「…………」
なんと言えばいいのだろう。とりあえず、お疲れ様、だろうか。
放課後の訓練が終了し、骸になってしまった一夏に手を合わせ、正面に立つと心の中でボタンを押した。
「…………」
「へんじがない。
ただの しかばね のようだ」
「なんですの、それは?」
「ただのネタだ。気にするな」
箒嬢はどうか分からないが、セシリア嬢は間違いなく知らないであろう某ゲームのメッセージを言う。ここで「勝手に殺すな!」とか「生きとるわ!」とツッコミをするのが常識なのにそれがない。これは相当やばいと認識し、本当に話しかける。
「おーい、大丈夫か?」
「あ、あ……」
「……大丈夫じゃなさそうだな」
掠れた声で返事をしながら、錆び付いた機械のように首を動かす一夏。とりあえず、手を貸して立ち上がらせる。
箒嬢とセシリア嬢のリンチもとい特訓を受けた一夏は、心身共に瀕死だった。ゲームの世界であれば、ザオリクを唱える、元気のかけらを使う、ポケモンセンターに連れて行くなどを実行したところだが、あいにくここは現実だ。
「“
“
一夏は、まだ動けそうにもない。
「操縦者はともかく、ISは元気にしたぞ」
「そんな姿もあるんですのね」
「言っとくが、
「そうなのか?」
「ああ。攻撃が五つに、補助や防御用に八つ。そもそも“
“
「だから、初陣のセシリア嬢の時は勝ちたかったから“
「じゃあ、星矢さんだけハンデを付けるということですの?」
「違う違う。そういうことじゃない」
ハンデと思ったセシリア嬢が少し不満げな表情をするが、これは別にハンデなんかじゃない。本来の使い方をしたいってことなので、使わないようにするだけだ。それに、必要に応じて使うこともある。
「だいたい、みんなは一形態でしか戦わないんだから、俺の方がズルしてるようなもんだろ?」
「でも……」
「いいんだよ、別に。どうせ、“
ちょっと不敵な笑みを浮かべる。そうだ、縛りプレイしながらでも勝てるなんて、カッコいいじゃないか。
セシリア嬢や箒嬢、そして、ようやく元気になった一夏が驚いたようにこちらを見る。
「言いますわね、星矢さん」
「星矢はポラリスに行くことしか興味ないかと思ってたけどな」
「何言ってんだ、最強だなんて男のロマンだろうに」
意外そうな顔をする一夏。人を星しか好きじゃないみたいに言いやがって。俺だって特撮系とか昆虫採集とかゲームとか、男の子が通ってきた道を通っているのだ。その末に、星に行きついただけで。
「……って、それはどうでもいいんだよ。それよりも反省会だ、反省会」
話を終了させて、反省会に移行する。声をかけると、一夏は疲れたような表情を浮かべ、箒嬢とセシリア嬢は一夏の戦いぶりを思い出し始めた。
しばらく様子を見て、考えがまとまった様子の箒嬢に声をかける。
「まずは、箒嬢からな」
「ああ、そうだな……やはり、私がザッとしてズバッといった時に、バッとせずにグッと行くべきだったと思う」
「……は?」
相変わらずな箒嬢。一夏がまったく分からないという顔をするので、翻訳してやることにする。
「一夏、箒嬢が言いたいのは、箒嬢が横一閃からの袈裟切りをした時に、退くんじゃなくて懐に飛び込むべきだった、ってことだ。一夏は近接武装しかないんだから、距離を取ることにあまり意味はない。剣道ならともかく、遠距離武装があるIS戦では下手に距離を開けるのは悪手だろ?」
「……本当に、どうして分かるんだ?」
「分かるもんは分かるんだから、仕方ないだろう」
ちなみに、ザッが横一閃、ズバッは袈裟切り、バッは退くことで、グッは距離を詰めることだ。対応する行動が分かれば割と簡単に言いたいことは理解できるのだ。
「まあ、距離を詰めることを意識しろよ? 一夏の最大の武器は“零落白夜”なんだから、それを使える距離にいろ」
「ああ、分かった」
偉そうに言いながら、自分にも言い聞かせる。他人の振り見て我が振り直せ、だ。一応、遠距離武装にカテゴリされている“
俺は視線を箒嬢からセシリア嬢に移す。そう言えば、セシリア嬢も説明が分かりにくいと言っていた気がする。
「それじゃあ、次はセシリア嬢」
「そうですわね……一夏さんは銃弾を避けるのは下手ですわね。銃やビットの特性、避け方を覚えるべきでしょう」
「うぐっ……」
……最初に弱点。そして、次にやるべきことを述べる。要点を先に述べるのは、普通に分かりやすいと思うのだが。
「特にひどかったのが開始から2分43秒。一夏さんの正面を0度として、私が右側158度、下方124度の位置からビットで攻撃した時のことですわ。一夏さんは体を時計回り180度回転させてから2メートル移動して避けましたわね。最善なのは、右肩を60度移動させて避けることかと」
「……すまん、理解できん」
少し理解した。数字がありすぎる、というか、細かすぎるのだ。まあ、理解できないことはないが感覚派の一夏には辛いのだろう。
「な? 無理だろ?」と視線で訴えてくる一夏に、できる限りで解説をする。
「セシリア嬢が言いたいのはこういうことだろう。えっと……セシリア嬢のビットが一夏の右後方から攻撃してきたときのことだ。覚えてるか?」
「あ、ああ、覚えてる」
「その時、一夏は一度振り返って肉眼で確認してからスライドして避けたな? でも、セシリア嬢はそれを右肩を引いて半身の体勢を作ることで避けろと言っている」
「ああ、なるほど……って、そういうことなのか!?」
「ああ。……だよな?」
「ええ、その通りですわ」
セシリア嬢の話の翻訳は簡単だ。数字をあいまいな表現に変えてしまう。たったそれだけ。一つ一つの情報を正確にイメージしてみると考えやすい。
「……星矢、数字が多くても分かるのか?」
「まあ、分かる。……って、それはどうでもいい。一夏は後ろを振り返った。これって、目視をしようとしていたってことだ。でも、こんなことしなくてもいいことくらいは分かるな?」
「……ISならハイパーセンサーで全方位が見えるから、か?」
「そうだ。だから、本来は振り返って見る必要はないんだ。これが動きの無駄になるから、最低限の動き……さっきの話みたいに右肩を動かすだけで十分避けれる。それに、本来の敵であるセシリア嬢に背中を向けるのはよくない」
銃やビットの攻撃は、“
「なるほど……」
「一夏は剣道をしてきたんだろ? だから、遠距離装備に対する対応を知らないんだと思う。クラス対抗戦に向けて今、一夏に必要なことは三つだ」
「三つ?」
「相手との距離を詰める方法。遠距離装備への対応。誰も知らない切り札。この三つだ」
「最初の二つは分かるが……最後のはなんだ?」
今回のクラス対抗戦では、一夏以外に二人の有力候補がいる。一人は鈴音嬢で、もう一人が四組の代表候補生だ。
「でも、四組の代表は専用機を持っていないんだろ?」
「らしいな。……だけど、その代表候補生は経験や知識までないわけじゃない」
「なるほど……一夏さんが専用機というアドバンテージがあるように、その代表候補生には知識や経験のアドバンテージがある。ということですわね」
「ああ。この経験とかいうのは馬鹿にならない。一番最後に必要なのは、装備の強さじゃなくて操縦者自身の強さだ。箒嬢なんかは剣道で考えれると、なんとなく分かると思うんだが?」
「……確かにそうだな。真の使い手に道具は関係ないな」
武装や機体のアドバンテージをないがしろにするつもりはないが、操縦者自身の能力こそが一番危険だ。だから、専用機が無くてもその代表候補生の子を無視することは出来ないのだ。
「……まあ、そうはいっても最後に残るのは鈴音嬢だろう。代表候補生としての強さと専用機。両方がある彼女が今回最大のライバルだ」
「それの攻略が、切り札なのか?」
「ああ。昼間に言ったな、一夏の勝利条件。それが切り札だ。正確には、相手に情報を与えないことだな」
「情報を与えない?」
秘匿によるIS軍用化を防ぐために、国家のISは独自技術以外の情報を公開している。そのおかげで、代表候補生の持っているISに関する情報はすべてインターネットに載っている。それで、鈴音嬢の装備自体はすべて把握できる。また、試合記録などを探せば動きの癖などを見つけることもできるかもしれない。こちらには、情報が開かれているのだ。
「しかし、鈴音嬢は違う。こちらに関する情報がほとんどない。分かるのは、校内で出回っている情報だけ。要するに、白式は雪片弐型という近接ブレードしか武器がないこと。そして、零落白夜という
だから、情報戦で考えればかなり有利な状況なのだ。俺達は、それを利用して勝てるようにするべきだろう。
「それと切り札がどうつながるんだ?」
「クラスのみんなすら知らない、新しい技や武装を用意するんだ」
「……なら、技だな。白式には、新しい武器を積む余裕がないから」
「そうか。まあ、これに関しては俺も分からないからな……。短期間で習得できて、ここぞで使える技。何か考えておいた方がいいだろうな」
セシリア嬢。後は、織斑先生や山田先生に教えてもらってもいいかもしれない。特に織斑先生は、戦闘スタイルが一緒なのだからいい情報が得られるだろう。
「……本気だな、星矢」
「当たり前だ。一夏には是が非でもフリーパスを獲ってもらわなければならないんだから」
「そんなに好きか甘いものが……」
「ああ、もちろん!」
いい笑顔で返事をする。ドン引き気味の一夏に「失礼な」とムッとしつつも、空を見る。
太陽はもうすぐ海に沈もうとしていた。海が赤い光を弾いて、キラキラと揺れる。そう遠くないうちに夜が来るだろう。
「……もう、いい時間だし、今日は終わりにしないか? 俺は、もう帰ろうと思うが」
「うーん……いや、俺はもう少しやっていくよ。課題が分かったばかりだしな。少しでも練習していきたい」
「なら、わたくしも残りますわ!」
「し、仕方ないな! 私も残ろう!」
「そうか。じゃあ、お先に失礼。無理はすんなよー」
一夏と、彼の恋する少女二人。あー、羨ましいな……って、そんなことはない。そう遠くないうちに、俺だってああなるのだ。俺にだって、女の子に囲まれる嬉しい生活が待っているはずだぜ! ……まあ、先に残念イケメンの汚名を何とかしなければならないようだが。
更衣室に行くと、誰かがいた。
「あれ、星矢だけなの?」
「鈴音嬢?」
いたのは、鈴音嬢だった。鈴音嬢の手にはスポーツタオルとスポーツ飲料。一夏のために持ってきているのだろう。
「一夏なら、もう少しやっていくって。でも、日も暮れるからそろそろ帰ってくると思うけど」
「そう、ありがと」
「いえいえ、お気になさらず。……恋する乙女の邪魔したら馬に蹴られるからな」
「こ、恋する乙女!?」
「気づかれてないと思ってたのか?」
異様に驚く鈴音嬢を見て苦笑する。そういえば箒嬢やセシリア嬢も気づかれていないと思っているようだったのを思い出す。
鈴音嬢は顔を真っ赤にしながら、手と首を勢いよく振った。
「べ、別に、あたしは一夏なんて、す、す、好きじゃないし! あんた、いきなり何言ってんのよ!」
「……そうか。なら、本人にそう伝えておこうじゃないか」
「え、や、止めてよ! あんた、自分で馬に蹴られるって言ったじゃない!」
「馬に蹴られるのは、恋する乙女を邪魔するからだ。一夏が好きでもない鈴音嬢の言葉を伝えたところで、蹴られたりはしないのだよ」
その言葉と一緒に嫌な笑みを浮かべる。
鈴音嬢は「うっ……」と言葉に詰まったが、観念したのか「……す、好きよ」と言った。……正直、聞くんじゃなかった気がするが、今さら退けない。
好奇心に身を任せ、質問を重ねてみた。
「告白とかはしたのか? ……って、してたらこんな状況じゃないか」
「…………したわ」
「え?」
……した? 告白を? なら、さすがの一夏だって鈴音嬢を意識したりするだろうに。でも、そんなそぶりは見えなかった。どういうことだろう。
「もしかして、一夏に聞こえてなかったとか?」
「それはないわ。だって、夕方の教室で二人っきりの時に告白したんだもの」
「……最高のシチュエーションじゃないっすか、鈴音嬢」
「そうなのよ。なのに、一夏のやつ全然知らないそぶりでさ……」
謎だ。聞こえないわけがない状況。なのに、一夏に告白されたという意識がない。忘れて……は、ないな。流石の一夏だってそれは忘れないはずだ。
「……ちなみに、なんて言ったんだ?」
「わ、私の料理の腕が上がったら、毎日酢豚食べてくれる? ……って」
「それは、味噌汁の話からか? なぜ酢豚?」
「得意料理だったからよ。それに、ちょっとアレンジしたくなって」
口を尖らせる鈴音嬢。普通に可愛いだけだ。
……それはともかく、その言葉で謎は解けた。真相はとても簡単だったのだ。
「鈴音嬢」
「何?」
「一夏、額面通りに受け取ってるぞ。きっと」
「え?」
「だから、文字通り、酢豚をご馳走してくれるってことだと思ってるだろうな。って」
「は、はああああああああっ!?」
物理的にあり得ないが、ツインテールを逆立てた鈴音嬢は俺に詰め寄ってくる。襟首を掴もうとするが少し低かったので届かない。結局、ただ詰め寄るだけになる。
「そ、それって、どういうことよ!?」
「だから、落ち着いて考えてみろ。一夏の性格を考えて、婉曲表現な毎日味噌汁のアレンジである毎日酢豚。それを告白、もしくはプロポーズとして受け取るかって話だよ」
「…………あ」
考えれば分かったのだろう。鈴音嬢は己のミスに気がついて床に倒れこんだ。
そして、倒れこんだ姿勢のまま、無意識のように言葉を吐き出した。
「……中学の時にさ、ある女子が一夏に言ったの。付き合ってください、って」
「あ、ああ」
「そしたら、あいつなんて言ったと思う?」
「付き合ってくださいだろ? 普通に断ったか?」
「違うわ。了承したの」
「はあ!?」
了承した? それって、付き合うってことじゃないか。
「そして、こう言ったわ。……『どこへ行くんだ?』と」
「…………」
「その女子、呆然とした後に泣いて帰ったわ。ちなみに、私の友達よ」
「…………俺、キレていいと思うんだが」
「そうね。流石のあたしも殴ったわ、本気で」
完全に舐めていた。その可能性を全く考えていなかった。付き合ってくださいすらダメだなんて。……あいつ、何て言えば気づくんだ? 全く分からない。
俺は、あまりの憐れさにからかうことすら忘れていた。必死に頭を動かして、アドバイスを一つする。
「もう、キスの一つでもして『結婚して』って言わなきゃダメじゃないか?」
「……できたら、こんな苦労してないわ」
「……すまん」
変に重い空気になっていた。俺はISスーツの上から制服を着る。少し着崩してあるから、開いた首が涼しい。
俺は今だに倒れこんだままの鈴音嬢の肩を叩き、ベンチに座らせる。そして、頭を撫でた。
「まあ、その、なんだ……なんかあったら、愚痴でも相談でも付き合ってやるからさ、頑張れよ」
「……うん、ありがと」
「ああ、任せとけ」
告白した、という事実は箒嬢やセシリア嬢よりも先に進んでいると思う。その頑張った差の分、応援してやりたいと思っちゃうのだ。
時計を見ると戻ってから結構、時間が経っていた。そろそろ一夏が帰ってくるかもしれない。
俺は鈴音嬢の顔を両手で挟むと、ムニムニと頬を弄ぶ。
「うりうり~、スマイル体操~」
「にゃ、にゃにしゅんのよ~!」
「スマイル体操だ。笑顔を作るのに効果的なのだよ。ほら、バーナード星のように表情筋が動くだろ?(棒)」
「……こっちみて言いなさいよ。大体、バーナード星って何?」
見ていないわけじゃない。ただ、直視していないだけなんだ!
「ぷっ、何よそれ」
「……笑ったな」
「笑った?」
「女の子が一番可愛いのは笑顔の時なんだよ。鈴音嬢は美少女なんだから、笑顔効果もあれば一夏なんてイチコロだ」
美少女は泣いても笑っても可愛いが、一番なのはやはり笑顔だろう。というかそれ以前に、辛気臭い顔して好きな人の前に行くわけにもいかないはずだ。
俺が一生懸命、笑顔を作ってやったのだから感謝してもらいたい。
「……あんたも、なかなか恥ずかしいこと言うのね」
「じ、自覚症状ありだよ」
顔が赤くなっている気がする。いや、なっている。
顔を赤くした俺を見て、鈴音嬢は笑みを一つこぼした。
「ありがと、星矢」
不覚にもドキッとしてしてしまった俺は悪くないはずだ。ようやく名前で呼ばれたことに戸惑っているだけだ。ああ、そうだ。
……ただ、やられっぱなしも嫌なので一つ仕返しをすることにした。
「気にするな。……じゃあ、俺は帰るから。愛しの一夏君によろしくな、織斑鈴音さん」
「い、愛しの一夏……織斑鈴音……って! 星矢っ!」
「じゃ〜な〜」
振り返らずにヒラヒラと手を振って走る。こういうのは、逃げた者勝ちだ。
鈴音嬢の叫びが遠くに聞こえる中、俺は寮へと疾走した。
星のネタ
・ほら、バーナード星のように表情筋が動くだろ?(棒)
バーナード星というのは、現在分かっている中で最も固有運動(天球上での位置移動)が大きい恒星のこと。また、アルファ・ケンタウリに次いで地球に近い恒星となっている。固有運動やそれの大きい星(高速度星)の解説は、またいつか星矢がする予定。ちなみに、バーナードの名前は、発見者であるエドワード・エマーソン・バーナードによっている。場所はへびつかい座である。
雑談
今回も割とコメディっぽいパートでしたね。次回から、シリアスパートです。たぶん。
後、ヒロイン達それぞれとの絡みを書いていくのですが、分量がまばらになりそうです。鈴音嬢とラウラ嬢がガッツリ。時点で箒嬢。そして、セシリア嬢とシャルロット嬢となりそうです。読者の方にチビッ子趣味と思われそうで怖いっす。……え? 更識姉妹? そんなの知らないなぁ。
そして、最近、コラボっていいな……と意味もなく思いまして。まあ、正確には自分が書くんじゃなくて、誰かがうちの星矢を使ったのを読みたいのですが。誰か、書いてくれる方がいたら嬉しいなー(チラチラ)。もし作った方がいたら、事後報告でもいいから見せてほしいです。<m(__)m>