夏の日差しと、レベルアップと   作:北海岸一丁目

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第七話

 

 

 

 

 通信も情報も送られてこず、高揚感や緊張を持て余しながらもプラグ内のインテリアやケージの中を眺めるしかない、という間が抜けた状況が数十分続いた後、シンジはブリーフィングルームの一つに呼び出された。

 プラグスーツ姿のまま向かったそこには職員が一人。何だコレ、という戸惑いを余所に、職員から何枚かのプリントアウトされた書類が手渡され、勧められるままに椅子に座ると照明が落とされた。間をおかず壁面の大型ディスプレイに使徒の映像が流れ始める。

 

 要するに、格が違う。

 それがシンジの印象である。

 過去二回の戦闘と同じく迎撃可能範囲に入ると即座に使徒へと攻撃を仕掛け威力偵察を行ったものの、反応として示された結果は発射地点の蒸発であった。

 山肌に隠されたミサイル発射孔。それが使徒の反撃により吹き飛び、山ごと消し飛んだのである。

 これまで使徒からの損害は建築物のみだった。軍事施設という面もあり耐久性もそれなりに高いものではあったが、吹き飛ばされ、切り刻まれと散々な扱いをされている。しかしこちらにとってもそれは無駄に終わらず、使徒の攻撃力の上限は兵装ビルを問題としない程度、と見積もることができた。できていた。

 そこにこれである。山一つという巨大質量を消し去る熱量。技術部の見解では加粒子砲だそうだが、今までの使徒の攻撃とは文字通りに桁が違う。似たような兵器ならネルフにも配備予定のものがあるそうだが、あそこまでの威力を持たせる事は難しいらしい。

 変わってドイツで開発された自走臼砲で威力偵察として攻撃してみた所、こちらの攻撃はA.T.フィールドではね返されて小動もせず、返された攻撃は再び地形を変えた。

 怖ろしく強力な攻撃と、絶対的な防御力。これが今回の使徒の特徴である。

 使徒は現在本部の直上に居座り、下部からドリルを伸ばして掘削中。日付が変わる頃にはジオフロントの天井を貫通して直接侵攻する見込みだ。

 問題は、これをどう殲滅するか。

 職員が言うには、現在どうにかする為の武器を借りに行っているのだそうだ。

 戦略自衛隊で開発中の試作型自走式陽電子砲。現在零号機が試運転がてらに受け取りに行っているらしい。

 ネルフのものとどう違うのかよく分からないが、とにかくモノがこちらに到着して準備を進めないとパイロットにはやることが無いので休んでいて構わない、との事だった。

 

 プラグスーツを脱いでシャワーを浴び、服を着て残っていたスポードリンクを飲み干して、一息。

 戦闘が迫っているのにやることがない、という気持ちの置きどころに困る状況に表現し難い居心地の悪さを感じながらも、シンジは大人しく待機室へと向かった。

 パイロットは体を休めるのも仕事の内、とは何度も言われている事だがこんな時ではそれも難しい。

 長椅子に体を横たえ目を瞑る。深呼吸を繰り返す。それでも昂りは、あるいは不安、恐怖は収まらない。

 過去の戦闘では、第3新東京市に呼びつけられてあれよという間に事態が進んで出撃、使徒襲来に合わせて学校から呼び出されて慌ただしく準備して出撃と、言ってしまえばシンジは勢いや流れに任せてのものしか経験していない。準備時間が設けられている事自体が初体験だ。

 緊張を保ったままでは体が持たない。しかし気の抜き方が分からない。

 睡眠薬とか貰えないかな。保安部の誰かが気絶させてくれるのでもいいけど。

 思考があらぬ方向に飛びながらもシンジはとにかく目を瞑り続ける。時間の経過と共に寝返りと溜息の数だけが積み重なった。

 

 

 

 日が沈み夜に溶けていく景色の向こう、街の中心部に青い巨体が静かに佇んでいる。実際はその下でドリルを使ってギャリギャリと音を立てながら地下へ掘り進んでいるのだが、少なくとも遠くから見る分には。

 情報統制とか完全に無駄になるんだろうな、とシンジは広報部の苦労に思いをめぐらせた。

 今回の使徒は地形を変えた。そして長時間居座っている。これを誤魔化すには第3新東京市のど真ん中にテーマパークを建築中とか、かなりの無茶を言い出すしかなさそうだが。

 こちらの方はと振り返ると、初号機と零号機、そして巨大なライフルが。その周囲にはネルフの職員、そして太いケーブルの束が見える。

 エヴァのメンテナンスは終わっているので今忙しく動いているのは陽電子砲の準備に追われている人達だ。戦略自衛隊から特別権限を盾に無理やり借りたものをネルフの技術でセットアップして使おうというのである。

 使い終わったら元通りにして返却するらしいが、この場に戦自関係者は一人もいない。技術者だけでも連れてくれば仕事が捗りそうなものだが、機密の塊であるエヴァがむき出しの状態で突っ立っている以上はそうもいかないのだろう。それならば戦略自衛隊の機密は、とも思うのだが、そこはやはりネルフの権限でものを言わせたのだろう。

 付け加えるなら、元通りというのは研究所から持ち出した時の状態のままという事で、つまりは成果も実績も残さず稼働させたデータすら一切合財残さず吸い上げるという意味でもある。権力って怖いな、とシンジは寒気を感じて二の腕を擦った。

 

 今回の作戦は、盾で防ぎライフルで撃つ、と言葉にするとかなりシンプルになるが、実行にはかなりの困難と危険を伴う。

 盾は使徒の攻撃に対し最長で17秒しかもたない。そしてライフルでの攻撃は2発目のチャージにはどれくらいかかるか不明と、一の矢を外したらある程度は覚悟しなければならない。

 それを聞いてシンジも一応作戦案らしきものを出してみた。

 盾を二つ用意し、エヴァ一機は陽電子砲の守備、もう一機は強襲。陽電子砲の発射は司令部の誰かが。

 強襲側は狙撃地点の反対側から投擲できるような武器を投げつけた後に使徒に突撃。

 それで撃破できれば良し。できなくとも攻撃に反応して反撃するはずだから注意は引ける。

 使徒の攻撃を引き付けている間に狙撃でケリをつける。

 もし陽電子砲側に攻撃が向いた時はやはり防御している間に直接攻撃。

 接近している分A.T.フィールドを微かにでも中和できる可能性もある。

 発射そのものにエヴァは必要ない気がするし、いけそうな気もするのだがどうだろうか、と伝えてみたところ検討された上で却下された。

 理由は三つ。盾が一帖しかないのと、投擲に使えそうな武器が無い事。そして何より、時間が無い。

 盾に使われているのはSSTO、地上と宇宙を行き来する輸送機の底部だが、現在用意できるのは一機分のみ。新しく用意するならまずどこかから調達してきて切り離して持ち手を付けて、とあれこれやらねばならない。今回使用するのはいつか使うかもしれないと前もって入手しておいた部材を簡単に仕上げたもので、こんな事もあろうかと、というやつだ。

 投擲武器はソニックグレイブという薙刀が使えそうだが、未だ試作段階で完成には至らず。シンジは建物解体等に使うクレーンで吊り下げる鉄球とかはダメなのか、と聞いてみたが、あれは人間が扱うと考えると重過ぎるがエヴァが投げるとすると軽過ぎる、との答えが返ってきた。人間でいえばピンポン玉を投げるようなもので、狙いが安定しないとの計算結果付きで示された。

 両者に共通して言えるのは時間だ。時間さえあれば、例えば猶予が一週間あれば万全の状態を整えて送り出せるがタイムリミットまでは数時間しかない。用意できる中での最良が今回の作戦であると。

 もっともこの作戦、ヤシマ作戦に問題が無い訳ではない。

 陽電子砲に使うのは日本中の電力、1億8000万キロワット。こんなものを扱った事がある人間など居やしない。つまり試射をした事が無いのだ。

 さらには自走砲を急遽ライフルに改造したことで重量バランスもめちゃくちゃになっており取り回しが難しくなっている。銃架があるから大丈夫、という訳ではない。重心が狂っていると射撃時の反動でどう動くかすら分からない。

 それも含めて、あくまで「現段階での最良」なんだな、と納得するしかなかった。

 

 視界を白く染める強烈なライトの中、各機の配置が伝達された。砲手は零号機、防御は初号機。

 今回の作戦は攻撃力は当然の事ながら防御能力がものを言う。

 基本的に陽電子砲に何らかの障害が出た場合そこで一巻の終わりである。故障や不具合は技術部に頑張ってもらうとして、使徒の攻撃は何としても食い止めねばならない。

 初撃を失敗して移動する事になった場合、ただ武器を担いで動くよりも対象を守りながら自分も移動する方が難しい。そこで再起動を果たしたばかりの零号機とレイよりも、今まで稼働させ二体の使徒を撃破した実績のあるシンジが盾持ちに選ばれた。

 言うまでもないが、盾持ちの方が危険である。死にやすいと言ってもいい。攻撃を直接受け止めるのだから当然だが、作戦失敗となった場合は結局人類ごと滅亡だ。

 

「了解です」

 

 シンジは配置を受け入れた。受け入れる以外の選択肢は最初から用意されていないのだろうが。

 

 

 

 23時30分。日本から明かりが消えた。

 搭乗用の仮設ブリッジから街灯が消えていくのを見ながら、シンジはメニューを開いた。

 

 ――――――――――――――――――――

 シンクロ向上  (2/10)

 A.T.フィールド (2/10)

 

 残りSP : 102

 ――――――――――――――――――――

 

 今回必要になるのは多分この二つだろうと見当はついたが、それでもシンジは迷っていた。

 リツコとMAGIによるシミュレーションでは、加粒子砲を受けた場合でも最も装甲の厚い胸部であれば機体は数秒耐えられる。機体は、だ。その数秒というのも装甲が融解し素体に直接照射されるまで、というだけの時間でしかない。

 しかしパイロットはそうはいかない。熱は容赦なく機体、プラグを通して伝達され、結果L.C.L.の温度も上がり沸騰した挙句パイロットが茹で上がる。

 直接攻撃された痛みと温度上昇により動きは止まり、貫通または蒸発させられるまで攻撃を受け続けるという結果となる。

 装甲の薄い末端部であれば言わずもがな。一瞬で消し飛ばされてそれまでだ。

 作戦前にネガティブな情報を突き付けられはしたが、それを防ぐ為の盾であるし、加えてA.T.フィールドを展開できれば防御可能時間は延びるだろうと思う。しかし上げ幅を決める為の基準と、それを定める為の経験が、物差しがシンジには無い。使徒のフィールドを中和した事はあっても、フィールドで能動的に防御した事は一度も無いのだ。数値的にどこまで伸ばして良いのか判断がつかない。

 スキルを上げてしまうと元には戻せないという問題がある。一瞬ならば、使徒の攻撃を受け止めている間だけならば火事場の馬鹿力的なアレやソレという事にもできるかもしれないが、その後も上がりっぱなしではいかにも不自然だろう。

 上げた場合深刻な事態となり得るのはシンクロ率の方だ。シンクロ率が上がるというのはダメージを受けた際のパイロットへの伝達率も上がるという事になる。過去二回の戦闘でも、折られて打たれて潰されて貫かれて、とかなりの破損と怪我をしているが、より強いの痛みを食らうのは正直厳しい。

 ならばフィールドだけ上げれば良いのかというとさにあらず。低シンクロで高出力フィールドという状態がエヴァのシステムとしてあり得るのかシンジには分からない。

 ポイントを振り分けて上がるとしたらそれぞれの下限値か平均値なのだろうが、シンクロ、フィールド共に自力での調節、というか下げる事もできなくはない。だが下げる為には「集中しない」という戦う者としてあるまじき状態になってしまう。それでは遅かれ早かれ死ぬだろう。

 では1か2か上げて様子見で、という訳にもいかない。貫かれて一発食らったらほぼ終了。懸かっているのは自分の生死と、その先の人類の生死である。失敗して残念だったね、では済まされない。

 

「死ぬよりはマシか……」

 

 色々と考えてみるも、結局はそこに行き着く。

 後で詰問されるのも、何かの実験を受けるのも、死ぬよりはマシだろう。

 

 ――――――――――――――――――――

 A.T.フィールド (2 → 10/10)

 

 残りSP : 94

 ――――――――――――――――――――

 

 フィールドのみにポイントを使い、シンクロ率は据え置きとした。

 これで何とか間に合ってくれれば良いけど。

 そう考え、シンジは知らず強張っていた体から力を抜いた。

 取り消しが効かない以上、上げてしまったスキルによって起こる問題は仕方がない。何があっても動じないように……。

 と、開きっぱなしになっていたウィンドウを閉じようとした時、気付いた。

 

 ――――――――――――――――――――

 A.T.フィールド (10/10)

 ┗A.T.フィールド2 (0/10)

 

 残りSP : 94

 ――――――――――――――――――――

 

「……派生した?」

 

 項目が変化していた。

 2、と分かりやすくも雑な項目名が追加されているが、察するに強化による発展型のスキルなのだろう。

 以前動体視力等にポイントを割り振った時にはこんな事は起こらなかった。何故今回に限って2などと。2が出たという事は3も4もあるのだろうか。とりあえず上げてしまえば安心できると思ったのに、A.T.フィールドの強化はこの程度では不完全という事か。というか上限が分からない。

 試しにポイントを振ってみると、1上げるごとにSP3と消費量が上がっていた。10まで上げるなら30ポイント、と軽い気持ちでは使えない数になっている。

 確認メッセージで「いいえ」を選択してシンジは考える。もしレベルに上限が、カウントストップがあったとしたら。

 レベル1上昇につきSPが5。レベル99まで上がったとしたら総計490。

 もしこのままフィールド3、フィールド4と段階が上がっていった場合、それに応じてSP消費量もきっと増えていくだろう。

 次が5、その次が7、10と進むのが妥当だろうか。となるとスキルを最大まで上げれば50、70、100だ。A.T.フィールドだけで260。半分以上費やすことになる。

 それよりも問題は、そこまでやらなければ対処できない使徒が出た場合だ。

 例えばSPが1000や2000も余ってるというのなら何も考えずにスキルを上げて終わりだが、システムの全体が分からない以上は、そしてこの先の使徒の力量が分からない以上は無駄遣いはできず、危機が目の前に迫った時に考え判断しなければならない。

 面倒な事になってきた。

 先の仮定が正しいという保証はない。レベルが999まで上がるゲームも存在するしそのシステムを再現している可能性もある。

 それならば嬉しいのだが、こういう事だろうと甘い予測で一定数ポイントを残しておけば余裕という事では断じてないのだ。逆にレベルが50までしか上がらないゲームもあるのだから。

 それはともかく、

 

「後で考えよう……」

 

 今は目の前の使徒である。

 フィールド出力が上がった事で逆に不安になる、と本末転倒な結果となったが、兎にも角にも生き残ってからだ。

 まあ、これは棚上げや先送りというのだが。

 

 

 

 臨時指揮所で発せられた作戦開始の号令が、通信を介してプラグ内に響く。

 使徒の行動は攻撃されてからの反撃のみと思われるので初撃は取れるだろう、という予想だ。なのでシンジの役目は一発撃った後に射線上に入っての防御と二発目までの時間稼ぎとなる。

 山の麓からこの山頂付近まで、急遽設けられた変電機やら高架線やらがひしめいている。冷却器が唸りを上げ始め、伝達系の不具合かどこかから煙が上がり始める中、シンジは飛び出す機を窺い初号機の身を沈ませた。

 

「目標に高エネルギー反応!」

 

 MAGIによる照準補正もライフルへのエネルギー供給も終え、射撃の最終段階であるカウントダウンが行われる中、使徒が動いた。

 攻撃ではなく、エネルギー量に反応した?

 そう考え、シンジの口角が微かに上がった。放たれる前に叩かねばならない程のエネルギー。使徒が危機感を覚える程の攻撃。つまり、当たりさえすればフィールドごと貫かれると、他ならぬ使徒が判断したという事だ。

 ならば、命中しさえすれば勝てる。

 カウントダウンは続き、ミサトの号令でトリガーが引かれた。

 使徒の砲撃もほぼ同時。互いに迎え撃つ様に放たれた光の奔流は、互いに干渉しあい逸れていく。

 双方の背後にそびえ立った火柱を確認し、振動も轟音も無視してシンジは動いた。使徒と零号機を結ぶ線上にやや距離を離して膝を付き、盾を構えて全身を強張らせる。

 再び慌ただしく動き出した指揮所の音声と、背後からヒューズの排出、装填音が響く。

 一射目はほぼ同時。二射目は、

 

「目標に再び高エネルギー反応!」

 

 向こうが速い。

 

「フィールド……!」

 

 初号機を中心にフィールドに押し退けられた地面がめくれ上がり吹き飛んだ。

 スキルの効果は確実に出ている。が、これで間に合うかどうかは未知数。

 シンジは念じる。

 より固く。より硬く。より堅く。

 思い描くのは、他でもない目前の使徒。攻撃を弾き返したあのフィールド。

 使徒を一心に見据え、それだけを思い描く。後はもう信じるしかない。技術部の力を。初号機を。この訳の分からないシステムを。

 

「あぁ、怖いなぁ……」

 

 覚悟を決める為、シンジはあえて一言弱音を吐いた。

 吐き出す事で自分の怯懦を追い出そうとしたのだ。

 もう自分の中には残っていない。十分に立ち向かえる。

 可能性がどうこうという問題ではない。やれる、できると全霊を込めて思い込んだ。

 

 使徒の円周部が煌めき、間を置かず、砲撃。

 真正面からは光の壁が尋常ではない速度で迫ってくるようにしか見えない。

 着弾。

 衝撃。

 A.T.フィールドがオレンジ色に瞬き加粒子砲を受け止める。

 しかしそれは一瞬のみ。

 シンジの、初号機のフィールドは微かな時間のみ効果を示して貫かれた。

 

 破られた。

 光が飛び散ってる。

 手が熱い。

 盾が保つのは17秒。

 残りは何秒?

 盾が溶け始めた。

 手だけじゃなく体も熱い。

 エヴァからのフィードバックだけじゃない。

 プラグの中が熱い。

 エヴァの装甲は?

 熱いな。

 熱い。

 

 自失なのだろう。

 機体を通して、自分の感覚を通して様々な情報が飛び込んでくるが、シンジの脳はそれらを処理をやめていた。

 ただ、受け取るのみ。それなら次は、と行動へは結びつかない。

 それは確かな予感の為。免れえない結果の為。

 浮かんでくる言葉は一つだけ。

 ああ、これは。

 

 死ぬんだ。

 

 

 

 脳裏に映像が映し出される。

 駅のホーム。背の高い父の姿。バッグ一つだけの荷物。泣いてる自分。

 母がいなくなり、父が自分を遠ざけた。

 捨てられたと思った。

 年に一度の墓参り。父からは情らしきものは感じられず、ただの義務感で訪れている様に見えた。

 やはり捨てられたのだと考えた。

 新しい住処では口さがない者達が、親に捨てられた子供だと噂した。

 確かに自分は捨てられたのだと信じた。

 誰にも言えず誰も聞かなかった。

 何もしたくなかった。

 何ができるとも思わなかった。

 死んでないから生きていた。

 ただ生きているだけだった。

 

 

 

 これが走馬灯の様に、というやつか。

 つまり死にかけているという事か。

 そう気付いたシンジは急速に正気を取り戻し、嘲笑った。

 自分を。

 こんなものしか思い出せない自分を。

 こんな事しか体験していない自分の過去を。

 辛い事ばかりが連なって面白い事なんか一つも無い。

 笑える思い出が一切ない自分を嘲笑った。

 そして思う。

 こんなものじゃ死ねない。

 未練に思える出来事一つ自分は持ってない、それ自体が未練だ。

 だから、死ねない。

 死んでたまるか、と。

 

 視界が、晴れた。

 

 

 

 稼働を始めた自分の思考を確認し、今とこれまでの経過を把握し、シンジは考える。

 盾はもう溶けて流れ散るのを待つのみ。

 フィールドは一瞬で破られた。

 が、それでも一瞬は確かに攻撃を防いだ。

 ならば。

 何度でも展開すればいい。

 破られる度に展開すればいい。

 

「ぐぅぅぅうぅうううううう……!」

 

 僅かな時間しか保たないならば、僅かな時間をつなげばいい。

 数多くの一瞬を連続させ、数珠の様につなげば。

 それは確かな障壁となり得る。

 

「うううああああああアアアア!!」

 

 ろくでもない過去に意識が向けられるのを懸命に引き戻しながら。

 何度も再生されるゲンドウに捨てられたその時を振り払いながら。

 何度も、何度でもフィールドを展開する。

 死の予感によって引き伸ばされた知覚をフルに使い、スキルで取得した動体視力と反射神経を限界まで酷使して。

 破られる瞬間に展開。

 破られる寸前に展開。

 瞬きする間もなく、一心不乱に、ただひたすらに。

 

 

 

 背後からの火箭が使徒を貫き、通信からミサトの快哉の叫びが聞こえた。

 炎と煙を拭き上げかしいでいく使徒を確認すると、シンジは機体を横たえエントリープラグを排出、L.C.L.も緊急排水させ外へと転げ出た。

 外は普段通りの熱帯夜、更には使徒の攻撃の影響で周囲の温度も十分高いのだろうが、滾ったL.C.L.と比べれば高原の爽やかな空気も同然だった。

 肺の中の液体を咳き込みながらも吐き出し、その場にゴロリと体を投げ出す。荒い呼吸が整い興奮も収まっていくにつれ、短時間とはいえ極度に酷使した心と体へ疲労が一気に襲いかかる。瞑ってもいない目の前が暗くなっていく。

 後は職員に任せてこのまま眠ってしまいたい。

 生理的な欲求が吹き出してくるが、脳内に反響するファンファーレが遠ざかる意識を無理につなぎ止めている。

 勝手に開いたウィンドウにはレベルアップのメッセージが表示され流れていくが読む気も起きない。

 それでもまだシンジにはやらねばならない事が残っていた。

 

 一通りのレベルアップ処理が終わるのを待ち、メニューを展開してスキル項目を辿っていく。

 そして、

 

「……あった」

 

 見つけた。

 追加されたスキル「編物技能」。仮説は証明された。

 

 実験の成功を見届けるとシンジは深く深く、肺が空になるまで息を吐いた。

 ネルフ職員の誰かだろう足音が迫ってくるが、もはや限界と目を閉じる。

 同時に意識もプツリと切れた。

 

 

 

 

 

 









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