久しぶりなのに申し訳ないのですが、本編(天体観測)が三話分になりそうなので、お知らせついでの繋ぎとして番外編です。駄文注意ですね。
ちなみに、この番外編は箒嬢ルートになった場合の話です。本編とは違うんで、そこは一応。
とりあえず「モッピーなんて呼ばせない」をコンセプトに頑張ったつもりです。
定型的なフレーズ「今は昔」が使えない現代。
地球の何処かに、“吾輩は猫である(名前はまだない)”という珍妙な名前のラボがありました。
かのラボの主は、世界を混乱の渦に陥れて雲隠れをした天才……いや、天災である篠ノ之束でありました。
彼女は目の前のホロウィンドウに映し出されている映像に僅かばかり顔をしかめます。
「……どうしていっくんじゃないのかなぁ。うーん、邪魔したいけど、ほーきちゃんの悲しむ顔は見たくないし…………ああっ、うがーー! これも全部、溝口星矢のせいだーーっ!」
これは、彗星と流星の恋物語。
夢を見ていた。これは、過去の記憶だろうか。
『箒嬢』
あの臨海学校初日の日没直後。偶然見かけた彼は、空を指差しながら私を呼び止めた。一夏に見せることができなかった水着から、旅館に備え付けられている浴衣に着替えて帰る途中のことだった。
妙に興奮している彼は、とても楽しげだった。
『知ってるか、箒嬢』
『何をだ?』
『今日は、パンスターズ彗星が最接近なんだ』
『そうなのか?』
そこで、彼が天体観測用のノートを眺めてニヤニヤしていた理由を理解する。どうやら彼は、そのパンスターズ彗星という聞いたこともないようなマイナー彗星が接近することに興奮しているらしい。私には、興味も湧かない話だった。
私は適当に返事を返して、自室に足を向けた。これ以上いても、邪魔になるだけだろう。
しかし、溝口は私の腕を掴むと強引に引っ張る。
『箒嬢も見るべきだと思うんだよ、俺は』
『別に、そんな必要はないと思うが?』
『いいや。俺がペルセウス座流星群を見逃せないように、箒嬢はこれを見逃してはいけないと思うわけだ』
全く意味が分からなかった。思わずムッとしてしまったのも仕方が無い話だと思う。
なぜ私に彗星を見る義務が発生するというのだろうか。私がそう尋ねると、彼は楽しげに笑った。
『それは、…………』
説明しようとしていた彼が、急に空に視線を向けて動かなくなった。
どうしたのか気になり、つられて私の視線も空に向いた。
すると、視線の先には、件の彗星があった。
『あれが……』
最初に感じたのは、感嘆ではなく失望だった。
それは、あまりにも弱々しい輝きだった。位置も西の水平線ギリギリで、見ようとして見なければ決して分からない。
その弱さに、見る気を失った私が視線をそらすのと同時。彼は、無意識的に喋り出していた。
『パンスターズ彗星ってさ、幾つもあって、あれはC/2014 Q1って言うんだけど、周期が約3万5千年って言われてるんだ』
3万5千年……それはつまり、私がこれを見るのは人生で最初で最後、ということだろう。それなのに、あれだけの輝きでしかないんだろうか。
湧き上がってきた疑問は、溝口の話題転換に消されてしまった。
『そういえば、箒嬢の誕生日って、明日らしいな』
『え? ……ああ、そういえばそうだったな』
唐突にそう言われ、その事実に気づく。多分、何かの拍子に一夏から聞いたのだろう。
溝口に言われて気がついたが、誕生日を気にしたのはいつ以来だろう。少なくとも、日本中を点々とする生活が始まってからは、誕生日を気にした記憶はない。
すると、溝口はまたまた話題を変えた。なんというか、連想ゲーム的に。
『ふと気になったんだが、どうして箒嬢は箒って名前を付けられたんだ?』
『……さあ、聞いたこともない』
聞こうと思った時には、既に遠いところに行ってしまった。今となっては、謎のままだ。
……そうだな、昔は男っぽいところに合わせて、この名前でもからかわれていた気がする。一体、両親は何を考えて掃除道具を名前にしたのだろう。
私がそう言うと、彼は両手をたたいて私を見据えた。
『なら、俺達で決めないか?』
『何?』
そんなふざけた発言に耳を疑った。
前からふざけた奴だと思っていた。正直、それは今でも変わっていない。しかし、決して腑抜けてはいなかった。
以前、その根性を叩き直そうかと画策したことがあったが、彼が一人で自主練をしたり放課後に職員室に行って分からない部分を聞いているという話を聞いて、止めた。
この目の前にいる奴は、ただのふざけた奴ではないのだ。……そういえば、初めて剣を交えた時にも不思議な感覚がしていたが、あれは彼が強い人間であると直感的に理解したせいだったのかもしれない。
結局、私には彼がどんな人間なのかが今も分からない。強いのか弱いのか。賢いのか愚かなのか。それは、彼自身に問いかけも答えを得ることはできないのだろう。きっと、ただの問答で分かるような単純なことではないから。
『俺はさ、ペルセウス座流星群が由来だったんだ』
急に語りだしたのは、彼自身の名前の由来についてだった。
彼はもともと、星の夜と書いて星夜という名前になるはずだったらしい。しかし、彼が生まれた日は、ペルセウス座流星群の極大を迎えていたのだそうだ。
その時の光景が目に焼き付いた彼の父は、
『だから、俺は毎年、何があってもペルセウス座流星群だけは見に行くんだ。だって、あれは俺そのものだから』
『……そうか』
人の名前一つとっても、色々な物語があるのだろう。少なくとも、悪い名前をつけようとする親はいない。どんな名前も必死になって考え、それがいいと思った理由というものが存在するに違いない。
それはきっと、この箒という名前にも。
私は何も言わなかった。しかし、溝口は全て分かっているかのような笑みを浮かべていた。日中は溝口以外とは話さなかったが、その時もこんな表情を浮かべていた。
しばらくして、私の思考が落ち着くと、彼は改めて空を指差した。
『箒嬢の名前はさ、あれにしないか?』
『……彗星にか?』
彼はパンスターズ彗星を指差していた。
それを見て、少し複雑な気分になった。まるで、私はあんなにも弱々しい輝きしかないと言われているような気がしたからだ。
しかし、彼の真意はそこにはなかった。
『彗星はさ、別名があるんだよ。箒嬢も知ってると思う』
そう言われて、気がついた。
彗星……箒…………なら、その別名というのは、
『箒星、か?』
『その通り』
正解、と手を叩きながら、彼は嬉しそうに笑みを投げかけた。
箒星が由来。
名前の由来なんて考えたことはなかったから、新鮮な感覚だった。
『彗星って、尾を引くだろ?』
だろ? と確認されても、私は溝口ほど星に詳しくない。だから、適当に頷いておいた。
『あの尾はとてつもなくデカくて、その跡に大量のチリを残す』
そして、その残滓が地球とぶつかると、流星群になるんだ。
その言葉を聞いて、ハッとした。確か、溝口の名前は流星群から来ていたのではなかったか?
私がそのことに気がついたのが分かったのか、イタズラっぽく笑った。
『彗星と流星って、同じものなんだよ』
以来、その言葉が私の耳から離れなくなった。
臨海学校が終われば、学校中が夏休みモードに移行していた。
しかし、新しく貰った専用機のテストがあったし、夏休みになっても家族は離れ離れなままなので、個人的には夏休みという感覚はない。強いて言うなら、夏祭りに舞をするくらいで、後は鍛錬と勉強で終わるのだろう。
「……ふう」
素振りの回数が500回に達したところで、大きく息を吐き出した。肩の力が抜けた。気付かぬ内に力んでしまっていたらしい。これでは、全く意味がない。
「……休憩しよう」
誰に言うわけでもなく、そう呟いた。
道場の床に座り込み、深呼吸する。爽やかな潮風と道場特有の匂いがしていた。汗臭いのは好きではないが、道場の雰囲気や匂いは割と好きだ。
少し道着を緩める。人前ではないからこそできることだ。私はいつだって、強くなければならないのだから。
「…………強く、か」
先の臨海学校を思い出して、一人で自嘲した。
何が、強くなければならないだ。私なんて、まだまだ弱い小娘でしかなかったじゃないか。そもそも、私が弱かったせいで一夏と溝口は……いや、こんな無意味な自責はやめよう。今の私に必要なのは、こんなことではない。
あの後、少し我が身を振り返って反省すると、私には精神的な強さが足りないと分かった。
身体的、技術的な弱さもあるだろう。だが、それ以上に足りないのが精神的な弱さなのだ。
あの事件の時も、私一人だけが落ち込んでいた。最初の作戦に参加していたのが私と墜ちた二人だったということもあるのだろう。しかし、きっと他のみんななら落ち込まなかっただろうし、そもそも二人が墜ちることもなかっただろう。
そう思うと、体中に熱い衝動が駆け巡った。
自らの衝動に身を任せれば、木刀を道場に床に強く打ち付け声高に叫んでいた。
「ああっ! どうして私はっ!」
……こんなに、弱いのだろう。
努力が足りなかったのだろうか、才能が足りなかったのだろうか、環境が悪かったのだろうか。
理由は分からない。ただ、今のままではいけない。強い人と私には、何か差が存在するのだ。
私は、床に木刀を打ち付けたことによる痺れを感じながら、グッと木刀を握りしめた。
「……強く、強くならないと」
みんなが私の先を進んでいく。
代表候補生のメンバーはともかく、一夏や溝口だって私よりもずっと先にいる。私一人だけが、置いて行かれていた。紅椿をもらっても、その差は全然埋まることはなかった。
不意に、手首につけられた紐と鈴が視界に入りこんだ。私はまだ、これを使いこなせてはいない。身に余る力……これをどうすれば、使いこなすことはできるのだろうか?
その時、入口の方から足音がした。剣道部員だろうか。
私がすぐに居住まいを正すと、やってきた足音が止んだ。
「お、箒嬢」
いきなり、声をかけてきたのは、剣道部の部員ではなかった。
振り返ると、そこにはこの学園では珍しい男性の姿があった。
「……溝口か?」
「正解」
楽しげに笑っているのは、世界で二人目の男性IS操縦者である溝口星矢だった。
彼は背中に何かを下げていた。
「なあ、箒嬢。今時間ある?」
「……どうしたんだ?」
「剣をさ、教えてほしいんだ」
溝口はそういって、袋から出したもの……竹刀を掲げた。それは、使い古したものとは違った種類の艶が見える。……新品を買ったのだろうか?
「
「なるほど……」
確かに、溝口が教えを請える人間で、一番長剣を扱えるのは私だろう。……強いて言うなら、織斑先生がいるかもしれないが、さすがの溝口も織斑先生に頼むことはできないだろう。
私は、ふと自分の手にある木刀を見やる。……私は、強くなろうとした。しかし、そのために剣しかやってこなかった。銃は? 槍は? 斧は? 剣以外の武器を、専門外の武器に手を出そうとしたことはあっただろうか。
これから紅椿を使う上で、そういうことも必要なのかもしれないと思った。
「……溝口の」
「ん?」
無意識に、口が動いていた。
「溝口の専用機は、能力が多岐にわたっているな」
「まあ、そうだな」
「それを、扱いこなすにはどうしたらいい? 全部を手広くやるには、どうしたらいいんだ?」
「全部手広く?」
彼の専用機と紅椿は、その万能性や燃費の良さ等が似ている。もしかしたら、彼にその答えがあるのかもしれない。そんな期待を込めた、問いだった。
彼は首をかしげながら待機形態である胸飾りを見てから、苦笑した。
「俺が、手広くやってる? まさか、まだ半分も使えてないんだぞ?」
「いや、でも、あんなに強いではないか」
「俺が強く見えるのは、機体性能のおかげ。使いこなせているように見えるのは、リミッターのおかげ。俺自身は大したことない」
「嘘だっ!」
まったく信じられなかった。だって、彼は一人で福音と戦っていたじゃないか。銃、剣、炎、雷……存在していた様々な装備を使って私と一夏の逃亡を助けてくれたはずだった。
溝口は私の言葉をすべて聞いてから、あきれたような表情を浮かべた。
その瞬間、すべてを見透かされた気がした。
「……箒嬢は焦ってるんだな? みんなが専用機をもらって先に進んでいる。なのに、自分だけはそうじゃない、って」
「そ、それは……」
言葉に詰まった。否定できない。しかし、肯定もしたくなかった。
溝口は、「別にいいんだよ」と言いながら、その笑みを崩した。
「そもそも、俺の方が教えてほしいくらいなんだよ。それに、箒嬢ならお姉さんに教えてもらえばいいじゃないか。製作者なんだし」
なんでもないかのように、そう言った。
しかし、私には大きな一言だった。
姉さん……篠ノ之束は、血縁的には姉だと認識しているが、はっきり言って姉だという意識はない。あの人が何を考えているのか、私にはまったく分からないのだ。
あの人の作ったISに、私は振り回されてきた。家族や一夏と別れ、この学校に入り、世界を震え上がらせるような専用機を渡され……。
そこまで考えて、思考を止めた。いつの間にか力んでいた肩が、軽く脱力した。
「……姉さんのことは触れないでくれ。あの人が何を考えているのか、私にはまったく分からないんだ。そもそも、あの人が姉であるという意識すらほとんどない」
「…………」
溝口は何も言わなかった。
それもそうだ、こんなことを言われてもどう返事をしたらいいか分からないだろう。
彼は珍しく真剣な表情をしていた。その瞳に一瞬意識を持って行かれそうになったが、すぐに意識を戻して息を吐き出した。
こんなこと、いきなり言っても迷惑だろう。こういう時は、さっさと謝って話を終わらせるべきだ。
「すまない、変なこ「箒嬢」…………なんだ?」
溝口が私の言葉を遮った。
そして、何かを思い出すように言葉を継ぐ。
「……前に、箒嬢の名前の由来を、箒星にしようって言ったことあったよな」
いきなり、不思議なことを言い出した。
「ああ、あったな」
それは、よく覚えていた。あの時のことは、私の頭から一度も離れていなかった。
「箒の名前に星を足すと、箒星になる。同じように、束の名前に星を足せば、星束という言葉になるんだ」
「せい、そく……?」
聞いたこともない言葉だった。星を束ねる? どういうことだろうか?
「星束っていうのは、現代では結構怪しいセラピー的なものになってるんだけど、星に願いを込めながら作る織物のことなんだ」
歴史はそれなりにあるらしいが、あまり知られてはいないことらしい。
「まあ、もちろん科学的根拠なんて欠片もないしな」
そう言って、溝口は冗談めかして笑った。
祈る。
そんなの、あの人が一番苦手そうなことだ。あの人はいつだって、自分の手で願いをかなえるのだから。
私がそう思っている間も、言葉は続いていた。
「それと、箒星は不吉と自由の象徴なんだ」
「不吉と、自由?」
「ああ」
今度は、私の名前の話だった。
私は、自由はともかく自分が不吉だというのには納得がいった。
ISというモノがこの世界の中心に存在するようになった現代。篠ノ之束の妹という私の立ち位置は、世界中の争いの種になりかねない。だから、そういう意味で私は不吉の象徴といえそうだからだ。
軽い納得と共に彼を見上げると、今度はISの待機形態である胸飾りを掲げていた。
「自由と不吉ってさ、ISにも言えるとは思えないか? 世界を大きく変えてしまった宇宙への翼。まさに、自由と不吉を孕んでいる」
少し暴論気味だが、全く分からないわけではない。
恒星間の移動すら可能にする能力を秘めた翼は、まさに自由の象徴と。そして、白騎士事件をはじめとした数々の事件は、不吉の象徴と言えるだろう。
しかし、彼は一体、何が言いたいのだろう。
私はその言葉の意味が分からず首を傾げた。
「彗星とISっていうのがさ、つながっているように思えないか?」
少し、こじつけ気味だった。
「だから、何が言いたいんだ?」
「えっとな……だから、その…………ごめん、待って、今、結構勢いで喋ってるから」
彼はそう言って、言葉をまとめようとブツブツと何かつぶやき始めていた。
そこで、彼が私を慰めようとしているのだと理解した。私を元気づけようと、必死に言葉を探しているのだと。
そう思うと、いくらでも待てそうな気がした。
結局、大した時間は待たなかったが、しばらくしてから彼がゆっくりと喋りだした。
「えっとさ……お姉さんは願っていたんじゃないかな? 宇宙まで行けるほどの自由を、どこまでだって行ける翼を。そして、どんなに遠くまで行っても、いつかは自分のもとに来てくれる存在、家族を欲していたんじゃないか?」
「……そんな、まさか」
それは、完全に都合よく解釈した場合の話だった。あの人は……姉さんは、心というものを理解していないのだ。家族なんて、あの人には必要ない存在のはずだ。
「ああ、そうだな。全部、ご都合解釈だよ。前提からして願望が入ってるんだもんな。……でも、お姉さんだって、人間のはずなんだ。天災と呼ばれようが、間違いなく人間だ。なら、お姉さんにだってそういう感情が、家族を思う心があるはずじゃないか。だって、そうじゃなきゃ……」
溝口は一瞬、言葉を詰まらせた。しかし、確固たる意思を持ってこちらを見据えていた。
「……みんな、孤独じゃないか」
心を、撃たれた気がした。
ISができて以来、私は孤独だった。
家族や友人と別れ、故郷を去ることになった。数ヶ月ごとに移り変わる場所と人に馴染むことなどできず、常に一人で竹刀や木刀を振り続けた。
剣道は、最後の希望だった。剣道で勝てば一夏に会えるかもしれない。両親からの祝福のメッセージが来るかもしれない。たとえ孤独だろうと、剣士である限りは強くいられると思ったから。
だから、私は強くありたかった。
強ければ、みんなのそばにいられると思ったから。
……ああ、そうか。
「私は、一人ぼっちが嫌だったんだ」
ただ、それだけのことだったのだ。
一緒に笑いあえる友や、隣にいてくれる恋人、決してたきれぬ絆を持つ家族。
誰かの優しさや愛情が欲しくて、私は孤独に剣を振り続けていたんだ。
姉さんや国という籠に囚われて、自由をなくした私は、誰かの下へ行ける強さという名の翼が欲しかったのだ。
「お姉さんも、天才であるが故の孤独を感じていたはずだ。でも、それでも箒嬢のことを大切な家族だと思っていた。お姉さんは、自由の願いを込めてISという翼を作った。箒嬢とISは、お姉さんの最後の希望なんだと思うんだ」
「……わ、私は……」
孤独なのは、私だけではない。
そんなのは、考えたこともなかった。姉さんはいつだって一人で、それが当たり前だった。姉さんに孤独などあり得ないと思っていた。
だけど、姉さんもまた孤独で、家族や友に飢えていた。それが、私や織斑先生、一夏への過激な愛情につながっていたのかもしれない。
私や姉さんは、それぞれ一人ぼっちだったんだ。
「二人とも、互いに互いへのつながりを求めてるんだと思う。それが、ちょっとしたすれ違いのせいで、仲たがいしてしまってると思うんだ」
衝撃的な言葉が濁流のように押し寄せてきていた。
そして、その衝撃のせいで私はピクリとも動くことはできなかった。
それを分かっているのかどうか。溝口は、私の隣に座りこんでこちらの顔を窺ってきた。
「彗星は不吉を運ぶ。だけど、その残滓は人々へ幸福を届ける流星になる」
不吉を運び、その後、幸福を残して去っていく。だから……
「箒嬢は、お姉さんやみんなの幸福を届ける存在になれるよ、きっと。一人になんてならないさ」
私は不吉……争いの種になるかもしれないが、同時に誰かの幸福を生み出せる、と。
「で、でも、私は剣を振ることしかできなくて……誰かを幸福にするなんて無理だ……」
「できるさ」
「どうしてそう言えるんだ!」
彼は即答していた。
しかし、それは間違いだ。
私は人づきあいが苦手で、剣を振ることしかできないし、果ては争いの種になる。そんな私が、誰を幸福にできるだろうか。まさに、不吉であり続けるだけだ。孤独に、宇宙を巡り続けるのだ。
しかし、溝口の言葉は私の予想は違うものだった。
「どうして、一人で、って考えるんだ?」
「……え?」
「俺が、一緒にいる。なにせ、俺は流星だからな」
流星……星矢は薄く笑って、その両手を私の左手に重ねてきた。
星矢の両手から、優しい暖かさが私に伝わってきた。その熱は、左手から腕を伝い、私の全身を温めた。
私は、その手の上に自らの右手を重ね、星矢の瞳を正面から見た。
遥かな宇宙のように黒い瞳の奥には、光り輝くものがあって、それこそが彼の意志であり、命であり、夢なのだと思った。
「彗星と流星は、同じものだ。……俺は、箒嬢のそばにいる」
それは、私がずっと望んでいた言葉だった。
一夏や星矢、他のみんなと仲良くなれたとは思う。
しかし、私が欲しかったのは、こういうはっきりとした言葉だったのだ。
――――あなたのそばにいる
ただ、その一言だけが。
「……せい、や……」
彼の名前を呼んだ。
それは、初めて口にした名だというのに、遥か昔から呼んでいたかのように私の口になじんだ。
その瞬間、不思議な感覚がした。
ほんのり胸のあたりが暖かくなる感じ。それはまるで、いつかに感じた……
……感じた? 私は、この感情を知っている?
「……箒嬢?」
星矢が私の名を呼んだ。
その言葉は、とても暖かく甘美で、優しく私の胸に沁みこんだ。胸の奥底から、あふれ出そうな感情の流れ。
そこで、私はすべてを理解した。
「……ああ、そうか」
「え?」
私は、星矢を正面から見据えた。そして、その感情が真のものであるのだと確信する。
やはり、そうだ。
「星矢」
今、私ははっきりとこの感情の正体を理解した。
「これからは、そう呼んでもいいか?」
きっと、私に箒星の名をくれた時から、この感情は沸き起こり始めていたに違いない。ただ、それに気づくのが遅くなってしまっただけで。
「そして、私のそばにいてくれないか?」
この感情を確信した今、改めて宣言しようではないか。
この私、篠ノ之箒は――――
「……ああ、いいよ」
――――溝口星矢という少年に、恋をしたのだ。
最初に言っておきますが、パンスターズ彗星は今年2015年の7月6日の日没後くらいにみられると思います。今年みられる彗星の一つです。よろしければ、どうぞ。探すのは、少し難しいかもしれません。
……それで、どうでしたでしょうか? 恋物語とか言いながら、イチャコラとかは全くないですね。不思議!
とりあえず、勢いで書いたので、この先はご想像にお任せします。
後、タイトルは“箒星”、“星束”を意識して付けました。もともとは「彗星ブレード」になる予定だったり。
……と、どうでもいいことはこの辺で。本題に入りましょうか。
お知らせがあります。一つ目が、ヒロインについて。
本作は、ヒロインを山田先生、本音嬢、篠ノ之束氏の三人のうちの誰かにしようかな……と思ってます。ハーレムとか、二股とかは決してしない予定です。
ちなみに、一夏ハーレムは、そのままになると思います。
もう一つは、更新についてです。
作者、高校三年生です。……はい、大学受験ですね。
その受験がありますので、更新頻度が落ちる……いや、たぶん、春まで更新ないと思います。すみません。
春になったら、天体観測回をさくっと終わらせて、先に進みたいですね。ひとまず、臨海学校を一つの区切りにしているので、そこまでは。
というのが、以上、お知らせでした。
※なお、この更新停止は「The place for a short rest~発明家と魔法少女~」にも適用されています。……って、両方読んでくれている方、十人しかいませんでしたけど(調べた)。