科学で魔法を始めよう 作:ロイ
同盟?
アンスールの月(7月)。学院の夏期休暇中、ゲルマニアに大物が訪ねてくる。マザリーニ枢機卿とラ・ヴァリエール公爵一家(エレオノール除く)だ。
今回の件を一言で言うとお見合いである。この二人の中で直接合わせてみよう、と、マザリーニは思ったわけだ。はっきり言って既にヤケクソだった。出発の段階で漸くエレオノールの処分がまだだったと気付いた所にどれほど追い詰められたかが分かる。これは本当に最後の手段なのだ。失敗し、ジョゼフ、若しくはヴィットーリオが乱心しなければトリステインは滅ぶ。
エレオノールは取り敢えず軟禁。ゲルマニアの望む処分も一応は手札の一つくらいになりえるかも知れない。
一行は女王に挨拶してからギナと面会しようとしたが、何故か時間があるのはロイだけである。実際では、そうなるようにロイが仕向けただけだ。陰謀はロイの担当なので。
王宮の客間。大きなテーブルの一方はマザリーニ、公爵、公爵夫人、カトレア。ルイズは王族と面会できる状態ではなかったので、家臣に世話を任せたらしい。やっぱりダメかと溜息をつくオッサン二人である。だが、ギナには何としても会ってもらわなければならない。ロンド・ギナ・サハクにはロリコンだと言う噂があるからだ。
一行の中で公爵夫人が放つ威圧感が凄い。表向きのロイは王族ではあるが役職がない。一時的に外交を任される時もあるが、それは飽くまでも一時的なものだ。影響力が強くても、地位は無し、その辺の機敏をカリンは理解は出来ても納得は出来ない、バカにされた感じがするのだろう。つまるところ、やはり武人だというわけだ。だが子供でもないので、口には出さない、しかし隠しきれない物も有ったようだ。
一方のロイは心底リラックスしていて紅茶を楽しんでいる。それが更に公爵夫人イラつかせた。
「レコン・キスタの件で話がしたい」
アピールするのはロイじゃないので直接本音を話す。
「どうぞ」
「レコン・キスタは聖地奪還を掲げている。残念ながらアルビオンはもう駄目だろう。その次はトリステインを侵略する確率が最も高い。これだけならばゲルマニアとは関係ないが、万が一トリステインが落ちるとすればゲルマニアが戦場になる可能性が出てくる、それはそちらにとっても良くないだろう?」
マザリーニはずいぶんと焦っているようだ。カリンのマザリーニに対する視線は刺々しくなるばかりだ。きっとトリステインの滅びが気に入らなかったんだろう。
「確かにゲルマニアが戦場になるのは避けたいが、ガリアを通ると言う選択肢も有る」
「建前上、ブリミルの子孫は出来るだけ攻撃しないようにする筈だ」
「ではアルビオン王家を攻撃するのは?」
「ブリミルの子孫なのに聖地奪還に協力しないのでやむを得ずと言ったところか」
「ガリアにも同じ言い訳で攻める事ができる」
「それはそうだが、やはり建前を考えるとゲルマニアになるのではないかと」
「後ろにロマリアが居ると考えているからか?」
「......」
「それは肯定と取るぞ」
「しかし、攻撃目標でゲルマニアが有力なのは事実だ」
「ならばレコン・キスタに占拠されたトリステインを殲滅するだけだ」
「っ!」「くっ!」
「それでは同じではないか?」
冷静なのはマザリーニしか居ない。
「いや、足手まといは居ると居ないでは勝手が違う」
「我がトリステインが足手まといだと?」
「王が居ないのに誰が軍を纏めるんだ?」
痛いところを付かれたマザリーニ。
「マリアンヌ様とアンリエッタ様なら出来ます」
「先に王位に着かせろ。王が居ない不安定な国との同盟なんぞ受ける意味が無い」
「しかし!」
「それに例えどちらかが王位に就いたとしても、貴族どもを纏め上げられる保証もない」
「我がトリステインの貴族は皆、国に忠誠だ」
「はっ!だったらゲルマニアの手伝いは要らないだろ」
トリステインとアルビオンの差はアルビオン内戦もあり、縮まっている。貴族を纏め上げ、クルデンホルフの全面的な協力を取り付ければ少なくとも負けることはない。
「......」
しかし、それは無理である。
「まずは自国をなんとかしてください」
ロイが出て行く。マザリーニ、ロイに説得に失敗。が
「待って!」
「ん?」
呼び止めたのはカトレア。
「お願い、トリステインを助けて」
だが、外交は無理であった。
「断る」
「姉さんの事は私が謝るから!」
「女王陛下は今後、トリステインの使者とは会われない」
静かに怒っている風に立ち去る。
レコン・キスタはアルビオンの半分を占拠、優位なまま快進撃を続ける。奪った財宝で軍は更に拡大し、強化される。
トリステインでは一部貴族が漸く警戒を始めた。帰還したマザリーニが無理を承知で援軍派遣を提案する、一方のラ・ヴァリエール公は貿易停止の提案だ。両提案に対して意見は二分化し、援軍の方は出し渋った貴族が多すぎて纏まらず、貿易停止はやりたい奴だけでやる事になるが、当然意味がなかった。
だが今援軍を出せば何とか間に合うと考えるマザリーニとラ・ヴァリエール公は他貴族を必死で説得する。しかしリッシュモンを中心とした一派の反対にあい、積極的賛同貴族は四割しか集まらなかった。反対派が四割(内裏切り者が1割)、慎重派が二割だ。慎重派は静観を主張し、今直ぐの派遣には反対である(盛り返したときに勝ち馬に乗るつもり)。王族の意思表明も無かったので援軍の派遣は実現できなかった。
そして、二人が絶望している時。条件付きで同盟を結ぶと言う書簡がゲルマニアから送られてくる。