IS学園天文部-リメイク前-   作:山石 悠

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第三十夜「――絶対に、北極星(ポラリス)に行くって、決めてるんだよっ!!」

 アリーナに行けば、そこにはすでに一夏とデュノア嬢が待っている。二人の表情は引き締まっていて、その本気具合がうかがえる。

 

 俺とラウラ嬢は緩やかに正面に移動し、二人と対面する。

 

「すまん、待たせたか?」

「いや、気にするほどじゃない」

「そうか」

 

 一夏の声がいつになく据わっている。……どうやら、まじめにやらなきゃいけないところらしい。

 堅苦しいのは嫌なんだけどな、と思いつつ肩をすくめると、ラウラ嬢が少しだけ前に出た。

 

「織斑一夏」

「…………」

 

 一夏は返事をせず、じっと彼女の目を見ている。

 

「私は貴様を倒し、教官に目を覚ましてもらう。そして、こいつに強さの何たるかを、示さなくてはならない」

「……だから、星矢を誘ったのか?」

 

 口から出てきたのは、僅かばかりの問い。

 

「ああ。こいつは貴様とは違って、見込みがあると思ったからな」

 

 ラウラ嬢が「貴様とは違って」をあからさまに強調しながら、さげすんだ声音で一夏に語る。分かっていたが、こちらもやる気満々ということだ。

 

 と、一夏がチラリと俺に視線を移す。

 

「星矢も、やる気みたいだな」

「は?」

「それ、新しい黄道十二宮(ゾディアック)だろ?」

「……よく分かったな」

 

 意外と見ているんだな、と思った。パッと見ると模倣の双児宮(ジェミニ)のように特徴が見えないので、気が付かないかもと思っていたんだが。

 

模倣の双児宮(ジェミニ)はよく覚えてるよ。白式になっちまうんだからさ」

「それは……すまん」

「いや、いいんだ。星矢のおかげで、参考になった部分もあるし」

 

 そこで、勝手に変身したのを断り忘れていたのに気が付いた。当の本人は、気にするな、といつもの調子に近い口調になっているわけだが。まあ、申し訳ないと思っていたので、遅くなった今でも言えたのはよかった。

 

「ところで、それは何座だ?」

「新しい星座さ。そう考えれば、絞れるんじゃないか?」

「お前みたいに、すらすら何座が出てるとか思い出せねえよ」

「おいおい、何言ってんだよ。そんなの、嘘だろ?」

 

 黄道十二星座が出てこないとか、どんな冗談だよ。

 今出ている星座は、

 

 神速の白羊宮(アリエス)

 突撃の金牛宮(タウラス)

 模倣の双児宮(ジェミニ)

 防御の巨蟹宮(キャンサー)

 切断の獅子宮(レオ)

 ○○の処女宮(ヴァルゴ)

 解析の天秤宮(リブラ)

 浸食の天蠍宮(スコーピオ)

 狙撃の人馬宮(サジタリウス)

 ○○の磨羯宮(カプリコーン)

 回復の宝瓶宮(アクエリアス)

 ○○の双魚宮(ピスケス)

 

 の十二種類だ。なら、残りは、おとめ座、やぎ座、うお座の三つじゃないか。

 

「……じゃあ、その三つのうちのどれかってことか?」

「まあ、そうなるな」

「そんなこと、言ってもいいの?」

「ん? まあ、言っても言わんでも一緒だろ?」

 

 黄道十二宮(ゾディアック)の能力は、それぞれの星座を元ネタにしている。

 おうし座、ふたご座、かに座、しし座、てんびん座、さそり座、いて座はその生物や物の特徴から。おひつじ座、かに座、てんびん座、みずがめ座は神話を由来にしている。両方にでるのは、両方ともありそうだからあげているだけだけど。

 

「それは、残りの星座も例外じゃない」

 

 つまり、能力や容姿がばれた時点で、名前なんて簡単に看破されてしまう。逆に、星座がばれても、能力がばれる。

 そして、こんなものは、戦っていればすぐに分かる話だ。

 

『……そうなのか?』

『ん? まあ、そうだ。ラウラ嬢も、簡単に分かっただろ?』

『は? いや、私は……』

 

 こっそりと話しかけてきたラウラ嬢にそう返す。

 星座と能力を聞いた彼女は、簡単に納得できたはずだ。

 

「ともかく、そういうことだ。能力は見てのお楽しみ、だな」

 

 火力がある能力でもないし、知れたところで戦略に影響はないと思うんだがな。

 

「じゃあ、そろそろ始めようか」

 

 審判をしている先生達に合図を送る。

 

 ブザーが鳴り、俺達はそれぞれ既定の位置へと移動を開始した。

 

『試合開始まで、5、4、3、2……』

 

 カウントダウンが始まり、鋭い緊張が走る。

 

 一筋の汗が、頬を伝う。

 

『……1』

 

 刹那、アリーナが沈黙に包まれ、

 

『試合開始!』

「先手を取る!」

 

 真っ先に一夏がラウラ嬢に飛び出してきた。ラウラ嬢は危なげもなく、闘牛士のごとく一夏を受け流す。

 

『私が織斑一夏を倒す。星矢は、シャルロット・デュノアの相手をしろ!』

『了解!』

「星矢の相手は僕だよ!」

 

 会話が終わると同時に鉛玉が俺の方に飛んできた。

 

「……連携とかはしないんだな」

「まあ、一夏の要望もあったからね」

「そうか」

 

 まあ、納得する。あいつは俺が倒すべきだとか、そういうところを気にしそうな奴だ。別に、それを悪いというつもりはない。

 

 鉛玉を避けて一度体勢を立て直すと、デュノア嬢が銃を構えたままこちらを見据えていた。

 

「……星矢は、どうしてボーデヴィッヒさんと組んだの? 本当に強くなりたいって思ったからってだけ?」

『遅い! 所詮は、その程度でしかないのだ!』

 

 すでに構えている銃が最初のものと違う。牽制用の銃から、本格的にダメージを与えられるものに変えてきたらしい。

 常に回線を開いているせいか、たまに聞こえるラウラ嬢の声が戦闘中であることを嫌でも意識させてくる。

 

「それはなんだ? 俺が当てつけで組んだとでも?」

「そ、それは……」

「悪いな。俺、余計なことに時間をかける余裕はないんだ」

「――っ!」

 

 彼女が俺を騙していたから、なんて理由で組むほど俺はバカじゃない。

 ……いや、いっそのことなら、罵倒の一つでもあった方がありがたいと思っているのかもしれない。

 

 黙ってデュノア嬢と相対し、先行する猟犬(プロキオン)南十字(サザンクロス)北十字(ノーザンクロス)を展開する。素早いデュノア嬢には、拡散系の攻撃ができる先行する猟犬(プロキオン)や近接装備の方が都合がいいと思ったからだ。

 

「俺は、強くならなきゃいけない」

 

 そして、電撃をデュノア上のいる方向に拡散する。

 指向性を持った電撃が、一瞬で彼女に当たる。だが、ダメージは少ない。焼き焦がす猟犬(シリウス)先行する猟犬(プロキオン)は与ダメージが他の武装より少ないのが難点だな。

 

「星矢は、どうしてそんなに強くなりたいのさ!」

「どうして? 簡単だろ、俺が弱いからに決まってる」

『食らえっ!!』

 

 彼女は、俺に何が訊きたいのだろうか、何を答えてほしいのだろうか。

 もし、彼女が俺からの非難の声や同情の声を求めているというのなら、それはきっと甘えだ。

 

 会話をしながらも、どうやって攻めるかを考えている。北十字(ノーザンクロス)を構えて追いかけるが、逃げ水のようにその距離は詰めることができない。

 

「ラウラ嬢は、絶対的な力を強さという。それはきっと間違いじゃない。ただ、それを扱う心が足りないだけだ」

 

 “心技体”のうちの“技体”だけを持っているのがラウラ嬢だ。そして、今の一夏は対照的に“心”しか持っていない。二人には、共有できるものがない。

 お互いの重きと持つものが違うせいで、二人の価値観はかみ合わない。

 

 そして、さらに言えば、

 

「俺にはすべてがない!」

 

 電撃を放って逃げる方向を遮る。が、うまく補足できない。さっきから、与え合うダメージが全然釣り合ってない。

 距離を詰めなきゃ始まらねえのに、詰められるビジョンが全く見えない。

 

「俺は、知らなくちゃいけないんだ。強さ……俺に足りない、その要素を!」

『落ちろ、織斑一夏!』

 

 自分で察することができるほど才能にあふれた人間ではないことくらい、俺が一番理解している。だから、俺はどうしても見ることで学ぶしかないのだ。

 

 散弾の壁が俺を襲う。一発のダメージこそ少ないものの、その被弾数は多い。……やっぱり、上手い。

 

「どっちつかずで、何も決められなくて! 結局流されているだけ! こんな俺じゃ、夢は叶えられない!」

 

 そんなことは許されない。

 俺には、夢をかなえる力がある。その資格を持っている。

 

 だからこそ、俺は、俺は――

 

 

「――絶対に、北極星(ポラリス)に行くって、決めてるんだよっ!!」

 

 

 そのためなら、なんだって手に入れよう。どんな人だって利用しよう。悪魔にこの身を売り渡したって構わない。

 

 一度体勢を立て直す。やっぱり、俺には正攻法の戦いなんてうまくいかない。搦め手を使う方が性に合っている。

 

『ラウラ嬢!』

『使うのか?』

『ああ。いいか?』

『もとよりお前の装備だ、勝手にしろ!』

『ありがとう!』

 

 僅か0.5秒で会話を済ませる。

 

 ラウラ嬢の位置を確認する。その俺の視線の動きを見たのか、デュノア嬢が、自分とラウラ嬢と俺が一直線上に来るように移動し始めた。……ああ、奥の味方を意識して迂闊な攻撃を避けさせる戦法だ。

 

「でもな」

 

 それは、悪手だ。

 

 デュノア嬢が一直線上に来る直前、口を開いた。

 

「――――“実体化”」

 

 そして、俺とラウラ嬢の間に、丈夫な(ケーブル)が出現した。

 

「っ!? うわああっ!?」

「そこだ!」

 

 デュノア嬢が紐にひっかかかった。その、ひるんだ隙をついて瞬時加速(イグニッションブースト)

 

「おらああああああああっ!」

「く、うぅっ!」

 

 一瞬でデュノア嬢の目の前に現れる。さすがの彼女も、武装を変える時間はない。

 

 剣を突き立てる。

 しかし、彼女は必死に体をひねって直撃を避ける。わき腹をかすめて、体勢を変えるのに紐を掴んでいる腕に剣が刺さった。

 

「きゃあああああ!!」

 

 女の子らしい悲鳴を上げてデュノア嬢が地面に落ちていく。間をおかずに追撃。

 

「消去!」

 

 このタイミングを逃せば、次はいつ攻撃できるか分からない。紐を再び見えず触れないように物質化を解く。

 

 先行する猟犬(プロキオン)を放ちながら、北十字(ノーザンクロス)を振りかぶる。

 

「やられっぱなしじゃ!」

 

 落下しながら体勢を立て直される。そして、取り出したマシンガンをばらまき始めた。強烈な弾丸が当たり、ダメージが入ってくる。

 だが、止まっては相手の思う壺だ。

 

「しゃらくせえええっ!」

「そんなっ!?」

 

 突っ込む。

 チラリと視界の隅を見れば、それなりの勢いでシールドエネルギーが削れ、他のISよりも多いそれが残り半分に到達しようとしている。

 ……だが、そんなことは関係ない。

 

 彼女の体と垂直になるように自分の体を移動させる。それによって、落下速度の上昇と被弾面積の縮小ができた。

 残り、5メートル。

 

「いっ、けぇぇぇっ!」

 

 これが当たれば、彼女のシールドエネルギーは相当削られるはずだ。逃すわけにはいかない。

 

 剣を突き出す。

 残り、3メートル。

 

「……待ってた!」

 

 その瞬間、彼女が何かを展開した。

 

 盾……いや、違う。

 

「それは……っ!」

盾殺し(シールドピアース)…………灰色の鱗殻(グレースケール)だよ!!」

 

 残り、1メートル。

 

 こうなったら!

 

『ラウラ嬢!』

『把握した。引くぞ』

『頼む!』

 

 0.1秒で会話を済ませる。これができるのもすべて、あの紐のおかげだ。

 

「行け!」

連結の紐(アル・レシャ)!」

「星矢!」

 

 パイルバンカーが放たれる瞬間、俺の足とラウラ嬢の腕に太い(ケーブル)が出現し、俺の体を勢いよく引っ張った。

 加速度の付いた体がパイルバンカーの軌道からそれていく。

 

「い、っっっ!!」

 

 顔面をかすめる巨大な杭。一瞬でシールドエネルギーの1.5割が消し飛び、残りが4割弱まで落ち込んだ。

 体が紐に引っ張られ、そのままラウラ嬢の足元まで落ちる。痛い。

 

「大丈夫か?」

「あ、ああ。何とかな」

 

 手を借りて素早く立つ。

 

 一夏やデュノア嬢は、何が起きているのか理解できていないようで、どこか呆然とこちらを見ている。だが、落ち着けば分かる話だ。

 

「焦って名前言っちゃったぜ」

「武装のか?」

「そう。α星の名前だからもろバレだろ。くそ、連結の紐(アル・レシャ)とか分かりやすすぎて、隠しようがないし」

 

 本当はもう少し引っ張るつもりだったのだが、予想外の反撃にだったため、気にせず叫んでしまった。

 

「……それが、」

「ん?」

「それが、新しい黄道十二宮(ゾディアック)の能力か?」

 

 一夏が俺とラウラ嬢をつなぐ連結の紐(アル・レシャ)を見て、呟いた。

 

「二つのISをつなぎ、意識や武装の共有等を行う。それこそが、この連結の紐(アル・レシャ)の能力だ」

 

 連結の紐(アル・レシャ)でつなぐ二人は、意識を共有することによって高速通信、およびケーブルによる詳細なデータや装備の受け渡しを可能にする。

 先ほどまでの俺とラウラ嬢との会話も、これを使ったものだ。正確に言えば表面的な部分の思考を共有しただけなのだが。

 

「二人をつなぐ紐。これこそがこの黄道十二宮(ゾディアック)の神髄。なら、その星座はおのずと絞られるだろ?」

「…………うお座か」

「そうだ。連結の双魚宮(ピスケス)、だな」

 

 感情や感覚の共有を行うこの能力が今回の目的に合っていると考え、ラウラ嬢に使用を提案することにした。もともとチームワークなど考えていないペアだが、これならばタッグとしての行動もある程度可能になる。

 また、本来の使い方ではないとしても、先ほどのように連結の紐(アル・レシャ)を使った奇襲も可能だ。

 

「まあ、こんなことはどうだっていい。……さあ、仕切り直しだな」

 

 北十字(ノーザンクロス)を構える。状況はすでに最初のそれに戻っていた。

 

『……なぜ話した?』

『なぜ?』

 

 ラウラ嬢が責め気味の口調でそう言った。

 

『戦いにおいて最も大切なのは情報だ。いかにこちらの情報を漏らさず、向こうの情報をつかむかが勝敗を決める。だというのに、それを自分から話したのだ。それ相応の理由があるのだろう?』

『まあ、な』

 

 それくらいのことは、俺だって想像がつく。

 だけど、少しだけ我儘を許してほしい。

 

『ラウラ嬢は、一夏を弱いっていうよな?』

『ああ。あいつは圧倒的に弱い。犬畜生にすら劣る、負け犬だ』

『そっか』

 

 なんとなく予想していた答えが想像通りに返ってきておかしかった。

 

『俺と一夏なら、俺の方が技術も身体能力も高いと思うよ。成績は俺の方が上だしな』

『ならば『でもな』……どうした?』

『たまに、一夏がどうしようもなく恐ろしく感じることがあるんだ』

 

 この気持ち、この感覚は、実際に感じてみなければきっと分からないだろう。

 

『一夏は、零落白夜(姉弟の絆)を、その身で示すような男だ』

 

 自分の魂をすべて燃やすようにして、どんな逆境だって一撃でひっくり返す。

 神話の英雄や小説の主人公みたいなことをやってのけるあの男が、俺はどうしようもなく恐ろしく感じられるのだ。

 

『ラウラ嬢は、あいつの強い姿をまだ見ていない。だからな、俺はちょっとお膳立てさせてもらったんだ。一夏が本気を出せるように、その身を燃やし尽くせるような状況を』

 

 駆け引きなんていらない、純粋な想いと想いのぶつかり合いみたいな戦いを。

 

『そして、見てみたいんだ。あいつの強いと思える姿を見て、ラウラ嬢が何を思うか。そして、どれほど強くなるのか』

 

 利用しているみたいで申し訳ないという気持ちはあるが、それでも俺はやめることができなかった。

 

『……そう、か』

 

 ラウラ嬢は薄く笑みを浮かべた。

 

『星矢がそういうのだ。何かしら、私を驚かせるような何かが、あるのだと思っておこう』

 

 それは決して、英雄の足元で震えるようなウサギの笑みなんかじゃない。むしろ、その英雄と一緒になって冬空にたたずむ天狼の笑みだった。

 

『ただ、情報を漏らした分の仕事は、きっちりしてもらうがな!』

『……ああ、もちろんだ!』

 

 そして、今度は俺達から目の前にいるタッグに向かって突撃した。

 

 

 

 

 

 先ほどの第一ラウンドとは違い、始まった第二ラウンドはタッグ戦らしい様子を見せていた。

 

「シャルル!」

「任せて!」

 

 一夏が先陣を切り、デュノア嬢がそれを援護射撃。しかし、彼女は同時に俺への攻撃を繰り返している。

 一夏は感覚的にうまく動く方法を理解しているし、シャルルは一夏にうまく合わせている。前後衛を分けたやり二人の相性もあって、二人のタッグはかなりはまっていた。

 

「うっとうしいな、畜生!」

『左前方! 電撃拡散!』

『了解!』

 

 そんな二人に対し、俺達は苦戦を強いられていた。

 

 ラウラ嬢がメインで戦い、俺が相手を攪乱するようにしながら援護する形式を選択したのだが、俺が戦闘面での訓練をほとんど積んだことがないためにうまく立ち回れない。

 必然的にラウラ嬢が俺に指示を出すという形になってしまうわけだが、それをすることでAICの使用をはじめとした一夏達との戦闘に支障が出ている。二人のタッグは、俺に指示を出しながら相手どれるほど簡単な相手ではない。

 

『シールドエネルギーはどれほど残っている?』

『後、2割ちょいだな』

『……まずいな』

『悪い、俺のせいで』

『いや、お前はもともと戦う目的でISに乗っているわけではないのだ、気にするな。それよりも、問題は……』

 

 苦々しそうな声が聞こえてくるが、視界に映るラウラ嬢の表情はどこか嬉しそうにしている気がする。

 

『想像以上だ……』

 

 ラウラ嬢が呟く。

 

『奴に、ここまでのポテンシャルがあるとは思ってもいなかった……。なるほど、確かに私は少し勘違いしていたらしい』

 

 一夏が零落白夜を発動しながらラウラ嬢に切りかかる。最初は掠ることすら想像できないほどだったが、今では軽く掠りそうな場面も見えてきていた。

 

『だが、まだ甘い!』

「うわっ!」

「一夏!」

「よそ見厳禁だぜ、シャルル!」

 

 一夏がワイヤーブレードに左足を拘束される。デュノア嬢が素早く援護に回ろうとするが、俺がそれを妨害する。

 

「一夏……邪魔しないで、星矢!」

「悪いな、そういう立ち回りなんだ!」

 

 俺の相手をするか一夏の援護に入るか悩んでいる隙に、先行する猟犬(プロキオン)で電気を走らせた北十字(ノーザンクロス)を使って肉薄する。

 

 一方、一夏とラウラ嬢は、あまり状況が変わっていなかった。

 

 一夏は先ほどのワイヤーブレードを切り落としたが、ワイヤーブレードは一つではない。次から次へと新手が襲い掛かり、さらにむやみな接近はAICからの嵌めコンボにつながる。だが、一夏に取れるのは近づいて切るという手段のみ。

 二人の相性は、かなり悪いのだ。

 

 しかし、

 

「はっ! せいっ! そらああああっ!」

 

 一夏は、着実にワイヤーブレードを切り落としていた。

 

 ゾーン等という程のものではないが、スポーツをしているものなら誰しも経験があるちょっとした集中状態。今の一夏は、それになっている。

 周囲の景色など全く見えておらず、その意識にあるのは目の前にいる(ラウラ)のみ。

 

 そして、ラウラ嬢もまた、一夏しか見えていなかった。俺へ指示を飛ばすことを忘れている。

 

「『いいぞいいぞ、貴様の全力を見せてみろ!』」

「はあああああああああっ!!」

 

 ラウラ嬢が満面の笑みで戦っている。

 

 もう、彼女の中に一夏が弱い等という考えはないのだろう。彼女は目の前にいる一夏を認めていた。負け犬等と侮る相手ではないことを戦いながら理解していた。

 

 ただ、目の前にいる敵の限界が知りたい。そして、超えたい。

 同じ人に憧れているこいつにだけは、

 

「「負けられない――っ!!」」

 

 一夏とラウラ嬢は、お互いにすごさを増していた。

 この戦闘を続けることで、二人は今この瞬間に強くなっている!

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 どうして二人が強くなっているのか、感覚的に理解できた。とても馬鹿らしいほどに、単純な欲求。

 

「漫画かなんかかよ……」

 

 二人の仲にあるのは、「負けたくない」「勝ちたい」「諦めない」という、あまりにも単純すぎる感情だった。

 たったそれだけの感情が、いや、たったそれだけの感情こそが、今の二人を成長させているのだ。

 

「『行ける! 私はまだ行ける!!』」

「それなら、もっとギアを上げるだけさ!」

 

 ラウラ嬢と一夏の叫びが聞こえる。

 

 俺とデュノア嬢は、もはや戦闘をしていなかった。

 すさまじい戦闘を繰り広げる二人の熱に魅かれ、観客の一因となってしまっていた。

 

「はっ!」

「シッ!」

 

 熱は、衰えることを知らなかった。

 恒星よりもなお熱く燃え上がる二人の強さは、俺が望んでいた以上のものを発揮していた。

 

 連結の紐(アル・レシャ)を通して、ラウラ嬢の熱が俺に伝わる。

 勝ちたい、負けられない、という感情の奔流が俺の心を震わせる。俺が望んでいたものが、俺の感じたかったものが目の前にあった。

 

「これが、強さ……」

 

 己の目的を貫く感情と、猛る感情を御す身体。

 強くなりたいという二人の願いを、その心と体が忠実に叶えている。

 

 俺は、完全に魅せられていた。

 ラウラ嬢を通じて伝わる熱と、目の前で繰り広げられる戦い。俺が望む強さとは違っているが、それでも強いあこがれを抱いてしまう程に彼らはすさまじかった。

 

 そう、これが、俺が見たかったもの、俺が欲しかったもの。

 

 

『【汝、力を欲するか?】』

 

 

「――っ!?」

 

 突然、妙な声が俺をたたき起こした。二人の戦いから伝わっていた熱が、一瞬で冷める。

 

 聞こえたのは、ラウラ嬢の声ではなかった。だが、その声は間違いなく連結の紐(アル・レシャ)を通して聞こえてきたもの。他人が入り込むような回線じゃない。

 ならば……その声の主は、誰だ?

 

 どこか恐怖のような、生理的嫌悪感のようなものを感じながら、その声の主を探す。

 しかし、今度はその思考をラウラ嬢が切り裂いた。

 

「『ああ、ほしい! こいつに勝てる強さが、ほしいッ!』」

 

 何も考えていなかったのだろう、純粋な欲求を言い放っただけだ。

 

 だが、その声は、

 

「あ、あ……」

 

 悪魔(メフィストフェレス)の誘惑だ。

 

「あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああっっっ!!」

 

 絶叫が響く。

 

 黒い雨(シュバルツェアレーゲン)から稲妻が走り、その機体が真黒な泥となってラウラ嬢を覆いつくしていく。

 地獄の奥底に引きずり込まれていくように、苦痛に歪んだラウラ嬢の顔が泥の中へと沈んでいく。

 

「ラウラ嬢!!」

 

 俺はすぐに飛び出すが、敵は向こうからやってきた。

 

 ラウラ嬢から走っている稲妻が、連結の紐(アル・レシャ)を伝って俺へと襲い掛かった。

 ビリビリと体中を電気が走って、脳内には先ほど聞こえてきた声がバグったように響いている。

 

『力を欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲するか?欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ欲しろ望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望め望めチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラチカラsdaijfsoadigjsoai@tjaro@sigjsdopfigjsne@r90j3w4ope@wjhyfasfsaff @pweoproenmpiongosidnfgoidnfg』

 

 混じりけのない、純粋な狂気だった。

 聞こえる音がどこか機械的なのを察するに、人ではなくプログラムによるものなのかもしれない。だが、その感情を持たない狂気というのが、心の底から恐怖を呼び起こす。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああっ!」

「星矢っ!!」

 

 呼びかけてくる一夏の声にこたえる余裕すらない。

 体中を駆けずり回る狂気に対する恐怖と嫌悪感だけが、俺を満たしている。

 

『なぜ拒むなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだなぜだnazedadasfpe3:2nafas0wezedainajso@ rjaesirjsadofiaosighasjitwejtoki』

 

 俺の中を満たす嫌悪感を必死に抑え込む。

 

「お前は、お呼びじゃ、ないんだ、よ!!」

 

 全力で叫ぶと、狂気がどこかへ遠のいていく。

 

 ぜーはーと大きく呼吸をしながらチラリと周囲を窺うと、そこには俺を気遣う一夏とシャルル。

 そして、

 

「…………」

 

 泥に飲み込まれ、完全に違うISの姿をとったラウラ嬢がいた。




星のネタ
連結の紐(アル・レシャ)!」
アル・レシャはうお座のα星。意味も能力通り『紐』。明るさは非常に暗く、4.2等と5.1等の連星であり、まあ、街中で見るのはまず無理。ちょっと星が見えやすいくらいの場所でも、ひょっとすると無理。ちなみにアルの部分はアラビア語における定冠詞なので、実際に紐を意味するのはレシャの方。星の名前にはアラビア語由来が多いので、覚えていると便利かも……?

「そうだ。連結の双魚宮(ピスケス)、だな」
ピスケスとはうお座のこと。モデルは、女神アフロディテとその子供エロス。神々の宴会の途中で怪物テュフォンに襲われそうになった二人は、魚に変身して川に身を投げる。その時、アフロディテはエロスと離れ離れになってしまわないよう、お互いの体をリボンで結んだ。という逸話による。天体観測的な視点からすると、4等以下の暗い星ばかりで構成されているので、観測にはあまり向かない。M74という渦巻銀河も知られているが、これもまた暗い。暗いのはもしかして、テュフォンに見つからないようにするためだったりするのかもしれない。

それは決して、英雄の足元で震えるようなウサギの笑みなんかじゃない。むしろ、その英雄と一緒になって冬空にたたずむ天狼の笑みだった。
オリオン座の足元には、ウサギ座という星座がいたりする。由緒正しい星座なのだが知名度はない。その、ウサギ座のようにひっそりと隠れるような臆病な笑みではなく、天狼なんてあだ名もつくおおいぬ座のような力強さがある、という話。まあ、天狼と呼ばれているのは、シリウスであっておおいぬ座ではないのだけれど。

雑談
この話を投稿しようとページ開いて気が付いたんですが、エピソード数が月齢的には一周してたんですね。気が付きませんでした。初心に帰る感じで頑張ります。

今回はタッグトーナメントです。一応、直接的な言葉を交わしたわけじゃないですけど、一夏とラウラさんはとっくに和解している感じですよね。まあ、今のままだと熱いライバル状態ですが。
ちょくちょく変更点はあるものの、原作の流れを外れません。いや、むしろ星矢が巻き込まれた分悪化してる? まったく、信頼性のない機器への有線接続はやめろと言ったのに……。←

黄道十二宮(ゾディアック)も、残り二つだけです。おとめ座は伏線的なのを載せてヤバそうな雰囲気でしたが、やぎ座は使いどころがなさ過ぎて余っているだけですね。多分、次章で使わなかったら、ものすごく登場が遅れますね、間違いない。

この章も、後は二話くらいでしょうか。VTシステム何とかして、後日談かな。早くほしみたいよね、星好きの皆さんは!




……さて、次の天体観測は何について話そうか。普通に夏の星座でいいかな、リアルは秋だけど。
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