスが言うのもなんだが、ダークファンタジー調のDBOにおいて場違いな印象が強い女性だ。その戦闘スタイルも≪短剣≫と≪格闘≫、そして≪銃器≫のハンドガンを用いる近接戦のプロフェッショナルである。

 そして、もう1人大物も混ざっている。DBOでは珍しい高齢のプレイヤーだ。灰色の髪と口髭を生やした、60代半ばか後半だろう男である。円卓騎士の1人にしてDBOでも最年長と目される【アレス】だ。ギリシャ神話の戦神の名前を用いるこのプレイヤーは、年老いた外観とは縁遠い高速戦闘で知られている。年長者らしく、曲者揃いの円卓の騎士を取り纏めてディアベルを補佐している。指揮能力も高く、ディアベルが参加しないボス戦においては総指揮を任させれる事も多い。

 円卓騎士の幹部が3人も集結とは穏やかではない。特にマリアは過激派の筆頭であり、太陽の狩猟団とも諍いを頻発させる問題人物だ。

 

(さすがにこの距離では≪聞き耳≫無しでは会話を拾えないか)

 

 だが、穏やかな話をしていないだろう事はメンツを見れば分かる。ラムダは組織運営能力で劣っていた聖剣騎士団を立て直した切れ者。マリアは口より先に手が出る猛獣。アレスは聖剣騎士団を取り纏める有数の実力者だ。

 少し危険だが接近を試みるべきだろうか? スミスは好奇心とリスクを秤にかける。ライフルとヒートマシンガンのオートリロード分の弾詰めは終わっているとはいえ、持ち込める弾丸数には限度がある為、ラムダはともかく、マリアとアレスを同時に相手にすれば現状では敗北の確率が極めて高く、逃走しても顔がバレていては今後の謀略の中で命を狙われ続ける危険性がある。

 

(不完全なオペレーション、私とユージーン君への襲撃依頼、高額の報酬、聖剣騎士団の幹部……これだけ材料があれば、大よそ予想が付く。確信を得る為にリスクを背負うのは私の主義ではないな)

 

 ここが退き際だ。スミスは大人しく鉱山を一望できる崖から離れる。

 森の中を≪気配遮断≫を使用してモンスターと出くわさなそうに慎重に移動しながら、スミスは早く煙草が吸いたいと唇を噛みながら得た情報を整理する。

 恐らく、今回の襲撃依頼には2つの背景があった。1つはクラウドアースとして聖剣騎士団の資源基地にダメージを与える事。そして、もう1つは聖剣騎士団と共謀してゴーレムの実戦データを取る事だ。

 精錬施設の破壊をしていながら、貯蔵しているマスグラフ鋼は見逃す。当初、スミスはクラウドアースが聖剣騎士団を刺激しない為に取った方針かと思ったが、精錬施設を破壊し尽して、高コストのゴーレム3体を撃破している時点で、刺激も何もない。強奪はともかく、マスグラフ鋼を破壊すれば聖剣騎士団にはよりダメージを与えられたはずなのだ。

 だが、クラウドアースは敢えて見逃した。理由は簡単だ。今回の鉱山への襲撃は事前に聖剣騎士団に通達されていたとみるべきだ。故に、余計な人的被害が出ないように、最低限の人員だけを配備したのである。

 目的の1つは恐らくバランス調整だ。聖剣騎士団と太陽の狩猟団はカーク事件以来険悪化が進んでいる。あえて聖剣騎士団とクラウドアースの対立関係を表面化させることによって、全面戦争を3大ギルドの三つ巴とする事で牽制する狙いがあるのだろう。

 もう1つはゴーレムの実戦データの収集。あのユージーンの態度から察するに、彼は今回の依頼の全容を知らされていたと見るべきだろう。

 現状、ゴーレムはNPCから調達するしかないが、各ギルドは独自開発を行っている。ただし、これには≪設計≫スキルなどのシステム面のみならず、オペレーションの作成やアセンブル構成など、プレイヤースキルが大きく問われる。

 そして、何よりもゴーレムには実戦データが不足している。当然だ。ゴーレムはその運用コストによって軽々しく戦わせることができず、また拠点防衛にしても襲撃にしても、現状の安定重視のギルド間抗争では実戦の機会はなかなか得られない。

 ならば作れば良い。その為の傭兵だ。不完全なオペレーションをより完全なものにする為に、開発をより先進させる為に、単独戦闘能力に特化した傭兵と交戦させる事は有意義である。

 

「やれやれ。噂では聞いていたが、『アームズフォート計画』が本格化してきたというわけか」

 

 現状のゴーレムの発展形。より巨大化させ、圧倒的な物量と高火力で押し潰すという、ギルド間抗争の先にある『戦争』を見越した無人兵器。

 現在、ゴーレムは小型化と大型化の2つの方向で開発されている。ギルドNPCと同様に歩兵としての役割を小型化に、移動要塞としての役割を大型化に傾けているのであるが、アームズフォートは大型化されたゴーレムの通称として、スミスの情報網に引っ掛かった名前である。

 まだ実戦段階ではないが、実用化されれば、傭兵達は更なる苦境に追い込まれる事になるだろう。これまでのように単身で活躍する傭兵から、『傭兵団』のような数で物を言わせる時代が来るかもしれないな、とスミスは遠くない未来を予想する。

 今回の実戦データを聖剣騎士団とクラウドアースは活用してアームズフォート計画を推進するだろう。

 

(DBOの完全攻略。その為にはプレイヤーの団結が必要不可欠だ。だが、アームズフォート計画は攻略に大きく貢献するとは思えない。覇権争いの為に、どれだけの時間と労力とコストをかけるつもりなのやら)

 

 とはいえ、スミスからすれば苦言を申す事は何もない。たとえゴーレムがより圧倒的な存在たるアームズフォートとなったとしても、彼は普段と同じように依頼を受け、普段と同じように敵を倒し、普段と同じように報酬を得るだけだ。

 実のところ、スミスは攻略にあまり執着していない。ギルド間抗争だろうと戦争だろうと、スミスは傭兵として仕事をこなし続ければ良いのだ。

 現実世界であろうと仮想世界であろうと、【ジャック・スミス】というプレイヤーにして人間のスタンスは変わらない。彼は撃つべき時に撃ち続けるだけだ。

 

「ん?」

 

 ふと、スミスは足を止める。彼は首筋を押さえ、背後を振り返り、周囲を確認する。

 殺気……とは違う。首筋に走る妙な感覚に、スミスは額を数度叩いた。だが、やはり緊張感を催させる、痺れにも似た感覚が首筋に走っている。

 

「私はクゥリ君と違って本能というものを信用していないのだがね」

 

 信じるべきは脳で判別できる情報であり、直感をスミスは重要視していない。それは理性で人を殺すことができる彼のポリシーでもある。とはいえ、珍しく第六感が働いているのだ。このまま無視するのどうだろうかと、スミスは迷う。

 どうせ後は依頼達成をサインズに報告する以外にやる事は無いのだ。スミスは決意し、森の奥、薄暗い闇の中へと足を進めた。




次回もスミスさんのターンです。
前回暴れさせてしまったので、今回は少し大人しめになってもらいました。

それでは、86話でまた会いましょう!

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