IS学園天文部-リメイク前-   作:山石 悠

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更新再開の連絡しといて、ずいぶんと遅くなってすみません。

言い訳はしません。
ただ、一つだけ言わせていただきたい。






大学が暇だとかいった奴出てこい!!!!!


第二十夜「星は、何もしません」(しし座、こじし座、うみへび座、ろくぶんぎ座、コップ座、からす座、ケンタウルス座、おおかみ座)

 微かな瞬きがいくつも重なりあい、全天から優しい光が俺達を照らしていた。

 夜の帳は絶えない陸風に揺られ、俺達の服と髪を流そうとしている。

 

「それでは」

 

 俺は魅入られすぎないように、意識を覚醒させる意味を込めて口を開いた。山田先生の方がびくりと跳ねあがって、勢いよく俺の方を振り返る。

 その小動物的な反応に笑みを一つこぼし、俺に向けられた視線を正面から受けた。

 

「しし座の解説をしますね」

「はい、お願いします」

 

 山田先生の返事を聞いたところで、視線を星に戻した。

 

「しし座は、先程も話した黄道十二星座の一つ……っていうのは、言わなくても分かりますよね」

 

 口にしながら苦笑する。お誕生日星座に何があるかだなんて、幼稚園児くらいでも知っている子は知っているだろう。

 

「しし座は話すことが多い星座です。具体的に上げますと、レグルス、デネボラ、獅子の大鎌、春の大三角、しし座流星群、でしょうかね」

 

 他には、しし座銀河群とかU1.27とか。レベルを考えなければ、他にも話す内容には事欠かないが、先生のレベルならこの辺が限度だろう。

 

「順番に行きましょう。最初は、レグルスです」

 

 俺がそう言って、星座早見でそれを示すと、先生はわずかに目を伏せた。

 

「それって、あの、この前の襲撃のときに使った装備、ですよね?」

「え? ……ああ、そうですね」

 

 確かに使ったな、と思いつつ肯定する。あの切断力は凄かった。

 

「レグルスは、しし座のα星ですが、“全天中で最も暗い一等星”や“多重連星”としても有名です。意味は“小さな王”と、一番暗い一等星にぴったりな名前ですね」

「……はい」

 

 …………暗いな。

 うーん、どうにも先日の件を思い出してしまうらしい。

 

「先生」

「なん、でしょうか?」

 

 先生が暗い瞳で俺に顔を向ける。

 俺は、母さんに教わった言葉を、そのまま口にした。

 

「星は、何もしません」

「……え?」

 

 予想外の一言によるものなのか、ぽかんとした表情は、力なく俺の方を向いていた。

 

「ただ、輝くだけです。絶対等級にすればそんなに明るいわけでもない太陽にすら勝てない輝きで」

 

 昼間にだって輝いているのに、太陽に、そして夜は月にだって負ける時がある。

 

「誰も殺めず、誰も救わず、何も語りかけず、何も聞きはしない。俺達は、勝手に見上げて、心奪われて、感じ入って、救われて」

 

 そうだ、星は何もしない。

 俺達の方が、自分で星を見ることで答えや救いを見出すだけだ。

 

「だから、気にすることなんてないんです。あの無人機を屠ったのは、俺のISであって、あの空に輝く星ではないんですから」

 

 星明かりを受けるのは、幼子のような無垢な瞳だけでいい。決して、悲しみの涙に受けさせる必要はない。

 

 と、そんな俺の思いがどれだけ伝わったか。

 山田先生は、微かに瞳を輝かせた。

 

「そう、ですね」

 

 ひとり言のように呟くと、わずかに頬を緩めた。

 

「すみません。生徒に諭されるなんて、教師失格ですね」

 

 失敗失敗、と舌を出す先生。

 俺は、何も考えずに首を振った。

 

「そんなことはありません。だって、」

 

 今は、

 

 星の輝くこの夜だけは、

 

「あなたは、俺の生徒なんですから」

 

 その言葉の後、俺の生徒は、一筋の涙を流した。

 

 

 

 

 

 しばらく、時間がたった。

 

 あの一筋は呼び水となって、相当大きな天の川を作った。

 まさか、こうなるとは思っていなった。いや、みんな、顧問がいきなり泣き出すなんて想定している奴はいないだろう、普通。

 

 山田先生は、たっぷり五分くらい泣き続けた。そんなに、俺の言葉が効いたのだろうか。

 

 しばらく泣き続けた山田先生は、目元をハンカチで押さえるようにして涙をぬぐった。泣いた跡は、夜の闇に紛れて少しは見えにくくなっている。

 

「その……気になってたんです」

 

 泣きやんだ山田先生の第一声はそれだった。

 

「あの、襲撃のときの記録を見返してたら、溝口君が、溝口君じゃないみたいな感じがして……」

「それは、俺もそうでした」

 

 あの、こみあげてきた猛烈な殺意は、明らかに普段の俺とは違っていた。

 

「だから、あの時の“私の知らない彼(レグルス)”を、どうしても思い出してしまって」

 

 でも、いいんです。

 

 と、言葉をこぼした。

 

「あの時の溝口君を忘れることはできないと思いますけど。こうして、星空のもとで目を輝かせているのは、間違いなく私の知っている溝口星矢君なので」

 

 それが、先生の結論なのだろう。

 小難しいことを考えないわけではないが、今はただ、目の前にあるものを信じようと。そう、決めたのだろう。

 

 山田先生は軽く頬を張ると、恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 

「そ、それでですね…………い、今のは、言いふらしたりしないでくださいね」

 

 なんて言うが、そんなの、

 

「もちろんですよ。むやみに人の弱いところを広める趣味はないです」

「……ありがとうございます」

 

 山田先生が軽く頭を下げ、空気が少し落ち着いた。

 

 ……そろそろ、星の話に戻ってもいいだろうか?

 

 俺は星空を確認してから、山田先生に視線を戻した。

 

「あの、先生。それで……」

「あ、はい。大丈夫ですよ。続けましょう」

 

 山田先生も大丈夫というので、話を続けることにした。

 

「それでは、レグルスの説明を続けましょうか。レグルスは全天中で最も暗い一等星で、意味は“小さな王”というところまで話したんでしたっけ?」

「そうですね」

「なら、そこから。他にも別名がありまして、“獅子の心臓(コル・レオニス)”という名前もあるんです」

 

 しし座の星座絵を見れば分かるが、おおよそ心臓付近にレグルスがある。麦の穂先(スピカ)の時と同じである。

 

 山田先生が星座図鑑でそれを確認するのを待ってから、説明を再開する。

 

「それで、レグルスからしし座自身の話に戻しますが。実はしし座、かなり歴史の長い星座でして、古代バビロニアの頃には既に獅子として認識されていたんだそうです」

「こ、古代バビロニア……?」

 

 山田先生が首をかしげる。……どうやら、山田先生は理系だったらしい。

 

「まあ、今から2、3000年前の中東にあった王朝です」

 

 正直、俺も世界史には明るくない。

 

「そうですね……星座を作ったとされるシュメール人の登場が紀元前3500年……5500年前。そして、星座が確認されている最古の記録が大体、紀元前1600年……3600年前ですから」

「ってことは、かなり初期からあったんですね……」

「でしょう? かなりすごい御仁なんですよ、あの獅子は」

 

 俺は漏れ出る笑いを押さえきれず、思わず手で口元を覆った。

 

「古いからこそ、話す内容も多大なんですよね。しし座の絡む星群(アステリズム)は、しし座の頭から胸のあたりの『?』を左右反転させたような“獅子の大鎌”。そして、β星である二等星のデネボラ、おとめ座のスピカ、牛飼い座のアークトゥルスの三つをつないだ“春の大三角”です」

 

 面白いことに、デネボラだけが“○の大三角”で唯一の二等星なのだ。他の星は全て一等星である。

 

「それで、デネボラなんですが、しし座のしっぽの部分にある星です。意味は“獅子の尾”とこれまた分かりやすいネーミングだったりします」

 

 デネボラについての情報は、このくらいだ。これ以上は、難易度が上がるので、説明を控えておく。

 

「まあ、しし座についてはこのへんでしょうね」

「かなり、いろんな話が出ましたね……」

「ですね。まあ、かなり古参ですし、明るい星もそこそこあるので話しやすいんですよね」

 

 本当に、話題に事欠かない星座である。

 ……っと、まずいまずい。これ以上話していると、他の星座について話す時間がなくなる。

 

「それじゃあ、そろそろ他の星座の話をしましょう」

「あ、はい!」

 

 山田先生の元気のいい返事を聞いてから、俺は軽く全天を見た。

 次に話すのは……

 

「……こじし座にしましょうか」

「こじし座、ですか?」

 

 首をかしげる先生。……まあ、知らないか。

 

「こじし座は、しし座の背の上にいる星座です。子供の獅子なので、小獅子(こじし)座というわけです」

 

 名前を上げて話す題材にしたはいいが、実はこれ、大して話すことはない。

 

「で、でも、かに座みたいに星の場合は、とかですよねっ!?」

「…………いえ、それすらも」

 

 あせったように先生がフォローを入れてくれたが、世の中そう都合よくできているわけではないのだ。

 

「こじし座の作者は、やまねこ座と同様にヘベリウスです。そして、これも穴埋めの星座です」

 

 穴埋めに作られた星座は、基本的に話すことが何もない。

 

「歴史が無いので、特に神話があるわけでもなく、穴埋め要因なので明るい星が使われているわけでもなく。……ですから、偶然、特殊な星団や銀河や星雲や、そういうものがない限りは話す内容がないんです」

「そう、なんですか」

「でもまあ、ちゃんとした星座ですから、こうして名前の紹介くらいはしてみることにしました」

 

 多分、これから出てくる穴埋め星座も、名前を言って終わりそうだ。

 

「多少高めな難易度なら、言ってもいいんですけどねぇ……」

「ないんですか?」

「まあ、適度なのは」

 

 一応、星雲がないわけでもない。NGC3395とかNGC3396くらいはあるが、正直そんなに話すこともない。というか、そもそもこれに手を出すと、星好きから天文学者にシフトし始める。って、NGC3395とかいるなら、アープ・アトラスやハーシェル400カタログについて話……せないか。難易度とマニアック度が高すぎる。

 まあ要するに、ないものや難易度が高すぎるものの解説などできようもない。……これからの、天文学の進歩に期待するしかない。何か、適度なレアでてこい。

 

「……では、次に行きましょう」

「次は、何座でしょうか?」

「次はですね…………うみへび座、ですかね」

 

 空を眺めていたら目に入ったので、とりあえず選んでみた。まあ、位置の順番的にも、次はこれだろう。

 

 俺は、簡単に話す内容を考えながら、口を開いた。

 

「うみへび座は、全天中に存在する88星座の中で最大の星座です。昔は“アルゴ船座”っていうのがあったんですけど、現在は解体されてしまったので、うみへび座が一番ですね」

「一番大きいんですか……」

 

 先生は星座早見と夜空を見比べながら、うみへび座の位置を探している。うん、その長い星座がうみへび座だ。

 

「うみへび座自体に、目立って明るい星というのは無いんですけど、こういう星の多い空で見ると、比較的簡単につなげることができます」

「はい、今分かりました! おっきいですね……」

「ですよね。迫力があるというかなんというか」

 

 明るくはないものの、その大きさの迫力は相当だと思う。

 

「うみへび座のいわれは、ヘルクレスが戦った敵の一体であるヒュドラだと言われています」

 

 もともとメソポタミアの方で生まれた時は水に生息する竜の一種だったそうだが、現在ではギリシャ神話の話があてはめられている。

 

「そもそも、星の誕生はメソポタミアの方ですが、発展したのは古代ギリシアの影響が大きいんです」

 

 メソポタミアが天文学の基礎を作り、古代ギリシアがそれを発展させ、アラビアがそれをさらに深め、ルネサンス以降のヨーロッパが現在の形に持っていった、という感じだろう。

 だから、その中でもポピュラーで当てはめやすかったギリシャ神話が使われているのだと思う。

 

「天文学は、中東とヨーロッパだけで成長した、ってことですか?」

「まあ、ほとんどそうなります」

 

 東洋の天文学が無関係と断じはしないが、東洋(特に中国)には独特な天文観が存在しており、物理的な距離も相まって関わることはあまりなかったのだ。

 こればっかりは仕方のない話である。

 

「と、この辺にしときましょうか。……天文史なんて、話し出したら止まらなくなる気しかしないので」

 

 自重自重と自分に言い聞かせて、次に話す星座を……って、あいつらしかないか。

 

「……次は、なんですか?」

 

 いきなり固まった俺を覗き込む山田先生。

 首を振って意識を覚醒させると、「なんでもありません」と笑った。

 

「次は、うみへびの背に乗ってる連中ですね」

「うみへびの背……?」

 

 山田先生は、星座図鑑をペラペラめくりながら答えを探す。

 

 しばらくして、ぴたりとめくるのを止めて、こちらに視線を向けた。

 

「……からす座、コップ座、ろくぶんぎ座、ですか?」

 

 山田先生がとりだした星座図鑑には、うみへび座の背に乗るような位置に、その三つの星座が描かれていた。

 俺は静かにうなずいた。

 

「その通りです。その三つですよ」

 

 まずは、ろくぶんぎ座が一番早いと思う。

 なぜなら、ろくぶんぎ座の作者はヘベリウスだ。

 

「……これも、穴埋めですか?」

 

 山田先生は何とも言えない微妙は表情でつぶやいた。まあ、穴埋め星座の作者ヘベリウスなので。

 

「って、これは少しそうとは言えないのかもしれませんが」

「……え?」

「ヘベリウス……ヨハネス・ヘベリウスは、ポーランドの天文学者です。空気望遠鏡や月の地形学で有名なのですが、先ほどから出ているように星座もちょくちょく作ってたりします」

 

 彼は10の星座を作成しており、そのうちの7つが現在も存在している。

 

「そのヘベリウスなのですが、ある時に火災で自宅の天文観測道具や書物を失くしてしまうんです」

「それって、大変なんじゃないですか?」

「かなりやばいですね」

 

 満76歳で亡くなるので、火災にあうのは68の時だ。その時には、かなりの書物や道具をため込んでいただろうから、彼のダメージは計り知れないものだったに違いない。……俺だったら、絶対に発狂してる自信がある。

 

「……それで、このろくぶんぎ座ですが、ヘベリウスが火災で失くした道具や書物を偲んで作成した星座だと言われているんです」

「ああ、それで穴埋めとは言えない、と……」

「はい。ちなみに、彼は火災が原因の精神的ショックにより体調を崩し、火災から8年後の自らの誕生日に亡くなることとなります」

 

 天文学者としては成功したといえるのだが、もしも火災がなければ、もっと多くの発見と功績を残せたのではないかと思わずにはいられない。

 きっと、当時の天文学者達も惜しい人間を亡くしたと思っていたに違いない。

 

「ろくぶんぎ座に関しては、そんな感じです。……次の星座に、いきますね」

「はい、お願いします」

 

 ということで、次はからす座とコップ座だ。これは、セットで話すことにしようと思う。

 

「からす座とコップ座ですが、昔はうみへび座と一つとして考えられていました。現在は、この通り三つの星座になっているわけですけどね」

 

 からす座とコップ座は、そういう境遇も似ているし、もととなる神話が同じだ。

 

「太陽神アポロンのカラスはコップの水汲みが仕事でした。ある日、もう少しで熟しそうなイチジクを見つけて、それが熟すのを待っていたら水汲みが遅くなってしまったんです。そこでカラスはとっさに近くにいた蛇を捕まえて、『こいつが暴れたせいで水汲みに遅れた』と報告しました。しかし、アポロンはあっさりとそのウソを見抜き、カラスに『イチジクの身が熟している間はのどが痛くて水が飲めない』ようにしたんそうです」

 

 その時の、カラス、コップ、蛇の三種が現在、星座となっているのだそうだ。

 

「と、うみへび座の別のいわれも出ましたが、からす座とコップ座の神話はこうなっています」

 

 まあ、他にもコップ座は酒の神であるディオニュソスの持ち物だとか、メソポタミアの方ならギルガメッシュの持ち物であるという説が。

 からす座は、アポロンに「恋人が別の男とあっている」と嘘の情報を伝えてしまったせいで、本来は白かった体を黒くされ、その上しゃべることができなくされた。なんていう説もある。

 

「また、からす座に関しては、見えている四つの星はからすではなく、からすを天に張り付けている釘である、なんて言う話もあるんだそうです」

 

 釘でうちつけるだなんていう物騒な話はともかく、からす座の四つの星は割と有名で日本でも四つ星とか台がら星なんて呼ばれていたらしい。

 

「有名だったんですね。全然知りませんでした」

 

 へえ、と感心気味に頷く山田先生。まあ、確かにメジャーではないかもしれない。

 でも、今覚えたならそれでいいだろう。

 

「では、また次のに行きましょう」

 

 どんどん行かないと朝になってしまう。時間は有限なのだ。

 

 俺は話していない星座を思い返しながら、次のを決める。

 

「それじゃあ、次はケンタウルス座にしましょうか」

 

 ケンタウルス座は、日本からだとかなり見えにくい位置にある星座だ。北の方に行きすぎると全く見えないことになると思う。

 

「沖縄のあたりまで行かないと、全部見るのは厳しそうですね……」

 

 星座早見を確認しながら、山田先生が呟いた。

 沖縄や小笠原諸島くらい南下していないと全体が見えない。もしかすると、一等星であるリギルケンタウリやハダルが見えないからこそ、ケンタウルス座はマイナーなのかもしれない。

 

「それで、ケンタウルス座は、日本で見ることをお勧めしない星座のひとつです。どちらかというと、南半球で秋に見るのが一番いいでしょう」

「南半球ですか?」

「はい。ちなみに、秋というのは北半球と南半球で季節が入れ替わるから、ということですので日本で春の時期に南半球に行けば自動的に向こうは秋になっています」

 

 ケンタウルス座は、天の川と一緒になって南十字(サザンクロス)座を囲うような位置にある。ただでさえ明るい星の多い南十字座のそばに一等星が二つある、という分かりやすい構図なので、見つけるのに難儀することはないだろう。

 

「俺も、中学生の時に家族でオーストラリアに星を見に行ったときに見ました。あれはすごかったですね」

「星を見るためにオーストラリアに行ったんですか?」

「はい、家族全員一致で。いろいろとちょうどいいと思いますよ、あそこは」

 

 経度的に他の地域よりも時差が小さく、また乾燥大陸というだけあって内陸側に移動すればかなり星を見るには好条件がそろう。

 南アメリカなんかにもいいスポットがあるが、個人的にはオーストラリアの方が総合的に上だと思っている。ただ、南半球に行くと、星座が上下反転しているので、最初は違和感を覚えることになるかもしれない。その辺は慣れるしかないと思う。

 

「南半球でしか見えない星座は多いですからね」

 

 もし、全ての星座が見れる場所に住みたいと思ったのなら、赤道直下に住むしかない。南極点と北極点が地平線上か水平線上にあるので、一年かけて全ての星座が見られる計算となる。

 

「もしも南半球に行くことがあったら、星空を眺めてみると面白いと思います」

 

 うん、南半球は一度見に行ってみるといい。

 なんだか、ケンタウルス座というよりは南半球での天体観測についての話になってしまったが、まあいいだろう。

 

「と、それでは次に移りますね。次は…………」

 

 と、俺が次の星座を言おうと言葉をためている間に、山田先生が「あっ」と声を漏らした。

 

「おおかみ座、じゃないですか?」

 

 と言って、星座図鑑をずいっと俺に寄せる。そこには、ケンタウルスに槍を突き付けられている狼がいた。

 ちなみに、俺が言おうとしたのは、これである。

 

「よ、よく分かりましたね」

 

 驚きのあまり軽くたじろぐ。

 山田先生は、ふふん、と楽しげに笑って大きな胸を張った。

 

「だんだん、溝口君のやり方は見えてきましたよ。溝口君は、一つ説明したら、次はそれに関係する星座を選んでいますよね? だから、次は星座絵を見て、これだって思ったんです」

 

 確かに、そういえばそうだ。あんまり意識していなかったが、よく思い返すとそうだったと思う。

 山田先生が話をしっかり聞いてくれていたことにうれしく思いつつ、俺は図鑑のページを眺めた。

 

「それでは、そのおおかみ座の話に移りましょうか」

 

 おおかみ座は由来についてはかなり適当で、野獣だの狂犬、その地方の怪物の何かに言われていたりする。今は、おおかみで落ち着いているのだろうけども。まあ、特に神話について語ることはない。

 おまけに、恒星については語ることも無いと言っていい。

 

 本当に話したいのは、恒星達そのものではない。

 

「おおかみ座で話したいのは、何といっても超新星SN1006ですね。1006年に超新星が観測されていたことでも知られています」

「超新星、ですか……?」

 

 聞いたことはある、と唸る山田先生。まあ、名前は有名だ。いろんなフィクションなどでも技名とかに出たりもする。

 ただ、意味について説明できるのかどうかは知らんがね。

 

「はい。超新星とは“星の死”のことです」

 

 超新星という名前は、名前を見れば分かるが“新星”が由来となっている。

 新星というのは簡単にいえば、恒星が突如大きな爆発を起こして通常よりもはるかに強い輝きを起こす現象のことである。夜空で突如にして大きな輝きが見えるその現象に、人々は「新しい星が生まれた」と思ったということで“新星”の名が送られた。ちなみに、新星は星が生まれる現象ではないので、注意。

 

「それで、新星(ノヴァ)を超える輝きを起こす、ということで“超新星(スーパーノヴァ)”の名を持つことになったんです」

 

 最古の記録を持つのは先ほど説明したケンタウルス座のSN185である。ちなみに、この名前は“SN(スーパーノヴァ)185(西暦185年)”という意味である。なお、同年に複数発見されると、アルファベットを用いた番号が振られることとなる。

 

「星の死、ですか」

 

 山田先生は目を細めておおかみ座の方に視線を映した。

 

「星も、死んじゃうんですね」

「ええ。そして、超新星の後には、その熱量によって生まれた重元素、中性子星やブラックホール等が発生します。星の死後には、新しい天体が生まれる。そして、爆発から吹き飛ばされた物質達は、長い時間をかけて新しい星となるんです」

 

 死んだ星は、再び別の天体に生まれ変わる。その痕跡を、別の銀河にすら届かせるほどの強烈な爆発として放った後に、転生していく。

 今の宇宙は、そういう輪廻転生の中で営まれている。

 

「ずっとさかのぼって言えば、俺達も何かの恒星から生まれた存在なのでしょう」

 

 俺達の体を構成する元素達は恒星の活発な活動によって生成され、そして超新星によって広い宇宙にばらまかれたものだ。

 つまり、俺達のこの体だって、遥か遠い彼方にあった恒星から生まれたものであるはずだ。

 

 何もファンタジーな話などではない。

 物理的、化学的な意味でも、

 

「俺達は、“星の子供達”なんです」

 

 ちょっぴり冗談めかして、俺は言う。

 恥ずかしくて、山田先生の顔をうかがう勇気がなかった。

 

「……私達が、星の……」

 

 微かに聞こえる山田先生の呟き。俺は少しだけ山田先生の方を見た。

 先生は、恥ずかしがっている俺に気がついてくすりと笑いをこぼした。

 

「恥ずかしがらなくてもいいじゃないですか」

 

 そして、そっと俺の手を取って、自分の胸にあてた。山田先生の胸に手を当てさせられて、余計に羞恥が満ちてくる。

 

「私達に、あの星の輝きがあるってことですよね。それって、すごく素敵なことだと思うんです」

「です、ね……」

「はい」

 

 山田先生の反対の手が俺の顔に当てられ、静かに夜空へと視線を誘導する。

 

「見てください、溝口君。こんなにたくさんの輝きがあるんですよ」

 

 そして、次に先生の手が動いて俺と先生の視線が正面からぶつかった。いつもよりはるかに近い距離で、目のやり場に困った。

 

「なんて言ったらいいのか分からないんですけど、私達の生きてきたシルシも宇宙のどこかで光として残ってて、今ここで私が生きている」

 

 何十、何百光年の距離を進んできたのだろう。どれほどの時間をかけていたのだろう。

 

 少なくとも、俺達にとって“天文学的”数字であることだけは、間違いない事実だった。

 

「この、胸の高鳴りも、心の感動も、星の輝きの証みたいで」

 

 俺達が、星空を見るのは、きっと本能に違いない。

 

「すごく、お礼を言いたくなったんです」

 

 この銀河にあるのかすらも分からない、この身体を創った今は亡き恒星(ふるさと)を思って、俺達は夜空を見る。

 この、偉大なる転生の輪の中に生きているのだという証拠を、俺達は見ているに違いない。

 

 だから、きっと

 

「ありがとうございます」

 

 この胸の高鳴りだって、そういう星空への感動に違いないのだと思いたい。




大学が、実は一番のブラックだということを知りました。死にたい。

何でしょうね、くそ忙しいのですが、遊んでないのに、なぜあんなにくそ忙しいのですか?
献血に行くことになったら、「君、睡眠不足だから献血できないね」とおばちゃんに拒否られるとか何なんですかね?
金曜に至っては、8:50~20:30まで空きコマなしで授業なんですが、殺す気ですか?

なぜか、五月の中旬から始まった中間試験が、未だに終わらないのですが、なぜなんですか!?!?



……すみません、更新は亀どころか、鍾乳石レベルのスピードになると思われます。

えっと、更新なのですが、天体観測がもう一話残っていまして、これに関しては何も書いてないです、すみません。
ですが、本編(三章)は何話か書いているので、そちらを先に更新することも可能だったりします。

天体観測はでき次第投稿で、先に本編を進めるのがいいならそうしますけど、どうしましょうか……?
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