IS学園天文部-リメイク前-   作:山石 悠

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第十五夜「なあ、もしかして……」

「星矢! 助けてくれ!」

「……なんだよ、一夏」

 

 俺と試合をしてから、さらに箒嬢・セシリア嬢ペアとの試合までしたはずの一夏。なんで、俺より元気なんだよ。

 俺は、自室に突撃してきた一夏に冷たい視線を送りながら、仕方なく部屋に入れた。部屋が野郎二人になったことで、むさくるしさが増す。来るなら美少女の方がよかった。

 

「……で? どうかしたんだ?」

「そ、それが……」

 

 俺が尋ねると、一夏がゆっくり語りだす。俺は黙ってペットのお茶を煽った。

 

「……さっき、鈴が来たんだ」

「昨日の件か?」

「そうだ、よく知ってるな……って、星矢が鈴の話を聞いてくれたんだっけ? ありがとうな」

「いやいや、気にするな。前にもやってたし」

 

 小中でモテる友人がいたのでな! 高校になってもこうなるんだと、もう諦めている。

 

「そっか。……で、鈴が来て話になって。俺が鈴との約束の意味を勘違いしてるって言われたんだ。正直、気が付いてなくて……それは、謝った」

「そうか。……ん? じゃあ、なんでこっちに来たんだ?」

「それは、別というか、同じ内容というか……」

 

 一夏の言葉が濁る。……どうかしたのだろうか、珍しい光景だ。俺は、ペットボトルのお茶を置いた。少し真面目に聞いた方がよさそうだ。

 

「それで、内容を聞いたんだ。でも、教えてくれなくてな」

「そりゃあ、あれはお前自身で考えて気づかなくちゃいけないからな」

「そう、か……」

「どうかしたか?」

「実は、それをしつこく聞きすぎたんだ」

「ああ、なるほど……」

 

 どっちも頑固なタイプだ。「教えろよ!」「無理よ!」「なんでだよ!」「無理なものは無理なの!」「だから、なんでダメなんだって聞いてるんだろ!」……という光景が脳裏をよぎった。こいつら、すぐ熱くなるもんな。冷静に話せば、すぐに意思疎通できるものを。

 

「まあ、理由を教えてくれないせいで喧嘩になって、ついつい言い過ぎて……ひ、貧乳って、鈴のコンプレックスを突いて、な?」

「『な、察してくれよ?』みたいな顔やめろ。誰が察せるか、言ったことないわ」

 

 溝口君としては、下ネタはアウトなのだ。だから、どんなに怒ってもそれだけは言わない。エロスは内側に秘めるものなのだよ、一夏君。オープンスケベは雅ではない。お前、貧乳とか言うんだな……とは言わない。

 と、それはともかく。一夏は、相当やらかしてしまったらしい。

 

「まあ、それで大変な目にあったわけだ」

「実は、鈴もだけど、箒も怒ってな。『乙女心も分からん馬鹿者は出ていけ!』と、叩き出された。それと、『溝口のところにでも行って乙女心を教わってこい!』とも言われた」

「箒嬢……あんたは俺をなんだと思ってるんでせうか」

 

 なんか、箒嬢も変な勘違いしてません? ……まあ、言いたいことは分かるけど。それに、やり取りを聞いていれば一夏よりも鈴音嬢の方に味方したくもなるだろう。こいつ、女の敵だもの。

 それに、あんな状況だったら、普通こっちに来るのは鈴音嬢の方だしな。今、鈴音嬢は箒嬢が看てくれているのだろう。地味に気になる。

 

「……まあ、とりあえず、な」

「なんだ?」

 

 話をするなら、一つ言っておきたいことがある。

 

「お前はバカだ」

「いきなり罵倒!?」

「罵倒したくもなる俺の気持ちを察しろ」

「すまん! できん!」

「そこ、ドヤ顔すんなし」

 

 ……こいつは、いったい何を考えているんだろうか。

 

「……まあ、いいや。それで、一夏は鈴音嬢との約束の本当の意味、分かったか?」

「うーん、分かんないんだよな。だって、『いつか私の料理の腕が上がったら、毎日酢豚食べてくれる?』だろ? もちろん、毎日酢豚なんて栄養価が偏りそうだから駄目だけど、鈴が言いたいのはそういうことじゃないよな?」

「当たり前だ、バカ野郎」

「だよな。だとさ、考えられるのって、飯奢ってくれるか……後、プロポーズのやつか、どっちかだよな?」

「…………」

「な、なんだよ?」

「いや、なんでもない」

 

 え? 待って? こいつ、分かってますけど? こいつ、気づいてんじゃん。それだよ、それ。……じゃあ、なんで気づいてないんだ?

 ま、まずは敵の心情を調査せねばなるまい。

 

「話は変わるが、いいか?」

「ああ、別にいいけど」

「一夏は、『付き合ってくれ』と女の子に言われたらどういう意味だと思う?」

「買い物に付き合ってくれ、ってことだろ? 女の子の買い物って、結構荷物が増えるらしいし。男手がほしいってところだろ?」

「死ね」

「なぜ罵倒!?」

「分かれ。思春期の女子が男子に付き合ってくれっていうのは、ほぼ100%交際の申し込みだ、バカ野郎」

「マジか!?」

「マジだよ!」

 

 買い物に付き合ってほしかったら、「今度の日曜、予定ある?」とかから入るだろう。いきなり付き合って、と言われたらまず告白だバカ野郎。

 

「それでも、基本的に買い物に付き合ってほしいということを言われても、相手は自分に好意がある可能性が高い。ただ、部活やバイトの買い出し等は違う可能性が高いが」

「そうなのか?」

「女子ってのは、家族以外の男が買い物に付き合うことなんて考えてないだろう。下手したら、家族すらNGだ。基本的に買い物は、女子だけで行われるイベントなんだよ」

 

 そこに男子と二人で……ということになるのは、特別な意味があると思っていい。それは、恋愛的な意味が大きい。ただ、その相手が自分の友人などという可能性がないわけではないが。

 

「どういうことだ?」

「たとえば、誰かが俺のことを好きだとしよう。そんな俺がもうすぐ誕生日。何か贈り物をしたいが、どうしたらいいか分からない。だから、その意見を得るために一夏に手伝ってもらう。……みたいな状況だ」

 

 言っておくが、俺の願望とか入ってないから。

 大事だからもう一度言おう。これは願望ではない!

 

「なるほど、そういう例外もあるんだな」

「ああ。特に、この学校なら文化祭の時の買い出しとか。荷物が増えそうだから声をかけられる、みたいな状況もあるだろう。それも、恋愛感情なしに声をかけられるときだ」

「そんな時こそ、男手が……ってことだな」

「いかにも」

 

 どうやら、ようやく分かってきたらしい。

 

「いいか? そういう誘いの時は相手や周囲を見ろ。お前のことが好きな人だと、何かしらの恥じらい等が見られるはずだ。そういうのがあまり見えないとき、それこそが例外の可能性がある時だ。ただ、これは女子によって違う。誰にでも恥ずかしそうな表情をする奴もいるからな。それに、告白を集団の中でしたりはしない。そういう状況にも気を配れ」

「臨機応変に対応しないといけないわけだ」

「その通り。分かってきたじゃないか」

「ああ。……って、待ってくれ!」

「どうした?」

 

 一夏は慌てたように立ち上がる。……正直、これで終わらせようかとも思ってたのだけれど。

 

「いや、いつの間に恋愛指南になってるんだ? 俺が知りたかったのは乙女心だぞ?」

「何言ってんだ? 俺達、男が察するべき乙女心というのは、恋愛とかなり等しい。恋愛以外の話をするのに、男子にするわけないだろ? よく分かってくれる女子だけが完結できるんだから」

「な、なるほど」

 

 今度、女性向けの恋愛小説の一つや二つ渡してやろうかな。そうすれば多少は分かるようになるんじゃなかろうか。

 

「お前は見目がいいし、性格もいい。基本的にモテやすい。それを自覚しろ。さらに、この学校に男は少ない。そういう機会はかなり増えるぞ」

「そうなのか。じゃあ、星矢もか?」

 

 え、殴られたいの? 俺なんか、モテるわけないんだよ! どうせ残念イケメンだよ、畜生!

 ……という、怒りの衝動を抑え込む。ここで制止してこそ、真のイケメンというものさ!

 

「…………現実ってのは、いつだって無情なんだよ」

「……すまん」

「気にするな」

 

 もう、言わずとも察してくれて俺は嬉しいよ。自分で口にする悲しさというのを、もう感じたくはないんだ。

 

「ありがとうな、星矢。戻って鈴ともう少し話してくる」

「ああ。……行って来い」

 

 一夏が部屋から出ていく。……疲れた。あんまり恋愛相談とか得意じゃないんだけど、あんなのでよかったのだろうか?

 ただ、一つ言えるのはこれだ。

 

 リア充爆死しろ!

 

 

 

 

 

 翌日、学校中が騒がしかった。教室につくまで、話せる人に会わなかったせいで状況を知ることができなかった。何が起きてるっていうんだ。

 

 少し急ぎ気味で教室についた俺は、教室にいた本音嬢達に話を聞くことにした。本音嬢達、学校来るの早いな。

 何が起きたのか、と聞くと本音嬢達がキャーキャー騒ぎながら盛り上げる。だから、教えてください。

 

「実はね~、リンリンがおりむーにプロポーズしたんだって~」

「……マジか」

 

 一瞬、理解するのに時間がかかったのは、公然の秘密である。

 どうやら、あの後、一夏は真の意味に気が付き、鈴音嬢が肯定したようだ。俺の予想だと、一夏が勘違いしたままでいるか、鈴音嬢が恥ずかしさで否定するか。そのどっちかだと思っていたのに。

 

「え、噂では溝口君がお互いの後押しをしたって聞いてたんだけど、違うの?」

「いや、相談には乗った。ただ、そうなっていたのを知らなかったんだ」

 

 本音嬢とよく一緒にいる相川嬢の質問に答えて思考する。学園は今、その話題で持ちきりらしい。

 あいつら、せめて報告はしてほしかった。……なぜ俺だけ知らないんだ。俺、かなり関係者だと思うんだが。

 

「それで、返事はどうなったんだ?」

「いや、それがね……」

「どうかしたのか?」

「返事は、まだしてないんだって」

「は? まだ?」

 

 なるほど、悩んでいるのか。フフフ、悩め少年。お前の恋路は、まだ歩み始めたばかりなのだからな! ……と、偉そうに言ってみる俺。

 

「ただ、待ってくれと言ったのか? それとも、答えを出せないといったのか……」

「そこまでは分かんないよ。それは本人達に聞かないと」

「そうか。……どうしようかな」

 

 わざわざ聞きに行くのもよくない気がする。それに、聞きに行かなくても教えてもらえそうだし。

 

「まあ、本人達が来たら聞いてみようか」

 

 これ以上の考察も無駄だ。俺は考えるのを放棄して、本人達が来るのを待った。

 

 

 

 

 

 放課後になった。一夏はいたって普通だった。鈴音嬢はおとなしかった。……気になる。

 

 俺はいつも通りランニングをしてから、トレーニングルームに行って筋トレをしてきた。トレーニングルームあるとか、この学校ってすごいよな。

 筋トレまで終わらせると、俺は部屋でシャワーを浴びて夕食を食べ、戻ってくる。

 

 

 え? 描写が雑じゃないかって? ……お前ら、ただ野郎が鍛えるだけの場面が見たいのか? 少なくとも、俺は否だ。

 

 

 部屋に戻った俺は、宿題を片付け始める。

 

 IS学園は、日本国立で教員や生徒のほとんどが日本人ではあるが、あらゆる国家に属さないというアラスカ条約の一文によって、その学校としての仕組みは日本の法律に影響されていない。まあ、IS学園に日本人が多い理由は四月から学校が始まる影響で他国の学生が来にくいのもあるのだけど。……これは、意図的なものか気になるところだ。

 日本語、英語、数学、物理、生物、化学、地学、現代社会、世界史、倫理、地理、保険体育、技術家庭科、情報、芸術、IS。この十六教科を三年間で履修する。もっとも、理科や社会は選択があるし、ISは学年が上がると細分化されるので教科数は変動する。こんなのを週五日、一日七or八時間授業で行う。

 

「……分からん、死ぬ」

 

 俺が消化しているのは、世界史のプリントだ。ウル、ウルク、ラガシュ……パピルスなんて知らんでもやっていけるわ! アケメネス朝ペルシアがなんだっていうんだ。王の耳はロバの耳!

 途中で出てきたAUO様の叙事詩に「雑種!」とテンションが上がったりするが、本当に「あっ」ってなったのはそれくらいだ。別に肥沃な三日月地帯なんて行かねえから!

 

 っていうか、俺が言いたいのはそっちではないのだ。問題は、オリエントの話なんかではない。

 

「な、なぜ天文史がないんだ……?」

 

 そう。俺が言いたいのは、世界史には天文史の内容がないということだ。言っておくが、俺は「この時代は、天文学が盛んに行われていました」なんて一文を天文史に関する文章とは認めていない。ふざけるな、殴るぞ、消飛ばすぞ。

 

 

 だいたい、中東やアラビア……オリエントなんて、かつて天文学の最先端を行っていた場所じゃないか。今でも星の固有名の多くはアラビア語由来であることを人々は知らないといけない。それに、シュメール人といえば、星座を作ったとされる民族だぞ? 紀元前3000年ころに現れたというシュメール人の町では、それぞれ月や惑星などを神として崇め祀る文化だってあった。5000年も昔の人達だって星空を見上げていたというのだ! おまけに、紀元前1600年ころにはすでに祝詞“新年祭”で星座が存在していたことが記録にだってあるらしい。それはつまり、紀元前から星は神聖なものとして認識されていたという証拠に他ならないだろう。具体的な例を挙げるとするなら、さそり座などの主要な星座はこの頃に作られていたと言われている。今でこそ星座には西洋の由来……ギリシャ神話があてはめられることが多いが、本当の生まれはオリエントであり、ギリシャ神話とはまた違った由来が存在しているというのだ! さそり座の例をそのまま使うとすれば、アンタレスは“火星に対抗する者”ことアンチ・アーレスが由来であるという話だ。しかし、日本では酒酔い星と呼ばれたりもしている。それは、アンタレスの赤が火星の赤、炎の赤ではなく酒に酔った人の頬の色をしているのだといっているのだ。これは、その地域の文化を表すともいっていいだろう。月の模様を、日本ではウサギとするが、カニや獅子、ロバ、女性の横顔なんていう地域もあるのはまさにその文化というべきだ。そういう価値観によって、一つの星、一つの星座に数々の物語が内包され、多くの人に語り継がれ、伝えられてきたというのだ。もちろん、それが伝えられなかったものだって確かに存在している。悲しい話だ。現在でこそ国際天文学連合が88星座を制定しているが、それまでは星座は誰でも自由に作ることができたのだ。気球座、電気機械座、フクロウ座、ユリ座、雄鶏座、アンティノウス座、猫座、フリードリヒの栄誉座等々、数々の星座が人々に知られるく消えていく定めとなったことは本当に悲しいとしか言えない。こういう星座は、いつかどこかで復活してほしいとも思う。たとえば、新しく見つかった恒星を使ってみるとか。そうそう、現在も新たな恒星が発見されており、いつか宇宙ができたときの光を見ることができるのではなどという話を聞いたりもする。それって、ものすごいことだろう? 俺達は、過去の出来事すら見ることができるのだ。本当に胸がわくわくしてくる話だ。ここまで延々と語ってきたわけだが、要するに俺は何が言いたいのかというのを要約するとすれば、それはつまり、星は最高だ!

 

「星、最高っ!」

 

 高らかに叫んだ。

 ……あれ? 俺、世界史のプリントやってなかったか? なんか分からないけど、終わってるし。

 

 一度、胸を押さえて深呼吸。

 

「……落ち着いた」

 

 世界史のプリントを片付けて伸びをする。……うん、休憩しよう。

 

 冷蔵庫から板チョコを取り出してかじる。やっぱり、チョコは甘いのに限るな。ビターじゃなきゃ大人になれないなら俺は一生ガキでいいさ。俺、コーヒーも飲めねえし。ファミレスはカルピスウォーターかオレンジジュースだろ?

 

 板チョコを半分消化したところで、戸をたたく音がする。……どちら様?

 

「はいはい、今開けますよー……っと、こんばんは、鈴音嬢」

「うん。……入っていい?」

「どうぞ」

 

 妙におとなしい鈴音嬢を部屋に入れる。まだ、変な病気は治ってなかったのか。

 鈴音嬢は、しばらく借りてきた猫状態だったが、俺が使っていない方のベッドが目に入るや「やーっ!」と頭からダイブした。ふーじこちゃーん、ってダイブしてほしかった。なんか違うけど。

 

「……鈴音嬢、頭大丈夫か?」

「ちょっと! 失礼なこと言ってんじゃないわよ!」

「あ、戻った」

 

 なんか分からないけど、元に戻った。鈴音嬢は、ベッドから起き上がるとキッチンの方に移動する。……勝手に上り込んで、勝手に人のキッチンあさるのかよ。……あ、部屋に入れたのは自分ですね。

 

「学校とかはあの噂でもちきりだったし結構恥ずかしかったのよね。そういうのは得意だと思ってたけど、さすがにあれの中で普通にしてるとか無理よ」

「……ここは恥ずかしくない、みたいな言い方だな」

「褒めてんのよ? なんかね、ここは落ち着くの。力まないで、自然体でいられるっていうか」

「家みたいな?」

「そうそう、そんな感じ」

 

 ……なぜだ。なぜそうなったし。ってか、なんでジュースの位置知ってるんですか!?

 

「星矢は相談乗ってくれるし、面倒な追求とかしてこないし。恋愛対象外だし」

「……俺だって気になってるんだが。それと、さらっと恋愛対象外っていうな。辛いわ」

「それでも、食堂とかだって話す機会はあったけど聞きに来なかったし。今だって、お菓子取っても文句言わないし。それに、星矢って友達って感じなの。恋人に絶対ならない男友達」

「おい、回収するぞ」

「嫌よ、これはもうあたしのだから」

 

 ……ポテチ一袋くらいは見逃してやろう。ただ、俺にも寄越せや。後、恋愛対象外の発言を取り消せ。

 女子力のかけらも見せない姿にため息が出るが、幻滅はしない。女子のああいう姿は中学の時に見てきた。現実は、いつだって非情だ。

 

「それで、何の用なんだ?」

「うーん、昨日のことを話そうかと思ったんだけど、止めた。遊びに来ただけってことにしといて」

 

 えらい適当だな。……だが、こっちは気になるじゃないか。

 

「まあ、鈴音嬢に聞かなくても、噂で聞いたけどな。ごまかさずに言ったんだって?」

「……まあ、ね」

「それで? 返事はされてないって聞いたけど」

「あ、あたしがしないでほしいって言ったの。ま、言わなくても待たされたと思うけど」

「そうなのか?」

 

 いまいち理由が分からない。待たせる理由って、なんだ?

 

「クラス対抗戦で恋人が相手なんて、なんか変な気分だし。その時くらいまでは友達でいた方がいいかな……とか。その他いろいろ」

「その他いろいろが一番大切な部分だろうが」

 

 そんな曇った返事をするな。七夕で案の定曇ってしまった時みたいな表情になるだろ。

 

「なんか、思うところがあってね。だから、ちょっと待ってもらった」

「思うところ、とは?」

「別に相談するような内容じゃないわ。たぶん、言葉にできないだけで答えは出てるから」

「そうか」

 

 なんか、昨日以前よりもさっぱりしたような印象を受けた。……もしかして、恋心が冷めたとか?

 

「なあ、もしかして……」

「あ、恋心が冷めたとかはないわよ。一夏のこと、まだ諦めてない。それだけは確かだから」

「そ、そうか。……って、それ、振られたみたいな言い方だぞ?」

「でも、うまくいく気はしないわ」

「それは、な」

 

 一夏ってよく考えると、人のことしか考えてない。それが独善的な時もあるが、その行動原理は友人や家族のため。一夏自身のために何かをする、というのがあまり……いや、ほぼなかった。

 恋人とかそういうのは、ほぼ確実に自分のための存在だろう。……あれ? それって、もしかして……

 

「……鈴音嬢」

「言わないで。何考えてるかは分からないけど、それは聞きたくない」

 

 一夏が、鈴音嬢のために恋人になる。

 

 そんな、言葉が脳裏をよぎった。……それ、なんて屈辱、なんて最低の行為だろうか。

 もちろん、一夏がそんなことをすると決まったわけではない。ただ、その可能性は、捨てられない。そして、そうなった時、鈴音嬢は傷つくだろう。そして、鈴音嬢はそんな一夏の性格を俺より知っているはずだ。それなら、この答えにたどり着くのだって……。

 

「なんか、結局、相談したみたいになっちゃったわね」

「気にしなくてもいいだろ。するって言ったのは、俺だからな」

「それもそうね」

 

 鈴音嬢は、笑みの一つもこぼさなかった。空気が重い。

 

「ねえ、星矢」

「なんだ?」

「いろいろとありがとうね」

「なんだ、いきなり」

「ううん。ただ、相談に乗ってもらったのに無駄になりそうだから」

「そんなの、謝ることじゃない。さっきも言ったけど、俺から言ったことだからな」

 

 鈴音嬢は、何かが変わった。その変化を説明する言葉を、俺は持ち合わせていない。

 ジュースのコップを軽くすすいで、籠に入れる鈴音嬢。片付けまでしてくれるなんて、嬉しいね。……ジュースのパックを洗うところまでは見たくなかったが。

 

「それじゃあ、あたし帰るから」

「おう。また明日」

「また明日!」

 

 鈴音嬢は勢いよく扉をあけ放って飛び出していった。扉は反動でゆっくりと戻り、大きく音を立てて閉まった。




星のネタ
・七夕で案の定曇ってしまった時みたいな表情になるだろ。
七夕に曇りが多いのはご愛嬌。もう、気にすることじゃない。ちなみに、曇りや雨になる理由は、主に二つの説がある。一つは、織姫の父親が天の川に橋を架けられなくするため。もう一つは、二人の逢瀬を見えない様にするため。前者なら「パパなんて大っ嫌い!」と言われて父涙目を想像する。後者なら、夜に恋人達が周囲に見えない様に……ナニをするのだろう(下ネタ)。

雑談
さて、今話が記念すべき第十五夜ですね。鈴音嬢編は、本編三話におまけ二話を予定しています。おまけっていうのは、天体観測です。
それと、今回は宿題してから星の薀蓄をマシンガントークする回でしたね。……え、違う? ち、違いませんとも。恋愛部分はおまけですよ。ええ、おまけですとも。
とまあ、そのおまけ部分ですが。読んでいただいて察していただけたと思いますが、作者は恋愛経験ゼロの彼女ない歴=年齢な男子高生です。ちなみに、今年が受験だったりします。高校生で彼女ができる可能性はもうないっすね。大学に期待します。でも、どうやって彼女って作るんでしょうね。
後、それに関係しているのですが。星矢の恋愛語りは、そういう人間が書いたものであると思って……適当に流してくだされば幸いです。
最後に、IS学園の授業日程について。科目は、原作(アニメ)にできる限り合わせています。しかし、原作(アニメ)では、6限授業×6日となっています。しかし、本作では7or8限授業×5日にしています。一週間の総授業数は、36時間で統一。……原作って、土曜日に一日中IS訓練だったんですけど、死にません?
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