科学で魔法を始めよう 作:ロイ
「は?惚れた?」
ロイは信じられないような目付きでギナを見る。
「……そうだ」
搾り出すようにギナが言う。
「誰に?」
「ミス・カトレアだ」
「……もう少し詳しく」
「いつも通り街に出かけてたらピンク髪の女が話しかけてきた。惚れた。去り際にカトレアと言う名前だと教えてもらった」
「(一本取られたか)そいつはトリステインがお前に結婚させようとした女だ」
「そ、そうか。うむ、で、どうなんだ?」
「我々不老者にとって支える存在と言うのは極めて重要だ。それを考えればカトレアとの結婚の為に少しくらい譲歩するのは吝かではない」
「そうか!」
「だが、ミス・カトレアのゲルマニア王族に対する印象は最悪だぞ」
「何とかしてみせる!」
「では条件を言う。
1.ネオ・オーブの事と我々の秘密は知らせるな。
2.ミス・カトレアはハルケギニアでは治せない病を患わっている。それの治療は彼女が兄さんの妻に相応しいと判断された時に行う。それまでは治療可能だと言ってはならない。
3.妻に相応しいと判断する条件は彼女がラ・ヴァリエール家を捨ててまで兄さんに付いて行くくらい好きだという事。
分かったか?」
「問題ない!」
「期限は多分一年くらい」
「一年でゲルマニアに対する印象を変えられる訳ないだろ」
「一年は推測時間だ。それ以上はどうであれ同盟は続かない、だが個人的な繋がりは兄さん次第だよ」
「むむむ、分かった。具体案は他の皆に聞いてくる!」
「え?おい!まっ…」
ギナは既に行ってしまった。
SIDE ロイ
はあ。
ギナとのお見合いは了承しなかったからこの手を使ったわけか。初めから同盟は結ぶつもりだったので大きな問題は無い、が。恋愛で政治を動かすのはバカにされないか?いや、ここいらは大体そんな感じだったな。
だとするとサハク公と王家の不和を避けるためにゲルマニアはいやいや同意したとすればいいか。条件を付け足すには問題はない。
ゲルマニアから言うと、ルイズと婚約してゲルマニアに置いとけば色々安泰なんだが。それをやるとギナは名声が壊れる。ジョゼフもチョッカイを出してくるかも知れない。いい事ねえな。
だが、ギナの恋は無理だな。デストロイで領地を焼いたのはマイナスだった。まあ、個人的にはカトレアをうちの家に入れたくはない。私もやはりこの世界の人間を見下している部分が有るという事だろう。
カリン、エレオノール、ルイズの性格がアレほど似ているのにカトレアが温厚なのは病気のせいだろう。病気が治ればあの性格になりそうな気がする。推測を並べても意味はないか。
取り敢えずマリアには手伝ってあげるよう言っておこう。最初から王女だった彼女なら貴族の女性の心理が分かるかも知れない。
それにこれで父さんも安心するだろう。兄さんはおっとりしたタイプが好きでロリコンじゃあ無い。これで良く分かるはずだ。
エレオノールの手紙、そして前回の侵略。条件はいい、問題は取れるものがない。水のルビー、始祖の祈祷書は渡さないだろう。いくら扱いが雑でも一応は秘宝だ。渡すとなると内部紛争に発展しかねない。
だとすると、ド・オル二エールの借用だ。あそこからラウンズを投入すれば一瞬で制圧できる。実行する意味が無いのでやらないが。トリステインが簡単に倒れてレコン・キスタに吸収されたら被害が大きくなる。トリステインを戦場にして、レコン・キスタには戦線を伸ばさせる。適度に調整すれば共倒れも可能だ。
まだ早過ぎるか。アルビオン王家は一応健在だ。
エルフに一応注意する様に言っておくか?ジョゼフが万が一改心してしまえばそのまま攻め込まれるだろう。ゲルマニア方面は私達が同盟を結んでるから彼らからしてはガリアを何とかする必要がある。既に接触しているかも知れないな。一応注意だけはしておこう。
だがこれでは釣り合わない。ド・オル二エールは物凄く重要だが、あいつらは知らないだろう。寧ろトリステイン王宮への侵入はどうでもいい。肝心なのは転移魔法がかかった鏡だ。あれを解析すればとんでも無い利益を生み出せる。王宮の隠し部屋の壁を壊せば使えなくなるが、魔法はかかったままな筈。
また逸れた。条件は、今後あらゆる場合でゲルマニアをトリステインと対等に扱う、で、いいか。それを了承する事がブリミルの影響を削ぐ第一歩だ。エレオノールに処分は、あっちに任せればいい。国家より娘を大事にする人間だ。ラ・ヴァリエール公爵に厳しい処分を下せるとは思えない。だがそれでいい。相手に怒りやすい人間が居ればそれだけ扱いやすくなる。
水精霊の件も少し言っておくか。移住するかも知れない、と。
SIDE OUT
トリステインとゲルマニアの同盟は成立する。そしてド・オルニエールがロイ・サハクに貸し出される。期間は二年。直ぐにトリステイン王宮のとある隠し部屋の壁が壊されたのだが、トリステインでは誰も知らなかった。