IS学園天文部-リメイク前-   作:山石 悠

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前話の地球に一番近い恒星(地球を除く)の情報を変更し、それについての説明を前話のあとがきの最後に書きました。
興味のある方は、前話へどうぞ。


第八夜「嘘、だろ……?」

 代表発表のSHRの後、一限はISの実技訓練があるということで、アリーナに移動した。

 全員がISスーツに着替えて横隊で整列している。一糸の乱れもなく並んでいる様子は、学校というよりは軍隊と言った方がいい気がした。

 

「ではこれより、基本的な飛行操縦をしてもらう。織斑、溝口、オルコット。試しに飛んでみろ」

「はい」

「分かりましたわ」

「分かりました」

 

 織斑先生の指示を受けて俺達は前に出た。そして、それぞれのISを展開する。

 白、青、黒。三種類の機体が現れた。星間の夢想家(スター・ゲイザー)は、昨日の試合で解除した時のままなので、“狙撃の人馬宮(サジタリウス)”の姿だ。

 

「では飛べ!」

 

 そう言われて、一夏とセシリア嬢が飛んで行った。俺は飛ばない。せっかくなので、他の“黄道十二宮(ゾディアック)”が見たいからだ。

 

「どうした、溝口。飛べ」

「すみません、今飛びますから。……“神速の白羊宮(アリエス)”!」

 

 俺の声をきっかけに、背中に付いていたスラスターが下半身を覆うように変化し、“狙撃の大弓(ルクバト)”が頭部装甲“神速の兜(ハマル)”に変わった。

 これが、星間の夢想家(スター・ゲイザー)の移動専用形態である“神速の白羊宮(アリエス)”だ。能力が“突撃の金牛宮(タウラス)”似ているが、向こうが頭からぶつかって攻撃することを目的としているのに対し、こちらはもしもの場合のために兜が付いているだけだ。さらに、短距離で済むのか、長距離を進むのかも違っている。

 

「いっ…………けえっ!」

 

 性能限界を見るつもりで出せる限りの力を出した。スラスターが光を放ち、爆発する。

 俺の体は一気に上空に飛び上がり、様々な景色を抜き去っていく。飛んだ瞬間に一夏とセシリア嬢が見えた気がした。さらに、雲の数々を越え、どこかで飛行機を見かけた気がした。

 燃える塵……流星の傍を翔け抜け、俺は無限遠へと飛び続けた。

 

「わあああああああっ!?」

 

 止まれない。あまりにも早すぎて、手綱を握れ切れていなかった。しかし、何とか止まることができると、俺はため息をついた。

 

「止まった……」

 

 何とか止まれたことに安堵しつつ、自分のいる場所を確認するためにあたりを見回した。

 そして、そこに広がっていたのはありえない光景であり、俺が夢見た世界だった。

 

「ここは……」

 

 先ほどまで青かった空は、すでにその色を漆黒に変えていた。蒼い星が浮かんでいて、アクセントのようにあしらわれている白い雲がとても美しい。

 暗黒の向こうに大きな光源があり、その圧倒的熱量が人が生きるには過酷すぎる環境であることを知らせていた。

 そう、ここは地球ではない。

 

 

 ――――宇宙だ。

 

 

 俺は、勢い余って宇宙に飛び出したのだ。

 高度計を見れば、そこにあるのは上空358710キロ。500キロから外圏になるので、軽々と地球を飛び出している。おまけに、というかスペースシャトルや人工衛星よりもさらに離れた位置にいるのだ。

 

「嘘、だろ……?」

 

 口にしては見たが、目の前の光景が現実であることはすでに分かっていた。

 ポラリスに行くための機体であるのだからと、性能がいいことくらいは分かっていた。しかし、俺はその程度をはき違えていたようだった。

 430光年。その距離を本気で行こうとするのだ。なら、慣れていない俺の一瞬の加速であっても、このくらい飛んでいくのは普通の話ではないだろうか?

 

『……矢! 星矢!』

『星……ん! 星矢さん!』

「っ! 一夏にセシリア嬢か!」

『ああ、……だ。やっ……繋が……たな』

『…………すわ!』

 

 いきなり通信が来たと思ったら、一夏とセシリア嬢からだった。通信はオープンチャネルのようだが、どこかノイズのかかったような声だった。

 

『星……、今どこ…………るんだ?』

『そ……すわ! ハイ…………サーにも反……いんですの!』

 

 「星矢、今どこにいるんだ?」「そうですわ! ハイパーセンサーにも反応がないんですの!」とか、そういうことが言いたいのだと思う。

 

「上空358710キロだ。機体の性能が高すぎて、こんなところにまで来ちまった」

『は……、い…………ってるんだ!?』

『ど、ど……うこ……すの!?』

 

 説明を求められているようなので、正直に事情を説明する。

 

「リミッターがかかってない機能の一つがこれだったみたいなんだ。ポラリスに行く時と同じ設定になっているから、一瞬の加速でもこんなところまで飛んできたらしい。後、そっちの通信が聞こえづらいんだが」

『…………ち! 私…………! 聞…………か?』

「織斑先生ですか? 届いていますが、あんまり聞こえません」

 

 織斑先生の声が聞こえてきた。しかし、その内容はほとんど受け取れない。俺は、感度を上げようと少し動いた。

 

『……口、今………ぐ…………こい!』

『帰れ………さ!』

『早…………てき…………い!』

「……帰ればいいんだよな? 了解だ」

 

 動いたことにあまり効果はなかったが、俺は話だけを理解して再びスラスターを爆発させた。……今度は加減して。

 地球が先ほどよりもゆっくりと近づいていく。そして、大気圏に突入した。機体が真っ赤になり、シールドエネルギーがガリガリ削れていく。

 

「や、やっべ……“回復の宝瓶宮(アクエリアス)”!」

 

 一度止まり、すぐに姿を変える。あたりのスラスターや“神速の兜(ハマル)”がエネルギータンクに変化する。そして、俺はタンクから伸びるコードをつないだ。すると、あっという間にエネルギーが回復した。

 “回復の宝瓶宮(アクエリアス)”の能力。それは、ISのシールドエネルギーの回復だ。およそ五回分のエネルギーを貯蔵しているタンク“回復の水瓶(サダルメリク)”が最大であり唯一の特徴だ。この姿の弱点は、攻撃も防御もできないことだ。つまり、回復しかできないので、戦闘時の回復中には敵から逃げるしかない。なので、基本的に自分の陣営が多勢の場合に衛生兵的な仕事をすることになるだろう。

 俺は飛んでくる流星を躱しながら、エネルギーが回復するのを待った。そして、回復したのを確認するとコードを外した。

 

「……よし、“神速の白羊宮(アリエス)”」

 

 俺は再び“神速の白羊宮(アリエス)”に戻ると、すぐに移動を再開した。もう、ハイパーセンサーを使えば簡単にIS学園の姿が、というか先生やみんなの姿も見えてきていた。

 

「“星無き夜(スターレス・ナイト)”」

 

 “神速の白羊宮(アリエス)”では勢い余って突っ込みそうだったので、姿を変えた。そして、普通に着陸した。

 

「……ただいまです」

「溝口」

 

 心配そうな表情や、ありえないものを見た表情、呆れた表情。様々な表情でみんなが俺を見ていた。織斑先生は、一人だけ俺に近づいてきた。

 

「……通信はちゃんと聞こえていた。本当に宇宙に飛び出したのか?」

「はい。本当に」

 

 ……先生が困った表情をしているのを見て、俺はあることを思い出した。そういえば、ISの運用には国家の承認が必要になるとかなんとか。そういうところの話だ。

 宇宙空間へ飛び出した。それは、間違いなく報告しなければならない事態であるとは思う。しかし、するとこれをISの無認可での宇宙運用であると騒ぐ奴が足りするのではないだろうか。主に俺の存在が気に入らない女尊男卑的な人達が。もしそう騒がれたら、俺はどうしたらいいのだろう。

 俺のそんな考えに気づいたのかどうか、織斑先生はため息をついた。

 

「……まあ、処理は私がする。お前は、勝手に学園を飛び出したことに対する反省文の提出だ。後、あの姿の無許可での使用を禁止する」

「了解です」

 

 まあ、このくらいの責めは受けようかと思う。たぶん、俺には荷が重いであろうことを先生はしてくれるのだろうから。

 

「では、溝口も帰ってきたことだし、次に行くか。三人とも、武装を展開しろ。まずは織斑からだ」

「はい」

 

 一夏が返事をして左手を握りしめた。すると、しばらくして光と共に一夏の唯一の武装である雪片弐型が現れた。

 

「遅い。コンマ五秒で出せるようにしろ」

「うぐっ……分かりました」

 

 厳しい言葉に一夏がうなだれる。しかし、実際の試合になればそのくらいで出せないと意味がないのだろう。

 織斑先生はうなだれる一夏を一瞥してから、俺に目を向けた。

 

「溝口、やれ」

「了解です。“焼き焦がす猟犬(シリウス)”」

 

 言葉と共に背中に燃料タンク、四肢に発射口が現れた。……そう言えば、リア充男子の一夏を爆破していなかったのを思い出した。どうでもいいか。

 

「速さはその半分。それと、発声(コール)をするな」

「……了解です」

「それでは、近接装備を出してみろ」

 

 指示に従って、発声(コール)はしない。俺は目を閉じて意識を飛ばす。

 

 

 

 イメージするのは星を見る自分。ただ永遠に広がる草原の中、一人で夜空を眺めている。

 ポラリスを探して方角を知る。方角が分かった俺は、すぐに別の星を見ていく。今見つけたいのは白鳥座……“北十字(ノーザンクロス)”だ。

 天の川を進み、目指す星を探す。その星は、伝達ミスのせいで一年に一度しか逢えなくなった恋人達を出会わせる、翼の橋。ミルク色の大河を超える双翼は、今は俺の剣となる。

 

 ゆっくりと手を伸ばす。すると、ただの九つの星のつながりが、血肉に、白羽になり、飛び立つ。

 

「来い……」

 

 思わず声が出た。しかし、すでに止められるものではなかった。

 伸ばした手の先を白羽がかすめていく。羽の持ち主は、クルクルと辺りを飛んでこちら向かってきた。俺は叫んだ。

 

「来い、白鳥座(キグナス)!」

 

 

 

 俺は目を開けた。右手には“北十字(ノーザンクロス)”が握られている。

 

「……溝口」

「なんですか、織斑先生」

 

 なんとなく疲れた様子の先生に、首をかしげる。

 先生は黙って、セシリア嬢を指す。視線を向ければ、セシリア嬢はナイフのような武装を手にしていた。やっぱり、貴族は懐にナイフを忍ばせているものなのだろうか。やっぱり、貴族様は怖い。

 

「お前、分かってやているんじゃないだろうな?」

「何が分かってるんですか?」

「今の展開、どれくらいかかったと思っている?」

「……三十秒くらい?」

 

 どうやら、妄想に浸りすぎたらしい。天の川を渡る途中で、他の星座や星に目が行ってしまったのがまずかっただろうか?

 織斑先生はストップウォッチのようなものを取り出した。

 

「途中からだが、これで二分を指している。そして、その前に三十秒ほど待ったから、大体二分半だ」

「そうですか。思ったよりかかりましたね」

「馬鹿者!」

 

 織斑先生の二の太刀要らずが襲ってくる。すると、絶対防御が発動した。生身の人間が殴った程度では、反応しないはずなのだけれど……IS的にも、織斑先生の攻撃は生身の人間による一撃ではないらしい。

 

「問題外だ。もっと早くしろ」

「……さーせん」

「おい、溝口」

「すみませんでした」

 

 速攻で陳謝する。……少し、ふざけすぎたかもしれないけど、まあ、許容範囲だと信じている。

 

「……もういい」

 

 先生はそれだけ言って俺に背を向けた。つまり、皆の方を向いた。

 

「今日の授業はここまでだ。織斑と溝口はその穴を埋めておけ」

「うへぇ、マジかよ……」

「っていうか、なんだあの穴」

 

 織斑先生のお言葉で授業が終了する。

 ちなみに、あの穴は一夏が開けたもので、俺も一緒なのは罰の一環だそうだ。……地味につかれた。

 

 

 

 

 

 放課後になると、本音嬢に声をかけられた。なんでも、一夏の代表就任記念パーティーをするらしい。……まあ、この世代にとっては、それが集まって遊ぶちょうどいい理由だったのだろう。

 俺は本音嬢に連れられて、準備の手伝いのために食堂に行ったのだ。

 

「みんなー、連れてきたよー」

「みんなー、連れられてきたよー」

 

 本音嬢の言葉を真似しながら食堂に入ると、クラスのほぼ全員が準備をしていた。よく見ると、いないように見えたメンバーの荷物があるみたいなので、どこかに席を外しているのだろう。

 俺は食堂の飾りつけや机の移動などをしているメンバーの手伝いに入る。

 

「何かすることはあるか? と言っても、力仕事ぐらいしかできないが」

「えっとー、このテーブルを運ぶのを手伝ってくれないかな?」

 

 それは、六人掛けくらいのテーブルだ。少し持ち上げると、一人で持てなくもない。見ると、他にも椅子も運んでいるようなのでそれを指さした。

 

「そっちの椅子を運んでくれ。こいつは一人で大丈夫そうだ」

「ほ、本当?」

「ああ、楽勝というほどではないが、大丈夫だと思う。……ほら」

 

 俺はためしにテーブルを持ち上げてみる。少し持ち直しが必要だったが、問題はなかった。その女子……たぶん、岸原嬢(?)は、驚いたように目を見開いた。

 

「溝口君、すごいよ! さすが男の子って感じー」

「いやいやー。かわいい女の子の前ではいいところを見せようとするのが、男というものなのですよー」

 

 俺はそう言いながらその女子……ああ、うん。間違いない、岸原嬢だ。を見た。岸原嬢は楽しげに俺の顔を見る。

 

「そ、それって、本音たんのこと?」

「本音嬢? 何で?」

「だって、溝口君が本音たんと付き合ってるって噂があるしー」

「はあ!?」

 

 思わず声が出たが、よくよく思い出すとその可能性に俺は気が付いていたかもしれない。本音嬢にお菓子をおごった日、周りからの視線が気になったじゃないか。あの時の女子達が発生源であり、彼女達が手にしていたスマホがその手段だったとしたら……

 

「マジかよ」

「マジだよ」

 

 岸原嬢がわざわざそんなウソを言うとは思えなかったので、そうなのだろう。

 

「それで、本当はどうなの?」

 

 恋バナというのはいつだって乙女にとって、甘い蜜なのだ。俺は改めて感じたのその事実に苦笑いしながら、否定する。

 

「それはない。あれも、頼みごとの報酬だからな」

「本当に?」

「本当に」

「……なんだあ、つまんない」

「話題提供できなくて悪かったな、岸原嬢」

 

 テーブルを下して、位置を微調整をする。周りのみんなも「すごい」なんて言ってくれて、地味にうれしい。俺は、下心満載な星好き高校生なのだ! ……こんなのだから、彼女ができないのか?

 とりあえず、テーブル類はできている様なので、飾りの方を手伝う。

 

 こうして、日が暮れる間で準備が続いた。

 

 

 

 完全に夜になると、料理と飲み物が並び全員が集合していた。一夏は真ん中にいて、両隣に箒嬢とセシリア嬢がいる。俺は、両手に花かよと、嫉妬の炎を燃やしていた。……嫉妬の念は、さっぱり届いていなかった。

 他の女子達はあまり気にしていない様で、きゃっきゃと騒いでいる。そして、しばらくして乾杯の音頭を取ろうとみんなに言われた女子が立ち上がった。

 

「それでは、織斑君の代表就任を祝って、かんぱ〜い!」

「「「かんぱ〜い!」」」

 

 コップを高々と掲げて宣言すると、みんなも一緒にコップを掲げた。近くのメンバーとコップのぶつけると、再び騒ぎが始まった。

 俺は騒ぎが始まると、少し集団から離れた。こういった騒ぎは、嫌いではないが得意でもない。たまに騒ぎたくなるのだが、すぐに気持ち悪くなる。自分では、人混みに酔いやすいのだと思っている。

 

「いよいよ今日か……」

 

 歓迎会の後にある部活……天体観測を思い出して、思わず笑みがこぼれる。本当は今すぐにでも行きたいのだが、抜けさせてはくれないだろう。こうやって、少し離れた位置にいるのがせいぜいだ。

 今は四月の下旬だから、こと座流星群が見られるのだ。今年は日中に極大が来るという悲しい年ではあるが、それでも月は三日月程度なので、極大でなくても見られた。

 

「……もう、抜けたい……」

 

 心の底からそう思うのだが、まだ無理だろうか。一夏への嫉妬で身が焦げそうだ。それに、そろそろ天体観測の準備もしたい。観測前に少し星を見るというミッションが俺にはあるのだ。け、決してフライングしようとしているわけではない。

 一夏は、箒嬢やセシリア嬢だけではなく、本音嬢やその他の女子大勢に囲まれている。とても悔……羨ましい。というか、なぜ俺は遠巻きに見られているだけなのだろう。姿勢はそのままに、聞き耳だけを傾けた。

 

「やっぱり、溝口君は観賞用だよね」

「うんうん、分かる」

「口を開いたら、クールな知的男子のイメージが崩れるもん」

「星好きだったり、真面目になった時の言動はかっこいいのにね」

「「「ねえー」」」

 

 ……死にたい。今、俺はすごく悲しい。つまりあれか? 俺は残念イケメンとして扱われているのか? 見た目が割とクールな感じであるのにも関わらず、中身が面白いこと好きなのがダメなのだろうか。

 真剣に人格矯正を検討するべきかもしれない。

 

「……いや、無理だ」

 

 思いついたその場で考えを否定する。面白いことをやめろ? 無理だ、無理。俺はすぐにこの状況でも持てる方法を検討しなければならない。そうしないと、この学校の全女子の恋心が一夏に……。

 自分でも頭が悪いと思える考えを巡らせていると、一夏の下に見知らぬ女子が向かったのに気付いた。すると、一夏やその周辺のメンバーに呼ばれる。……来い、ということか。

 面倒だな、というため息を一つこぼして向かう。すると、目に入った見知らぬ女子の胸元で黄色が揺れているのに気付いた。……先輩である。おまけに、カメラが下がっているのにも気づく。そこで、新聞部があったことを思い出した。

 

「あ、来た来た。君が溝口星矢君だよね。私は、二年生で新聞部副部長の黛薫子。これ、名刺ね」

「……書くのが大変そうな名前ですね」

「よく言われるよ」

 

 カラカラと笑う黛先輩。そして、どこからともなく手帳を取り出すと、どこか楽しそうな表情で俺と一夏を見た。

 

「今日は、二人だけの男性操縦者にインタビューしに来たんだ。よろしくね」

「あ、はい……」

「了解です」

 

 新聞部として、ネタは逃さないということだろう。どんな頻度で出しているのかは知らないが、昨日の今日で。おまけに、こんな歓迎会の中で突っ込んでくるなんて相当な行動力だと思った。

 

「ありがとう。じゃあ、まずは織斑君からね。織斑君、代表になった感想は?」

「え、感想ですか? えっと…………まあ、頑張ります」

「面白くないなあ。もっといいコメントはないの? 俺に触れたら火傷するぜ、みたいな」

「自分、不器用ですから」

「うわっ、前時代的」

 

 確かに前時代的なセリフだ。でも、あの人は実際、かっこいいと思う。

 先輩は少し不満げにそれを手帳に記していく。綺麗なのに早い。速記、という奴だろうか。

 

「うーん……まあ、いいや。適当にねつ造しておくよ」

「いや待て、それはおかしい!」

「あ、ツッコミありがとう。でもまあ、三割くらい冗談だから」

 

 ……つまり、七割は本気なんですね。なんていう言葉は、野暮なので止めた。そして、次にオルコット嬢に目を向けた。

 

「じゃあ、セシリアちゃんに質問ね。織斑君との戦いはどうだった? それと、これからについて一言」

「わたくし、あまりこういうのは得意ではないのですけど……」

 

 なんて言いつつ、腰に手を当て立ち上がるセシリア嬢。……本来の気品の高さがギャグのように感じられるのでやめた方がいいと思うが、面白いので注意しない。

 先輩はチラッと、セシリア嬢を見るとまずいな、という表情をする。

 

「そもそも、わたくし達が争った原因は「あ、長くなりそうだから、織斑君に惚れたことにしておくよ」……ちょっと、最後まで聞いてください!」

「……と言いつつも、間違ってはいないのであった」

「星矢さんも余計なことを言わないでください!」

「あ、本当なの?」

「ええ、そうです」

 

 先輩と顔を見合わせて、ニヤニヤとセシリア嬢を見る。なんとなく、この先輩とは仲良くなれる気がした。先輩もそれを感じ取ったのか、楽しげな笑みを浮かべていた。

 

「じゃあ、最後に溝口君だね。溝口君は、これからの展望について教えて」

「展望ですか?」

 

 俺は少しおもし……もとい、しびれる一言を考える。そして、とりあえず思いついた言葉を言ってみた。

 

「俺は、三年で折れない翼を手に入れる。そして、必ず夢を未来に変えてみせる」

「……折れない翼……夢を未来に…………うん、溝口君ならもう少し行ける気もするけど。まあ、オッケーだよ」

「ありがとうございます」

 

 先輩は楽しそうに手帳にメモを終わらせると、今度はカメラを構えた。

 

「じゃあ、次は三人の写真を頂戴」

 

 俺と一夏とセシリア嬢。代表である一夏を挟むように並んだ。

 

「じゃあ、行くねー。はい、チーズ!」

 

 カシャ、とシャッターを切る音がした。しかし、その直前にクラスの全員が写真に入り込んでいた。セシリア嬢が「なんで入っているんですの!」と叫ぶが周りは取り合わない。……まあ、なんとなく一組らしいノリの良さだと思った。

 先輩もそれでよかったらしく、写真を一度見て満足そうにうなずくと、「それじゃあねー!」とあっという間に去って行った。すぐに記事を書き始めるつもりなのだろう。

 

 俺は、チラッと時計を確認した。時間はもうすぐ九時になろうとしている。天体観測は十一時からの予定なので、もうすぐ部屋に戻っておきたい。

 なので、飲み物を一気にあおると、コップを置いて静かに食堂の外に向かう。

 

「溝口君、どこに行くの?」

 

 女子の一人、鷹月嬢に声をかけられた。俺は鷹月嬢に近づいた。

 

「ちょっと、これから用事があるんで帰る」

「え、でも、メインが帰ったら、っ!」

 

 俺はそっと鷹月嬢の唇に指を当てた。そして、耳元に顔を近づけるとそっと囁いた。

 

「どうしても外せないんだ。だから、黙っていてほしい。これ、俺達二人だけの秘密、な?」

 

 自分で言っておいてなんだが、頭おかしいんじゃないかと思うようなセリフを残して、さっさと退散した。鷹月嬢の顔が真っ赤に染まっていたのは少し可愛かったな。……俺も恥ずかしかったけど。

 

 俺は冷たい掌で頬を押えながら、自分の部屋に向かってダッシュした。




星のネタ
・“神速の白羊宮(アリエス)
白羊宮というのは、黄道十二宮でいう牡羊座のこと。高速移動の能力は、これの元ネタになったギリシャ神話のエピソードから。

・“神速の兜(ハマル)
ハマルは牡羊座のα星。意味は『羊』。これはアラビア語由来で、牡羊座もハマル(アル・ハマル)であったため、こちらはラス・アル・ハマル、『羊の頭』と呼ばれたりもした。また、春の初めごろに黄道上の太陽のちょうど反対側にくるらしく、古代から重要な星だとされていたらしい。

・燃える塵……流星の傍を翔け抜け
本作は、2015年のカレンダーを使用している。そして、この日2015年4月23日9時はこと座流星群の極大。なので、作品上の時間と考えて、ISでの訓練時間頃に極大を迎えている……という方向で。こと座流星群の極大は現実でもこの時刻であり、日中の極大に作者は涙目である。

・高度計を見れば、そこにあるのは上空358710キロ。
様々な天文系ソフトや星座早見を駆使してこの場所を調べたが、その場所には何もなかった。ちなみに、方向としては天頂に向かって飛んだということで考えている。また、流れ星は西から飛んできたものとして考えてくれれば幸い。

・“回復の宝瓶宮(アクエリアス)
宝瓶宮というのは、黄道十二宮でいう水がめ座のこと。暗い星が多く、都会で見ることはほぼ無理だと考えた方がいい。作者がいつか見たい星座のひとつ。また、星座絵ではこの水がめから流れる水が南のうお座の口であるフォーマルハウトに流れる。

・“回復の水瓶(サダルメリク)
サダルメリクは水がめ座のα星。意味は『王の幸運』。やはり暗い星なので、見るのは厳しい。そして、正直に言うとこのくらいしか話すことがない。

雑談
星矢は、悲しいほどに性格と見た目があっていません。見た目は、委員長か生徒会長か学年主席か。そういう頭の良さそうな黒髪切れ目の青年です。しかし、その実は快楽主義の星好きです。IS原作でいえば、五反田君的な感じかな。見た目は悪くないのにモテないという、残念イケメンです。
後、太陽系は出ませんでしたが宇宙に行きましたね。何処かでそういうのを入れようと思っていたので、早速入れてみました。これが将来にどう影響するのか、自分でも楽しみにしております。
それと、星のネタで少し書きましたが、本作は2015年のカレンダーで話を進めさせていただきます。その影響で、原作との齟齬が発生すると思われますが、その辺は勘弁してください。
最後に。次話はいよいよ部活です。本作は短編のつもりで書きだしたので、一番最初に書きだしたエピソードです。ただ、あまり星を見なくなっていることが心残りですが。
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