IS学園天文部-リメイク前-   作:山石 悠

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第十夜「こと座流星群、見ましょうよ」(流星群、四月こと座流星群)

 春の夜の冷たい風が俺と山田先生の体をすり抜けていく。俺と山田先生は、まだ抱き合っていた。互いの体温が互いを温めあい、その冷たい風から守りあっている。世界は明け方に近づき、こと座流星群がよりその勢いを増していく。

 しばらく抱き合っていれば、俺も落ち着いてきて現在の状況をどうにかしようと思う。……しかし、そのきっかけがない。やめるタイミングを、完全に見失っていた。

 

「……せ、先生」

「……な、なんですか?」

 

 互いの声が震えている。寒さのせいか緊張のせいかと言えば、おそらく後者だろう。夜の闇で見えないが、きっと両者の顔はアンタレスのように赤く染まっているはずだ。今だけは、風の冷たさすら俺の頬の熱を冷ますことができない。

 

「い、いつまで抱き合ってるんでしょうね」

「そ、そうですね」

 

 そんな言葉を交わすが、お互いに動くことはない。

 

 …………離して! 先生、俺を離して!

 

 心の中で叫んでいるが状況は変わらない。すると、また星が流れた。星は、こと座流星群でよくみられる流星痕を残して消えていく。

 

 俺は、ここで思考を逆にした。役得だ。美人と抱き合うなんて、なんて役得なんだろうか! と。そうすると、気持ちも落ち着いていつもの思考が帰ってくる。

 

「……溝口君?」

 

 少し様子が変わったのに気付いたのか、山田先生が声をかけてくる。俺は、いつも通り、からかいの気持ちを込めて言葉をささやく。

 

「星が、綺麗だね」

「……溝口君、どうしたんですか?」

「どうかした? 何もないと言いたいけど、今、すごく体が熱いよ」

「か、風邪ですかっ!?」

「違うよ」

 

 教師に丁寧語を使わないことに若干のためらいを感じつつも、俺は焦る山田先生を強く抱きしめる。先生の体が少しこわばった。

 俺は先生の耳元に顔を近づけると、そっと囁いた。

 

「真耶とこうやってふれあっているから、体が熱いんだ」

「ふぇっ!?」

「どの星よりもきれいな真耶と触れ合っているから、熱くなるんだよ」

「え、えええええっ!?」

 

 山田先生が勢いよく俺から離れた。……毎度思うが、俺はこういう頭のおかしいセリフしか出てこないのだろうか? もう少し、気のきいたセリフはないものか。

 

「え、えっとですね、私達は生徒と教師ですし、そういうのはよくないと思うんですけど……っていや、溝口君が嫌というわけではないんですよ! むしろカッコいいですし、星のことを話してる時なんて本当に「山田先生、落ち着いてください!」……あ」

「……落ち着きました?」

「すみません……」

 

 山田先生はようやく正気に返った。というか、先生には妄想癖があるようだ。心のメモに記しておこう。

 ここまで来ると、俺ですら苦笑するしかない。俺は先生の手を取ってこと座の方を指さす。また、星が流れた。今年は、少し多い年みたいだ。

 

「こと座流星群、見ましょうよ」

「そうですね」

 

 二人でビニールシートに寝転がった。……さあ、続きを始めよう。

 

 

 

 こと座流星群……正式名称、4月こと座流星群は、日本で見られる流星群では比較的多くの星がみられるものだ。少し速めの流星と、流れた後に見える流星痕が特徴的だ。明け方に増え、一時間で十個弱を想定しておくといい。しかし、突発性も強いので、すごい年は数百が確認されることもある。癖が強いので、本当のところは初心者にお勧めできない。最初はペルセウス座流星群が一番ではないかと思う。

 

「流れ星は、基本的に単発で流れますよね? そういうのと、流星群の違いってなんですか?」

「流星群は、彗星によって起きるんです」

「彗星ですか?」

 

 流星群で流れる流星は、彗星の残滓……塵だ。

 そもそも、彗星は惑星と似たように太陽の周りを回っている。彗星は太陽に近づくにつれて、太陽の反対側に尾を引くようになる。尾は長い時では一億㎞を超えることもあり、この尾の残滓が地球の軌道とかぶることがあるのだ。

 

「その大量の塵と地球がぶつかるときに、流星群が起きるというわけです」

 

 だから、その彗星……母天体や母彗星というのだが、それに影響を受ける。このこと座流星群の母天体はサッチャー彗星と言い、これの公転周期415年は流星群の母天体の周期としては最大だ。

 

「一年間の流星群カレンダーを用意すると、一月に見られるしぶんぎ座流星群からこと座流星群まで目立った流星群はありません。なので、星好きからすれば、久々の主要流星群になる、というわけです」

 

 二月、三月、六月、九月。この四つの月に主要流星群がない。特に、ない月が連続するせいで、三月や四月の上旬は禁断症状のようなものが現れる。

 

「そんなにあるんですか? てっきり、珍しい現象なのかと……」

「そうでもありませんよ。特に、一月のしぶんぎ座流星群、八月のペルセウス座流星群、十二月のふたご座流星群。この三つは三大流星群と呼ばれ、見られる流星もそれぞれ40、50、80と多いです」

「そんなにみられるんですか!?」

「ええ。流星群っていうのは、あんまり珍しい現象ではないんです」

 

 珍しいというなら、惑星食などがあるのだけれど、どれもマイナーだ。

 

「じゃあ、五月にも流星群があるんですね」

「ええ……まあ」

 

 少し言葉が濁る。あると言えばある。ただ、

 

「四月から五月、なんですけど」

「え?」

「次のみずがめ座η流星群は、四月の二十五日から始まります」

「四月の二十五日……?」

「はい。つまり、」

 

 みずがめ座η流星群は、こと座流星群が終わると同時に始まるのだ。そして、今日が四月二十四日なので、

 

「明日から、ということです」

「……流星群のありがたみがなくなってしまいました」

「……まあ、そんなもんですよ。流星群なんて」

 

 ほぼ一月から二月くらいの間隔で、やっているのだ。相当多い時でもない限り、ありがたみも薄れてしまうのは少し仕方のないことかもしれない。

 

「でも、初心者でも観察しやすい天文ショーが流星群です。下手な準備もいらないので、気軽に見られますし」

「だから、初めて天体観測をする私でも見られるんですね」

 

 時間は三時を過ぎたが、まったく眠くない。いつも通り一徹できそうで安心した。山田先生は少し眠気があるようだが、まだ少し見ていくつもりのようだ。

 まだ星は流れない。一時間に十個弱。それはつまり、五分から十分に一つのペースだ。あまり知らない人のイメージにあるような、短時間で大量の流星が降ることなどまずない。それが起きたら、俺はきっと歓喜しているはずだ。

 

「まあ、こと座流星群はすごく多いというわけでもないので、気長に待ちましょう。待つのも楽しみの一つです」

 

 半ば自分に言い聞かせるような形で、俺はそう呟いた。何故か心に穴が空いているような気がしていた。

 俺は、そんな気持ちを誤魔化すように口を動かす。

 

「このまま黙って待つのも暇ですよね。今見える星をざっくりと話しましょうか?」

「そうですね……お願いします」

「分かりました」

 

 半分くらいの意識で返事をした。もうすでに、俺の意識は遥かな宇宙に向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会議室は明かりを消しているせいで暗い。あるのは、社長との連絡用につないであるPCとプロジェクターの明かりだけだ。この場にいるのは、開発、経理、営業、それぞれの長であり、この会社のスリートップだ。主任研究者の私、溝口真紀子。経理責任者の城崎正治。営業部長の的場良治。実際は、他にもいるのだが、基本的に私達がこの会社の運営をしている。

 

「……それでは、定例報告を開始しましょう」

「オッケーよ」

「よろしくお願いします」

『(゜_゜>)』

 

 インテリメガ……失礼、城崎君が報告書を整えながらそう言い、私達が三者三様に返事をする。上から、私、的場君、社長だ。

 城崎君は社長の返事を見てため息をつく。

 

「社長……文字で返事をしてほしいと話しましたよね?」

『(゜_゜)』

「……『え、なにそれ美味しいの?』みたいな顔しないでください」

『(^_-)-☆』

「『テヘぺロ☆』ですね、分かりま…………せんよ」

「相変わらず、よく分かるのね……」

 

 私達の声はマイクで社長に伝えられ、社長の言葉はプロジェクターに出されている文字として私達に伝えられている。社長は、顔も出さなければ声すら聞かせない。理由は不明だが、追及しても柳に風だった。

 

「……まあ、仕方ありません。先に進みましょう」

「まずは、俺からですか?」

「ええ。営業の報告を」

 

 ホッチキスで止められた書類の表紙をめくる。そこには、ラグビー選手に匹敵する体格の割に、繊細で几帳面な的場君の報告書が現れた。

 

「まず、姐さん……じゃなくて、溝口主任の甥である星矢君のおかげで、かなり注目されてまして。ようやく国外からもここに目を向けてきましたよ。それと、今回の件で国家からの援助が増額するようです。金額に関しては交渉次第ですから、日を改めて正治さんに頼みたいと思ってます」

「なるほど」

 

 資料に目を移せば、そこには数字が入った詳しいデータが載っている。契約件数が1.5倍増で、売り上げに至っては二倍を超えた。前に話していた設備の充実を頼んでもいいかもしれない。

 

「それと、ISスーツの注文が増えたんで、そっちの生産を増やしてもらっていいですか。それと、顧客からのアンケートでは武装の癖が少し強いとの指摘も来ています。姐さん、少し自重してくれないですか?」

「スーツの件はいいけど、後者は……無理よ」

「……溝口、お前は少し自重しろ」

「いやよ。何のためにこんな仕事してると思ってるの? 好きに開発するためよ?」

 

 もう、いつも通りの呼び方に戻ってしまった的場君と、相変わらず厳しいオタメガ……失礼、城崎君の言葉が耳に刺さる。しかし、私は止めるつもりはない。まだ、ネタはあるのだ。

 

「その件は後にしよう。……それでは、次は私だな。三ページを開いてくれ」

 

 指示に従ってページをめくる。すると、効果的に色彩を使った書類が現れた。……無駄なところで凝りたがるのだ、この経理責任者は。というか、いいたことはそれではない。

 

「……なんであんただけカラ―なのよ」

「せっかく使った色だ。カラーにせねばならないだろう?」

『(`・ω・´)キリッ』

 

 城崎が決め顔をすると同時に、社長が文字を打ち込む。……吹いた。的場君も笑っていて、城崎がむすっとしていた。

 私は笑い声をこらえながら言葉をひねり出す。

 

「わ、私だって資料をカラーにしてほしかったわ」

「溝口の資料などカラーにする価値もない。印刷代の無駄だ」

 

 ピキ、という音がする。きっと、こめかみからした音に違いない。私はゆっくり立ち上がる。

 

「殴ってほしいの、インテリメガネ?」

「事実を言っただけだ、研究オタク」

「「あ゛あ゛?」」

「お、落ち着いてくだいよ、二人とも!」

 

 目の前のふざけたインテリ気取りなゲームオタクを睨む。本当に殴ってやろうか我ェ?

 手に持った資料を丸めて、簡易型エクスカリバーを装備すると、プロジェクターが新しい文字を映し出す。

 

『先に進めてくれる?(⌒-⌒)』

「……失礼しました」

「……分かりました」

「社長強し……」

『良治クーン?(^_^)』

「す、すみませんでした!」

 

 社長がこういう時に笑顔の顔文字を使うのは、怒りかけである証拠だ。こういうのは、早めにやめておくに限る。……誰だって、仕事がなくなるのは怖い。

 城崎君が咳払いを一つして空気を変える。

 

「経営状況は良好と言って構わないでしょう。営業にかぶりますが、売り上げは上がっていますし世間からの注目も集まっています。順当にいけば、経営の拡大を行うことを考えますが、そうなると新しい社員を雇うことを検討するべきでしょう。……人事は社長の管轄なので、そのあたりはお任せいたしますが」

『募集するよ。人数はどれくらいにする?』

「そうですね……拡大規模にもよりますが……百人程度を考えています」

『問題ないから、募集をかけて。もちろん、私が選考する』

「よろしくお願いします」

 

 一気に百人の募集……いくら注目が集まったとはいえ、こんな新参の企業に人が入るのかも疑問だ。でも、そちらに疎い私には分からない根拠があるのだろう。

 

「それでは、最後に開発ですね。溝口、よろしくお願いします」

「ええ、もちろん」

 

 私は書類のページを進めるように指示を出した。そこには、定例の報告と星間の夢想家(スター・ゲイザー)に関する書類がある。そして、ページ数はぶっちぎりで一番多い。

 

「まずは開発状況ね。ISスーツだけど、改訂版があるからそっちを作るように指示して。生産費は現在と同じよ。後、装備の方は新しい剣とスラスターを開発したから、そちらも売り出していきたいと思うの。詳しい話は、明日の午後くらいに城崎君に資料持っていくから」

「午後の件はそれでしたか……分かりました」

 

 新しい剣“霧雨”とスラスター“閃光”の資料も一応載せておいた。それなりに性能が高いものを用意した自信がある。

 そして、次のページに進む。すると、そこにはセイ君と星間の夢想家(スター・ゲイザー)の姿が映っている。

 

「次はセイ君の件ね。星間の夢想家(スター・ゲイザー)は、現在データ収集中よ。現時点で起動しているのは“星無き夜”と“おうし座”“いて座”“おひつじ座”“みずがめ座”ね。他はまだ。後、現在“ウラノメトリア”の完成を目指してる。とりあえず、“一等星”とか有名どころは押さえたわ。とりあえず、今度の七月にある臨海学校に間に合うようにしてる。一番早そうなのは、“ベガ”と“アルタイル”。後は“フォーマルハウト”と“リギル・ケンタウリ”かしら」

「それの開発に必要な資金は、この額ですか?」

「ええ、そうよ」

 

 資料に書かれた金額を指さして冷たい目をしてくる城崎君。……別に、吹っかけてもいじゃない。どうせ値切ってきやがるんだから。

 

「……まあ、これも明日話しましょう。それと、“ウラノメトリア”の中身は他のISに運用可能ですか?」

「一部は可能よ。実は、星間の夢想家(スター・ゲイザー)に新しく追加する“十五夜”用に作る“太陽系”があるの。これを追加したら、“星無き夜”を“朔夜”に改名しようかなー、なんて思ってるんだけど……。って、そうじゃなくて、こっちを一般向けに変更することもできるけど?」

「そちらを一般向けにしましょう。名前は、どうします? 私は、“太陽の騎士(ソル・ラウンド)”を推したいのですが」

「相変わらずね……」

 

 いまだに中学生的な思考が抜けない経理責任者に白い目を向けてしまう。……こいつに任せていたら、ろくな名前が付かない気もする。

 そもそも、スター・ゲイザーに“星間の夢想家”の漢字を当てたのはこいつなのだ。悪くないと思ったから、採用したけど。

 

『“おとめ座”は?』

「……おとめ座?」

 

 社長がそう尋ねてきた。

 城崎君がこちらを見る。城崎君は“おとめ座”の能力を知らない。私は引き攣る頬を押えて返事をする。

 

「社長。“おとめ座”を使うにはセイ君の力が足りません。それに、あれは任意で発動できるような素直な姿じゃありませんよ」

『発動方法を載せたでしょ?』

「実行しろと? 無理です。今“おとめ座”を使うのは、叔母としてもIS開発者としても反対です。そもそも『命の危機にさらす』なんてマネ、できるわけありませんよ。それで発動するとは限らないんですから」

『しない保証もないけどね』

「危険性を考えてください。“おとめ座”は装備を一切持っていないんですよ? あんな奇跡を無理やり発動させるようなことはできません」

 

 “おとめ座”の使用なんて、許せない。今はまだ、その時ではない。今は“ウラノメトリア”や他の“黄道十二宮”で実力を上げていくべきだ。

 

 しかし、社長の返答はそれを認めるものなどではなかった。出てきたメッセージを見て、思わず怒りそうになる。

 

「……本気ですか?」

『本気だよ?』

 

 一度、大きく深呼吸する。そして、椅子に座りこむと黙り込む。これ以上、話しても無駄だ。……まあ、いくら社長でもそんなことできるはずない。

 そんな最悪な空気を悟ったのか、城崎君が強引に会議を終わらせる。

 

「……それでは、以上で定例報告を終了します」

「お疲れ様です」

「ああ」

『じゃーねー(^^)/』

 

 社長も回線を切断したようだ。私は何度も深呼吸して心を落ち着けた。しかし、怒りは全然収まる気配を見せなかった。

 

「……溝口、気にするな。社長は、子供みたいな人だろう?」

「そうですよ、姐さん。社長だって、ちょっと言い過ぎただけですって」

「……そう、よね」

 

 

 ――――なら、私が彼を命の危機に陥れるよ

 

 

 普通に考えれば無理だ。ISを持った人間を命の危機に陥れるなど、できるわけがない。暗殺ならともかく、命の危機を感じさせるのは困難だ。

 だけど、第六感のようなものが、それが紛れもない事実であると叫んでいた。

 

「……“ウラノメトリア”を完成させるしかないか」

 

 結局、私にできるのはそれだけしかないのだ。




星のネタ
・きっと両者の顔はアンタレスのように赤く染まっているはずだ。
真っ赤なアンタレスのように顔が赤く熱いと言いたいのである。しかし、赤い星ほど表面温度は低くなっている。

・珍しいというなら、惑星食などがあるのだけれど、どれもマイナーだ。
惑星食というのは、月食や日食の惑星版。地味な感じがするが、物によっては百年や千年に一度みたいなものもある。確か、数年前にもそんなのがあった気が……。

雑談
前話に続き、今回も星を見てもらいました。後、真紀子さん視点の話は、そろそろそういう事件の予兆的なものを入れようかと思った影響です。ちなみに、ワンダーランドの皆さんは、しばしば出るかと思います。
さて、真紀子さん視点で出てきた言葉については、あえて解説も入れませんでしたし、よく分からない形にしました。これからゆっくり明かされるかと思います。
後、夏休みまでのエピソードが脳内で完成しました。星矢の他の形態も決めたので、少しずつ出していきましょう。
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