一夏とオルコット嬢の勝負は、結論だけ言えば一夏が負けた。所要時間は33分42秒だった。
戦闘開始前に少し話したらしいが、聞いていない。あまり聞くことでもないと思ったからだ。まあ、一夏が言うには「ボルテージが上がった」らしい。
戦闘が開始すると、オルコット嬢の弾丸の嵐に襲われた。六七口径特殊レーザーライフル“スターライトmkⅢ”と四基のビット“ブルー・ティアーズ”だ。
四方八方から襲い掛かるレーザー。一夏はすぐに武装を確認したが、そこにあるのはブレード一つだけ。一夏は、三次元的に逃げたり剣を闇雲に振り回して三十分ほど逃げ続けた。
三十分後、一夏はその長い時間でオルコット嬢の弱点というものを見つけたらしい。それは、ビットと自分の動きを同時にできないこと。……本当に、俺の試合の前に教えろと思った。
それが分かったところで、逃げるのが大変であることに変化はないのだろう。
というか、それが分かって飛んで行った一夏に、オルコットはある武装を出した。新たなブルーティアーズだ。そう、ブルー・ティアーズは六基存在していたのだった。
いきなり襲いかかってくる追加攻撃をもろに喰らってしまった一夏。
だが、天はまだ彼を見捨ててはいなかった。
――――
“白式”は、そこで初めて“織斑一夏の白式”へと変化した。
彼のブレードも、“雪片弐型”と名前を変えた。雪片とは、織斑先生が現役時代に使っていたブレードの名前だ。
オルコット嬢は今まで初期設定だったたことに驚いた。そして、一夏はその驚いて動かなかった隙をついて肉薄する。
白式にはシールド無効化攻撃“零落白夜”というものがあるらしい。シールドエネルギーを大量消費することで大ダメージを与える、というものだ。つまり、一撃必殺。オルコット嬢は敗北を確信したらしい。
しかし、白式は耐えられなかった。シールドエネルギーの減りが大きすぎた。
零落白夜のエネルギー転化によって白式のエネルギーが零になり、一夏が敗北したのだった。
ということで、オルコット嬢のISの回復を待ち、俺との試合が行われる。
「遅くなりましたわ」
「気にしなくていい。今度デートしてくれたらそれで」
「デートですか? で、でも、わたくしには……」
「…………」
なんだろう。マジレスされた上に、負けた気がした。おいおい、一夏君。両手に花ではありませぬか?
「あの、どうかされましたか?」
「……なあ、一夏君に惚れたか?」
オープンチャネルからプライベートチャネルに切り替えてそう尋ねた。オルコット嬢の顔が赤く染まる。……あ、確定だ。間違いない。
一夏は後で“
「そうそう、オルコット嬢」
「……なんですか?」
「俺や一夏のことは、どう思ってる」
「最初に見た時と違って、今は嫌っていませんわ。あなた達は、わたくしの知らない世界を見せてくださいましたから」
「そうか。なら、お礼込みでお手柔らかにしていただきたいね」
「本気を出せと言ったのはあなたですよ、星矢さん」
名前を呼ばれたことに驚いたが、すぐに表情を笑みに変える。親愛の証、ということだろう。
「そう言えばそうだ。こいつも
「そうはいきませんわ。私には、空の高さを教える義務がありますから」
飛べる鳥は、飛び立ったばかりの雛鳥に銃口を向けた。ジワリと汗がにじんできた。
「そうだな。……じゃあ、そろそろ始めようぜ」
「そうですわね。……それにしても、
オルコット嬢は珍しそうに
『準備はいいか?』
「大丈夫です」
「構いませんわ」
織斑先生の声が聞こえてきて、俺達はそれぞれ返事をした。そして、織斑先生の息を吸う声が聞こえた。
『試合……開始!』
「踊りなさい、ブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」
「“
ビットが飛び出し、俺はすぐに“
俺はビットに向かって手を向けた。“
「ぶ、ブルー・ティアーズ!」
電撃がビットの何基かに当たった。高威力の電撃に、ビットからも電気が走っていた。オルコット嬢は慌ててビットを動かそうとするが、何基かが全く動かなかったり、地面に突っ込んだりする。……回路が焼き切れたようだ。
「よしよし……お次はこれだ、“
続いて発炎機構“
俺はそれをまともに機能しなくなったビットに向けて放つ。ビットに当たると、ビットは爆発して一種の煙幕の様な状況を作り出した。
「こ、今度は何を!」
オルコット嬢の弱点をついたり、驚かせている隙に攻撃する。この当たり前なことが、これが俺の考えた作戦であり、勝利への唯一の道だ。それは、王道なのからトリッキーなものまで様々な能力を持っている
俺は続いての驚きを引き出すための魔法の呪文を呟いた。
「“
その言葉をきっかけに装甲が浮き上がり、俺の姿が変形する。
煙が晴れると、オルコット嬢は再び目を剥いた。
「
「秘密だ」
今の俺の姿は、一言で言えば闘牛だった。脚部についた大型スラスターと頭部の二本角が特徴的だ。そして、何よりの特徴は装甲が部分的なものになっていること。
これが
俺はオルコット嬢に二本角“
「さあ、行くぜっ!」
そして、大型スラスターを爆発させる。
ーーーー刹那、俺の姿がかき消えた。
「き、消えキャアアアアッ!」
「っまだまだぁ! ……“
ハイパーセンサーを超える超高速の突進でオルコット嬢を吹き飛ばす。オルコット嬢はアリーナの壁に叩きつけられて動けなくなる。
そして、すぐさまその姿を遠距離用の形態である“
「変形した!?」
オルコット嬢はそこで、全てを理解したのだろう。しかし、全てが遅かった。
俺は既に力強く弓を引いていた。番えていた矢にエネルギーが収束していく。
「はっ!」
短く息を吐き出して弓を放つ。“
尾を引きながら飛んでいく矢は、オルコット嬢に直撃し、そのシールドエネルギーを根こそぎ奪い去っていった。
『試合終了。勝者、溝口星矢』
アナウンスが流れ試合が終了する。ダメージは受けていないものの、様々な機能を使ったせいでシールドエネルギーはほんの少し減少していた。
「溝口星矢、帰還いたしますたでござる」
バシィィィィィィィィン!
「ふざけるな馬鹿者」
「はーい、すみませんでしたー」
「……痛くないのか、星矢?」
「全く」
一夏や先生達のいる場所に戻った俺を迎えたのは、織斑先生の二の太刀要らずだった。受けてみると、言うほど痛くない。もともと痛みには強い。ISがあればさらにだ。
一夏達の化け物を見る様な視線を受けながら、俺は
「……今度は射手座か」
射手座で解除したから射手座になったのだろうか? すぐに視線を真紀子さんの方に向けた。
「真紀子さん、説明してくれますか? 本当に大事なことしか聞いてないので」
「そうね。どうせ、先生にデータの提出をするんだもんね」
真紀子さんはそう言って、厚めの本を開いた。……表紙に『
「まず、
“
しかし、決定打に少々かけるのが難点だ。
「そして、残りは黄道十二星座を模した亜形態“
“
しかし、“
真紀子さんは、さらにペラペラとページをめくっていき、ある場所で止めた。ちらりと見えた内容は、性能限界。
「それと、ポラリスに行く件だけど。この機体の力を十全に引き出せるようになったら、ポラリスに行ける可能性が僅かながらに出てくる」
「ほ、本当ですかっ!」
俺は真紀子さんの詰め寄った。一夏達は、何の話か分からずに首を傾げていた。
しかし、そんなの俺には関係なかった。ポラリスに行くという、俺が一番望んでいたこと。その可能性が0の壁を越えたのだ。
「本当よ。でも、今はまだ実力が足りないから無理ね。それに、十全に引き出せたとしても、そうとう分の悪い賭けになるし、行って終わりよ」
「……ちなみに、行ける確率は?」
「多めに見積もって0.1%」
「……そうですか」
かなり望み薄であることにショックを受ける。それに、出発すればそれが地球での最後の時間になるということだ。……本当は、0でないことを喜ぶべきなのかもしれないが。
「大丈夫。これから、技術が発展して行く中で機体の能力は上げられる。当面は、法的な問題とセイ君の技術向上だから、頑張ってね」
「……はい、やってやります」
俺は射手座の胸飾りになった
「なあ、星矢」
「どうした?」
「ポラリスってなんだ? それがどうかしたのか?」
一夏がそう尋ねた。後ろで、箒嬢や先生達も知りたそうにしている。俺はチラリと真紀子さんを見るが、目で「好きにしなさい」と返される。
しばらく悩んだが、このメンバーには話してもいいかと思った。
「ポラリスっていうのは、小熊座α星だ。別名、北極星」
「北極星って、北空で動かないっていう、あれか?」
「厳密には動かないわけじゃないんだけど、それだ」
「ちょっと待て、溝口」
「なんだ、箒嬢」
北極星に行く。その言葉がイマイチ理解できないのか、一夏や先生達は首を傾げたままだ。しかし、箒嬢は記憶を掘り返しながら尋ねる。
「星というのは、すごく遠いのではなかったか? 光の速さで何年もかかるんだろう?」
「ああ。一番近いケンタウルス座α星Cで4.2光年の距離。そして、ポラリスはその百倍弱の430光年だ」
「こうねん、とは何だ?」
「えっと、光年は距離の単位だ。光に年と書いて光年。一年間で光が進む距離をさす」
つまり、ポラリスに光の速さで行っても430年はかかるということだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 光の速さで430年? そんな場所に行けるのか?」
「行けるさ。これがあれば」
俺が胸飾りを掲げると、星の代わりになっている玉が瞬いた。こいつも、できると言っているじゃないか。
「
地球の中にいるというだけで、ハイパーセンサーを始めとした機能にはリミッターのようなものが存在する。おまけに、それも第一世代機だけで、第二世代や第三世代の機体は完全に地球内用に作られていて、その性能が削られている。
しかし、
「それで、星矢はどうして行きたいんだ?」
「どうして、か?」
その質問は二度目だな、と思った。一度目の、この機体が俺に尋ねた時のことを思い出す。
「夢を叶えるためだ。子供の頃から抱いていた、何も知らないが故に言えた無謀な夢を叶えるため」
「……そうか」
そういえば、先ほどの試合で一夏が「俺は家族を、仲間を守る!」と宣言していた。一夏がそんな夢を抱く理由を俺は知らないが、何処か俺と同じような気がした。小さな頃から抱いていた夢なのだろうと、直感的に思った。
「夢は、現実ではないから夢だ」
口をついて言葉が出てきた。それは、父さんが昔言っていた言葉だった。
「夢は、叶えたいと思って始めて望みとなる。叶え方を見つけて始めて目標になる。叶えて始めて未来になる。抱きっぱなしの人の夢は、存在すら曖昧な儚き幻想だ」
抱くだけなら誰でもできる。それを望みにし、目標に変え、未来とするのが困難なのだ。
俺は始めて、この望みであった夢を目標に変えた。叶える方法を見つけた。後は、それを未来に帰るだけだ。未だ来ぬ、と書いて未来。ならば、それはいずれ必ずやってくる。そういう風に決まっているのだ。
俺はそんな感傷的な気持ちに身を任せていた。真紀子さんはこの言葉を懐かしそうに、他のみんなは真面目に受け取っていた。
それを眺めていると、頭の中でカチッと音が鳴ったような気がした。多分、やる気スイッチだ。どこにあるのかは知らないが。
スイッチがオフになると、途端にこのシリアスな空気が嫌になる。今すぐ帰りたい。
「さ、感傷に浸ってないで帰ろうぜ。一夏、僕はもう疲れたよ」
「俺は犬じゃねえよ!」
パトラッシュ役の一夏のツッコミを受け、空気が弛緩する。やはりこういう名作ネタは通じるものだ。
俺は「良いではないか、良いではないか」と言いつつさっさと退散させてもらった。
余談ではあるが、後で以前、真紀子さんが言っていた専用機の所持に関する契約書や誓約書を裁くことになった。死ぬかと思った。
「それで、クラスの代表は織斑君に決定しました。一つながりで、何だか縁起が良さそうですね」
「あの、先生」
次の日のSHRで、クラス代表の発表があった。山田先生がそれを発表すると、代表の一夏が手を上げた。
「なんで俺が代表なんですか? 俺、順位にすれば最下位だと思うんですけど」
「それは、俺が一夏代表(笑)を選んだからだ」
「……なんで俺なんだ? っていうか、選んだってどういうことだよ」
代表(笑)の部分を華麗にスルーした一夏。面白くない。
面白くないので説明したくないが、しないと納得しそうにないので説明することにした。
「織斑先生は言った。『ISで勝負して代表を決める』と」
「ああ、そうだったな」
「ここで大事なのは、勝者が代表をするとは言っていないことだ。ここを俺は『勝者が代表を決める』と解釈した」
「なるほど」
「なので、一位だった俺は堂々と一夏を指名できたというわけだ」
「非常に納得できないが理解した。それじゃあ、なんで俺なんだ?」
なぜオルコット嬢ではなかったのか? ということだろう。俺はこぼれる笑みを隠さずに言った。
「その方が面白そうだからだ!」
「絶対、星矢がやりたくなかっただけだろ!?」
「そうとも言うな」
「…………」
「く、ククククッ、アハハハハハハ!」
翻弄される一夏が面白い。俺は笑いが止まらない。織斑先生に何度か叩かれたが、止まらないものは止まらない。
ひとしきり笑うと俺はなんでもなかったかのように席に着く。一夏はそれをポカンと見ていたが、すぐに我に返ると、また反論する。
「そ、そうだ。オルコットはそれでいいのかよ!」
「構いませんわ。わたくしも星矢さんにそう伝えましたから。後、わたくしのことはセシリアとお呼びください、一夏さん、星矢さん」
オルコット嬢改め、セシリア嬢の変化具合に驚くクラスのメンバー。みんながチラチラ俺や一夏を見るので、俺がジェスチャーでセシリア嬢が一夏に惚れたのだと伝える。すると、みんなが楽し気に二人のことを見る。やはり年頃の女の子は恋バナが大好きなのだろう。
「これからが楽しみになってきた……」
一夏のモテ具合には殺意が湧くが、それでも修羅場を見るのが楽しみだ。とりあえず、悶々とした表情で一夏を見ている箒嬢の行動に注目して行きたいと思う。
クスクスと笑う俺の服の下、チャラチャラと鳴る射手座の胸飾りが弓を引き絞ってまだ見ぬ未来を狙っていた。
星のネタ
・“
金牛宮と言うのは、黄道十二宮でいう牡牛座のこと。十二宮を使うのは基本的に占星術の話なので、星を見るにはあまり関係ない。ちなみに作者は占星術とタロットと夢占いだけは信じている。
・“
アルデバランは牡牛座のα星。意味は『後に続くもの』。プレアデス星団に続いて出てくるのが由来だそう。都会でも見える星なので、要チェック。
・“
人馬宮というのは射手座のこと。賢人ケイロンのことだと言われている。これの弓矢の部分が南斗六星であり、弓矢の狙う先はさそり座の心臓、アンタレス。
・“
ルクバトは、射手座のα星。意味は『膝』。射手座の膝の部分にあるのが理由。4.1等級で低い位置にあるので探しにくい。むしろε星のカウス・アウストラリスを探す方が早い。
・“
占星術における概念(?)の一つ。黄道を通る十三の星座のうち、蛇遣い座を除いた十二の星座を指す。だが、正確には星座そのものではなく、黄道を十二に分けたエリアを指している。……らしい。
雑談
今更ですが、「夢想家と翼-……」といった章の名前にある夢想家は星矢のことです。後、「The boy」も。
オルコット嬢があっさりやられたのは、予想外と不意打ちを重ねた結果……と言うことで納得していただければと思います。オルコット嬢の視点で言えば、
試合開始。直後にビットが動かなくなった上に爆発。煙が晴れたら一次移行したはずの相手の機体が変化している。次の瞬間、衝撃と共に壁にめり込む。状況を理解した瞬間に矢が飛んできて試合終了。
と言う感じです。
後、今日まで毎日更新でしたがとうとうストックが尽きました。これから学年末考査があるため、今月の更新はこれか、後一回で最後かと思います。テストが終わった三月にまた更新を再開します。流石に毎日はできませんが。
訂正……と関連知識
地球に最も近い恒星(太陽を除く)をケンタウルス座α星で4.4光年。と書いておりましたが、ケンタウルス座α星Cで4.2光年に訂正しました。
ケンタウルス座α星には、A、B、Cの三つがあり、近い順にC、A、Bとなっております。ちなみに、こういう三つで一つ、みたいな星は三重星と呼ばれます。他の例は、皆さんご存知ポラリスですね。
Cはプロキシマ・ケンタウリと言います。ケンタウリは『ケンタウルス座』と言う意味であり、プロキシマは『一番近い』と言う意味です。
三つ合わせた場合はリギル・ケンタウリと言います。このリギルというのがオリオン座のリゲルに似てると感じそうですが、一緒です。リギル、リゲルというのは、読み方が違うだけで同じアラビア語で『足』を意味する単語が由来です。それぞれの足の部分にあることからついた名ですね。
……と、ケンタウルス座α星だけでこんなに長くなりました。すみません。