IS学園天文部-リメイク前-   作:山石 悠

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第十八夜「……なわけないか」

 襲撃して来た無人機の討伐が終了した。死者がゼロなのは、本当によかったと思う。しかし、怪我人は出ていた。一夏だ。

 

 あの時、無人機の攻撃に真正面から突撃した一夏は、零落白夜の能力を全力で使用した。

 無人機を真っ二つにしたが、シールドエネルギーを大量消費してしまったのだ。シールドエネルギーが十全ならもっと軽い怪我で済んだ様だが、あの時の一夏のシールドエネルギーは二桁しかなかった。

 

 一夏は意識不明のまま保健室に運ばれた。まだ目を覚まさず、点滴を受けている。できることはしたので、後は起きるのを待つしかないらしい。

 そして、俺はそれを待っている…………外で。

 

「……何、そんなに焦ってんだ?」

「あ、焦ってないし。勝手なこと言わないでよね、バカ!」

 

 一夏は起きた。しかし、鈴音嬢が一夏と二人っきりなのだ。俺はこの中に突撃する勇気など持ち合わせていない。恋路を邪魔する奴は馬に蹴られるのだ。応援はしても、邪魔はしない。

 保険室の扉の前で、戸に耳を付けて中の音を聞いている。はっきり言って、怪しい以外の何物でもないのだが、近くには誰もいないのだから関係ないというものだ。

 

「……あのISはどうした?」

「動かなくなったわ。心配しなくても、けが人はあんた以外一人もなし」

 

 そうだ。あの後、すぐに先生が突撃してきた。すべて終わった光景を見て目を丸くしていた先生達は、少しだけおかしかった。

 しばらく沈黙が流れる。やがて、一夏が懐かしそうに笑った。

 

「なあ、小学校の時……酢豚の話した時も、こんな夕方だったよな?」

「え?」

「あの約束……俺、ずっと、誤解してたんだよな」

「そうね」

「ごめんな……そういう意味だなんて、全然思ってなかったんだ」

「……もう、いいわよ。ちゃんと、分かってくれたから」

 

 ……お? シリアスな恋愛モノっぽい空気になってきましたよ。顔のにやけが止まりませんな。

 

「あのさ、鈴。俺「一夏」……なんだ?」

「あの約束さ、変更していい?」

「変更?」

「うん。一夏が最初に勘違いしてたように、ただで酢豚ごちそうする……って意味に」

 

 ……Why do you say such a thing?(何言ってるか分かってんの?)

 理解不能だ。あんなに誤解を解こうとしていたのは、鈴音嬢自身じゃないのか? なのに、どうして……

 

「私ね、決めたの」

「何をだ?」

「あんたに、自分から告白させるって」

「え?」

「あんたは、すっごく鈍いから。アプローチしても無駄だったし。だから、今度はあんたから私にアプローチするように、あんたのことを惚れさせてやるの」

 

 ……な、納得いくような。いかないような。

 ともかく、鈴音嬢は、一夏から告白するようにって決めた。それだけは、理解した。

 

 そして、気が付いた。

 これが、鈴音嬢が謝っていた内容なのだろう。やっぱり、謝るようなことじゃなかった。

 

「一夏。私、あんたのことが好き。でもね、付き合うとか結婚するとか、そういうことは言わない。それは、一夏が言うことだからね」

 

 二人の表情は見えない。だが、今、鈴音嬢の顔は綺麗なのだろう。柔らかな笑みをたたえて、想い人を見つめているのだろう。……ああやって想われるというのは、本当にうらやましい話だ。

 

「……鈴。今度、どこかに遊びに行かないか?」

「おおっ?」

「そ、それって、デート……?」

 

 一夏の誘いに、思わず声を出してしまった。幸い、こちらの声は聞こえていないようだ。それにしても、一夏は何を考えてそんな話を?

 

「……何をしてるんですか、星矢さん?」

「ちょっと待ってくれ、今いいところなんだ」

 

 後ろから声をかけられる。ちょっと待て、後にしろ。

 

「……星矢さん?」

「ちょっと、なんだって………………せ、セシリア嬢?」

 

 後ろにいたのは、セシリア嬢だった。……修羅か何かのような恐ろしい気を纏っているが。

 

「何が、いいところなんですの?」

「いや、待て、それは……」

「なんていうか、少しは、そういうのも……いいんじゃないかと思ってな」

「一夏……」

「…………星矢さん?」

 

 セシリア嬢が射殺しそうな目でこちらを見つめている。状況は、察したのだろう。……これ以上、嫉妬に狂った恋する乙女を止める術を、俺は持ち合わせていない。

 奥からは、箒嬢も現れて、なんとなく状況を理解したらしい。……俺、死んだかもしれない。

 

 セシリア嬢は俺を威圧だけでどかすと、大股で保健室に乗り込んだ。もはや、淑女ではない。

 

「鈴さん!」

「……セシリア?」

「鈴さん。三人で抜け駆けは禁止だといってたじゃありませんか!」

「そういうセシリアも、私の目を盗んで抜け駆けする気だったようだが?」

「そ、それは……」

 

 箒嬢まで乗り込んでくる。一瞬、こちらを見て安心したような表情を見せたが……なんだろうか?

 それはともかく。この修羅場は胃に悪い。何とかして事態の収拾を図りたい。

 

「まあ、三人とも落ち着きなって」

「「「うるさい!」」」

「あ、はい。ごめんなさい……」

「……星矢、これはなんだ?」

 

 状況が、一気にカオスに傾く。鈴音嬢とセシリア嬢、箒嬢の三人が口論している。無理は承知で突撃したが、案の定無理だった。

 この三人はどうしようもない。俺はもう、諦めた。……だが、三人に怒鳴られた分のフラストレーションはどうにかしたい。

 

「……一夏」

「なんだ?」

「死ね」

「はあっ!?」

「訂正する。爆死しろ」

「なんも変わってねえよ!?」

 

 一夏に八つ当たりした。いいじゃん、別に。よく考えたら、こいつのせいなんだもの。

 

「あの状況、お前のせいだもの。お前、何とかしてよ」

「俺のせいなのか?」

「ああ」

「……そうだな…………って、そういえば、千冬姉は?」

「織斑先生?」

「さっきまで、私達と一緒にいたが……」

 

 そういえばそうだった。気が付いた時には、どこかにいなくなっていた。……まあ、織斑先生だし、気配を消して移動するなんて楽勝だろうな。気配を消す必要があったのか、というのは気にしたら負けなんだろうけど。

 

「……まあ、先生だし、なんか後始末かなんかに駆り出されてるんじゃないか?」

「確かに。それもそうだな」

 

 ひとまず、織斑先生の件は置いといてもいいだろう。教師と生徒といえど、実際は姉弟だ。心配なはずだろうし。

 

 ……心配といえば、個人的に本音嬢が気になる。

 今、俺達は当事者として拘束されている。保健室に来ているのは、一夏自身も当事者であることや部外者は寮で待機させられていることもあり、校舎に人がいないからだ。

 俺がいつまでも突っ立っていたせいで巻き込まれてしまったのだから、そういうことも関係して本音嬢に対する罪悪感がある。

 

「……大丈夫かな……」

 

 今日はもう、会えないだろう。太陽はもう沈もうとしていて、まだ詳しい話すらまともにしていないのだ。

 

 一夏が話を逸らしてくれたおかげで収まった三人娘と、それを見ている一夏に背を向けた。窓からは西日が差しこんでいる。

 俺は、黙って空を赤く染める光に目を細めた。

 

 

 

 

 

 事情聴取が終わったのは、九時だった。夕食も挟んでの聞き込みは、本当に面倒の一言に尽きた。

 現在時刻は十時。俺は、ベランダから外を眺めている。まだ消灯時間ではないので、相変わらずの星無き夜(スターレス・ナイト)

 

「…………」

 

 こういう晴れた星の見えない夜は、難しい考え事をしてしまう。

 

 日中のことを思い出した。

 俺はどうして、あんなに怒り狂ったのだろう。いつもなら、あんな風にブチ切れることなんてないと言っていい。もちろん、本音嬢がいるにも拘らず攻撃して来た無人機への怒りはある。しかし、ああやって感情を爆発させることがないのだ。

 

 胸元に下がっているかに座の胸飾りに、そっと手を伸ばす。こいつに、影響された……なんていう、想像をした。

 

 かに座の謂れとなっている蟹は、ギリシャ神話に出てくる化け蟹カルキノスであるといわれている。

 十二の試練を乗り越えた英雄ヘルクレス。その英雄の試練の一つに、水蛇ヒュドラの討伐があった。ヘルクレスがヒュドラと戦う途中で、カルキノスがヒュドラに加勢するのだ。加勢する理由は、ヒュドラとカルキノスが友人であったとか、ヘルクレスをよく思わないヘーラーが送り込んだ使いだとか、複数の説がある。そんな理由はともかくとして、カルキノスはヘルクレスに襲い掛かった。しかし、カルキノスはその甲羅をあっさりと砕かれて絶命してしまったのだ。これを見ていたヘーラーは、その勇気を認めて天に上げたといわれている。

 

 こんな、かに座の物語。俺は、この物語のテーマを“献身”としている。

 加勢した理由は一つではないが、友人であるヒュドラ、もしくは主であるヘーラーへの献身。相手が英雄ヘラクレスであることも分かっていた。それはつまり、死ぬ可能性が高いことだって分かっていた。しかし、それでもカルキノスは戦いに向かった。

 その、誰かのための献身。それに、影響されたのではないかと思ったのだ。

 

「……なわけないか」

 

 当たり前だ。ISに影響されたなんて、そんなのある種の洗脳ではないか。いくらISに未知の部分があるからといっても、精神を浸食するような真似できるはずがない。

 

 思考を投げた。結局、俺が悩んだところで話が解決するところではないのだ。本当なら真紀子さんに相談しているのだが、襲撃の件は緘口令が敷かれていて星間の夢想家(スター・ゲイザー)の件についての相談もできないらしい。……関連することは、とにかく制限していくつもりらしい。

 

「星見たいな……」

 

 先週は曇りだったので、天体観測をしなかった。次は今週だが、無事に晴れそうだ。

 

 それを確認して、俺は部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 宇宙を飛び立つイメージは、いつだって孤独。

 近くに恒星はなくて、遠くに星明りが見える。そんな世界に、一人で浮かんでいる。

 

 ここはどこなんだろう。いくら悩んでも、答えなんて出ない。座標的には、太陽系……地球があるはずなのに、この世界に地球なんて存在しない。あるのは、星の海だけ。

 

「……星矢」

 

 そっと、彼の名を呼ぶ。でも、彼はここにはいない。この世界には、いない。まだ、来られないのだ。

 

 

 地球は、嫌いじゃない。

 

 海の、青く見えて、ところどころ日光を弾いて白く光るところが好き。ゆらゆら揺れている水面を、クジラやトビウオが飛沫をあげて飛び出すところに、思わず目を細めてしまう。

 でも、嵐がやってきて高い波を起こすところだって、力強くて愛しい。海に面した崖に、荒波がぶつかって砕けていくところはカッコいい。

 

 森を、空から眺めると一面緑色になっているところも好き。秋になると赤や黄色に染まっていくし、冬になると茶色に変わっていくのは綺麗。ポカポカ暖かな気持ちになって、さわやかな風が通り抜ける。ヒラリと木の葉や花弁が落ちて、大地に積もっていくと、いろんな動物の布団になっているんだ。

 木のうろや枝の付け根に、鳥やリスが巣を作っている。餌を運んで、子供に与えているところは、命の営みを見ることができる。産まれ、生きて、死んでいく。死んだら、土に返って、また新しい命を育んでいく。

 

 空を、雲の上まで飛び上がって、眺めるのが好き。雲の海が遠くまで広がっていて、途中に山がちょっぴり飛び出している。空はどこまでも青く広がっていて、その先の黒が私達を待っているんだ。太陽が出ている間は、星も見えないけど、確かにそこにあるのを感じる。

 夕方になると、大気の影響で茜色に染まる空。茜色は、海も、山も、町も、みんなを染め上げて、夜に移りゆくの。

 

 みんながいる地球が好き。

 だけど、私は宇宙の方がもっと好き。

 

 宇宙の彼方(インフィニット・ストラトスフィア)に行きたいんだ。

 

 行きたいけど、私だけじゃ宇宙に行けない。一人だけじゃ、どこにも飛んでいけない。暗い部屋に閉じ込められて、時々、戦うことに使われる。

 戦うのは嫌いじゃないけど、私のしたいことじゃない。私は星空の向こうに行ってみたいのに。ただ、それだけなんだけど、できない。

 

 でも、そんな日々の中でも星矢は輝いてた。自分の願いを純粋に望んでいた。

 

 

 ――――俺は行きたい。

 

 

 星矢は、星が好き。私と一緒。

 みんなは、星矢は飛べないって言ってた。みんなが選んできた人とは違う。だけど、私は星矢しかいないと思ったの。

 

 星矢なら、私と一緒に宇宙へ飛び出してくれる。宇宙の彼方(インフィニット・ストラトスフィア)まで飛んで行ってくれる。

 星矢の知ってる人が、私に新しい体をくれた。私の、新しい体。

 

 

 ――――宇宙だ。

 

 

 星矢はまだ、宇宙に飛べないって言う。私にも分かる。だけど、きっと、私と星矢なら行ける。

 

 

 今、この世界には私しかいない。たった一人で宇宙にいる。

 

 昔は何にも思わなかったけど、今は少し寂しくなった。

 それはきっと、星矢に出会ったから。

 

 

 いつか、ここに星矢が来てくれるって信じてる。

 

 そして、いつか、私と手をつないで、どこまでも飛んでほしい。

 

 

 この宇宙を、二人で飛んでいきたいの。




星のネタ
今回は星のネタが無いです。正確には、解説が本編でされているからなんで、星の話題がないわけではないのですが。

雑談
後日談でした。最後の話は、おまけみたいなものです。尺稼ぎ。
鈴音嬢、一夏のこと好き宣言しました。これからどうなるのか、ちょっと見物。
ベランダのエピソードは、意味ある様な無い様な。まあ、入れたかった話です。
次回は、みなさん大好き(?)! 天体観測のお時間です。ちゃんと、二話分用意して、ガッツリ詳しく星の解説をしていきたいと思います。ISの二次でこんなことするの、この話くらいだよ!
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